リスク管理に関する質問紙調査からみる日本の大学の現状と課題

ウェブマガジン『留学交流』
』2016 年 3 月号
月 Vol.600
大
大学に
における
る学生海
海外渡
渡航時の
のリス ク管理
理
-リスク
ク管理に関する質
質問紙調
調査からみ
みる日本
本の大学
学の現状と課題--
The Analysis of Risk MManage
ement for Sttudy Abroad
A
Program
ms in Higher Educ
cationn:
A Survey of Jap
panese HHigher Education Insttitutions
大阪大
大学医学系研
研究科保健学
学専攻教授 大橋 一友
友
OHASH
HI Kazutomoo
(Graduuate School of Medici ne, Division of Health Sciencees, Osaka University)
U
阪大学グロー
ーバルコラボ
ボレーション
ンセンター特
特任准教授 敦賀 和外
外
大阪
TSUR
RUGA Kazutoo
(Global Collabora
ation Centeer, Osaka University)
U
大阪大
大学グローバ
バルコラボレ
レーションセンター特任
任准教授 本庄
本
かおり
HONJO
H
Kaori
(Global Collabora
ation Centeer, Osaka University)
U
大阪
阪大学グロー
ーバルコラボ
ボレーション
ンセンター特
特任助教 安藤
安
由香里
里
ANDO
A
Yukari
(Global Collabora
ation Centeer, Osaka University)
U
大阪
阪大学グロー
ーバルコラボ
ボレーション
ンセンター特
特任事務職員
員 片山 歩
KATA
AYAMA Ayumi
(Global Collabora
ation Centeer, Osaka University)
U
キーワ
ワード:海外
外派遣、リスク管理、海外
外留学
はじめに
近年、日
日本の大学か
から海外へ留
留学する学生
生数が増加傾
傾向にある。一時期、日 本人学生の
の海外留学離
離
れが懸念1さ
され、日本政
政府も留学促
促進のための
の施策2を打ち
ち出してきた
た。その結果
果、従来型の
の正規課程
に属する長
長期の海外留
留学に加え、短期留学な
など様々な形
形態で日本の大学から派
派遣され、海
海外で学ぶ学
学
生が増えて
てきている。それに伴い
い、大学は大
大学の責任下
下で学生を海
海外に派遣す
することによるリスクも
1
例えば、太田浩「なぜ海外留学離れは起こ っているのか」『教育と
と医学』59 (1)、68-76 頁、慶應義
義
塾大学出版
版会(2011 年 1 月)、太田
田浩「日本人
人学生の内向
向き志向に関
関する一考察
察 -既存の
のデータによ
よ
る国際志向
向性再考 -」
」『留学交流
流』40(1)、 1-19 頁、日
日本学生支援
援機構(20144 年 7 月)。
2
「日本再 興戦略~JAAPAN is BACK
K」(2013 年 6 月 14 日)において、日本政府は
は 2020 年までに日本人
人
の海外留学
学を 6 万人か
から 12 万人に
に倍増するこ
ことを目標と
として掲げた
た。
独
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負わざるを
を得なくなっ
っており、テ
テロなども世
世界各地で発
発生している昨今、学生
生の海外渡航
航について大
大
学は今まで
で以上に気を
を配っていく必要に迫ら
られている。
大阪大学
学グローバル
ルコラボレー
ーションセン
ンター(GLOCOL)は、平成
成 19 年 4 月 に大阪大学
学の教育目標
標
である「教
教養・デザイン力・国際性
性」のうち「国際性」を
を強化し、国
国際協力と共
共生社会に関
関する研究・
教育・実践
践を進めることを目的として設立さ れた。その取
取り組みの一
一環として平
平成 22 年 8 月に、海外
外
での実地体
体験型学習を
を支援する「海外体験型 教育企画オフィス(FIE
ELDO)」が設
設置され、大
大阪大学全学
学
部・大学院
院生を対象に
に、海外フィールドスタ ディや海外
外インターン
ンシップとい
いった海外体
体験型教育プ
プ
ログラムを
を提供してき
きた。FIELDO
O では海外体
体験型教育プ
プログラム構
構築当初より
り、リスク管
管理に力を入
入
れてきてお
おり、学生に
に対するリス
スク管理教育
育や学内体制
制の整備、危
危機管理シミ ュレーションによる教
教
職員のリス
スク管理意識
識向上に取り組んできた
た。事業実施 3 年目となった平成 255 年度に、これまでの取
取
組みをまと
とめた GLOCOL ブックレッ
ット『海外体
体験型教育プ
プログラム短
短期派遣手続
続きとリスク管理-大学
学
におけるよ
より良い海外
外派遣プログ
グラムをめざ
ざして』3を発
発行したとこ
ころ、全国の
の大学より多
多数問い合わ
わ
せがあり、 海外派遣の
の増加が求め
められる中、 他大学にお
おいても海外
外派遣時のリ スク管理体
体制構築に苦
労している
る様子が感じ
じられた。そ
その実態を探
探るべく、日本の大学における学生
生海外渡航時
時のリスク管
理の現状を
を各種文献に
に求めてみた
たが、筆者ら
らの知る範囲
囲では全国の国公私立大
大学におけるリスク管理
理
体制を網羅
羅的に調査し
した研究は見
見当たらなか
かった。そこで、各大学
学における学
学生海外渡航
航時のリスク
管理の現状
状を明らかに
にし、海外渡
渡航前のリス
スク予防教育
育や渡航時のリスク対応
応体制の改善
善点を見出す
ことを目的
的とし、独立行政法人日本学生支援 機構(JASSO
O)が実施している留学
学生交流支援
援制度の平成
成
25 年度留学
学生交流支援
援制度(短期派
派遣)採択プ
プログラム4を対象に郵送
を
送による質問
問紙調査を実
実施した56。
本稿ではこ
この調査結果
果からみた日本の大学に
における学生
生海外渡航時
時のリスク管
管理の現状について報告
告
し、その後
後、結果から
らみえる早急
急に取り組む
むべき課題に
について示したい。
3
http://wwww.glocol.osaka-u.ac.jp/go/boo klet/13.html(2016 年 2 月 19 日最
最終閲覧)
留学生交 流支援制度(短期派遣)の趣旨は 以下の通り。
「わが国の
の大学、大学
学院、短期大
大学、高等専
専門学校又は
は専修学校(
(専門課程)(以下「高等
等教育機関」
という。)が
が、諸外国の
の高等教育機
機関(大学、大学院、短
短期大学、高
高等専門学校
校又は専修学
学校(専門課
課
程)に相当 する諸外国
国の機関をいう。)等と学
学生交流等に
に関する協定
定等を締結し
し、それに基
基づき、わが
が
国の高等教
教育機関に在
在籍したまま
ま、諸外国の
の高等教育機
機関等へ短期間派遣され
れる学生に対
対して、留学
学
に係る費用
用の一部を奨
奨学金として
て支援するこ
ことにより、グローバル
ル社会におい
いて活躍できる人材を育
成するとと
ともに、わが
が国の高等教
教育機関の国
国際化・国際
際競争力強化
化に資するこ とを目的とする」日本
本
学生支援機
機構「留学生
生交流支援制
制度/海外留
留学支援制度
度 評価・分析
析(フォロー
ーアップ)調
調査報告書」
5頁
http://wwww.jasso.go.jp/ryugaku
u/tantosha//study_a/sh
hort_term_h
h/__icsFilees/afieldfile/2016/01
/06/reportt_all.pdf(
(2016 年 2 月 29 日最終 閲覧)
5
平成 26 年 11 月から平
平成 27 年 3 月にかけて
て、対象プログ
グラム宛に郵
郵送にて質問
問紙を送付・回収した。
6
本調査に 関する詳細な分析は、研究論文と して今後投稿する予定である。
4
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調査結果か
からみる日本
本の大学にお
おける学生海
海外渡航時の
のリスク管理
理の現状
本調査対
対象プログラ
ラムは、国立
立 192 プログ
グラム(50%)
)、公立 22 プログラム
プ
(6%)、私立
立 152 プログ
グ
ラム(40%)
)、短大・高
高専 16 プログ
グラム(4%)
)、その他 1 プログラム
ムであった。 また、派遣
遣形態は、教
教
職員による
る引率が 41%、引率無し・学生のみで
での渡航が 54%であった
た。派遣期間
間では、2 週間以上
週
1カ
月未満のプ
プログラムが
が 29%、2 週間
間未満のプロ
ログラムが 19%であり、
1
これらを合
合わせると約
約半数が 1 カ
月未満の比
比較的短期の
のプログラム
ムであった。
これらの
のプログラム
ムにおけるリスク管理の
の現状を分析
析したところ、リスクに
に関する学生
生への指導に
ついては、 一部実施率
率が低い項目もあるもの
のの概ね対応
応が進められ
れている様子
子であった。しかし、リ
スク管理に
に関する学内
内体制についての個々の 要因をみると、各プログ
グラムのリス
スク管理体制
制制度は徐々
に整いつつ
つあるが、そ
それらが実際
際に機能する
るかどうかは
は不安が残る状態である ことが分か
かった。
例えば、 学生指導の
の現状に関し
して、海外旅
旅行傷害保険
険への加入は
は 98%のプロ グラムで実
実施されてお
お
り、危機管
管理の事前学
学習/オリエ
エンテーショ ンも 89%の
のプログラム
ムで実施され
れている。また、海外で
トラブルに
に巻き込まれ
れた場合の連
連絡先を学生
生にはっきりと伝えてい
いるか(緊急
急時連絡先の明示)につ
いても 85%%が実施して
ているとの回
回答であった
た。一方、学
学生教育研究
究災害傷害保
保険(学研災
災)への加入
入
の必須化(
(57%)、注意点などを記載した資料 の配布(79%
%)、安否確認
認のための定
定期連絡(7
79%)の実施
施
率は、やや
や低い傾向に
にあった(図
図 1)。
図1
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また、健
健康面へのサ
サポートにつ
ついて見てみ
みると、渡航
航前の健康状
状態の申告は
は 44%のプログラムで実
実
施されてい
いるが、渡航
航後の健康状
状態申告を実
実施している
るプログラム
ムは 22%のみ
みであった。予防接種に
関しては、案内を行っているプログラムは 488%のみ、予防
防接種費用の
の補助は 97%%のプログラ
ラムで行われ
れ
ていなかっ
った。このよ
ように、学生
生への指導に
に関しては、更なる取り組みが必要
要な点はあるものの、総
総
じて取り組
組みが進んで
でいることが
が分かった。
一方、学
学内体制につ
ついて見てみ
みると、制度
度に関する事
事柄と、実用
用に関する事
事柄で、実施
施率に大きな
な
差が出てい
いる(図 2)。また、概ね
ね取り組みが
が進んでいる
る制度に関す
する事柄につ
ついても、大
大学における
る
学生海外渡
渡航時のリス
スク管理体制
制としてその
の実施率は十
十分とは言えない結果で
であった。
図2
例えば、危機管理マ
マニュアルに
については、危機発生時
時にどのように対応する
るべきかを示
示したマニュ
アルを有し
しているプロ
ログラムは約
約 70%であっ
った。この数
数値は、危機
機管理マニュ アルの重要
要性を考慮す
れば決して
て高いものと
とは言えない
い。各大学の
のリスク管理
理の礎となることを考え
えれば、危機
機管理マニュ
アルの整備
備は 100%に近
近い数値でな
なければなら
らない。また
た、実用面で
で重要な緊急
急時の対応指
指針(被災状
状
況の把握、 被災者救援
援、マスコミ対応、家族
族対応、職員
員現地派遣等
等)の有無及
及びプログラムの延期・
中止・退避
避基準の有無
無についても
も不安の残る
る結果となった。様々なリスクに起
起因する危機
機における危
危
機レベルの
の決定と責任
任範囲の判断
断に際し、緊
緊急時の対応
応指針やプログラムの延
延期・中止・退避基準な
どの明確な
な根拠を持た
たせることは
は、危機管理
理の実行内容
容に妥当性・正当性を持
持たせることを可能にす
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る7。しかし
し、本調査で
では「明確な
な緊急時の対
対応指針」を
を有していな
ないプログラ
ラムが半数以
以上にものぼ
ぼ
り、延期や
や中止の基準
準については
は、約 3 分の
の 2 のプログ
グラムで基準
準がないと回
回答している。また、全
全
体の 22%の
のプログラム
ムは危機管理
理マニュアル
ルもなく、緊
緊急時の対応
応指針もない
いと回答しており、憂慮
慮
すべき状況
況だといえる
る。特に、本
本調査の対象
象である JASS
SO が実施している留学
学生交流支援
援制度の採択
択
プログラム
ムでは、その
の採択にあた
たり「派遣学
学生に対する
る危機管理体
体制が十分に
に確立されているか」と
いう項目が
が審査の観点
点として挙げ
げられており 、申請する
る大学は一定
定程度の危機
機管理体制を敷いている
ことが想定
定されている
るが、それら
らが実態とし
して機能し得
得るのかは詳
詳しく検証す
する必要があ
ある。リスク
管理は各プ
プログラムレ
レベルで対応
応できるもの
のだけではな
ないため、大
大学全体とし
しての体制や
や指針が定ま
っていなけ
ければ担当者
者は不安を抱
抱えたままプ
プログラムの
の実施を行うこととなり 、将来的に派遣者数や
や
プログラム
ム数を増やす
すことへの障
障壁となる可
可能性が考え
えられる。さらに、危機
機管理マニュアルがある
プログラム
ムの中でも延
延期・中止・退避の基準
準が含まれて
ていないプログラムが 661%、緊急時
時の対応指針
針
が含まれて
ていない割合
合が 36%もあ
あり、この結
結果は実効性
性のある危機
機管理マニュ アルを有す
する大学やプ
プ
ログラムは
は非常に限定
定的であるこ
ことを示唆す
する。
また、危
危機管理シミ
ミュレーショ
ョンについて
て見てみると
と、その実施
施率は 40%で
であった。リスク管理の
の
専門家は、危機管理シ
シミュレーションの有用 性を指摘している8。危
危機管理シミ ュレーションを実施し
し
ているプロ
ログラムで、対策本部設置
対
置場所・役割
割分担が決ま
まっているプ
プログラムは
は 83%であるのに対し、
シミュレー
ーションを実
実施していな
ないプログラ
ラムでは 69%
%であった。シミュレー
ーションの実
実施とプログ
グ
ラムの危機
機管理に対す
する意識の高
高さは相関す
する、つまりシミュレー
ーションを実
実施することにより危機
機
管理への感
感度が上がり、学内体制
制の整備を伴
伴う可能性が
が示唆される9。
さらに実
実用面に関す
する事柄では
は、特に緊急
急時の対応費
費用の予算立
立を実施して
ているプログ
グラムの割合
合
が約 4 分の
の 1 と低いこ
ことが分かっ
った。予算確
確保は多くの
の大学にとって共通の課
課題であるが
が、そのなか
か
でリスク管
管理関連予算
算をどのように優先付け
けしていける
るかは、各大
大学の努力だ
だけでなく、海外留学促
促
進を政策目
目標として掲
掲げる政府としても取り 組むべき課
課題かもしれ
れない。参考
考までに調査
査対象プログ
グ
ラムの回答
答者が過去に
に遭遇した事
事件・事故事例
例について尋
尋ねたところ
ろ、盗難の遭
遭遇事例が最
最も多く(499
件)、続いて
て下痢(39 件)
件 、携行品
品損害(39 件
件)の事例が
が挙げられた
た。その他、嘔吐、感染
染症、うつ病
病
の遭遇件数
数も比較的多
多く、健康に関する事例
例への遭遇が
が総じて高いことが見て 取れた(図 3)。全体の
71.5%がいず
ずれかの事例
例に遭遇した
た経験がある
ると回答して
ており、緊急
急時対応に関
関してなんらか経費が発
発
生する可能
能性も低くは
はないと想像
像される。
7
永橋博典「国際交流における危機
機管理体制―
―危機管理体
体制の構築の
の課題―」
『
『留学交流』47 号 48-566
頁(2015 年 2 月)
8
インター リスク総研「海外危機管理情報‐ 大学に求められる海外危機管理‐」
」(2014 年 7 月)
9
管理の例~」
服部誠「リスク管理体制の構築~海外危機管
『大学と学
学生』59 号(通巻 533 号)14-19
号
頁
(2008 年 9 月)
独
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図3
学生海外渡
渡航時のリス
スク管理に関
関する取り組
組むべき課題
題
これまで
で見てきたと
とおり、この
の度の調査結
結果では、多
多くの機関で学生指導体
体制の水準が
が先行して実
実
施されてい
いる傾向がみ
みられ、学内
内体制の整備
備が遅れてい
いることが示
示されている 。学内体制
制の整備なら
びに学生へ
への指導体制
制は大学にお
おける学生海
海外渡航時の
のリスク管理
理の両輪であ
あり、そろって推進しな
ければなら
らない。そこ
こで、これら
らをふまえて
て、以下 3 点を早急に取
点
取り組むべき
き今後の課題
題として示し
たい。
1)実用性
性のある危機
機管理マニュ
ュアルの作成
成
本調査結
結果を受けて
ての喫緊の課
課題としては
は、何よりも緊急時対応
応指針やプロ グラムの延
延期・中止・
退避基準を
を含んだ「実
実用性のある
る危機管理マ
マニュアルと対応指針の整備」が挙
挙げられる。そしてその
ためには、 各大学の本
本部レベルで
でリスク管理
理に関する認
認識を深めると同時に、 各プログラム担当者が
が
参照できる
る「リスク管
管理チェックリスト」を
を考案し、実
実施前に他校
校の取り組み
みや教訓を参
参照できる仕
仕
組みが必要
要である。一
一案として、筆者らが『
『the IES ABR
ROAD MAP for
r Student Heealth, Safe
ety & Crisiss
Managementt』10、大学における学生海外渡航 時のリスク管理に関するアンケー ト及びこれ
れまでの経験
験
をもとに、 プログラム
ム企画の段階
階から準備、 事後まで安
安全なプログ
グラム運営を
を行うためのポイントを
まとめたリ
リスク管理チ
チェックリス
ストを図 4 に
に示す。
10
Institutte for Study Abroad, Butler
B
Univversity, 2013, On-Site
e Safety andd Security Assessmentt
IES Abroadd, 2013
独
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図 4-1:リス
スク管理チェ
ェックリスト
ト
独
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図 4-2:リス
スク管理チェ
ェックリスト
ト
管理シミュレ
レーション実
実施によるリ
リスク管理体
体制の実践性
性の向上
2)危機管
危機管理
理シミュレー
ーションを実
実施すること
とで、緊急対
対応時の課題
題が浮かび上
上がり、対応
応指針や役割
割
分担の見直
直し、より効
効果的な、いざという時
時に機能する体制整備につながる。GGLOCOL では
は、海外派遣
遣
プログラム
ム実施前に全
全教職員参加
加の危機管理
理シミュレー
ーションを行
行っている。2015 年度は
は、パリでの
の
海外フィー
ールドスタデ
ディ引率中、パリでテロ
ロリズムが発
発生したとい
いう設定11であ
あった(図 5)。実際に
11
2015 年 5 月にボスト
トンで開催さ
された NAFSAA (National Association of Forei gn Student Advisers)
のリスク管
管理ワークシ
ショップにお
おいて配付さ れた危機管理シミュレーション事例
例をもとに GLOCOL で独
独
自に作成。
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シミュレー
ーションを実
実施すると、理論と実際
際のギャップ
プに参加者が
が気づき、対
対策本部をど
どこに置くべ
べ
きか、各担
担当者の役割
割分担はどの
のようにすべ
べきか、情報
報伝達はどのようにすべ
べきかなど具
具体的な課題
題
が多数浮か
かび上がる。それらの課
課題に対処す
すべく、学内
内体制の改善
善を検討して
ていくことで、より良い
い
学生海外派
派遣体制が整
整えられるこ
ことを実感し
している次第
第である。このようにま
まずは、プログラムを主
主
催する部局
局単位からで
でも危機管理
理シミュレー
ーションを行
行っていくことを促した
たい。
図5
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3)リスク
クマネージャ
ャーの配置
危機管理
理マニュアル
ルの作成、危
危機管理シミ ュレーションの実施といった取り 組みを通して、リスク
に関する学
学内体制整備
備を推進する
るために有効
効と考えるもう一つの提
提案として、 各大学への「リスクマ
ネージャー
ー」の配置が
がある。筆者
者らが考える
るリスクマネ
ネージャーとは、大学に
におけるすべ
べての海外派
派
遣プログラ
ラムにかかる
るリスク管理
理のハブとな
なる専門職員
員である。リスクマネー
ージャーに就
就く者は、海
海
外事案のリ
リスクマネジ
ジメントに関
関する専門知
知識、法務や
や保険に関す
する知識を備
備え、海外での緊急対応
経験を有す
する者が望ま
ましい。2015 年 5 月にボス
ストンで開催
催された NAF
FSA リスク管
管理ワークシ
ショップ12に
は、主にア メリカ国内を中心として 60 名を超
超える参加が
があったが、そのほぼす
すべてが国際
際プログラム
ム
を所掌する
る部署及びリスク管理を
を行う部署の
の職員であった。このワークショッ プの講師が
が所属するテ
ンプル大学
学では、「Rissk Manageme
ent and Inssurance」という学士課
課程、博士課
課程プログラムを提供し
ている13ほか
か、他の大学
学でもリスク
クマネジメン
ントに関する
るプログラム
ムが提供され
れていること
とにもみら
れるとおり
り、アメリカ
カではリスクマネージャ
ャーに値する
る人材の養成
成が進んでお
おり、また大
大学において
専門職とし
しての役職も
も確立されて
ていると考え
えられる。一方
方、現在の日本の大学に
におけるリスク管理は、
筆者らがこ
これまで学内
内外から問い
い合わせを受
受け対応して
てきた経験、この度のア
アンケート自由回答欄で
見られた意
意見からも、組織の末端
端レベルの担
担当者が十分
分な知識もなく不安を抱
抱えながら、試行錯誤し
ている状況
況と見受けら
られる。現在
在各大学に設
設置されてい
いるリスク・危機管理担
担当の部署は
は、主に国内
で発生する
る災害時の対
対応、施設内
内での事故、 情報漏洩、不祥事の対
対応を所掌と し、学生の海外渡航時
時
の対応は想
想定していな
ないか、他部
部署に任せて
ている可能性
性がある14。プ
プログラムを
を企画・実施
施する担当
部署がリス
スク管理も行
行う必要があ
あることは言
言うまでもな
ないが、前節
節でも述べた
たとおり、リスク管理に
おいては大
大学内の各組
組織の連携が
が非常に重要
要であるため
め、そのハブ
ブとなる専門
門的な知識を有するリス
クマネージ
ジャーの存在
在は非常に有
有効だと考え
える。これに
により学内において海外
外渡航時のリスク管理の
必要性につ
ついての意識
識を共有し、大学全体で
でのリスク管
管理体制の整
整備を促進、 属人的でない組織的な
プログラム
ム運営を進め
められると望
望ましい。海
海外派遣者数
数を増やすための取組み
みが進む今、その運営体
体
制について
ても今一度大
大学全体で検
検討し直す必
必要がある。効率的に、質の高いプ
プログラムを提供するた
めに、共有
有できる経験
験やノウハウ
ウは一元化し
して皆が活用
用できるような仕組みづ
づくりが求められる。
12
Trainingg: Developing Your In
nternationaal Risk Man
nagement Ac
ction Plan
http://wwww.nafsa.orgg/Attend_Ev
vents/In-Peerson/Developing_Your
r_Internati onal_Risk_
_Managementt
_Action_Pllan/(2016 年 2 月 25 日閲覧)
日
13
Risk, Innsurance, & Healthcar
re Managemeent, Fox Sc
chool of Bu
usiness, Teemple Unive
ersity
http://wwww.fox.templle.edu/cms_
_academics//dept/risk-insurance-healthcaree-managemen
nt/(2016 年
2 月 25 日閲
閲覧)
14
「国大協リス
例えば、
スクマネジメ
メント調査報
報告書」
(国立
立大学リスクマネジメン
ント情報 20
013 年 9 月
号)にも海
海外渡航時の
の危機管理に
については質
質問項目にも含まれてい
いない。
http://wwww.hsc.okayaama-u.ac.jp
p/mdps/filees/files_1178.pdf(20
016 年 2 月 222 日閲覧)
独
独立行政法人日本
本学生支援機構
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ghts reserved.
ウェブマガジン『留学交流』
』2016 年 3 月号
月 Vol.600
おわりに
に
「大学に
における学生
生海外渡航時
時のリスク管
管理」をテー
ーマにしたこの度の質問
問紙調査は、日本では初
めての取り
り組みであっ
った。そのた
ため、調査対
対象の選定や
や質問項目、質問事項、 表現につい
いて改善の余
地が残った
た。しかし、この調査か
から得られた
た結果は、筆
筆者らがこれ
れまで感覚と して捉えていた大学に
おけるリス
スク管理の実
実態を明らか
かにし、学生
生へのリスク管理指導とともに大学
学学内のリスク管理体制
整備により
り一層力を入
入れる必要が
があることを
を示唆した。本稿で示した課題への
の取り組みを一つの参考
考
として、各
各大学におい
いて、より良
良い学生海外
外渡航時のリスク管理体
体制の構築が
が進んでいくことを期待
待
したい。
管理(予防・対策)に
本研究
究は科学研究
究費補助金(挑戦的萌芽
芽研究)「学生海外渡航時のリスク管
関する研究
究」(課題番号
号:2659020
09)の助成を
を受けて実施
施されたもの
のである。
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