1 日本下水道新聞(平成 26 年 12 月) 掲載記事 下水道公社の意義と

日本下水道新聞(平成 26 年 12 月) 掲載記事
下水道公社の意義と今後の役割(座談会)
国土交通省下水道管理指導室長
藤川眞行
(公財)東京都都市づくり公社下水道部長 青木知絵
(公財)埼玉県下水道公社理事兼技師長
渡辺孝夫
(公財)愛知水と緑の公社常務理事兼下水道部長
浅野守彦
(公財)長野県下水道公社専務理事
岩嶋敏男
■公社の生い立ち
藤川 新たな下水道政策については、本年 7 月に、新下水道ビジョンが取りまとめられ、
その後、社会資本整備審議会に下水道小委員会が設置され、具体的な政策の方法性の議
論が行われてきました。様々な論点の中で、最も大きいものの一つは、中小の地方公共
団体の下水道事業を維持していくため、どのような政策対応をしていくべきかという、
「補完」の議論です。
下水道公社については、主に都道府県の流域下水道の終末処理場等の維持管理を行う
組織としてこれまで役割を果たしてきましたが、市町村の下水道事業の支援を行ってき
たところも見られます。公社のあり方については、地方の行政改革の中で、スリム化を
含め様々な取組みが行われてきたところも多いと思いますが、現在の「補完」の議論の
中で、これまで技術力を蓄積してきた公社が今後どのような役割を担っていくかについ
て、今一度、立ち止まって考えてみる必要があるのではと考えています。
本日は、全国で積極的に事業展開されている下水道公社のうち 4 つの公社の幹部の方
にお集まり頂きまして、忌憚のない意見交換をさせて頂ければと存じます。まず最初に
それぞれの公社の生い立ち、体制、業務等についてご紹介ください。
青木 東京都都市づくり公社は、市町と東京都が出損し昭和 36 年に設立した財団法人で
す。当初は、市町村の区画整理事業が主な事業でしたが下水道整備の必要性が高まり、
昭和 50 年に市町村の公共下水道整備を実施する組織として下水道部が設置されました。
これまでに東京の市町村区域の約 2 割の管きょと中継ポンプ所等を整備して来ました。
下水道部の職員数は約 100 名、うちプロパー職員が 9 割以上を占め都からの派遣職員は
数名です。60 歳以上の常勤嘱託職員等には都の退職者もいます。
現在普及率は 99%概成しましたので、最近では雨水整備や浸水対策、合流改善などの
事業を担い、耐震化や長寿命化等も手掛けています。基本的には設計・施工監理を中心
に、管路の包括的な維持管理も行っています。最近は、計画策定や事業計画協議といっ
た範囲まで支援を行っています。
昨年公益財団法人に移行したので、普及啓発活動や、これまで手掛けてきた技術講演
会や一般市民向け講習会も普及活動の一環として力を入れています。
岩嶋 長野県は平成に入り下水道整備の機運が高まりました。当時の長期構想にも 2010
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年の概成を目標として掲げ、急速に整備を進め現在の普及率は 97%です。
整備着手当時、県も市町村も経験がなく、市町村への技術援助、下水道の整備促進と
広域的な維持管理を行う等を目的に長野県下水道公社が設立され、流域下水道管理だけ
ではなく、当初から市町村の業務支援も行いました。職員数は約 50 名で、県からの派
遣職員が 4 名、役員 2 名は県職員のOBです。プロパー職員は 21 名で、嘱託職員は県
・市町村OBで 23 名います。
当初は、日本下水道事業団(以下、JS)が処理場の建設を行い、公社がその維持管
理と管きょの設計・施工監理を担っていましたが、現在は処理場の維持管理が主業務で
す。来年4月からは流域下水道が全て県直営となりますので、公社の業務は市町村支援
(管きょの施工監理・維持管理や単独公共下水道の処理場維持管理、長寿命化計画策定
等)のみとなります。処理場維持管理は公社が受託していますが、受託レベルが異なり
ます。中でも、総合一括管理方式は、いわゆる包括的民間委託のレベル 3 相当の受託方
式です。
県下の状況は、県内の基礎自治体数が 77 市町村で、町が 23、村が 35 と小規模な処理
施設が非常に多く、いかにコストを下げて維持管理するかが大きなテーマです。
渡辺 埼玉県下水道公社は、昭和 54 年に財団法人として全国で初めて設立されました。
受託事業は流域下水道の維持管理で、自主事業として普及啓発活動、研究事業、水質分
析事業を行っています。設立時に「建設は県」「維持管理は公社」という組織体制が確
立したわけです。基本財産は約 1 億 1000 万円、県と流域関連市町が出資金を折半して
います。
当初の職員数は 30 人で、昭和 54 年に全国 2 番目の流域下水道事業である荒川左岸南
部流域下水道で受託事業を開始しました。現在は 6 流域 6 処理場と再生水循環プラント
を管理しており、113 名の職員を抱え、本社と 5 支社、1 支所体制です。平成 24 年には
公益財団法人に移行しています。
民間委託が主流であるとして公社廃止が議論されたこともありましたが、存続できた
のは、流域下水道の処理人口が県行政人口の約 7 割に当たる 520 万人で、流域下水道と
して全国 1、2、3 位の現有処理能力をもつ処理場を保有し、高い管理能力が必要とされ
たからです。東日本大震災以降は危機管理対応として、公社の一元的な処理場管理で大
規模災害に備えるという考えも出てきました。今では県に維持管理の技術ノウハウが蓄
積されていない面もあり、公社の存在意義が認められています。
浅野 愛知水と緑の公社の前身である愛知県下水道公社は、県の流域下水道が昭和 55 年
に豊川流域で初めて供用開始となり、その維持管理を担う組織としてスタートしまし
た。57 年には、市町村の面整備本格化を受け、技術支援として管きょの設計業務を開始
し、平成 23 年には下水道整備が進捗し一定の役割を果たしたことからこの業務を終了
しました。
愛知県下水道公社から今の名称に変更したのは平成 12 年です。県の第三次行革の一
環で環境関係団体を統合することとなり、下水道公社を母体に他の 3 団体(愛知県環境
保全公社、臨海環境整備事業団、水道サービスセンター)を統合しています。18 年には、
指定管理者制度の導入を受けて、公社は県の流域下水処理場全て(当時は 8 処理場)の
指定管理者になりました。現在は 11 流域処理場を管理しています。
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一方で 23 年には、いわゆる派遣法への対応から 26 人の県職員が公社から引き上げま
した。その結果、県職員が公社と一緒に維持管理したという経験者が少なくなり、県職
員の技術力低下が懸念されています。現在公社下水道部には県派遣が 6 名、県OBが 2
名、プロパー職員が 64 名おります。
■「補完」の議論と下水道公社の役割
藤川 新下水道ビジョンを踏まえ、社会資本整備審議会の下水道小委員会で、「補完」に
ついて様々な議論が行われてきましたが、議論資料の中では、体制が脆弱な自治体にお
ける業務について、①政策判断、②マネジメント・政策の形成、③包括的な業務の委託、
④包括的な業務の委託に係る業務導入支援、履行監視等――といった 4 つのグループに
分け、①、②については、地方公共団体間の連携、JS・下水道公社の活用、民間企業
によるアドバイザリー等が、③については、包括委託を受ける民間企業に必要とされる
能力が、④については、業務導入支援、履行監視等の第 3 者による補完のあり方が制度
検討の方向性として考えられるのではないかとされています。
下水道公社については、これまで培ってきた知見を活用し、流域下水道の終末処理場
等の維持管理を行っていくことに加え、市町村の下水道事業に支援を行っていくことを
通じて、「補完者」の受け皿になることが考えられます。皆様の下水道公社の現状、今
後の業務展開の方向性について、お聞かせください。
青木 都市づくり公社では建設を中心に業務に携わってきました。今後は計画から維持管
理までトータルで下水道事業を支援することが重要と考えています。市町村では耐用年
数を超えた管きょは少なく、改築事業は多くありません。しかし、改築単体の業務だけ
ではなく維持管理等を受託しながら長寿命化も手掛けることが、今後のビジネスモデル
になると考えています。整備段階から事業に携わっているので、事業全体の俯瞰が必要
な長寿命化計画立案で適切な支援が可能です。
実際、建設時に公社を活用した自治体からの支援要請を受けて調査段階から支援を行
い、維持管理計画策定にも関与しました。調査区の設定や調査方法などの検討を行い調
査業務を受注しています。また、付随する工事も受託し現場監督も行うという一連のパ
ッケージで提案しています。さらに、計画策定に伴う都や国への審査や会計検査などす
べて公社職員が対応します。
当然、設計委託や工事などで民間を活用しますが、技術提案や協議・調整部分は公社
が担います。つまり行政代行が最大のメリットです。公社には技術の蓄積と協議や調整
に関する行政ノウハウが蓄積されています。もちろん事務費は発生しますが、それ以上
のメリットがあると考えます。
岩嶋 長野県は中小自治体が非常に多く、深刻な技術職員不足が大きな課題です。処理場
・管路の維持管理ができる技術者がいる自治体は極めて少なく、人口 10 万人以上の長
野・松本・上田・飯田の 4 市がかろうじて自前で確保しています。それ以外は土木以外
の職員を抱える余力はありません。逆に、その現状があるからこそ、公社の存在価値が
生まれます。
ここ数年多くの自治体で、熟練職員が退職を迎え、後進にノウハウが伝承されず、現
状認識ができない自治体が増えています。その結果、丸投げ的に民間に包括委託してし
まい、問題が発生するケースも散見されます。
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公社では現在、30 市町村 47 処理場を受託しています。多くは中小規模施設で比較的
新しいため、ある程度放置しても大事故につながらず維持管理は容易だという誤解が自
治体にあると考えられます。しかし建設から 15 年経過している処理場は必ずと言って
いいほど不具合が出てきます。将来に渡り資産として適切に管理運営していく必要があ
り、それを補完するという意味で公社の存在価値があります。
すでに処理場の長寿命化計画策定支援も手がけています。管路管理も2件受託してい
ますが、管路は比較的新しく中小市町村では、具体の業務として顕在化していないのが
現状です。
公社の役割は行政代行です。例えば、レベル3の包括委託では公社が受託し、雑多な
業務はすべて公社が請けます。自治体側に下水道のプロがいなくても、行政の知識を持
った人材がいれば、適切な管理運営ができるようにしています。
渡辺 当県は流域下水道を主体に県内の整備を進めており、施設の建設と維持管理で県と
公社は補完関係にあります。
公社の年間予算約 200 億円のうち修繕費は年間 60 億円ほど。公社で発注し、コスト
縮減を図りながら設計、施工管理に努めています。官に近い公社が介在することで、運
転管理を工夫し、耐用年数以上の長寿命化を図っています。
包括的民間委託では、3 つの小規模処理場が公社から民間に移管されています。公社
は、運転管理ノウハウの蓄積を生かして、移管の際に県と民間との橋渡し役になってい
ます。
包括的民間委託の留意点は、契約期間内は補修は必要最小限になることです。つまり
複数年、予防保全が行われない可能性が出てきます。民間としては当然の行動原理です
ので、包括的民間委託を行う処理場で長寿命化を図る場合、行政が誘導する必要があり
ます。
もともと公社は、現有施設能力を最大限引き出す運転管理が得意です。例えば、不要
となった汎用ポンプを反応タンクに設置し、硝化液を還流させて嫌気好気の反応タンク
を急造し高度処理的運転を行っている処理場もあります。国交省、JSとの共同研究に
よる段階的高度処理も同様で、現有施設を生かして高度処理運転を行うものです。
県内市町村は技術職員数がピーク時の 60%まで減り、
人口 5 万人以下の町村では機械、
電気、化学職がいないのが現状です。そこで公社は将来の市町村支援のためにアンケー
トを実施し課題把握に努めるとともに、ホームページ上に相談窓口を設置しました。ま
た、県も下水道塾や下水道サポートセンターとして人材面の支援を行うこととしてお
り、現在、県と公社共同で県内各自治体を訪問しています。
すでに民間委託がかなり進んでいる市町もありますが、初回契約では、コスト縮減効
果が発揮されても、2回目以降は民間にノウハウが移転され、補修費や点検費等のチェ
ックができないところもあります。自分の施設でありながら自分の施設でなくなってし
まっているとも言えます。
JSの研修もありますが、市町村には技術者がいないので一定期間研修に出す余裕も
ないところも多い。公社としては、県とともに、まずは、研修会や講習会の実施から取
り組んでいきたいと考えています。
浅野 当県も行革等の影響もあり機械・電気の技術職員が不足しています。その代わりに
維持管理は公社が担ってきたわけです。公社の技術系職員のうち、約半数が機械・電気
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職という体制です。
本県では計画していた 11 流域下水道が平成 24 年度末にすべて供用され名実ともに管
理の時代となりました。新増設より改築更新が主となり、長寿命化の推進から計画的な
点検整備が重要な業務となっています。これら県の業務には今まで以上に維持管理のノ
ウハウが必要であり、公社としてバックアップしていきたいと考えています。
公社では、国の新ビジョンで補完体制を示す業務領域の区分に従って流域下水道事業
への公社の関与をまとめました。その結果、維持管理段階だけでなく計画・調査設計・
施工などの段階でも、維持管理実績に基づく提案を行うことで政策形成・企画立案、業
務管理など広範に関与しており、県との補完関係にあることを改めて認識しました。
今後の人口減少社会では流入水量も減って、より効率的な事業運営が求められます。
公社も維持管理という業務範囲に止まらず、システムとして全体最適化を進めていく必
要があります。そのためには管理者である県と維持管理を担う公社が共通の目標に向っ
て努力するシステムが必要であり、現在国交省のモデル事業として県と共同でアセット
マネジメントの国際規格(ISO55001)認証取得に取り組んでいます。認証取得
の過程では、県と公社の役割やコミュニケーションが明確化されるので、維持管理の立
場からの提案が建設計画等にフィードバックでき処理場の着実な改善が期待できるも
のと考えています。また、現在技術支援として、県発注の改築更新の一部工事で施工管
理を受託しており公社の現場力が活かされています。
市町村支援は、できる限り対応しようと考えており、一昨年から「下水道コンシェル
ジュ」と銘打ち市町村に出向いてニーズ把握に努めていますが、本格的にはまだこれか
らです。
岩嶋 結局、中小自治体の多くは財政が困窮しており、技術系の職員がいないので、支援
して欲しいというニーズはたくさんあるのです。
浅野 同感です。先日、某市から「雨水ポンプ場の維持管理に伴い、ポンプの点検を民間
に依頼したが、その点検結果を評価できないか」という問い合わせがありました。市に
技術者がおらず補修経費が適正か判断に困っている状況があるのです。
今、国が創設を目指す事業管理計画制度に注目しています。この運用が始まれば、管
理者の責任が明確化され、補完者となりうる公社の役割も理解されるのでは、と期待し
ています。例えば、県は町医者と評されたように、市町村の相談窓口となり必要に応じ
て専門家を紹介する仲介的な機能も持っています。公社は専門家です。県と公社が役割
を分担しながら市町村支援していく姿が理想です。
■広域連携
藤川 社会資本整備審議会の下水道小委員会の議論でも出てきましたが、脆弱な中小自治
体の下水道事業への対応策として、広域連携も、有力な手法と考えられます。中小の市
町村が、一部事務組合、協議会、広域連合等の法的枠組み等も使って広域連携し、具体
的な業務を下水道公社が支援するというモデルも想定されると思います。自治体間の広
域連携について、いかがお考えですか。
岩嶋 当県内 77 市町村は、平成の大合併以前は 120 で、専門的な事務は、基礎自治体が
合併されてもなくなりません。そのため当県では広域連合が進んでいます。現行の県の
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下水道ビジョン策定時にも、広域管理の絵を描いています。
現状は、制度というよりは運用として公社が担っています。公社ですべて集約してし
まえば調達面で相当のスケールメリットが働き、サービス水準を下げずにコスト縮減が
図れます。公社は事務にかかった実費だけ回収できればいいので、公社へ委託した方が
安価になります。
ただ、長野県の 20%の人口(40 万人)を抱える長野市など、公社の広域管理に含ま
れていません。最も経営が安定した自治体を枠組みに入れずに経営が不安定な中小自治
体のみで広域化を進めるには限界があります。従って、広域管理の推進について国がも
っと後押しをしていただきたい。
一方、広域連合や一部事務組合は、議会承認が必要ですが、公社に委託してもらえば
ケアできるので、受け皿としての可能性は高いと考えています。
青木 実は東京都も市町村の公共下水道を広域的に公社が受け皿となって維持管理を行
うというビジョンがあり、平成 14 年には自治体の共通認識を図っています。現在公社
で維持管理を行う自治体は、ビジョンに賛同し早くから委託化がされました。日常管理
から定期点検、排水設備、緊急対応など包括委託のような姿です。また、維持管理の一
部を受託している場合もあります。受け皿があるので、自治体の考え次第ですが、普及
が終了し下水道への予算が縮小すると、管理が重荷であっても、施設に問題がなければ
新たな負担に消極的な状況です。しかし、将来老朽化など新たな問題の解決に対しても、
管理運営が集約されれば管理者の負担も少なくなると考えます。
そのため、市町村支援は個別対応から次のステージに移行すべき時期に来ています。
藤川室長の発言の通り、一体的管理や広域連携などを進めれば、スケールメリットもあ
り業務も効率化され結果として維持管理も上手く回り、最終的に市民サービスの向上が
図れるのではないかと感じています。
■技術力の蓄積
藤川 中小市町村に対する補完者として、都道府県、公社、そして民間企業はそれぞれの
立ち位置、役割が異なるのではないかと思います。中小市町村から見れば、都道府県が
最も身近で頼れる存在なのかも知れませんが、市町村同様に職員数も削減の方向です。
一方、民間企業はいろいろポテンシャルを有していますが、いかんせん行政とは異なる
行動原理が働きます。公社は官民の接続点としても有力な存在になりうるのではないで
しょうか。ただ、私が言うのもおこがましい話ですが、そこにおいては、橋渡しをする
能力、即ち、「現場の技術力」と「行政的なノウハウ」の双方を蓄積・継承していくこ
と、さらに、必要に応じて、行政又は民間事業者に伝えていくことが重要なのかと思い
ます。
この点、何より、このような能力は、机の上だけでは蓄積・継承できず、現場で職員
を育てていくことが重要であると思われますが、包括的な業務委託の動きが一方にある
中で、公社の職員をいかに育成していくかについてお話を聞かせていただければと存じ
ます。
青木 技術職として新採に加え経験者採用枠を新設し、基本的にはプロパー職員で技術者
を確保していく方針です。これまでの業務を通じた技術やノウハウを継承するため、事
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業調整、設計・積算、工事監督業務の中でプロパー職員を育成していく計画です。東京
都の下水道技術実習センターを活用した研修や技術士資格取得等にも取り組んでおり、
技術力を持つ職員の育成を進めています。また、行政代行の面を強化するため都へ職員
を研修員として派遣を行っています。
一方で市町村の技術力向上の支援も実施しています。技術士の勉強会や実習センター
での研修会に参加を呼びかけています。市町村・公社全体で技術力を底上げする取組が
重要です。
さらに、都からの常勤嘱託職員などを採用し、都の経験知を直接導入し人材育成に活
用しています。
岩嶋 公社が市町村から処理場の維持管理を受託していますが、まさに包括委託そのもの
です。処理場は机上の知識だけでは適切な維持管理ができません。包括委託しても委託
先となる水処理業者の履行確認には、相応の技術力が求められます。
今後、市町村と良好な信頼関係を継続するためにも、技術者育成として最低限必要な
資格や技能取得への支援を行っています。また、プロパー職員間で情報交換する場も設
け、課題や対応策の共有を常に図っており、現場管理に役に立っています。さらに、成
果報告会などを開き、現場知識の水平展開に取り組んでいます。管路は、直営で設計・
監理しているので、現場経験・技術力ともに豊富です。
結局、人材は現場でしか育ちません。公社職員も先輩の背中を見ながら現場経験を重
ね、技術力を高め蓄積してきたのです。
渡辺 公社の強みは実務経験に基づく技術力です。その維持向上に向けて職別スキルレベ
ルの確認を行っています。105 項目の業務項目を設定し、年度初めに上司と各職員が面
接し、年度末に達成状況をチェックするという仕組みです。さらに、調査研究事業報告
会では実務を通して蓄えた知見共有を図っています。平成 19 年には資源エネルギー庁
長官賞を受賞しました。
一般に、包括的民間委託の監視評価では、受託企業から「厳し過ぎる」という声を聞
くこともあります。確かに時流は性能発注ですが、あまりこれを進めると官民ともに技
術力確保に支障が出ると考えています。官や公社は監視評価を実行する技術力を蓄え、
民間は適切な維持管理を通して技術力を高めるというサイクルが理想的です。
あと、そもそも公社は県と流域下水道関連市町からの出資で設立され業務範囲は必然
的に限定されますが、当公社ではJS研修に毎年講師を派遣しており、昨年は 17 講座
・延べ 67 時間の講義を行いました。内容は処理場の運転管理や水質分析、包括的民間
委託業者に対する指導等についてです。今後とも、全国的に貢献できことがあれば努力
していきたいと考えております。
浅野 当公社でも内部研修はもちろんJS研修への参加、イントラネットによる職員間の
情報共有など行っています。
かつては筆頭技師というベテラン職員の下に若手職員が配置され、ポンプを分解・整
備したり中央監視で直接操作したり、実務を通じて技術力が養成されてきましたが、最
近はマネジメントが主要業務となり若手職員にはこのような機会がなくなってきまし
た。
来年度末には固有職員はじめての定年退職者が出ます。当公社では技術の継承を大き
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な目的として、確保すべき技術力を明確にし、その上で持続可能な体制を構築する検討
に着手しました。本社と7事業所(処理場)の職員配置を見直し、技術力を養成・継承
できる仕組みにしたいと考えています。
藤川 いろいろ貴重なお話をありがとうございました。お話の内容もさることながら、皆
さま方が、現在の職務に誇りと責任感をもって当たっておられることを、ひしひしと感
じました。皆さま方の今後のご活躍を期待したいと思います。
国土交通省としては、ご案内のとおり、新下水道ビジョンや社会資本整備審議会の下
水道小委員会の議論を踏まえ、今後、補完のあり方について多種多様な対応策を引き続
き検討することとしております。また、機会がありましたら、どしどし現場の声を投げ
かけていただければ幸いです。本日は誠にありがとうございました。
(以上)
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