11. ジェンダー視点をもった福祉の学びを (宮城 道子)

「なぜ今福祉を学ぶか−福祉を学びたい人へのメッセージ−」
ジェンダー視点をもった福 祉の学びを
宮城道子
社会福祉士指定科目の開講から人間福祉学科の現在まで、
本学における社会福祉士・
介護福祉士の教育にかかわりながら、福祉現場の専門職の皆さんとの交流を得たこと
によって、私個人も大きな影響を受けた。農山漁村の地域振興やコミュニティについての
調査研究から、高齢者問題を通じて福祉を考えるようになった私にとって、福祉とは生活
全体を支えるものであり、制度化されていない相互扶助やボランティアを含む、
公共私の
全体にわたるものという広範なイメージがある。社会福祉の歴史や公的扶助・社会保障
などの制度面を学ぶにつれ、現実の地域社会での取り組み事例が、
いろいろな面で福祉
施策や制度と関わることの意味が理解できるようになってきた。
私の場合は、福祉を学ぶことがそれまでの学びの理解を深めてくれたのであるが、福
祉を専門的に学ぶ学生に、ぜひお薦めしたいのは、福祉の学びにもう一つ別の視点を追
加することである。特にお薦めなのは、
しっかりしたジェンダー視点をもつことである。
ジェンダーとは
「社会的文化的性差」
といわれ、
「生物的性差」
と区別された概念である。
「生物的性差」が基本的には遺伝子によって決定するのに対し、
ジェンダーは、社会や文
化によって異なるといわれている。
つまり、国や時代が違えば、
「男らしさ」
「女らしさ」
の内
容が異なる可能性がある。
ジェンダーによって人々の役割や行動が固定化されている場
合、
「男
(あるいは女)
は○○すべき」
「男
(あるいは女)
は○○してはならない」
といった慣
習や意識が、人々の可能性を狭め、
ときには基本的人権を脅かすことさえある。
さらには、
一方の性を弱いものとして支配したり、差別することもある。
ジェンダーの否定的な面に
どんなに注意していても、現実の社会の中で、
ジェンダーから自由な人はいない。誰でも
生育の過程で、
さまざまなジェンダー意識を身につけている。他人を理解し、
その人らし
さを表現するときに使うであろう
「男らしい」
「女らしい」
という言葉の内容は、
まさにジェ
ンダーによって形成されている。
あるいは、
自分がどんな人間になりたいかというイメージ
のなかにも、意識しないジェンダーが反映されているであろう。
「なぜ今福祉を学ぶか−福祉を学びたい人へのメッセージ−」
ジェンダー視点をもった福 祉の学びを
宮城道子
ジェンダー視点はもつということは、
当たり前のことに疑問をもち、人間を多様な存在
として理解することにつながる。福祉の営みは、直接的に人とかかわり、
その人の生活の
様々な面に目を向けなければならない。特に専門職を目指す場合、対象者への共感的
理解は大切な基盤である。
また、制度についても、
ジェンダーに気づかず特定の性に不
利な仕組みを創り出してしまうことのないようにしなければならない。
これから福祉を学
ぶ人には、
ぜひともジェンダー視点を身につけ、
視野の広さと柔軟さを身につけてほしい。
そのことは、福祉の学びを豊かにするだけでなく、
あなた自身の生き方を豊かにすること
と思う。