第 1 章 病院感染の伝播予防策 Ⅰ. 感染予防策の実際 1. 標準予防策 1) 標準予防策の定義 2) 標準予防策の効果 3) 標準予防策の実際 適切な手指衛生、防護用具の使用、呼吸器衛生(咳エチケット) ケアに使用した器材および器具の取り扱い、安全な注射手技 環境の維持管理、リネンの取り扱い、適切な患者の配置 腰椎穿刺手技のための感染予防策、注射針や血液付着物の処理 医療廃棄物の取り扱い 2. 感染経路別予防策 1) 接触感染予防策 病室管理、患者の処置およびケア、環境整備、医療従事者の対応 2) 飛沫感染予防策 病室管理、患者の処置およびケア、医療従事者の対応 3) 空気感染予防策 病室管理、患者の処置およびケア、医療従事者の対応、 空気感染予防策が必要な患者の転院時の対応 3. 予防策別表 標準予防策、接触感染予防策、飛沫感染予防策、空気感染予防策 血中ウイルス感染予防策 Ⅱ. 洗浄・消毒・滅菌 1. 洗浄・消毒・滅菌の定義 2. 器材の洗浄、消毒、滅菌について 3. 使用後の器材の処理 洗浄の注意点、消毒の注意点 4. 洗浄・消毒・滅菌後の機材の保管 消毒レベルによる消毒剤の分類、対象微生物による消毒剤の使い分け 消毒薬の特徴 Ⅲ. 抗菌薬の使用基準と適正使用 1. 病院感染を予防するための適正使用の原則 2. 手術室内における抗菌薬使用について 投与する症例の選択、抗菌薬投与のタイミング、使用抗菌薬 3. 抗菌薬使用届について 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 Ⅰ. 感染予防策の実際 1. 標準予防策 1) 標準予防策の定義 感染症の有無に関わらず、すべての患者に対して標準的に行う疾患非特異的な 感染予防対策である。汗を除く血液,体液(唾液、胸水、腹水、脳脊髄液など)、 分泌物(喀痰、浸出液など)、排泄物(尿、便など),傷のある皮膚、粘膜との 直接接触、および付着した物との間接接触が予測される場合に、これらを感染の 可能性がある対象として対応することで、患者と医療従事者双方における病院感 染の危険性を減少させる予防策である。 2) 標準予防策の効果 (1) 医療従事者の手を介した患者間の交差感染を予防する。 (2) 患者が保菌しているかもしれない未同定の病原体から医療従事者を保護する。 (3) 針刺し・切創、血液・体液曝露へのリスクを減少する。 3) 標準予防策の実際 (1) 適切な手指衛生 ① 手指衛生の種類と目的 手指衛生の方法として、効果および遵守率の点から速乾性手指消毒剤の使 用が推奨されている。しかし、目に見える汚れがある場合、芽胞形成性病原 体等アルコール抵抗性の病原微生物による手指の汚染がある場合には、石け んと流水による手洗いが必要である。 種 類 日常的手洗い 衛生学的手洗い (手指消毒) 手術時手洗い 手指衛生の種類と目的 目 的 方 法 汚れや有機物及び一過性微 石けんと流水を用いて10~15 生物を除去 秒間洗う 一過性微生物 1) あるいは常 石けんや流水を用い30秒間以 在菌を除去または殺菌 上洗う、または、速乾性手指消 毒剤を用いる 一過性微生物の除去および ブラシを使用しない方法とし 殺菌・皮膚常在菌2)を著しく て抗菌石けんと流水で2~6分 減少させ、抑制効果を持続 間手と前腕を充分に揉み洗い する した後、完全に乾燥させ速乾性 手指消毒剤を用いる 1)一過性微生物:皮膚表面や爪などに周囲の環境から付着したもので、病院感染の原因となる。 (MRSA、大腸菌、緑膿菌、セラチア菌など) 2)皮膚常在菌:爪下間隙や皮脂腺、皮膚のひだの深部に常在する。 (コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、コリネバクテリウム属、プロピオニバクテリウム属など) 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 ② 手洗いの方法 【石けんと流水による手洗いの方法と注意点】 ① 流水で手を濡らす ⑤ 指の間を洗う ② 石けんを適量取る ③ 掌をこする ⑥ 指先を洗う ⑦ 親指と付け根を洗う ④ 手の甲をこする ⑧ 手首を洗う 爪は短く切っておく。手を洗うときは時計や指輪(結婚指輪以外)を外す。 ユニホームが長袖の場合は腕まくりをする。 十分な水でしっかりとすすぎ、ペーパータオルでよく拭き取り、乾燥させる。 手を拭いたペーパータオルで水道栓を閉める。 ハンドローション等を使用し、手のケアを行う。 (手荒れや傷がある時は、手袋を使用する。) 【速乾性手指消毒剤での手指衛生の方法と注意点】 ① 1~2 プッシュ ② 指先によく擦り込む 手に取る ⑤ 指の間に擦り込む ③ 手の甲に擦り込む ④ 掌に擦り込む (反対の手も同様に) ⑥ 親指、特に付け根 ⑦ 両手首までしっかり 擦り込む にも擦り込む 手の大きさに応じて1~2プッシュ手に取り、指先から手の全表面に15秒以上擦り 込む。ペーパータオルで拭き取らない。 エモリエント剤を含んだ擦式手指消毒薬で繰り返し(5~6回程度)消毒すると手が べたつくため,適宜,手洗いでべたつきを落とす。 速乾性手指消毒薬は,開封後6ヶ月間有効である。 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 ③ 手指衛生のタイミング イラスト出典:WHO 医療における手指衛生ガイドライン 手指衛生のタイミング 理 由 具 体 例 手指を介して伝播 ・移動などの介助の前 する病原微生物か ・入浴や清拭の前 患者に触れる前 ら患者を守るため ・脈拍/血圧測定の前 ・胸部聴診/腹部触診の前 患者の体内に微生 ・口腔/歯科ケアの前 物が侵入すること ・分泌物の吸引前 を防ぐため ・損傷皮膚のケアの前 清潔/無菌操作の前 ・創部ドレッシングを行う前 ・皮下注射、血管アクセスなどの前 ・ドレッシング材の準備の前 患者の病原微生物 ・口腔/歯科ケアの後 から自分自身と医 ・分泌物の吸引後 療環境を守るため ・損傷皮膚のケアの後 体液に曝露された可能性の ・創部ドレッシングを行った後 ある場合 ・液状検体の採取や処理をした後 ・気管内チューブの挿入と抜去の後 ・尿、糞便、吐物を除去した後 患者の病原微生物 ・移動などの介助の後 から自分自身と医 ・入浴や清拭の後 患者に触れた後 療環境を守るため ・脈拍/血圧測定の後 ・胸部聴診/腹部触診の後 患者の病原微生物 ・ベッドリネンの交換の後 から自分自身と医 ・点滴速度調整の後 患者周辺の物品に触れた後 療環境を守るため ・アラームを確認した後 ・ベッド柵をつかんだ後 ・ベッドサイドテーブルを掃除した後 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 (2) 防護用具(Personal protective equipment:PPE)の使用 血液、体液、分泌物、排泄物、傷のある皮膚、粘膜などに接触する可能性が あるときは、防護用具(手袋、マスク、エプロン・ガウン、キャップ、ゴーグル など)を着用する。 ① 手袋 手袋が必要な場面 血液、体液、分泌物、汚染物、粘膜、傷のある皮膚に接触する可能性があ る時。 ガーゼやドレッシング交換などで汚染ガーゼやドレッシングを除去する時。 鋭利な器材を扱う時。 汚染器材を取り扱う時。 手荒れや手に傷がある時。 手袋使用時の注意点 処置や業務に応じた適切な手袋を選択する。 手袋は、患者ごとに交換する。 病原体が高濃度に存在する部分に接触した場合は、同一患者でも、処置ご とに手袋を交換する。 ケアや処置中の手袋で、周囲環境に触れない。 使用前後は、必ず手指衛生を行う。 手袋を外すときには、汚染表面を素手で触れないように注意する。 【手袋の着用方法】 ①手指衛生を行う。 ②片方に手袋を着用 ③手袋を着用した手 ④着用する。 手 袋 の 一 部 を つ ま する。 で、もう1枚を引き出 み、引き出す。 す。 【汚染手袋の外し方】 ①手袋の手首部 ② 手 袋 を 引 き 分を摘むか、指に 上げて脱ぐ。 ひっかける。 中表に脱いだ 手袋を片手に 握る。 香川大学医学部附属病院感染制御部 ③手袋を脱いだ 手の指先を片方 の手首と手袋の 間へ滑り込ませ る。 ④そのまま引 き上げるよう にして脱ぎ、2 枚の手袋を一 塊とする。 ⑤一塊となった 状態で感染性医 療廃棄物として 廃棄する。手指 衛生を行う。 平成 27 年 6 月 1 日 ② マスク サージカルマスク使用の目的 サージカルマスクは、着用者の呼気から排出される飛沫を遮蔽し、患者を 保護するために着用する。 例)外科手術時、中心静脈ライン挿入時などの侵襲処置時など 血液、体液などの分泌物が飛散し、飛沫が発生するおそれがある処置やケ アを行う場合、鼻や口の粘膜を保護するために着用する。 職員自身が咳・くしゃみ・鼻汁等の呼吸器症状を有する場合、マスクを着 用する。 サージカルマスク使用時の注意点 マスク使用時はできる限り顔へのフィット性を高める。 口と鼻を十分覆う。マスクを腕や顎に着用しない。 着用後は呼気のかかるマスク部分や汚染の可能性がある部分には素手で 触れないようにする。また、取りはずす際にも触れない。 【サージカルマスクの着用方法】 ①手指衛生を行い、サージカルマスクを1枚取 り出す。 ②ノーズワイヤーを鼻の形に合わせる。 ③プリーツを伸ばし、顎の下までカバーする。 【サージカルマスクの外し方】 ①汚染面(マスクの表面)には触れないよう、紐(ゴム)の部分を持って 外す。 ②汚染したマスク表面に触れないように、感染性医療廃棄物として 廃棄する。 ③手指衛生を行う。 ③ エプロン・ガウン(長袖エプロン) エプロン・ガウン使用の目的 血液、体液などの分泌物が飛散し、飛沫が発生するおそれがある処置やケ アを行う場合、皮膚と着衣を保護するために着用する。 エプロン・ガウン使用の注意点 ガウンまたはエプロンは、撥水性あるいは防水性のものでなければ、血液、 体液が着衣へ浸透し、防護効果が得られない。 飛散の程度や汚染の状況により、ガウン・エプロンを使い分ける。 ガウンやエプロンを脱ぐときは汚染面に触れないようにし、汚染面を内側 にして脱ぐ。 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 【エプロンの着用方法】 ①手指衛生を行い、エプロンを1枚取り出す。 ②輪になっている方が自分側になるように、首の部分 を開く。 ③エプロンを首にかける。 ④エプロンの紐を手に持ち、患者と接する部分に触れ ないで裾を広げる。 ⑤腰紐を後ろで結ぶ。 ⑦エプロンの下半分を完全に開く。 【エプロンの外し方】 ①首の後ろにあるミシン目を左右に引っ張り、首紐を切る。胸の部分を前に垂らす。 ②裾を手前に持ち上げる。汚染面に触れないように、端を持つか、エプロンの裏側から すくい上げる。汚染面を包み込むように織り込む。 ③織り込んだエプロンを持ち、腰紐を切り、小さくまとめる。 ④感染性医療廃棄物として廃棄する。 ⑤手指衛生を行う。 【ガウンの着用方法】 【ガウンの外し方】 ①手指衛生を行う。 ②袖を先に通し、首を通すか、後 ろの紐を結ぶ。 ③手首が露出しないようにする。 ①首紐を外し、ガウンの外側には触れないようにし て、端をもつか、袖の内側からすくい上げるように し、手を引き抜く。 ②汚染面を中にたたみ、小さく丸めて、感染性医療 廃棄物として廃棄する。手指衛生を行う。 イラスト出典:職業感染制御研究会 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 ④ ゴーグル・フェイスシールド ゴーグル・フェイスシールド使用の目的 血液、体液などが飛散し、飛沫が発生するおそれがある処置やケアを行う 場合、目、鼻、口の粘膜を保護するために、マスクとアイプロテクション (ゴーグル)または、フェイスシールドを使用する。 【ゴーグルの着用方法】 【ゴーグルの外し方】 顔・眼をしっかり覆う 外側表面は汚染して よう装着する。 いるため、フレーム部 分をつまんで外す。 外した後は、手指衛生 を行う。 イラスト出典:職業感染制御研究会 【ゴーグルのレンズの交換方法】 ①手袋を着用し、除菌クロスなどでレンズの汚染を取り除き、レンズを外す。レンズは、 感染性医療廃棄物として廃棄する。 ②手袋を外し、手指衛生を行う。 ③フレームを除菌クロス等で清拭する。新しいレンズを装着する。 ⑤ キャップ キャップ使用の目的 頭髪が清潔野に落下したり、頭髪が汚染したりするのを防ぐために使用す る。 防護具着脱の順番 【着け方の順番】 手指衛生 エプロン マスク ゴーグル 手袋 【外し方の順番】 手袋 香川大学医学部附属病院感染制御部 手指衛生 ゴーグル エプロン マスク 手指衛生 平成 27 年 6 月 1 日 (3) 呼吸器衛生(咳エチケット) 咳やくしゃみをする時にはティッシュで口と鼻を覆う。 咳やくしゃみの後は手指衛生を行う。気道分泌物で手が汚れた時は、手指衛生 を行う。 使用したティッシュは、ノンタッチ式のゴミ箱に廃棄、あるいはビニール袋に 入れて密封して廃棄する。 咳をしている人はサージカルマスクを装着するよう促す。 (4) ケアに使用した器材、および器具の取り扱い 再使用可能な器材は、使用用途に応じ洗浄、消毒、あるいは滅菌処理を確実に 実施する。 血液、体液など生体物質で汚染した器具は、自身の皮膚、衣服、他の患者、環 境に接触しないように運び、取り扱う。 血液、体液など生体物質で汚染した器具を取り扱う際は個人防護具を装着する こと。 (5) 安全な注射手技 点滴等ミキシングの際は、手洗い後、未滅菌手袋とマスクを着用する。 無菌テクニックを用いて、滅菌注射器具の汚染を防ぐ。 1つの注射器から複数の患者への薬剤投与はしない。 単回量バイアルやアンプルから複数の患者に薬剤を投与しない。 注射針および注射器は単回使用とし、一本の注射器から複数の患者に薬剤を投 与しない。 点滴バック,チューブ,コネクターは、一人の患者のみに使用し、使用後は適 切に処分する。 複数回量バイアルを用いる場合は、滅菌された針および注射器でアクセスし、 無菌状態が損なわれた場合は廃棄する。複数回量バイアルの使用期限は、開封 日から1ヶ月間である。 (6) 環境の維持管理 手が触れない床などの環境表面は、最低1日1回は、日常的な清掃を行い埃や汚 れを取り除いておく。 環境表面は、接触頻度に従って日常的な清拭を行い埃や汚れを取り除いておく。 ベッド柵、ドアノブ、床頭台、各種スイッチ、椅子の手すり、ベッドサイドテ ーブルなどの高頻度接触面は、低レベル消毒薬を使用し丁寧に清掃消毒する。 床などに付着した血液・喀痰等は、手袋を着用しペーパータオルで拭き取った 後に、必要があればその部位を次亜塩素酸ナトリウムで清拭消毒する。 通気口やエアコンディショナーの吹き出し口は、日常の清掃によって埃が蓄積 しないようにしておく。 (7) リネンの取り扱い リネン庫からリネンを取り出す際に、手指衛生を行う。 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 リネン庫のドアは、常時閉じておく。 リネン庫には、清潔なリネン以外は、置かない。 マットレスの機能が妨げられない場合には、マットレスにカバーをつけて使用 する。 排菌患者あるいは出血傾向のある患者に使用するマットレスは、あらかじめ防 水シーツを敷いておく。 血液、体液、排泄物で汚染されたリネン、MRSA等の感染症に使用したリネン は、感染性リネンとして扱う。 感染性リネンは、他の患者や環境への汚染を予防するため、振り動かさないよ うにしてビニール袋に入れ、袋の口をしっかり閉じる。袋には枚数を記載した 感染性リネン専用の伝票を貼付する。 (8) 適切な患者の配置 他者への伝播のリスクをもたらす患者(排便・尿失禁患者、認知障害患者など周 囲環境を汚染する危険性の高い患者、あるいは衛生管理に協力できない患者)は、 個室に収容する。 (9) 腰椎穿刺手技のための感染予防策 骨髄造影,腰椎穿刺,脊椎麻酔および硬膜外麻酔の際は、術者、介助者共にサ ージカルマスクを着用する。 (10) 注射針や血液付着物の処置 注射針はリキャップをせずに、使用直後に耐貫通性の専用容器(針捨て容器)に捨 てる。 安全機能付きの器材を優先して使用する。 床などに飛散した血液や体液の処理は、手袋を着用し、ペーパーと消毒薬(0.5% 次亜塩素酸ナトリウム、または消毒用エタノール)で拭き取る。二度拭きが望ま しい。 採血時は未滅菌手袋を着用し、患者毎に交換する。 (11) 医療廃棄物の取り扱い 感染性医療廃棄物、非感染性医療廃棄物、一般廃棄物を区別する。 感染性医 療廃棄物 一般ゴミ 非感染性 感染性の 医療廃棄物 鋭利な物 一般ゴミ 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 感染性医療廃棄物の容器は、交差感染を予防するために、蓋付きの足踏み式不 要品入れにセットする。 体液、血液、分泌物の吸引後の廃液は固形剤で固形化し,感染性の医療廃棄物 として廃棄する。 体液、血液、分泌物が付着したガーゼ等の医療材料は、感染性の医療廃棄物と して廃棄する。 患者に使用した血液汚染のある、あるいは血液汚染の可能性がある点滴のルー ト類などは、感染性の医療廃棄物として廃棄する。 感染性の医療廃棄物は、袋の口はしっかり閉じ廃棄物の飛散、流出を防止する。 点滴調整などに使用した注射器や点滴ボトル、消毒薬の空きボトルなどは、非 感染性の医療廃棄物として廃棄する。 注射針類、メスなどの刃等の鋭利なものやアンプルなどのガラスは、耐貫通性 の針捨て容器、あるいは一斗缶に入れ、感染性の医療廃棄物として廃棄する。 《 医療廃棄物の考え方》 ① 患者に使用し、血液、体液、分泌物が付着している物、あるいは、血液、体 液、分泌物が付着している可能性がある物は、感染性の医療廃棄物として処 理する。 ② 患者に使用したが、明らかに血液、体液、分泌物が付着していない物は、非 感染性の医療廃棄物として処理する。 ③ 点滴ルートをはさみで切ることは、飛沫を浴びる、あるいは切創のリスクが あるため、極力避ける。 ★医療廃棄物の処理方法の具体例★ 翼状針を使用しての 1 回刺しの点滴セット→切らずに一斗缶に廃棄 留置していた静脈留置針を抜針した→切らずに感染性の医療廃棄物に廃棄 中心静脈カテーテルを抜針した→切らずに感染性の医療廃棄物に廃棄 持続点滴ルートから投与した側管の点滴セット→切らずに非感染性の医療廃 棄物に廃棄、あるいは、血液汚染が疑われる場合は、感染性の医療廃棄物として 廃棄 点滴調整に使用したシリンジや輸液セット→非感染性の医療廃棄物 マスク、手袋、エプロンなどの個人防護具→感染性の医療廃棄物 点滴セットの包装フィルムなど→一般の燃えるゴミ 消毒薬ボトル→非感染性の医療廃棄物(蛇腹の物はコンパクトにして廃棄) 除菌クロスや OA クリーナー→一般の燃えないゴミ 手指消毒剤、ポンプ式石けん、ハンドローションのボトル→一般の燃えないゴミ 経管栄養の缶→一般のカン・ビン・ペットボトル 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 2. 感染経路別予防策 感染経路別予防策は、伝染性病原体の感染経路遮断のために、「標準予防策」に加え て行う感染予防策である。感染経路別予防策には、「接触感染予防策」「飛沫感染予防 策」「空気感染予防策」がある。 1) 接触感染予防策 接触感染は、患者との直接接触あるいは患者に使用した物品や環境表面との間 接接触によって成立する。 接触感染する重要な微生物 多剤耐性菌:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA) 多剤耐性緑膿菌(MDRP) バンコマイシン耐性腸球菌(VRE) 基質特異性拡張型 β ラクタマーゼ(ESBL)産生菌 メタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)産生菌 多剤耐性アシネトバクター など クロストリジウム・ディフィシル 腸管出血性大腸菌 ノロウイルス・ロタウイルス 接触感染する代表的な疾患 流行性角結膜炎 疥癬 など (1) 病室管理 ① 病原体の毒性や排菌量、同室者の感染リスク、病院あるいは病棟における感 染対策上の重要性などを考慮し病室の配備を行う。 ② 菌量が多く環境を汚染させる場合には個室隔離とする。 ③ 個室隔離ができない場合は、同じ微生物による感染症患者を 1 つの病室に集 めて管理する(コホーティング)。 同一疾患の集団隔離ができない場合 →MRSA や ESBL 産生菌の保菌者の場合は、以下の基準に従い、多床室に入室 する。 MRSA の場合は、保菌部位が咽頭、鼻腔あるいは被覆可能な創部に限局して いる場合は、周囲を汚染する可能性が低い。 日常生活が自立し、MRSA や ESBL 産生菌の保菌者であることを理解し、手 指衛生などの衛生行動が可能である。 同室者として術前、術後早期の患者、喀痰の多い患者( 気管切開、人工呼吸器 装装着患者を含む)、創部(褥瘡を含む)を有する患者、移植後の患者がいない。 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 (2) 患者の処置およびケア ① 医療器具(体温計、血圧計、聴診器など)は、患者専用として部屋の中に置い ておく。 ② 共有の場合は他患者に使用する前に消毒する。不要な物品は、病室に持ち込 まない。 ③ 患者が室外へ出るときは、十分な手洗いと排菌部位の被覆に努める。 ④ 食器や残飯、ゴミ、タオルやリネン類は通常の処理を行う。病室の清掃やカ ーテン類の洗濯も通常の方法で行う。 ⑤ 患者の尿や便は特別な処理の必要はない。 ⑥ 浴室の使用は、患者の状態にもよるが、最後の入浴とする。入浴後の清掃は、 浴槽・シャワーチェアーを低レベル消毒薬で洗浄、または洗剤で洗い、温水 (60℃)で流す。窓を解放して浴室を乾燥させる。 ⑦ 患者退出後の病室は通常の清掃に加え、日常的に手が接触する環境表面を低 レベル消毒薬、または消毒用エタノールで清拭消毒する。 (3) 環境整備 ① 手が触れる環境表面(ベッド柵、床頭台、ドアノブ、水道のコック、手すり、 モニター操作パネルなど)は、消毒液(消毒用エタノールまたは低レベル消毒 薬)を用いて 1 日 1 回以上清拭する。 (4) 医療従事者の対応 ① 患者のケア後には手洗いまたは擦式消毒をする。 ② 創部やカテーテル類を処置する場合や患者に直接接触する可能性がある場合 は、手指衛生を行い、未滅菌手袋およびディスポーザブルのエプロンやガウ ンを着用する。 ③ 患者の周囲環境に接触する時には、手袋を着用する。部屋を退室する前に手 袋を外し、直ちに手指衛生を行なう。 ④ 手荒れがひどい医療従事者は常に手袋を着用する。 2) 飛沫感染予防策 飛沫感染とは、咳、くしゃみ、会話、気管吸引および気管支鏡検査にともなって発 生する飛沫が、経気道的に粘膜に付着し、それに含まれる病原体が感染することをい う。飛沫直径は 5μ より大きいため、飛散する範囲は約 1~2m 以内であり、床面に落 下するとともに感染性はなくなる。 飛沫感染する主な病原体あるいは疾患 インフルエンザ、インフルエンザ菌や髄膜炎菌による髄膜炎、ジフテリア菌、 マイコプラズマ、溶血性連鎖球菌、流行性耳下腺炎、風疹 など 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 (1) 病室管理 ① 個室隔離とする。 ② 個室隔離ができない場合は、同じ微生物による感染症患者を 1 つの病室に集 めて管理する(コホーティング)。 ③ コホーティングも不可能であれば、患者ベッド間隔を 2m 以上保つ、あるい は患者間にパーティションやカーテンによる仕切りを設ける。 ④ 特殊な空調や換気システムを設ける必要はない。 (2) 患者の処置およびケア ① 感染性を有する時期の患者は、室外に出ることを制限する。 ② やむを得ず室外に出るときは、サージカルマスクを着用させる。 ③ 食器や残飯、ゴミ、タオル、リネン類やカーテン類の洗濯、部屋の清掃は特 別な消毒を行わない。 ④ 聴診器や血圧計などを患者専用にしなくてもよい。 ⑤ 患者退出後の病室は通常の清掃でよい。 (3) 医療従事者の対応 ① 医療従事者は患者から 1m 以内での医療行為を行う際には、サージカルマス クを着用する。 ② 医療従事者は、インフルエンザ流行期前にワクチンの接種を推奨する。 3) 空気感染予防策 空気感染とは、微生物を含む直径 5μ 以下の微小飛沫核が、長時間空中を浮遊し 空気の流れによって広範囲に伝播される感染様式をいう。 対象となる病原体あるいは疾患は、結核、水痘(免疫不全者あるいは播種性の帯 状疱疹を含む)、および麻疹である。 (1) 病室管理 ① 個室隔離とする。特に、結核患者で塗抹陽性の排菌期間中は厳重にする。 ② 当院には空気感染予防策に対応した空調設備を備えた病室がないため、簡易 式の陰圧装置を使用する。 ③ 病室のドアは常時閉めておく。(窓は開けても良い) ④ 窓と廊下側の扉が同時に開かないように注意する。 (2) 患者の処置およびケア ① 感染性を有する時期の患者は、室外に出ることを制限する。 ② やむを得ず室外に出るときは、サージカルマスクを着用させる。 患者には N95 微粒子用マスクを使用しない。 ③ 食器や残飯、ゴミ、タオル、リネン類やカーテン類の洗濯、部屋の清掃は、 特別な消毒は、不要である。 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 ④ 聴診器や血圧計などを患者専用にする必要はない。 ⑤ 患者退出後の病室は戸外に向け窓を開放し 1 時間以上換気する。患者退出後 の病室は日常の清掃を行う。 (3) 医療従事者の対応 ① 医療従事者あるいは家族が部屋に入るときは、N95 微粒子用マスクを着用す る。(麻疹、水痘の場合、抗体陽性者は N95 微粒子用マスクは不要) 結核(疑いも含む)患者に使用した N95 微粒子用マスクは、一勤務につき 1 つの使用で、保管するときは、個人で清潔に保管する。 破損あるいは汚れた際には交換する。 ② 水痘あるいは麻疹の患者には、これらのウイルスに対して免疫を有する職員 が優先して対応する。 【N95 微粒子用マスクの着用方法】 ①マスクの鼻 あてを指のほ うにして、ゴ ムバンドが下 にたれるよう に、カップ状 に持つ。 ②鼻あてを 上にしてマ スクが顎を 包むように かぶせる。 ③上側のゴ ムバンドを 頭頂部近く にかける。 ④下側のゴ ムバンドを 首の後ろに かける。 ⑤両手で鼻あ てを押さえな がら、指先で 押さえつける ようにして鼻 あてを鼻の形 に合わせる。 ⑥両手でマス ク全体をおお い、息を強く出 し空気が漏れ ていないか、フ ィットチェッ クを行う。 イラスト出典:職業感染制御研究会 (4) 空気感染予防策が必要な患者の転院時の対応 ① 患者の転院に用いる移送車は下記について考慮する。 結核菌の塗沫検査が陽性の場合は、可能な限り自家用車で転院する。患者 の運転は禁止とし、家族が運転することが望ましい。 車内では、患者を含め乗車者全員がサージカルマスクを着用する。可能な 限り、車の窓を開放して換気を行う。 患者が車外に出たら車の窓を全開して車内の空気の入れ換えを行う。 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 3. 予防策別表 標準予防策(スタンダードプリコーション) 患者配置 特別な患者配置は不要。 血液、体液などの分泌物が飛散するおそれがある処置やケアを行う場 エプロン 合に着用する。 防 護 マスク・ゴ 飛沫が発生しそうな手技を行う場合(気管支鏡、吸引、口腔ケア、創部 具 ーグル の洗浄等)に着用する。 手袋 血液・体液・分泌物、創部、粘膜に接触する場合に着用する。 手指衛生のタイミング(患者に触れる前、清潔/無菌操作の前、体液に 手指衛生 曝露された可能性のある場合、患者に触れた後、患者周囲の物品に触 れた後)で、手指衛生を実施する。 食器 特に制限なし。 清潔、浴室の清掃 浴槽は洗剤で洗い熱水で流す。窓を解放して室内を乾燥させる。 マスク、手袋、ビニールエプロンを着用し、処理する。排泄物は周囲 便・尿 を汚染しないように,そのまま汚物流し(排水口)に流す。 排 吸引した血液、排液、喀痰は固形剤で固めて感染性の医療廃棄物とし 泄 排液 て廃棄する。 物 床や環境が血液汚染したときは、手袋を着けペーパーで拭き取り、0. 吐血・下血 5%次亜塩素酸ナトリウムまたは消毒用エタノールで清拭消毒を行う。 感染性医療廃棄物、非感染性医療廃棄物、一般廃棄物を区別する。 鋭利な物、焼却できない物(注射針、メス、試験管、バイアル、アンプ 廃棄物 ルなど)は針捨て容器または一斗缶に廃棄する。 特別な処理は不要である。血液,体液,排泄物で汚染された場合は、 リネン 感染性リネンとして扱う。 共有する器械・器具は、患者毎に消毒する。 器械・器具 スポルディングの分類に準じて、洗浄・消毒・滅菌を行う。 患者の移動 制限なし 汚れ、ほこり、ゴミのないように日常清掃を行う。 ベッド柵、ドアノブ、床頭台、各種スイッチ、椅子の手すり、ベッド 環境清掃 サイドテーブルなどの高頻度接触面は、低レベルの消毒薬を使用し丁 寧に清掃消毒する。 病室から出るとき、病室に入るとき、排泄後、食事の前に手指衛生を 患者指導 行うよう指導し、できることを確認する。 咳エチケット 咳やくしゃみなどの症状があるときは、サージカルマスクを着用する。 点滴等ミキシングの際は、手洗い後未滅菌手袋とマスクを着用し、無 安全な注射手技 菌テクニックを用いて、滅菌注射器具の汚染を防ぐ。 脊柱管や硬膜下腔にカテーテルを留置、あるいは薬剤を注入するとき 腰椎穿刺 には、サージカルマスクを着用する。 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 接触感染予防策(MRSA、ESBL産生菌、VRE、MDRPなど) 患者配置 エプロン 防 護 具 マスク・ ゴーグル 原則として個室に収容する。VRE、MDRPの場合は、個室を優先させ る。個室の確保が困難なときはコホーティング、コホーティングが困 難なときはカーテンで仕切る。 血液、体液などの分泌物が飛散するおそれがある場合に着用する。患 者の処置、ケアなど衣類が汚染されそうな場合や、湿性物質の飛散に より汚染される場合に着用する。体位交換やシーツ交換、排泄介助な ど患者や環境に密接に接触する場合、ガーゼ交換時、被覆されていな い創部ドレナージなどがある場合は、入室時に着用する。 飛沫が発生しそうな手技を行う場合(気管支鏡、吸引等)に着用する。 ケアや処置のために入室するときは、必ず手袋を着用する。患者周囲 手袋 の環境に触れる場合に、手袋を着用する。 患者ケア後は手袋を外して、手洗いを行う。 手指衛生のタイミング(患者に触れる前、清潔/無菌操作の前、体液に 手指衛生 曝露された可能性のある場合、患者に触れた後、患者周囲の物品に触 れた後)で、手指衛生を実施する。 食器 特に制限なし。 入浴,シャワーの順は最後にする。できる限りシャワーのみとする。 清潔、浴室の清掃 浴槽・シャワーチェアーは洗剤で洗い温水(60℃)で流す。シャワーチ ェアーは、乾燥させる。窓を解放して浴室を乾燥させる。 マスク、手袋、ビニールエプロンを着用し、処理する。排泄物は周囲 便・尿 を汚染しないように,そのまま汚物流し(排水口)に流す。 排 吸引した血液、排液、喀痰は固形剤で固めて感染性医療廃棄物として 泄 排液 廃棄する。 物 床や環境が血液汚染したときは、手袋を着けペーパーで拭き取り、0. 吐血・下血 5%次亜塩素酸ナトリウムまたは消毒用エタノールで清拭消毒を行う。 廃棄物 標準予防策に準ずる。 使用後のリネンはビニール袋に入れ感染性リネンとして処理する。血 リネン 液、排泄物等による汚染がひどい場合は廃棄する。 直接患者に触れる物は専用とする。余分な物品を病室に持ち込まない。 器械・器具 共有の場合は他患者に使用する前に消毒する 病室外への移動は最小限とし、排菌部分はガーゼで覆う。車イス、ス 患者の移動 トレッチャーは清潔なシーツで覆い、使用後はシーツを洗濯する。 ベッド柵、ドアノブ、床頭台、各種スイッチ、椅子の手すり、ベッド サイドテーブルなどの高頻度接触面は、低レベル消毒薬、または消毒 環境清掃 用エタノールで清拭消毒を行う。 退院後は、カーテンを交換しカーテンレールの清掃を行う。 患者・面会者への手洗い指導、病室から出るとき、病室に入るとき、 患者指導 排泄後、食事の前に手指衛生を行うよう指導し、できることを確認す る。場合によっては行動制限が必要なこともある。 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 飛沫感染予防策(インフルエンザ、百日咳など) 患者配置 防 護 具 エプロン マスク・ ゴーグル 手袋 原則として個室隔離する。個室の確保が困難なときはコホーティング。 コホーティングが困難なときはベッド間隔を約2m確保し、カーテンで 仕切る。病室のドアは開放していても良い。 血液、体液などの分泌物が飛散するおそれがある場合に着用する。 患者に1m以内に接近する時、サージカルマスクを着用する。 血液・体液・分泌物、創部、粘膜に接触する場合に着用する。 手指衛生のタイミング(患者に触れる前、清潔/無菌操作の前、体液に 手指衛生 曝露された可能性のある場合、患者に触れた後、患者周囲の物品に触 れた後)で、手指衛生を実施する。 食器 特に制限なし。 入浴、シャワーは、個室内で行えば可である。使用後の浴室は、通常 清潔、浴室の清掃 に清掃する。窓を解放して室内を乾燥させる。 マスク、手袋、ビニールエプロンを着用し、処理する。排泄物は周囲 便・尿 を汚染しないように,そのまま汚物流し(排水口)に流す。 サージカルマスクを着用すれば室外トイレも使用できる。 排 泄 吸引した血液、排液、喀痰は固形剤で固めて感染性の医療廃棄物とし 排液 物 て廃棄する。 床や環境が血液汚染したときは、手袋を着けペーパーで拭き取り、0. 吐血・下血 5%次亜塩素酸ナトリウムまたは消毒用エタノールで清拭消毒を行う。 標準予防策に準ずる。 廃棄物 特別な処理は不要である。血液,体液,排泄物で汚染された場合は、 リネン 感染性リネンとして扱う。 共有する器械・器具は、患者毎に消毒する。 器械・器具 スポルディングの分類に準じて、洗浄・消毒・滅菌を行う。 聴診器や血圧計等の器具は患者専用にする必要はない 患者の病室からの移動は必要最小限とし、病室からの移動時はサージ 患者の移動 カルマスクを着用する。車イスなどは、喀痰や唾液で汚染されていな い場合は、特別の消毒は不要である。 汚れ、ほこり、ゴミのないように日常清掃を行う。 ベッド柵、ドアノブ、床頭台、各種スイッチ、椅子の手すり、ベッド 環境清掃 サイドテーブルなどの高頻度接触面は、両性界面活性剤を使用し丁寧 に清掃消毒する。 退院後は、十分な換気を行う。カーテンは洗濯に出す。 咳エチケットを遵守する。ティッシュで鼻をかんだ後は、手指衛生を 行うよう説明する。 患者指導 病室から出るとき、病室に入るとき、排泄後、食事の前に手指衛生を 行うよう指導し、できることを確認する。 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 空気感染予防策(結核など) 患者配置 防 護 具 エプロン マスク・ ゴーグル 手袋 原則として個室とし、ドアは常に閉めておく。簡易式の陰圧装置を設 置し空調管理を行う。 血液、体液などの分泌物が飛散するおそれがある場合に着用する。 患者の病室入室時、N95微粒子マスクを着用する。 血液・体液・分泌物、創部、粘膜に接触する場合に着用する。 手指衛生のタイミング(患者に触れる前、清潔/無菌操作の前、体液に 手指衛生 曝露された可能性のある場合、患者に触れた後、患者周囲の物品に触 れた後)で、手指衛生を実施する。 食器 特に制限なし。 入浴、シャワーは、個室内で行えば可である。使用後の浴室は、通常 清潔、浴室の清掃 に清掃する。窓を解放して室内を乾燥させる。 便・尿 室内トイレ、あるいはポータブルトイレを使用する。 吸引した血液、廃液、喀痰は固形剤で固めて感染性医療廃棄物として 処理する。 排 排液 泄 ティッシュペーパーにとった喀痰は小ビニール袋に入れ、口を縛り、 物 感染性医療廃棄物として処理する。 床や環境が血液汚染したときは、手袋を着けペーパーで拭き取り、0. 吐血・下血 5%次亜塩素酸ナトリウムまたは消毒用エタノールで清拭消毒を行う。 標準予防策に準ずる。 廃棄物 特別な処理は不要である。痰などで汚染された場合は、感染性リネン リネン として扱う。 痰などで汚染された場合は、拭き取ったあとアルキルジアミノエチル グリシン塩酸塩液(結核領域において使用する場合は、0.2~0.5%溶液) 器械・器具 を用いて消毒する。 聴診器や血圧計等の器具は患者専用にする必要はない。 患者はサージカルマスクを使用し、必要最小限の移動のみとする。車 患者の移動 イスなどは、喀痰で汚染されていない場合、消毒は不要である。 日常的な清掃でよい。喀痰が付着している場合は、ペーパーなどで拭 き取ったあとアルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩液で清拭する。 退院後の部屋は、十分な換気(屋外へ窓を全開し1時間放置)を実施した 環境清掃 後に通常の清掃でよい。 個人防護具の着用は必要ない。 カーテンは洗濯に出す。 室内検査の順番は最後にする。呼吸器で扱う以外の器具の消毒は不要。 検査 肺機能検査は結核菌塗抹陰性が確認されるまで行わない。 病室外に出るときはサージカルマスクを使用し、必要最小限とする。 患者指導 乳幼児、易感染患者の立ち入りは、禁止とする。 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 血中ウイルス感染予防策(HBV,HCV,HIVなど) 患者配置 エプロン 防 マスク・ 護 ゴーグル 具 手袋 血液、体液で環境を汚染させる恐れのある場合は個室に収容する。 血液、体液などの分泌物が飛散するおそれがある場合に着用する。 血液、体液などの感染性物質が飛び散る可能性が有るとき着用する。 飛沫を発生しそうな手技を伴う場合に着用する。 血液、体液などの感染性物質に触れる可能性が有るとき着用する。 手指衛生のタイミング(患者に触れる前、清潔/無菌操作の前、体液に 手指衛生 曝露された可能性のある場合、患者に触れた後、患者周囲の物品に触 れた後)で、手指衛生を実施する。 食器 特に制限なし。 血液、体液、排泄物で汚染しそうなときは入浴、シャワー順は最後に 清潔、浴室の清掃 する。 浴槽は洗剤で洗い熱水で流す。窓を解放して室内を乾燥させる。 マスク、手袋、ビニールエプロンを着用し、処理する。排泄物は周囲 便・尿 を汚染しないように,そのまま汚物流し(排水口)に流す。 排 吸引した血液、廃液、喀痰は固形剤で固めて感染性の医療廃棄物とし 泄 排液 て廃棄する。 物 床や環境が血液汚染したときは、手袋を着けペーパーで拭き取り、0. 吐血・下血 5%次亜塩素酸ナトリウムまたは消毒用エタノールで清拭消毒を行う。 感染性医療廃棄物、非感染性医療廃棄物、一般廃棄物を区別する。 廃棄物 鋭利な物、焼却できない物(注射針、メス、試験管、バイアル、アンプ ルなど)は針捨て容器または一斗缶に廃棄する。 血液,体液,排泄物で汚染された場合は、感染性リネンとして扱う。 リネン 血液等による汚染がひどい場合は廃棄する。 熱水処理できる物は、ベットパンウォッシャーなどで、熱水洗浄を行 器械・器具 う。浸漬できる物は、0.1~0.5%次亜塩素酸ナトリウムに30分浸漬消 毒、浸漬できない物は、消毒用アルコールで2回清拭消毒を行う。 患者の移動 制限なし。 汚れ、ほこり、ゴミのないように日常清掃を行う。 ベッド柵、ドアノブ、床頭台、各種スイッチ、椅子の手すり、ベッド サイドテーブルなどの高頻度接触面は、低レベル消毒薬を使用し丁寧 環境清掃 に清掃消毒する。 血液で汚染された場合には、0.5%次亜塩素酸ナトリウムで清拭消毒を 行う。 ひげ剃りなどを共有しない。鼻出血や生理用品の処理方法について説 明する。 患者指導 病室から出るとき、病室に入るとき、排泄後、食事の前に手指衛生を 行うよう指導し、できることを確認する。 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 Ⅱ. 洗浄、消毒、滅菌 1. 洗浄、消毒、滅菌の定義 用 語 定 義 対象物からあらゆる異物(汚染・有機物など)を除去すること。(表面に付着した 洗浄 汚れを洗い、すすぐなどして除去する工程) 対象から細菌芽胞を除くすべて、または多数の病原微生物を除去すること。必 消毒 ずしも微生物をすべて殺滅するものではない。 微生物をすべて完全に除去、あるいは殺滅すること。 無菌保証レベルとして 滅菌 10-6 レベルが採用されている。 2. 器材の洗浄、消毒、滅菌について 1) 患者に使用した物品は、標準予防策の考えに基づき、感染症の有無によって方法 を変更するのではなく、どのように使用されるのか、また使用時に患者が受ける 感染のリスクを考え、E.H.Spaulding の分類に添って最終処理を行う。 2) 基本は十分な洗浄である。有機物、血液、組織などを十分取り除いてから消毒、 滅菌を行う。 3) 消毒薬の特性を知り、適正な使用方法(濃度、接触時間、温度)を守る。 4) 使用済みの物品は、速やかに処理を行い、汚染を拡散しない。 E.H.Spaulding の分類 E.H.Spaulding の分類 処理方法 クリティカル 洗浄+滅菌 皮膚粘膜を穿刺または 切開して直接無菌の組 織、または血管内に挿入 する器材 セミクリティカル 洗浄+高レベル消毒 粘膜、または創のある皮 膚と接触する器材 洗浄+中レベル消毒 ノンクリティカル 洗浄+低レベル消毒 傷のない正常な皮膚に または洗浄のみ 接触する器材 器 材 手術器械、穿刺器材、注射器材、体内留 置器材、包交材 内視鏡、呼吸器回路、気管内チューブ、 喉頭鏡、マウスピース 粘膜に接触する体温計 聴診器、血圧計のカフ、膿盆、ガーグル ベースン、便器、尿器、松葉杖、床頭台、 車いす、ストレッチャーなど 3. 使用後の器材の処理 1) 使用後の器材(材料部管理の器材)は、汚染を拡散しないように配慮し、速やかに回 収コンテナに保管する。回収コンテナは、決められた時間に、材料部に返却する。 2) 各部署で管理している器材については、自部署で洗浄、消毒を実施後、材料部に 滅菌を依頼する。 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 (1) 洗浄の注意点 汚染器材と清潔器材と交差させない。汚染器材専用の流し台を決めておく。 作業者は、防水性のエプロン・手袋・(必要時マスク・フェイスシードル)を着 用する。 水道蛇口下に専用容器(バケツなど)を置き、容器内に水を溜めてその中で付着 物を除去してからブラッシングする。 内腔のある器材は、表面がすすぎ洗いされていても、内腔の洗浄が不十分なこ とがあるので、内腔に水をよく通す。 洗浄後は、E.H.Spaulding の分類により一時消毒・滅菌の有無を確認する。 洗浄後は、十分に乾燥させる。 洗浄後の物品は、汚染しないように保管する。 (2) 消毒の注意点 洗浄後に消毒を行う。有機物(血液や分泌物等)は、洗浄により予め除去してか ら消毒する。 目的に応じた消毒剤を選択し、有効な方法で使用する。 消毒剤の殺菌力の発揮のために、正確な濃度、接触時間、温度(20 度以上が望 ましい)、などの諸条件を満たすように使用する。 ★適切な消毒濃度の作り方★ 原液の量(ml) =〔作りたい消毒液の量(ml)×作りたい濃度(%)〕÷原液の濃度(%) 例)ミルクポン○R を使って 0.01%の次亜塩素酸ナトリウムを 1,000ml 作る場合: R 計算すると、1,000ml×0.01%÷1%(ミルクポン○ の濃度)=10ml となり R ○ 「ミルクポン 10ml+水 990ml」 容器内で微生物が繁殖しないよう、交換時には容器も清潔にし、注ぎ足しをし ない。 継続使用により殺菌力が低下するので、消毒剤の特性に応じ適切な間隔で調製 する。 浸漬消毒用の低レベル消毒薬は、1 日 1 回の作製とする。作製した消毒薬が汚 染した場合には、速やかに作製し直す。 作製した消毒薬は蓋付きの容器で管理する。 化学的残留物質による副作用や業務上の曝露に注意し、防護を行なう。 浸漬消毒の場合は、器材を十分浸漬させる。 消毒後の物品は、汚染しないように保管する。水回りで乾燥させることを避け る。 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 4. 洗浄・消毒・滅菌後の機材の保管 1) 床から 25cm 以上、 天井から 45cm 以上、 外壁から 5cm 以上距離を置き保管する。 2) 清潔区域で保管する。 3) パッケージを破損しないように置く。できる限りパッケージを重ねない。 4) 人通りの多いところには保管しない方が望ましい。 5) 扉がある棚に保管することが望ましい。 6) 湿気のある場所に保管しない。 7) 棚は、定期的に清掃する。 8) 在庫を多く持たない。 消毒レベルによる消毒剤の分類 消毒レベル 特徴 消毒薬 ・多数の細菌芽胞を除くすべての微生 グルタールアルデヒド(2%以上) 物を殺滅する。 オルトフタルアルデヒド(0.55% 高水準消毒剤 ・長時間の接触では真菌および芽胞な 以上) どあらゆる微生物を殺滅することが 過酢酸製剤(0.3%以上) できる。 ・結核菌、栄養型細菌、ほとんどのウ 次亜塩素酸ナトリウム 中水準消毒剤 イルスとほとんどの真菌を不活化す 消毒用エタノール る。 ポビドンヨード ・ほとんどの細菌、数種のウイルス、 第 4 級アンモニウム 数種の真菌を死滅させることができ グルコン酸クロルヘキシジン 低水準消毒剤 る。 両性界面活性剤 ・結核菌や細菌芽胞など抵抗性のある 微生物の殺滅はできない。 菌 種 消毒レベル 高水準 中水準 低水準 *1 *2 *3 *4 対象微生物による消毒剤の使い分け 細 菌 真菌 ウ イ ル ス 芽胞菌 中間 *2 小型 *3 HIV 一般細菌 結核菌 HBV *1 脂質あり 脂質なし HCV + + + + + + + + + + + - - - + ± + + ± - ±*4 - + - 炭疽菌、クロストリジウムなど。完全殺菌には高レベルの消毒剤でも長時間の処理が必要 アデノウイルス、インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス等 エンテロウイルス、ポリオウイルス等 皮膚にはアルコール、ヨード系、粘膜にはヨード系の消毒剤を使用 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 高水準消毒薬の特徴 使用濃度 作用時間 化学イン ジケータ 緩衝材 対象 耐金属製 凝固性 グルタールアルデヒド (GA) 2w/v % 体液付着器具 1 時間以 上、それ以外 30 分以上 あり 注 意 事 項 過酢酸製剤 (EPA) 0.3w/v % 通常 5 分以上 芽胞 10 分以上 あり あり なし あり 内視鏡類、泌尿器科用器具、歯科用器具、レンズ装着の装置類 など 炭素鋼製器具。24 時間 ニッケルでメッキされた製 鉄、銅、真鍮、亜鉛鋼 以上の浸漬不可 品、ステンレス鋼は 1 ヶ月 板、炭素鋼を腐食 以上の浸漬で変色 タンパク質凝固性強い タンパク質凝固性弱い タンパク質凝固性なし 次亜塩素酸ナトリウム 広範囲抗菌スペクトル 長 を示す低残留性。 所 短 所 オルトフタルアルデヒド (OPA) 0.55w/v % 通常 5 分以上 芽胞 10 時間以上 あり 金属腐食性、脱色作用 塩素ガスが粘膜を刺激 低濃度液は有効濃度で 不活性化されやすい。 酸との混合によりガス を発生するため、取り 扱いに十分注意する。 原液の濃度においても 安定が悪く、冷所保存 をしないと比較的短時 間に表示量以下の濃度 に低下してしまう。 金属腐食、皮膚、粘膜 刺激作用がある。有機 物によって汚染される と不活性化する。脱臭、 防臭、漂白作用がある。 1 日 1 回調製する。 中水準消毒剤の特徴 ポビドンヨード 広範囲抗菌スペクトルを 示す。 アルコール 芽胞を除くすべての微生物に有 効、短時間で効力を発現、揮発性 である。 粘膜、損傷皮膚および新生 引火性がある。 児の皮膚から吸収されや すい。 石けん類によって殺菌作 用が弱まる。 電気的絶縁性をもってい るので、電気メス使用時に は、対極板と皮膚の間に入 らないように注意する。湿 潤状態での長時間接触で 化学熱傷の危険あり。体表 面の 20%以上の熱傷患者 や、腎障害のある熱傷患者 への使用を避ける。 大量吸収による副作用(甲 状腺機能障害・急性腎不 全)の可能性がある。 香川大学医学部附属病院感染制御部 引火性があるので注意する。手術 野の消毒後に電気メスを用いる 場合は、アルコール分が揮発して いることを確認してから行う。室 内、白衣など広範囲に噴霧しな い。 血清、膿汁など蛋白質を凝固さ せ、内部まで浸透しないことがあ るので、これらを十分に洗い落と してから使用する。 高度の安全性を求められる小児 科などでは吸入毒性の危険があ るイソプロパノールを用いるこ とは少ない。 100%アルコールは消毒効果がな い。 平成 27 年 6 月 1 日 低水準消毒薬の特徴 第 4 級アンモニウム塩 基本的には、非生体向け 消毒薬であり、ノンクリ ティカルな環境の消毒に 用いる。しかし日本では 特 グルコン酸クロルヘキシ 徴 ジンの粘膜適応が禁忌に なっているため、粘膜な どの生体に使用されてい る。 注 意 事 項 クロルヘキシジン 皮膚に対する刺激が少な く、臭気がほとんどない生 体消毒であり、適用時に殺 菌力を発揮するのみなら ず、皮膚に残留して持続的 な抗菌作用を発揮する。手 術時手洗い、血管カテーテ ル挿入部位などに優れた 特性を示す。 血液、体液などの有機物 適正濃度に注意する。高濃 により、殺菌力が低下す 度の消毒剤の使用でショ る。 ックの例が報告されてい 皮膚消毒に使用する綿 る。水道水や生理食塩水で 球、ガーゼなどは滅菌し 希釈すると殺菌力が低下 て保存し、使用時に溶液 する。日光により着色する に浸す。 ので遮光容器に保存する。 微生物汚染をしやすいので、開封後は汚染に注意する 香川大学医学部附属病院感染制御部 両面界面活性剤(アルキルジア ミノエチルグリシン塩酸塩液) 幅広い pH 領域で殺菌効果があ る。低水準消毒剤であるが、高 濃度(0.2~0.5%)で、結核菌、抗 酸菌にも殺菌効果を示す。環境 消毒などにおいてクレゾール 石けん液の代わりに繁用され る。 石けん類は殺菌作用を弱める ので、石けん分を落としてから 使用する。 金属器具を長時間浸漬する必 要がある場合は、腐食を防止す るために 0.1~0.5%の割合で亜 硝酸ナトリウムを溶解する。 平成 27 年 6 月 1 日 Ⅲ. 抗菌薬の使用基準と適正使用 抗菌薬は細菌の生態系(常在細菌叢)を破壊する薬剤であることから、不必要な抗菌 薬投与を行わないことは、病院感染予防のためにきわめて重要である。 広域抗菌薬、あるいは特殊な耐性に対して切り札的に用いられる薬剤は、その薬剤 に対する耐性菌が出現した場合、次に選択する抗菌薬が限られたものになるため、使 用を制限することが望ましい。 使用を制限することが望ましい抗菌薬として、第 3 世代セフェム系、第 4 世代セ フェム系、カルバペネム系、ニューキノロン系、抗 MRSA 薬がある。 1. 病院感染を予防するための抗菌薬使用の原則 1) 抗菌薬は、以下の 8 点を考慮して選択する。 (1) 推定あるいは同定された原因微生物の種類 (2) 薬剤感受性 (3) 臓器移行性 (4) 細胞内移行性(増殖菌) 細胞内移行性(増殖菌) 細胞内移行性(増殖菌) (5) 患者重症度(感染、基礎疾患) (6) 患者臓器障害(腎機能、肝) (7) 既往歴(薬物アレルギー) (8) コスト 2) 生体防御機能の正常な患者については、細菌生態系の破壊を最小限に押さえ正常 細菌叢の回復を可能にするため、できるだけ狭い抗菌域の抗菌薬を使用する。 3) 広域抗菌薬を予防的抗菌薬投与として投与しない。 4) 起炎菌を同定のために、血液培養を含めた細菌培養を積極的に提出する。 5) 感染制御システムにてアンチバイオグラムを参照し、抗菌薬の選択に活用する。 6) 生体防御機能の正常な患者については、感受性試験の結果の判明した時点で、デ エスカレーション(狭い抗菌域の抗菌薬を投与)を行う。 7) 抗菌薬の有効性を的確に判定し、抗菌薬の長期間投与を避ける。 8) 腸内細菌叢を保護するため、乳酸菌製剤などを適宜併用する。 9) 感染制御システムを参照し、添付文書に示される適応症、用法、用量、および禁 忌等に基づいて使用する。 10) 注射薬の外用的使用(病巣散布、洗浄、および吸入など)は原則として実施しない。 11) 至適有効血中濃度の明確な抗菌薬については、必要に応じて血中濃度測定を依頼 する。 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 2.手術室内における抗菌薬使用について (手術部位感染予防のための抗菌薬使用) 1) 目的 手術部位感染予防薬は組織の無菌化を目標にしているのではなく、付加的に使用 することによって術中汚染による細菌量を宿主防御機構でコントロールできる レベルにまで下げるために補助的に使用する。 手術を行う部位に常在する細菌をターゲットとし、ブロードスペクトラムを有す る抗菌薬を使用する必要はない。 2) 適応 清潔創および準清潔創手術が予防的抗菌薬投与の適応となる。 汚染創・不潔あるいは感染創手術は、当初より治療抗菌薬を選択する。 表 1. 手術創分類(引用:国公立大学附属病院感染対策協議会「サーベイランス」) 手術創分類 清潔創 Clean (クラスⅠ) 準清潔創 clean-contaminated (クラスⅡ) 定義 まったく炎症がなく呼吸器、消化器、生殖器、非感染性 尿路に手を加えない非感染創のことである。さらに、清 潔創は一時閉鎖され必要に応じて閉鎖式ドレナージによ る排液が行われる。非穿通(鈍的)外傷に対する手術切 開創は、この基準を満たすようであれば、このカテゴリ ーに含まれる。 呼吸器、消化器、生殖器、尿路が管理された状態で手術 操作を受け、通常は起こらないような汚染がない手術創 のことである。胆道、虫垂、膣、口腔咽頭の手術などは、 明らかな感染がなく手技の大きな破綻が起こらなけれ ば、このカテゴリーに含まれる。 汚染創 Contaminated (クラスⅢ) 開放性の事故による新鮮な創傷を含む。さらに、無菌的 手技に大きな破綻があった手術(例:開胸心マッサージ)、 あるいは消化菅内容の大きな漏出、急性非化膿性炎症に 対する手術の切開創などがこのカテゴリーに含まれる。 不潔あるいは感染創 dirty/infected (クラスⅣ) 壊死組織の残存する陳旧性外傷、すでに存在する臨床的 感染、あるいは消化菅穿孔に対する手術の創などである。 この定義は、術後感染を引き起こす微生物が術前よりす でに術野に存在していたことを示唆する。 3) 手術の対象臓器と推定汚染菌 手術の対象臓器によって異なるが、皮膚および消化管由来の細菌が多い。 術式や対象臓器に応じてもっとも汚染頻度の高い一般細菌を推定して予防抗菌 薬を選択する。 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 表 2. 手術の種類と推定される術野汚染菌 手術 推定汚染菌 皮膚、軟部組織、血管、神経、 呼吸器系外胸部、心臓、人工 黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌 捕綴、甲状腺、乳腺 眼科 黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、連鎖球菌、 グラム陰性桿菌 頭頚部 (経咽頭) 黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、咽頭系嫌気性菌 整形外科 黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、グラム陰性桿菌 胃、十二指腸、小腸 ブドウ球菌属、連鎖球菌、グラム陰性桿菌、咽頭系 嫌気性菌 虫垂 グラム陰性桿菌、嫌気性菌、ブドウ球菌属 結腸、直腸、肛門 グラム陰性桿菌、嫌気性菌、ブドウ球菌属 胆、胆道、膵 グラム陰性桿菌、嫌気性菌、ブドウ球菌属 産婦人科 グラム陰性桿菌、腸球菌、B 群連鎖球菌、嫌気性菌 泌尿器科 グラム陰性桿菌 4) 各手術部位における推奨予防的抗菌薬 (表 3) 清潔創の手術では、皮膚常在菌を対象とするため、第 1 世代セフェム (セファゾ リン)が推奨される。 準清潔創の手術では、腸内の常在菌を対象とするため、第 2 世代セフェム (セフ メタゾール)を推奨する。 手術室に置く薬剤は、セファゾリンとセフメタゾールの 2 剤とし、他は持ち込み 薬剤とする。手術室では、主治医の入力により、手術申込の時点で予防的抗菌 薬投与の有無と抗菌薬が選択できる。ここで入力されていれば、自動的に後述 するタイミングで指定の抗菌薬が投与される。 MRSA が体表面に付着していると証明された症例で感染を起こすと重大な結果 を招くような異物を埋め込むような処置 (人工弁、人工骨頭)などでは例外的に バンコマイシンの使用を考慮してもよい。 βラクタム系に重篤なアレルギーのある症例では、クリンダマイシン、バンコマ イシン、ホスホマイシンの投与が検討される。 腎機能低下症例、小児に対する投与は体重に応じて適宜量を検討する。 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 表 3. 各手術部位における推奨予防的抗菌薬 手術部位・臓器 推奨抗菌薬・使用量 心臓・血管 CEZ 1~2 g/回 胸部外科 CEZ 1~2 g /回 食道・胃・十二指腸 CEZ 1~2 g /回 肝・胆・膵 (腸切あり) CMZ 1~2 g /回 肝・胆・膵 (腸切なし) CEZ 1~2 g /回 下部消化管 CMZ 1~2 g /回 副腎・腎臓・尿管・尿道 CEZ 1~2 g /回 膀胱 (開腹)、前立腺、経尿道的手術 CMZ 1~2 g /回 前立腺生検、陰嚢、陰茎 CEZ 1~2 g /回 腎移植 (レシピエント) SBT/ABPC 1.5g/回 脳 CEZ 1~2 g /回 皮膚 CEZ 1~2 g /回 整形外科 (人工関節を含む人工物挿入術・非挿入術) CEZ 1~2 g /回 経膣あるいは経腹子宮摘出術 CEZ 1~2 g /回 帝王切開 CEZ 1~2 g /回 頭頚部 CEZ 1~2 g/回 口腔 CEZ 1~2 g/回 LVFX 1.5%点眼 4 回/日 (術前眼培養で R の場合は S の抗菌薬に変更) 略語:CEZ:セファゾリン、CMZ:セフメタゾール、 SBT/ABPC:アンピシリン/スルバクタム、LVFX:レボフロキサシン 眼 5) 術前の抗菌薬投与のタイミング 執刀開始のおよそ 30~60 分前に点滴静注により投与開始する。ただし、バンコ マイシンは、急速静注または短時間で点滴を行なった場合に、red neck(red man) 症候群、血圧低下等の副作用が現れる恐れがあり、60 分以上かけて点滴静注する必 要があるため、2 時間前を推奨する。 ① 全身麻酔、硬膜外麻酔、脊髄くも膜下麻酔:麻酔導入時に投与する ② 局所麻酔:入室直後 6) 術中の抗菌薬追加投与のタイミング 手術中から創閉鎖後 3 時間程度は有効血中濃度を保つようにする。したがって、 長時間手術では抗菌薬の追加投与が推奨される。 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 追加投与は抗菌薬半減期の 1~2 倍の間隔を目安とする。主に使用される抗菌薬 の半減期と追加投与のタイミングを表 4 に示す。ただし、クリンダマイシン以 外の抗菌薬では、腎機能低下時に半減期が延長するため、適宜追加投与のタイ ミングを調整することを考慮する 。 表 4. 各種抗菌薬の半減期と追加投与のタイミング 抗菌薬 半減期 セファゾリン 約 1.7 時間 セフメタゾール 約 1 時間 アンピシリン/スルバクタム 約 1 時間 バンコマイシン 4~6 時間 クリンダマイシン ホスホマイシン 2~3 時間 約 1.7 時間 追加投与のタイミング 3~4 時間おき 2~3 時間おき 2~3 時間おき 6~12 時間おき 3~6 時間おき 3~4 時間おき 大量出血 (1,500 cc 以上を目安)、異常肥満の場合には、投与量とタイミングを 調整することを考慮する。 7) 術後の抗菌薬投与 予防投与 (清潔創および準清潔創手術)は、投与期間を厳守し、予定の投与で終 了する。 投与期間は当院の現状を踏まえ、創閉鎖後 3 時間~2 日間以内を推奨する。 手術後 24 時間以上の抗菌薬投与が SSI を減少させるエビデンスはない。 汚染創、不潔あるいは感染創の手術は適切な治療薬を治療に必要な期間投与する。 8) その他 内視鏡治療、血管造影、ペースメーカー植え込み、各種カテーテル治療等侵襲 的な検査および治療において予防的抗菌薬を使用する場合は、「手術室内におけ る抗菌薬使用について(手術部位感染予防のための抗菌薬使用)」に準ずる。 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 【参考文献】 1) 矢口義久, 福島亮治:感染管理, 月刊薬事, 57, pp55-59, 2015 2) 薬剤師のための感染制御マニュアル第 3 版, 日本病院薬剤師会監修, 薬事日報社, 東 京 (2011) 3) JAID/JSC 感染症治療ガイド 2011, JAID/JSC 感染症治療ガイド委員会編, 日本感染 症学会, 日本化学療法学会, ライフサイエンス出版株式会社, 東京 (2011) 4) 品川長夫:術後感染防止のための抗菌薬選択, Jpn. J. Antibiot., 57, 11-32, 2004 5) レジデントのための感染症診療マニュアル, 青木 眞, 医学書院, 東京 (2012) 6) サンフォード感染症治療ガイド 2014 第 44 版, 菊池 賢, 橋本正良監修, ライフサイエ ンス出版株式会社, 東京 (2014) 7) 周術期感染管理テキスト, 日本外科感染症学会編, 診断と治療社, 東京 (2012) 香川大学医学部附属病院感染制御部 平成 27 年 6 月 1 日 3. 抗菌薬使用届について 下記の抗菌薬投与に際して抗菌薬使用届の提出が必要である。 対象抗菌薬名:一般名 リネゾリド バンコマイシン テイコプラニン アルベカシン ダプトマイシン メロペネム イミペネム/シラスタチン ビアペネム パニペネム/ベータミプロン ドリペネム リネゾリド バンコマイシン テイコプラニン アルベカシン ダプトマイシン メロペネム イミペネム/シラスタチン ビアペネム パニペネム/ベタミプロン ドリペネム 香川大学医学部附属病院感染制御部 届出書名 タイミング MRSA感染症治療用抗 生物質使用届 投与開始時 (必須) カルバペネム系抗生物 質使用届 抗生物質継続使用届 10日以上 継続使用の 決定時 平成 27 年 6 月 1 日
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