脳卒中片麻痺患者におけるつまみ動作と ADL 状況の考察 ~ペグを使用

脳卒中片麻痺患者におけるつまみ動作と ADL
状況の考察
~ペグを使用して~
った(表1).m-FIM,BRS,手関節の動き,ペグの把
持位置では有意差がなかった.麻痺の程度とつまみ
方の両群では有意差がなかった.
○吉田匡良 工藤咲子 斎藤理恵 杉田真由美
小澤佳奈
丹羽裕介
岐阜中央病院リハビリテーション療法課
Key word:つまみ動作 脳卒中 片麻痺
[表 1] 群内平均値
平均値
ピンチ力 m-FIM
PPM(点) 握力(㎏)
つまみ方
(㎏)
(点)
対立位つまみ群
20/45
6.3
3 73.2/91
側腹つまみ等群
8.6/45
2.1
1.4 71.6/91
<考察>
<はじめに>
作業療法では,患者が物品を操作して上肢の機能
麻痺の程度とつまみ方の両群と有意差がなかった
のは,今回の対象者の BRS 上肢がⅢ~Ⅴ,手指がⅣ
訓練をすることが多い.脳卒中片麻痺患者の中で物
~Ⅴで麻痺の段階が限定されていたためと思われる.
品操作が『上手にできる人とできない人がいる』こ
しかしながら,握力とピンチ力の数値は,運動能力
とに疑問を持ち,訓練中のつまみ操作と訓練以外の
により数値に差が出やすく,有意差が得られやすか
日常生活動作(以下,ADL)の実施状況とに関連があ
ったと考える.同時に,握力・ピンチ力が良い者は
るかと考えた.そこで,今回,機能訓練で頻繁に使
つまみ操作時に手指が対立位を取り易いことが推察
用される中ペグ引き抜き操作を使用し,ペグのつま
された.そして,対立位の方が日常生活でも麻痺側
み方,摘む位置などと,麻痺側手指を日常生活でど
の参加が良いことが考えられた.その理由として,
の程度使用しているのかを評価し,その相互の関連
指先には感覚受容器が多く感度も高いため,側腹つ
性を調査し検討したので報告する.
まみより指先を使用する対立位のつまみの方が知覚
<対象>
しやすく,効率よく動作遂行できると考える.中田
対象は脳卒中患者のうち,本研究の内容を理解が
らも「正確に物体を把持するためには,運動機能だ
でき,研究の趣旨を説明して同意が得られた上肢・
けでなく,知覚機能も重要な役割を担っている」と
手指の麻痺の程度が中~軽度の 14 名(右片麻痺 8 名,
指摘している.これらのことより側腹つまみより,
左片麻痺 6 名,平均年齢 64.8±11.8 歳,発症からの
対立つまみでは日常でも物体を知覚し易く,PPM も
平均罹病期間 115.6±80.1 日)とした.
高値になったと考える.一方,吉村らによると,
「側
<方法>
腹つまみは筋力が低下し,母指と示指の対立が失わ
中ペグ(酒井医療ペグボード)の引き抜き操作(以
れても指屈筋の痙性を利用して側腹つまみが可能な
下ペグ off 操作)を手前の 5 本で実施した.その状
場合がある」とあり,努力的な動作が必要な側腹つ
況を非麻痺側がわから,
ペグのつまみ方,
摘む位置,
まみは日常生活では使用しにくいように思われる.
手関節の動きをビデオ撮影した.また,ADL 能力を
また,中田らによると「(これまでの・経験により)
FIM 運動項目(以下 m-FIM)で,ADL 上での麻痺側上
把握する対象の形や大きさ,材質などにより,握り
肢・手指の利用頻度を麻 痺側上肢参加度評 価表
方,持ち方が決まっている」とあり,日常生活では
(Paralytic arm Participation Measure:以下 PPM)
対立位でのつまみ動作が多く,これらの動作を側腹
を用いて評価し,麻痺側上肢・手指運動機能を BRS
つまみで行おうとすると,従来の動きを記憶してい
上肢-手指・握力・ピンチ力で評価した.ペグ off
る片麻痺患者では,物体の形態と麻痺側手指の動作
操作時に,手関節の動き・ペグの把持位置を観察し
をうまく適合させられないと考える.そのため,さ
評価した.そして,これらの評価項目と「つまみ方:
らに使わない習慣がついてしまう.
指腹つまみ+3 指つまみ(以下,対立位のつまみ)
以上のことから,今まで麻痺側手指を使用するよ
群/それ以外のつまみ(以下,側腹つまみ等)群」
う促すために,比較的獲得しやすい側腹つまみで紙
との関連性について検討した.統計処理は
裂き訓練など実施してきたが,それでは不十分で,
Mann-Whitney のU検定を用いた.
麻痺側上肢・手指と物体との間の関係を再構築する
<結果>
対立位を考慮した手指の動きを訓練する必要がある
「つまみ方:対立位のつまみ群/側腹つまみ等群」
と感じた.
では,PPM,握力・ピンチ力,に有意差が(p<5%)
があり,いずれも対立位のつまみ群が良い成績であ