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NGHXTで狙うブラックホールのサイエンス
2014年度
高宇連研究会
Black Hole Science with NGHXT
信川正順, 上田佳宏, 鶴 剛, 田中孝明, 内田裕之, 武田彩希(京都大), 久保田あや(芝浦工大), 中澤知洋(東京大), 馬場 彩(青学大), 幸村孝由(東理大), 内山泰伸(立教大), 北山 哲(東邦大),高橋忠幸, 渡辺 伸(JAXA/ISAS), 松本浩典, 森 英之, 古澤彰浩(名古屋大), 常深 博, 中嶋 大(大阪大), 粟木久光, 寺島雄一(愛媛大), 森 浩二(宮崎大),
岡島 崇, 山口弘悦(NASA/GSFC), 井上 一(明星大), NGHXTチーム
概要 NGHXTは、10 keV以上の硬X線バンドにおいて、既存衛星の1桁上の点源検出感度を実現する画期的なミッションであり、隠れたブラックホールの探査に絶大な威力を発揮する。本講演は、NGHXTの掲げる
主要科学目標のうち、(1)巨大ブラックホールと銀河の共進化、(2)天の川銀河の構成と形成史について議論する。 銀河中心に潜む巨大ブラックホールの形成史の理解は、銀河進化を理解する上で不可欠な、現代天文学に課された最重要課題の一つである。これに関する大きな未解決問題として、ガスや塵に深く埋も
れた活動銀河核(AGN)の存在量と、その進化がある。銀河の合体がおこると、爆発的な星生成とガス降着が誘発され、深く塵に埋もれた状態でブラックホールが急成長するというシナリオが広く提唱されてい
る。すなわち、埋もれたAGN は、銀河との共進化を理解する上で鍵となる種族である。10 keV以上の硬X 線こそ、これらの天体を探査する最適な波長帯である。NGHXTは、広い光度範囲の埋もれたAGNを、そ
の数密度ピークとなる赤方偏移までカバーして検出する能力をもつ。同時に、宇宙X 線背景放射(CXB)が最大強度を示す10-­‐40 keVのバンドにおいて、その80%以上を点源に分解することで、CXBの本質の起
源を解明する。
太陽の30倍以上の大質量星はその最期に超新星爆発を起こし、ブラックホールを残す(恒星質量ブラックホール)。年齢100億年の銀河系にはこれまでにおよそ1000万個の恒星質量ブラックホールが存在
していることになるが、これまで20天体程度しか観測されていない。銀河系内には多数の「ミッシングブラックホール」が潜んでいるのだ。銀河系内には淡いX線放射が広がっている(銀河系X線放射)。10 keV
以下の軟X線帯域での観測からその主成分が白色矮星連星系(CV)であると考えられていた。しかし、X線衛星「すざく」の観測などからCVでは説明ができない10 keV 以上の硬X線成分を発見した。その性質は
既知の低光度ブラックホール天体に酷似している。すなわち、これは「ミッシングブラックホール」からの暗いX 線放射の可能性が高い。本ミッションでは、銀河系X線放射の硬X線成分を空間分解することにより、
未知のブラックホールを初めて発見し、その質量分布を求める。このことにより、過去から現在における銀河系内の大質量星の構成を測定し、その形成史を解明する。
1. 巨大ブラックホールと銀河の共進化
•  銀河中心ブラックホールの観測は、高エネル
ギー天文学が最も得意とし、責任をもって解決
するべき課題
巨大ブラックホール質量
宇宙進化における巨大ブラックホールの重要性
•  銀河とブラックホールの「共進化」問題の理解
は宇宙物理学に残された最重要課題の一つ
Gueltekin +09
埋もれたAGN(Comton thick AGN)こそ
「共進化」の理解の鍵を握る天体
•  銀河合体後のブラックホール急成長期に予想さ
れる種族(e.g., Hopkins+ 06)
•  透過力の強い硬X線(E>10 keV)での探査が必須
•  宇宙X線背景放射の本質(at E~30 keV)の起源
しかし、その宇宙論的進化の全貌は(NuSTAR/
Astro-Hの後でも)未解明
母銀河の速度分散
Hopkins +06
埋もれたブラックホールを宇宙の果てまで見通す
右図: 最新AGN種族合成モデル(正しいという
保証はない)に基づいた、10-40 keV フラックス
に対する「埋もれたAGN」の割合の予言
「埋もれたAGN」が支配的になる世界は
NuSTAR/Astro-Hの感度より1桁先にある!
右図:埋もれていないAGNの光度ごとの数密度
NuSTAR/Astro-Hの感度では低~中光度AGN
の数密度ピークを観測できない
E>10 keVの宇宙X線背景放射の大部分(>80%)の
直接分解!
(NuSTAR/Astro-Hでは明るい側の30%しか分解
できない) NuSTAR FracTon of Compton thick AGN SwiX/BAT Ueda+ 14 NGHXT sensitivity
AGN 空間数密度
(Mpc-3)
Ueda+ 14 NuSTAR sensitivity
赤方偏移
本サイエンスからの要求感度 ~0.2 μCrab = 3×10-­‐15 erg/s/cm2 (10-­‐40 keV)
2. 天の川銀河の構造と形成史
系内の最重量天体=ブラックホールは大半が未発見 ブラックホールが 銀河系拡散X線放射が示唆する未知の天体
軟X線(<10 keV; e.g. Revnivtsev+09)
・ 1030 erg/sまで分解(Chandra)
・主に CV (白色矮星, kT~15 keV)
硬X線(>10 keV)
・ ハード成分の存在 (Γ=1.5±0.2)
(Suzaku, INTEGRAL, NuSTAR)
2
−3
"
%
"
%
!
$
!
$
η
M BH
ρ
v
32
LX = 10 $ −3 '$
' # 4 -3 &# 2
& erg/s
# 10 &# 10M ⊗ & " 10 cm %" 10 km/s %
ó 8×10-15 erg/s/cm2 (@銀河中心, 距離10 kpc)
放射効率 η ∼ 10-3 (観測値; Remillard & McClintock 2006)
天体種族と個数の見積もり、ミッシングブラックホールの検出方法
log(LX)
CV
29—33
WR/O
31—34
NS パルサー 29—35
連星系 30—39
単独
30—34
BH 連星系 31—38
単独
30—34
軟X線
[1]
105
1000
103
106
103
107
103
106
10
10
50
-­‐-­‐-­‐
10
-­‐-­‐-­‐
硬X線*
[1] Muno et al. (2006) [2] Remillard, McClintock (2006), [3] Wijinands et al. (2005)
軟X線はチャンドラによる実際の検出データ 10 keVまで
区別できない
スペクトル
1000 kT=15—20 keV
0 kT=1—3 keV
10
Γ ∼ 1—2
0
SoX [3] (静穏時) 0
10 Γ ∼ 1.5—2 [2] (静穏時)
100
ミッシングブラックホールを 100個検出するための感度 = 硬X線帯域で 8×10-­‐15 erg/s/cm-­‐2 (本サイエンスの要求値)
ハード成分?
Galactic emission (RXTE+INTEGRAL)
5
10
50
100
300
硬X線帯域には未知の天体が寄与
⇒ ミッシングブラックホール?
ハードネス(X線カラー)分布 (シミュレーション)
存在数 検出数(LX>1032 erg/s)
CV
(熱的)
Energy (keV)
ブラックホールのX線放射は 10 keV 以上の硬X線が重要
検出可能な硬X線衛星はこれまでに存在していない
(ASTRO-H/NuSTAR の検出感度 10-13 erg/s/cm2)
光度
Türler et al. 2010
νFν
ガス雲中から質量 銀河系内の超新星の頻度 0.01 個/年
降着を受ける
7
M > 30 M◎の割合10% ⇒ 期待値 〜10 個
ガス雲
これまでの発見数 〜20個
v
filament構造が分離できている
BH
大半は “ミッシングブラックホール”
質量 MBH
Ø  単独ブラックホールの星間ガス降着によるX線放射
密度 ρ
CV
CVとの 分離が 必須
ミッシング
ブラックホール
[7.5-10keV]/[5-10keV]
硬X線
CV
ミッシングブラックホールの発見により
銀河系の構成と形成史を解明する
•  初期質量関数(IMF)の30太陽質量以上の
初めての測定
•  巨大ブラックホールの種(成りそこない)
本サイエンスには、硬X線(10 keV) 以上でこれ
までにない感度(3—8×10-­‐15 erg/s/cm2)を持つ
衛星が必要である。NGHXT では硬X線帯域で
これまでの1桁以上良い空間分解能(10秒角)
を実現し、本サイエンスを実現する ミッシング
ブラックホール
[15-50keV]/[5-50keV]
硬X線データにより初めて分離する
参考文献 Gueltekin, K. et al. 2009, ApJ, 698, 198
Hopkins, P. F. et al. 2006, ApJS, 163, 1 Ueda, Y. et al. 2014, ApJ, 786, 104 Remillard & McClintock 2006, ARA&A, 44, 49 Revnivtsev, M. et al. 2009, Nature, 458. 1142 Türler, M. et al. 2010, A&A, 512, 49 Muno, M. P. et al. 2006, ApJS, 165, 173 Wijnands, T. et al. 2005, ApJ, 618, 883 Kroupa, P. 2001, MNRAS, 322, 231