4.9 猛禽類

4.9
猛禽類
4.9.1
調査
1)
調査内容
(1)
過年度調査における希少猛禽類の確認状況
過年度報告書における猛禽類の確認状況は表 4.9.1-1 に示すとおりであり、オオタカ、サシバ、
ミサゴ、ハイタカ、ノスリ、ハヤブサの 6 種の猛禽類(トビを除く)が確認された。このうち、確
認数が多く希少性の高いオオタカとサシバについて、その概要を示す。
表 4.9.1-1
第1回
種名
オオタカ
サシバ
ミサゴ
ハイタカ
ノスリ
ハヤブサ
合計
平成 21 年度調査で確認された猛禽類
第2回
第3回
2月25日~26日
5月16日~17日
6月19日~21日
0
0
5
19
7
1
32
3
11
4
0
1
1
20
3
20
0
0
0
1
24
合計
6
31
9
19
8
3
76
文化財
保護法
-
重要種選定基準
種の
環境省 県レッド
保存法 レッドリスト データブック
掲
NT
VU
VU
NT
NT
NT
NT
NT
掲
VU
VU
-
注)重要種選定基準は当時のものをそのまま掲載
注)重要種の選定基準については、以下の文献に従った。
①文化財保護法(天然記念物)
②「絶滅の恐れのある種の保存に関する法律」における国内希少野生動植物種
③「レッドリスト」
(環境省、2006)選定種
④保全上重要なわかやまの自然 和歌山県レッドデータブック(2001、和歌山県)選定種
注)選定ランクの意味は以下のとおり。
掲:法律で指定されている種.
EX:絶滅,EW:野生絶滅,CR:絶滅危惧ⅠA 類,EN:絶滅危惧ⅠB 類,VU:絶滅危惧Ⅱ類,NT:準絶滅危惧,DD:情報不足,
LP:絶滅のおそれのある地域個体群
①
過年度調査によるオオタカの確認状況
過年度調査では、5 月に 3 例、6 月に 3 例、合計 6 例が確認された。5 月には建設予定地の南東の
尾根上でハシブトガラスにモビングされ、東方向へ飛去する雄成鳥と思われる個体が確認された
(写真 4.9.1-1 参照)。また、調査を実施した 2 日間(5 月 16 日、17 日)ともに、建設予定地東側
の谷入り口の右岸植林へ滑翔して林内へと入っていく様子が 1 例ずつ確認された(写真 4.9.1-2 参
照)。
6 月には建設予定地の谷内から 20 分以上にわたり成鳥の鳴声が聞こえるなどの行動が、3 例確認
された。確認箇所周辺において踏査を行ったところ、建設予定地近隣でコジイに造られた猛禽類の
巣が確認された(写真 4.9.1-3、写真 4.9.1-4 参照)。しかし、巣は崩れかけており、近年繁殖に利
用された形跡はなく、古巣であると判断された。巣の形状や大きさからオオタカが利用していた可
能性があるが、種を特定することはできなかった。その他、建設予定地の谷内を中心に林内を広く
踏査したが、本種による営巣を確認する事はできなかった。
したがって、林内へ出入りする成鳥が確認され、長時間鳴声が確認されたものの、調査を通じて
ペアで確認されることはなく雄成鳥のみの確認であったこと、育雛期後半に踏査を行ったが雛や雌
成鳥の鳴声が確認されなかったことから、調査年次においては当地では繁殖が行われなかったと推
察される。ただし、付近でオオタカの可能性がある古巣が発見されていることから、建設予定地及
び周辺地域を行動圏の一部、特に営巣地として利用していることが示唆された。
オオタカの確認位置及び古巣の位置は図 4.9.1-1 に示すとおりである。
注)希少種の保護の観点から、文章の一部を非公開とした。
4.9-1
注)希少種の保護の観点から、資料の一部を非公開とした。
資料:平成 21 年度最終処分場候補地選定業務報告書 平成 23 年 3 月 財団法人紀南環境整備公社
4.9-2
注)希少種の保護の観点から、図面の一部を非公開とした。
図 4.9.1-1
過年度調査によるオオタカの確認状況
資料:平成 21 年度最終処分場候補地選定業務報告書 平成 23 年 3 月 財団法人紀南環境整備公社
4.9-3
②
過年度調査によるサシバの確認状況
過年度調査では、5 月に 11 例、6 月に 20 例、合計 31 例が確認された。5 月には建設予定地の上
空を含め、調査地内で広く飛翔する様子が確認され、成鳥の雌雄が含まれていた(写真 4.9.1-5、
4.9.1-6 参照)。
確認された個体の多くは、建設予定地の尾根よりも高い高度を飛翔していたが、建設予定地谷内
へと降下していく雄成鳥が 2 例確認された。6 月には建設予定地を中心にペアと思われる成鳥が頻
繁に確認された。建設予定地の谷内へ降下する様子や、尾根上にとまりを繰り返す様子が確認され
たため、前述のオオタカと合わせて踏査を行ったところ、巣立ち前の猛禽類の雛と推定される食痕
が確認された。残されていた上嘴の形状や羽軸から羽毛が伸びきっていない風切羽根から、サシバ
の雛であると推定され、近辺で繁殖していた可能性が示唆されたが、踏査を実施した建設予定地内
及びその周辺では巣は確認する事はできなかった。
以上のことから、サシバは周辺地域で繁殖していたが、巣立ち前の雛が捕食され、繁殖に失敗し
たペアが頻繁に建設予定地付近を飛び回っていた可能性がある。したがって、建設予定地内に巣は
確認できなかったものの、周辺地域を営巣地として利用しており、建設予定地を行動圏の一部とし
て利用しているものと考えられる。
サシバの確認位置及び巣立ち前の雛の食痕の確認位置を図 4.9.1-2 に示す。
注)希少種の保護の観点から、文章の一部を非公開とした。
注)希少種の保護の観点から、資料の一部を非公開とした。
資料:平成 21 年度最終処分場候補地選定業務報告書 平成 23 年 3 月 財団法人紀南環境整備公社
4.9-4
注)希少種の保護の観点から、図面の一部を非公開とした。
図 4.9.1-2
過年度調査によるサシバの確認状況
資料:平成 21 年度最終処分場候補地選定業務報告書 平成 23 年 3 月 財団法人紀南環境整備公社
4.9-5
(2)
現地調査
①
調査項目
以下の 3 点について調査を行った。
・希少猛禽類の生息の有無
・建設予定地における希少猛禽類の利用状況及び繁殖の成否
・過去を含めた営巣地の特定(古巣の探査)
②
調査方法
調査地点に調査員を配置し、8~10 倍程度の双眼鏡及び 20~60 倍程度の望遠鏡を用いて飛翔等
の猛禽類の行動を観察した。各地点間は無線機で連絡を取り合い、より正確な位置の特定に努め、
観察時間、飛行軌跡、指標行動(誇示行動、餌運び、とまり、鳴声等)、個体数、個体の特徴(年
齢・性別、羽の欠損、標識等)を確認し、可能な範囲内で写真を撮影した。また、谷内など視野の
確保が難しい場合は、猛禽類の出現状況に応じて調査地点を固定せずに移動しながら探査・観察を
行った。
定点調査により猛禽類の繁殖の可能性が示唆された場合には、定点調査中に鳴声を確認するため
に踏査することとした。また、育雛期においては、繁殖が示唆される行動がなくても建設予定地を
中心に早朝の踏査を行い、繁殖ペア鳴き交わし等が行われる場所がないか確認調査を行った。林内
踏査は営巣している巣の近くではできるだけ短時間とし、警戒の鳴声や行動があれば、その場は速
やかに離れることとし、営巣の妨げにならないように十分注意して実施した。
写真 4.9.1-7 定点調査状況
写真 4.9.1-8 林内踏査状況
4.9-6
③
調査期間
調査は表 4.9.1-2 に示す日程で実施した。
表 4.9.1-2
調査日程
第1回
6月
第2回
④
7月
第3回
8月
第4回
10月
営巣木
調査
1日
2日
3日
25日
26日
27日
23日
24日
25日
21日
22日
23日
16日
17日
調査日程
実施定点st.
2,12,13,14,移動
10,12,13
12,13,14,移動
13,14,移動
14,15,移動
14,15,16,移動
12,14,20
5,14,18
12,14,19
12,14,15
12,14,15
12,15,19
林内探査・営巣環境調査
林内探査・営巣環境調査
天気
曇のち雨
曇
曇
曇
雨
曇時々晴
晴
晴
晴
晴
晴
晴
晴
晴
調査地点
過年度調査で設定した定点を参考とし図 4.9.1-3 に示す定点を設定した。
調査に際しては、猛禽類の出現状況に合わせ、これらの定点の中から 3 地点/日を選定した。ま
た、谷内など視野が確保しにくい場合には、移動定点(移動観測者)を設けた。
4.9-7
図 4.9.1-3(1/3)調査地点と視野範囲
建設予定地
4.9-8
建設予定地
図 4.9.1-3(2/3)調査定点と視野範囲
4.9-9
建設予定地
図 4.9.1-3(3/3)調査定点と視野範囲
4.9-10
⑤
調査結果
ア
希少猛禽類の確認概要
今回の調査で 2 目 2 科 5 種の希少猛禽類を確認した。
サシバは、春に繁殖のため東南アジアから日本に渡って来る。6 月上旬はペアと思われる動きを
含めて複数例が確認されたが、その後、確認数は減少した。6 月、7 月は育雛期に当たるが、繁殖
を示唆する行動は確認されなかった。
ハチクマはサシバと同様に東南アジアから繁殖のために日本に渡来するが、渡りの時期は、サシ
バよりも遅い。このこともあって 7 月に入ると確認数が増加した。建設予定地の東部で波状ディス
プレイが複数回確認された。しかし、建設予定地と、その近隣地域での繁殖を示唆する動きはなく、
ほとんどの個体は東部へと飛去した。そこで 7 月から東側に定点を設け繁殖地を探ることを試みた
が、ここでも繁殖を示唆する行動は確認されなかった。
確認状況を表 4.9.1-3 に示す。また、確認概要は以下のとおりである。
表 4.9.1-3
目
科
種
ミサゴ
ハチクマ
オオタカ
サシバ
ハヤブサ ハヤブサ ハヤブサ
2目
2科
タカ
タカ
学名
Pandion haliaetus
Pernis ptilorhynchus
Accipiter gentilis
Butastur indicus
Falco peregrinus
5種
希少猛禽類の確認目録
確認例数
重要種選定基準*
第1回 第2回 第3回 第4回
6/1
6/25 7/23 8/21 合計 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ
~3
~27 ~25 ~23
1
1
NT NT
2
11
2
15
NT NT
1
1
国内 NT VU
18
3
2
0
23
VU NT
1
1
2
国内 VU VU
18
5
14
5
42
0
2
5
5
*重要種選定基準
Ⅰ:文化財保護法により天然記念物に指定されている天然記念物、特別天然記念物
特天:特別天然記念物、国天:国指定天然記念物
Ⅱ:絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律における国内希少野生動植物種
Ⅲ:環境省版 第4次レッドリスト(2012、環境省)
EX:絶滅、EW:野生絶滅、CR:絶滅危惧ⅠA 類、EN:絶滅危惧ⅠB 類、VU:絶滅危惧Ⅱ類、NT:準絶滅危惧、DD:情報不足、
LP:地域個体群
Ⅳ:保全上重要なわかやまの自然-和歌山県レッドデータブック(2012 年改訂版,和歌山県)
EX:絶滅、EW:野生絶滅、CR:絶滅危惧ⅠA 類、EN:絶滅危惧ⅠB 類、VU:絶滅危惧Ⅱ類、NT:準絶滅危惧、DD:情報不足、
LP:地域個体群、他①:その他特記種①低地減少種、他②:その他特記種②県調査種
ア)
サシバ
6 月上旬に 18 例確認され、雌雄間の給餌や周辺個体を排除する縄張り行動が確認された。しか
し、2 週間後の 6 月下旬には確認数は 3 例と激減し、その後も数例の確認に終わった。この為、餌
渡しと思われるペア形成の行動が確認されたものの繁殖・育雛を示唆する行動は確認されなかっ
た。
イ)
ハチクマ
7 月に確認数が増加したが、確認のほとんどが雄成鳥であった。
建設予定地傍で波状ディスプレイが数回確認されたが、近隣地での繁殖を強く示唆する行動は
確認されなかった。
ウ)
その他 3 種
確認数は限られ、ディスプレイ等の繁殖を示唆する行動は確認されなかった。
注)希少種の保護の観点から、文章の一部を非公開とした。
4.9-11
イ
サシバの確認状況
ここでは、確認数が最も多かったサシバについて、その確認概要を示す。
本調査による確認状況を表 4.9.1-4 に、確認された飛翔軌跡等を図 4.9.1-4 に示す。
本種は夏鳥として九州から本州の平地から山地の林に渡来し繁殖する。和歌山県内でも夏鳥とし
て各地の平地から山地の林に渡来し繁殖しており、秋の渡りの時期には加太や日の岬などで渡り途
中の個体が観察される。
6 月上旬には 18 例が確認されたが、6 月下旬には 3 例、7 月下旬には 2 例に減少した。ペア行動
と推察された個体の確認は 6 月上旬のみであった。確認されたペア(以下「稲成ペア」という。)
を写真 4.9.1-9、写真 4.9.1-10 に示す。
表 4.9.1-4
個体識別
ペア
性齢
雄成鳥
稲成ペア 雌成鳥
性不明成鳥
雄成鳥
雌成鳥
不明
性不明成鳥
不明
合計
サシバの確認状況
第1回
6/1
~3
4
7
1
2
第2回
6/25
~27
4
18
3
3
確認例数
第3回
7/23
~25
第4回
8/21
~23
2
2
写真 4.9.1-9
サシバ(推定:雄成鳥)
写真 4.9.1-10
サシバ(推定:雌成鳥)
4.9-12
0
合計
4
7
1
2
0
0
9
23
注)希少種の保護の観点から、図面の一部を非公開とした。
図 4.9.1-4
確認されたサシバの飛翔軌跡等
4.9-13
ア) 特筆すべき行動
6 月上旬に繁殖を意識したディスプレイ行動が確認された。
・トレース S-3&S-4
1 羽が高木の枝上で羽ばたき、相手に餌を渡したと思われる。
・S-14、S-15、S-16
サシバ 3 羽で旋回上昇。飛翔中、「ピックィー」と聞こえる鳴声で頻繁に鳴いて、おそら
くペアが侵入個体に対して威嚇し縄張り防衛を行ったものとみられる。また、トビに対して
足を出して攻撃を加え排除した。
イ) 繁殖に関する考察
建設予定地の南部尾根上でとまりを複数回確認した。また、飛翔や鳴声の確認が集中してお
り、ペア形成を行う重要な場所となっていたようである。しかし、6 月下旬以降は、確認数も少
なく、特別な行動も確認されなかった。繁殖地として選択されなかったか、繁殖初期に失敗し
たものと推察される。
ウ
ハチクマの確認状況
本調査による確認状況を表 4.9.1-5、図 4.9.1-5 に示す。また、飛翔個体写真を写真 4.9.1-11 に
示す。
本種は 5 月中旬から下旬に東南アジアから日本へ繁殖のために渡来する。夏季に繁殖を行い秋に
越冬のために東南アジアへと向かう。幼鳥は東南アジアへと向かった後、再び日本に飛来するのは
成熟してからである。営巣には他の猛禽類の古巣を使用することが珍しくない。
6 月上旬には確認されなかったが、6 月下旬から確認されるようになり、7 月に 11 例と最も多く
確認された。
表 4.9.1-5
個体識別
ペア
性齢
雄成鳥
雌成鳥
不明
性不明成鳥
不明
合計
ハチクマの確認詳細
第1回
6/1
~3
0
第2回
6/25
~27
2
確認例数
第3回
7/23
~25
9
2
注)希少種の保護の観点から、文章の一部を非公開とした。
4.9-14
2
11
第4回
8/21
~23
1
1
2
合計
12
0
0
3
15
図 4.9.1-5 ハチクマの飛翔軌跡等
建設予定地
4.9-15
写真 4.9.1-11
ハチクマ(推定:雄成鳥)
ア) 特筆すべき行動
繁殖期にみられるディスプレイ行動については翼打ちをする波状飛翔が複数回確認された。
特筆すべき行動は以下のとおりである。
・トレース Hc-1
翼を背面で合わせ、翼打ちのような行動をとる飛翔ディスプレイを繰り返し行い北へと向かい、
後に南へと反転。ディスプレイを繰り返す。その後は東へと飛去。
・トレース Hc-2
「クイッ」もしくは「ピョッ」と聞こえる鳴声を発しながら、背面で翼打つ飛翔ディスプレイ
を行う。その後、早い羽ばたきを交えて東へ滑空飛去。
・トレース Hc-13
滑翔後に翼を合わせるディスプレイを7~8 回繰り返す(対象不明)。その後、旋回しながらゆ
っくりと移動し東へ飛去。
イ) 繁殖に関する考察
建設予定地の東部、または東方で翼打ちのディスプレイが複数回確認された。多くはその後、
東へ飛去している。出現した個体のほとんど(すべての可能性もある)が雄成鳥であり、雄同
士の縄張り主張を示すディスプレイであった可能性がある。東部に観測定点を設けたが、繁殖
を示唆する行動は確認されなかった。建設予定地から東へ離れた場所に繁殖地が存在する可能
性があるが、建設予定地及びその近隣地において繁殖活動はなかったと推察される。
エ
ハヤブサの確認概要
本調査で確認された飛翔軌跡等を図 4.9.1-6 に示す。
ハヤブサは日本では渡りを行わない留鳥で、岩場やビル等の人工構造物の雨をしのげる場所で繁
殖する。巣材を積み上げる巣は造らず、地面に直接産卵する。
ア)
特筆すべき行動
7 月と 8 月に其々1 回(共に性不明の成鳥)、合計 2 回確認された。いずれも高空を旋回移動また
は飛翔通過するもので、特筆すべき行動は確認されなかった。
4.9-16
注)希少種の保護の観点から、図面の一部を非公開とした。
図 4.9.1-6 ハヤブサの飛翔軌跡等
建設予定地
4.9-17
オ
オオタカの確認状況
本調査による飛翔軌跡等を図 4.9.1-7 に示す。
本種は留鳥として日本各地に生息しており、四国の一部及び本州、北海道、九州の広い範囲で繁
殖する。また、秋から冬になると高地や山地に生息するものの一部は低地や暖地に移動するとされ
る。
本調査では 8 月に一度だけ確認された。
コシアカツバメの群れ(約 10 個体)が一斉に飛び立ったことで発見し、斜面を低空で羽ばたき
飛翔した。その後、尾根上空で旋回上昇し北西へ急降下した。狩りを行ったものと推察された。
ア)
繁殖に関する考察
確認されたのは性不明の幼鳥で、今年生まれの個体と推察された。確認は建設予定地から 300m
ほど離れた東部山林で、単独で狩りを行っていた。調査を実施した 8 月中旬は幼鳥が親の繁殖テ
リトリーから離れ始める時期であり、移動分散個体と推察された。このため、近傍地域で繁殖が
行われた可能性がある。本調査では建設予定地内と近傍に調査定点を設けていたが、この例のみ
の確認であった。このことから建設予定地とその近傍地は繁殖場所として利用されていないと推
察される。
カ
ミサゴの確認状況
本調査による飛翔軌跡等を図 4.9.1-8 に示す。
ミサゴは世界に広く分布し、日本では留鳥として全国に生息するが、北日本では冬季に少なく、
南西諸島では夏に少ない。越冬期は南へ、繁殖期は北へと季節移動する傾向にある。魚類を主食と
していることから海岸付近に生息するものが多く、内陸では、ダムや大きな河川を利用する。海岸
近くでは、しばしば営巣コロニーを作る。
本調査では、6 月上旬に建設予定地の北西にて、集落上空付近を羽ばたきながら飛翔を確認した
のみであった(性別年齢不明個体)
。
注)希少種の保護の観点から、文章の一部を非公開とした。
4.9-18
注)希少種の保護の観点から、図面の一部を非公開とした。
図 4.9.1-7 オオタカの飛翔軌跡等
建設予定地
4.9-19
図 4.9.1-8 ミサゴの飛翔軌跡等
建設予定地
4.9-20
キ
営巣木探査の結果
本調査では建設予定地とその周辺域において希少猛禽類の繁殖を示唆する行動は確認されなか
ったが、巣の有無を明確にすべく探査を行った。その結果を図 4.9.1-9 と表 4.9.1-6 に示す。踏査
により猛禽類の古巣が 5 カ所で確認された。
・巣 1、巣 2 は巣サイズと営巣選択された樹冠形態からサシバの可能性が高い。ペレットや糞、
羽根等の利用痕が見当たらず、巣材の枝に葉が残っていないことから今年の利用はなかったと
推察される。
・巣 3 は、巣サイズと樹冠下の空間、樹冠構造、営巣環境からオオタカ(またはそれを再利用し
たハチクマ)の巣の可能性がある。ペレットや糞、羽根等の利用痕が見当たらず、巣材の枝に
葉が残っていないことから今年の利用はなかったと推察される。
・巣 4 巣も巣サイズと営巣選択された樹冠形態からサシバ(またはそれを再利用したハチクマ)
の可能性が高い。巣材の枝に葉が多く残っていることから今年巣材を積んだ可能性がある。し
かし、ペレットや糞、羽根等の利用痕が見当たらなかったことから今年繁殖に用いたとしても
早期に失敗・放棄したものと推察される。
・巣 5 は、巣サイズと営巣環境からオオタカ(またはそれを再利用したハチクマ)の巣の可能性
がある。しかし、ペレットや糞、羽根等の利用痕が見当たらなかったことから今年の利用はな
かったか、初期に枝葉を積んだが、繁殖に至らず早期に失敗・放棄した可能性が高い。
表 4.9.1-6
確認巣
項目
推定営巣種
巣1
巣2
サシバ
サシバ
巣3
巣4
巣5
オオタカ
サシバ
オオタカ
(またはハチクマ) (またはハチクマ) (またはハチクマ)
前年以前
今年使用?
前年以前
利用時期
前年以前
前年以前
北緯
東経
標高(m)
33°44'57.0
135°22'03.2
89
30
33°44'58.4
135°22'03.2
105
26
33°44'58.9
135°22'03.2
111
18
33°45’17.5
135°22'09.6
97
5
33°44'57.0
135°22'03.2
71
35
谷上部左岸
コジイ
26
浅谷上部
コジイ
35
浅谷上部
コジイ
54
浅谷中部
スギ
35
谷中部左岸
コジイ
46
3本の萌芽
15
8
単木
22
9.5
単木
22
5.5
単木
17.5
12
単木
21
10
傾斜度(°)
地勢
営巣樹種
胸高直径(cm)
樹形
樹高(m)
枝高(m)
巣高(m)
巣のタイプ
巣サイズ(縦×横×厚cm)
巣材と状態
ペレット・糞・羽根
コドラートサイズ(m)
高木層
植
生
確認された巣の概要
亜高木層
低木層
草本層
注)希少種の保護の観点から、表の一部を非公開とした。
13.5
15.5
15
14
19
4分枝又型
6分枝又型
4分枝又型
主幹型(4分枝支) 主幹型(分枝部)
40×30×20
50×35×20
80×75×40
70×45×20
85×85×40
枝径は1cm未満 アカマツ枝が主。 アカマツ枝が主。 ヒノキとスギが主。 針葉樹の枝が主。
で細い。アカマツ 枝の葉は全て脱 枝は枯れ葉は全て 葉の多くが枝に残 スギの葉が僅かに
る。
枝に残る。
枝が主。
落。
脱落。
無
無
無
無
無
10×10
10×10
10×10
10×10
10×10
植被率(%)
樹高(m)
植被率(%)
80(4本)
15-18
20(3本)
90(6本)
20-22
10(1本)
85(4本)
20-22
10(3本)
70(4本)
17-19
20(4本)
80(5本)
20-21
20(6本)
樹高(m)
植被率(%)
樹高(m)
12-13
65
3-9
13
40
2-5
11-12
40
4-9
13-14
60
2-7
16-17
70
2-7
植被率(%)
40
5
7
30
溜池の近く
7
備考
注)希少種の保護の観点から、文章の一部を非公開とした。
4.9-21
注)希少種の保護の観点から、図面の一部を非公開とした。
図 4.9.1-9 踏査ルートと古巣の確認位置
建設予定地
4.9-22
ア)
各巣の概要
・確認巣1
崩壊によりギャップが生じており、森林内への進入が容易にできる。巣は高木層樹冠の上部にあ
り、分枝が発達したところが選ばれていた。入り組んだ樹冠と巣の厚みがないことからサシバの巣
である可能性が高いと推察される。
営巣環境を写真 4.9.1-12 に、巣の様子を写真 4.9.1-13 に示す。
東←
写真 4.9.1-12
→西
北←
営巣環境
→南
写真 4.9.1-13
4.9-23
巣の様子
・確認巣2
亜高木層と低木層の木々は少なく、高木層の林冠の下は広く開いた構造になっている。巣は樹冠
下部の分枝が発達したところが選ばれていた。入り組んだ樹冠内に巣があることと巣の厚みがない
ことからサシバの巣である可能性が高いと推察される。営巣環境を写真 4.9.1-14 に、巣の様子を
写真 4.9.1-15 に示す。
東←
→西
写真 4.9.1-14
北←
営巣環境
→南
写真 4.9.1-15
4.9-24
巣の様子
・確認巣3
亜高木層と低木層の木々は少なく、高木層の林冠下は猛禽類が飛翔し易い空間が開いた構造にな
っている。巣は樹冠下部の主幹が4つに分岐したところが選ばれ、林冠下の空間の広さ(林内飛翔)
を意識したところが選ばれていた。巣のサイズと合わせて検討するとオオタカの巣である可能性が
高く、ハチクマが他の猛禽類の古巣を再利用したことで大型化した可能性もある。営巣環境を写真
4.9.1-16 に、巣の様子を写真 4.9.1-17 に示す。
東←
写真 4.9.1-16
→西
北←
営巣環境
→南
写真 4.9.1-17
4.9-25
巣の様子
・確認巣4
高木層のスギは間伐が行われたようで立木密度は高くない。巣はスギ高木の樹冠中央部に設けら
れていた。亜高木層が少なく林冠下に猛禽類が飛翔し易い空間が広く開いた構造になっている。こ
の点はオオタカが営巣地として好む条件ではあるが、巣のサイズが小さく厚みが薄いことからサシ
バの可能性が高い。また、サシバの巣としてはサイズ(縦・横)が大きいことからサシバの古巣を
ハチクマが再利用して大型化した可能性もある。営巣環境を写真 4.9.1-18 に、巣の様子を写真
4.9.1-19 に示す。
東←
→西
写真 4.9.1-18
南←
営巣環境
→北
写真 4.9.1-19
4.9-26
巣の様子
・確認巣5
高木層、亜高木層、低木層は比較的多く、林冠、林内は込入っている傾向にある。巣はコジイの
高木の樹冠上部にあり、主幹が上部で細かく枝分かれするところに設けられていた。オオタカの営
巣地としては、林冠下と林内の木々が混んでいるが、巣が大きく、そのサイズと営巣位置からオオ
タカのものである可能性が高い。営巣環境を写真 4.9.1-20 に、巣の様子を写真 4.9.1-21 に示す。
東←
写真 4.9.1-20
→西
北←
営巣環境
→南
写真 4.9.1-21
4.9-27
巣の様子
4.9.2
1)
予測
予測項目
予測項目を表 4.9.2-1 に示す。
表 4.9.2-1
段階
工事の実施
2)
猛禽類に係る予測項目
影響要因
建設工事
予 測 項 目
注目すべき種の生息環境の改変の程度
及び内容
予測地域及び予測地点
建設予定地とその周辺地域とした。
3)
予測方法
現地調査結果及び事業計画の内容に基づいて変化の程度を推察し、定性的に予測した。
4)
希少猛禽類の確認に基づく特記事項
・過年度調査により、オオタカの営巣木の可能性がある古巣が建設予定地の近傍に存在し、鳴声や
出現状況から行動圏の一部と推察された。また、サシバの利用が建設予定地においても確認され、
オオタカに捕食された可能性のあるサシバの雛の死骸も見つかったことから、サシバが近隣地域
で繁殖していたことが示唆された。
・本調査では希少猛禽類 5 種が確認されたが、繁殖期のディスプレイが確認されたのは、サシバと
ハチクマだけであった。雌雄の出現、ペアの飛翔活動が確認されたのは、サシバだけであった。
・サシバは、6 月上旬には建設予定地南部で求愛、給餌やディスプレイ飛翔等のペアによる縄張り防
衛行動が確認されたが、その後、繁殖活動は確認されず、建設予定地と近傍地では繁殖は行われ
なかった。
・営巣木探査により建設予定地内で 1 個(推定サシバ)、近傍地で 2 個(推定サシバとオオタカ)、
周辺域で 2 個(推定サシバとオオタカ)の巣が確認されたが、今年繁殖に利用されたものは無か
った。
・希少猛禽類による建設予定地の利用頻度は極めて低く、6 月上旬のサシバのペア形成以降は、サシ
バとハチクマそれぞれ数例の確認であったが、サシバについては少なくとも建設予定地を狩場と
して利用していると推察された。
注)希少種の保護の観点から、文章の一部を非公開とした。
4.9-28
5)
予測結果
予測結果を表 4.9.2-2 に示す。
表 4.9.2-2
事業による希少猛禽類への影響予測
種名
ミサゴ
ハチクマ
タカ科
オオタカ
工事の実施
生息が確認された地点は建設予定地から離れている。また、建設予定地内に
は本種の生息適地となる規模の大きな溜池や河川はない。そのため影響はない
と予測される。
建設予定地内と近隣地域で複数の出現が確認され、最低3羽が生息していた
が、いずれも雄であった。確認のほとんどは7月で、他の月はわずかな出現で
あった。また、建設予定地の近傍では、本種の古巣の可能性があるものが確認
された。建設予定地の谷のほとんどが果樹園として利用されており、繁殖期に
おいても人の出入りや農作業が行われている。残置森林のほとんどは広葉樹若
齢林もしくはスギ-ヒノキ人工林であり、生息適地はほとんどないと推測され
る。出現状況、人の土地利用、そして環境の面から影響はほとんどないと予測
される。
過年度調査において営巣を示唆する行動があり、建設予定地近傍でオオタカ
のものと推察される古巣が確認されたことから過去の利用があったことが示唆
された。このため潜在性はあるものの高速道路の開通等により周辺環境が大き
く変化しており、生息適地に該当しないと推察される。現況調査では、近傍地
域を含めて利用が確認されず、8月に移動分散中と推定される若齢個体1羽が建
設予定地から離れた場所で確認されたのみであった。よって影響はほとんどな
いと予測される。
注)希少種の保護の観点から、表の一部を非公開とした。
サシバ
ハヤブサ科 ハヤブサ
建設予定地で6月上旬にペア形成の行動が確認された。その後、ほとんど確認
がなく、繁殖初期の段階で失敗したと推察される。また、建設予定地内に1つ、
近傍に1つの古巣が確認されており、繁殖地として利用してきたか、その潜在性
を有していると考えられる。工事の実施による影響として狩場、営巣地の減少
が予測されるが、同様の環境は周辺に広く分布しており、影響はさほど大きな
ものではないと考える。
生息が確認された地点は建設予定地から離れている。また、建設予定地内に
は本種の生息適地はない。そのため影響はないと予測される。
4.9-29
4.9.3
影響の分析
1)
影響の分析方法
影響の分析は、希少猛禽類に関する影響が事業者の実行可能な範囲で回避又は低減されているも
のであるか否かについて評価することにより行った。
環境保全目標は、「希少猛禽類への影響を可能な限り低減し保全する」ものとした。
(1) 環境の保全のための措置
建設予定地は以前から広く果樹園としての利用されており、その影響を回避できる地形や十分な
距離がある場所に営巣地が設けられていた。
本調査では、建設予定地とその近傍地を繁殖地として利用した希少猛禽類は確認されなかったが、
建設予定地と近傍地でサシバやオオタカ(もしくはハチクマ)のものと思われる古巣が確認された
ことから、営巣地への影響を出来るだけ低減する必要がある。
建設予定地西部の谷(巣1が存在する)は、改変を避けることはできないが、その他の巣は建設
予定地の北方でも確認されており、事業の実施が近隣営巣地に及ばないように計画されている。
環境の保全のための措置を以下に示す。
・古巣が見つかった建設予定地北方の谷に影響が及ばないように、北部の残置森林を確保する。
・法面は早期の種子吹き付けなどの緑化を行う。
注)希少種の保護の観点から、文章の一部を非公開とした。
4.9-30
2)
影響の分析結果
影響の分析の結果を表 4.9.3-1 に示す。
表 4.9.3-1
種
ミサゴ
ハチクマ
オオタカ
サシバ
ハヤブサ
評価
○
○
○
○
○
注目すべき種等の影響の分析結果
工事の実施
環境保全目標
建設予定地周辺を生息地として利用している可能性はなく、影響は生じな
いと予測されたことから、環境保全目標は達成される。
建設予定地と周辺地域で雄の生息が確認されたが、繁殖に関わる情報は得
られなかった。生息適地はほとんどないと推測され、出現状況、人の土地利
用、そして環境の面から影響はほとんどないと予測されることから、環境保
全目標は達成される。
なお、建設予定地内の草地や樹林環境が一部消失することにより、餌場の
減少または質の低下が生じさせないため、可能な限り早期の緑化を行い、動
物群集の早期回復を図る環境保全措置を講じることとする。
建設予定地周辺ではオオタカの生息、営巣の潜在性はあるものの、高速道
注)希少種の保護の観点から、表の一部を非公開とした。
路の開通等により周辺環境が大きく変化しており、生息適地に該当しないと
推察されたことから、環境保全目標は達成される。
なお、ハチクマの項で示したとおり、可能な限り早期の緑化を行い、動物
群集の早期回復を図る環境保全措置を講じることとする。
今期の調査でペア形成の行動が確認され、古巣も確認されたことから、繁
注)希少種の保護の観点から、表の一部を非公開とした。
殖地としての潜在性を有していると考えられるが、残置森林の確保により、
環境保全目標は達成される。
なお、ハチクマの項で示したとおり、可能な限り早期の緑化を行い、動物
群集の早期回復を図る環境保全措置を講じることとする。
建設予定地周辺を生息地として利用している可能性はなく、影響は生じな
いと予測されたことから、環境保全目標は達成される。
評価:○環境保全目標は達成される。
4.9-31
希少猛禽類へ
の影響を可能
な限り低減
し、保全する