訓 辞 ―平成27年度卒業式― 本日、ここに、独立行政法人 田中 壮一郎 国立青少年教育振興機構 様、日本体育大学同窓会 会長 立智辯学園和歌山高等学校教諭・野球部監督 法人上野学園 評議員 石橋 瀧澤康二 高嶋 仁 理事長 様、私 様、学校 明佳(さやか)様、そして、学校法人 日本体育大学理事の皆様方 のご来臨を賜り、ここに平成 27 年度の 学位記授与・卒業式を執り行うことができますことは、本学にとっ て、また卒業生にとって「光栄」とするところであります。謹んで 感謝申し上げます。 卒業生の皆さん ご卒業おめでとうございます。 また、ご両親・保護者の皆様、本日は誠におめでとうございます。 心よりご祝意申し上げます。 卒業生の皆さん、皆さんが学生として過ごした青春時代は、ご両親、 保護者の皆さんから頂戴した貴重な、そして再びめぐりくることの ない、掛け替えのない、 「時間」(とき)でもありました。 1 キャンパスライフを通して多くの知己を得、また先行きの心配をす ることなく、自由に、思うが儘に、豊かな時間を過ごしてきたこと でしょう。意識する、しないにかかわらず、皆さんはその時間を費 やすことで、人間として大きく成長し、社会人たりうる基礎的力量 を身に着けて、今日(きょう)この日を迎えています。 皆さんは、まずもって、ご両親をはじめとして、大切な時間をご提 供くださった方々に、心より、報恩感謝の気持ちをお伝えしなけれ ばなりません。 本日、皆さんは数々の思い出を胸に本学を巣立ってまいります。一 抹の寂しさを禁じ得ませんが、皆さんに、私は大きな期待を寄せる ものです。いま、日本の社会は大きく揺らいでおります。伝統社会 のぬくもりが希薄になり、地方、都市を問わず人々はつながりを生 きることが難しくなってきました。 地方は過疎化し、高齢社会になったことによって「伝統的公共」は すたれ、また都市においても従前の町内会的公共は崩壊しています。 そのため、国は「新しい公共」の形成をはかるための方便・手段と 2 してスポーツに着目、老若男女が集う総合型地域スポーツクラブの 結成を推奨して、これを「スポーツ立国戦略」と銘打った政策の中 に取り込んでいます。各地に誕生した総合型地域スポーツクラブを 新しい公共とみなし、これを一大文化施設として機能させようとし ているのです。 平成 23 年6月に『スポーツ基本法』が制定され、8月から施行され ました。これによって、 「新しい公共」創りは本格化することとなり ました。この法律はスポーツに関する憲法のようなものですが、こ れによって私たち国民一人一人が、そして健常者も障害者も等しく スポーツを行ったり、観戦したり、支えたりする権利を手に入れま した。 本学の設置者である学校法人日本体育大学は、現在、地方の自治体 とスポーツ及び健康に関する包括的連携協定を締結し、地方の活性 化に協力する事業を開始しておりますが、本学はこの一大事業に積 極的に協力してまいります。地域に根ざしたスポーツが心身の健康 をキーワードにして、ことばの全き意味で機能するには優れた指導 者を得なければなりません。チャレンジして下さい。皆さんこそ有 3 資格者です。皆さんが本学で培った経験と能力を未来社会に役立て てもらいたい、これが私の願いであり、最も期待するところです。 いっぽう、体育及びスポーツの現場において指導者の在り方がいま ほど問われている時代(とき)はありません。スポーツ界における体 罰問題が大きな社会問題になっているからです。体罰・暴力・パワ ーハラスメントなどはいかなる事情があっても行使してはなりませ ん。自らがなした行為の結果は、必ず自らに返ってきます。その責 任は自分自身がとらねばなりません。どんな状況におかれようとも、 自らを律して事に処してくれることを願っています。いつも穏やか な笑顔をもって選手に接し、優しく説くように心がけて下さい。 71 年前の今日、東京大空襲がありました。一夜にして、10 万5千余 の人命が奪われました。その東京で 19 年後の 1964 年に「平和の祭 典」である「オリンピックとパラリンピック」が開催され、戦後復 興を果たした「平和な国・日本」の姿が全世界に発信されました。 それから 56 年後の 2020 年に成熟した世界都市・東京で再びオリン ピックとパラリンピックが開催されます。本学はこの国民的祝祭に 積極的にかかわってまいります。それは本学が体育やスポーツの教 4 育と研究を担う大学であるからだけではありません。本学は建学の 精神から導かれた社会的使命の一つとして、 「わが国のスポーツ文化 の深化・発展に努めるとともに、オリンピックムーブメントを主導 的に推進し、スポーツの「力」を基軸に、国際平和の実現に寄与す る。」と掲げています。いうまでもありませんが、オリンピックの最 も大切な理念は「平和な国際社会の樹立」です。この理念が提唱さ れてから、 122 年もの時間(とき)が流れましたが、未だに世界各地で紛争は絶 えず、戦禍は避けようもありません。一昨年 2 月に開催されたソチ 冬季オリンピックの開会式においてバッハIOC会長は開会式でこ う語ったと報道されました。 「オリンピックは人々を結びつけ、人々 を分かつ壁を作らず、多様性を受け入れる。」と説き、こう続けまし た。 「世界の政治リーダーに言いたい。選手は国の最高の親善大使だ。 オリンピックが発する友好や平和のメッセージを尊重してほしい。 選手の後ろに隠れていないで、直接に平和な対話をする気構えを持 て。」と。(毎日新聞(夕刊)、2014 年 2 月 8 日)。私たちはこの訴えに、真摯 に、耳を傾けねばなりません。 いまこそオリンピックの理念を世界中に浸透させなければなりませ 5 ん。人種の違い、民族の違い、宗教の違い、イデオロギーの違い。 これらを乗り越えるには、そのような違いに対して偏見を持たない ことです。差異(ちがい)がわかる世界を発見することです。スポ ーツの「力」を信じて、「平和」がやってくるのを待つのではなく、 スポーツの「力」を信じて「平和」を呼び込むことが大切です。 本学は国交の閉ざされた朝鮮民主主義人民共和国を代表する朝鮮体 育大学とスポーツ交流協定を結び、交流試合を通して、選手たちに 「平和の使者」として、また「国際親善大使」としての役割を担っ てもらいました。これは 2020 年の「平和の祭典」を主催するホスト 国のスポーツマンの仕事でもあります。その勇気ある行為・行動は 本学だけでなく、全国のスポーツ選手の鑑となっております。 「日体大ここにあり」とその偉器を誇示してくれた卒業生の皆さん はそのほかにもたくさんおります。皆さんの活躍に敬意と感謝を申 し上げねばなりません。 保護者の皆様方、これまでにお寄せいただいた本学への温かいご厚 情に深く感謝申し上げます。今後とも変わらぬご支援を賜りますよ うお願い申し上げます。また、卒業生の皆さんに申し上げます。本 6 日からは、同窓生として輝かしい未来を切り拓きつつ、大学の発展 にご協力下さるよう、お願いいたします。 最後に、改めて皆さんのご卒業を祝福し、皆さんが獅子奮迅(ししふ んじん)の力を顕示し、 「青雲の志」をもって、積極果敢に、社会に挑 戦し、さらに大きく飛躍するよう念願して、訓辞といたします。 平成28年3月10日 日本体育大学長 谷釜 了正 7
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