ZE26A-9 二酸化炭素をアルコールに酵素変換する ポリマーハイブリッドナノファイバーの開発 田中直毅 1,和久友則 1,森井 孝 2 1 京都工芸繊維大学生体分子工学部門,2 京都大学エネルギー理工学研究所 目的 ギ酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、ホルムアルデヒド脱水素酵素を組み合わせることで、常 温常圧下において省エネルギー的に二酸化炭素をアルコールに変換できることが示されている。我々 はこれまでに、リン脂質ポリマーのフィルム中に物理固定した緑膿菌由来のホルムアルデヒド脱水素 酵素 (FDH) によって気相中のアルデヒドをアルコールに変換できることを報告した[1]。フィルム中 の FDH はジスムテーションにより補酵素 NAD+を消費することなく、アルデヒド 2 分子を 1 分子の酸 とアルコールへと変換することを見出した。さらに酵母由来のアルコール脱水素酵素 (ADH) も類似 した機構でアルデヒドをアルコールに変換することを見出した。昨年度はこの方法を二酸化炭素のア ルコール変換に応用することを目的として、酵素をポリビニルアルコール (PVA) に配合して効率的に 反応を行う系を探索した。その結果 PVA とポリビニルピロリドン (PVP) を混合し電界紡糸によってナ ノファイバー化することによって迅速なアルデヒド処理が可能であることが示された。 本年度は新たに 酸化還元酵素を過剰発現する酵母 を設計して、二酸化炭素をアルコール変換利用するこ とを試みた。酵母の FDH1 はギ酸脱水素酵素[2]であり、 Sfa1 はアルコールとホルムアルデヒド脱水素反応を 触媒する 2 機能性酵素である[3]。これらの酵素の遺伝 子を同一の酵母へ形質転換することで、3 種の酵素活 性を増幅した酵母を作製した (Fig. 1)。 結果 1. FDH1 および Sfa1 の遺伝子クローニング Fig. 1. Over-expression of FDH1 and sfa1 in W303 FDH1 遺伝子[2]のクローニングはプロモーターGAGTTT を含む Forward プライマーとターミネーター TAATTG を含む Reverse プライマーを用いた PCR により行った。Sfa1 配列のクローニング用プライマ ーは、上流 700 bp、下流 300 bp に存在するプロモーターCTCGTT、ターミネーターAACGAG を含む配 列を利用した。FDH1 は EcoRI を用いて pRS423 ( His⁻) プラスミドに、Sfa1 は Xho I を用いて pRS426 プラスミド(Ula⁻)にそれぞれクローニングした。これらのプラスミドを大腸菌によって増幅し、制限酵 素切断を電気泳動により確定することで挿入を確認した。以上の操作によって得られたプラスミドを 用いて、W303 酵母への形質転換を行った。 ZE26A-9 2. W303 酵母において過剰発現した FDH1、Sfa1 の活性測定 FDH1 を組み込んだ pRS423 プラスミドと Sfa1 を組み込 んだ pRS426 プラスミドを W303 酵母に形質転換した。この 酵母株を SD 培地(グルコース+水+窒素源 Ula- His-)中で 48~72 時間培養を行い、濁度が 1 を超えた時点で培養を停止 した。得られた酵母の細胞膜をファストプレップ(1500 mV) によって破砕した後、上澄みの蛋白質濃度が一定になるよう に調整して、ギ酸脱水素酵素とホルムアルデヒド脱水素酵素 の活性を測定した。Km より充分高い濃度のギ酸、ホルムア ルデヒド、NAD+を基質として、NADH の生成を 340 nm の吸 光度からモニターした。 Fig. 2 に FDH1 および Sfa1 を過剰発現した酵母 W303 の、 ギ酸脱水素酵素とホルムアルデヒド脱水素酵素の活性を示 す。過剰発現しない酵母 W303 のギ酸脱水素酵素活性(Fig. 2 上)はホルムアルデヒド脱水素酵素 (Fig. 2 下) の 1%程度で あった。ギ酸脱水素酵素活性は FDH1 単独過剰発現によって 向上したが、Sfa1 の過剰発現によっても同程度向上した。し たがって Sfa1 の過剰発現は酵母 W303 のギ酸脱水素酵素活 性に関わる酵素発現に影響を与えることが示唆された。この Fig. 2. Enzyme activity of ことは Sfa1 と FDH1 の共発現によってギ酸脱水素酵素活性 pRS423-Sfa1and pRS423-FDH1 from も FDH1 単独よりも向上している結果からも示された。さら yeast. Upper; Folmate dehydrogenase に FDH1 および Sfa1 の共発現はホルムアルデヒド脱水素酵 activity, lower; alchohol dehydrogenase 素活性にも同様の影響を示した (Fig. 2 下) 。以上の結果か activity. ら FDH1 および Sfa1 はともに酵母のギ酸脱水素酵素活性とホルムアルデヒド脱水素酵素に協同的に作 用することが判った。今後はストレス化で培養を行うことで過剰発現量を増幅して酵素活性の高い酵 母を作製するとともに、その酵母破砕液を気相中の二酸化炭素の酵素変換に利用する研究を行う。 文献 [1] Tanaka, N. et al., ACS Appl. Mater. Interfaces 1 228 (2009) [2] Overkamp M. K. et al.,Yeast 19, 509 (2002) [3] Laukel M. et al., J. Biochem. 270, 2 (2003)
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