広島大学教育学部紀要 第工部(心理学) 第43号1994 先行提示文脈がメタファ-理解に及ぼす影響 仮屋園 昭 彦・廣 瀬 等1)・唐 川 千 秋 (1994年9月9日受理) The innuence of the preceding contexts on metaphor comprehension Akihiko Kariyazono) Hitoshi Hirose and Chiaki Karakawa The present study examined the innuence of preceding contexts on metaphor comprehension. Three experiments were performed in priming paradigms. Whether or not the preceding sentence included the same semantic field and semantic dimension as the metaphor were manipulated as experimental factors. The following results we¥re obtained: (1) The王n組uence of semantic允eld on the metaphor was greater than that of semantic dimension; (2) When the semantic dimension was emphasized by adding preceding sentences, the influence of the semantic dimension on the metaphor increased whereas the in皿uence of the semantic field decreased. Key words : metaphor comprehension, semantic宜eld) semantic dimension 問題と目的 る。 -方, Shinjo & Mye「s (1987)らは,先行呈示す 先行提示文がメタファー理解に吸はす効果について, Gildea & Glucksberg (1983)) Shinjo & Myers る刺激を文ではなく単語のみにしてGildea & Glucksberg (1983)と同じ実験を行った。すなわち 「cold,warm」といった先行呈示語に対し (1987)から,次のような知見が得られている。まず, Gildea & Glucksberg (1983) bは次のような材料を 「Mar「iages are icebox.」というメタファ-文を呈 使用した。 *ず,メタファ葛提示に先立つ先行呈示文 示したのである。この実験の結果,先行呈示語が として,以下の3種類の文を呈示した。 ①winters 「c○ld」の場合はメタファ-理解が促進されたもののタ are cold, 7VヨヨW'2 &R v &メタpeople are 「warm」の場合は促進効果はみられなかった。 cold.そして理解すべきメタファー文として, Gildea & Glucksberg(1983)の研究では) 「Marriages are icebox.」という文を呈示した。そ 「Summers are warm.」という先行呈示文に促進効 の結果, 3種類の先行呈示文はいずれもメタファ-理 果があったのに対して, Shinjo & Myers(1987)で 解を促進したo は, 「warm」という先行呈示語に促進効果がなかっ タのcold, ,ヌv &リ,h*(*Hホ はいずれも同じ意味分野に含まれ,同時にメタファ- た。この結果の相違に対して) Shinjo & Myers 文でのiceboxも, cold, warmと同じ意味分野に含 (1987)は, 2つの実験では,被験者に要求されてい まれる。 3種類の先行呈示文とメタファ-文との間に る課題が異なっており,そのため処理プロセスが異なっ 存在するこうした関係が,メタファ-文の理解を促進 ていたのではないかという考察を行っている。被験者 したとGildea & Glucksberg (1983)は結論づけてい に要求されている課題は, Gildea & Glucksbe「g 1)現所属:琉球大学教育学部 shinjo & Myers (1987)ではメタファー文の読解時 (1983)ではメタファ」文に対する字義亡の真偽判断, -85- のvehicleと同群・異群,および先行呈示刺激なしの 間であった。 Shinjo & Myers (1987)のように,被験者に要求 統制群を設定した。通常,文では,主語が述語の意味 されている課題の違いという側面からの検討も確かに 次元を規定している。したがって,意味次元は文の主 可能であるが,両実験結果の違いに関しては,さらに 語に基づいて決定した。また意味分野は, Gildea & 先行呈示刺激の違いという側面から考える必要があろ Glucksberg (1983) , Shinjo & Myers (1987)になら う。なぜなら,文の場合,主語は述語の意味次元を決 い,文の述語(メタファ-の場合はvehicle)かもっ 定する。意味次元とは述語が使われる指示対象である。 ている意味分野に基づいた。こうした形で,文条件で たとえばcoldの意味次元は温度の他に人間関係,感 は,メタフ7-との意味分野の関係により,意味分野 情といったものになる。したがって)先行呈示刺激が) の同異による1要因実験計画で, 「意味分野同・意味 「winters are cold, people are cold.」といった文 分野異・統制群」の3群を設定した。要因は被験者内 の場合,文の主語によって述語の意味分野だけでなく 要因であったo 単語条件は,文条件の述語部分のみを 意味次元まで明確に特定される。 -方,先行呈示文の 呈示した。したがってタ 主語としての意味次元がなくタ 述語を「wam」といった単語として先行呈示した場 述語としての意味分野のみということになる。単語条 合)意味次元までは明確に特定化されない。 件も同様に,意味分野の同異によるl要因実験計画で, 「意味分野同・意味分野異・統制群」の3群を設定し このように考えると,先行呈示刺激が文の場合はメ タファ葛理解を促進する働きがあり,単語の場合はそ た。要因は被験者内要因であった。 ういった働きが十分みられなかった原因として,文の 実験材料: (i)タ」ゲット刺激:タ-ゲット刺激と 場合は主語によって述語の意味次元が特定化されるが, しては,メタファーとともにフイラ-文を用いた。実 単語の場合は述語の意味次元が特定化されないという 験材料となるメタファ-およびフィラ-文の作成過程 ことが考えられる。 は以下のとおりであった。 そこで実験1において以下の目的を検討する。 +やネ ヒ *ィ ヒ ファ-およびフイラ-を,独自に90個作成した。そ ①Gildea & Glucksberg (1983), Shinjo & Myers して予備調査として)これらの90個の文のメタファ- (1987)で得られた現象が安定したものかどうかを確 としての理解のしやすさを, 13名の大学生に5段階 認する。そのため,先行呈示刺激が「文」条件のもの で評定してもらった。そしてこれら90個のメタファ- と, 「単語」条件のものと2種類設定し,統制群との のうち, 13名の平均評定値をもとに,上位から35個 差の出方のパタ-ソを比較する。単語条件での単語は) の文をメタファー刺激として実験用として用いた。そ 文条件の述語部分のみを呈示するものになる。したがっ して下位から35個の文をフイラ-刺激として実験用 て,この条件では,述語としての単語の意味分野だけ に用いた。 35個のメタファ-の平均評定値は4.2 で主語としての意味次元がないということになる。 (SD二0.42)であった。また, 35個のフィラー文の ②先行呈示文における意味次元の働きを明確化する。 平均評定値は1.1 (SD二0.10)であった。 そのため,まず,先行呈示刺激での文条件の意味次元 (2)先行呈示刺激:先行呈示刺激は文と単語の2範頼 はすべてメタファ-のtopicと同」のものとする。そ であった。文条件での2種類(統制群を除いた場合) の上で述語となる意味分野が)メタファ-のvehicle の先行呈示文は以下の手続きで作成した。通常,文で の意味分野と同じものと違うものの2種類を設定する。 は,主語が述語の意味次元を規定している。そして) 先行呈示文での意味分野が異なる群でもメタファ-の 実験lでは,先行呈示文の意味次元はすべてメタファ- 促進効果が生じた場合は,意味次元の効果は意味分野 のtop王cと同じものにした。意味次元は次のように決 よりも強いということになる。二万,意味分野が異な 定した。まず,本研究では意味次元を,述語によって る群で促進効果がなかった場合は,意味分野も効果を 指示可能な対象として捉えている。したがって, 「結 もっているということができよう。 婚はアイスボックスだ」の場合,アイスボックスとい う述語(vehide)によって可能な指示対象は「人間 実験1 関係,温度,感情」である。主語(topic)である結 婚は人間関係を示しているので,このメタファーの場 方法 合の意味次元は人間関係ということになる。また,意 実験計画:先行呈示刺激の種類によって「文」条件と 「単語」条件の2群を作成した。文条件では,先行呈 味分野に関しては,述語であるアイスボックスという 言葉の意味分野がタ「暖かい」, 「冷たい」, 「暑い」タ 「涼しい」という寒暖を示す領域となっている。そこ 示文の主語の意味次元はすべてメタファ-のtopicの 憲味次元と同じにした。その上で意味分野がメタファ- で「結婚はアイスボックスだ」というメタファ-と, -86- w 8 5 意味次元と意味分野の両方が同じ場合の先行呈示文は (3) =禾方法:実験計画は,上述のように文条件,単 次のようになる。まず,タ-ゲットメタファーの述語 語条件ともに)被験者内の1要因実験計画であった。 は「アイスボックス」であり,寒暖を示す領域でも 先行呈示刺激は, 1つのターゲット刺激に対して3種 「寒」を示す語である。そこで先行呈示文の述語によっ 類(意味分野固・意味分野異・統制群)あった。そし て示される語は,タ-ゲットメタファ-の述語と,意 て,各被験者に呈示される1つのターゲット刺激に対 味分野は同じ「寒暖」を示すものでも,タ」ゲットメ しては, 3種類の先行呈示刺激の中のどれか1つがラ タファーの述語とは反意語の関係にある「暖」の万を ンダムに呈示されるという形にした。そして,文条件 示すものにした。すなれち) 「結婚はアイスボックス と単語条件における各群のメタファーに対する呈示数 だ」というメタファ-に対して, 「周囲の人(主語で は以下のようになった。文条件においては,意味分野 ある意味次元は人間関係)は暖かい(述語である意味 固群の先行呈示文は14個のメタファ-に,意味分野 分野は寒暖を示す)」という先行呈示刺激になった。 異群の先行呈示文も同様に14個のメタファ」に,そ 意味分野が異なる群の先行呈示文は,述語の部分のみ して統制群は7個のメタフ7」に呈示された。 7イラ- を変えて, 「周囲の人は危険だ」という形になる。単 文に対してほ,各フィラー用の先行呈示文を35個の 語条件では,文条件の先行呈示文の述語の部分のみを フィラー文に呈示した。単語条件においても, 3種類 単語として呈示した。 の先行呈示刺激から文条件と全く同じ数の刺激を各メ このように意味分野が同じでも反意語を用いたのは タファ葛にランダムに呈示した。フイラ-文に対して 以下の理由による。すなわち, Gildea & GIucksberg も文条件と同じ形で呈示した。このようにして, 35 (1983)では「結婚はアイスホックだ」というメタファー 個すべてのメタファ-に, 3種類の先行刺激の中のど に対し,先行呈示文の意味分野を表す述語は「wam」 れか1つがランダムに呈示されるようにし, 3群の被 でも「cold」でも促進効果をもった。しかし) Shinjo 験者内要因計画という形で実験を行った。 & Myers(1987)では,反意語である「wam」とい 被験者:大学生が被験者であった。被験者は,文と単 う単語において促進効果がみられなかった。本実験は) 語の各条件に11名であり)合計22名の被験者であった。 G王ldea & Glucksberg (1983)タ Sh王njo & Myers 装置:刺激呈示と反応測定は)パーソナル・コンピュー (1987)の結果をさらに詳細に検討するというところ タ(NEC PC9801VX)および) 14インチ高解像度ディ から出発しているため, Shinjo & Myers(1987)で スプレイ(NEC PCKD853n)を用いて行った。被験 促進効果がでなかった条件を取り上げた。 者の反応は,パーソナル・コンピュータにつながれた 文条件と単語条件での先行呈示刺激とターゲット刺 スイッチボックス(2つのマイクロスイッチからなる) によって行われた。反応時間はms単位であった。 激の例をTable lに示す。 Table l 実験1での先行呈示刺激とタ-ゲ・ソト刺激の例 先行呈示刺激 文条件 タ-ゲット刺激 意味分野同群 周囲の人は暖かい 意味分野巽群 周囲の人は危険だ 結婚はアイスボックスだ 統制群 ♯♯♯#♯♯ 単語条件 意味分野同群 暖かい 意味分野異群 危険だ 結婚はアイスボックスだ 統制群 ♯♯♯ Table 2 実験lでの文条件および単語条件の各群の平均反応時間 単語条件 文条件 意味分野固辞 905.27 (143.42) 意味分野固辞 974.54 (260.97) 意味分野異群 939.73 (154.10) 意味分野異群1062.82 (278.31) 統制群 1054.46 (235.19) 統制群 1014.55 (244.05) (注)1.単位はms 2. ( )内はSD 「 87- 手続き:実験は個別に行われた。タ-ゲット刺激とな 群が84.4%,フィラー文は96.6%であった。分析の るメタファ-の理解過程は,被験者がメタファ-文を 対象としたのは,メタファー文を正しくメタファ-文 理解するまでの反応時間を測定することによって把握 と判断した被験者であった。 した。各メタファ-に対する試行では,まず,呈示予 文条件と単語条件の各群の平均反応時間をTable 2 告刺激(文章がディスプレイ上に呈示される範囲を括 に示すo 文条件では, 3種類の各群の平均反応時間に 弧で示したもの)がコンピュータのディスプレイ上に ついて1要因分散分析を行った結果,有意な差がみら 1000ms呈示された。その後, 500msのブランクをお れた(F(2/20) -4.67,A,05)。下位検定とLて多重 いて,先行呈示刺激(文・単語)または統制群用刺激 比較(Ryan's血ethod)を行った結果,惹味分野同 (#♯♯♯♯♯)が2000ms呈示された。被験者は) 群と統制群との間に有意な差がみられた。単語条件で この先行呈示文をみて,理解するように,あらかじめ も各群の上平均反応時間について1要因分散分析を行っ 教示されていた。続いて500msのブランクの後,呈 た。その結果,有意な差はみられなかった(F(2/20) 示予告刺激がコンビュ-タのディスプレイ上に1000ms 二l.45)。 呈示された。そして) 500msのブランクをおいて) 考察 実験1の結果から,先行呈示刺激が文で しかも意 ターゲット刺激(メタファ-とフィラ-)が呈示され た。被験者は,それぞれのターゲット刺激がメタファー 味分野がメタファーと同じ場合に促進効果がみられ, 文として理解できるか否かの判断を,マイクロスイッ 先行呈示刺激が単語の場合は促進効果がみられなかっ チを押すことによって行った。具体的には,理解でき た。 たらマイクロスイッチの右のスイッチ,理解できない この結果から,以下のことが言えるであろう。まず) 場合は左のスイッチをできるだけはやく,かつ正確に 文条件での結果は, Gildea & Glucksberg (1983)と 押すように教示された。反応時間は,タ-ゲット刺激 同じ現象であり,先行呈示文とメタファ-の述語の意 が呈示されてから,被験者がマイクロスイッチを押す 味文野が同じ場合にメタファ鵜理解の促進効果がある までの時間(ms)であった。タ-ゲット刺激は,被 というのは,ほほ安定した現象と言えるのではないだ 験者がマイクロスイッチを押すまで呈示された。試行 ろうか。単語条件においては次のように言えよう。ま に際しては,本試行に先だって,練習試行が10試行 ず) Shinjo & Myers (1987)ではタ「Marriges are 行われた。本試行は70試行であった。 icebox」というメタファ-に対して「c○ld」は促進効 結果 果があったものの, 「warm」という言葉は促進効果 まず,ターゲット刺激のメタファ-を,正確にメタ がなかった。このように, Shinjo & Myers(1987) ファ-として判断した正答率を示す。文条件では,意 では,同じ意味分野でも,単語によって促進効果が異 味分野同群が91.6%,意味分野異群が86.4%,統制 なっている。本研究でも,単語条件ではどの群にも促 Table 3 実験2での先行呈示刺激とタ-ゲット・メタファーの例 先行呈示刺激 意味次元同・意味分野同群 周囲の人は暖かい 周囲の人は危険だ お湯は暖かい お湯は危険だ 意味次元同・意味分野異群 意味次元異・意味分野同群 意味次元異・意味分野異群 統制群 ♯♯♯♯♯♯ ターゲット刺激 結婚はアイスボックスだ Table 4 実験2での各群の平均反応時間 意味次元同・意味分野同群 1220.56 (321.08) 意味次元同・意味分野異群 意味次元異・意味分野同群 意味次元異・意味分野異群 統制群 1297.97 (353.89) (注)1.単位はms 2. ( 1207.83 (299.10) 1294.04 (400.50) 1383.79 (450.84) )向はSD -88 進効果はみられていない。このことから単語がもつ促 進効果が不安定だったので,実験2では,先行呈示条 進効果は,現象としては微妙であり,十分安定したも 件として文条件のみを扱う. のと言えないのではなかろうか。 行呈示刺激の文条件において,意味分野同群でのみ促 .x,們 ヒ * x,メノ 次に第2の目的であった,先行呈示文における意味 進効果がみられた。実験1における文条件の意味次元 次元の矧ぎについて述べる。本研究の,先行呈示刺激 での文条件の意味次元はタ すべてメタファーのtopic は,すべての群(意味分野同語・意味分野異群)で同 」であった。したがって,意味分野と意味次元の両方 と同-であった。その上で先行呈示文の述語となる意 が,メタファーと同じである場合に促進効果がみられ 味分野が,メタファ-のvehicleの意味分野と同じも たことになる。このことは意味次元と意味分野の両方 のと違うものの2種類を設定した。先行呈示文での意 が促進効果に関与していることを意味している。そこ 味分野異群でメタファ葛の促進効果が生じた場合はタ で実験2では,先行呈示文を用いて意味次元と意味分 意味次元の効果は意味分野よりも強いということにな 野の両方の,メタファ-との同異を組織的に変えるこ る。 -方)意味分野異群で促進効果がなかった場合は) とによって,先行呈示文における意味次元と意味分野 意味分野が何らかの促進効果をもっているということ が,メタファー理解に及ぼす影響を検討することを目 ができよう。実験結果から,先行呈示の文条件では意 的とする。 味分野同群のみが統制群と比べて場合に促進効果がみ 方法 られた。このことは意味分野が何らかの促進効果をも 実験計直:実験計画は,先行呈示刺激となる先行呈示 つことを示している。 文の意味分野が,タ-ゲット刺激であるメタファ-の 実験1から, hラ9.h麌謌ネ8,メノ[h,ネ 意味分野と同じか異なるかによって意味分野同異の2 ィリx,ノ_ク*ィ 定したメタファ-の促進効果をもち,単語の促進効果 条件,同様に先行呈示文の意味次元がタ-ゲット刺激 は安定したものではないこと,および であるメタファ-の意味分野と同じか異なるかによっ hラ9.h麌謌ネ0 が文の場合,メタファ-の促進効果は意味次元と意味 て意味次元同異の2条件,および統制群を作成した。 分野が同じ場合にのみ生じることが明らかになった。 その結果,群構成は,意味次元同・意味分野岡群,意 味次元同・意味分野異群)意味次元異・意味分野両群, そこで実験2においては,実験1での①, ②の知見 に基づき,実験1では明らかにならなかった諸点を検 意味次元異・意味分野異群,統制群という合計5群を 討する。 設定した。したがって実験計画は1要因5水準であっ た。要因は被験者内要因であった。 実験 2 実験材料: (1)タ-ゲット刺激:ターゲット刺激と しては,メタファーおよびフィラー文を用いた。実験 日的 材料となるメタファ-およびフイラ-文は実験1で使 実験1から,先行呈示刺激が単語である場合は,促 用したものとすべて同-のものを用いた。したがって) Table 5 実験3での先行呈示文とタ-ゲット・メタファ-の例 先行呈示刺激 c [i c)[b 意味次元同・意味分野同群 ィ,リ跖-ネ. 騏ケ?ィ,リ. ,ノM +X*" 意味次元同・意味分野異群 ィ,リ跖-ネ. 騏ケ?ィ,リ* +H.(* 意味次元異・意味分野固辞 88 リ5x,リ跖-ネ. 闖8 ク,リ. ,ノM +X*" 意味次元異・意味分野異群 88 リ5x,リ跖-ネ. 闖8 ク,リ* +H.(* 統制群 佛 ( ( IL ( " ターゲット刺激 佰X,リヤク戊+ Table 6 実験3での各群の平均反応時間 意味次元同・意味分野同群 偵s茶# R纉b 意味次元同・意味分野異群 涛釘緜" R經B 意味次元異・意味分野同群 3 R 意味次元異・意味分野異群 C偵Sr 32纉" 統制群 C"縱b (注)1.単位はms 2. ( )内はSD -89- # ` メタファ-およびフィラーの個数はいずれも35個ずつ れば 意味次元の同異にかかわらずメタファーの促進 で,合計70個であった。 効果が生じるということを示すものであった。 実験1では,文条件の意味次元はすべての群(意味 (2)先行呈示刺激:統制群を除いた先行呈示刺激は) メタファ-との間に,意味次元同異,意味分野同異の 分野同群・意味分野異群)で同」であったため,意味 合計4種類であった。意味次元と意味分野の作成方法 次元と意味分野の相互関係は十分明確にはならなかっ は実験1と同じであった。ただし,実験1では意味次 たが,実験2から,先行呈示文の中でメタファ-理解 元異群がなかったので,実験2では新たに実験1での に影響を与えるのは意味次元よりもむしろ意味分野の 先行呈示文に意味次元異群を加えた。 方であるということが示された。 意味次元同異,意味分野同異の操作は,実験と同様 Gildea & Glucksberg (1983)では,先行呈示刺激 以下のように行った。実験2での先行呈示文の例とメ が文で 述語の意味分野がメタファ-と同じ場合は促 タファ-をTable 3に示す。意味次元に関しては, 進効果が現れた。臆-方, Shinjo & Myers(1987)で 先に述べたように,通常,文では,主語が述語の意味 は,単語のみを呈示し,その単語の意味分野が同じ場 次元を規定している。したがって,意味次元の同異は, 合でも,メタファ-の述語と反意語の関係にある場合 先行呈示文の主語を変えることによって行った。すな は,促進効果が生じなかった。この両研究の違いの1 わち, Table3に示したように, 「結婚はアイスボッ つに,先行刺激語が文刺激か単語刺激かということが クスだ」というメタファ葛の主語である結婚の意味次 あった。そして文刺激の述語部分が単語刺激として呈 元は人間関係である。そこで意味次元がメタファ葛の 示されていた。単語の場合は意味分野のみしか特定さ 主語と同じ場合は,実験1と同様に, 「周囲の人(主 れないが,文の場合は,主語によって述語部分(単語 語である意味次元は人間関係)は」を先行呈示文の主 刺激に相当する)の愚昧次元まで特定化される。そこ 語としタ 意味次元が異なる群の主語を「お湯」とした。 で文刺激の方に安定したメタファ-の促進効果が生じ そして意味次元の同異によって, 「周囲の人は・お湯 る原因が,主語がもつ意味次元の規定力にあるのでは は,暖かい(述語である意味分野は寒暖を示す) 」と ないかと考え,実験2では意味次元と意味分野の効果 いう2種類の先行呈示文を作成した。意味分野の同異 を検討した。 は,先行呈示文の述語によって操作した。意味分野の しかしながら,実験2では意味次元の効果は十分認め 作成過程は実験1と同じであった。 られなかった。ただ,文の主語部分に述語の意味次元 (3)呈示方法:実験計画は,上述のように被験者内の を特定化する働きがあり,先行呈示刺激としての文の 1要因実験計画であった。先行呈示刺激は, 1つのター 有効性も示されている以上,文には何らかの促進要因 ゲット刺激に対して5種類あった。そして,各被験者 があると思われる。そこで実験3では,又の述語の意 に呈示される1つのタ-ゲット刺激に対しては, 5種 味次元が,実験2より明確になるようにし,再度先行 類の先行呈示刺激の中のどれかlつがラソダムに呈示 呈示刺激としての文の主語の働きを検討する。 されるという形にした。各群の先行呈示文のメタファに対する呈示数はすべて7個であった。フイラ-文に 実験 3 対してはタ 各フィラー用の先行呈示文を35個のフイ 目的 ラ-文に呈示した。 先行呈示文の意味次元が実験2より明確になるよう 被強者:大学生が被験者であった。被験者は合計20 名の被験者であった。 にし,再度先行呈示刺激の文の主語の働きを検討する。 装置:実験lと同じであった。 実験3では,まず各メタファ-に対する先行呈示文を 手続き:実験lと同じであった。 2種類にした。実験3で新たに挿入する先行呈示文を 結果 5群の平均反応時間に対して1要因分散分析を行っ 第1文)実験2で用いた先行呈示文を第2文とした。 た。その結果有意な差がみられた(F(4/76)二3.48タ ゲットメタファ」の主語になっている名詞と同じカテ β<.05)。多重比較(Ryan's method)を行った結果タ ゴリーに入る語にした。意味次元は主語によって操作 そして,最初の第1文の主語を,第2文の主語,タ- 意味次元同・意味分野異群と意味次元異・意味分野同 しているので 第1文に)第2文とタ-ゲットメタファ- 群および統制群との問に有意な差がみられた。各群の の主語と同じカテゴリ-に属する語を呈示することで) 平均反応時間をTable 4に示す。 第2文の意味次元がより明確になると思われる。 考察 方法 実験2の結果は,先行呈示文の意味分野が同じであ 実験計画:実験計画は,実験2と同じであった。 鵜90鵜 実験材料: (1)タ-ゲット刺激:実験2と同じであっ の述語(vehicle)部分の反意語を取り上げた。 た。 したがって)実験1)実験2ではブ タ-ゲットメタファ「 (2)先行呈示刺激:先行呈示刺激の文として,第1文 の述語と反意語の関係になっている語を含めた意味分 と第2文の2種類の文を呈示した。実験3で新たに呈 野全体が先行呈示刺激によって活性化されたと考えら 示した刺激は第1文であった。第2文は実験2での先 れる。 実験3では,意味次元がはっきりするような文をさ 行呈示文と同じであった。第1文は,第2文での意味 らに加えたため,意味次元の予測効果はさらに強まっ 次元を明確にするために呈示した。第1文の主語は, 第2文の主語,ターゲットメタファーの主語になって ている。そのため, (①先行呈示刺激の第2文を読んだ いる名詞と同じカテゴリ-に入る語であった。実験3 段階で被験者の意識は,主として意味次元の方向へ活 で用いた先行呈示刺激とタ葛ゲットメタファ-の例を 性化されたo その結果, Table 5に示す。 語の意味分野の活性化の範囲は反意語の部分まで十分 c)[h,ネ ホィ,h, ,H*(. (3)呈示方法:実験2と同じであった。第l文と第2 ととかず,同意語の部分で止まってしまった。第2文 文は同じ群に入る刺激である。したがって,実験2の の述語とターゲットメタファ-の述語は反意語の関係 先行呈示文(実験3では第2文)が呈示される前に第 になっているため,実験3の意味次元同・意味分野固 l文が入るだけになる。 辞では)第2文の述語の意味分野がかえってタ-ゲッ 被験者:大学生が被験者であった。被験者は合計15 名の被験者であった。 装置:実験1と同じであった。 トメタファ-理解の際に抑制的に働いたと推測される。 ・方,意味次元同・意味分野異群では,先行呈示文の 述語とターゲットメタファ-の述語は中立関係にある 手続き:実験1と同じであった。 ため,先行呈示刺激の第1文,第2文の意味次元の効 結果 果が直接現れたと考えられる。 5群の平均反応時間に対してl要因分散分析を行っ 本研究における3つの実験をとおして示唆されたの た。その結果有意な差がみられた(F(4/56)二2.99タ は以下のようなことがらだと考えられる。第1に,先 p<.o5)。多重比較(Ryan's method)を行った結果, 行呈示刺激が文である場合,意味次元と意味分野では, 意味次元同・意味分野異群と統制群との間に有意な差 意味分野の方がメタファーに対する影響力が大きい。 がみられた。各群の平均反応時間をTable 6に示す。 第2に,先行呈示刺激によって意味次元を強めると, 考察 意味分野の働きが弱くなるか,異なったものになる。 実験1,実験2では,意味次元同・意味分野固辞お 第3に,意味分野の活性化の仕方は,まず,同意語の よび意味次元異・意味分野同群,すなわち意味分野が 部分が活性化され 次に反意語の部分にひろかってく 同じ群に促進効果がみられた。実験3では,愚昧次元 と推測される。 同・意味分野異群に促進効果がみられた。このことは, 引用文献 意味次元を強めた場合(実験3),意味分野の働きが 実験1タ 実験2とは異なってきたことを示唆している。 まず,実験1,実験2では,意味分野の活性化がター Gilded, P. ) & Glu。ksberg) S. 1983 On understanding ゲットメタファーの理解を促進したと考えられる。こ metaphor: The role of context. /orm榔I of Verbal こでの意味分野とは, 「寒い・冷たい・暖かい・暑い」 Leam脇gのめVeγbal B脇a肋の, 22) 577-590. といった温度や人間関係を示す類似した特性をもつま Shinjo, M. , & Mayers, I. 1987 The role of context とまったグル葛プである。こういった1つのまとまり in metaphor comprehension. /oac棚l of Memα・y をもつグル-プの中で,実験1,実験2では,先行室 a?材Lan観(age, 26, 226葛221. 示刺激の意味分野を表す藷として)タ-ゲットメタファ- -9l鵜
© Copyright 2024 ExpyDoc