フォトニクス研究所紀要

千歳科学技術大学
フォトニクス研究所紀要
2015 年
第5巻 第1号
千歳科学技術大学
フォトニクス研究所
1
目次
巻頭言
Good News and Bad News in 2014
佐々木 愼也
5
坂井 賢一
6
平井 悠司
7
カートハウス オラフ
8
谷尾 宣久
9
理論的に予測されたスメクチック相に働く枯渇作用の実験的証明
大越 研人
10
フォトニクス材料研究
π系を拡張した ESIPT 色素の蛍光発光制御
自己組織化を利用したバイオミメティック材料の作製
‐サメ肌模倣階層構造の作製と機能評価‐
花粉バイオミメティクス
‐相分離構造を用いた高分子マイクロ粒子の作成‐
透明ポリマーの体積熱膨張と屈折率温度依存性
5mol% MgO 添加 LiNbO3 結晶の擬似位相整合温度特性
梅村 信弘
含浸法により色素染色した DNA 複合体薄膜における光増幅効果
川辺 豊
11
13
フォトニクスデバイス研究
ダブルクラッド Bi 添加石英光ファイバの利得特性
小林 壮一
14
2光子励起による InAs 量子ドット埋め込み GaAs フォトニック結晶導波路型レーザの観測
小田 久哉
15
液体充填フォトニック結晶ファイバーによる超広帯域光波発生
唐澤 直樹
16
フォトニック結晶ファイバ開発およびそのシミュレーション技術の研究
江口 真史
17
電気接点対の開離アーク継続時間に対する電極開離速度の影響
長谷川 誠
18
2
フォトニクスシステム研究
LED を用いた可視光無線 LAN 技術の基礎検討
山林 由明
19
福田 誠
20
小田 尚樹
21
120MHz 帯 AM 受信機の製作
-プロジェクト形式による卒業研究-
視空間環境統合に基づく二足歩行ロボットのモーション制御
バイオフォトニクス研究
ルッコラ栽培に適した人工光源の検討
-成長とビタミン C 含有量を赤・青 LED、白色 LED、蛍光灯で比較-
吉田 淳一
22
小林 大二
23
李 黎明
24
木村-須田 廣美
25
ユーザーの認知特性に基づく振動リズムのデザイン
5-ALA を用いた細胞障害効果と蛍光寿命イメージング
赤外イメージングによる生薬「オウレン」の分析
大学院光科学研究科光科学専攻 博士後期課程 平成 25 年度研究中間発表会要
旨
協調的作問機能システムを活用した看護過程の知識の定着の活用
辻 慶子
26
初等中等教育での利活用を想定した e ラーニング運用方策と教育モデルの検討
長谷川 理
28
C 型希土類構造を持つ混晶系の光学特性
知花 優太郎
3
30
その他
コロキウム報告
32
15th Chitose International Forum on Photonics Science and Technology (CIF’15) 開催報告
CIF’15 組織委員会
33
文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業の進展について
ナノテク支援運営委員会
37
バイオミメティクスセンターの設置
下村 正嗣
編集後記
38
39
4
巻頭言
Good News and Bad News in 2014
フォトニクス研究所長 佐々木愼也
日本の科学技術分野において、2014 年は忘れられない年になりそうである。印象的な
Good News と Bad News があったからである。
まず、Bad News から振り返ってみると、これは STAP 細胞にまつわる事件である。理研
の最終報告書を読むと、いかにずさんな研究であったのかがよくわかる。特に存在しない
データを用いて論文を書いているところなど、信じられない話である。O 氏の博士論文の
コピー&ペースト疑惑(博士論文の 26 ページにわたるイントロダクションのうち 20 ペー
ジがコピーされたもの)に対する世間の反応も種々様々であり、考えさせられた。特に、
「論文のイントロダクションなど、誰が書いても同じになるから、コピー&ペーストなん
て大した問題ではない」なる趣旨の発言が現れてくる至っては、驚くべき事である。そも
そも論文のイントロダクションは、自分の論文の立ち位置(オリジナリティ)をアピール
する場所であり、結論とともに論文のなかでも最も重要な箇所である。これらの Bad News
を他山の石として、研究倫理の再確認が必要であることを痛感した次第である。
さて、Good News に移ると、これは何といっても、日本人 3 名が「明るく省エネルギー
の白色光を可能にした、青色発光ダイオードの発明」によりノーベル物理学賞を受賞した
ことである。従来のノーベル物理学賞は、どちらかというと基礎物理に関しての発見や研
究、ならびに測定技術の開発に対して贈られており、発明に対して贈られた例は大変少な
く、私の知る限り、位相差顕微鏡、泡箱、CCD と今回の青色発光ダイオードぐらいである。
今回の発明は、アルフレッド・ノーベルの遺言である「人類のために最大たる貢献をした
人々」に贈られるノーベル賞に最もふさわしい発明である。発光ダイオードの発明者であ
るニック・ホロニアックが受賞しなかった事や中村氏の受賞に疑問を呈する人もいたが、
日本人 3 名が受賞したことは、同じ日本人として大変嬉しい Good News であった。今後の
ノーベル物理学賞も、人類の永続的存在を可能にする発明に対しても贈られることを期待
すると共に、そのような研究が増えることを希望する。
5
フォトニクス材料研究
π系を拡張した ESIPT 色素の蛍光発光制御
Fluorescence emission control of ESIPT dyes with an extended π-system
バイオ・マテリアル学科 坂井賢一(Ken-ichi SAKAI)
Here we report that the fluorescence of an excited state intramolecular proton transfer (ESIPT)
fluorophore, 2,4-dibenzothiazolylphenol (2,4-DBTP) is sensitive to solvent polarity, and that
2,6-DBTP derivative was the best solid-state red fluorophore (λmax = 633 nm) with a fluorescence
quantum yield of 0.32.
励起状態分子内プロトン移動(ESIPT)は、光励起によるエノール型(E*)からケト型(K*)へ
のプロトン互変異性である。ESIPT 経由して蛍光を発する色素(ESIPT 色素)は、その蛍光波
長や強度が溶媒やイオンなどの外的要因に影響受けやすく、またプロトン移動に伴う大き
なストークスシフトのため、自己吸収を回避できる、濃度消光を起こしにくいなど、蛍光
プ ロ ー ブ や 有 機 EL な ど の 固 体 発 光 材 料 と し て 優 れ た 特 性 を も つ 。 本 年 度 、
2-(2-hydroxyphenyl)benzothiazole を基本骨格としてそのπ系を拡張した様々な ESIPT 色素を
合成し、蛍光特性を評価した。
2,4-DBTP の粉末は強い黄色の蛍光を示した(蛍光極大波長 em=570 nm、蛍光量子収率
=0.68)。同様の蛍光はクロロホルム溶液でも観測される(em=554 nm, 励起極大波長ex=378
nm, Stokes シフトS=8404 cm-1)。大きなS は ESIPT が起こっていることを示唆しており、
よって 570 nm や 554 nm の蛍光バンドは K*からの遷移に由来すると言える。2,4-DBTP の
クロロホルム溶液は 380 nm 以上の可視光領域に吸収を持たず無色透明であるが、極性溶
媒の DMF 添加により黄色に着色し、吸収スペクトルには 442 nm と 379 nm に新たなバン
ドが出現する。それに伴い蛍光スペクトルには、K*から黄色蛍光バンドの減少と、青色領
域の 410 nm と 485 nm に新たなバンドの出現が確認される (Fig. 1)。クロロホルムと DMF
の割合がほぼ等しい時、
これら3つのバンドの強度も等しくなるため、蛍光は白に見える。
更に DMF を増やすと 485 nm バンドが優勢になり、蛍光は青へと変わる。このような蛍光
のソルバトクロミズムは、2,4-DBTP の K*, E*, 及び A*(フェノール部位のプロトンが脱離
したアニオン型)の存在比が溶媒の極性に影響を受けることに起因する。
一方、2,6-DBTP では4位にアルコキシ基を導入すると優れた赤色蛍光特性を示すことが
判った。アルコキシ基の長さの違う4種類の色素を合成したところ、OEt 体は赤色(em=633
nm)で且つ f が 0.32 と高い値を示した。一般に優れた固体赤色蛍光材料には、狭い
HOMO-LUMO ギャップを得るための大きなπ系と濃度消光を抑制するための嵩高い置換
基が必要である。ESIPT 色素の 2,6-DBTP は、分子サイズが小さく、嵩高い置換基がない
にもかかわらず高いf 値を示した。
Fig 2. Fluorescence spectra of alkoxy-modified
2,6-DBTP dyes. A dashed line is the spectrum in
CHCl3 solution. They were measured by using 400 nm
excitation.
Fig 1. Fluorescence spectral changes by changing the
CHCl3DMF (v/v) ratio from 10:0 (i) to 0:10 (iii). The
inset is a photograph of 2,4-DBTP solutions prepared
in CHCl3 (i), DMF (iii), and CHCl3/DMF=1:1 (ii)
under irradiation by a 365 nm ultraviolet lamp.
6
フォトニクス材料研究
自己組織化を利用したバイオミメティック材料の作製
‐サメ肌模倣階層構造の作製と機能評価‐
Fabrications of biomimetic materials by using self-organization processes
- The preparation of shark-skin mimicking hierarchical structures and their function
measurements バイオ・マテリアル学科 平井 悠司(Yuji Hirai)
We demonstrate a creation of a novel biomimetic multi-functional surface by using
self-organization processes. It is well known that shark skin has drag reduction surface, which
property is generated by surface riblet structures. Recently we observed shark skin surface by using
a scanning electron microscope. As a result, some shark skin surfaces have hierarchical structures
of micro-dimple structures and sub-mm scale riblet structures. Here, we show the preparation of the
hierarchically structured shark skin surfaces by combinations of self-organized pincushion films
and wrinkle structures for investigation of shark skin surface property generated by hierarchical
structure.
自然界には表面微細構造に由来する様々な機能を有する表面があり、近年ではこの微細
構造を模倣することで機能を発現させた材料を作製する、バイオミメティクスと呼ばれる
分野が注目を集めている。そこで我々は、リブレット構造とディンプル様の階層構造を有
し、整流効果や抗付着性を発現しているサメ肌表面に着目、実際に自己組織化を利用して
作製される多孔質薄膜を用いたピラー構造[1]と座屈により形成されるリブレット構造[2]を
組み合わせることでサメ肌表面構造を模倣した材料を作製した。サメ肌模倣表面は
Polydimethylsiloxane(PDMS)上にポリイミド膜と自己組織化高分子多孔質薄膜を接着し、
接着した多孔質薄膜の上層をスコッチテープを用いて剥離することでピラー構造を形成さ
せ作製した。図1(a)に作製した表面のレーザ顕微鏡蔵、電子顕微鏡像及び写真を示す。周
期的なディンプル様ピラー構造が形成している様子が観察できる。またこのサンプルを圧
縮することで、表面に周期的な座屈を発生させた(図1(b))。このとき、表面のピラー構造
は壊れることなくリブレットも形成したことから、ディンプル様構造とリブレット構造を
併せ持つ階層的なサメ肌模倣表面を形成させることに成功した。また、この座屈は圧力を
解放することで平坦な表面に戻すことができ、動的にリブレット構造の有無を制御可能で
あることも分かった。今後は作製した微細構造の表面特性の評価を行っていく予定である。
Fig 1. Laser microscope images, scanning electron microscope images and photographs of
the shark-skin mimicking surface (a) before and (b) after compress the surface.
参考文献:
1) H. Yabu, Y.Hirai, M. Shimomura, Langmuir, 2006, 22(23),9760-9764
2) T. Ohzono and M. Shimomura, Phys. Rev. B., 2004, 69(13), 132202-132206
.
7
フォトニクス材料研究
花粉バイオミメティクス
‐相分離構造を用いた高分子マイクロ粒子の作成‐
Pollen Biomimetics
-Preparation of Phase Separated Polymer Microparticlesバイオ・マテリアル学科 カートハウス オラフ(Olaf Karthaus)
Pollen particles are fascinating biological structures with the sole purpose to transfer genetic
material from one flower to the other. Pollen particles have a very durable outer shell, the exine that
is formed by sporopollenin with distinct surface structures that are specific for the plant species.
Analysis showed that sporopollenin is a crosslinked polymer that is formed by a diffusion process
during pollen development. Here, this process is mimicked by using an evaporating oil in water
emulsion of a polymer mixture.
花粉は不思議で驚くような存在です。おおよそ直径20μm 前後のごく微小な丸い粒。25
万種類もの花粉があり、その全てが形状が異なっています。また、子孫を残すために遺伝子を
「守る」
「遠くまで運ぶ」という二つの重大なミッション遂行のため、紫外線、低・高湿度、熱
などどんな過酷な環境にも耐えうる強靭な外壁の材料や構造を持っています。このような花粉
を人工的に真似ることがこの研究の目標です。
花粉と構造の似た高分子微粒子の作成は以下のようにしました。ポリスチレンとポリメチル
メタクリル酸の有機溶媒と水を用いて乳化状態を作り出し、基板に塗布し、ポリマーブレンド
の混合粒子を作製しました。使用する乳化剤(ポリビニルアルコール、キトサン、グアルガム
など)によって微粒子の相分離構造が違ってきます。その結果、
「ヤヌス粒子」
(それぞれ高分
子の相は半球)
、
「ラズベリー粒子」
(高分子粒子の表面に小さい相分離構造がある)などのモル
フォロジーの作製に成功し、粒子の平均直径は高分子濃度で制御できることがわかりました。
また、エンプラのポリスルフォンを用いたポリスチレンブレンド粒子は非常に微小なラズベリ
ー粒子になることがわかりました。非常に微小な表面構造になる理由はポリスルフォンの表面
エネルギーが小さいことによると考えられます。さらに、乳化状態の水溶液に独自に合成した
無機材料(単分散シリカ粒子、金のナノコロイド)と既成の無機材料(酸化チタンナノ結晶)
を分散し、高分子微粒子の表面に無機材料を吸着させることにも成功しました。
Fig 1. Fluorescence microscope image (left) and scanninh electron microscope image (right) of
phase separated polyryrene/polysulfone microparticles.
8
フォトニクス材料研究
透明ポリマーの体積熱膨張と屈折率温度依存性
Volume thermal expansion and refractive index of transparent polymers
バイオ・マテリアル学科 谷尾宣久(Norihisa TANIO)
The temperature dependence of refractive index of transparent polymers was measured by prism
coupling method. The relation between volume thermal expansion and refractive index was
discussed.
次世代照明、フレキシブルディスプレイなど次世代デバイスの実用化において、透明ポリマ
ー材料の果たす役割が大きくなっている。これらの実用化のためには、屈折率制御、複屈折制
御等、ポリマーの光学特性を高性能化するとと
もに、耐熱性や低熱膨張性などの特性を向上さ
せていくことが必要である。透明ポリマーの屈
折率の温度依存性は体積熱膨張と関係づけられ
る。ここでは温度可変プリズムカップリング法
により、透明ポリマーの屈折率温度依存性を測
定し、体積熱膨張との関係について考察した。
プリズムカップリング法により、ポリメタク
リル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)、
およびポリカーボネート(PC)固体の屈折率を
測定した。光源には He-Ne レーザー(632.8nm)
および F 線(486nm)、D 線(589nm)、C 線(656nm)
を使用した。プリズムとカップリングヘッドの
温度を変化させることによって、間に挟んだサ
ンプルの各温度での屈折率測定を行った。室温
から各ポリマーのガラス転移温度 Tg より 20℃
低い温度まで測定を行った。
Fig.1 に PMMA、PS および PC 固体の 632.8nm
での屈折率温度依存性を示す。また、これより
求めた屈折率の温度勾配 dn/dT を Table 1 に示
す。
PMMA と PC は同程度の屈折率勾配を示し、
PS が3種類の中で一番大きな屈折率勾配を示
した。また、これらの測定結果は文献値と近い
値となった。
<謝辞>本研究は科学研究費助成事業(基盤研
究C)の補助を受け実施された。ポリカーボネ
ート(PC)測定試料は、三菱ガス化学㈱から提
供していただいた三菱エンジニアリングプラス
チック㈱ 製ポリカーボネート樹脂「ユーピロン」
を用いた。
Table 1. dn/dT for polymer glasses
Fig 1. Refractive index for PMMA, PS and
PC glasses
9
フォトニクス材料研究
理論的に予測されたスメクチック相に働く枯渇作用の実験的証明
Experimental Verification of Depletion Effect on Smectic Liquid Crystalline Phases
バイオ・マテリアル学科 大越研人(Kento OKOSHI)
It has been theoretically and computationally predicted that binary systems of the hard-rod-like and
sphere-like particles shows nano-segregation of spheres into the interstitial regions between smectic
layers of rods. This self-assembly is entropically driven by steric repulsion between rod-like and
sphere-like particles, which is referred to as depletion effect. In this study, we present the
experimental verification of the theoretical prediction with the binary mixtures of the helical
rod-like polymers and sphere like molecules by synchrotron radiation small-angle X-ray scattering
measurements (SR-SAXS).
剛体棒と剛体球を混合すると、剛体球が剛体棒の形成す
る層状のスメクチック相の層間に分離してスメクチック相
を安定化することが理論的に予測されている。1)その挙動
は、剛体棒と剛体球の大きさの違いによって詰め込みのエ
ントロピーの利得が異なるために、枯渇作用(Depletion
effect)の強さが異なることで説明されている。しかし、
このような理論的予測との対応を図る実験的研究は報告例
がない。
本研究では、剛直な棒状らせん高分子であるポリシラン
(polysilane; Fig.1 top)の非常に分子量分布の狭いサンプ
ルを合成し、これに近似的に球状とみなせるテトラアルキ
ルシランのアルキル側鎖長が 3~16 のシリーズを合成して
それぞれ 30wt%添加し、発現するスメクチック相の層間隔
をシンクロトロン放射光小角X線散乱を用いて調べた。
その結果、テトラアルキルシランの側鎖長が増大するに
従ってスメクチック相の層間隔が増大し、側鎖炭素数 10
でほぼ定量的にテトラアルキルシランが層間に分離し、さ
らに側鎖長が増大すると、今度は層間隔が減少し、側鎖炭
素数 16 でほぼポリシラン単独での層間隔と同じになるこ
とが分かった。同時に測定した広角X線により層内での分
子間距離には添加による変化は見られないことから、テト
ラアルキルシランは層間に選択的に分離していることが分
かった。この結果はスメクチック相において働く枯渇作用
の理論的に予測された挙動をほぼ定量的に再
現している。
参考文献:
1. T. Koda, M. Numajiri, and S. Ikeda “Smectic-A Phase of a
Bidisperse System of Parallel Hard Rods and Hard
Fig 1. Schematic illustration of
Spheres” J. Phys. Soc. Jpn 65, 58-59 (1996).
depletion effect on micro-segregation
in the binary mixture of a hard-rod
2. 田中汰久冶・篠原成輝・加藤樹・大越研人 “棒状高
polymer, polysilane, and spherical
分子のスメクチック相における枯渇作用による構造
molecules,
tetraalkylsilane
with
形成” 第 63 回高分子学会年次大会予稿集 3Pc049
different diameters.
(2014).
10
フォトニクス材料研究
5mol% MgO 添加 LiNbO3 結晶の擬似位相整合温度特性
Temperature dependence of quasi phase-matching properties for 5mol% MgO doped LiNbO3
バイオ・マテリアル学科 梅村信弘(Nobuhiro UMEMURA)
The temperature dependence of quasi phase-matched second-harmonic generation (SHG),
sum-frequency generation (SFG), and optical parametric oscillator (OPO) wavelengths in the
visible and IR regions were measured between 20-120℃ by using the periodically poled 5mol%
MgO doped congruent LiNbO3 crystals. The improved Sellmeier equation and high-accuracy
thermo-optic dispersion formula of extraordinary ray, which reproduces accurately the quasi
phase-matching properties in the 0.40m~4.0m range are obtained in our laboratory.
近年、レーザ用波長変換素子として、分極反転型波長変換デバイスが注目されており、
その中でも 5mol%MgO ドープのニオブ酸リチウム結晶を用いた波長変換素子(MgO:PPLN)
が既に実用化されている。しかしながら、既に発表されている異常光線の温度依存型セル
マイヤー方程式 1,2 は、透過波長領域全般にわたる擬似位相整合特性を正確に再現すること
はできない。そこで今回、擬似位相整合 SHG、SFG 及び OPO 波長の温度変化を 20~120℃
の範囲で測定し、その結果を基に結晶温度 20℃におけるセルマイヤー方程式を修正すると
ともに以下の屈折率温度分散式を作成した。

 0.4175 0.6643 0.9036

ne  


 3.5332  0.0744   105  (T )  0.00138(T ) 2
3
2


 


(0.40m≦≦4.0m, T=T-20)
ここで、λの単位はm であり T は結晶温度(℃)である。修正した MgO:PPLN のセルマ
イヤー方程式については省略するが、0.39m~4.95m の波長範囲で我々が取得した擬似位
相整合実験データ(Table 1)と一致するとともに、他の研究機関が発表した実験データとも
一致することがわかった。特に顕著な例として Fig.1 に Xu ら 3 によって発表された
1.9075m 発振 Tm:YLF レーザ励起の光パラメトリック発振の温度同調曲線を示す。他の方
程式と比較して一致することがわかる。なお、本研究ではテラヘルツ領域における位相整
合温度特性についても検討を行った。Fig.2 に Kiessling ら 4 の光パラメトリック発振による
テラヘルツ発生の温度同調曲線を示す。図中の実線は、以下のテラヘルツ領域の屈折率温
度分散式より計算した理論曲線であり、150m(2THz)から 260m(1.15THz)の波長範囲で有
効であることがわかった。

 43.268

ne  
 1.1770  103  (T )  0.00138(T ) 2
 

(0.40m≦≦4.0m, T=T-20)
参考文献
1. O. Paul, et al., Appl. Phys. B 86, 111-115 (2007).
2. O. Gayer et al., Appl. Phys. B 91, 343-348 (2008).
3. L. Xu et al., Opt. Lett. 37, 743-745 (2012).
4. J. Kiessling et al., J. Opt. Soc. Am. B 30, 950-952 (2013).
11

フォトニクス材料研究
Table 1. Qusai phase-matched SHG, SFG, and OPO wavelengths in MgO:PPLN
with a grating period of 29.0m at 20℃.
SHG, SFG,
Order
OPO
m
OPO
1
OPO
1
d/dT (Å/℃)
Wavelength (m)a
1
2
3
@20℃
(obs)
4.9339
2.2276
1.5347
―
(cal)
4.9339
2.2276
1.5347
―
(obs)
4.0035
1.4495
1.0642
ds/dT=+1.12
di/dT=‐9.8
(cal)
4.0028
1.4496
1.0642
ds/dT=+1.16
di/dT=‐9.8
SHG
SHG
SHG
SHG
SHG
1
2
5
11
12
(obs)
1.9342
1.9342
0.9671
d1/dT=+2.1
(cal)
1.9341
1.9341
0.9671
d1/dT=+2.1
(obs)
1.3716
1.3716
0.6858
d1/dT=+1.03
(cal)
1.3711
1.3711
0.6856
d1/dT=+0.94
(obs)
1.0038
1.0038
0.5019
d1/dT=+0.73
(cal)
1.0038
1.0038
0.5019
d1/dT=+0.73
(obs)
0.7996
0.7996
0.3998
d1/dT=+0.53
(cal)
0.7994
0.7994
0.3997
d1/dT=+0.53
(obs)
0.7810
0.7810
0.3905
―
(cal)
0.7810
0.7810
0.3905
―
△ : L=29.0m
▲ : L=29.5m
○ : L=30.0m
■ : L=30.5m
Paul(独)
Gayer
(イスラエル)
Idler frequency (THz)
Signal &Idler wavelengths (m)
a) 1/1+1/2=1/3.
Umemura
(日)
Crystal Temperature (℃)
Crystal Temperature (℃)
Fig 1. Temperature tuning curves for MgO:PPLN
Fig 2. Temperature tuning curves for the idler frequency
/OPG pumped at 1.9075m. The experi-
of QPM /OPO pumped at 1.55m. The
mental points are quoted from Ref.3.
experimental points are quoted from Ref.4.
12
フォトニクス材料研究
含浸法により色素染色した DNA 複合体薄膜における光増幅効果
Optical amplification in dye-doped DNA complex thin films stained with immersion
method.
バイオ・マテリアル学科 川辺豊(Yutaka KAWABE)
A simple new staining method was applied for the fabrication of hemicyanine-dye-doped DNA
complex, succeeding in laser oscillation and amplified spontaneous emission (ASE) with low
power density excitations. ASE was observed under the pumping of 0.3 mJ/cm2 at 532 nm, and the
value was one order lower than those for the conventionally prepared films. Laser emission was
also demonstrated by incorporation of dynamic grating formed with two-beam interference.
色素レーザーに応用可能な DNA-脂質-色素複合体素子は、通常は非ドープの DNA-脂質
複合体と色素を共通溶媒に溶かした溶液から、自然乾燥もしくはスピンコート法によって
作製される。今回われわれは、DNA 複合体が不溶で色素可溶な溶媒中に非ドープ試料を含
浸することで高濃度の色素ドープが可能であることを見出した。また、この試料が光励起
下において従来よりも低い閾値において自然放出増幅(ASE)を示すことを見出した。
Fig. 1 に用いた色素 DMASPDB の分子構造式とそのアセトン溶液中における DNA 複合
体厚膜の染色の様子を示す。実際に実験に用いた試料は厚さ 1.1 m のスピンコート膜でこ
れを 3.3 x 10-5 M の色素溶液中に 3 時間含浸することで作製した。吸光度より評価した色素
濃度は 10 wt%に達することがわかったが、これは通常法による限界が 2.5 wt%であったこ
とを考えると非常に大きな値である。本試料を 532 nm の Q-スイッチパルスレーザーで励
起したところ、その ASE 閾値は 0.3 mJ/cm2 と、従来よりも1ケタ以上小さい値であった。
また、干渉によって生成された利得回折格子によるレーザー発振も観測された。
液体中への含浸によって高濃度に染色しうることは、色素と DNA の結合様式に対しあ
る示唆を与える。このような高濃度は、これまでたびたび言及されたインターカレーショ
ンによるならば大きな変形なしには達成不可能であろう。また、このような染色がカチオ
ン性の色素に限らずアニオン色素でも得られていることから、脂質自体も複合体形成に大
きくかかわっていると考えられる。実用的には、従来あまり注目されてこなかった水溶性
色素の固体色素レーザーへの応用可能性に期待したい。
Fig 1. Molecular structure of DMASPDB and staining of a DNA-CTMA sheet in the acetonic solution of the dye.
なお本研究は主として卒業研究生鈴木健正によって行われたものであり、その成果の詳
細は以下に示す学術論文として公開される予定である。
参考文献:
T. Suzuki and Y. Kawabe “Light amplification in DNA-surfactant complex films stained by
hemicyanine dye with immersion method,” 4 (7), 1411–1419 (2014)
13
フォトニクスデバイス研究
ダブルクラッド Bi 添加石英光ファイバの利得特性
Gain Characteristics of Bi-doped Double-cladding Silica Optical Fiber
光システム学科 小林壮一(Soichi KOBAYASHI)
1.3 μm optical amplifiers are attractive for the future up-stream long-distance access line in
telecommunications. In this report, we clarified the gain characteristics of the double-cladding
bismuth-doped silica fibers made by the VAD method with different first cladding shapes.
加入者系では、電話会社から加入者に向けた通信には 1.55μm 帯光信号が使用されている
一方、加入者から電話会社へ送られる通信には 1.3μm 帯光信号が使用されている。従来の
加入者系では電話会社―加入者間の平均距離は 10km 未満であったが、近年の光通信の普及
に伴い、20km 以上の地域まで光ファイバを敷設することが求められている。また、都市部
では映像配信に伴う高速 LAN の要求から、加入者の増大が見込まれる。このような加入者
系の背景の下、長距離用にはインラインアンプが、光分岐用にはブースターアンプの開発
が求められており、とりわけ 1.3μm 帯光信号用光増幅器の実用化が急務である[1],[2]。
本研究では 1.3μm 帯用光増幅機を作製するために、励起効率の向上に向けて第一クラッド
形状の異なる 2 種類のダブルクラッドビスマス添加石英光ファイバを用い、クラッド励起
によるダブルクラッドビスマス添加石英光ファイバの 1.3μm 帯における光増幅利得特性を
測定し、高効率励起に適したクラッド形状について検討している。図1は第 1 クラッドが D
形クラッドファイバを示しており、第 1 クラッドが円形のダブルクラッドビスマス添加石
英光ファイバと比較した。今回、D 形クラッドファイバを使用した理由は、ファイバ内にお
ける励起光の反射角をインナークラッドの平坦部分によって乱すことで光路を変化させ、
コアを通過するモード数を増加させるためである。図2にダブルクラッドビスマス添加石
英光ファイバを 4m から 1m まで 1m ずつカットバックした時の 1300nm における光出力の距
離依存性の測定結果を示す。円形クラッドファイバの利得は 0.321/m であり、ファイバ長
が長くなると利得が飽和することが確認できた。一方、D 形クラッドファイバの利得は
0.891/m であり、ファイバ長が長くなっても飽和しないことが確認できた。今後はさらに効
率の良い第1クラッドの研究を進める予定である。
本研究は、(独)情報通信研究機構の高度通信・放送研究開発委託研究/革新的光
通信インフラの研究開発の一環としてなされたものである。
Fig 1. Cross section of D-shape
Bi-doped optical fiber.
Fig 2. Amplified output power vs lengths of
Bi-doped optical fiber measured at 1300 nm
[1] Y.Fujimoto and M. Nakatsuka, Jpn.J.Appl.Phys., vol.40, pp.L279-L281, 2001
[2] V. V. Dvoyrin, et.al., OPTICS LETTERS, Vol. 31, No. 20, pp.2966-2968,October 15, 2006
14
フォトニクスデバイス研究
2 光子励起による InAs 量子ドット埋め込み GaAs フォトニック結晶
導波路型レーザの観測
Observation of InAs quantum-dots embedded GaAs photonic-crystal slab waveguide
laser by using two-photon pumping
光システム学科 小田久哉(Hisaya ODA)
The photonic crystal waveguide (PhC-WG) is also attractive for laser lasing, because very small
group velocity of near the Brillouin zone (BZ) edge should enhance interactions between the
radiation field and matter. In this work, we present we observe laser action in InAs-quantum-dots
embedded GaAs PhC-WG of the single-mode W1 type (single row missing line-defect) by using
two-photon pumping.
2次元フォトニック結晶スラブ線欠陥導波路(PhC-WGs)では、ブリルアンゾーンのバ
ンドエッジにおいて、光の群速度は極端に遅くなるため、光と物質との相互作用が大き
くなる。そのため光が大きく増幅し、PhC-WGs 中に共振器を用いなくともレーザ発振
することが期待される。一方高い非線形光学定数を持つ GaAs で作製された PhC-WGs
はスローライトの効果により容易に非線形光学効果を利用することが可能である。2光
子吸収によるキャリア励起を利用することで、 高効率なアップコンバージョン素子の
開発も期待できる。そこで我々は上記のレーザ発振における励起光の波長を 1.55m 帯
にすることで、1.3m 帯への波長変換を試みた。研究の第一段階として W1 型 GaAs
PhC-WGs に 1.55μm 帯の波長で光励起し、
PhC-WGs 中に埋め込まれた InAs による 1.3μm
帯の発光の観測を行った。
試料は GaAs 三角格子 2 次元フォトニック結晶に線欠陥を導入した試料長 500 μm の
エアブリッジ型 W1 PhC-WGs である(格子定数:321 nm、空孔径:240 nm、コア厚:250
nm)。また、導波路全域に InAs-QD を埋め込んである。励起光としてパルス幅 4.9 ps のフ
ァイバーレーザ(1550 nm)を使用し、
PhC-WGs 入射した。入射端面から出射
された発光のスペクトル観測を行った。
(a)
(b)
Fig.1(a)に励起波長 1550 nm での放射
スペクトルを示す。励起強度を大きく
することで特定の波長(1290 nm)に
おいて幅が狭く、強い放射スペクトル
が確認された。Fig.1(b)にこの特定の
波長の励起光強度とピーク強度の関
係をプロットした結果を示す。この結果
から閾値の存在が確認できた。これらの
結果より得られた放射光はレーザ発振
Fig 1. (a) Emission spectrum of InAs-QD embedded
GaAs PhC-WG. (b) A plot of the peak intensity of the
1290 nm line as a function of pump power.
している可能性が高いと考える。
15
フォトニクスデバイス研究
液体充填フォトニック結晶ファイバーによる超広帯域光波発生
Supercontinuum generation from a liquid-filled photonic crystal fiber
光システム学科 唐澤 直樹(Naoki KARASAWA)
Generation of visible supercontinuum using a dispersion-flattened water-filled photonic crystal fiber
(PCF) was demonstrated. Experimentally, a 6-cm-long PCF, where holes near the fused silica core
were filled partially with water was prepared. By using the PCF, visible supercontinuum from
450-1100 nm was obtained using an optical pulse from a Ti:sapphire oscillator, of which the spectral
intensity was more flat than that from the PCF without water.
フォトニック結晶ファイバー(PCF)は光の導波方向に空孔が規則的に配列された光ファ
イバーである。PCF の分散特性はその空孔の配置により制御することが可能なため、超短
光パルスを導波すると超広帯域光波が発生することが見出され、様々な分野で応用されて
いる。超広帯域光波の帯域を広げ、その強度を一定にするためには PCF の群速度分散(GVD)
を広帯域で零に近づけ、フラットにすることが有効である。我々はそのための手法として
PCF のコアの近くの空孔に水を選択的に充填することが効果的であることを理論計算から
検討してきたが、今回その実験的検討を行った。実験には長さ 6 cm の PCF(NL-1.5-670)
を用い、それにチタンサファイアレーザーからの超短光パルス(中心波長 804 nm、パルス
幅 50 fs、繰り返し周波数 78 MHz、平均パワー150 mW)を結合効率約 15 %で導入した。PCF
の空孔には毛細管現象を用いて水を充填した後、室温にて 2-3 日放置し、コアの周辺の空孔
に部分的に水が充填したものを用いた。Fig 1. (a)に水を部分的に充填した PCF からのスペク
トル、Fig 1. (b)に水を充填していない PCF からのスペクトルを入射パルスのスペクトルと
共に示す。この図に示されるように、水を部分的に空孔に充填することにより、特に可視
スペクトル領域で強度の均一性の高い 450 nm から 1100 nm にわたる超広帯域光波が発生可
能であることが分かった。今後は液体の充填を選択的に行うために PCF の空孔を選択的に
塞ぐ手法の開発を行う。これにより分散特性の詳細な制御が可能となる。また光学的非線
形効果の高い液体をコアとする PCF の実現も可能になると期待される。
Fig 1. (a) The spectrum from a PCF, where air holes near the core was partially filled with water. (b)
The spectrum from a PCF, where no holes were filled with water. The spectrum of an input pulse is
shown by a gray curve.
16
フォトニクスデバイス研究
フォトニック結晶ファイバ開発およびそのシミュレーション技術の
研究
Development of photonic crystal fibers and their simulation techniques
光システム学科 江口真史(Masashi EGUCHI)
Photonic crystal waveguides are important devices in optical communications and optical signal
processing technologies. We are developing analysis techniques and simulation systems for such
devices, and new devices using their techniques.
IT の発展を支える光通信ネットワークの根幹をなす光ファイバの高性能化に関する研究
を行っている。本研究室では、光通信、光信号処理の要となる光導波路のシミュレーショ
ン、およびそのために必要となる大規模コンピュータシミュレーション技術の開発を中心
とした研究を行っている。
ここでは、究極の高速伝送を可能にする絶対単一偏波特性を有するフォトニック結晶フ
ァイバについて述べる。これまでにも絶対単一偏波特性を有する光ファイバは提案されて
いるが、未だ数例にすぎない。本研究室では、フォトニックバンドギャップファイバにお
いて新たな絶対単一偏波構造の開発に成功し、その成果は米国光学会/米国光学会誌(J.
Lightwave Technol.)に掲載されている。下図は数値シミュレーションによるファイバ中の光
の分布である。
Fig 1.
Modal field of single-polarization photonic bandgap fiber
17
フォトニクスデバイス研究
電気接点対の開離アーク継続時間に対する電極開離速度の影響
Influences of Electrode Opening Speeds on Break Arc Durations of Electrical Contact
Pairs
グローバルシステムデザイン学科 長谷川誠(Makoto HASEGAWA)
Break arc durations of electrical contacts are in general said to become shorter with faster contact
opening speed. The author has reported, however, different tendencies in which no significant
influences are recognized even with increased opening speeds. For more investigations, in a DC
inductive load circuit (L=20mH) with a power supply voltage of DC14V, break operations of a load
current in the range from about 0.8 to 4.8 A were conducted with a Ag contact pair and a AgSnO2
contact pair at a contact opening speed in the range from 1 mm/s to 20 mm/s. During the
operations, break arc durations were measured and the average break arc duration was calculated in
each operating condition. As a result, break arc durations became shorter with faster contact
opening speeds only with larger load current levels for both of the contact materials. Moreover,
with faster contact opening speed levels, the tendencies became less significant.
電気接点対では、一般に電極開離速度が速くなると開離アーク継続時間は短縮するとさ
れるが、著者らの検討では、開離アーク継続時間が開離速度の影響を受けず、負荷電流レ
ベルのみに影響されるという傾向が再現性良く観測されている。今回は、負荷電源電圧
DC14V の直流誘導性負荷回路(L=20mH)において、約 0.8~4.8A の負荷電流を Ag 接点対な
らびに AgSnO2 接点対にて 1mm/s~20mm/s の範囲の接点開離速度で遮断する際の開離アー
ク継続時間を測定し、平均開離アーク継続時間を算出した。その結果、両接点対とも、負
荷電流が大きい場合のみ、開離速度の増加に伴う開離アーク継続時間の短縮効果が認めら
れた。また、その効果も開離速度を大きくするにつれて顕著ではなくなった。これより、
接点開離速度の増加によるアーク継続時間の顕著な短縮効果を実現するためには、接点開
20
40
4.8A
35
3.9A
30
25
2.8A
20
1.7A
15
0.8A
10
5
0
0
5
10
15
20
Average break arc durations (ms)
Average break arc durations (ms)
離速度、負荷電流とも、あるレベル以上の値になっている必要があることが確認された。
25
18
4.8A
16
3.9A
14
2.8A
12
1.7A
10
8
0.8A
6
4
2
0
0
Contact opening speeds (mm/s)
(a) AgSnO2 contact pairs
5
10
15
Contact opening speeds (mm/s)
20
25
(b) Ag contact pairs
Fig 1. Influences of electrode opening speeds on average break arc durations (3).
参考文献:
(1) 長谷川誠:
“Ag 及び AgSnO2 接点の開離アーク継続時間に対する接点開離速度の影響に関する実験的検
討”, 電子情報通信学会研究技術報告, 信学技報 EMD2013-15(2013-6)
(2) M. Hasegawa:“An experimental study on influences of contact opening speeds on break arc characteristics of
Ag and AgSnO2 contact”, 電子情報通信学会研究技術報告(国際セッション IS-EMD2013), 信学技報
EMD2013-112(2013-11)
(3) 長谷川誠:
“直流負荷回路における Ag 及び AgSnO2 接点対の開離アーク継続時間と接点開離速度との
関係に関する実験的検討”, 電子情報通信学会研究技術報告, 信学技報 EMD2014-4 (2014-5)
18
フォトニクスシステム研究
LED を用いた可視光無線 LAN 技術の基礎検討
A basic study of a wireless LAN technique with using visible LEDs
グローバルシステムデザイン学科 山林由明(Yoshiaki YAMABAYASHI)
We have successfully demonstrated a possible configuration of wireless LAN with using visible
LEDs for the downlink, and a corner-cube array as the uplink light source. The downlink consists
of two LEDs with complementary color each other, blue and yellow in this case, in order to avoid
nasty blinking to human eyes regardless of the transmission rate. The uplink was realized by
chopping the whole downlink light being retro-reflected from the corner-cube array back to the
downlink LEDs. It makes any active light source such as LED or laser unnecessary for the uplink,
and makes it possible to avoid any adjustment for the user.
現代の通信技術において、伝送媒体には光ファイバや大気(電波)が主流である。中で
も無線通信では Wi-Fi、LTE などといった電波を用いる方式が主流である。しかし、近年
では電波の需要が増えたことによる電波資源の逼迫や干渉による妨害、盗聴などの問題が
顕在化してきた。そこで、可視光 LED を用いた光無線 LAN の基礎検討を行った。ダウン
リンク送信側には補色となる黄色
と青色の LED を反転信号で変調
することで、全体としては白色の
点滅しない照明光として利用でき
PMT
るものとした。また、アップリン
クには、コーナーキューブアレイ
(CCA)
を用いて前記 LED 光を反
射させてアップリンク用の光源と
することで、
省エネルギーであり、
かつユーザがまぶしさを感じない
データ送信ができるものである
(Fig. 1)。CCA は光が到来した方
向に反射する性質があり、光源と
した LED 方向に反射するが、その
Fig 1. Configuration of the visible wireless LAN
不完全性のためにその周辺にも反
射光は若干至る。
ダウンリンクの実験波形を Fig. 2 に示す。今回は 0/1 の交替波としているのでそれぞれの
波長が反転しつつ発光していることが分かる。アップリンクはこの両方の波長光を同時に
遮断することで変調する。今回はコーナーキューブからの反射光を手で繰り返し遮断して
光電子増倍管(PMT)にて受光した。その受信波形を Fig. 3 に示す。
アップリンクの受光器に、高電圧を必要とし雑音の大きい光電子増倍管を用いているな
ど改良点が多いが、可視光を用いた無線 LAN 構成の基本的な可能性について実験的に検
証ができた。室内では盗聴や混信の懸念がない方式が実現できる可能性が示された。
Fig 2. Two-colors downlink waveform
Fig 3. The uplink waveform
19
フォトニクスシステム研究
120MHz 帯 AM 受信機の製作
Design of a 120MHz AM receiver as a graduate study
光システム学科 福田 誠(Makoto FUKUDA)
A 120MHz-band AM receiver was designed and built. The receiving system was composed of
several RF components, such as antenna, RF amplifier, PLL frequency synthesizer, detector, audio
amplifier. Designing of each component was assigned to the students who belong to the laboratory.
Finally, the receiving system was completed and demodulated the voice signals on the RF signals.
電子回路の分類として低周波回路と高周波回路があるが、両者を区別する周波数が決ま
っているわけではない。そこで、高周波回路の技術者は、周波数の大小ではなく、信号の
波長と回路のサイズとの比率に着目し、高周波回路として設計するべきか、あるいは低周
波回路として設計して良いかを考える。波長と回路のサイズが同程度になると、信号の波
動的な性質が強く現れるので、そのような回路は高周波回路として取り扱うことになる。
当研究室では、これまで高周波増幅回路、PLL 周波数シンセサイザなどのコンポーネン
トを製作してきた。今年度はその経験を生かして、学部4年生に各コンポーネントを割り
振って設計および製作させた。最後にそれらのコンポーネントを組み合わせて 120MHz 帯
の AM 受信機を実現するプロジェクト形式の卒業研究を実施した。企業で行われているプ
ロジェクトを卒業研究で実施したとき、どのような問題が発生するか、またそれに対して
教員はどのようにサポートしたら良いかといった点を見出すことも本プロジェクトの目的
の一つとした。完成した受信器は設計通りに動作しており、高周波回路システムの教材と
して展示することによって学生の教育に役立てている。
Fig 1.
Blockdiagram of 120MHz AM receiving system
Fig 2. Photograph of the transistor mixer
Fig 3.
20
Photograph of the receiving system
フォトニクスシステム研究
視空間環境統合に基づく二足歩行ロボットのモーション制御
Vision-based Motion Control for Biped Walking Robot
光システム学科 小田尚樹(Naoki ODA)
In this research, the vision-based motion controller is designed for biped robot to stabilize the
walking motion. The zero moment point (ZMP) can be estimated from visual target position in the
proposed method, and its estimated ZMP was compared with actual value measured by force sensor
in experiments. The validity of this method was evaluated through several experiments.
ZMP Respones[m].
本研究では,カメラ画像から得られる視空間環境情報を二足歩行ロボットの安定化制御
に効果的に活用したビジュアルフィードバック形のモーション制御系の開発に取り組んで
いる。視空間環境情報を,ロボットの動的平衡状態を安
定化するためのモーション制御と統合している点が本研
究の独創的な点である。実機ロボットの一部改良も施し,
足部素材の一部を炭素繊維強化プラスチック(Carbon
FRP)に変更し,また足平部に内蔵されているゼロモー
メントポイント(ZMP)の検証用力センサの置き換えも行
っている。
本アプローチでは,視野画像情報とロボットの動的平
衡状態を関係づける上で,足部の機械的コンプライアン
スに着目している。Fig.1 に示すように上体部に CCD カ
メラを搭載し,画像処理により視野環境中の特徴物の位
置をリアルタイムに検出する。視野画像中の物体変位を
床反モーメントに換算し,二足ロボットの安定性評価で
ある ZMP の導出が可能である。
Fig.2 に力センサによる ZMP 実測値と提案手法による
Fig 1. Biped Robots
画像情報を利用した推定値を比較している。比較的遅い
動作(上図)から速い動作中(下図)まで,
0.15
Force_sensor
良好に実測値と一致した結果が得られ,そ
Vision_sensor
0.1
COG
の有効性を確認した[1]。
0.05
そのほか,2013 年度までにオプティカル
0
フローと ZMP を関係づけた安定化制御手
0
5
10
15
20
25
-0.05
法も提案している。また,段差等の不整地
-0.1
対応についての検討にも着手し,一定の効
Time [sec].
果を確認している。今後,安定化効果を更
に向上させるモーション制御系へと拡張し
ていく予定である。
ZMP Response [m].
0.15
参 考 文 献 : [1] N. Oda, J. Yoneda,
"Experimental Evaluation of Vision-based
ZMP Detection for Biped Walking Robot",
Proceedings of IEEE Int. Symposium on
Industrial Electronics (ISIE2013), pp.1-6,
Taiwan, 2013
0.1
0.05
0
0
5
10
15
20
25
Force_sensor
-0.05
Vision_sensor
COG
-0.1
Time [sec].
Fig 2. Experimental Results
21
バイオフォトニクス研究
ルッコラ栽培に適した人工光源の検討
-成長とビタミン C 含有量を赤・青 LED、白色 LED、蛍光灯で比較-
Growth and vitamin-C content dependence on the type of light sources
グローバルシステムデザイン学科 吉田淳一(Junichi YOSHIDA)
In-room herb cultivation has been attracted much attention because of its stable and high efficiency
production, and of possibility of rich functional ingredient food production. We have investigated
the effect of several light sources used for in-room cultivation on the growth and vitamin-C content
of ruccola (rocket or arugula). It was shown that the red and blue LED showed the most preferable
result. Commercially available white LEDs and CCFLs showed relatively good results which
indicated the possibility of lowering the initial and the running cost of light sources.
現在,日本各地で積極的展開が行われている植物工場の中でも、とりわけ完全制御型植
物工場は、天候によらず通年栽培が可能でしかも安定して一定品質の植物を露地栽培より
効率的に生産できるうえ、ビタミンやポリフェノール等の植物固有機能性成分の含有量の
増加が図れる等のことから、これからの新たな施設園芸として期待されている。その完全
制御型植物工場においては、蛍光灯や,赤 LED と青 LED の組合わせ,あるいは白色 LED
等の人工光源パネルが栽培用光源として使用されている。植物の正常な成長には、光合成
と形態形成に必要とされる赤色光(640~690nm)及び青色光(420~470nm)が不可欠であり、
一般的に入手可能な経済的光源(蛍光灯や一般の赤色 LED 等)のスペクトルは、必要とさ
れるスペクトルと比べると必ずしも理想的な分布になっていない。このことは、植物工場
用光源低コスト化において一つの課題となっている。
本検討では、植物の成長に最適な青及び赤の波長を同時に発する赤・青同時発光型 LED
光源に加え、市販の白色 LED 蛍光灯及び白色冷陰極管蛍光灯(以下、CCFL と略す)の計
三種類の人工光源を用いて、PPFD 200μmol/m2/s で養液土耕を若干アレンジした方法でル
ッコラを栽培し、光源の種類によって植物の成長と還元型ビタミン C の含有量にどのよう
な影響があるかを調査した。結果をまとめると、全体的にクロロフィルの吸収ピークに合
っている同時発光型 LED が最もいい結果を示しているが、LED 蛍光灯と CCFL は同程度
の効果であり、また、参考値ではあるが自然光に近い成長が期待できる結果であった。コ
スト的には、従来の蛍光灯に比べると蛍光灯型 LED 及び CCFL は、消費電力が 1/2 以下で
寿命が4倍以上であることから、発熱が少ないことやメンテナンス費用も考えると長期的
観点で相当有利である。これらは従来の蛍光灯と違和感無く置き換えられることから、家
庭菜園等の室内環境での植物栽培にも適しており、波長最適化した LED 光源も含めて、実
用の観点から選択肢の幅を広げることができると考えられる。
なお、本研究開発は公益財団法人道央産業振興財団平成 25 年度高度技術研究開発助成
事業の助成を受けて実施したものである。
22
バイオフォトニクス研究
ユーザーの認知特性に基づく振動リズムのデザイン
Designing Vibration Rhythms Based on the User’s Cognitive Characteristics
グローバルシステムデザイン学科 小林 大二(Daiji KOBAYASHI)
Almost of mobile devices include an actuator oscillating the mobile device and informing simple
message to the user such as “You got a mail.” For presenting more or complex information by user
interfaces, some ideas have been proposed and evaluated. In this study, we researched the way of
designing recognizable vibration rhythms presenting qualitative and quantitative information. The
experiments were executed for investigating easily-identifiable patterns using the mouse-type
tactile interface. From the results, some requirements and guidelines for designing the recognizable
vibration rhythm were revealed.
人間工学の国際規格 ISO 9241 シリーズのパート 910 には,「タクタイル(tactile)
」とは
人間工学の研究者の間で「皮膚の機械的刺激」を指す言葉であると書かれている。つまり、
「機械的に皮膚へ振動刺激を提示するインタフェース」は「タクタイル・インタフェース」
と呼べる。タクタイル・インタフェースなどで提示される振動刺激に関して Kass ら(2008)
は、
「触覚からの情報は刺激自体の特性ではなく、高次の情報に基づいて処理されると考え
るのが妥当であり、振動刺激の作業記憶には音韻と結びつく言葉が使われることが多い」
と述べている。つまり,振動刺激の認識・解釈や記憶の容易さは、刺激を受容する人間の
知識・経験、推論といった認知処理、特に音韻に関わる処理に関係していると考えられる。
また、人間の振動感覚については、性差よりも加齢の影響が強いことが Wiles ら(1991)によ
って明らかにされている。そこで,振動パターンを提示できるタクタイル・インタフェー
スを試作し,ユーザーの認知的特性に基づいて用途に応じた振動パターの設計要件につい
て実験的に検討した。
実験には,市販のマウスを流用して製作したマウス型タクタイル・インタフェースを用
いた。このタクタイル・インタフェースで提示した音韻的でリズミカルな振動パターンを
「タクタイルリズム」と称し、2 種類の意味を伝達するタクタイルリズムの要件を探った。
具体的には、意味を付与したタクタイルリズムで質的な情報を伝達する「質的用途」と量
的な情報を伝達する「量的用途」の 2 つの用途を想定した。
「質的用途」の一例として,パソコンに接続したプリンタのエラーメッセージを振動マ
ウスで提示するシミュレータを構築し、提示するタクタイルリズムの有用性を検討した。
比較した振動パターンは、モールス符号とモールス符号を音韻的リズムの規則に基づいて
再構成したタクタイルリズムの 2 種類とした。
20~22 歳の学生 20 人による実験の結果、
「質
的な用途」の適用に関しては,モールス符号よりも振動リズムの方では正答数が統計的に
みて有意に多かった。
一方、
「量的用途」についての実験では、提示する量に比例した長さの音符で構成したリ
ズムと、指数関数に従って長くした音符で構成したリズムでの情報の判りやすさを 20~22
歳の学生 24 人による実験で比較した。その結果、正当数に統計的な有意差は見られなかっ
た。そこで,振動リズムで提示する量に応じて振動刺激全体の提示時間を長くするパター
ンを試みた結果、正答数が有意に増加した。このことから、質的用途では、音韻的リズム
を振動パターンに導入した刺激の方が理解・判断しやすく、量的用途では刺激の提示時間
のような物理的規則に従ったリズムの方が、ユーザーには理解・判断しやすい事が判った。
23
バイオフォトニクス研究
5-ALA を用いた細胞障害効果と蛍光寿命イメージング
The Photocytotoxicity Effect of 5-ALA in Cells and Fluorescence Lifetime Imaging
バイオ・マテリアル学科 李 黎明(Liming LI)
Photosensitizer 5-aminolevulinic acid (5-ALA) successfully used in photodynamic diagnosis
(PDD) and photodynamic therapy (PDT). In this study, with using an LED light source to research
ALA-PDT, it included photobleaching of protoporphyrin IX (PpIX), the fluorescence lifetime
imaging measurement (FLIM), and the light irradiation effect of PpIX which is inside or outside the
cells.
光感受性物質 5-アミノレブリン酸(5-ALA) は光線力学的診断(PDD)や、光線力学的治療
(PDT)の研究に利用されている。現状では光源にレーザを用いて臨床試験を行っているが、
他の光源を使用した研究報告例は少ない。また、5-ALA 投与後に起きる事象についてはま
だ不明な点が多く、解明する必要がある。本研究では、in vitro の見地から光源に LED(波
長: 630 nm 照射パワー: 50mW)を用いた ALA-PDT や PpIX の光退色と蛍光寿命イメージン
グ測定を行い、細胞内外における PpIX の光照射効果について考察した。ALA-PDT の実験
では、5-ALA を取り込ませたヒト十二指腸がん細胞を光源に LED を用いて PDT を行い、
細胞障害効果を評価した。ALA 濃度に比例して細胞生存率も低下しているのが確認された
(Fig.1)
。PpIX 蛍光スペクトルの光照射時間依存性を調べた。PpIX の蛍光に帰属される 640
nm 及び 710 nm 付近のピークは光照射時間が長くなるにつれて減少するのが確認された
(図略)。また、蛍光スペクトルの最大強度を規格化し、光照射時間が長くなると PpIX に帰
属しない 570 nm 及び 680 nm 付近のピークが増加することにより組織内に新たな蛍光物質
が存在したと推測できる(図略)。細胞内 PpIX の蛍光寿命は、蛍光寿命ヒストグラムのピー
クより求めることが出来た。得られた蛍光寿命画像を Fig.2 に示す。細胞内 PpIX の蛍光寿
命は、およそ 12.6 ns と見積もることができた(Fig.3)。
0
5
Lifetime (ns)
10
15
20
Fig 1. Survival rate of
Fig 2.PpIX Fluorescence
Fig
ALA-PDT
Lifetime
Lifetime Histogram
24
3.
Fluorescence
バイオフォトニクス研究
赤外イメージングによる生薬「オウレン」の分析
Analysis of crude drug “Coptis japonica” by FTIR imaging
バイオ・マテリアル学科 木村-須田廣美(Hiromi KIMURA-SUDA)
Dried roots of Coptis japonica containing berberine, palmatine and coptisine are used as crude
drugs for gastroenteritis. The most important ingredient in the root, berberine, is normally extracted
in solvent due to be determined using TLC, HPLC or LC-MS. Here, we describe analysis of
berberine and palmatine in the dried root of Coptis japonica by FTIR imaging. We succeed in
showing distributions of berberine and palmatine in the cross-sectional surface of Coptis japonica
root without any probe and sample preparation.
生薬はフレーク状で流通されることが多く、
目視で品質や産地を判別することは難しい。
一般に、生薬の品質管理には確認試験で採用されている薄相クロマトグラフィー(TLC)、
あるいは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、高速液体クロマトグラフィー質量分析
(LC-MS)などが用いられているが、いずれの測定法も有効成分を溶媒で抽出する前処理が
必要である。我々はこれまでの研究において、赤外イメージングや顕微ラマン分光による
生薬「甘草」の非破壊分析手法の開発を行ってきた[1]。その結果、特別な試料調製やプロ
ーブを用いることなく、甘草におけるグリチルリチン酸、グリチルリチン酸塩およびセル
ロースの分布を示すことに成功し、その結果を比較検討することでグリチルリチン酸の簡
易定量が行えることを示してきた。本研究では、赤外イメージングを用いて生薬「オウレ
ン」の有効成分であるベルベリンとパルマチンの分析を行ったので報告する。試料は市販
の生薬「オウレン」(栃本天海堂、日本産)を用い(Fig.1(a))、あらかじめ日本薬局方に従っ
た HPLC 測定法でベルベリンとパルマチンが充分に含まれていることを確認した。尚、標
準試薬にはベルベリン(和光純薬)とパルマチン(和光純薬)を用いた。オウレンの断面を
赤外イメージング(Spotlight400)で測定し、得られたイメージの主成分解析(PCA 解析)を行
った。Fig.1(b)の赤外イメージは、ベルベリンの分布を示している。オウレンの可視画像
(Fig.1(a))とベルベリンの赤外イメージを比較した結果、ベルベリンは木部に多く分布して
いることが確認された。
Fig 1.
オウレン(a), ベルベリンの赤外イメージ(b)
参考文献:
[1]木村-須田廣美,“甘草の新規品質評価法の開発”, 平成 24 年度千歳科学技術大学年報,
106 (2013)
25
博士後期課程 平成 25 年度研究中間発表会要旨
協調的作問機能システムを活用した看護過程の知識の定着の活用
Application of understanding knowledge on nursing process by harmonized making
problem function system
辻
慶子(Keiko TSUJI)
It is important that nursing students completely understand knowledge on nursing process,
because they need to apply this knowledge to a practical situation. In this presentation, the author
applied WBT (Web Based Training) with harmonized study and making problem function for this
purpose, and verified effectiveness of this method. But, there was difference between students and
teachers in knowledge. The author still tries to make a system for further understanding system.
はじめに
看護過程は、看護援助を行う際に複雑に絡み合った問題を、論理的に解決に導くことを
支援する方法である。そのプロセスは、情報収集、アセスメント、看護問題、看護計画、
実施、評価の 6 つの段階に分けられる。さらに、この 6 段階は順序よく学習していかなけ
れば混乱するため、看護過程を初めて学ぶ学生にとっては、複雑に絡み合った問題を論理
的に解決していくということは、複数の知を活用するために大変難しいことである。そこ
で、先行研究では、看護過程論の授業での自己学習システムを作成し、知識の理解につな
がるという結果を得た 1)。看護過程は、獲得した知識を実際に活用できなければ看護援助
に結びつかないため、知識を定着させることが重要である。今回、知識定着型の
WBT(Web-Based-Training)と学習者が作問し電子掲示板で問題を共有し解き合うことが
できる協調的作問システム(以後, Cisty-II)を活用したことで、知識の定着につながったので
報告する。
1.
授業実践の検証
Cisty-II を用いて、A 大学看護学科の「看護過程論」の授業を行った。講義では看護過程
に関する基礎的知識を修得し、知識の活用として事例展開できることを目標としている.
知識の修得と活用を積極的に行
うために座学とグループ学習, 作
問を組み合わせた授業の展開を行
った(図 1)
。看護過程 6 段階の各段階の
図 1. 設計した授業モデル
グループワークで 3 回の作問を行ったので作問数は合計 18 回となった。分析は、2 群の差
の検定には対応のない t 検定、
3 群の差の検定には一元配置分散分析と多重比較を行った。
2.
結果
1) 看護過程 6 段階の作問の有無
看護過程 6 段階おいて段階の順序性に関係なくすべての内容の作問がある場合と 1 つ
以上の段階の内容の作問がない場合の比較において定期試験及びレポート点において、
有意差はなかった。
2) 看護過程 6 段階の順序性の有無の比較
26
博士後期課程 平成 25 年度研究中間発表会要旨
看護過程 6 段階各段
表 1. 看護過程 6 段階の作問の有無
階の 3 つの作問の作問
内容が一致または 3 問
学生数
中 1~2 問が一致した
成績の種類
ものを順序性がある
平均点数
6 段階の作問有
6 段階の作問無
79 名
10 名
定期試験
レポート点
定期試験
レポート点
71.8
71.3
73.2
69.0
場合と、3 問とも作問
内容が一致しなかっ
表 2.
たものを順序性がな
6 段階の順序性の有無
順序性がある場合
い場合で比較した。定
50 名
学生数
期試験とレポート点
成績の種類
とも有意差はなかっ
38 名
定期試験
レポート点
定期試験
レポート点
72.6
71.6
71.8
70.3
平均点数
た。
順序性がない場合
3) 看護過程の 6 段階作問内容の適合性
作問の内容について、看護過程のどの知識を活用したかを学生と教員で比較した。
その結果、知識の認識の一致率は平均 79%であった。看護過程 6 段階の各段階の 3 つ
の作問において作問内容が一致しているものが、6 段階中 4 段階以上ある場合(①)
、
2~3 段階の場合(②)
、1~0 段階(③)の場合の定期試験とレポート点を比較した。
その結果、①と③の定期試験において有意差があった(p<0.05)。また①と③のレポー
ト点で有意差があった(p<0.01)。
表 3.
①4 段階以上
②2~3 段階
③0~1 段階
16 名
36 名
37 名
学生数
3.
6 段階の作問内容の適合性の割合
成績種類
定期試験
レポート点
定期試験
レポート点
定期試験
平均点数
76.2
75.0
71.8
70.6
69.9
レポート点
69.2
まとめ
看護過程の授業において、獲得した知識を実際に活用するといことは、事例展開(レ
ポート)ができることである、今回、看護過程 6 段階の各段階の 3 つの作問において、
作問内容が 3 問とも一致しているものが、6 段階中 4 段階以上ある場合(①)、2~3
段階の場合(②)
、1~0 段階(③)で、作問内容が一致することで、定期試験及びレ
ポート点が高くなった。このことから知識の習得と活用ができていると考え、作問機
能システムを活用することで、知識の定着が図れることが出来た。さらに知識の定着
を図るために、学生と教員の間に知識の認識の差があることを解消することだと考え、
知識可視化システムを作成し、授業で活用した。現在、その分析中である。
参考文献
1) 辻慶子,小松川浩:看護過程での知識理解のための e ラ-ニング活用,教育システム情
報学会誌 31(1),99-104,2014
27
博士後期課程 平成 25 年度研究中間発表会要旨
初等中等教育での利活用を想定した e ラーニング運用方策と教育モ
デルの検討
A Proposal of Operational Scheme of e-Learning Utilization in Elementary and
Secondary Education
長谷川 理(Osamu HASEGAWA)
In the present study, we propose an operational scheme of e-learning utilization in elementary and
secondary education, abstracting key issues from knowledge obtained in our case study performed in
Hokkaido area for 10 years. Our scheme consists of operation of the e-learning system with
distributed management roles, maintenance of drill-type of materials under systematic body of
knowledge, and supporting service in collaboration with the university, and regional elementary and
secondary educations. The validity of our scheme is discussed, using the data obtained from the case
study such as results of questionnaires for both learners and teachers, and access data to the
e-learning system.
日本では,子どもたちの確かな学力の定着にむけた総合的な施策の一環として,初等中
等教育の情報化が重要な課題となっており,普通教室へのパソコンの設置やネットワーク
などのインフラ環境の整備が積極的に進んでいる(1).呼応する教育方法として,教科指導
への ICT 活用が提言されており,教科における基礎的な学習での内容に関する知識定着に
むけて,ドリルソフトなどを活用して反復的に取り組ませることの重要性が示されている
(2)
.上記ソフトの中で,WBT(Web-based Training)形式の e ラーニングは,在宅での学習
も含めた学習管理といった観点で,反復的な学習支援のツールとして有効と考えられる.
しかし,初等中等教育機関が独自に e ラーニングシステムを導入することは,システムの
運用・保守に関する技術的・費用的な観点で難しい.さらに初等中等教育に利活用可能な
質の良いコンテンツや,各学校の授業レベルに合わせた独自のコンテンツの整備に関わる
負担の観点でも問題が残る.
千歳科学技術大学では,上記の問題を意識しながら,e ラーニングの取り組みを 1999 年
から試行し,北海道内の小中高と連携した取り組みを拡げてきた.2014 年 4 月段階で,北
海道内 50 の高校及び千歳市・夕張市・栗山町・遠別町の教育委員会を介した小・中学校と
連携して e ラーニングのサービスを提供している(3).
本研究では,千歳科学技術大学の取組事例をベースに,システム及びコンテンツ双方の観
点から,
地域連携型の初等中等教育での e ラーニングの運用方策に関する一提言を試みる.
第一に,地域の拠点としての大学と地域の初等中等教育機関とが連携して管理を可能と
するシステムの運用を方策として提言する.研究対象の事例からは,初等中等教育機関で
もユーザ管理は十分行える知見が得られた.そこで,上位権限を持つ大学が ASP 型やクラ
ウドを用いた SaaS 型などのシステム運用とコンテンツ管理を行い,各学校が所属する学校
のユーザ管理と学校ごとに必要なコンテンツ選択を行うという分散型の管理システムの運
用が有用と考える.本実践で得られたシステム運用に関する知見,特にサーバ運用やシス
テム管理に関しては,大学の技術職員が通常業務と並行して行えていること,また,経費
については,地域貢献事業と合わせて予算化するなどの工夫でまかなえている点等を踏ま
28
博士後期課程 平成 25 年度研究中間発表会要旨
えることで他の地域においても導入の敷居が下がると考えられる.
第二に,地域の各教育機関の教員が相互に分担し整備を行うコンテンツの作成および運
用方策の有用性を提言する.著作権の対応をした上で,地域の教育機関の教員が分担して
原稿を作成し,大学でコンテンツ整備を行う枠組みを前提とする.研究対象の事例では,
大学と地域の連携のもと,共通の知識フレームとしてのコンテンツツリー構造を参照し,
不足するコンテンツを確認しながらコンテンツの開発を行い,さらには,それらの開発さ
れたコンテンツをコンテンツツリー構造上で共有することで,量の面で十分なコンテンツ
の整備を実現することができている.また,コンテンツの完成度の向上やコンテンツツリ
ー構造の維持を図るため,学生プロジェクト経験者を中心に大学が学生を雇用して,コン
テンツの整備にあたっており,質の面でもコストを抑えながら十分なコンテンツ整備を実
現することができている.なお,本実践で開発したコンテンツおよびコンテンツツリー構
造は,他の地域への提供・共有も可能である.このこと踏まえると大幅にコストを削減で
きることから,容易に他の地域での導入の敷居が下がると考えられる.
第三に,e ラーニングシステムの活用を支援するための地域連携の仕組み(サービス)
の有用性を提言する.本事例では,地域の拠点となる大学が,連携先の高校の生徒や教員
に対するシステム利用講習会および教育方法の共有のための研究会を実施することの有用
性を確認することができた.本実践のように地域連携の仕組みを活用することで,有益な
情報が幅広く共有されることから,提言する地域連携の仕組みには高い有用性があると考
えられる.さらには,このような支援体制を構築することで,大学から連携する高校に教
育方法の共有が図られ,その高校を拠点に地域の小・中学校への共有にもつながる可能が
ある.このような地域連携の仕組みを実現するためには,単に講習会や研究会を実施する
だけではなく,本実践でも示した高大連携協定のような枠組みを利用することが重要であ
る.
高大連携協定を締結する際のノウハウ,
特に年度毎に計画書を提出してもらうことや,
利用事例の報告を行ってもらうなどの利用者意識を高めるための工夫を踏まえることで,
他の地域で同様の仕組みを構築することが可能だと考える.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
参考論文
1. IT 戦略本部:
“i-Japan 戦略 2015”,http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/090706honbun.
pdf(access 2014.04.23)
.
2. 文部科学省: “教育の情報化に関する手引き” ,http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/
zyouhou/1259413.htm(access 2014.04.23)
.
3. 長谷川理,大西智彦,小松川浩: “初等中等教育における e ラーニング活用教育モデ
ルの構築と検証”
,教育システム情報学会誌,Vol.29,No.1,pp.76-79(2012)
29
博士後期課程 平成 25 年度研究中間発表会要旨
C 型希土類構造を持つ混晶系の光学特性
Optical property of mixed crystals which is C-rare earth structure
知花 優太郎(Yutaro CHIBANA)
We have performed Raman scattering spectroscopy and Absorption spectrum in single crystal of
Y2(1-x)Tb2xO3, Lu2(1-x)Tb2xO3, Sc2(1-x)Tb2xO3, grown by the floating-zone method. The Raman
spectrum is basically same as that of C-rare earth structure. By fitting an intense Raman line at
380cm-1, we obtain the frequency of the stretching mode. It turns out that the mode frequency
smoothly decreases Tb-concentration. The frequency of the stretching mode is agreement with the
calculated value. The absorption spectrum changed with host crystals. It turns out that the
Absorption coefficient smoothly increases Tb-concentration to 50%.
光アイソレータ用の磁気光学結晶では以下の 3 つの点が必要となる。1 つ目は十分に大
きな Verdet 定数を持つことである。光学的に等方な物質に磁場 H をかけた際のファラデー
回転角を表したものを(1)式として示す。ここで L は試料の長さ、M は磁化、λは光の波長
である。そこで我々はθF を大きくするために M が大きい材料として希土類に着目した。
更に我々は希土類酸化物の磁気光学効果が(2)式で表せることを提案した。(2)式より Verdet
定数を大きくするためには磁化 M の大きい材料を用いること、を大きくするような構造
を持つこと、単位体積あたりの孤立イオン N が多いことの 3 つが重要となる。
F 
・ML
2λ ε
(1)
V
θF
HL
N
γ(gjμB ) 2
6λ εk B T
J J  1
(2)
2 つ目は光学的異方性を示さないことである。具体的には結晶が立方晶系であること、あ
るいは透明セラミックスのように等方的なこと。局所的な歪みや気泡などが存在しない良
質な結晶であることが重要である。3 つ目は使用する波長領域で透明であるということで
ある。今回は Verdet 定数を大きくするために希土類に着目しているので、主に希土類の f-f
遷移や f-d 遷移による光吸収が関係している。そこで YAG レーザ用の光アイソレータとし
て Tb を含む酸化物結晶の作製とその光学特性評価を行った。
測定試料の作製は Xe ランプ加熱型の FZ 法で行った。出発原料である Tb2O3 (99.9%)と
Y2O3 (99.99%)、Lu2O3(99.9%)、Sc2O3(99.9%)、Gd2O3(99.9%)を秤量・混合し、圧縮成形して
原料棒を得た。高価数 Tb の生成を防ぐため、原料棒の焼成は行わず,結晶成長も還元雰
囲気下で行った。得られた結晶を切断し、端面研磨した試料を用いた。光学特性評価はラ
マン散乱分光と光吸収で行った。
Fig.1 は Y2(1-x)Tb2xO3、Lu2(1-x)Tb2xO3、Sc2(1-x)Tb2xO3 のラマン散乱スペクトルである。380cm-1
に強いピークが観測され、450cm-1、600cm-1 にもピークが観測できる。このピークは C 型
希土類構造での伸縮振動モードのピークと一致した[1]。形状は母体や Tb 濃度に依存しな
かった。Fig.2 は Y2(1-x)Tb2xO3 の 370cm-1 ピークにローレンツ関数を仮定しフィッティング
を行った振動数を Tb 濃度に応じてプロットしたものである。ラマンシフトνは古典的にバ
ネ定数 k と格子内の酸素の有効質量μを用いてν =
30
1
2π
k
√μと記述できる[3]。これよりνTb とνY
博士後期課程 平成 25 年度研究中間発表会要旨
を計算し
νTb
νY
を得られた混晶のラマンシフトと比較すると、Y2(1-x)Tb2xO、Sc2(1-x)Tb2xO3 では混晶
に含まれる希土類の質量が大きく異なるため伸縮振動数モードは換算質量が支配的であり、
Lu2(1-x)Tb2xO3 では伸縮振動モードでは混晶に含まれる希土類の質量がほぼ同じであるため
力定数が支配的である。
Fig.1
Raman Spectrum of mixed crystal
Fig.2 Raman spectrum of the stretching mode.
The solid line shows the Lorentzian fitting
Fig.3 は Y2(1-x)Tb2xO3 の吸収スペクトルである Tb3+による 7F6→5D4 にほぼ一致し Tb 濃度が
50%までは濃度に応じて線形に増加した。Fig.4 は Y2(1-x)Tb2xO3、Lu2(1-x)Tb2xO3 の吸収スペク
トルを規格化したスペクトルである比較のために TGG とテルビウムドープフッ化カルシ
ウムものせてある。ピークの位置はほぼ同じであるが形状は大きく異なっている。
12
tb10
tb30
tb50
-1
Absorption Coefficient (cm )
10
8
6
4
2
0
475
480
485
Wavelength (nm)
490
Fig.3 Absorption coefficient of Y2(1-x)Tb2xO3
495
Fig.4 Absorption coefficient of mixed crystals
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
参考論文
1. A. Ubaldini, M. M. Carnasciali, J. Alloys Compd. 454, 374 (2008)
31
コロキウム報告
平成 26 年中に開催されたコロキウム開催実績を以下に示します。本研究所のコロキウム
は PWC との共催、もしくは協賛を得て行っています。
第 1 回 平成 26 年 7 月 14 日(月) 北海道立総合研究機構工業試験場
「ナノテクプラットフォーム事業の概要」
科学技術振興機構 東陽介
「微細加工PF/微細構造解析PFの使い方-研究・開発への活用事例紹介-」
北海道大学電子科学研究所
松尾保孝
「分子・物質合成分野の紹介」
千歳科学技術大学 カートハウス オラフ
*平成 26 年度第 1 回光テクノロジー応用懇談会と共催
第 2 回 平成 26 年 10 月 29 日(水) 千歳科学技術大学
「2 モードファイバを用いた二次元歪みセンサの可能性」
千歳科学技術大学 吉井達也(山林研)
「棒状高分子から形成されるスメクチック相の様々な分離構造」
千歳科学技術大学 田中汰久冶(大越研)
「赤外イメージングによる新規骨形態計測法の開発:赤外二色性イメージによる配向性評
価法」
千歳科学技術大学 伊藤哲平君(木村研)
第 3 回 平成 26 年 10 月 31 日(金) 北海道立総合研究機構研究プラザ
「食の産地・安全・安心と健康を守るイメージング技術・ナノテク技術が経済成長と
QOL(quality of life)を向上させる」
千歳科学技術大学 木村廣美
*ナノテクノロジープラットフォーム事業(NPJ)平成 26 年度第1回地域セミナー in 北海道、
および平成 26 年度第 2 回光テクノロジー応用懇談会と共催
第 4 回 平成 27 年 2 月 6 日(金) 千歳アルカディア・プラザ
「ANAグループにおける安全への取組について」
全日本空輸 中里豊
「バイオミメティクスの研究開発動向と我が国の課題」
千歳科学技術大学 下村政嗣
「企業における科技大活用法」
千歳科学技術大学 カートハウス オラフ
*平成 26 年度第 3 回光テクノロジー応用懇談会と共催
32
15th Chitose International Forum on Photonics Science and Technology (CIF’15) 開催報告
CIF’15 組織委員会
2014 年 10 月 2, 3 の両日、本学において恒例の Chitose International Forum (CIF’15)が開催
された。第 15 回目を迎える今年は、基礎から応用までナノテクノロジー技術全般を対象に
「Nanotechnology - From Synthesis to Devices」を主題として三つオーラルセッション(それ
ぞれプレナリー講演 1 件、招待講演 3 件で構成)とポスターセッションを開催した。
さらに東京理科大学学長藤嶋昭先生を講師にお迎えして、一般市民も対象とする特別講
演を行った。
三つのセッションでは国外からの 2 名の研究者を含む 12 件の講演が行われ、大学院生な
ど学生の参加もあり、それぞれの研究分野において活発な意見が交換された。
ポスターセッションでは 41 件の発表があり、本学の大学院生や北大、苫小牧高専、ポツ
ダム大の研究員らがそれぞれの研究について熱心に発表し、国外からの研究者とも熱心な
意見交換が行われた。
特別講演をされる藤嶋昭博士
特別講演
藤嶋昭先生(東京理科大学学長、東京大学特別栄誉教授)の特別講演は「TiO2 光触媒と
ダイヤモンドによる CO2 還元」のタイトルで行われた。
「酸化チタン光触媒」の技術は、藤嶋先生が発見され、多数の応用発明と世界標準をリ
ードし、1000 億円規模の市場を生み出している日本オリジナルの技術である。
現象を発見するまでの過程や広い分野での応用例、今後の新たな応用展開に向けたお話
のほか、身近な科学現象の実験解説やダ・ビンチから始まる世界の偉人とそのつながり、
33
名言の紹介など、副題につけられた「科学を楽しく、良い雰囲気のもとで」のことば通り
の講演をされ、聴衆に深い感銘を与えられた。最後に多数の質問を受け付け、質問者には
持参されたご自身の著書 10 冊以上をプレゼントするというサプライズもあった。
なお、本特別講演の参加者は学会参加者、学生等学内関係者、市民あわせて約 300 名で
あった。
Session 1: Nano-synthesis
このセッションでは、有機材料、無機材料、生体材料などから構築するナノ構造につい
て、その構造、機能、プロセシング、デバイス応用など、様々な視点からの講演が行われ
た。最初に九州大学の中嶋直敏教授によるカーボンナノチューブの可溶化、異性体分別と
それらの電気化学的性質、透明電極や燃料電池への応用についてご講演をいただいた。次
いで浙江大学の徐明生博士から、グラフェン、窒化ホウ素、遷移金属ジカルコゲナイド等
のシート状化合物の合成、構造、物性、およびその太陽電池への応用についてご講演いた
だき、さらに、科学技術振興機構の鎌田香博士より、らせん状の藻類であるスピルリナの
無電解めっきによる微小コイルの作製、およびその電磁波吸収特性についてご講演をいた
だいた。最後に、大阪大学の齋藤彰准教授からモルフォ蝶の羽の微細構造を模倣した材料
の作製と、発現する構造色との相関、色材としての応用についてご講演いただいた。
Session 2: Nano-Characterization
このセッションでは、最先端のナノキャラクタリゼーションに関する講演、プラズモニ
ック化学や 3D ゲルプリンターなど、基礎から応用に至る様々な講演が行われた。最初に
尾崎幸洋関西学院大学理工学部教授からは、新規に開発したシルバーチップによるチップ
増強ラマン分光(TERS)を用いた分析技術の原理から応用に関する講演が行われ、TERS の
ナノキャラクタリゼーションへの可能性が示された。続いて Sergei Magonov 博士(NT-MDT
Development Inc.)によって AFM を用いた高解像度のイメージング技術や定量分析に関す
る応用例が報告された。三澤弘明北海道大学電子化学研究所教授からは、プラズモンによ
る人工光合成に関する講演が行われ、低エネルギーによる人工光合成についての可能性が
示された。最後は、古川英光山形大学大学院理工学研究科教授による 3D ゲルプリンター
技術開発に関する講演があり、3D ゲルプリンターの需要の多さと無限の可能性が示された。
Session 3: Nanotechnologies and Their Applications
本セッションではナノ粒子、量子ドット、ナノ加工などを用い、バイオセンサーおよび
デバイス応用に至るまで多岐にわたる招待講演が行われた。最初の講演は F.M.Winnik 博士
(モントリオール大)による半導体量子ドット(QD)によるバイオアナリシスやバイオイ
メージングの高感度センシングと Cd 含有 QD の生体に与える影響について論じられた。
続いて松岡教授(東北大)により青色 LED、LD の基盤技術である GaN を代表とした窒素
半導体のナノレベルの結晶成長技術について論じられた。中尾教授(東北大)からは電子
34
ビーム露光(EBL)による DFB 用ナノスケール回折格子技術と LiNbO3 基板上にインプリン
ト技術とリフトオフ技術による波長選択フィルタ形成技術を基本としたナノ加工技術の紹
介があった。最後に福田博士(産総研)からナノスケールのタコ壺構造をしたプラズモニ
ックポリマー型バイオセンサーの細菌検査への応用が論じられた。
Poster Session
ポスターセッションは第 1 日目の 15 時より 2 時間にわたって開催された。全 41 件の申
し込みがあった。内訳は、数え方にもよるが本学関係が 26 件、北海道大学 11 件、他に苫
小牧高専、東北大より各 1 件、さらにドイツ、イタリアより各 1 件であった。例年に比べ
て学外からの参加が多かったのは何よりであった。分野も例年通り本学の領域の広さを反
映してか多岐にわたっており、材料、バイオ、デバイスに限らず、多彩な内容が随所で活
発に討議されていた。
本ポスターセッションにおいては以下に示す 3 件の発表に対し、ポスター賞が川瀬委員
長から授与された。
P-7 Photo and Thermophysical Properties of Eu(III) Complexes with Bidentate Phosphine Oxide
Ligands
Yuichi Hirai, Takayuki Nakanishi, Koji Fushimi and Yasuchika Hasegawa (Hokkaido Univ.)
P-10 Synthesis of Nonanuclear Tb(III) Clusters with Chiral Ligands
Satoshi Wada; Yuichi Kitagawa, Takayuki Nakanishi, Katsuaki Konishi, Koji Fushimi and
Yasuchika Hasegawa (Hokkaido Univ.)
P-19 Fabrication of Durable Shark Skin Mimicking Structures by Using Self-Organized Materials
Aki Sato, Yuji Hirai (CIST), Takuya Ohzono (AIST) and Masatsugu Shimomura (CIST)
P-27 Collagen Fiber Orientation in Femurs of Rats with Chronic Kidney Disease
Teppei Ito, Kyosuke Kanazawa, Nanako Chaki, Haruka Akiyama and Hiromi Kimura-Suda
(CIST)
35
文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業の進展について
ナノテク支援運営委員会
昨年の本誌で紹介した本学のナノテクプラットフォ
件数
ーム事業の発展状況について紹介する。
40
左の表を見ると、件数が 3 年間で大きく伸びている
30
ことがわかる。これを日数で見ると、登録装置数が増
20
えたとはいえ飛躍的に増大している。利用料収入の増
10
加も目覚しく、他大学と比較しても、遜色のない実績
0
H24
H25
H26
(前期)
を上げることができた。外部共用率も当初の目標を大
きく越えることができた。これは、一重に大学、千歳
市、PWC、JST 産学連携マネージャー、代表機関(分
日数
子科学研究所)
、センター機関(物質・材料研究機構)
1600
の皆様のご協力、ご支援の賜物である。
1200
補正予算で平成 25 年 11 月に導入された電界放出形
800
走査電子顕微鏡とラマンイメージングは多くの方々に
400
使用されて様々な成果を挙げている。また、本学のク
0
H24
H25
H26
(前期)
ライオミクロトームとクライオ TEM をプラットフォ
ーム事業に広く活用していただくために、櫻井技術員
のトレーニングと顧客の紹介について分子研、北大、
利用収入(千円)
1600
物質・材料研究機構からの協力を得ている。
最近の支援事例についていくつか紹介させていただ
1200
く。まずあげられるのが、平成 26 年 4 月に東北大学か
800
ら移籍した下村教授のグループの「ナノスーツ」の研
400
究である。高真空の電子顕微鏡内で生きたままの生物
0
H24
H25
H26
(前期)
を観察できる画期的な技術として注目されており、タ
イムリーに導入された電界放出形走査電子顕微鏡が活
用されている。同装置は、北海道医療大学歯学部のグ
外部共用率(%)
100
ループによる歯の再石灰化の研究にも有効に利用され
ている。
ラマンイメージングについては、木村–須田教授の研
50
究室が骨の先端的な研究に活用しているが、本学の装
置は紫外レーザーを有していることから、ダイアモン
0
H24
H25
大学他
企業
H26
(前期)
ドライクカーボン等の先端炭素材料の依頼測定が続い
ている。
カートハウス教授と日本電波工業の共同による「ビ
ールのコクの定量化」もわかりやすい研究として広く評価されている支援事例である。
36
バイオミメティクスセンターの設置
バイオミメティクスセンター長 下村正嗣
フォトニクス研究所にバイオミメティクス研究センターを設置していただきました。バ
イオミメティクス(Biomimetics)とは、生物模倣と訳されており、生物の機能や構造に学
ぶ事で人工的に材料や機械、システムなどを作ろうとする考え方で、ナイロンやマジック
テープに見られるように古くから知られています。今世紀になり、ヨーロッパを中心に新
しい研究開発の潮流がおこり、
すでに国際標準化の議論が始まっています。その背景には、
ナノテクノロジーの飛躍的な展開によって生物学の新しい発見があり、自然史学と工学の
win-win なコラボレーションによる新材料の研究開発がなされたからです。
自然環境の豊かな立地条件にある本学は、バイオミメティクス研究の対象となる生物種
にも恵まれており、分類学者や自然史学研究者との共同研究に相応しい環境です。また、
ナノテク支援プラットフォームでは、生きた状態での高分解能電子顕微鏡観察を可能とす
る“ナノスーツ法”の技術移転を受けており、学内外の多くの研究者への技術支援が可能
な体制が整いつつあります。さらに、PWC においてもバイオミメティクスのクラスターを
設けることで、産学官連携のプラットフォームの構築が進みつつあります。また、バイオ
ミメティクスにおいては、生物学と工学を情報科学によって連携するとともに、次世を担
う人材を育成する必要があり、本学が得意とする e-ラーニングシステムの活用は極めて有
効であると期待しています。
今後、学内外における分野連携を促進し、自治体、関連の省庁、産業界との連携のもと、
千歳の地から国内外に向けてバイオミメティクス研究開発事例を発信するとともに、我が
国のバイオミメティクス研究のセンターとしての求心力を発揮したいと考えています。
37
編集後記
フォトニクス研究所紀要の第 5 号をお届
けする。
平成 26 年 4 月の異動で 3 代目のフォトニ
クス研究所の所長として、佐々木愼也教授
(大学院光科学研究科長)が就任した。そ
のほか運営メンバーにも若干の異動があっ
た。
フォトニクス研究所の活動内容にもさま
ざまな進展が見られる。2012 年に発足した
ナノテクプラットフォームは、現在 4 人の
スタッフを擁して、外部との共同研究や依
頼対応はもちろんのこと、大学内部におけ
る多くの設備機器の有効活用に大きな力と
なっている。
もう一つの大きな進展はバイオミメティ
クスセンターのスタートである。これは本
研究所の一部局として設置された。本分野
において広く活躍し研究活動を牽引してき
た下村正嗣教授が 26 年 4 月に東北大学から
本学へ着任したことを受けての発足である。
バイオミメティクスとは、長い進化の試行
錯誤によって形成された様々な生体の構造
と機能を人工的に模倣・再現することと理
解している。大げさかもしれないがモノづ
くりのパラダイム転換たりうると期待して、
本学もその発信地として何をなしうるのか
考えたいと思う。
(YK 生)
千歳科学技術大学
編集委員
佐々木 愼也(委員長)
川辺 豊
(幹事)
カートハウス オラフ
山林 由明
唐澤 直樹
小田 久哉
高杉 雅史
編集庶務担当
柏倉 喜美子
フォトニクス研究所紀要
第5巻
第1号
平成 27 年 3 月 31 日発行
編集
フォトニクス研究所紀要編集委員会
発行者 千歳科学技術大学
〒066-8655 北海道千歳市美々758-65
電 話
0123-27-6003
38
通巻 5 号