社会医療法人かりゆし会ハートライフ病院 1.病院概要会ハートライフ病 表1.病院、看護部概要 病床数:300 床 診療科:25 診療科 一日平均外来患者数:494.5 人 病床利用率:92% 平均在院日数:12.1 日 職員数:813 人 入院基本料:7:1 看護単位:7 病棟を含む 13 看護単位 看護方式:PNS 勤務形態:2 交代制 看護職員数:看護師 358 人、准看護師 21 人 看護補助者 65 人 当院は、24 時間2次救急を標榜し、地域医療 支援病院として急性期医療を展開している(表1)。 平均年齢:35.5 歳 離職率:12.8%(平成 25 年度) 2.WLB推進事業への参加動機 病院、看護部は「信頼される医療」 「感性豊かな看護の提供」を理念とし、安全で質の高い 医療を目指している。地域医療を担う病院として人材の確保、育成、定着は重要な課題の一 つであり、離職率が高いことが看護部の課題である。平成 19 年に7:1を導入し、夜勤者の 増員、補助者の増員などで改善はしたが、離職率は高めに推移している。 「自施設の現状は他 と比較してどうなのか?」「離職率を減らしたい」、特にこれまで課題であった残業(サービ ス残業を含む)を減らすこと、 「残らない、残さない」の実現に向けて取り組みを強化したい と考え参加した。 3.WLB取り組み前の課題 【インデックス調査の結果】 平成 26 年 6 月に調査を実施し、331 人から回答を得た。 有休がとれる 51.1% 連続休暇がとれる 42.6% 勤務希望が通る 46.2% そう思う ややそう思う 38.7% 35.3% 43.2% 「経営・組織」「上司」「仕事に対す 0.9% 7.9% 1.5% る自己評価」 「労働環境」 「満足度(働 5.1% 14.5% 2.4% ての項目で、平成 25 年度の全国平均 1.2% 6.0% 3.3% 図1 労働環境について(休日、休暇の取得) き方/生活)」「健康状態」のほぼすべ 値を 10 ポイント以上、上回る結果で あった。 休日、有給休暇の取得に関して8割 が満足、勤務希望に関しては 9 割のスタッフが満足と回答している(図1)。有給休暇は 1 年 持越しが可能であり前年度分は消化させていること、また、病院の方針として年に一度は 1 週間程度の連続休暇を推奨していること、勤務希望に関してはできるだけ希望を叶えたいと いう各師長の努力の結果と思われる。休暇を取らせるために現場活動に支障が出ては本末転 倒であり、年度を通し欠員がないよう、人員の確保、配置については最大限努力している。 組織の能力開発に対する支援体制や上司の関わり方については、8 割のスタッフが支援あ りと回答している。研修会や資格取得など勤務扱いで参加させていることが評価を得ている 61 上司の支援がある 29.0% 能力開発の支援がある 25.1% そう思う ややそう思う 理由と思われる(図2) 。また、健 48.9% 2.1% 17.8% 2.1% 康面のサポートとしては、職員健 の後のフォロー、常勤の心療内科 58.6% 2.7% 1.5% 12.1% 診の受診率 100%、産業医によるそ 医、臨床心理士によるメンタルサ ポート体制があり、必要時対応で きる環境が整備されている。 図2 上司、組織の支援について 業務に関しては、安全の向上、看護ケアの向上を図るために、平成 26 年 4 月からPNS看 護方式(パートナーシップ・ナーシング・システム)をスタートさせた。今後各部署の取り組み 状況を評価し、残業低減にもつながるように同システムの定着を図っていく。 以上がWLBを考えるうえで強みとなる要素であり、当院では医師の負担軽減対策に取り 組みむために、院長の指示で平成 25 年より事務部がWLB委員会を立ち上げていることも、 今後の取り組みを進めやすい環境にある。 課題については「残業が多い」という認識はあったが、調査によって、 「病棟の残業が多い」 「病棟だけでみると 8 割以上が定時に帰れていない」 「5 割が気兼ねして帰れない」ことがわ かった(表2、図3)。 気兼ねなく帰れる 15.7% 表2 「残業」があるスタッフの配属先 そう思う ややそう思う 37.2% 28.1% 16.6% 2.4% 定時で終われる 16.9% 27.5% 23.0% 29.0% 3.6% 図3.労働環境について(定時の終業) 総数 残業なし 残業あり 病棟 192人 31人 161人 % 16.10% 83.90% 外来 38人 20人 18人 52.60% 47.40% その他 99人 40人 59人 40.40% 59.60% 諸制度の周知については、 「半数が知らない」と回答し ている。病院として規定等の整備はされており「知らない」というよりは「今は必要ない」 て という状況なのではと推察される。気になるところで、20~30 歳代の 7 割が将来に不安があ ると回答している。これも残業が常態化し、モチベーションが上がりにくい状況があるので はないかと考えられる。時短利用者の増加も含め、次代を担う若年層にやりがいを持たせ、 働き続けられる環境づくりに取り組むことが当院の課題である。 インデックス調査の結果と現状から ①WLBの推進 ②サービス残業に対する取り組み ③個人のキャリアアップの支援を課題とした。3 年後のゴールを ①WLB推進体制が浸透し 働きやすい環境が整う ②離職率が 10%以下になる ③病棟の残業が減る ④若いスタッフの 不安が低減するなどに取り組みを開始した。 4.WLB取り組み体制 進めるにあたっては、看護部全体の問題であること、部署の管理者としてWLBについて 正しい理解と実践に向けるよう師長会のメンバー全員を推進委員とし、実際の活動や評価、 情報の集約、発信を師長会が主導する体制とした。 5.WLB取り組みの実際 WLBの認知度を上げ、取り組みやすい状況を作るために、体制の整備が必要なこと、 残業低減に向けて取り組む内容を具体化することが重要であると考え、以下の 2 点に取り 組んだ。 62 1)WLBの推進 (1)病院WLB委員会への参加 病院幹部会議で、当事業の趣旨を説明、インデックス調査の結果を報告し、既存のW LB委員会に医局、看護部、医療技術部も入り組織として取り組むことを提案した。 平成 27 年 2 月には、院長、産業医、医療技術部長、看護部長、臨床心理士が加わり、病 院WLB委員会が開催された。会議で終業チャイム導入を提案し検討することになった。 (2)看護部門WLBの推進 ①師長会、主任会でインデックス調査の結果を報告した後、師長・主任合同研修会で ワークショップ参加の意義、当院の課題が残業であること、今後 4 ヵ月の取り組み 内容を共有した。 ②WLBを周知、推進していくための情報発信の手段として、活動内容や調査結果な どの関連情報を端末電子書籍に掲載し、部署で活用できるようにした。残業時間の 調査結果、追加アンケートの結果を公表、情報をもとに病棟ごとで取り組みを決め 実践している。 ③ 推進メンバー(師長会)で居残り調査を 実施し直接的に関わることを決めた。イン フルエンザ流行期でスタッフの欠員も出 る状況ではあったが 2 月からスタートした。 WLBを意識づけるために、腕章を作成し、 18:00 ラウンドに活用している(図4)。 2)病棟の残業時間の低減 図4 居残り調査 (1)現状調査 インデックス調査で「定時で帰れない」ことがわかった。部署ごとの差異や個人の傾向、 残業の要因を明らかにするために、病棟看護師 224 人を対象に、9 月に「終業時間調査」 (図 5①②)を、残業に対する関心、業務に対する意識について 11 月に「追加アンケート」 (図 6)を実施した。一人当たりの月平均残業時間は 21 時間で外科系病棟で残業が多かった。 20 時間超の残業の割合は病棟ごとに差があり個別に対応策を考える必要がある(図5②) 。 35 30 25 20 15 10 5 0 20時間超 20時間内 全体 内科系 内科系 内科小児科 外科系 外科系 産婦人科 ICU 図5 ① 病棟別一人当たりの残業時間/月 0% 20% 40% 60% 80% 100% 図5 ② 病棟別20時間超/月残業者の割合 (2)業務整理 業務整理の部分では、全体で取り組むことや病棟ごとに取り組む内容の話し合いを持っ た。全病棟内服薬チェックの煩雑さが問題であり、薬剤部と協議しチェック方法の統一を 図った。 63 (3)意識改革 研修会や、部署会議、関連する委員会等へWLB情報を発信し、各病棟での「タイムア ウト」 「残務調整」実施の強化に取り組んだ。以下追加アンケートの結果である。ほぼ全員 が残業を減らしたいと考えており、6割以上が早い出勤、残業するスタッフを気にしてい る。一方「気兼ねなく帰れるスタッフ」は2割に満たず、常に気兼ねして帰れないスタッ フが1割である。 「時々気兼ねする」の7割を合わせると、8割のスタッフが帰りにくい状 況にあることがわかる(図6)。予測できた状況ではあるが勤務の中で調整役を担う存在が 鍵になると思われる。 Q:時間外を減らしたい Q:早い、遅いスタッフが気になる 0% 無回答 1% 帰れる いつも 19% 10% 無回答 6% 思わない 3% 気にならない そう思う 33% 97% Q:気兼ねして帰れない 気になる ときどき 61% 70% 図6 残業に対する関心、意識 また、残業理由の自由記載からは、記録や内服、注射の準備のほか、 「周囲に合わせる」 「残 業する人は決まっている」「協力体制がない」など、内科系、外科系問わず、どの部署でも 同様の回答を得た。このことから、残業になるのは業務だけではなく帰れる風土ではないこ とがわかった。向かう方向は、気兼ねなく帰れる職場風土づくりである。 現在、全体ではタイムアウト、残務調整 を実践することと、居残り調査を継続、 表3 残業時間低減のための取り組み 病棟はそれぞれの部署で話し合って決め 全体 た取り組みを継続中である(表3)。 6.WLB取り組み後の組織の変化 内服薬のチェック方法統一 〃 師長会による居残り調査 〃 終業チャイム(実施はこれから) ICU 4ヶ月という短い期間で当初の想定を 産婦人科 タイムアウトの継続 残業の多いスタッフへの個別指導 上回る成果を得た。病院WLB委員会に院 外科系病棟 08:30、11:00、15:00 タイムアウト 長、産業医が加わったことで病院全体の活 外科系病棟 残業時間チェック、個別指導 動が一層推進される。看護部門では、師長 内科/小児科 指示受け時間を医師と調整 会のメンバーで取り組んだことで、共通の 内科系病棟 11:00、16:00 タイムアウト、残務ボード 認識で話し合う機会が持てたこと、それぞ の活用 れの管理者がスタッフとディスカッショ 内科系病棟 内服,注射の確認作業、メディカルクラー ンを重ね、残業を自分達の問題として捉 クの活用 え、部署ごとに取り組みをはじめたのは 大きな成果である。 7.WLB今後の課題 とディスカッションを重ね、残業 現在の取り組みを継続し、その効果について評価していく。今回は後残業に対応した。前残業 も課題であり、次年度取り組む予定である。また残業低減に繋がるようPNSの定着、評価を実 施する。病院WLB委員会への参加、居残り調査を継続し、引き続きWLB推進を図っていく。 64
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