卓越へのフレームワーク

海外論文 Internal Auditor 2013 年 2 月号
卓越へのフレームワーク
(原文題名: Framework for EXCELLENCE )
筆者: Manny Rosenfeld , CIA,CRMA
訳者: CIAフォーラム関西研究会No.7
多次元評価ツールは、監査担当者にとって自分たちの部門をパフォーマンス
のレベル分類にあてはめると、どのような評価になるかを決める助けとなる。
真のリーダーは、ワールドクラスの組織体を懸命に創り出そうとする。どの専門職の分野であっても、ワールドク
ラスでのパフォーマンスは我々の貢献力を最大化し、利害関係者を喜ばせ、使命を達成する助けになる。この原
則はまさに内部監査にも当てはまる。しかしながら、ワールドクラスの監査部門への道は必ずしも明らかな、あるい
はやさしいものとは限らない。
監査部門を強化する方向にさらに努力するために、私は、どのような規模・産業の監査部門でも対象にできる
評価ツールを創り出した。そのツールで、監査リーダーは自分たちのグループがパフォーマンスのレベル分類の
どれに該当するかを決めることができる。このフレームワーク、つまり、監査部門卓越性モデルは、当初、業務遂
行の改善にあたり監査部門を指導する補助手段と考えていた。だが、監査部門が改善のための支援を求めて、
最高経営者や監査委員会との対話を進める上でこれを使用することもできる。モデルの中に記載した実務例は、
数多くの専門的な白書、フォーチュン 500 社での業務改善事例と先進的な監査経験、IIAが推奨する実務例、
および内部監査部門長(CAE)の円卓討議から引用している。
卓越性モデルは4つのステージ-後進レベル、専門職レベル、先進レベル、およびワールドクラス-からなり、
各ステージは漸進的により高度なパフォーマンスレベルをめざすものである。自分たちの監査部門がどのステー
ジに該当するかを決めるために、監査人は一連の個別評価点付きの表に回答する。最初の2つの表は監査パフ
ォーマンスの重大な側面にハイライトをあてている。これらの表のそれぞれに対して、監査担当者は自分たちの部
門について最もうまく表現している説明文を一つ選ぶ。第3表は想定できるベストプラクティスの一覧表になって
いる。つまり、監査人はこれらの中から、自分たちの部門にあてはまる実務例をすべて選ばなければならない。最
初の2つの表から得た点数の合計と第3表での点数の合計が総合点となる。この総合点を分類区分に当てはめる
と、監査部門の全般的なパフォーマンスレベルが明らかになる。同様に、監査部門をワールドクラス区分に向上さ
せる手助けにできる実務例も明らかになる。
評価
3つの表から総合点を集計すると、監査部門のパフォーマンスレベルを以下の分類と比較することでどの分類に
なるかがわかる。様々なやり方で点数を稼げるのだが、ワールドクラスのパフォーマンスという分類に到達するた
めには、最初の2つの表の最高得点の実務例と第3表の多くの実務例を選択できなければならない。
140~170 点:この分類にあてはまる監査部署はワールドクラスと見なされる。これらの明確なビジョンを持つ監
査部門は、専門職の最先端に居ようとする情熱があり、かつ継続的にベスト・プラクティスを実施している。監査対
象の組織体そのものが同様に、常に優秀な事業を遂行しようと努力し、さらに、プロセスを改善し、価値を付加し、
リスクを管理し、かつ戦略的目標を達成する助けにしようと内部監査をあらゆる面でパートナーと見なしていなけ
れば、このステージは到達困難である。私の経験では、比較的少数の監査部門だけがこのレベルで実施している。
なぜなら、ワールドクラスでのパフォーマンスを維持するには、継続的な努力が必要なので、それを達成する部門
は、現状に満足することを避けなければならないからだ。
110~139 点:この総合点で監査部門を先進レベルに分類する。先進レベルの監査部門は、専門職的基準に
合致するだけでなく、最高経営者と取締役会からの支持を得て、最新の内部監査実務を行い、機能している。監
査部門は、アシュアランス、コンプライアンスおよびリスク評価を提供するだけでなく、業務監査とコンサルタント的
な監査を通じてプロセスを改善することに焦点を合わせている。このように注目に値する業績を示すが、それでも
なお、常に改善への努力をすべきなのだ。
80~109 点:この分類にあてはまる点数は、専門職レベルの格付に値する。このタイプの監査部門は、組織が
うまく確立できていて、後進レベルの監査部門よりも幅広い使命を持ち、IIA の専門職的基準に合致している。し
かし、最近の監査のベストプラクティスのレベルには達していない。たぶん、組織体からの支援と励ましが限定的
なものだという理由による。
専門職レベルであることは、監査部門に必須の最低限のレベルである。だが、この評価表に回答する時間を使
う監査部門は改善に対する欲求があると思われる。監査管理者は最高経営者と取締役会を説得して、内部監査
への支援を拡大してもらうようにする必要があるだろう。そうすれば、組織体にもっと役に立つことができる。
80 点未満:80 点未満の点数の監査部門は、パフォーマンスの点で後進レベルと思われる。後進レベルの監査
部門は、一般的に IIA の専門職的基準を満たさないところがあり、使命が限定されていて、かつ最新の監査実務
例に追いついていない。組織体の十分な支援が得られない監査部門は、このステージを抜け出すのに苦しむこ
とになる。
後進レベルにある監査部門は、ほとんどコンプライアンスと基本的なアシュアランスの方を対象としていて、改
善を推奨することにほとんど焦点を合わさない。監査部門が組織づくりの初期段階にあるなら、改善を実施できる
多くの実務例が存在する。最高経営者と取締役会が監査部門の改善を支援しないなら、内部監査部門長は、内
部監査が組織体の成功にどのように貢献してきたかの具体的な事例を挙げて、再考してもらうように働きかけてみ
ればよい。
以上のように述べてきたことから、監査部門は取締役会と最高経営者が監査部門に期待するレベルまで向上でき
る。組織体全体が優秀な業務だと言われるように努力し、内部監査に適切な支援をするなら、その時監査リーダ
ーは自分たちの部門をワールドクラスのレベルまで引き上げる体制を整えられる。しかしながら、十分な支援と励
ましがなくても、監査部門は基本的なパフォーマンスレベルを乗り越えるよう常に努力するだろう。組織体が監査
部門に対し限られたあるいは低い期待しか持たないなら、その時には、監査部門がたとえ限定的な期待に完全
に沿うとしても、ワールドクラスの立場を達成することはできない。さらに、後進レベルの監査部門を改善する支援
を得ることができない内部監査部門長は、専門職として高いリスクを負うことになる。
進化するモデル
もちろん、内部監査専門職は外部からの圧力、変化する事業目標、および進歩する技術に基づいて、絶えず
適応し、かつ改善する必要がある。その結果、この卓越性モデルは、新たな監査実務例や監査ツールが生まれ
たとき、また新たな外部事象/リスクが発生したときには、進化する必要があるだろう。例えば、合衆国海外不正支
払防止法と 2002 年のサーベンス・オクスレー法が、共に監査部門の方向と機能に大きな変化をもたらした。最近
10 年間に経験した巨大でグローバルな危機によって企業は ERM 計画を実施するようになった。そして、実績を上
げている内部監査部門はこの努力を積極的に支持してきた。新たな課題が必然的に生じてくる。つまり、監査部
署が適応すべき規準に対応しかつその規準を作ることを要求するのだ。
しかし、パフォーマンスを評価するために使われる方法論にかかわらず、監査部門の成功を決める最も重要な
要因は組織体の支援と改善を行おうとする絶え間のない努力なのだ。これらの鍵となる要素が整うと、実績の低
い監査部門でさえ、利害関係者に対し役割を効果的に果たそうと向上をはかり、組織体に価値を付加することが
できる。ワールドクラスのパフォーマンスというのは旅であり、最終の目的地ではない。改善への道が一旦始まると、
その道は継続的にかつ厳然と追求されるべきものなのだ。
S
1.内部監査基本規程に記されている監査部門の使命
「一番当てはまる」説明文を一つ選び、その選択欄に相当する点数を丸で囲みなさい。
以下の欄の内容を含め、広くリスクに焦点を合わせている。加えて、内部監査のための戦略的リス
クと機会が会社の全社的リスクマネジマント(ERM)計画と完全に統合されている。さらに、内部監
査は実在する業務改善の機会を追求している。また、かなりの監査資源が経営管理者の支援要
求をベースにしてコンサルタント的なプロジェクトの方に割り当てられている。
広くリスクに焦点を合わせている。ビジネス・リスクをプロセスあるいは統制により軽減することが
できるなら、その時その分野を監査評価と改善の対象にできる。リスクの種類は、財務、IT、コンン
プライアンス、アシュアランス、不正及び事業関連である。
財務報告に係る内部統制、金融業のプロセスにおけるアシュアランス統制、また重要なコンプラ
イアンスと事業統制(例えば、在庫管理、投資計画の正当性、および受注処理)の評価に主に焦
点を合わせている。
財務報告に係る内部統制、従来通りの財務監査プロセス(例えば、買掛金、売掛金、給与、固定
資産、賃金、在庫会計及び元帳会計)におけるアシュアランス統制の評価に主に焦点を合わせて
いる。
評価点
2.監査スタッフの慣例
評価点
「一番あてはまる」説明文を選び、対応する点数を丸で囲みなさい。
ほとんどのスタッフは3年以上の監査経験があり、監査以外に数年の業務経験-事業並びに他
の財務・会計・IT の役割を含む-がある。監査人の幾人かは、事業・コンプライアンス・および IT
のような特定の分野において深い専門知識を持ち、また、監査部門で、ある期間能力開発のため
の仕事をしているかもしれない。監査人の職を維持するために資格をもって-あるいは、資格を
積極的に取ろうとして-いなければならない。また半数以上が、関連する上級レベルの学位を持
っている。
ほとんどのスタッフは、3 年以上の監査経験(上級監査人以上)及び、事業、財務、会計、IT 経歴
を含む何らかの監査以外の業務経験がある。監査管理者は資格取得を援助すると言っており、
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監査人の 80%以上が専門職の資格を持つかあるいは積極的に資格を取ろうとしている。監査人
の半数以上が上級レベルの学位を持っている。
ほとんどのスタッフは 2-3 年の監査経験がある。監査人の幾人かは、事業と会計経歴を含む実
務経験がある。専門職の資格を持っているのが望ましいが、必須要件ではない。
ほとんどのスタッフは 2 年未満の監査経験があり、業務経験はあまりない。専門職の資格(CIA、
CISA、 CPA 等)は要求されていない。
10
3.一般的な監査実務例
評価点
5
あてはまるものすべてを選び、おのおのの点数を丸で囲みなさい。
独立した品質保証評価(訳者注:外部品質評価)が、内部監査部門は全般的に IIA の内部監査
の専門職的実施の国際基準に合致すると結論付けている。
内部監査部門長は監査委員会議長あるいは監査委員会委員と定期的にあるいは頻繁に第三者
の出席なしに討議している。
内部監査部門長は職務上は監査委員会に報告し、部門運営上はトップレベルの職務権限者―
理想的には CEO に報告している。内部監査部門長は「会議の一員」で、定期的に CEO の役員会
議に参加している。内部監査からは他の重要な事業委員会と機能別委員会に常時代表者が出
席している。
監査部門はコンピューター支援監査技法をほとんどの監査の一部として使用する。監査部門はま
た、広範囲にデータ分析手法を使用し、選別した主要なリスク/統制を継続的に監視している。
間接部門並びに事業部門の経営管理者は彼等の分野について監査スタッフと定期的に討議し
ている。それにより、監査人の知識を拡大し、最も重要な事業牽引要因や関心事に対し監査領域
の焦点をより一層合わせている。
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監査部門は過去の監査発見事項のデータベースを維持し、分析能力を活用している。それは、
特定の業務やプロセスに対して監査論点の傾向を識別し、監査論点を分類し、問題の共通の根
本原因を識別し、また、問題の追跡とフォローアップのための仕組みを提供するためである。
監査部門の電子監査調書ツールは組織体の ERM ツールや方法論と統合されている。
5
監査スタッフにとっての確立された測定法/目標が整っている(例えば、バランス・スコア・カード)。
例えば、終了会議に続いて最終監査報告を発行するのに 10 日間、現地往査の前に監査を通知
するのは 60 日前。また、改善手順の 95%は約束された期日通りに完了している。
監査対象部門への満足度調査を各監査に続いて依頼している。平均して 90%あるいはそれ以上
の好意的な回答がある(目標は変化してもよい)。
「ゲスト監査人」プログラムが整っている。そこでは、組織体内部から職能上のエキスパート(監査
人以外)が経験豊かな監査人あるいは管理者の指揮の下で、特定の監査業務に定例的に参加
している。
従来からの監査技術スキルとともに人間関係あるいはソフトスキル(例えば、コミュニケーション、
対立マネジメント、集団力学及び文化への気づき)を含む訓練と能力開発プログラムが確立され
ている。監査人は毎年関連する訓練を少なくとも 60 時間受けなければならない。
5
監査グループは以下のやり方などを利用して、次々に出てくるベストプラクティスに遅れないよう
にする。例えば、内部監査部門長の円卓会議に参加する、セミナーに出席する、専門的な白書
を読む、IIA の年間の GAIN プログラムのようなベンチマークとなる研究を利用する。
5
ボーナス点: 監査部門はワールドクラスと見なしてもらえるような実務例を、上記以外で少なくとも
一つ実施している。
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合計点: 評価点を集計するために、三表すべての丸を囲んだ点数を合計しなさい。
原著者の脚注: 卓越性へのモデルがここでは掲載ページの制約により簡潔になっている。このモデルを更に包括的にするには、監査実務のカテゴ
リーを表に追加することによって、必ず可能となるだろう。
翻訳者注記: 本論文で使用されている performance には、いくつかの意味が重ねられているように受け止め、パフォーマンスとカタカナ表記とし
た。
訳者あとがき
監査担当者は、自分たちの所属部門のパフォーマンスがどのようなレベルにあるかに関心があると思う。そして、
どのレベルでのパフォーマンスをめざすべきなのかにも関心があることだろう。本論文の著者は当初の意図を発
展させて、監査部門を多次元で評価するツールを創出した。監査部門のパフォーマンスを後進的レベルからワー
ルドクラスレベルまで4段階に分類し、監査担当者並びに部門長が、自分たちのパフォーマンスを自己評価し、
点数化できるフレームワークを本論文で具体的に説明している。この枠組みは固定的な形では無く、事業環境や
産業界の状況変化を織り込みダイナミックに変化することを前提にしたものである。著者がフレームワークを創出
した基盤は欧米企業における監査活動にあるが、ワールドクラス指向という観点でとらえると、日本における監査
担当者にとっても、役に立つと思う。著者の観点を踏まえて、自部門の多次元評価を一度行っていただくと良い
のではなかろうか。
<CIAフォーラム関西研究会 No.7 メンバー>
座長
メンバー
大野
池井
花岡
平居
恭介
正洋
英典
克親
大阪ガス(株) 監査部
川崎重工業(株) 監査部
エイチ・ツー・オーリテイリング(株) 内部監査担当