第9回 健育会グループ チーム医療症例検討会 in 石巻 「私たちは あきらめない」 ~車椅子生活宣告からの脱却~ 演 題 名 施 設 名 石巻港湾病院 発 表 者 〇高橋千明(理学療法士) 、阿部若子(看護師) 、平塚由美(介護福祉士) 、 小野寺泰弘(作業療法士) 、吉田隆(MSW)、佐藤満生(医師) 概 要 【はじめに】 本症例は、自損事故にて高位 C5/6、C7 髄節の中心 性頚髄損傷を受傷し、ADL 全介助の状態で当院回復 期病棟に転院された方である。整形外科の医師より 回復困難と診断されたが、本人・ご家族の強い希望 もあり自宅退院を目標とし、 チーム全体で身体機能・ 精神面・環境全てに包括的にアプローチを行った。 そのことにより、身辺動作が自立し、T 字杖歩行を 獲得して、自宅退院が可能となった症例である。 【症例紹介】 S.T 80 歳 女性 介護度:要介護 4 診断名:中心性頚髄損傷(C5/6,C7 髄節) 現病歴:H25/4/22:運転中の自損事故で受傷 A 病院入院 5/8:当院回復期リハビリ病棟入院 入院前:ADL 全て自立。家事や自営業の建具屋の手 伝いをしていた。 入院時:ADL 全介助。FIM 運動項目 13 点、認知項目 35 点の計 48 点。フィラデルフィアカラー装 着。両上下肢とも重度運動麻痺・感覚障害が 残存。予後の説明を受けておらず、 「日にち が経てば治る」と、楽観的な印象。 本人希望:家族の重荷にはなりたくない。できる限 り動ける体になりたい。 家族希望:できることは協力するので、自分のこと は自分でできるようになって、 家に連れて 帰りたい。 【治療(ケア)計画】 目標:家屋調整を視野に入れた自宅退院 計画:①リハビリ 受傷によって失われた筋機能の再学習、 協調 運動障害に対するアプローチ、 能力に合わせ た ADL 動作練習 ②看護・介護 メンタル面でのフォローアップをしつつ、 病 棟 ADL を全面介助から部分介助、 自立へと進 めていく。 →チーム全体を通して失望感や絶望感が生じな いようにアプローチしていく。 【経過】 6 月:フィラデルフィアカラーが外れ、頚部筋力強 化と共に平行棒使用にて立位訓練開始。 食事は 3 食車椅子離床し、自助具を使用した自力摂取 開始。 7 月:起立・立位保持が上肢の支持なく見守りで可能 となる。車椅子でのトイレ誘導開始。食事が通 常のスプーン・フォークで可能となる。 8 月:ロフストランド杖歩行が近位見守りで可能と なる。食事は介護食器中止し、箸に変更。入 浴は機械浴から、一般浴に変更。ご家族は、 ご本人の回復ぶりをみて自宅改修を検討し始 めたが、今後の改善を見ながら必要な所に必 要な分だけ改修・サービスを取り入れていく よう話し合い、了承を得る。 9 月:セルフケア全て自立。T 字杖歩行自立。退院前 自宅調査を実施、動線確認。段差の細分化、 浴槽に手すりの配置を提案。 【結果】 身辺動作が全て自立し、T 字杖歩行も獲得、FIM では運動項目 78 点、認知項目 35 点の計 113 点まで 改善。また自宅調査の結果を元に、段差や浴室内の 環境設定を提案したことで、ご家族の不安も解消さ れ、自宅退院となる。 【考察】 今回、自立心の強い S さんの行動制限を極力減ら し、かつ転倒などの事故を防止するため、他職種間 で密に連絡を取り合い、その時々の機能・能力に合 った ADL を S さんに指導し、実践して頂いた。 その結果、S さんの自尊心を傷つけることなく、 安全に ADL 自立につなげていくことができた。 このように、S さんとご家族の思いをチーム全員 でくみ取り、身体機能・精神面・環境全てに包括的に アプローチしたことで、希望されていた自宅退院を 実現することができたと考える。
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