解雇権濫用法理の法的課題

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解雇権濫用法理の法的課題
規制緩和政策との関連で―
―
内藤研究会
Ⅰ 序 論
Ⅱ 我が国における解雇制限法理
₁ 解雇権濫用法理の確立
₂ 日本型雇用慣行の変化と解雇権濫用法理
Ⅲ 整理解雇法理
₁ 整理解雇法理の形成
₂ 四つの判断指標
₃ 整理解雇法理の再検討
Ⅳ 結 語
Ⅰ 序 論
近年、第二次安倍政権による、解雇における規制緩和の議論が活発化している。
その背景には、かつての日本型雇用慣行が変化してきたことから生ずる様々な労
働問題に対する、対応策としての意味合いがある。若者の就職率低下や非正規雇
用の増加の原因の一つとして、厳格な解雇権濫用法理があるとの批判が従前から
なされてきた1)。すなわち、企業が中高年層の社員を多数雇用している一方で、
解雇規制が厳しく容易な解雇が不可能である。そのため労働力の流動化が生じ難
く、若年層が雇用されず、労働市場に健全な競争が発生しない。その結果、日本
経済の活力が奪われているとの観点から、解雇の容易性を促進し、雇用の流動化
の実現を図ろうという提言である2)3)。
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そのような背景の下、平成25年 ₆ 月、内閣府の規制改革会議である「雇用ワー
キング・グループ」は「ジョブ型正社員」制度の導入等の雇用改革を打ち出した4)。
ジョブ型正社員とは、「( ₁ )職務が限定、( ₂ )勤務地が限定、
( ₃ )労働時間が
限定(フルタイムであるが時間外労働なし、フルタイムでなく短時間)、以上いずれか
の要素(または複数の要素)を持つ正社員」を意味する。ジョブ型正社員の雇用
ルールとして「限定された勤務地、職務が消失した場合を解雇事由に加える」、
「具体的には、就業規則の解雇事由に『就業の場所及び従事すべき業務が消失し
たこと』を追加」することが検討されている5)。この政策は、解雇法制に大きな
影響を及ぼすと考えられる。つまり多様な正社員の在り方を創出することを主要
目的として論じられるジョブ型正社員制度であるが、内実は、職務等に特定を付
することにより逆に雇用情勢の変化に応じて柔軟な雇用調整を促進することを図
るかのようである。言い換えれば、解雇権濫用法理に言うところの「合理性」や
「社会通念上相当性」による規制の幅を縮小し、解雇をより容易6)にし、労働力
の流動化を促進する効果を発揮するものとして認識される。
このような解雇規制については、かねてから労働法学と経済学の二つの立場か
ら議論が対立してきた分野である。具体的には自由主義的な経済学の視点から、
厳格に過ぎる解雇権濫用法理の存在が、企業の新規採用の抑制を招き、結果とし
て若年層の人材育成の機会を奪うこととなる他、労働力の流動化の抑制にも影響
を与えている、と批判される7)。さらには、厳格な解雇規制を施すことで自由な
雇用契約をゆがめることによって、雇用量の低下や、労働者と雇用者のミスマッ
チの発生による生産性の低下等にも帰結することが指摘されている8)。
それでは以上の批判に対し労働法学は、解雇についてどのように理解するので
あろうか。本来の民法解釈では、期間の定めのない労働契約の当事者は、民法
627条 ₁ 項により、 ₂ 週間の予告期間を置けばいつでも解約できるとされ、労働
法学ではこの権能を使用者の解雇権と称する9)。これは契約自由の原則に基づく
ものであるが、使用者による解雇は労働者の生活に重大な脅威を与えることにな
るため、使用者の解雇権行使に対しては、法律や就業規則、労働協約などによっ
て様々な制約が加えられてきた。もともと戦後の労働立法は、労基法19条、20条、
104条 ₂ 項そして労組法 ₇ 条 ₁ 項など、使用者の解雇権をある程度制限する規定
を含む。しかし解雇理由自体を一般的に規制する規定は設けなかった10)。つまり
労働法制定時には、使用者は戦前同様の広範な解雇権を有しており、労働法学者
はそれに対する危機感を抱き解雇自由・不自由論争を開始したのである。
415
労基法や労組法などの基本的な労働法制がようやく整った昭和20年代には、民
法の原則通りに解雇を自由とするものも見られた。それは、期間の定めのない雇
用につき解雇通告がなされた場合、遅くとも民法627条の期間を経過した後は、
理由の如何を問わず雇用は終了するとの立場をとるものであった11)。近代法にお
いて雇用とは労働力の取引であると考えられ、期間の定めのある労働契約におい
て期間満了時に継続(更新)を拒絶し、あるいは雇用の申込みを拒絶するにあたっ
ては、その理由の如何を問わないとされた。当時の裁判例である大津キャンプ事
件12) でも、民法627条 ₁ 項を「一般的に解雇の自由を宣明して」いるとし、「雇
用契約において、解雇は契約の解除とは異なり、継続的な契約関係を将来に向
かって、消滅させるものであって、その意思表示はいわゆる告知であるから、法
律に別段の規定無き限り、契約当事者の自由に行使しうる権利であるといわねば
ならない」として「解雇には別段の理由を要しない」と判示した。
しかし労働市場が未成熟で街に失業者が溢れていた昭和20年代において、解雇
は文字通り生活の糧を奪われることを意味し、労働者及びその家族に深刻な影響
をもたらした。労働組合も労働者の雇用確保を最優先の課題とし、解雇に激しく
抵抗する状況の中、裁判所も次第に、使用者の解雇権行使を制限する裁判例を積
み重ねていくこととなる13)。当初は裁判例の中で、後日、正当事由説と呼ばれる
解釈の仕方が提起された。清水鉱業所事件14)では「権利の行使にもそれ相應の
節度のあるべきことを思えば矢張り一應無理からぬと一般に見られる程度の理由
がなければならぬと云い得るのではなかろうか」との問題提起を行った。続いて
東京生命保険事件15)でも、「使用者は……社会通念上、解雇を正当づけるような
相当の理由がある場合に限り、有効に解雇することができると解するのが相当で
ある」との判示16)がなされた。正当事由説とは、解雇の自由という市民法原理
は生存権を法原理とする労働法によって修正されたと考え、解雇にはそれを正当
ならしめる事由(正当事由)が必要であるとする学説である17)。論者によってそ
の説明の仕方は各々であるが、継続的法律関係においては、当事者は、相互に信
義則を基調とする信頼関係を以て結ばれており、人事権は労働者の生存権を侵害
するような仕方で行使されてはならず、正当な理由の存在を必要とすることは、
法の一般原則であることなどの理由を挙げている18)19)20)。
しかし同時期、すでに民法上使用者に解雇権が存することを認めながらも、そ
の行使について、一定の場合に民法 ₁ 条 ₃ 項の「権利の濫用は之を許さず21)」と
いう権利濫用禁止の一般規定を適用して、不当な解雇を制限しようとする判決22)
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が見られるようになり、すみやかに裁判例の主流を形成していった。これが現行
の「解雇権濫用説」と称される学説である。沼田稲次郎博士はその著書23) で、
生存権、労働権、団結権に反する解雇は資本所有権の濫用の一形態であるとしつ
つ、差別的な解雇、大きな利潤がありながら行う解雇、残留労働者の労働強化を
強制する解雇、経理を公開しないでなす解雇、非解雇者の決定についての客観性
のない解雇などは解雇権の濫用として無効であるとした24)。
これら解雇制限を唱える労働法学説は、それぞれ何を根拠として制限し得ると
したか。当初は、①企業の公共性及び生産性の維持向上、②生存権・労働権思想、
③借地借家など他の継続的法律関係を規定する諸法律の「正当事由」(ないし「権
利濫用法理」) に関する規定の類推・準用
25)
という論拠を示した。このうち、生
存権・労働権思想を主たる論拠とするものについては、労働契約を市民法理で捉
えるのは適切ではないとし、憲法25条の生存権と同27条の勤労の権利を解雇制限
法理の根拠とするものがある26)。憲法27条の勤労の権利について、単に政治的責
任だけを宣言したものならわざわざ規定する意味はないのだから、少なくとも同
条は解雇の自由を制限する原理になり得るとする学説27)もある。また憲法25条
の生存権に注目したものとしては、資本的社会の歴史的経緯からすれば、市民法
における解雇自由に対する修正の基本的原理は生存権概念であるとする説28)も
存する。あるいはまた、労働契約は市民法が規定する契約(売買契約など)に比
べて継続的な法律関係であると主張し、これを解雇制限の根拠とする考えもあ
る29)。
昭和30年代以降になると高度経済成長の中で、正社員の長期雇用慣行を中心と
する日本的雇用システムが徐々に定着・浸透していき、キャリア途中での解雇の
労働者への打撃は一般的により大きなものとなる30)。そのような社会状況の中で、
昭和30年代には解雇権濫用法理に基づく裁判例31)は揺るぎのない位置を占める
ようになり、解雇自由説や正当事由説によるものは、法的紛争の判断法理として
はほとんど姿を消していった32)33)。正当事由説は実定法上の根拠がないという点
で理論的な課題があったのに対して、権利濫用説は、民法の一般原則を根拠とし
ている点で理論上も運用上も問題がなく、妥当な解釈と解されたからである34)35)。
このようにして、昭和40年代には信義則違反や比較衡量の手法を用いた上で権利
濫用法理の手法により事案の処理を図る裁判例36)が、完全に主流の地位を占め、
下級審裁判例の中で定着するようになったのである37)。
以上概観したように、現在確立している解雇権濫用法理という判断枠組みは、
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第二次世界大戦後の我が国の労働法学の歴史の中で労働者の生存権を基礎に置く
社会法としての理念から発し、その理念を具現化するものとして精緻化されてき
た歴史を持つ。しかもこの法理は数十年に渡り判例法理として確立され、その結
果現在では、労働契約法16条38)によって規定されている。経営不振や不況など
の使用者側の事情により労働者を解雇する場合、いわゆる整理解雇においては、
労働者に帰責事由がないことに加えて労働者の生活基盤を奪うことになるため、
一層厳格な用件が求められる。これについては、裁判例の集積から「整理解雇の
39)
₄ 要件」
が創成され、厳しい制限が加えられる。
前述のように生存権等を根拠とする解雇権濫用法理を濫りに縮小することは、
労働者の人権保障の根幹を揺るがすものであると言える。このように考えると、
規制緩和により解雇法制の持つ課題を解決しようとする現政権のアプローチは、
はたして労働者にとって望ましいのであろうか。本稿では、解雇制限法理を提唱
する労働法学の立場から、現行の解雇法制の規範的根拠、及び労働者保護という
アプローチが経済情勢の変化に応じて如何なる変遷を遂げてきたかを検討する。
そして、現代における現行解雇法制の妥当性、求められる在り方は如何なるもの
であるのかを考察する。
Ⅱ 我が国における解雇制限法理
₁ 解雇権濫用法理の確立
前章で概観したとおり、戦後の労働立法創成期に我が国の労働法学会は、それ
までの民法原理において認められてきた解約自由の原則に対して、労働法という
特殊具体的法領域の理念から制約を掛けるべく論争を繰り広げた。具体的には当
初の解雇自由説から離れ、正当事由説あるいは解雇権濫用説と呼ばれた二大学説
が並立し、裁判例上も使用者の解雇権制限を図る方策が確立していった。最終的
には解雇権濫用説が通説的地位を占めるに至った。前述のように、解雇権濫用説
は民法の一般原則を根拠としている点で、理論上もしくは運用上の問題が少なく、
妥当な解釈とされたからである40)41)。昭和40年代には、権利濫用法理により事案
処理を図る裁判例42)が下級審裁判例の中で主流の地位を占め、ほぼ定着するに
至った43)。
このような流れの中、昭和50年代ついに最高裁は、日本食塩製造事件44)にお
いて「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上
418 法律学研究53号(2015)
相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解
するのが相当である」と解雇権濫用法理により判示した45)46)。この事案はユニオ
ン・ショップ協定に基づいた解雇の有効性が争われたものであるが、「除名が無
効な場合には、使用者に解雇義務は生じないから、かかる場合には、客観的に合
理的な理由を欠き社会的に相当なものとして是認することはできず、他に解雇の
合理性を裏づける特段の事由がないかぎり、解雇権の濫用として無効である」と
いう判断がなされている。続く高知放送事件47)においても最高裁は、
「普通解雇
事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的
な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相
当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇
権の濫用として無効になるものというべきである」と判示した。これは、アナウ
ンサーであった X が、寝過ごしによって二度に渡る放送事故を起こした48)ため、
就業規則に基づいて、普通解雇されたものであるが、最高裁は、本件については
X に非があることを認めつつも、X の過失に基づくもので、反省もしていること、
同僚労働者の過失もあること、その労働者との処分の均衡、X の平素の勤務状況
等から、「解雇をもってのぞむことは、いささか過酷にすぎ、合理性を欠くうら
みなしとせず、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできない」と
判断49)し解雇の有効性を否定した。
このように上記の二つの最高裁判決において、日本食塩製造事件で「使用者の
解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認
することができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当で
ある」との一般原則が示され、その後高知放送事件において、就業規則所定の普
通解雇事由の存在が肯定されても、当該事由に基づき解雇することがその具体的
事情のもとにおいて社会的に相当として是認されなければ、なお解雇権の濫用に
該当することが明らかにされた50)。これらは前述の下級審裁判例における解雇権
濫用法理を定式化ないし集大成したもの51)であり、ここにおいて解雇権濫用法
理は、解雇一般をカバーし得る判断枠組みを具備することとなり、裁判所におけ
る統一的処理基準としての地位を確立することとなった52)。
このように、解雇権濫用法理が確立して以降、裁判所は多くの解雇に関する事
案を処理していく過程で、事案ごとに具体的事実を考慮し、解雇の有効性を判断
していき、解雇権濫用法理の内容を精密化させていった。
エース損害保険事件53)54)で示されたように、一般に労働者の能力不足による
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解雇の裁判例においては、雇用関係の維持が困難となるほどの重大な事由が現に
存在し、かつ将来に渡ってその事由が継続する見込み(恐れ)があるといったよ
うな程度の重大さが求められ、使用者が解雇以外の手段を探り得る場合は、当該
事由は解雇理由として認められず、人事管理の責任者として使用者は労働者に対
する能力評価の前提として、適切な教育・指導・配置をしなければならないと
いったように、改善の機会を与えたか否か、改善の見込みの有無が慎重に吟味さ
れ、判断がなされている55)。
しかし、一方で、人事本部長という地位を特定して中途採用された労働者に対
する能力不足を事由とする解雇の有効性が争われたフォード自動車事件56)にお
いては、当該雇用契約を「人事本部長と云う職務上の地位を特定した」ものであ
り、「特段の能力の存在を期待して中途採用した」のであって、その特殊性に鑑
みて、
「人事本部長と云う地位に要求された業務の履行又は能率」について期待
された水準に達しているか否かという基準で解雇の有効性を判断し、当該解雇を
有効だと判示した57)。つまり、一般的な日本の「長期雇用システム下で定年まで
勤務を続けていくことを前提として長期にわたり継続してきた正規従業員」と比
べて、フォード自動車事件に代表されるような中途採用の管理職又は専門職の場
合には、あらかじめ特定の能力や職質を前提として労働契約が締結されたと認め
られることが多いため、その特定の能力水準を満たすか否かについて比較的厳格
な審査がなされる傾向が見られるのである58)。
この傾向は、我が国の長期雇用システムの下に積み重ねられたものである。す
なわち、日本社会においては、学卒の大量採用が行われ、その際に特定の専門的
知識や能力が予定されることは稀であり、むしろ OJT を中心とした企業内の職
業・技能訓練を通じて、労働者が潜在的に有していた能力・技能を向上させてい
くことが予定されている。労働契約上、採用時において特定の専門的知識や能力
の存在が前提とされていない以上、解雇の段階で、予定されていなかった職業能
力の不足を問うことは原則としてできなかったのである。このため、労働者の能
力不足を理由とする解雇の事例は、日本企業においては例外的となる中途採用の
事案であり、なおかつ、契約時に特定の専門的知識や能力が期待されていた事案
に限定されている59)のである。
このように、前掲の二つの最高裁判決により確立された「解雇権濫用法理」は、
日本の時代背景や特有の雇用システムを考慮し、解雇の有効性の判断にあたって
は、重大な事由を要件とし、改善の機会の付与を使用者に課すなど、労働者の保
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護のために厳しい要件を課している。そして、それは特定の能力等を前提に雇用
関係に入った労働者にも当てはまる。一般に、特定の能力等を前提とする雇用関
係の場合には、通常の労働者と比較して、比較的容易に能力不足を理由として解
雇の有効性が認められている。しかしながら、使用者が解雇回避措置をとる必要
性が依然として残されており、決して簡単に解雇の有効性が認められているわけ
ではない。
₂ 日本型雇用慣行の変化と解雇権濫用法理
1990年代になると、バブル経済の崩壊による平成不況の中、我が国を支えてき
た長期雇用システムが変容していき、これを基盤として形成されてきた解雇権濫
用法理による解雇規制に対して、様々な角度から見直しが迫られるようになる。
八代教授が「解雇権濫用法理はきわめて厳格で、事実上の解雇禁止規制と化して
いる」として、経営への過剰介入を招き、激変する経営環境を無視する結果とな
ると批判した60)のを筆頭に、経済学的な見地から解雇権濫用法理に対して疑問
を呈する見解が示されたのである61)。それを受けて、長らく下火となっていた解
雇規制の規範的根拠について、長期雇用システムが変容した中でも、解雇規制に
普遍的根拠を求めようと労働法学から様々な主張がなされるようになる。
この問題について、まず主張したのは村中孝史教授である。村中教授は、かつ
ての解雇権論争期において主張されたものについては解雇制限の論拠としての説
得力を弱めつつあると指摘しつつも、解雇は経済的損失以外にも、労働者に無能
であるとの宣告を意味すること62)、労働者にとって自己実現の場に他ならない労
働を奪うこと、解雇の脅威が労働者の「人格的従属性」を強め、その結果、労働
者の人間としての尊厳を侵害する危険を生じることといった不利益をもたらすと
して、憲法13条の「個人の尊重」を根拠に、使用者は、労働者の人格的利益に配
慮する信義則上の義務を負うと述べた63)。
これに続いて、2000年に入ると、野川忍教授により次のような主張がなされた。
すなわち、使用者は「生計維持手段と職業能力維持・向上の契機としての雇用の
維持についての配慮を、信義則上の義務として負っている」として「解雇の自由
を前提とした解雇権制約の契機は、使用者の雇用の維持に関する信義則上の配慮
義務が、当該労働関係のもとでいかなる範囲と程度で認められるべきかを中心と
して検討されることが望ましい」64)というものである。また川口美貴教授が「使
用者が、労働権尊重の理念に基づき、労働契約における信義則上の配慮義務とし
421
65)
て、労働者の雇用維持を図ることを要請されている」
として、憲法27条の労働
権を解雇制限の根拠に挙げるなど、信義則上の義務に解雇規制の正当化根拠を求
める見解が登場する。
さらに本久洋一教授は、生存権・労働権・個の尊重理念を労働法上の諸原則と
結び付け、解雇制限の規範的根拠との関係では、特に「労働条件対等決定原則」
が注目するべきであり、解雇に制約がない場合はこれと抵触すること等を根拠に
して、解雇制限の根拠を労働者の人格権的利益に求める村中教授の見解を支持し
ている66)。新たな視点として野田進教授は、「企業」という視点に着目し、企業
の資産や利益の拡大だけでなく、雇用の安定や労働条件の向上といった労働者の
利益も包含された「企業の共同利益」を確保するためにのみ可能であるとして、
いわゆる整理解雇も「合理的な企業運営をなしたことの帰結としてのみ許される
こととなる」と述べている67)。
また、労働者の多様化から、古典的な〈労働者=弱者〉と捉える社会権論は、
解雇権濫用法理の規範的根拠として弱まってきていると指摘し、労働契約の継続
的性格に着目したのが、土田道夫教授である。土田教授は、内田教授の「継続性
68)
原理論」
を援用し、これを労働契約に当てはめ、労働契約の解消=解雇が許さ
れるのは、雇用継続の方法を期待できない特別の事情(合理的理由)が存在する
場合に限定されるべきであるとした。つまり、解雇権濫用法理は労働契約を含む
継続的契約関係に内在する普遍的法規範を意味し、「労働市場に環境変化が生じ
69)
たとしてもそれは解雇制限の緩和には直結しない」
としている。
このように経済学からの反論を受け主張されたものは、人格権的利益・信義
則・企業利益・継続性など違ったアプローチから解雇規制に規範的根拠を与えて
はいるものの、いずれの説からも、長期雇用システムが変容してもなお、解雇規
制に普遍的な根拠を求めようという意図が見受けられる。
以上のように学説及び判例上で形成されてきた解雇権濫用法理であるが、政府
は2007年労働契約法16条を制定し、当該法理を条文化した70)。根拠条文を得て、
従来裁判官の価値的評価に基づいてなされてきた解雇権濫用法理の判断は、予見
可能性と法的安定性が担保されることになった。同時に解雇理由の開示等の手続
的規制を整備することにより、解雇紛争の迅速かつ適切な解決が可能になった。
これについては、条文の解釈に幅があるなどという批判もあるが、このような課
題に対処すべく望まれるのは法理のさらなる精緻化であると思われる。
422 法律学研究53号(2015)
Ⅲ 整理解雇法理
整理解雇とは、使用者が経営不振などのために従業員数を縮減する必要性に迫
られたという理由により一定数の労働者を余剰人員として解雇する場合をいう71)。
整理解雇においてはその合理的理由の有無判断の思考過程が、普通解雇や懲戒解
雇とは論理的に異なる点で特徴的である。すなわち、前者の場合には個々の労働
者につき生じた理由が解雇の合理的理由となるか否かが問題となるのに対し、後
者においては、企業の剰員処理措置の対象とされた者が他の同僚労働者よりも解
雇されるに値するかどうかが判断の中心となるのである72)。また、整理解雇は使
用者側の都合でなされるものであることから、今日提唱されている労働政策との
関係においても重要な地位を占めるものと思われる。そこで、本章においては、
整理解雇法理の形成の過程とその問題点を検討する。
₁ 整理解雇法理の形成
戦後、整理解雇をめぐる紛争が裁判上さかんに争われるようになったのは、昭
和24年前後である。これは、戦後の経済政策により引き起こされた企業整備とそ
れに伴う人員整理によるものである73)。この頃の裁判例においては、もっぱら労
働協約ないし就業規則の協議・同意条項違反や不当労働行為の問題に焦点がおか
れており74)、昭和20年代においては今日一般化しているような「人員整理の有効
要件」を明言するものは極めて稀であった75)。整理解雇は、その制限理論が作り
上げられないままに、高度経済成長期の到来という産業構造の変化の中で影をひ
そめることとなった76)。しかし、昭和40年代後半のドルショック、オイルショッ
クに起因する不況対策としての人員整理をめぐって、整理解雇はふたたび多くの
裁判で争われるようになる。これを通じて、裁判例はいくつかの「有効要件」を
明確化し、特に昭和50年代に入ると、三つないし四つの基準が立てられるに至っ
た77)。学説において整理解雇の本格的検討が行われるようになったのもこの時期
である。このような流れを受けて、これまでの裁判例を整理し精緻化したものが、
大村野上事件判決78)である。同判決は整理解雇の有効性判断の基準として次の
四つの指標を立てている。すなわち、
「第一に当該解雇を行わなければ企業の存
続維持が危殆に瀕する程度に差し迫った必要性があることであり、第二に従業員
の配置転換や一時帰休性或いは希望退職者の募集等労働者によって解雇よりも苦
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痛の少ない方策によって余剰労働力を吸収する努力がなされたことであり、第三
に労働組合ないし労働者(代表)に対し事態を説明して了解を求め、人員整理の
時期、規模、方法等について労働者側の納得が得られるよう努力したことであり、
第四に整理基準およびそれに基づく人選の仕方が客観的・合理的なものであるこ
と」である。そして、これら四つの要件の一つでも満たされないときには、解雇
は、信義則違反ないし権利濫用として無効となる。この四つの指標を用いた考え
方は以後多くの裁判例において掲げられ79)、実務上定着したとされる。以降の裁
判例・学説は、個々の要件の評価基準の具体化・明確化を主たる関心として展開
されていくことになる80)。
₂ 四つの判断指標
( 1 ) 人員削減の必要性
整理解雇が適法なものと認められるためには、まず第一に、人員削減の必要性
が存在しなければならない。人員整理の必要性の有無という判断基準は、経営の
自由ないし営業の自由の原理そのものと密接な関わりを持つために、裁判所がは
たしてこれら使用者の決定を判断し得るものであるか否かが問題となる。この点
に関し、学説においては、企業運営についての使用者決定と、その結果としての
整理解雇の問題を明確に区別し、使用者決定自体は使用者の完全な自由であり、
裁判所の審査は及び得ないが、その結果としての整理解雇の適法性の判断にあ
たっては、使用者決定の必要性・妥当性の問題も司法審査の対象となり得るとす
る見解が有力に主張されている81)。
裁判例上、要求される必要性の程度については見解が分かれるが、主に以下の
ように分類できよう。すなわち、①「倒産必至」の状況を必要とするもの、②経
営不振等の経営上の困難を回避するために、人員整理という手段の選択が客観的
に見て合理的であればよいとするもの、③経営不振等の経営上の困難が存せずと
も、企業の生産性向上や業績拡大等のために、人員整理が客観的に合理的な手段
であればよいとするもの、である。昭和50年頃には①の厳しい基準を採用する裁
判例が多かったが、昭和54年の東洋酸素事件控訴審判決82)を契機に、それ以降は、
後者の比較的緩やかな立場を採用し、必要性を肯定するものが支配的となってい
る。これは、必要性基準を以てそれを軽視しているためではなく、裁判所が必要
性の判断に深入りすることを避け、解雇回避措置に判断の焦点を移し、あるいは
解雇回避措置と連動した要件として解している傾向があるためであると考えられ
424 法律学研究53号(2015)
る83)。
( 2 ) 解雇回避努力義務
人員削減の必要性が認められても、使用者は、整理解雇に先立って労働時間の
調整、配転、出向、一時帰休等の整理解雇以外の手段によって余剰人員調整の努
力を尽くさなければならない。これがいわゆる解雇回避努力義務であり、日本の
雇用慣行・雇用形態の特殊性に基づく、労働契約上の信義則の具体的発現とされ
る84)。
解雇回避努力義務については、「人員削減の必要性」要件との関係において考
慮すべきとする見解が有力である。すなわち、人員削減の必要性は解雇回避努力
が尽くされた後に初めて判断し得るものであるから、解雇回避努力義務の問題は、
整理解雇の「必要性」要件における一要素として理解されるべき、というもので
ある。裁判例においても、人員整理の必要性の判示と解雇回避措置を尽くしたか
の判示が一致しているものが数多く見られ85)、人員整理の必要性ありとされる場
合には、解雇回避努力も尽くされたとの判断が下されている。
求められる解雇回避義務の程度は、画一的な基準ではなく、余剰人員の発生原
因や規模、企業の組織形態や規模、経営状況など個別具体的事情に基づいて評価
されることになる86)。例えば、多くの裁判例においては、希望退職者の募集や配
転・出向がなされていなければ解雇回避努力を尽くしたとは言えず、権利濫用と
評価される傾向にある87)。配転をはじめとする余剰労働力吸収策を求める裁判
例88)については、単に一企業における部門間の配転のみならず、系列会社をふ
くめての全体的規模の配転、出向、移籍等の措置を使用者に義務付けているもの
がある89)。また、整理解雇に至る最終段階の回避措置が希望退職者の募集だとす
ると、使用者にはその前にいくつかの経営努力をすることが求められている。例
えば、新規採用の中止や90)、下請・社外工等との解約91)、労働時間の短縮等92)で
ある。
( 3 ) 人選基準の合理性
整理解雇において、被解雇者の選定を行う、すなわち労働者の相対的評価に基
づく解雇対象者の決定がなされることは、他の解雇と大きく違う点である。そし
てこの選定が合理的に行われることが整理解雇の有効要件の一つとして認識され
ている。人選の合理性は、人選基準の内容と、その適用という両側面から合理性
425
が判断される。人選基準内容はできる限り具体的、客観的な基準でなければなら
ない。基準内容が抽象的であること93)は、基準自体に主観的な評価が混在し得
るのみならず、適用においても、当該基準に該当する労働者とその他の労働者と
の間になぜその労働者が被解雇者として選定されたのかという点において明確な
尺度がなく、結果的に合理性を欠くと認識されることになる94)。具体的な基準内
容については、「経営側の事情による基準」として、勤務成績、技術的能力、勤
続年数等が、「労働者側の事情による基準」として、転職が容易か否か、扶養者
の有無等といったものが挙げられる。
( 4 ) 手続きの妥当性
第四の要件として、使用者が労組等との同意を得又はこれと協議し、説明を尽
くすことが必要とされている。労働協約ないし就業規則に解雇同意・協議条項が
あるときには、使用者はそれらの条項を根拠に当然に協議等の義務を負うが、そ
のような条項がない場合にも、使用者は労使間の信義則を根拠に当該義務を負う
と解されている。協議・説明の対象は、具体的事例に即して判断されるべきもの
であるが、一般的に言えば、整理解雇に至った経緯と企業の経営状況、解雇回避
措置、解雇基準とその適用方法等これまでに検討してきた要素に関するものであ
り、手続きの相当性はこのような事項についての説明・協議についての検討を中
心としつつ、解雇に至る一連の過程をも考慮する形で検討がなされる。また、協
議・説明義務等の手続きの相当性の判断におけるポイントとしては次の傾向を指
摘できる。まず、使用者が人員整理の実施・時期・規模・方法について説明する
ことなく解雇を実施すれば、手続きの相当性は否定される95)。また、経営状況等
の説明に際し、提示が可能な資料・数値を示さない場合、これを手続きの相当性
を否定する事情として考慮されることがある96)。
このように、裁判所は、手続きの相当性の判断においても、整理解雇を実施す
るにあたり使用者が労働者に説明・協議義務を尽くそうと努力するという姿勢に
欠けていないかの点を吟味していると言えよう。
₃ 整理解雇法理の再検討
比較的最近までは、これら四要件をすべて満たすことが整理解雇の有効性を肯
定するために必要であるとする判例法理が確立したと解されてきた(いわゆる四
要件説)
。しかし、1990年代末から2000年にかけて東京地裁が下した一連の判決・
426 法律学研究53号(2015)
決定は、従来の整理解雇法理とは異なった傾向を示し、これを大幅に修正するか
のような印象を与えた97)。すなわち、四要件を採用せずに独自の判断枠組みを用
いたり、あるいは四要件の適用を限定したり判断内容を緩和する例が見られたの
である。例えば、ナショナルウェストミンスター銀行(第三次仮処分) 事件決
定98)は、債権者がいわゆる整理解雇四要件説による判断を主張したのに対して、
「いわゆる整理解雇の四要件は、整理解雇の範疇に属すると考えられる解雇につ
いて解雇権の濫用にあたるかどうかを判断する際の考慮要素を類型化したもので
あって、各々の要件が存在しなければ法律効果が発生しないという意味での法律
要件ではなく、解雇権濫用の判断は、本来事案ごとの個別具体的な事情を総合考
慮して行うほかないものであるから、債権者主張の方法論は採用しない」と明言
している。また、使用者の解雇の自由を積極的に肯定し、労働者側で解雇権濫用
を基礎づける事実の主張立証をしなければならないとする判決・決定もある99)。
このような状況の下、四基準がはたして「要件」なのか、あるいは総合考慮の中
での「四要素」にすぎないのか、という問題提起とともに、整理解雇法理の意義
や問題点の再検討が活発に行われるようになった100)。
このような議論の背景には、事案の多様化により従来の整理解雇法理が想定し
ていなかった事態が生じているということがあると思われる。先述したとおり、
判例による整理解雇法理は、昭和40年代後半以降の構造的不況、とりわけ造船業、
鉄鋼業などの大企業で実施された大量の人員整理をモデルとして形成されてきた
ものである101)。事実、四基準のうち、例えば解雇回避努力の要請や整理解雇基
準の設定とその提要の合理性の要請は、まさに大企業における大規模な人員整理
の場合にこそよく当てはまる102)。また、これまでひとくくりに整理解雇として
分類されてきた事案の中には、多様なものが含まれていることから、従来の四要
件が必ずしも的確に当てはまらない場合もある103)。しかし、使用者の都合によ
る解雇は抑制的であるべきとの意識の下に形成されてきたのが四要件であり、こ
れによって整理解雇は厳しく制限されてきたのである。とすれば、四要件という
形式をゆるがせにすることは、実質的には整理解雇の規制を緩和することにつな
がるのではあるまいか。したがって、上述のような問題に対処すべく今後望まれ
るのは、従来の整理解雇法理の一定の見直しや理論的補強であり、四要件を形式
上放棄し、あるいは実質的に変容させることではないと考える。
427
Ⅳ 結 語
労働者にとって解雇とは、非自発的な失業であり、一般に生活困難を伴うもの
である。継続的な雇用は、職業能力の向上や社会的地位の獲得といった人の生き
がいと結びつく。労働者にとって雇用の安定が地域生活や家庭生活の安定と切り
離し得ないということを考えるならば、憲法上の生存権や労働権保障の具現化、
もしくは個の尊重の理念を根拠として、解雇権濫用法理を位置づけることができ
る。このような生存権及び労働権、個の尊重の理念の他にも、労働法学において
は企業の公共的性格、契約の継続的性格等が、労働契約における解約の自由を制
限する規範的根拠として提唱されてきた104)。しかしバブル崩壊による日本経済
の長きに渡る不況は、雇用の不安定化を招き、1990年代以降改めて解雇制限の意
義が活発に議論されるようになった。労働者の人格的利益保護105)、信義則上の
配慮義務106)、「企業」概念107)、雇用保障原理108)、多様な価値・利益の調整システ
ム論109)といった、かつての学説には見られなかった多様な論拠が提示されるよ
うになった。
本論で述べたように、学説においては長きに渡って、解雇制限法理を必要とす
る理由について様々な角度から議論がなされてきた。同時にその努力は、それと
並行して積み重ねられてきた判例法理としての解雇権濫用法理と相俟って、解雇
制限法制の正当性を証するであろう。
それにもかかわらず、安倍政権の言う「成長戦略」の下に進められつつある雇
用改革においては、解雇規制の緩和を狙った提案がなされている。非正規社員の
雇用安定、ワークライフバランスの達成、女性の積極的活用というメリットを挙
げて導入が検討されているジョブ型正社員制度については、よしんば就業規則等
で勤務地や職務の消失を解雇事由として明示したとしても、なお労契法16条の解
雇権濫用法理及びその一環である整理解雇法理の適用が排除されるわけではない。
解雇回避努力義務や人選の合理性という要件は、依然として必要であろう。それ
にもかかわらず、前述雇用ワーキング・グループは従来の限定なき雇用契約上の
正社員とは異なる判断基準を用い、ジョブ型正社員においては現在よりも広範囲
に解雇を認め得ると主張する。万が一、このような政府方針に従いジョブ型正社
員制度の立法化及び通達での指針化がなされるならば、現在の解雇法理に基づく
司法判断が変更される恐れがある。
428 法律学研究53号(2015)
2003年、労働契約法は解雇権濫用法理を16条として立法化し、解雇の自由には
制定法上の制限が課されることとなった。これによって当該法理の周知度は増し、
裁判例においても濫りに下級審判決の破棄はできなくなった。また裁判所におけ
る判決とは、あくまで当該事件の解決を目的とするので、これが条文化された意
義は大きい。本論で検討したように、労働法における解雇法理は、労働者保護の
ために時代の流れに合わせて変化しつつ形成集積されたものである。
確かに現行解雇法制である労契法16条は、文言が抽象的110)で不明確であるこ
とや、諸外国に比して解決方法が硬直的である(金銭解決制度を持たない等)など
批判111)も存在する。しかし、如何に労働者が多様化していると言えども、労働
契約においては、当事者間に交渉力の面で格差があることは否定できず、この交
渉力の格差を制度的に是正・調整する必要がある112)。第二次世界大戦後の我が
国労働法学の歩みを見ても、この重要性が消失したとは言えない。解雇権濫用法
理の法的正当性は、その確立以来途切れることなく支持されてきた。この法理の
重みを鑑みるとき、経済的要請によって政府が進める雇用改革が、経済成長の名
の下に当該解雇権問題に安易な解決を図ることには首肯できない。これらの課題
への対応は、労働法の理念や労働者保護のアプローチから考察されるべき問題で
ある。
₁ ) 大 竹 文 雄「 正 社 員 の 雇 用 保 障 を 弱 め 社 会 の 二 極 化 を 防 げ(WEDGE Special
Report 非正規は調整弁か 常識捨て正社員の既得権にメスを)」WEDGE21巻 ₂
号(2009)34-37頁。
₂ ) 萬井隆令「解雇規制の緩和と金銭的解決制度」前衛896号(2013)118頁。
₃ ) 産業競争力会議のペーパー「人材力強化・雇用制度改革について」においても、
「現状では大企業が人材を抱え込み、人材の過剰在庫が顕在化している。……他
の会社に移動すれば活躍できるという人材も少なからずいるはずであり、『牛後
となるより鶏口となれ』という意識改革の下、人材の流動化が不可欠である。よ
り雇用しやすく、かつ能力はあり自らの意思で積極的に働く人を後押しする政策
を進めるべきである」と記述されている。溝上憲文「議論が高まる解雇の金銭解
決制度」賃金事情2654号(2013) ₆ 頁。
₄ ) なおジョブ型正社員と並行して、解雇の金銭解決制度も検討されている。これ
は、裁判の結果、解雇が無効と判断された場合であっても一定の金額の支払いに
よって労働関係を終了させる制度である。中馬氏は、日本の現行解雇法制が厳格
過ぎるために、成長産業への労働力の移動が円滑に進まず、また、企業も後の解
雇が困難であることから採用に慎重になっている状況を改善するために、現行解
429
雇法制を緩めるべきである、と主張する。中馬宏之「『解雇権濫用法理』の経済
分析―雇用契約理論の視点から―」三輪芳朗・神田秀樹・柳川範之編『社会法の
経済学―』東京大学出版会(1998)425頁以下。
₅ ) 経団連は、2013年 ₄ 月16日の「労働者の活躍と企業の成長を促す労働法制」に
おいて、「特定の勤務地ないし職種が消滅すれば、契約が終了する旨を労働協約、
就業規則、個別契約で定めた場合には、当該勤務地ないし職種が消滅した事実を
もって契約を終了し、解雇権濫用法理がそのまま当てはまらないことを立法化す
べきだ」と発表している。
₆ ) 野田進「限定正社員の法的位置づけ」『日本の雇用が危ない』旬報社(2014)
125頁。
₇ ) 土田道夫「解雇権濫用法理の法的正当性」日本労働研究機構雑誌491号(2001)
₅ 頁。中田祥子「解雇法制と労働市場」日本労働研究機構雑誌491号(2001)46頁。
₈ ) 荒木尚志『雇用社会の法と経済』有斐閣(2008)17頁。
₉ ) 民法627条 ₁ 項には、「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、
いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の
申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」と定められている。
10) 森戸英幸「文献研究 労働契約の終了( ₁ )」季労163号(1992)159頁。
11) 西村健一郎「解雇権の濫用―高知放送事件―」労判百(第 ₈ 版)(2009)157頁。
12) 大津地判昭28・ ₃ ・14労民集 ₄ 巻 ₁ 号51頁。バスの運転に従事する駐留軍労務
者がスケジュールを守ろうとしたために速力違反を犯したこと、クラッチの使用
法が稚拙であったことを理由に解雇通告を受けたため、その解雇の無効を主張し
た事案。なお、申請は却下されている。
13) 西谷敏=野田進=和田肇『新基本法コンメンタール労働基準法・労働契約法』
別冊法セミ(2012)395頁。
14) 福岡地小倉支判昭24・ ₃ ・26労裁資料 ₄ 号62頁。
15) 東京地決昭25・ ₅ ・ ₈ 労民集 ₁ 巻 ₂ 号230頁。職員である申請人が、会社の経営
上やむを得ずなされた冗員整理に際して「家庭の事情が良い、特殊技能者である、
勤続年数が長いから、退職金が多い、その他いろいろな事情」等の理由により解
雇されたため、その無効が争われた事案。正当な事由が認められないことにより、
解雇の無効が認められている。
16) 同旨のものとして日本曹達事件(新潟地高田支判昭25・ ₈ ・10労民集 ₁ 巻 ₅ 号
835頁)では「正当の事由なくして解雇をすることは経営権の濫用であって違法
である」と判示されている。
17) 柳川真佐夫ほか『判例労働法の研究』労務行政研究所(1950)23頁。
18) 安屋博士は、使用者が労働組織関係の支配者であるとして、正当事由による制
約は、使用者の自己の意思の自己制限であるため、解雇の自由が失われることな
しに、使用者の有する自由は自らによって必然的に制限される、としている。安
屋和人「解雇の法構造について」法と政治 ₈ 巻 ₁ 号(1957)61頁。
430 法律学研究53号(2015)
19) 川口博士は、労基法89条 ₃ 号が社会的に妥当な解雇理由=正当理由を就業規則
中に掲げることを要求しているとし、就業規則中に明確な解雇基準が示されるこ
とによって、使用者による解雇自由の余地が狭まると主張する。川口實「解雇の
法理」季労40号(1961) ₄ 頁以下。
20) 峯村光郎博士は、権利濫用説を「労働契約をあくまで市民法理によって捉えよ
うとするもの」として批判し、労働法の市民法に対する異質性を主張して労働契
約の本質の究明の必要性を説いた。峯村光郎「解雇自由・不自由論議は無用か」
労旬132号(1953) ₃ 頁。
21) この条文は現行民法制定時にはなく、戦後1947年の改正の際に国会修正で追加
された条文であるが、解雇権濫用の問題が意識されていた形跡はない。濱口桂一
郎『労働法政策』ミネルヴァ書房(2004)332頁。
22) 例として、刈谷生活協同組合事件(名古屋地決昭26・12・ ₄ 労民集 ₂ 巻 ₅ 号578
頁)。他に松浦炭鉱事件(長崎地佐世保支判昭25・11・20労民集 ₁ 巻 ₆ 号945頁)等。
23) 沼田稲次郎「解雇の自由と権利濫用」『解雇をめぐる法律問題』東洋経済新聞社
(1954) ₁ 頁以下。
24) 実際に権利濫用かどうかの基準としては、企業の合理性維持増強に資する解雇
かどうかということや、労働者の生存権保障によって実現せられる公共の福祉な
どを挙げる説がある。清水金二郎「解雇をめぐる若干の法律問題」九州大学産業
労働研究所報 ₂ 号(1951)₁ 頁、沼田稲次郎『団結権擁護論(上)』勁草書房(1952)
44頁。
25) 柳川ほか・前掲注17)23頁。
26) 峯村・前掲注20) ₃ 頁。
27) 西村信雄ほか『労働基準法論』法律文化社(1959)21頁。
28) 横井芳弘「『解雇の自由』の法構造」季労49号(1963) ₄ 頁。
29) 松岡三郎「解雇の自由についての考え方」石井照久・我妻光俊編著『労働協約』
勁草書房(1954)192頁。博士は、借地借家のみならず、離婚には婚姻を継続し
がたい重大な原因が必要とされていることを労働関係にも類推できないかという
ことを述べている。
30) 水町勇一郎『労働法[第 ₅ 版]』有斐閣(2014)180頁。
31) 科研化学事件(東京地決昭30・10・15労民集 ₆ 巻 ₆ 号1037頁)、高知新聞事件(高
知地判昭31・12・28労民集 ₇ 巻 ₆ 号1018頁)等。
32) 野川忍「解雇の自由とその制限」『講座21世紀の労働法』有斐閣(2000)159頁。
33) なお、解雇に正当な理由を必要とする裁判例は、昭和40年代半ばまで散見され、
東京科学事件(東京地判昭44・ ₇ ・15労判84号21頁)では、解雇には正当な事由
を必要とする、との一般的原則を前面に打ち出したが、この時期にはすでに解雇
権濫用法理が定着しつつあり、この判決が後に影響を及ぼすことはほとんどな
かった。野川・前掲注32)160頁。
34) 西谷ほか・前掲注13)395頁。
431
35) この権利濫用説は、実際には正当事由説との差異がほとんど存在しないという
評価もなされている。柳川真佐夫「『解雇』と『正当事由』」月刊労働問題 ₂ 号
(1958)24頁。
36) 橘百貨店事件(宮崎地判昭47・ ₉ ・ ₄ 労判161号47頁)は、製品売場係長の地位
にある者が、長年に渡り数々の不正、不信の行為をし、会社の調査にも非協力的
態度をとったことを理由に解雇された事案であるが、「解雇は原則として自由で
あり、それが権利の濫用(不当労働行為も結局その一態様と考えられる)となら
ない限り有効に成立しうる」と判示し、本件解雇については、「不信行為の反復
は信頼関係をゆるがさずにはおかない、会社が申請人に対してさらに不信の念を
深めたのはむしろ当然」と判断し、権利の濫用には当たらないとした。その他昭
和40年代のものとして、前川産業事件(東京地判昭47・ ₂ ・22労判146号52頁)等。
37) 西谷ほか・前掲注13)395頁。
38) 労働契約法16条には、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当
であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
と規定されている。
39) ①人員整理の必要性、②解雇回避努力の有無、③被解雇者人選の合理性、④手
続きの妥当性あるいは労働者への説明義務、労働組合との協議義務。
40) 西谷ほか・前掲注13)395頁。
41) 前掲注35)参照。
42) 前掲注36)。
43) 西谷ほか・前掲注13)395頁。
44) 最判昭50・ ₄ ・25民集29巻 ₄ 号456頁。連日の職場集会、ストライキ等を行った
N 労組に対して、Y 会社は組合役員と組合員を出勤停止等の処分、また X に対し
ては右行為に加えて、経歴詐称を理由に懲戒解雇を行った。N 労組は地労委に救
済を申し立てたところ、YN 間で「X は Y を退職する」という内容の和解が成立
したが、X が離籍勧告に応じなかったため、N 労組は X を離籍処分としそれに基
づいて Y がユニオン・ショップ協定に基づいて X を解雇した事案。最高裁は「除
名の効力と解雇の効力とは関係がない」とした原判決(東京高判昭43・ ₂ ・23労
民集19巻 ₁ 号134頁)を破棄し原審に差し戻した。
45) 山口博士は「ユニオン・ショップ協定にもとづく解雇の特殊性に拘泥すること
なく、広く解雇理論一般の枠組の中で問題の解決をはかったところに、本判決の
特徴がみとめられる」として、この判決によって「ユニオン・ショップ協定にも
とづく場合だけにとどまらず、およそ解雇には客観的で合理的な相当の事由が要
求されることになった」と述べている。山口浩一郎「除名の無効とユニオン・
ショップ協定にもとづく解雇の効力―日本食塩製造事件判決の検討―」判タ324
号(1975)16頁。
46) なお、この判決の評価として「説明としては解雇権の濫用という形をとってい
るが、解雇には正当な事由が必要であるという説を裏返したようなものであり、
432 法律学研究53号(2015)
実際の運用上は正当事由必要説と大差はない」としているものもある。越山安久
「解説番号20事件」『最判解民事篇昭和50年度』法曹会(1979)175頁。
47) 最判昭52・ ₁ ・31労判268号17頁。本件解雇を解雇権の濫用として無効にした原
審(高松高判昭48・12・19労判192号39頁)の判断を正当として、上告を棄却し
ている。
48) 特に第二事故に関しては上司に報告せず、後に事故報告書を求められた際に、
事実と異なる事故報告書を提出した。
49) この判断は、解雇が過酷に失しないかを「被解雇者に有利なあらゆる事情を考
慮して判断する」裁判例の傾向を代表したものである。菅野和夫『労働法[第 ₂
版]』弘文堂(1988)357頁。
50) 小宮文人「解雇権の濫用―高知放送事件―」別冊ジュリ134号(1995)151頁。
51) 小宮・前掲注50)151頁。
52) 野川・前掲注32)160頁。
53) 東京地判平13・ ₈ ・10労判820号74頁。
54) 長期雇用を前提として雇用された正規従業員に対する勤務成績・勤務態度の不
良を理由としてなされた解雇の有効性が争われた事例。当該成績不良や勤務態度
不良が「企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れ」
が存在し、「企業から排除しなければならない程度に至っている」ことを要する
とし、またそれに加えて「今後の改善の見込みもない」ことや、「労働者に宥恕
すべき事情がないこと」、「配転や降格できない企業事情があること」などを考慮
し、解雇権濫用か否かを判断するべきであると判示し、当該解雇を無効であると
判断した。本久洋一「勤務成績・勤務態度の不良を理由とする解雇の適法性」労
判829号(2002) ₅ 頁。
55) 本久・前掲注54)₈-₉頁。
56) 東京地判昭57・ ₂ ・25労民集33巻 ₁ 号175頁。
57) 増刊ジュリスト昭和57年度重要判例解説792頁以下。
58) 本久・前掲注54) ₇ 頁、道幸哲也 = 小宮文人 = 島田陽一『リストラ時代雇用を
めぐる法律問題』旬報社(1998)158頁。
59) 高橋憲司『解雇の研究 ― 規制緩和と解雇法理の批判的考察 ―』法律文化社
(2011)283頁。
60) 八代尚宏『雇用改革の時代』中央公論新社(1999)88頁。
61) その他の批判として、解雇権濫用法理の硬直性から、雇用創出の抑制・人材育
成の阻害・失業者や非正規従業員に対する正規雇用へのチャンネルを閉ざしてい
るとするもの(大竹文雄「経済学から見た雇用保障」JIL フォーラム「法と経済
の視点は何が違うか」(2001年 ₃ 月16日) ₃ 頁以下)、解雇規制が衰退産業の正規
雇用者の利益を保護する一方で、他の新規産業への産業間での労働移動を困難に
している(常木淳「不完備契約理論と解雇規制法理」日本労働研究雑誌491号
(2001)18頁)とするもの等がある。
433
62) 労働能力が人格と不可分である以上、その宣告は人格の評価であるかのように
受け取られるからである。村中孝史「日本的雇用慣行の変容と解雇制限法理」民
商法雑誌119巻 ₄ ・ ₅ 号(1999)606頁。
63) 村中・前掲注62)582頁以下。
64) 野川・前掲注32)172-174頁。
65) 川口美貴「雇用構造の変容と雇用保障義務」
『講座21世紀の労働法』有斐閣
(2000)232-235頁。
66) 本久洋一「解雇制限の規範的根拠」日本労働法学会誌99号(2002)15-17頁。
67) 野田進「解雇法理における企業」法政研究67巻 ₄ 号(2001) ₁ 頁以下。これは、
言い換えれば企業利益に資さない解雇は制限されるべきことになるから、その点
において「企業」概念により解雇規制を正当化するものであると評価されている。
山本陽太「文献研究労働法学 解雇規制をめぐる法理論」季労245号(2014)191
頁。
68) 契約の継続性に対する当事者の合理的な期待を保護し、恣意的な契約の解消を
制限する法理である。内田貴『契約の時代』岩波書店(2000)243-244頁。
69) 土田道夫「解雇権濫用法理の法的正当性」日本労働研究雑誌491号(2001) ₄ 頁
以下。なお土田教授は、解雇権濫用法理は「自己決定の理念」の規範的要請でも
あるとして、「この点からも、解雇制限は、市場の環境変化によって直ちに緩和
されるべきものではない」と述べている。
70) 大内伸也『労働法実務講義[第 ₂ 版]』日本法令(2005)343頁、神林龍編著『解
雇規制の法と経済』日本評論社(2008)20頁、山川隆一「日本の解雇法制」『解
雇法制を考える』勁草書房(2004)20頁。
71) 下井隆史「整理解雇の法律問題―判例の分析・検討を中心に―」日本労働法学
会誌55号(1980)23頁。
72) 下井・前掲注71)22頁。
73) 戦後の整理解雇の社会経済的背景について、詳しくは、法政大学・中央大学大
学院労働法合同ゼミナール「整理解雇をめぐる判例総覧」労旬981号(1979) ₆
頁以下参照。
74) 盛教授は、このような背景には、「当時の多くの協約が協議・同意条項を含んで
いたことのほか、整理解雇の法的効力を争うには、協約の規範的効力に依拠する
ことによってその無効を導くことが法律構成としては単純明快であり、かつ、裁
判所の事実認定・法律判断の点でもその作業が比較的容易であったこと、しかも、
整理解雇法理の未成熟のゆえに、整理解雇をめぐる多くの問題がそのような条項
との関連において論じられたこと、などの事情があった」と指摘する。盛誠吾「整
理解雇の有効性要件(二)」労判342号(1980)10頁。
75) わずかに、杵島炭礦事件が傍論ではあるが、使用者に対し解雇回避努力義務や
組合との誠実な協議を、信義則に基づき要求している。佐賀地判昭25・ ₅ ・30労
民 ₁ 巻 ₃ 号。
434 法律学研究53号(2015)
76) 昭和24年前後以外の時期に整理解雇がなかったわけではない。昭和30年代には
石炭、非鉄金属などの斜陽産業では大量の人員整理が行われた。前掲注73) ₇ 頁。
それにもかかわらず、整理解雇が直接問題意識としてあがってこなかったのは、
企業が、整理解雇に起因する労働争議により企業間競争に立ち遅れるのをおそれ、
希望退職や帰休制度という形でこれを避けてきたためであるとする指摘がある。
萩沢清彦「解雇と雇用調整」ジュリ増刊「産業構造の変化と労働法」
(1973)54頁。
77) 例えば、川崎化成工業事件(東京地判昭50・ ₃ ・25労判222号30頁)は、使用者
に、組合に対して誠実な協議をすること及び解雇回避努力を要求している。三萩
野病院事件(福岡地判昭50・ ₃ ・31労民26巻 ₂ 号232頁)は、①人員整理を行わ
なければ倒産必至という客観的事実があってその人員整理が合理化の最も有効な
方法であること、②人員整理に至る過程においてこれを回避し得る相当の手段を
講じたこと、③被解雇者の選定が客観的かつ合理的整理基準の適用に基づいたも
のであること、という基準を用いた。また、クロイドン事件判決(福島地会津若
松支判昭50・ ₉ ・19労旬904号64頁)では、①企業整理する高度の必要性、②物
的資源の活用につき最大限の経営努力、③人的資源の有効な運用、④企業全体で
の余剰労働力吸収策、⑤解雇基準の合理性、が要求されるとした。
78) 長崎地大村支判昭50・12・24労判242号14頁。
79) 平野金属事件(大阪地決昭51・ ₇ ・20労判261号50頁)、不動建設事件(長崎地
判昭52・ ₃ ・31労判276号28頁)、大隅鉄工所事件(名古屋地決昭52・ ₈ ・26労判
504号 6 頁)、日本鍛工事件(神戸地尼崎支判昭53・ ₆ ・29労判307号25頁)、あさ
ひ保育園事件(福岡地小倉支判昭53・ ₇ ・20労判427号63頁)等。
80) 盛誠吾「整理解雇の有効性要件(一)」労判341号(1908)15頁。
81) その理由として、資本主義経済における使用者の企業決定の自由の保障、企業
運営の合理性や具体的な余剰人員について確定することの困難さから、これらは
裁判所の能力を超える問題であること、が挙げられる。小西國友「整理解雇の法
理」ジュリ585号(1975)34頁以下、渡辺章「整理解雇の法律問題」季労96号(1975)
37頁、中村和夫「整理解雇の必要性と整理基準による性差別(一)」労判308号
(1979)32頁。
82) 東京高判昭54・ ₄ ・ ₃ 労民30巻 ₅ 号1002頁。
83) 保原喜志夫「整理解雇をめぐる判例の法理(二)」判時1027号(1982)151頁、
津幡笑「いわゆる四要件論―必要性要件について―」労旬1502号(2001)28頁以
下。
84) 盛・前掲注74) ₅ 頁、渡辺・前掲注81)40頁。
85) 平野金属事件(大阪地判昭51・ ₅ ・26労判255号48頁、大阪地判昭51・ ₇ ・20労
判261号49頁)、旭東電気事件(大阪地判昭51・ ₈ ・ ₂ 労判261号38頁)、住友重機
玉島製作所事件(岡山地判昭54・ ₇ ・31労経速1023号 ₃ 頁)、住友重機愛媛製作
所事件(松山地西条支決昭54・11・ ₇ 労判334号53頁)、日立メディコ事件(千葉
地 松 戸 支 判 昭52・ ₁ ・27労 判270号53頁、 東 京 高 判 昭55・12・16労 民31巻 ₆ 号
435
1224頁)等。
86) 盛・前掲注74) ₅ 頁以下。
87) 例えば、前掲注77)川崎化成工業事件、近畿レミコン事件(大阪地堺支決昭
51・ ₅ ・28労旬910-911号)、前掲注85)日立メディコ事件、前掲注79)不動建設
事件、前掲注79)あさひ保育園事件等。これに対し、わずかながら配転や希望退
職者募集をしないことが必ずしも整理解雇を無効とする理由とはならないとする
ものもある。例えば、科研化学事件(東京地決昭30・10・15労民 ₆ 巻 ₆ 号1037頁)、
天間製紙事件(静岡地富士支判昭50・ 8 ・19労判238号65頁)、東洋酸素事件(東
京高判昭54・10・29労民30巻 ₅ 号1002頁)等。
88) 前掲注77)川崎化成工業事件、前掲注77)クロイドン事件、前掲注78)大村野
上事件、桐生レミコン事件(東京地判昭52・ ₆ ・28労旬933号55頁)、旭東電気事
件(大阪地判昭53・12・ ₁ 労判310号52頁)等。
89) 前掲注73)18頁。
90) 前掲注87)天間製紙事件、前掲注88)旭東電気事件等。
91) 前掲注77)川崎化成工業事件、前掲注85)平野金属事件等。
92) 前掲注88)クロイドン事件、前掲注88)旭東電気事件等。
93) 抽象的な基準内容の例として、適材適所、誠実、勤勉、調和、必要不可欠でな
い者等が挙げられる。
94) 裁判例として、出島運送事件(広島地判昭53・ ₆ ・29労旬959号62頁)、紡機製
造事件(大阪高判昭33・12・18労民集 ₉ 巻 ₆ 号1029頁)。
95) 例えば、大村野上事件(長崎地大村支判昭50・12・24判時813号98頁)、あさひ
保育園事件(前掲注87))、山崎技研事件(高知地判昭54・ ₅ ・31労判325号31頁)
等。
96) 広島硝子工業事件(広島地決昭51・ ₇ ・26労判258号21頁)等。
97) 東京地裁の一連の判決・決定を従来の判例の流れとは異質のものと捉え、これ
を批判するものとして、和田肇「整理解雇の見直しは必要か」季労196号(2001)
14頁以下、西谷敏「整理解雇法理の再構築」季労196号(2001)60頁以下等。
98) 東京地決平12・ ₁ ・21労判782号23頁。
99) 角川文化財団事件(東京地決平11・11・29労判780号16頁)
、ナショナルウェス
トミンスター銀行(第二次仮処分)事件(東京地決平11・ ₁ ・29労判782号35頁)、
廣川書店事件(東京地決平12・ ₂ ・29労判784号50頁)等。
100) 裁判例をみると、現在では、四つの要件について解雇権濫用を判断する際の考
慮「要素」にすぎないとする要素説の立場が支配的であるといえる。一般的に、
要件説の場合はいずれかの要件を欠く場合解雇無効と判断されるのに対して、要
素説では、各要素を中心とした総合判断により解雇の効力が判断され、仮にある
要素を満たさないとしても、他の要素と合わせ考慮した場合、解雇有効とする余
地があるという点で、要件説から要素説への変化は、解雇をより緩やかに認める
方向への動きと理解することもできる。しかし、要素説の立場をとる裁判例にお
436 法律学研究53号(2015)
いても、特定の要素が満たされていないと評価された場合には、他の要素に触れ
ることなく解雇無効としている例や(マルマン事件・大阪地判平12・ ₅ ・ ₈ 労判
787号18頁、ワキタ事件・大阪地判平12・12・ ₁ 労判808号77頁、労働大学(第二
次処分)事件・東京地決平13・ ₅ ・17労判814号132頁、千代田学園事件・東京地
判平16・ ₃ ・ ₉ 労判876号67頁、等)、特定の要素が満たされていないことを重視
して、他の要素が満たされていても解雇無効とする場合も存在する(鐘淵化学工
業事件・仙台地決平14・ ₈ ・26労判837号51頁)。このことから、裁判例において
支配的な判断枠組みが要件説から要素説に変化したことにより、解雇の判断枠組
みが緩和されたとは一概には言えないであろう。
101) 盛誠吾「企業のリストラと労働判例の動向(上)」季労173号(1995)128頁。
102) 盛・前掲注101)128頁。
103) 大石教授は、整理解雇は「基本型」と、それ以外の「事業廃止型」、「部門閉鎖
型」、「ポスト消滅型」に分類可能であり、前者には四要件が的確に当てはまるが、
後三者においては、例えば「基本型」に比べて人選基準の合理性を問う余地が小
さいなど、四要件が必ずしも的確に当てはまるわけではないとする。「類型別に
みる整理解雇」労旬1502号(2001)14頁以下。また、奥田教授は、従来の典型的
事案との差異から、整理解雇事案を①「予防型・経営戦略型」、②「部門閉鎖型・
ポスト廃止型」、③「労働条件変更告知型」、④「契約内容限定型」に類型化し、
類型ごとに整理解雇の有効性判断枠組みの適用につき生じる問題を詳しく検討し
ている。そこでは、例えば④の場合には、解雇回避努力義務の範囲が限定される
場合があること等を指摘している。奥田香子「整理解雇の事案類型と判断基準」
日本労働法学会誌98号(2001)47頁以下。
104) 籾井常喜編『戦後労働法学説史』労働旬報社(1996)663頁。
105) 村中・前掲注62)582頁以下、本久・前掲注66)12頁。
106) 野川・前掲注32)154頁。
107) 野田進「解雇法理における『企業』」法政研究67巻 ₄ 号(2001) ₁ 頁。
108) 土田・前掲注69) ₄ 頁。
109) 水町勇一郎「雇用調整の法」日本労働研究雑誌510号(2002)71頁。
110) 労契法16条が「客観的合理的理由」及び「社会通念上の相当性」というあいま
いかつ抽象的な要件を用いていることによる。
111) 山本・前掲注67)209頁。
112) 水町・前掲注109)71頁。
2014年度内藤研究会 23期
奥田 龍一 金子 早織 隥本 英子 竹増理沙子 田中 絢子
出口紫都花 橋本 花野 藤田 大幹 三木 裕貴