59.無線センサ杭を用いた地すべりの変動計測 - i

59.無線センサ杭を用いた地すべりの変動計測
Change measurement of the landslide using the stake of wireless sensor
○渡邉聡,藤本睦(復建調査設計株式会社),小野田敏(アジア航測株式会社),植野亮(株式会社リプロ)
Satoshi Watanabe,Mutsumi Fujimoto,Satoshi Onoda,Ryo Ueno
1.はじめに
本報は,加速度センサを内蔵した無線センサ杭を用
上部ブロックは,左右の残存土塊に設置した伸縮計
いて,広島県東部で発生した地すべりの変動計測を行
S-1,S-2 がそれぞれ 10mm/月以上の変位を観測してお
った結果について報告するものである.
り,活動的な状態である.
本地すべりでは,地すべり変動により斜面末端部の
下部ブロックに設置した伸縮計 S-3 は,変動発生か
渓流が閉塞する恐れがあったため,伸縮計,ワイヤー
ら半年ほどは最大で約 2m/月の変位を観測しており,
センサー,定点カメラ等による監視体制を整えた.今
最も活動的な土塊である.平成 26 年 5 月に末端部が大
回は,これに加えて無線センサ杭を試験的に設置し,
きく変動した以降,変動量は減少したが,その後も
斜面等における変動計測機器としての精度・適用性・
30mm/月程度を継続して観測しており,新たなクラッ
効率性の検討を行ったものである.
クや小規模な崩壊も各所で生じている.このため,地
2.地すべりの概要
すべり土塊内でのボーリング調査等は難しい状況であ
地すべりは,広島県東部で平成 25 年 11 月に発生し
る.
3.観測機器の概要と配置
たもので,規模は,幅 100m,長さ 200m,推定深さ 15m
程度で,頭部には高さ約 10m の滑落崖が認められる.
本センサ杭は,測量杭の頭部に加速度センサを埋め
地すべり土塊は大きく上部ブロックと下部ブロックに
込み,斜面の変位(傾斜)を計測するもので,設置が
分かれ,上部ブロックは中央付近が抜け落ちているた
非常に容易であることが特徴である.
め,左右に残存不安定土塊が分布している.
基盤岩は中・古生代の粘板岩からなる.地すべり側
方部の渓流では,堅硬な岩盤が露頭しているが,地す
べり土塊内の粘板岩は強風化しており,擦痕の認めら
れる粘土層を流れ盤状に介在している.
地すべりブロックの側部・末端部を中心に複数箇所
で湧水が認められることから,山体は地下水を涵養し
やすいと考えられ,地すべり素因の一つとなっている
ものと考えられる.
写真-1
センサ杭 J-4,地盤傾斜計 K-3
センサ杭 J-6
伸縮計 S-2
地すべり方向
5/22 の変動範囲
センサ端末と杭への設置状況
表-1
センサ端末の仕様
項目
内容
最大設置箇所数
16 箇所(1 ゲートウェイあたり)
測定可能傾斜角度
±90 度
傾斜角測定分解能
0.04 度
データ伝送距離
100~300m
伸縮計 S-3
【下部ブロック】
伸縮計 S-1
図-1
【上部ブロック】
図-2
地すべりブロック平面図
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観測システムの概要
杭には無線センサが内蔵されているため,計測デー
タを収集し,インターネットでの閲覧や,閾値を設け
て警報を発信することなどが可能である.当地すべり
ブロックでは,移動土塊内に計 6 基のセンサ杭を設置
し,観測間隔は伸縮計に合わせて 1 時間とした.
4.観測結果と考察
4.1 伸縮計との比較
下部ブロックの斜面末端に設置した伸縮計(S-3)と
センサ杭(J-6)の観測結果を図-3 に示す.
図-4
地盤傾斜計(K-3)傾斜変動図
同期間に,センサ杭も南南東方向に約 4.5°傾いてい
る.地盤傾斜計と比較して,傾斜方向は概ね一致する
ものの,傾斜角度は大きい値を示す傾向にある.この
原因として,センサ杭は地中に 0.5m ほど打ち込んで
いるが,地すべり土塊は亀裂が多く緩いため,地盤傾
斜計と比べて表層の緩みの影響を受けた可能性が考え
られる.
これについては,杭の打ち込み深さを 1m 程度にす
ることで,ある程度,地すべり土塊全体の動きを捉え
られるものと考える.また,逆に地表面の微小な変動
図-3
はより精度良く把握できる可能性もある.
伸縮計(S-3)とセンサ杭(J-6)の累積変動
(1) 通常時の観測状況
地すべりは継続的に活動しているため,伸縮計・セ
ンサ杭とも累積的な変位を記録している.センサ杭は,
温度依存性があるが(Δ10℃で約 0.5 度),温度計(内
蔵)と併用することで,温度の影響を打ち消すことは
可能である(図-3 は生データ).
(2) 斜面変動時の観測状況
平成 26 年 5 月 22 日に,これらの計測機器の下方
1~2m 付近を頭部とする地すべり変動が生じた.
変動直前の 2 日間の累積降水量は 25mm であり,地
すべりブロック内で雨量観測を開始して以降,特に多
いものではない.下部ブロック末端部は継続して動き
が確認されたことから,斜面末端部は崩壊当初と比べ
図-5
センサ杭(J-4)の累積変動
て押し出される形状となり,不安定な状態(臨界状態)
5.まとめ
となっていたところに,5 月 22 日の降雨が最後の引き
金となり,変動が生じたものと考えられる.
今回の計測において,斜面末端部で地すべり変動が
地すべり変動時,センサ杭は変動の数時間前から変
生じた際に,本センサ杭でも少なくとも伸縮計と同レ
位量が増大し,変動後は変位量は漸減している.この
ベルで,その挙動を的確に捉えられていた.また,地
傾向は直近の伸縮計と調和的であり,伸縮計と同程度
盤傾斜計との比較では,傾斜角度が大きく出る傾向は
の精度で地すべり変動を捉えることが可能であると考
あったものの,降雨に対応した変動傾向をリアルタイ
えられる.
ムで読み取ることができた.本センサ杭は,災害現場
4.2 地盤傾斜計との比較
等で迅速かつ簡易に変動計測ができる手法として期待
上部ブロックの中央付近に設置した地盤傾斜計
できる.
(K-3)とセンサ杭(J-4)の観測結果を図-4,図-5 に
今後はさらに検証を重ね,適切な「しきい値」の設
示す.地盤傾斜計(水管式)は,観測した 4 ヶ月の間
定等を検討していきたい.
に南南東方向に約 0.8°傾いている.
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