⑪明日香村の万葉碑は

E-11
明日香村の万葉歌碑
30
○
*飛鳥川飛び石
栢森(かやのもり) ○
29
加夜奈留美命神社 *
- 42 -
古代において歌謡は言霊(ことだま)として語り継がれ、その音が重要視されたと考
えられるが口誦から記載文芸へと変遷するにあたり、記載文字そのものにも歌意を含め
る可能性もあり、創作歌人が当時如何に発音していたかを知るためにも万葉集を読むに
あたり万葉仮名で鑑賞する必要性があろう。
明日香村には38の万葉歌碑と2の墨書板が点在し、各々設置した地にゆかりの万葉
和歌を刻印しているが、そのうち15碑は犬養孝先生の揮毫によるが万葉仮名で記され
ているのも先生の配慮と考えられる。
従ってこのガイド書で碑歌を紹介するにあたり、現在語と万葉仮名を併記することと
した。また同一和歌を揮毫者が異なり、異なった場所に設置されている歌碑もある。
尚 隣接する橿原市に34基、桜井市に55基の万葉歌碑が設置されているので機会
があれば歴史散歩の道標にして頂ければ幸いです。
*「明日香村の万葉歌碑」
番号印は犬養孝先生揮毫による歌碑を示す。
№ 印は上記案内地図記載の番号を示す。
○
*歌碑所在地:近鉄「飛鳥駅」周辺・平田地区・国営飛鳥歴史公園
ひのくま
1作者不詳 :「さ檜隈
佐檜乃熊
23 <
○
檜隈川の 瀬を速み
檜隈川之
瀬乎早
欽明天皇陵西の休憩園地
2作者不詳 :「立ちて思い
立念
22 <
○
将縁言毳
歌碑
>
巻7‐1109
鈴木葩光筆
墨書板
くれなゐの
赤裳裾引き
紅之
赤裳下引
おも
ゐてもそ念ふ
居毛曾念
高松塚古墳前の小丘
言寄せむかも」
君之手取者
犬養孝筆
30 <平田・文武陵西アントク丘
○
こと
君が手取らば
犬養孝筆
>
歌碑
あ か も す そ
巻7‐1109
去にし姿を」
去之儀乎
巻 11‐2550
>
3作者不詳:「左檜の隈 檜隈川に 馬駐め 馬に水飲へ われ外に見む」
左檜隈 檜隈河尒
駐馬
馬尒水令飲 吾外将見
30 <平田・文武陵西アントク丘
○
4
ぬかたのおおきみ
額田王
いにしへ
:「 古 に
古尓
恋ふらむ鳥は
戀良武鳥者
2 <天武・持統陵東
○
鈴木葩光筆
ほ と と ぎ す
霍公鳥
ほ と と ぎ す
霍公鳥
脇本氏宅裏山頂上
- 43 -
墨書板
巻 12-3097
>
おも
ごと
けだしや鳴きし
わが念へる如」
蓋哉鳴之
吾念流其騰
上野凌弘筆
歌碑
> 巻2-112
*歌碑所在地:甘樫丘北・小山・雷・飛鳥川
5
し き の み こ
志貴皇子
う ねめ
:「婇女の
袖吹きかえす
婇女乃
5 <
○
袖吹反
甘橿丘中腹
か み の こ ま ろ
6上古麻呂:「今日もかも
9
歌碑
雷丘
雷橋上流河原
歌碑
巻3-356
いほ
廬りせるかも」
雷之上尓
>
巻3-235
花に咲きなむ
何時毛
1995年建立
廬為流鴨
歌碑
いつしかも
1995年建立
清有良武
>
雷 の上に
石橋の
石走
さや
清けくあらむ」
川津鳴瀬之
いかづち
蒔之瞿麦
作者不詳:「明日香川 明日も渡らむ
明日香川 明日文将渡
3 <
○
か わ ず
犬養孝筆
蒔きしなでしこ
雷橋上流の道端
巻1-51
河蝦鳴く瀬の
天雲之
雷交差点西側道路沿い
無用尓布久
>
犬養孝筆
神二四座者
いたずらに吹く」
京都乎遠見
夕不離
神にしませば 天雲の
8大伴家持:「わがやどに
見む」
吾屋外尓
2 <
○
犬養孝筆
明日香河乃
皇者
1 <
○
明日香風
甘橿橋東詰めの道路沿い
7柿本人麻呂:「大君は
都を遠み
明日香の川の 夕さらず
今日可聞
8 <
○
明日香風
花尓咲奈武
なそへつつ
奈蘇経乍見武
巻 8-1448
>
遠き心は
遠心者
思ほえぬかも」
不思鴨
巻 11-2701
>
10元明天皇:「飛ぶ鳥の 明日香の里を 置きて去なば 君があたりは 見えずかも
あらむ」
飛鳥
明日香能里乎 置而伊奈婆 君之當者 不所見香聞安良武
4 <
○
甘樫丘向かい明日香河原
11作者不詳:
「いにしえの 事を知らぬを
昔者之
事波不知乎
1 <
○
1995年建立
われ見ても
我見而毛
紀寺跡小山テニスコート横
>
巻1-78
久しくなりぬ 天の香具山」
久成奴
天之香具山
清水公照筆
歌碑
>
巻7‐1096
*歌碑所在地:飛鳥寺周辺・坐神社・小原・万葉文化館・民族資料館・板葺宮址
おおとものみゆき
12大伴御行
:「大君は
皇者
神にしませば
神尓之座者
赤駒の
赤駒之
- 44 -
はらばう田居を
腹婆布田為乎
都となしつ」
京師跡奈之都
10 <
○
飛鳥坐神社境内
み
もろ
13作者不詳:「 三 諸 は
犬養孝筆
歌碑
もとへ
人の守る山
あ
本辺 は
い くし
み
わ
す
まつ
かむ ぬ
神酒坐ゑ奉る
歌碑
し
う
神主部の
末 辺 は椿花咲く
飛鳥橋北東詰公園内
み も ろ
:「三諸の
か ん な び や ま
い
たまかげ
とも
見れば羨しも」
雲聚玉蔭
>
塞かませば
塞益者
ほ
巻 13-3222
>
ず
え
五百枝指し
見者乏文
巻 13-3229
流るる水も
進留水母
尾崎邑鵬筆
神奈備山に
未邊方椿花開
髻華の玉陰
せ
15柿本人麻呂:「明日香川 しがらみ渡し
まし」
明日香川 四我良美渡之
16山部赤人
すえ へ
馬酔木花開
五十串立
神酒座奉
神主部之
< 飛鳥坐神社境内
未詳
歌碑
17 <
○
び
山そ 泣く児守る山」
三諸者
人之守山
本邊者
浦妙
山曽
泣児守山
飛鳥坐神社境内
会津八一筆
14作者不詳;「斎串立て
し
馬酔木 花咲き
も
うらぐはし
<
巻 19‐4260
>
歌碑
のどにかあら
能杼尓賀有萬思
>
巻2-197
しじ
繁に生ひたる
つがの木の
い
たまかづら
や継ぎ継ぎに 玉葛 絶ゆることなく ありつつも 止まず通はむ明
み や こ
日香の 古き京師は 山高み 河とほししろし 春の日は 山し見が
さや
たづ
か は づ
ほし 秋の夜は 河し清けし 朝雲に鶴 は乱れ 夕霧に河蝦はさわぐ
ね
いにしえ
見るごとに 哭のみし泣かゆ 古 思えば」
巻3-324
「明日香川 川淀去らず 立つ霧の 思い過ぐべき 恋にあらなくに」
明日香河 川余藤不去 立霧乃
念應過
孤悲尓不有國
9 <
○
17天武天皇
飛鳥寺境内
:「わが里に
吾里尓
佐々木信綱筆
大雪降れり
大雪落有
歌碑
>
大原の 古りにし里に
大原之 古尓之郷尓
藤原夫人:「わが岡の おかみにいひて 降らしめし
吾岡之
於可美尓言而
令落
6 <
○
小原・鎌足生誕伝承地
いつしば
18志貴皇子「大原の この厳柴の
巻3-325
犬養孝筆
何時しかと
- 45 -
くだ
降らまくは後」
落巻者後
巻2-103
雪の摧けし
雪之摧之
歌碑
そこに散りけむ」
彼所尓塵家武
巻2-104
>
わが思う妹に
今夜逢へるかも」
大原之
7 <
○
此市柴乃
何時鹿跡
吾念妹尒
小原・万葉文化館入口交差点
今夜相有香裳
尾崎邑鵬筆
歌碑
巻 4-513
>
つくよみ
19作者不詳:「天橋も 長くもがも 高山も 高くもがも 月読の 持てるをち水
い取り来て 君に奉りて をち得てしかも」
天橋文 長雲鴨
高山文 高雲鴨
月夜見乃 持有越水
伊取来而 公奉而
越得之旱物
11 <
○
万葉文化館庭園路
かたおか
む
20作者不詳:「片岡の
片岡乃
12 <
○
21笠
杉岡華邨筆
歌碑
し ひ ま
を
この向かつ峰に
椎蒔かば
此向峯
椎蒔者
万葉文化館庭園路
巻 13-3245
>
今年の夏の
今年夏之
今井凌雪筆
歌碑
みなびと
な
そ
蔭に比疑へむ」
陰尓将化疑
巻 7-1099
>
と き わ
金村:「皆人の 命もわれも み吉野の 滝の常磐の 常ならむかも」
皆人乃 壽毛吾母
三芳野乃 多吉能床磐乃 常有沼鴨
13 <
○
万葉文化館庭園路
か す が
22作者不詳:「春日なる
つつ」
春日在
14 <
○
三笠乃山二
とねりのおとめ
大口能
し き の み こ
<
遊士之
甫田鵄川筆
の
む さかづき
飲む酒杯に
飲酒坏尓
歌碑
と こ よ
陰尓所見管
巻 7-1295
>
お と め
影に見え
あ ま お と め
常世の国の
麻都良乃干良乃
越等賣良波
等己与能久尓能
ま が み
真神之原尓
明日香民族資料館
う ねめ
みやびを
遊士の
巻6‐922
娘子らは
真神の原に
:「婇女の
婇女乃
>
松浦の浦の
万葉文化館庭園路
24舎人娘子:「大口の
25志貴皇子
月船出
ま つ ら
伎弥乎麻都
等賣可忘
歌碑
月の船出づ
万葉文化館庭園路
きちだのむらじよろし
16 <
○
い
三笠の山に
23吉田連宣:
「君を待つ
15 <
○
近藤摂南筆
松塚玲糸筆
降る雪は
零雪者
歌碑
>
いたくな降りそ
甚莫零
犬養孝筆
歌碑
天娘子かも」
阿麻越
巻5‐865
家もあらなくに」
家母不有國
>
巻 8‐1636
袖吹きかえす 明日香風 都を遠み いたずらに吹く」
袖吹反
明日香風 京都乎遠見 無用尓布久
飛鳥板葺宮址
平山郁夫
- 46 -
歌碑
>
巻1-51
*歌碑所在地:川原寺前・橘・犬養万葉記念館・岡
た け ち の み こ
26高市皇子:
「山吹の
山振之
18 <
○
立ちよそいたる
立儀足
山清水
犬養記念万葉館中庭
27作者不詳:「明日香川
明日香河
19 <
○
山清水
29柿本人麻呂:「うつせみと
に立てる
りし
妹にはあれど
し得ねば
>
巻2-158
情 は妹に
情者妹尓
犬養孝筆
寄りにけるかも」
因来鴨
巻 13‐3267
歌碑>
未詳
歌碑>
いや日けに 恋の増さらば ありかつましじ」
弥日異
恋乃増者
在勝申自
未詳 歌碑 >
巻 11-2702
思ひし時に
槻の木の
道之白鳴
なさけ
打靡
橘寺東門の東上流飛鳥川沿い
< 同一
28作者未詳:「飛鳥川 水行き増り
飛鳥川 水徃増
< 明日香村岡・飛鳥川
歌碑
うちなびき
瀬瀬之珠藻之
道の知らなくに」
酌尓雖行
犬養孝筆
瀬々の玉藻の
汲みに行かめど
たづさえて
こちごちの枝の
たのめりし
かぎろひの
わが二人見し
児らにはあれど
しろたえ
走出の
しげ
春の葉の
燃ゆる荒野に
はしりで
茂 きが如く
思へ
世の中を
背き
あ ま ひ れ
白栲 の
堤
天領巾 隠り
鳥じも
の 朝立ちいまして 入日なす 隠りにしかば 吾妹子が 形見に置
ける みどり児の 乞い泣くごとに 取り与ふ 物し無ければ 男じ
もの 腋はさみ持ち 吾妹子と 二人わが宿し 枕つく 嬬屋の内に
昼はも うらさび暮し 夜はも 息づき明し 嘆けども せむすべ知
らに 恋ふれども 逢う因を無み 大鳥の 羽易の山に わが恋ふる
妹は座すと 人の言えば 石根さくみて なづみ来し 吉けくもそな
き うつでみと
へば
20 <
○
30作者不詳
21 <
○
思いし妹が
明日香村橘・川原バス停前
よのなか
:「世間の
し げ き か り ほ
繁き仮廬に
玉かぎる
坂本信幸筆
住み住みて
世間之
繁借廬尓
住ヾ而
川原寺南
道路沿い
犬養孝筆
- 47 -
ほのかにだにも
見えぬ思
歌碑 >
巻 2-210
至らむ国の
将至國之
歌碑 >
たづき知らずも」
多附不知聞
巻 16-3850
*歌碑所在地:石舞台周辺
31作者不詳
:「嶋の宮
嶋宮
25 <
○
上の池なる
あら
上池有
放ち鳥
放鳥
荒びな行きそ
君いまさずとも」
荒備芴行
石舞台と道を隔てた北の岡
犬養孝筆
君不産十方
歌碑>
巻2-172
いわお
32柿本人麻呂:「御食向かふ 南淵山の 巖 には 降りしはだれか 消え残りたる」
御食向
南淵山之 巖者
落波太列可
削遺有
24 <
○
石舞台駐車場
辰巳利文筆
歌碑
>
巻9-1709
*歌碑所在地:祝戸・稲淵・坂田・栢森
なび
33作者不詳
26 <
○
:「明日香川 瀬瀬に玉藻は 生ひたれど しがらみあれば 靡きあは
なくに」
明日香川
湍瀬尓玉藻者 雖生有
四賀良美有者
靡不相
祝戸・玉藻橋畔東詰
34柿本人麻呂:「御食向かふ
御食向
3 <
○
南淵山之
巖 には
筆
祝戸地区
稲淵宮殿跡
稲淵・勧請橋飛鳥川沿い
37作者不詳;「今行きて
今徃而
<
消え残りたる」
落波太列可
削遺有
歌碑
犬養孝筆
36作者不詳:「明日香川 明日も渡らむ
明日香川 明日文将渡
29
○
巻7-1380
降りしはだれか
巖者
犬飼孝
>
>
巻9-1709
:「明日香川 七瀬の淀に 住む鳥も 心あれこそ 波立てざらめ」
明日香川 七瀬之不行尓 住鳥毛 意有社
波不立目
27 <
○
28 <
○
歌碑
いわお
南淵山の
阪田寺跡
35作者不詳
浅水武彦筆
い くし
38作者不詳;「斎串立て
五十串立
石橋の
石走
犬養孝筆
聞くものにもが
み
わ
す
まつ
神酒坐ゑ奉る
神酒座奉
歌碑
明日香川
西岡善信筆
かむ ぬ
神主部の
神主部之
- 48 -
巻7-1366
思ほえぬかも」
不思鴨
巻 11-2701
>
たぎ
春雨降りて
春雨零而
歌碑
し
>
遠き心は
遠心者
明日香川
聞物尒毛我
栢森・飛鳥川
歌碑
ず
瀧津湍音乎
巻 10-1878
>
う
と
激つ瀬の音を」
たまかげ
髻華の玉陰
雲聚玉蔭
とも
見れば羨しも」
見者乏文
29
○
<
栢森・加夜奈留美命神社
未詳
歌碑
>
巻 13-3229
<註>
犬養孝:E-4 飛鳥の万葉参照
佐々木信綱:明治5年生 歌人、国文学者 「校本万葉集」の編集に尽力E-6参照
会津八一:明治13年生 歌人、美術史学者、書道家、新潟県出身
辰巳利文:明治30年生、歌人 奈良県出身 明日香村史編集長
清水公照:明治44年生、東大寺長老 大仏殿昭和大修理を実施
西岡善信:大正11年生、明日香村出身 映画監督名作多数
尾崎邑鵬:大正13年生、書道家 巨匠作家に挙げられている
上野凌弘:大正1年生、オカルト作家 新人物往来社出版多い、岡山県出身
平山郁夫:昭和5年生、日本画家 薬師寺玄奘三蔵院壁画 シルクロード画家
鈴木葩光:昭和13年生、万葉書家 明日香村在住 文責者の中学同期生
坂本信幸:昭和22年生、万葉学者
杉岡華邨、今井凌雪、近藤摂南、甫田鵄川、松塚玲糸:飛鳥万葉文化館庭園にある五歌
碑の揮毫者で奈良県文化賞受賞者 書道家
- 49 -