交通事故により重度の身体障害をきたすも職場復帰を目指した一症例

交通事故により重度の身体障害をきたすも職場復帰を目指した一症例
【はじめに】
交通事故による多発外傷で脳挫傷と多発骨折をきたすも ADL 能力の改善と併せて家族と
の話し合いを重ね、職場復帰を目標に取り組んだ症例について報告する。
【症例紹介】
40 歳、男性。歩行中にトラックと衝突し受傷、救急病院に搬送される。脳挫傷と多発骨
折と診断され、頭血腫除去術、外減圧術、気管切開、V-P シャントを施行する。その後、リ
ハ目的で当院に入院となる。6 人家族で、職業は音楽教師である。
【経過・取り組み】
初期:JCSⅠ-2、両上下肢 MMT2、安静時および運動時痛あり、ADL 全介助の状態であっ
た。カンファレンスでは、家族の介助が望めず、ADL が全自立でなければ自宅復帰は困難
という理由で、退院先は施設となった。覚醒レベルの改善を目的に全介助での歩行をリハ
プログラムとして実施した。
中期:リハ開始 1 ヶ月後、覚醒レベルは改善し、ADL 最小介助レベルとなるも、感情のコ
ントロールができず、モチベーションの低下と訓練拒否が強くなった。カンファレンスで
は移動が自立すれば、自宅も退院先の選択肢の一つとなった。本人の希望に沿ってより具
体的な目標を設定しリハプログラムを進めた。
最終:T 字杖歩行を含め ADL が全自立した。カンファレンスでは自宅・職場復帰が目標と
なり、職業リハセンターへの転院が決まった。そのため、ピアノ練習や卒業生のお見舞い
を兼ねた面会の機会を設け、本人に職場復帰への意欲と自信を持たせる働きかけを行った。
【考察】
重度の障害をきたしたケースでは、退院先が施設となる場合が多い。本症例は年齢的に
も若く、ADL の向上と併せて家族との話し合いを重ね、職場復帰に向けた具体的な目標を
設定しリハプログラムを進めた。結果、本人の意欲も向上し退院先が変更となった。障害
が重度であれ、患者・家族の退院後(将来)の生活のあり方にしっかりと向き合い、可能
な限りの手段を用いてアプローチしていくことの必要性を改めて認識した。