対馬におけるツマアカスズメバチ 株式会社 代表取締役 1. 明誠 佐藤つかさ はじめに 以前からツマアカスズメバチには興味を持っており、実物をこの目で見たいと思っていたのだ が、平成 26 年 9 月、某テレビ局によるツマアカスズメバチの取材に、なぜか高所作業車オペ レーターとして同行させてもらえることになった(笑)ので報告させて頂く。 今後、本州にも生息域を拡大してくる可能性があり、もし、そのようなことがあった場合は、 この報告を参考にして頂ければ幸いである。 なお、同行した際にお会いした、九州大学農学研究院・上野高敏准教授、対馬市役所自然共生 課・荒木静也課長とお話しさせて頂いた内容を元に作成しています。 2. 長崎県対馬 九州北部の玄界灘に位置し、大小 100 以上の島々からなる対馬列島の中で、日本で 10 番目の 大きさを誇る島が長崎県の対馬である。 約 700 平方キロメートルと東京 23 区よりもやや大きく、対馬の北部は韓国の釜山まで約 50km、 福岡までは約 130km という場所に位置し、長崎県ではあるが、長崎よりも福岡の方が近いた め、対馬の島民はフェリーが就航している福岡に出かけることが多い。 島のほぼ全域にリアス式の海岸が連なり、非常に崖の多い、平地がほとんどない土地で、人口 は約 33000 人であるが、残念ながら年々島の人口は減少している。 対馬市の観光誘致の甲斐あって、韓国の釜山との定期連絡船就航、ビザ申請の簡素化、島内の 標識や看板など至る所にハングル文字があふれており、年間 68 万人と言われる観光客の大半 が韓国人で、その経済効果は 20 億円以上といわれている。 日中に見かけるのはほとんど韓国人観光客で、ハイキングの格好のままフェリーから下りてき て、対馬の山登りを楽しんでいる人や、わざわざ免税品を買うために日帰りで対馬を訪れる強 者もいる。 対馬の位置(Wikipedia より) 3. 対馬市内の繁華街 ツマアカスズメバチの侵入 ツマアカスズメバチは、中国、タイ、ベトナム、インドネシア、台湾などに生息していたが、 2003 年に韓国の釜山に侵入したと言われており、現在ではかなりの生息数が確認されているの だが、日本では、長崎県の対馬で 2013 年 8 月に養蜂家から「見たことのないスズメバチが飛 んでくる」という報告があり、大学の先生によって、移入種と思われるツマアカスズメバチが 生息していることが初確認された。 1999 年に釜山と対馬を結ぶ定期船が就航したことによって、その荷物などに紛れていたツマア カスズメバチの繁殖個体が対馬に移り住んだのではないかと言われている。 2011 年~2012 年頃に対馬に侵入してきたものと推測されており、この年あたりから対馬の名 産であるニホンミツバチの被害が深刻化している。 この対馬では、セイヨウミツバチは生息しておらず、ニホンミツバチの繁殖は当然のことなが ら、ハチミツ作りも盛んであり、島内の至る所に天然木で作成した巣箱が置かれている。 キイロスズメバチなどに対抗する、ミツバチの防御「熱殺ハチ玉」は有名だが、このツマアカ スズメバチは空中でホバリングをして、帰宅してきたミツバチを捕獲するため、巣への侵入者 に対する「熱殺ハチ玉」で対抗することができず、あっという間に巣が壊滅状態に追い込まれ てしまう。 当然、市役所もこの状態に指を咥えて見ているだけではなく、営巣の通報があるたびに迅速に 駆除対応を行ってきた。 在来のスズメバチ駆除については、市では対応を行っておらず、ツマアカスズメバチの駆除に ついては、市役所の職員が無料で行っている。 昨年 10 月からの巣の確認は 56 個、駆除は 24 個、今年については 10 月までで確認 79 個、駆 除 50 個である。 4. ツマアカスズメバチの生態 ツマアカスズメバチの大きさは、 ツマアカスズメバチの大きさは キイロスズメバチとほぼ同等かやや大きめ キイロスズメバチとほぼ同等かやや大きめで、 で、 全体的に黒く、 全体的に黒 おしりの先端が赤褐色になって おしりの先端が赤褐色になっていることから から「ツマアカ ツマアカ」と言われている と言われているのだ のだという。 という。 巣の形状は在来スズメバチとは違い、球形と言うよりは、かなりいびつな形状 巣の形状は在来スズメバチとは違い、球形と言うよりは、かなりいびつな形状 在来スズメバチとは違い、球形と言うよりは、かなりいびつな形状で、複雑に枝を 複雑に枝を 巣に絡ませて作っていることが多く、巣の出入り口はなぜか上を向いていることが多い。 巣に絡ませて作っていることが多く、巣の出入り口は 上を向いていることが多い。 木の枝に作られたツマアカスズメバチの巣 営巣の場所としては、キイロスズメバチと同じく初期は低い場所に作るのだが、途中から引っ 営巣の場所としては、キイロスズメバチと同じく初期は低い場所に作るのだが 、途中から引っ 越しをして 20 メートル以上の高い崖や木の枝 メートル以上の高い崖や木の枝、マンションの高層階 、マンションの高層階 、マンションの高層階などに営巣す 営巣する。 市役所の職員は駆除を行う際、崖や高い木に登らなくてはならず、非常に苦労して 市役所の職員は駆除を行う際、崖や高い木に登らなくてはならず、 崖や高い木に登らなくてはならず、 苦労しており、この おり、この 種が都会に流入した場合、さらに駆除が困難になるものと予想される 種が都会に流入した場合、さらに駆除が困難になるものと予想される。 攻撃性はキイロスズメバチとさほど変わりない 攻撃性はキイロスズメバチとさほど 変わりないと言われているが と言われているが 巣の入り口が上を向いてい と言われているが、巣の入り口が上を向いてい たり、高所に営巣しているせいか、巣の真下に行った場合でも、 たり、高所に営巣しているせいか、 巣の真下に行った場合でも、それほど積極的に地上の人間 巣の真下に行った場合でも、それほど積極的に地上の人間 を襲ってくることは少ないと感じた。 一つの巣にいる個体は、多いときには 万匹を超えると言われており、巣の最大長は確認され 一つの巣にいる個体は、多いときには数万 を超えると言われており、巣の最大長は確認され ているもの もので 2 メートルを超えている。 ツマアカスズメバチの女王 5. 生息域の拡大 対馬でツマアカスズメバチの生息が確認されたことによって、早急な駆除を行わなければなら なくなったが、先述したように難所への営巣によって駆除作業が非常に困難であり、さらなる 生息域の拡大が懸念されている。 当初は島の北部のみの生息であったが、1 年後には南部でも確認されており、生息域が猛烈な 早さで島全体に広がってしまったことがわかる。 また、対馬市役所自然共生課の荒木課長が、 「このスズメバチは対馬で食い止めなければならな い」と言っていたが、その言葉の力強さが非常に印象的であった。 このスズメバチが、対馬から九州の福岡などへ生息域を拡大した場合、あっという間に本州ま で広がっていってしまうであろうことは容易に想像でき、また、駆除に携わる我々にさまざま な困難を与えてくるであろう。 中国や韓国に生息していることから、寒さに強いのは言うまでもなく、場合によっては東北な どの寒い地域でも定着ができるのかもしれない。 ツマアカスズメバチのワーカー 6. ツシマヤマネコ?の公衆トイレ 対策として・・・ 昨年より環境省等の機関によって対馬で調査が行われ、来年度より対馬市役所と環境省と連携 して駆除が行われるという。 しかしながら、ツシマヤマネコの対策も行っており、ツマアカスズメバチのために人員を増強 することもままならず、駆除に関しては県外からの御者も視野に入れた競争入札によって、駆 除業者を選定することになるという。 また、環境省では外来生物法における指定生物の見直しを行っており、来年の 2 月をめどに特 定外来生物の指定になるだろうと言われている。 もし、我々の生活している関東圏に入ってきた場合は、どのように対処すれば良いだろうか? 営巣場所は、高い木や崖、マンションの上層階などが多く、容易に巣の撤去・駆除が行える場 所ではないことから、越冬から醒めた女王が最初に営巣する頃から、引っ越しを行うまでの初 期の段階で捕獲を目指すべきではないだろうか。 たとえば市販されているものや自作のものがあるが、スズメバチトラップを利用するのもいい だろう。 以前、スズメバチトラップによる駆除効果(情報発信 47 号参照)にも投稿したことがあるが、 ある一定の効果が得られていることから、営巣初期の段階ではこのツマアカスズメバチにも効 果があると考えている。 いずれにせよ、まだ毒性の強さなどもあまり知られておらず、関東圏に侵入してきた際には、 いち早く対処するとともに、細心の注意を払う必要があるだろう。 また特定外来生物への指定により扱いが困難になる可能性もあり、今後の動向に注目するべき である。
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