第 11 回 担当:泊 Case 3

<第 11 回 担当:辛島 Case 18-2015>
<解説>
【Differential diagnosis】
D 病院での discussion
Dr.Mary E.Cunnane:造影頭部 MRI 水平断で蝶形骨洞や左眼窩尖から左海綿静脈洞にかけて T1WI、
T2WI で共に周囲と等信号な軟部陰影を認めます。その軟部陰影は冠状断では海綿静脈洞からメッ
ケル腔、卵円孔にかけて広がっていることがわかります。
Dr.Campbell:造影頭部 MRI の結果、本患者は当院(D 病院)を受診しました。現在、本人はイブ
プロフェン内服で左眼窩周囲の疼痛が少し和らいだと言っています。発熱、盗汗、胸痛、排尿障害、
下痢、掻痒感、筋肉痛、関節痛、体重減少はありません。これまでにレボチロキシン、カルシウム
製剤、アスピリン、イブプロフェンの内服歴があります。
Dr.Suzanne K.Freitag:この患者は数週間にわたって、間欠的な神経学的所見を認めています。所
見は第 II、III、V2、VI 脳神経に及んでいます。これらの神経学的所見と画像所見から、左海綿静
脈洞と左眼窩尖に病変が局在していることがわかります。画像上の副鼻腔炎は軽度です。画像を詳
しく見ると、左眼窩尖の軟部陰影は周囲の筋を鼻中隔と篩骨迷路の周囲まで巻き込んでいますし、
軟部陰影そのものが海綿静脈洞、硬膜、翼口蓋窩、視神経管に浸潤しているようにも見えます。本
患者の鑑別診断では、周囲の組織を巻き込み複数箇所に浸潤するような病変をまず第一に疑います。
●ムコール症
免疫不全に伴って起こる重症真菌感染症である。血行性の軟部組織感染によって副鼻腔炎、外眼筋
麻痺、視力低下が起こる。画像所見が乏しいにも関わらず、重篤な症状を起こすこともある。直ち
に内視鏡的に鼻腔から副鼻腔にかけての壊死組織を除去する必要がある。ムコール症が疑わしけれ
ば生検と培養検査を行い、結果が出る前に抗真菌薬を投与すべきである。本症例では鼻腔内にムコ
ール症を疑う所見はなく、否定的である。
●軟部組織感染
鼻腔内の蜂窩織炎は細菌感染症を伴い前頭洞と篩骨洞に広がることが多いが、通常は顔面外傷、頭
頸部膿瘍、涙嚢炎から波及する。起因菌は溶連菌やブドウ菌である。本症例では慢性副鼻腔炎の既
往歴があり、入院 5 週間前の C 病院の頭部 CT で両側上顎洞の液体貯溜を認めていた。このとき処
方された抗菌薬のために症状の進行が緩徐になっている可能性もある。しかし、本症例では感染兆
候がなく、発熱や白血球増多もないため、否定的である。稀なものとしては結核感染などの抗酸菌
感染も鑑別に挙がり、血行性あるいは経鼻的に眼窩尖に肉芽腫を形成することがある。本症例では
結核感染で見られる咳嗽、発熱、盗汗などはなく、否定的である。
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<第 11 回 担当:辛島 Case 18-2015>
●炎症性疾患
IgG-4 関連疾患、サルコイドーシス、多発性肉芽腫性血管炎などの疾患がある。一番最初の症状が
頭痛で、後に間欠的な神経症状や突発する左眼窩周囲の疼痛を伴っており、症状が一定しないこと
からもこれらの疾患が鑑別に挙がる。抗核抗体、抗 SS-A 抗体が陽性である点も重要である。本症
例では全身症状に乏しすぎるうえ、ぶどう膜炎、涙嚢炎、呼吸器症状がなく、腎機能障害を示唆す
る所見もないため、否定的である。
●腫瘍性病変
あらゆる悪性腫瘍が本症例のような症状を引き起こす。脳神経障害が複数あり、画像所見は頭蓋内
外両方の病変を示唆していることも腫瘍性病変を疑う契機となる。鼻咽頭腫瘍、扁平上皮癌、メラ
ノーマなどが鑑別に挙がるが、本症例では経過中に画像所見のない時期もあったこと、病変の広が
りが浸潤性であること、軟部組織、筋肉、骨など様々な組織に病変が波及していることから、リン
パ腫の可能性を考える。転移性腫瘍の可能性も考慮する必要があり、頭頸部への転移では乳癌、前
立腺癌、肺癌、腎細胞癌、消化器癌、メラノーマを考える。眼窩への転移性腫瘍の約 20%は原発
巣が不明であると言われており、たとえ全身症状がなくても原発巣がないとは限らない。頭蓋内の
腫瘍性病変では髄膜腫も鑑別に挙がるが、複数の脳神経障害が出ている点ではやや可能性が低い。
本症例では、リンパ腫が最も疑わしい。
Dr.Eric S.Rosenberg(病理医):Dr.Yoon、診察時点でのあなたの印象はいかがでしたか。
Dr.Michael K.Yoon:重症真菌感染症、リンパ腫、免疫炎症性疾患を考えました。全身状態は良好
で、免疫不全がないことから重症真菌感染症は否定的でした。免疫炎症性疾患は各疾患の典型的な
症状に欠けており否定的でした。画像では複数の組織に病変が広がっており、症状も間欠的であり、
リンパ腫を最も疑います。経鼻的に生検を行うことにします。
【Clinical diagnosis】
リンパ腫
【Pathological discussion】
左篩骨洞と蝶形骨洞から生検を行った結果、CD20(+)の diffuse large B-cell lymphoma と診断
された。
【Discussion of management】
R-CHOP 療法の適応である。
【Anatomical diagnosis】
CD20(+)の diffuse large B-cell lymphoma、Ann Arbor 分類 IA 期
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