動物福祉論 第六章 動物愛護に対する様々な姿勢 2015年11月13日 1 6.1 「動物福祉論」とはどんな学問か 1) 2) 動物による人間への福祉 ○ 動物に対する人間からの福祉(配慮) もちろん介護動物などに対する配慮も 含まれる 産業動物 実験動物 介護動物 人間が利用する動物への配慮に ついて学ぶ(論ずる) 愛玩動物 コンパニオン動物 人間社会での共生の方法につい て論ずる 展示動物 野生動物 自然環境 利用と保護(保全)について論 ずる 2 ◎動物福祉に関する調査 2015年9月29日実施 (回答者 動物資源科学科3年生 動物福祉論受講者 82名) ◎動物福祉に関連する言葉で知っているもの(複数可) アニマルウエルフェア 動物愛護 動物愛護法 動物愛護団体 動物愛護センター・保健所 動物福祉法 動物愛護週間 動物遺棄・飼養放棄 動物虐待 ドッグシェルター 動 物 保 護 (活 動 ・ 施 設 ) ア ニ マ ル (ペ ッ ト ) ・ ポ リ ス JAWS(日 本 動 物 福 祉 協 会 ) JFAWI(農 業 と 動 物 福 祉 の 研 究 会 ) 動物権・アニマルライツ 家 畜 (農 用 動 物 ・ 産 業 動 物 ) 愛 玩 (伴 侶 ) 動 物 動物園(展示)動物 実験動物 動物実験 動物実験における3R 代 替 法 (手 術 用 ロ ボ ッ ト 犬 ) (実 験 動 物 に お け る ) 安 楽 死 屠 殺 (殺 処 分 ) 22 13 7 6 5 2 0 0 2 1 1 1 1 1 1 2 2 1 6 3 6 2 8 6 人道的エンドポイント 苦 痛 ・ ス ト レ ス (軽 減 ) ドレイズテスト QOL バタリーケージ 強制換羽 5つの自由 常同行動・異常行動など 除角・断角・断尾・断嘴・去勢 (環境)エンリッチメント 里親 ティアハイム 使役動物退役後の世話飼育 タ レ ン ト 犬 ・ CM犬 ハズバンダリートレーニング 動物看護 アニマルヘルスケア 危険因子の除去 アニマル(ペット)セラピー 動物介在療法(AAT) A A A ・ AAE 盲導犬・介護犬 セ ラ ピ ー ド ッ グ (ド ッ グ セ ラ ピ ー ) 環境アセスメント 0 3 2 4 1 0 4 1 1 11 2 2 0 2 2 1 1 1 3 3 0 1 1 31 ◎動物福祉に関する調査 2015年9月29日実施 (回答者 動物資源科学科3年生 動物福祉論受講者 82名) ◎動物福祉とは ◎動物福祉論とは ストレスや苦痛を取り除く 45 ストレスや苦痛を如何に取り除くか 33 飼育環境を改善する 18 動物が動物らしく生きられる様に考える 28 動物らしく生きるように配慮する 17 同じ生き物として扱う方法を考える 15 同じ生き物として接する 12 動物の利用について学ぶ・知る 11 動物との共存 6 人と動物のより良い関係を考える 10 動物虐待を減らす 6 福祉について考え、実現を考えていく 10 動物の権利を認める(尊重する) 6 動物の快適な環境について考え、実 践 9 動物の幸福を考える 5 する 利用と快適性のバランスを取る 4 「動物福祉」とは何かを考える 9 家畜などの適正飼育 2 命を無駄にせず尊重する方法を考える 5 家畜などの適正飼育で生産性を上げる 1 生命倫理にかなった扱いを考える 3 動物の利用数を減らす・なくすこと 1 動物虐待を減らす方法を考える 2 人間側のエゴを満たすための根拠 1 実験動物の代替法を考える 1 経済的側面も考えて動物に配慮する 4 1 ◎動物福祉に関する調査 2015年9月29日実施 ◎実家で家畜を飼っている(その動物種と用途) ホ ル ス タ イ ン 種 (乳 用 ) 1 ◎実家でペットを飼っている 動物種 名 総計 犬 46 (57) 猫 18 (49) 亀 5 魚類 5 ウサギ 3 鳥 類 (イ ン コ ・ 鶏 ) 3 ハムスター 1 モルモット 1 ヤドカリ 1 ザリガニ 1 ◎今現在、自分でペットを飼っている 動物種 名 総計 犬 0 猫 11 (12) カエル 3 亀 2 ウサギ 2 デグー 1 鳥類 1 ◎動物の解剖実習について ( ) 内 数 字 は 生 体 か ら の 利 用 (不 明 あ り ) ○実施時期 学校 名 生体 小学校 7 (3) 中学校 10 (4) 高校 51 (14) ○使用動物・部位 動物種・部位 眼 球 (牛 ・ 豚 ) 家 畜 (牛 ・ 豚 ・鶏 )の 内 臓 家畜・鶏の頭 家 畜 (全 身 ) マウス・ラット 魚 類 (コイ・フナな ど ) カエル イカ ミミズ 名 生体 28 (0) 5 (0) 9 (0) 4 (1) 7 (6) 10 (4) 10 (10) 1 (0) 1 (1) 5 ◎動物福祉に関する調査 ◎食事の規制 動 物 性 食 料 は 食 べ る 8 6 (男 : 3 1 、 女 5 5 ) 動物性の一部を制限 0 無記入 1 (女 ) ◎化粧品の利用・頭髪の染色 化粧品の利用 髪染め 男子学生 毎日 4 染めている 31名 たまに 5 〃 いた ごくたま 2 無し 無し 20 女子学生 毎日 41 染めている 56名 たまに 10 〃 いた ごくたま 3 無し 無し 2 2015年9月29日実施 ◎毛皮の所持 ウサギ キツネ タヌキ ミンク その他(牛・羊) 6 8 17 25 11 20 3 1 1 1 4 コート(の一部) マフラー・ ストール 手袋 猫の玩具 寝具 ◎家畜由来以外の製品の所持 カ ン ガ ル ー (シ ュ ー ズ ・ 他 ) 2 ヘ ビ (楽 器 ) 2 象 牙 (ピアノ・ 琴 の 爪 ) 2 ベッコウ 1 ダチョウの皮 1 鹿の角 1 矢羽根 1 モササウルスの歯 1 6 動物福祉論 第6章 6.2 動物愛護に対する 様々な姿勢および目標 7 6.2 動物愛護に対する様々な姿勢および目標 ○現在の動物愛護に対する考え方は、典型的な動物権論 者から肉食を認める動物愛護論者まで幅広く存在する。 ○極端な動物の権利論者の考えでは、「権利」とは絶対的 なものであり、全か無である。つまり与えられるものでは なく生得的に「ある」か「ない」のどちらかである。例えば 動物に権利があるとすれば、人間と同じように扱うことに なる。したがって、動物権利論者の目標は人間が動物を 絶対的に利用しないということである。 →アニマルライト運動の目標 狩猟ならびに罠猟の全面的撤廃 8 6.2 動物愛護に対する様々な姿勢および目標 ○動物の権利:アニマル・ライトという場合の「権利(ライト) 」とは、存在するものの存在から生じる固有の権利(自 然法上の権利)のことであり、もっと倫理的なもの 「動物の権利の基本的な考え方」 ①動物は倫理をもたないが、動物は人間の倫理の対象 ②人間が正しく生きようとするならば動物にも道徳的配慮 を及ぼすべき ③動物を人間の道徳的配慮の範疇に入れた ※自然法上の権利、「自然権」なるものが存在するかどう かは哲学的議論が分かれるが、そういうものはないと 考える人は動物の「権利」という言葉は使わない。 9 6.2 動物愛護に対する様々な姿勢および目標 ○動物解放運動: ・・・・・・全ての生命が同等の価値を持ってい るとか、どんな利益についても人間の利益と他の動物の利益 がみんな同等の重さをもつ、と主張するわけではない。 な苦痛をさけることに対しては人間も動物も共通の利益をもっ ている-その利益は平等に考慮されるべきであり、人間でな いからという理由だけで、自動的に利益を軽視されることはあ ってはいけないということである。 ・・・・「かつては善意の及ぶ範囲が家族だけに限られていたとき もあったが、まもなく善意の輪は階級全体に広がり、その次は 民族、次に民族の連合体、そして全人類に広がる。最終的に は、その影響は動物の世界に対する人間の扱い方の中にも 認められるようになる(W.E.H.レッキー)」・・・・われわれは、倫理 の及ぶ範囲の拡張の最後の段階に進まなければならない。 10 6.2 動物愛護に対する様々な姿勢および目標 ○多くの動物愛護論者(団体):人間が利用している動物 の「苦しみ」を如何に減らせるかを考えている。したがっ て動物を利用している人々との交渉が可能 ○「権利を持たない」ということはその動物をどう扱うかは 、扱う人間の「倫理観」にかかってくる(責任である) ○他の生物に「配慮」できるのは「人間」だけである。 したがって、 →人間は利用する対象に対して配慮する義務があると 考えられる。 →→例えば鯨を保護して生態系が崩れたならば、適正 責任と義務がある。 (preservation)」という考え方 11 6.3 食事に対する姿勢 第一回アンケート 自己の信条や宗教による食事に対する 規制について (82名) ○通常の食材(動植物由来)に対する 禁忌(きんき)(制限)はない: はい 81名 ○動物性食材の一部を制限している。具体的に: 0名 (肉はほとんど食べない、フォアグラ) ○魚類は食べるがそれ以外の肉は食べない 0名 ○菜食主義だが乳製品は食べる 0名 12 6.3 食事に対する姿勢 ○絶対菜食主義者(Vegan ヴィーガン):植物性食品しか食べ ない ○ラクト・オヴォ・ヴェジタリアン(Lacto-Ovo-Vegetarian):乳卵 製品は食べる菜食主義者 ○擬似菜食主義者(クワジ・ヴェジタリアン Quasi(ある程度の)):肉食を少なくしている ○摂食物の種類による分類 lacto-ovo vegetarians:乳製品と卵を食べるが肉は 食べない人々 lacto-vegetarian:卵は食べないが乳製品は食べる人々 ovo vegetarians:乳製品や肉は食べないが卵は食べる人々 semivegetarians:少量の魚あるいは鶏肉を食べ物に 含む人々 13 6.3 食事に対する姿勢 ○摂食物の種類による分類 macrobiotic vegetarians:全粒穀類・海産・陸産野菜、豆、 およびミソを食べる人々 vegans:肉・乳製品・卵を食べない人々 natural hygienists:植物性食料、特定の様式で収穫された 食料を摂取し、周期的な絶食をする人々 raw foodists:非加熱の非肉製品食料のみを食べる人々 fruitarians:果実、ナッツ、種子、およびある種の野菜を 食べる人々 14 6.3 食事に対する姿勢 菜食主義者 と果物主義 者 Vegetarians Fruitarians 15 BS世界のドキュメン タリー RawFoodで子供を 育てる 16 動物福祉論 第6章 6.4 動物の福祉に対する いくつかの立場について -「動物に権利はあるか」での議論を中心に- 17 ◎参考図書紹介 「動物に権利はあるか -The Animal Rights Controversy-」 ローレンス・プリングル 著 NHK出版 1995年3月 18 かつての英国での馬の扱い 19 ◎動物の福祉に対するいくつかの立場について -「動物に権利はあるか」での議論を中心に- 6.4.1 シンガーとリーガンの立場: :オーストラリア メルボルン モナシュ大学の哲学 教授兼ヒューマンバイオエッシクスセンター所長。「動物の解放」、「アニマ ル・ファクトリー」の著者、「動物の権利」の編著者 トム・リーガン:ノースカロライナ州立大学哲学教授、「動物の権 利の根拠」の著者、「動物の権利」の共著者 ○「これまでの動物権運動は、動物の生活を良くすることを目 的としてきたが、処分は認められている。しかし私は、ケー ジを大きくすることを求めるのではなく、ケージをからにする ことを求めるのである。」(トム・リーガンの言葉 「動物に権 利はあるか」 74頁) 20 ◎動物の福祉に対するいくつかの立場について -「動物に権利はあるか」での議論を中心に- ○リーガンもシンガーも、人間以外の動物に対する人間の義 務について、同じような結論に達しているが、異なった道徳 的論理を用いているし、また、いくつかの重要な点で意見を 異にしている。しかし、両者はある一点についてはまったく 一致しているといえる。それは、動物解放論者は「人間以外 の動物と同じように、人間の苦痛にも配慮すべきである」 、 という点である。 ○動物の権利の擁護者は、そのことにどんなに熱中していよう とも、動物の利益になることだからといって、それが人間の 不利益になってはならない、ということを認識していなけれ ばならない。 (「動物に権利はあるか」 43頁) 21 ◎動物の福祉に対するいくつかの立場について ○シンガーと同様リーガンは、哺乳動物は各種のインタレスト( 関心・欲求・願望・希望などの心的態度をいう。達成されると 幸福を感じ、挫折すると苦痛を味わう。“利益”“利害”と訳さ れる場合が多い。)をもっており、それだからこそ道徳的権 利を持っているのだと考え、これらの道徳的権利がどのよう に侵されるかを研究している。(「動物に権利はあるか」 44 頁) ○エビやカニなどの甲殻類は、脊椎動物とは全く異なった神経 組織を持っているにもかかわらず、まるで痛みを感じるかの ように動く。甲殻類は痛みを感じる動物の中に含めて考えた 方がよい、とシンガーはいう。ハマグリやカラス貝やカキなど 軟体動物になると、苦痛や喜びを感じると見なすには無理 があるとして、彼は甲殻類と軟体類の間に一線を画する。( 「動物に権利はあるか」 41頁) 22 公平の原則 23 ◎動物の福祉に対するいくつかの立場について ○「分別ある人ならば、三人の中の誰が死んでも、犬が死んだ 場合と比べると損失、つまり損害はずっと大きいと言うことを 誰も否定はしないだろう」(リーガン) ○・・・「例え100万人の人間の生命を救うような癌の治療のた めの実験であっても、犬はその実験に使用されない権利を 持っている」(リーガン) ○・・・一人の人間の生命を救うために100万匹の犬を救命ボ ートから海に投げ込むことを認めておきながら、動物実験を するのは良くないことだと説得するのは、非常に難しいと私 は思う」(シンガー)(「動物に権利はあるか」 48-50頁)」 ○「動物権主張の究極の目的は、動物に関連する産業をすべ て消滅させてしまうことである」(リーガン)(「動物に権利はあ るか」 50頁) 24 ◎動物の福祉に対するいくつかの立場について ○合州国動物愛護協会の科学担当理事であるマイケル・W・フォッ クスは、「動物の道徳的地位について議論している哲学者たちは 、「人間や人間以外の動物と環境の間の複雑な相互作用を扱う」 準備ができておらず、「彼らは東洋の哲学や動物行動生態学に ついて充分な知識を持っていない」。「仏教やヒンズー教のような 宗教は、キリスト教やユダヤ教よりもずっと人間以外の動物を尊 重すべきだと説く。 ○このようなことを考え合わせると、今私たちにとって必要なのは“ 環境倫理”という新しい、“自然に関する哲学”の確立である。」「 ある国の寛大さと道徳の成熟度は、動物の取り扱い方によって 判断されるというマハトマ・ガンジーの言葉を引用して、生態環境 に基づいた体系的道徳を持つことによって、人間はより洗練され 、人間にとっても動物にとってもよりよい世界が作られるであろう と述べている。(「動物に権利はあるか」 52-53頁) 25 6.4.2 「動物の権利」( A Very Short Introduction -Animal Rights) デヴィド・ドゥグラツィア 著から 動物の権利DD 26 ◎「動物の権利」( A Very Short Introduction Animal Rights) デヴィド・ドゥグラツィア 著から ○「動物の権利」の三種類の意味 (弱いものから強いものへ、順に) ①道徳的地位の意味:動物は少なくとも道徳的地位をもっている。 動物は人間に利用されるためにだけ存在するのではないから、 彼ら自身の資格において良い扱いを受けるべきである。 ②平等な配慮の意味:われわれは人間と動物の比較可能な利害 に同等の道徳的重要性を与えなければならない。たとえば、動 物の苦しみは人間の苦しみと同じくらい重大である。 ③功利性を乗り越える意味:人間と同様に、動物にも社会の功利 性を最大化するためであっても無視してはならない、 ある種の 重要な利害がある。たとえば、動物は自由に振る舞う権利をも っている。 27 ◎「動物の権利」デヴィド・ドゥグラツィア 著から ○平等な配慮についての二つの理論 ①功利主義:正しい行為あるいは方針は、危害に対する便益の割 合を最大化するものである。ただし、人間と動物を含めて影響を 受けるあらゆる主体の利害が公平に考慮されるものとする。 ②強い動物の権利の見解:動物は人間と同様に、功利性を乗り越 える意味での権利ももっている。 ○動物の道徳的地位を理解する二つの枠組み ①平等な配慮の枠組み:動物は平等な配慮に値する。 ②スライディング・スケール・モデル:人間は完全な配慮に値する。 他の動物は彼らの認知能力的、進化的、情動的、社会的な複雑 性に応じて配慮に値する。たとえば、サルの苦しみは人間の苦し みよりも問題にならないが、ネズミの苦しみよりは問題になり、ネ ズミの苦しみは二ワトリの苦しみよりは問題になる。 28 29 2014年12月25日 NHK 30 ◎動物の福祉に対するいくつかの立場について -「動物に権利はあるか」での議論を中心に- 6.4.3 食用動物について ○農場動物は、3通りの苦しみを受けなければならない。飼育 される過程と、輸送の途中と処分されるときの三回である。 その苦しみの大半は、痛みを受けることではなくて、正常な 生活をさせて貰えないことである。(「動物に権利はあるか」 59頁) ○人道的尺度による畜産食品のランク付け われている食用仔牛の肉があり、豚肉とバタリーケージの ニワトリの卵がその次にランクされている。(マイケル・W・フ ォクッス 『アグリサイドagricide (工場式畜産による大量虐殺 の意)』より、「動物に権利はあるか」 68頁) 31 ◎動物の福祉に対するいくつかの立場について ○ヘレフォード種の二歳牛:「あなた方菜食主義者は人々に肉 食をやめさせようと、あまり一生懸命努力しないでください。 もし人が肉食をやめたなら、私たちはこの世に存在しなくな るでしょう。動物園には少し残るかもしれませんが・・・・・・。 全くこの世に生まれてこないよりは、この2年半の生涯を過 ごせて良かったと思います。その上、私たちの野生の祖先 よりは、私たちの方が長生きしています。 ○・・・幸せな一生でした。けれども全ての牛が幸せとは限りま せん。もし菜食主義者の人たちが、運動の目的を必要とす るならば、フィードロット方式を取り上げて、その改善に努力 したらどうでしょうか。」(バーモント州の農民作家ノエル・ペ リンの著書「サードパースン・ルーラル」より、「動物に権利 はあるか」 77頁) 32 ◎動物の福祉に対するいくつかの立場について ○「菜食主義者か、“良心的な雑食主義者”になってください。 動物の福祉に気を使っている農場の動物に、高い代金を喜 んで払うようになって頂きたい。」(マイケル・W・フォックス 「 動物に権利はあるか」81頁) ○動物福祉運動の中にも、肉を食べることについては、色々な 意見がある。例えば、人道的畜産推進協会(Humane Farming Association)は、農場動物の飼育方法の改良を目 的としているのであって、肉食をやめさせることを目的にし ているのではない。(「動物に権利はあるか」 58頁) 33 ◎動物の福祉に対するいくつかの立場について ○・・・もちろん、大きなケージの使用は、“醜い鶏卵業 eggribusiness”では、鶏を思いやってのことではなく経済性と いうことを重視して決定される。大きなケージを使用すること によって卵の生産量が増加し、新しいケージのコストを回収 できる場合に限って、大きなケージが採用されることだろう。 ○・・・それならば経済性には経済性で闘おうと、多くの動物福 祉団体は、工場生産鶏卵の不買運動を行っている。 ○・・・さらに動物福祉論者は、工場式農場で生産された卵や 鶏肉を買わないもう一つの理由として、危険な病気にかか るおそれがあることを挙げている。これはニワトリが飼育さ れ、処分され、出荷される方法に直接関係があるという。サ ルモネラ菌は、羽胞の中や鶏肉の部分にしばしば発見され 、合州国で販売されている鶏肉のおよそ三分の一から二分 の一はサルモネラ菌に汚染されているという。 34 ◎動物の福祉に対するいくつかの立場について ○動物権の擁護者は農場での動物の実態を歪めて伝えてい る、と主張している。実際、動物産業財団が出している小冊 子は以下のように述べている。 ○「農場主こそ動物の福祉を最高に尊重している。・・・・・・動物 を人道的に飼育することは農場主にとって最大の利益にな るからである。人道的な飼育をすれば、健康で良質の動物 をつくることができ、健康的な食品を生産することになり、投 資に対して高い収益が保証される」『アメリカではわずか三 %の人たちが全人口を効率的に養っている。この効率の鍵 は何だろうか。それは、世界中で最もよく家畜や家禽の世話 をしていることにあるのだ」 35 実験動物マウス 36 ◎動物の福祉に対するいくつかの立場について 6.4.4 実験動物 ○問題とされる場所: ①外科技術の向上、病気の治療研究、動物自体から多くのワクチン や抗体を作り出すため。 ②高校や大学、特に医科大学や獣医科大学で生物学教育に使用さ れている。 ③製品の安全性や、有害な化学物質の安全な範囲を決めるために 、莫大な数の動物が利用されている。 ④新薬の効果をテストするためにも多くの動物が使われ、 ⑤生物についての基本的な知識を得るための基礎研究にも利用さ れている。 (「動物に権利はあるか」 85-86頁) 37 ◎動物の福祉に対するいくつかの立場について ○問題となる実験方法:動物の権利を主張する人たちは、商品テス トに対して怒りを感じている。例えば消費者の目に入る可能性の ある商品については、有害かどうか、また、どの程度有害なのか ということをテストするために、ウサギの目が使われている。この テストはドレイズ・テストと呼ばれている。「残酷さのない」とか、「 動物実験を行っていない」と宣伝した化粧品やローションなどを 売っている会社もあるが、実際にはこれらの製品の原料はその 開発の過程のある時点で動物によって安全性テストが行われて いるのである。 動物権擁護者はまたいわゆるLD50テスト[半数致死量テスト] に反対運動をおこなってきた。このテストの目的は、ある物質を どのくらいの量を与えれば、実験動物の50%が死ぬかを調べる ことである。もちろん実際は生き残っている50%もまた、当然毒 の影響を受けるであろう。(「動物に権利はあるか」 90-93頁) 38 ◎動物の福祉に対するいくつかの立場について ○動物実験の信頼性:動物権の擁護者は、動物実験が多くの場合 効果がないという証拠として、サリドマイドをあげる。妊婦がつわ りの吐き気を押さえるために飲んだこの薬は、催奇形性物質で、 この薬を飲んだ妊婦が産んだ約1万人の先天性障害児の原因 はこの薬にあるということが1959年にわかった。「われわれが サリドマイドから学ばなければならないことは、動物実験が必要 であるということではなく、それが信用できないと言うことであり、 ・・・・・・そこで代替法が見つかるまでは、あまり必要ではない新 薬は使わないようにすべきである」とピーター・シンガーは書いて いる。・・・・・・しかし研究者は異なった結論を出している。フラン シス・ケルシー博士が言うように、サリドマイドは市販される前に 、妊娠した動物で充分にテストされなかったのである。妊娠した 犬や猫やネズミやハムスターやニワトリなどによるテストでは障 害が現れなかったが、最終的にウサギとハムスターとサルによる テストでは、人間と同じように、それらの赤ん坊に先天的な欠陥 が現れることがわかった。人間は他のほとんどの動物よりもサリ ドマイドに対して敏感であったのである。(「動物に権利はあるか」 98-100頁) 39 ◎動物の福祉に対するいくつかの立場について 6.4.5 狩猟と罠猟 ○「人間がスポーツの名において行っている野生動物の殺戮 は、なすべからざる行為である。我々は、親切心からではな く、また残虐な行為に反対するからでもなく、動物の権利を 尊重するがゆえに、野生動物の殺戮をやめなくてはならな いのだ。 ○・・・・野生動物の管理者は動物をあるがままにしておくこと、 つまり、人間という殺戮者が動物に干渉しないようにするこ とをまず第一に心がけるべきである。」 (『動物の権利の擁護』 トム・リーガン 「動物に権利はある か」136頁) 40 ◎動物の福祉に対するいくつかの立場について ○シカを“収穫する”ことなく、ただ自由に繁殖させて生かして おくという考えは、シカの数にもシカの生息地にも、さらにそ の場所で生きている他の生物にも災厄をもたらす、と野生 生物学者は考えている。まさに、ここに動物権運動と環境運 動の基本的な相違がある。 ○環境保護主義は生態学に基づいており、生態学を理解する ことによって、植物と動物の共同体を包含した、最も広い意 味での土地、すなわち自然に対して敬意を払うようになるの である。 ○生態学者は、現在、そして未来にわたって動物と植物全体 を健全な状態にしておくことに関心を持っている。つまり個 々の動物にではなく、環境全体に注意を向けることが、動物 の種に最も大きな利益をもたらす、と考えるのである。 Hunting Dog 41 毛皮 42 ◎動物の福祉に対するいくつかの立場について ○「一匹の迷子の子猫の世話をするのに、どんな苦労も出費 もいとわない女性が、三十匹も四十匹もの動物の命を奪っ て作られた毛皮のコートを買ったり着たりすることに何の良 心の呵責も感じないとは、まったく驚くばかりだ」(『アニマル ・アジェンダ』 ジョン・グランディ 「動物に権利はあるか」 136-137頁) ○毛皮コートは、だれにとっても必要不可欠なものではないと しても、毛皮の販売から得られる利益は、何千もの家族の 生計を支えている事実がある。カナダのイヌイットは次のよ うに言っている。「ここではトウモロコシは育たないのだ。わ れわれは動物に依存して生きているのであって、動物を少 しも無駄にしていない。罠猟と狩りと漁とは、経済的、文化 的、精神的に快適な生活を送るために欠かすことができな いのだ」と。(「動物に権利はあるか」 138-139頁) 43 アザラシ猟 44 ◎動物の福祉に対するいくつかの立場について 6.4.6 展示動物 ○動物権擁護論者の意見では、動物園などというものは、無く さなければならない。動物を自然の生息地から捕まえてき て、動物園に閉じこめるのは道徳的ではないし、例え最良と される動物園でも、動物にとっては牢獄であることには変わ りはないという。 ○しかし、動物園は一般の人たちに世界の野生動物について の知識を与え、野生動物を大切にし、動物の扱いの質につ いては、専門家が運営している動物園と、資金を持っていな い路傍の移動動物園との間には大きな相違があり、後者は アメリカ動物園水族館協会(American Association of Zoological Parks and Aquariums)によって公認されていない のである。 45 ◎動物の福祉に対するいくつかの立場について ○動物園の研究家は、動物園は今では種の保存という重大な 役割を担っており、ますます増えつつある絶滅に瀕している 種にとって地上最後の避難所となるだろう、と述べている。 ○・・・動物園は野生の動物を捕まえてきて自分のものにしてい る、と考える批判者は事実を知らないといえるだろう。動物 園の動物の約80%は動物園で生まれたものなのである。 (「動物に権利はあるか」 136-137頁) 46 動物園にできること 47 ◎参考図書紹介 「ドイツの犬は なぜ幸せか -犬の権利、 人の義務」 グレーフェ彧子 中公文庫 中央公論社 2000年8月 48 ドイツ憲法明記 49 6.4.7 ドイツの犬はなぜ幸せか 犬の権利、人の義務 ○里子の時期:子犬が親元を離れて飼い主のところにもらわ れていく一番良い時期については、いろいろと研究が進 んでいる。だいたいの子犬の離乳期が生後六週間目くら いから始まるので、その後ならばいつでも良いように昔は 考えられていたが、生態研究が進むにつれて、実は生後 八週間から十二週間位の間が、仔犬の「社会化の時期」 といわれる事実から、この時期をうまく利用して仔犬を親 兄弟から離して飼い主のところへ連れてくるのが一番良 いという意見が今では一般的である。 (「ドイツの犬はなぜ幸せか」 20頁) 50 ◎ドイツの犬はなぜ幸せか 犬の権利、人の義務 ○ドイツの犬に関する法律(一九九四年に発表された草案に よる): ・接触:飼い主等は日に数回にわたって犬と社会的接触をすべ き(1日合計2時間)。 ・母犬との離別:生後八週間以上とする。生後八週間はできる だけ同腹の兄弟から離すべきでない。 ・犬を外で飼う場合:犬小屋のサイズ・入り口の向き、檻の大き さ(15㎏犬は4㎡など)。檻で飼う場合は1日合計2時間は 檻以外のところに散歩させる必要がある。 ・餌:常時充分な飲み水を与え、成犬は最低1日1回、犬に適し た餌を充分に与える。ただし週一回断食の日を設けても良 い。仔犬は日に数回に分けて与え、断食はさせない。 ・犬税:市町村により異なり、70マルク/年/頭(オットーブルン)、150マ ルク/年/頭(ミュンヘン)など(1マルク≒55~60円)。 51 ◎ドイツの犬はなぜ幸せか 犬の権利、人の義務 ・排泄物の始末:歩道や子どもの遊び場などで始末を怠ると 200マルク~300マルク。 ・引き紐:強制は市町村ごとに異なる(行動学者は引き紐を強 制すると犬は攻撃的になるという)。 ・無駄吠え:静粛厳守の時間帯(夜間・日祭日など)の連続10 分以上あるいは日通算30分以上で処罰される。 ・闘犬:取り締まり・繁殖制限があり、特別な許可証・高い税金 が必要 52 犬を 殺さないドイ ツ の常識① 53 週刊AERA 2009.9.7. 犬を 殺さないドイ ツ の常識② 54 週刊AERA 2009.9.7. 何か質問はありますか? 終わりの絵 動物資源科学科 動物福祉論 a sheep named in a Jack Wolf's skin
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