国債等の資産買い入れ増額へ

新生ストラテジーノート 第 222 号
2016 年 3 月 11 日
調査部長 江川 由紀雄
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ECB がマイナス金利幅を拡大、国債等の資産買い入れ増額へ
ユーロ圏の追加緩和を日本から眺めてみる
欧州中央銀行(ECB)は 3 月 10 日の政策理事会で、政策金利(市場介入金利)を 0.05%から
0%に引き下げ、既に 2014 年 6 月以降マイナス金利を適用している預金ファシリティについて、
付利のマイナス幅を 0.3%から 0.4%への拡大を決定した。また、これまで月間 600 億ユーロの
ペースで進めてきた国債等の資産買い入れについて、月間 800 億ユーロ規模へと増加させると
した。資産買入れの対象に初めて銀行ではない民間企業が発行する社債を含めるとした。預金フ
ァシリティのマイナス付利幅の拡大については、日銀が採用しているような階層方式(残高をいく
つかに区分し、異なる水準の付利を行うことで、金融機関の収益圧迫を緩和しようとするもの)は
採用しなかった。
追加緩和については、1 月 21 日の理事会後の会見で Draghi 総裁が次回(つまり、3 月 10
日)の会合で金融緩和を再検討すると述べていたこともあり、既に予告されていた路線である。
ECB が追加緩和を決定したこと自体は、何らサプライズではなく、大方の予想通りの結果というこ
とになろう。
買入れ開始はカバードボンド、ABS、国債、そして、事業債の順だったが
量的緩和とマイナス金利を用いた金利政策を同時に推進している点で、ECB の政策は、近時
の日本銀行の政策に似ている。ECB の政策運営で特徴的なことは、(1) 2014 年 6 月にマイナス
金利(預金ファシリティへのマイナス付利)を開始し、当初はマイナス 0.1%であったものを、マイナ
ス幅を順次拡大し、今般、マイナス 0.4%にまで引き下げることを決定したこと、(2) 2014 年 10
月に ABS およびカバードボンドの買い入れを決定し、カバードボンドについては同月に、ABS につ
いては 2014 年 11 月から買い入れを行ってきていること、(3) カバードボンドや ABS の買い入れ
開始からやや遅れることとなったが、2015 年 3 月からはユーロ圏の国債の買い入れを開始した
こと、といったことが挙げられる。
資産買入れについては、開始時期としては、カバードボンドと ABS が対象としては先行し、国債
がそれに続く形となったが、実は、ABS の買い入れについては、それほど金額は積みあがってい
ない。近時の ECB による買入れ残高は、量的には、国債・公的セクター、カバードボンド、ABS の
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順となっている。資産買い入れ残高は、2016 年 2 月末現在で国債・公的セクターが 5,975 億ユ
ーロ、カバードボンドが 1,583 億ユーロ、ABS が約 186 億ユーロ、なっている 1。買い入れ対象と
しては最も後発の国債・公的セクターが買い入れ実績としての残高としては最も多い。また、ABS
の買い入れ残高の約 186 億ユーロは、2.8 兆ユーロを大きく上回る規模の ECB(Eurosystem—
Euro Area Central Bank Balance Sheet)のバランスシート(総資産)対比、わずか約 0.65%の
規模に過ぎない。
資産買入れペースを加速すると共に、買い入れ対象を企業が発行する社債(事業債)に拡大す
ることを決めた背景には、既存の買い入れ対象だけでは限界に近づいているとの認識があった可
能性がある。
国内金融機関にとって資金運用のヒント
唐突だが、ユーロ建ての金融商品は、日本の金融機関や機関投資家にとって運用対象として
考えることはできないだろうか。
国内金融機関が2、3年前から円建ての債券の利回り低下に耐えられず、一部に、米ドル建て
の CLO (企業向けローンを裏付けとする証券化商品)や超長期~長期の米国債を運用対象とす
る投資信託に資金を振り向ける動きも見られた。ところが、こうした米ドル建ての資金運用につい
て、円ヘッジしようと、ドルをフォワードで売る(為替予約をする)か通貨金利スワップを締結すると、
いわゆるドル円のベーシスコストの高騰(ドル円のベーシス・スワップのスプレッド上昇)の結果、
利回りのかなりの部分を失うことになる。こうした為替ヘッジのコストは、市場参加者がその時点
で置かれている状況に大きく影響されるものの、理論的には、取引の対象となる通貨間の短期市
場金利の差によって説明される。もっぱら円建ての債券を中心に資金運用を行ってきた地域金融
機関等の国内金融機関が、資金運用対象を米ドル建ての金融資産に拡大しても、為替リスクをヘ
ッジしようと思えば思うほど、たいした利回りが得られなくなってしまっている状況にある。米ドル金
利は低位とはいえプラス圏にあることがドル円のベーシスコストが高くなっているひとつの原因と
考えられる。ところが、ユーロの短期市場金利は、円と同等か、むしろ、円よりも低い。そこで、視
点をユーロ建ての金融資産に向けてみるという考え方もある。ドイツ国債の流通利回りや、短期
のインターバンク金利がマイナスに陥っていると言っても、スペインやイタリアの国債の利回りはプ
ラス圏であり、CLO などの証券化商品についても(ユーロ建てで)相応の利回りが得られるもの
が多々ある。
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ECB のウェブサイトにおける開示 Asset purchase programmes
https://www.ecb.europa.eu/mopo/implement/omt/html/index.en.html
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外国の金融資産で資金運用する際の心構え
「ホームカントリーバイアス」とは、資産運用の世界では、好ましくない行為だとされる。機関投
資家や年金基金等が資金運用をする際に、どうしても、自国の資産を主な対象にしがちだが、運
用対象の選択は、世界に目を向けて行うべきだという文脈で用いられることばである。もっとも、海
外資産に投資する際には、投資対象自体について英語での情報開示が充実しているとしても(な
お、欧州の社債や証券化商品には、どの国のものであれ、英語による情報開示を行っているもの
が多くみられる)、現地の投資家に比べ、「外国人」は情報ギャップがあることを認識せねばならな
い。そういうハンディを認識したうえで、運用対象の拡大を検討する価値はありそうである。
(調査部長 江川 由紀雄)
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