国際関係論(1 年生)/国際関係論 I (2 年生以上) 第 07 回 10 月 16 日 「国際関係の理論」 http://islamandeconomy.web.fc2.com/2015chuis/ I. 国際関係論の系譜 国際関係論とは? 国際社会におけるさまざまな現象を扱う学問。既存の学問的な垣根を越えて、学際的に分析 国際関係論の登場 時期: ウェストファリア体制による勢力均衡 平和への希求: →体制崩壊 「過ちを繰り返さないためには?」「戦争の原因を特定すべき」 戦争の原因と解決策: 性格: →第 1 次大戦=2 大勢力に分化 外交や戦争・戦略、経済や文化的側面。学際的研究必要 戦争を繰り返さないことを目指した学際研究。平和主義的・理想主義的 1920 年代~30 年代前半の国際関係論 国際法と国際機関: 道徳的諸価値を創造し調整 人間は教育によって道徳的存在へ成長 →いかに平和を作り出すか? 世界大恐慌の影響→利害関係が対立・先鋭化: 「人間の道徳的進歩」が幻想にすぎない? 世界大恐慌~第二次世界大戦 E. H. カー: 理想主義全盛期 1930 年代の学問的取り組み: ←現実主義的視点を欠く 理想主義と現実主義の調和を目指す取り組み 第 2 次世界大戦後~冷戦体制 第 2 次世界大戦によって現実主義(リアリズム)が台頭 →大戦後は理想主義、自由主義(リベ ラリズム)が復活 冷戦体制崩壊後: グローバリゼーション論 ヒト・モノ・カネ・情報が国境を越えて自由に移動 II. →地域や人を中心に捉える考え方・学問 リアリズム (1)リアリズム(現実主義)とは 定義: パワーによって国際政治の現象は決定される、とする学問的立場・考え方 国際社会: 様々な紛争・もめごとが存在 →紛争解決を通じて国際社会の秩序を回復 →秩序回 復のため、国家が政治的・経済的・軍事的なパワーを利用 (2)パワー・ポリティクス パワー・ポリティクス、権力政治 「国際政治の本質は権力闘争」「国家にとって安全保障が最も核心的な国益」 政治的リアリズム 国益: 国家によって最重要な利益。普遍的なもの。パワーの基盤 パワー: 軍事力、地理・地勢、天然資源、生産力、人口・国民性、外交、政府の質など 合理性: 国家間闘争の中での国家政策の選択時における合理的選択 勢力均衡: 国家の行動: 闘争を展開する国家間のパワーの均衡によって政治的安定確保 人間の権力欲が源泉。国家の対外活動=国力をめぐって争われる闘い 安全保障 国家=安全保障 ⇔ 国際社会=力が支配 →勢力均衡外交が最も大切 1 国際関係論(1 年生)/国際関係論 I (2 年生以上) 第 07 回 10 月 16 日 「国際関係の理論」 http://islamandeconomy.web.fc2.com/2015chuis/ 外交によって慎重にパワー・バランスを保つかぎり国家は安全 現実主義と米ソ冷戦 1940 年代以降の米ソ冷戦、対立の激化: 米・資本主義陣営が取るべき方策を示す理論=戦争に よる勝利ではなく平和構築を目指す 理論家: 学者・研究者と実務家・外交官・政治家を兼任 (3)二極化と多極化 二極化 対立の発生: 冷戦構造: 自由主義のアメリカ⇔社会主義のソ連誕生 北大西洋条約機構(NATO) ⇔ →イデオロギー対立 ワルシャワ条約機構 多極化 二極化の緩み: 出来事: 米ソ以外の国家の台頭。同盟国内での分裂。1950-60 年代に発生 アジア・アフリカで新興国家が誕生。日独の復活、台頭。中ソ対立。フランスのアメ リカ離れ。イスラーム諸国の台頭・連帯 (4)ネオ・リアリズム ネオ・リアリズムの登場 古典リベラリズム: 国際政治=軍事力を中心とする国益をめぐる権力闘争 リベラリズムからの反論: 相互依存論による国家中心主義批判 ネオ・リアリズムの登場: リベラリズムへの反論 K. ウォルツ(勢力均衡論)、B. ギルビン(覇権安定論)、G. モデルスキー(覇権循環論)など (5)文明の衝突論 S. ハンティントン『文明の衝突』 文明論的リアリズム: ポスト冷戦期。イデオロギー対立→文明の対立 文明:西洋、スラブ正教、イスラーム、日本、儒教、ヒンドゥ、ラテン・アメリカ、アフリカ 平和構築: III. 異質文明同士は互いに理解し合うのは難しい リベラリズム (1)リベラリズムとは? 理想主義(アイデアリズム) 研究上の立場: 基本: 国家中心主義からの自由、軍事中心主義からの自由 人間は道徳的に成長していくことができる、という世界観 思想的背景: カント(恒久平和) 、ウィルソン米大統領(国際連盟)など 制度主義 国際機構を構築することで国家間の友好や協調を形にする (2)国際統合論 2 →平和が実現 国際関係論(1 年生)/国際関係論 I (2 年生以上) 第 07 回 10 月 16 日 「国際関係の理論」 http://islamandeconomy.web.fc2.com/2015chuis/ 基本的な考え方と系譜 1950 年代から 60 年代にかけて登場した、自由主義に基づく研究・理論 国家間の結びつきを研究=主権国家の統合をいかにして達成するか? ① D. ミトラニー: 機能主義 事象の認識と平和構築 事象の認識: 平和構築: 政治的なことと非政治的なことの区別が可能 政治領域で協力が望めず 国家間の協力を制度化: →非政治的(機能的)なことで国際協力を推進 国際平和の基礎を確立。(例)米・露・イランのレスリング外交 国家主権と国際機構 機能主義の発想: 成功経験: 国家主権を制限しての超国家的組織の創造は非現実的 国際電信連合 →国際協力・技術発展進む 軍事的な安全保障(政治的)+社会的安全保障(非政治的): ② E. ハース: 経済・社会的国際協力 機能主義を批判的に継承した新機能主義 機能主義への批判と新しい理論構築 現実の問題: 政治と非政治の二分法は現実では必ずしも通用せず スピルオーバー仮説: 目標: ある非政治的領域での協力関係が始まると次第に隣接領域に波及 制度としての超国家機構の設立 →国家主権の制限は可能 現実と理論: ①1950 年、ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)。②1960 年代のド・ゴール政権期のフ ランスにおける独自の外交路線 ③ K. ドイッチュ: 脱国家的行動体を含んだ統合を提示した交流主義 交流と安全保障 国境を越えた相互交流: 安全保障共同体: 信頼関係や友好的態度⇔暴力的解決方法放棄 →安全保障共同体設立 多元型(不戦共同体)と合成型(超国家的共同体を創設) トランスナショナルな関係 1960 年代以降、世界経済のボーダーレス化が進行 = 国家主権の役割は相対的に低下。組織や 領域が複雑に絡み合っている (3)国際的相互依存論(複合的相互依存論) 相互依存 理論: ある国の政策や行動が、他国の利益に影響を与える 背景: 経済問題のボーダーレス化、社会問題のグローバル化 軍事力の位置づけ: 影響: 国家間の対立解消手段として行使される可能性は低下 他国の政策変更 →①敏感性(すぐに変化するか?)と②脆弱性(どの範囲に影響?) 複合的相互依存 国際的相互依存: 複雑な相互依存現象が国際社会で発生 3 国際関係論(1 年生)/国際関係論 I (2 年生以上) 第 07 回 10 月 16 日 「国際関係の理論」 http://islamandeconomy.web.fc2.com/2015chuis/ 複合的相互依存: 複雑な相互依存現象 複合的相互依存の特徴 国際社会のアクター: 国際関係の争点: 主権国家以外の脱国家主体も含む 軍事だけでなく多様な問題も含み、重要度に差はない 国際問題の解決方法: 軍事力が果たす役割が相対的に低下 (4)国際レジーム論 理論 レジューム(体制、枠組み) : 相互依存の関係を管理する枠組みやルール。覇権国一国ではなく、 加入国すべての努力で維持 覇権安定論: 覇権国が不安定化するとレジュームは崩壊 実際 時期: 1970-80 年代に登場・発展。IMF・GATT 体制、自由貿易体制 アメリカの覇権が衰退化 →領域別に多国間の合意を前提する国際レジュームが登場 (5)グローバル・ガバナンス論 国際社会 レジュームや過去経験活かしつつ、国家間の利害調整の枠組み構築。国際社会の管理調整を実施 I. N. ローズノウの主張: ガバナンス=国家間における調整管理 (6)デモグラティック・ピース論 基本的発想 民主主義が確立された国同士 ⇔ 他の体制を採用する国家同士 ←前者が戦争起きにくい 民主主義の透明性 政策決定: 議会を通じて実施 ←相互に相手国の次の行動を予測可能 紛争発生: 構築された相互関係のチャンネルを使って解決可能 リアリズム アクター 国際関係の主体は国家 →紛争を回避 リベラリズム 国際関係の主体が多様 -国家、国際機構、企業、NGO 対外政策 軍事・安全保障を優先 優先順位はない -安全保障、環境、貿易・為替 軍事力 有効 有効性に限界あり まとめ 世界は「力」で動く 世界は「協調」の時代 4 国際関係論(1 年生)/国際関係論 I (2 年生以上) 第 08 回 10 月 16 日 「人権: 人権問題と難民問題」 http://islamandeconomy.web.fc2.com/2015chuis/ I. 人権問題 (1)人権とは? 多様な人権、多様な人権侵害 戦争・内戦: 民族対立。民族浄化と大量虐殺。難民・国内避難民の発生 人権問題化: 各種の出来事・争点が人権問題の範疇に含まれる。人権問題(の一種)として扱 われる案件の内容が多様化 人権の位置づけ 個人がどのように扱われるべきかの了解。誰でも平等に与えられるべき普遍的権利 人権の内容 ①自由権: 政府が権力を濫用して市民生活に不当介入することからの自由 ②社会権: 工業化が進む中で、経済的な格差を是正しよう、との考えに基づく人権 ③集団権: 人権が与えられる対象が個人→集団へ。マイノリティ、女性、先住民族、など 「人権にどのような権利が含まれるか」「どの権利が優先されるか」は議論の余地 (2)国際政治における人権 人権の国際問題化 国際社会での議論: 国家: 人権の保護のどこまでが国内問題で、どこからが国際問題かが不明瞭 人権を保護する義務・能力を有する主体 (3)第二次世界大戦期の人権 「四つの自由」と国際秩序 1941 年、ルーズベルトが米議会で示す 四つの自由: →大西洋憲章(1941 年)でも確認 言論の自由、信仰の自由、欠乏からの自由、恐怖からの自由 欠乏からの自由と恐怖からの自由=国際平和を脅かす限り、国際問題 人権の尊重: 国際平和をもたらす手段の一つ 国連憲章への記載 人権を議題にすることに及び腰な戦勝国 国連憲章前文: ⇔ 取り組みを求める新興国 ①国連の目的=人権と基本的自由の尊重。②国連総会と国連経済社会理事会= 人権保護の役割 世界人権宣言 経緯: 1948 年、国連人権委員会が起草 →国連総会で採択 人権: すべての人民とすべての国民とが達成すべき共通の基準 前文: 人権は四つの自由を含む 条文: 人権の普遍性、自由権、社会権を明記 1 国際関係論(1 年生)/国際関係論 I (2 年生以上) 第 08 回 10 月 16 日 「人権: 人権問題と難民問題」 http://islamandeconomy.web.fc2.com/2015chuis/ (4)冷戦期の人権 東西冷戦と人権 人権をめぐる米ソの論戦: 互いに自らの陣営・体制の優位性をアピール 自由権と社会権 自由権: 政府の不当介入からの自由 社会権: 経済的格差の是正 ←西側陣営が重視 ←東側陣営と新興独立国が重視 国際人権規約 1954 年、起草 →1966 年、採択 →1976 年、発行 社会権規約(国際人権 A 規約)と自由権規約(国際人権 B 規約) テーマ別の条約 人権の内容・テーマに即した各種の条約が締結。 (例)ジュノサイド条約(1948 年)、人種差別撤 廃条約(65 年)、女性差別撤廃条約(79 年)、拷問禁止条約(84 年)、子供の権利条約(89 年) 1970 年代の人権への取り組み アメリカ: 欧州: 公民権運動、対外援助法 ①1973 年、欧州安全保障協力会議(OSCE)を 35 ヶ国で組織、ソ連主導。②1975 年、 ヘルシンキ最終議定書 (5)ポスト冷戦の人権 アジア的価値と人権 冷戦後: 自由権を優先 アジア的価値: ⇔ アジア的価値の提唱 個々人の基本的人権よりも、集団や国家の開発を重視する立場 ウィーン宣言(1993 年): 171 カ国の代表による世界人権会議 人間: 人権の主体かつ受益者 人権: 普遍的、不可分で相互連関 発展の権利: 個人が有する人権 ←自由権と社会権には優劣つかず ⇔ 国家が人権を侵害してはならない 国連ミレニアム・サミット(2000 年) 欠乏からの自由: 開発からの恩恵を受けるための国連ミレニアム開発目標 恐怖からの自由: 『ミレニアム報告書』「恐怖の源泉が多様化」 人権と他の権利・権限との関係: II. 人権と国家主権。人権と企業活動。人権と国家安全保障 難民・移民問題 (1)基本概念 基本概念と定義 難民: 強制的に住まいを追われて国境を超える人びと 国内避難民: 難民のうち、国境を越え(られ)ず国内に留まる人々 2 国際関係論(1 年生)/国際関係論 I (2 年生以上) 第 08 回 10 月 16 日 「人権: 人権問題と難民問題」 http://islamandeconomy.web.fc2.com/2015chuis/ 難民と人権(世界人権宣言 14 条): 迫害からの庇護を他国に求め、かつ享受する権利 難民・避難民発生の原因(ウィーン宣言): 武力紛争下での人権侵害 →難民保護の原則 UNHCR(国連高等難民弁務官事務所) 目的: 難民の国際的保護と難民問題の恒久的解決 条約上の規定: 難民の保護=難民に各種の権利を与えること 実質上の機能: 人道支援=難民に物資を供与することも保護の一環 難民問題の恒久的解決方法 第一次庇護国での定住、第三国への再定住、本国への帰還 国際難民レジュームの変化 冷戦期 冷戦後 レジュームの主な目的 人権の保護 人道支援 中心的な原則 ノン・ルフールマン 人間の安全保障 UNHCR 保護の対象 難民 難民、帰還民、国内避難民 保護の主な手段 受入国での権利保障 難民先での人道支援 恒久的解決の優先順位 定住・再定住>帰還 定住・再定住<帰還 大量難民への対応段階 事後(発生後) 事前(発生前) (2)国際難民レジュームの誕生 UNHCR と難民条約 難民条約: 1950 年、UNHCR 発足 難民の権利: 宗教の自由、結社の権利、裁判を受ける権利、など 強制送還の禁止: 難民の帰還は本人の自主性に基づく。強制送還は不可 ノン・ルフールマン原則: 難民の保護: →1951 年、国連で難民条約を採択 政府から迫害の恐れがある者の強制送還の禁止 ○難民の人権保障 ⇔ ×迫害される恐れのある難民の強制送還 難民条約の問題点 ①定義や権利・義務関係があいまい: 記載されていない事項。難民認定 ②難民の定義が極めて限定的: 迫害を受ける恐れのある者。国籍国の外にいる者。1951 年以前 に生じた事件で難民となった者。事件の発生地は欧州 UNHCR の活動 活動内容: ①難民の認定、②難民条約の運用の監督、③締結国による難民受入促進、④関係国 による難民保護促進、⑤NGO の援助・連携、⑥難民情報の収集・公開、⑦資金提供の呼びかけ 問題点: 資金拠出国(ドナー)が先進国中心 3 →活動が先進国寄り 国際関係論(1 年生)/国際関係論 I (2 年生以上) 第 08 回 10 月 16 日 「人権: 人権問題と難民問題」 http://islamandeconomy.web.fc2.com/2015chuis/ (3)冷戦期における国際難民レジューム 1950 年代後半以降各地で難民発生: ハンガリー、アルジェリアなど →レジュームが変化 変化①: 保護対象の難民の拡大。難民条約の定義よりも広い範囲で難民とその保護を認める 変化②: 人道支援の実施。条約上の役割=難民の保護、人権の保護 →新たな実質上の役割= 難民の保護、人道支援、物資の提供など。難民と NGO の間での調整役 変化③:難民受け入れ拒否: インドシナ難民、長期間にわたる大量の難民発生。近隣諸国によ る難民受け入れ(第一次庇護国)拒否。先進国による第三国定住の拒否 →受入国での長期間の 難民キャンプ暮らし(本国帰還も第三国定住もできず) 変化④: ノン・ルフールマン原則(帰還は本人意思。強制送還は禁止。迫害の恐れ)の変更。 冷戦期=自主的とはいえない本国帰還も実施 ←受入国の負担増 (4)ポスト冷戦の国際難民レジューム 難民発生と受入れの変化 難民発生の構造変化: ①冷戦構造の終結 →難民帰還問題。②民族対立=内戦の発生 →難民、 国内避難民の発生 難民受入れの変化: 先進国は難民を「貧困から逃れようとする経済移民」視→入国管理強化。 ①途上国から途上国へ。②国境を超えることができない国内難民化 UNHCR の活動の変化 冷戦戦期=事後対応型、受入国中心、難民重視 →冷戦後=事前対応型、出身国中心、包括的 冷戦後の UNHCR の活動: 上国での大量難民発生を未然に防ぐ措置。難民だけでなく、国内避 難民や帰還民も活動の対象。開発や紛争予防などの長期政策と関連づけ難民問題解決探る 難民の人権保障 →人道支援や開発にも踏み込む活動 UNHCR のジレンマ: 「人権保障から人道支援へ」の活動内容の変化 肯定的評価「国連を代表する人道機関」⇔否定的評価「本来の難民の権利保護という役割逸脱」 「人権の尊重」と「現場での人道支援」: どちらを優先すべきかとのジレンマ ジレンマの事例①: ミャンマーのロヒンギャ難民 ジレンマの事例②: アフガニスタン戦争・イラク戦争 国際難民レジュームの変化 冷戦期=人権レジューム UNHCR: →冷戦後=人道支援レジューム 難民の人権保護から人間の安全保障、人道支援に踏み込んだ結果 4
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