排卵前のエストラジオールと胚の生存性および妊娠の成立への影響

JA全農ET研究所ニュース
平成27年10月号
厳しい暑さも過ぎ、肌寒くすら感じられるようになりました。これからようやく繁殖性が向上してくる時期かと思います。
今回は、エストラジオールが妊娠にどのように影響するかを調査した報告をご紹介したいと思います。
排卵前のエストラジオールと胚の生存性および妊娠の成立への影響
(Effects of preovulatory estradiol on embryo survival and pregnancy establishment in beef cows)
Crystal A, Madsen et al., Anim.Reprod.Sci. 158(2015) 96-103
背景
排卵前の血中エストラジオール濃度が、受胎率に影響するといわれています。
しかし、エストラジオール(E2)がどのように影響するかは他の要因への影響が大きく評価できませんでした。
この研究では卵巣切除牛を用いてE2が胚の生存性や妊娠成立にどのように影響するかを調査しました。
材料と方法
卵巣切除した交雑種の肉用経産牛 24頭を2つの試験区(ECP区、EB区)と対照区(E2投与なし)に分け使用
下記のホルモン処置により発情前後の状態を模し、試験区ごとにE2を処置しGnRHの7日後にET
試験区
①
PG
ECP
試験区
②
EB GnRH
プロジェステロン
(漸増投与)
ET
CIDR
-9
妊娠鑑定
(エコー)
採血
CIDR
-2
-1.5
-0.5
0(発情)
3
6
7
29
ECP:シピオン酸エストラジオール
EB:安息香酸エストラジオール
ET後、D29でエコーで妊娠鑑定。またその間に採血をおこない血中の妊娠に関連する遺伝子(ISGs)、およびタンパク
質(PSPB)を測定して妊娠の可否を確認
結果と考察
E2の投与に影響ない
それぞれの区で有意差はないが
ECP+EBでは対照区より高い傾向(P=0.08)
D29妊鑑:胎子の心拍をエコーで確認
ECP, EB>対照区 (P<0.05)
38
33
33
21
25
29y
25
ECP
21y
)
PSPB:胎盤に発現するタンパク質
着床および妊娠を反映
受胎率 %(
ISGs:胚のINF-τにより発現する遺伝子
胚の生存を反映
8
ISGs
PSPB
4z
EB
対照区
D29妊鑑
(p<0.05)
図1 各項目における試験区ごとの受胎率
E2がなくとも胚は発育するが、一方でE2感作がないと着床に影響し妊娠は成立しない
排卵前のエストラジオールへの感作が妊娠には必要であることが明確になりました。この報告から考えますと、ETで
あっても卵胞の発育やE2濃度が不十分であれば受胎性は低くなる可能性があります。排卵前のE2濃度の測定や E2
の投与を試してみるのも面白いかもしれません。
文責 白澤