SMGレポート 2709 有事のルール-:「士農工商…②」 [迫りくる法改正の荒波-19] ●[非正規社員」、「下流老人」、「貧困率6分の1」…。これらの全て、とまでは云え なくとも、こうした状況を結果的に創り出し、格差を拡大し定着させたのは、構造改 革の名の下に実施された、「市場主義を至上命題とする経済政策」だった事は、今 や論ずるまでもありません。政権の有力者たちが、時々持ち出す「トリクルダウン」 等という似非均衡論は、その典型と言えるでしょう。シャンパンタワー最上部のグ ラスが満杯になると、段階的に下のグラスにも酒が滴りおち、やがて全てに行き渡 る-という経済理論を表した図柄としてよく用いられる、トリクルならぬ「トリック」理 論です。●以前のレポートでも触れましたが、最上部のグラスは超特大サイズで あり、滴り落ちるとは限らない上、仮に全てに行き渡るとしても一体何時になるの か、誰もその予測が立たず、実際、この欺瞞に満ちた理屈を考え出し、実行に移し た米国大統領レーガン自身が既にこの世になく、この考え方自体も、実証すらされ ていません。にも拘らず、この処の歴代の為政者は、性懲りもなくこのロジックを使 い続けており、それが財界べったりの政策や法制度=法人税減税、消費税増税、 労働者派遣法改定、解雇規制の緩和やホワイトカラーエグゼンプション等の労基 法手直し(今回は見送り)他=となって彼らを富ませる一方、冒頭のような低所得 層を増やし、格差の広がりと抜け出そうにも抜け出せない泥沼化・膠着化状態を 招いている、と云っても決して過言ではないのです。●この考え方の底流にあるの は、多国籍型大企業に可能な限りフリーハンドを与えて増収に導きつつ徴税を控 え、政府の手による所得の再配分-その為にこそ官僚制度はある-を縮小して 富裕層の消費行動と投資を活発化させれば、中間層以下の層は、そのおこぼれ に与ることができ、その方が国富も増えるという、俗に「おこぼれ経済」と称される トリクルダウン理論そのもの(中小零細企業や声なき民衆などは全く視野の外)で あり、更にその先に見据える将来像は、医療や年金全体の設計図を書き直し、日 本版オバマケアの導入で完成する「社会保障制度解体のシナリオ」を措いて他に ありません。何故なら、社会保障の持つ機能は、所得の再配分そのものに他なら ない(所得の多寡に拘らず、全国各地どこでも療養の給付は平等に受ける事がで き、年金の定額部分は報酬如何によらず、加入期間に応じて支払われる)からで す。●使う立場により、全く色合いが変じてしまうと云われるロジック-。使う者に 都合のよい筋立てで展開されるのがロジックだとすれば、米国生まれのロジック は、米国を利する以外の何物でもない、という事になります。個人責任を重視する 米国では、社会保障制度が立ち遅れている分、民間企業が営利活動の一環とし て医療保険等に関わっている為、社会保障を否定する事に躊躇しない環境がある と考えられます。彼我の利害得失を考慮した場合、例えばマイナンバーの導入 は、社会保障制度に風穴を開け、米国資本がその隙間に参入する為の露払い役 と考えると合点が行きます。当面、個人番号カードには載せない-とされている医 療情報ですが、それも時間の問題と考えるのが現実的です。国民のカルテ情報が 漏れなく一枚のカードに記録される-これは、社会保障制度民営化の受け皿を、 虎視眈々と狙っている米国の医療保険会社にとっては、宝の山以外の何物でもあ りません。●独立した法治国家である筈の日本が、国内法をはじめ永年培ってき た社会制度まで次々に突き崩され、まるで属国-というより一部族の様な扱いに 甘んじているこの状態は、最早ISD条項(TPP)が先乗り実施されたも同然の有様 です。今後は、特に社会保障において制度面の譲歩がどこまで進むのか、厳しく 監視の目を光らせて行かなければならないのではないでしょうか。
© Copyright 2024 ExpyDoc