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福島第一原発汚染水対策と廃炉に向けて地質・地下水の実態解明を求める
2011 年 3 月の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所(以下,福島第一原発)の事故発
生から 4 年半が過ぎようとしているが,福島県では約 11 万人が県内・県外に避難している.福島
第一原発の放射性物質による汚染水問題は解決しておらず,度重なる汚染水漏れや汚染水の海洋
流出により,地元住民や漁業関係者をはじめ国民の不安・不信や風評被害への懸念が続いている.
汚染水対策である陸側遮水壁(凍土壁)の海側ラインの工事は地下埋設物が多数存在するため
遅れており,2015 年 4 月から始まった凍土壁の一部区間での試験凍結はうまくいかず,温度のバ
ラつきや予想外の地下水位変動が起きている.地下水バイパスは当初想定していなかった汚染水
の混入が認められ,計画通りの役割を果たしていない.また,国の廃炉・汚染水対策関係閣僚会
議は,地下水が流入する建屋壁面の貫通部のうち,止水可能な建屋貫通部は速やかに止水すると
しているが,建屋壁面の貫通部は多数存在するため,完全な止水は困難であると予想している.
そのため,陸側遮水壁や敷地舗装等で地下水位を低下させ,建屋内の水位も周囲の地下水位との
差を維持しながら下げるとしている.とけ落ちた核燃料は常に安定的に冷却しなくてはならず,
廃炉作業着手のためには高濃度汚染水の増加を抑え,しかもその流出を絶対に防がなくてはなら
ない.
こうした慎重かつ失敗が許されない作業を安全かつ着実に進めるためには,当然のことながら
地質や地下水の詳細な実態解明が必要である.しかし,東電や国のこれまでの調査や対策のやり
方をみると,地質や地下水の調査が不十分であり,複雑な地質状況や地下水の分布・流動状況を
十分に把握しないまま単純化して取り扱い,対策の立案や施工を行ってきた.地質や地下水の実
態解明をおろそかにすることは,現場の状況をさらに悪化させる危険がある.しかも,東電の地
質や地下水に関する基本的な情報や観測データの公表は不十分である.そのため,現在進められ
ている対策の妥当性や効果を客観的に評価・確認することが難しい.
福島第一原発の汚染水対策や廃炉作業を安全かつ着実に進めるために,我々は,国や東電に対
して,福島第一原発の敷地および周辺地域の地質や地下水の実態を詳細に解明して公表し,それ
をすべての対策や作業に反映させることを求めるものである.
2015 年 8 月 22 日
第 69 回地学団体研究会総会(糸魚川)