ローカルとグローバルを超えて 西尾 敦史 最近、文化人類学者・川田順造の『富士山と三味線』を面白く読みました。 グローバルな考え方の典型は「メートル法」に見出されるといいます。 メートル法を確立したのはフランス革命政府であり、その根底にあったのは普遍化思想。自分たちの 考えていることは普遍的で世界に通用するという信念です。 時計まで十進法にして、1年を十か月にしてみましたが(フランス革命暦)、これは広がりませんで した。時間は三とか六とか十二とかが基本になっていて、これは東洋も西洋も同じで不思議です。 さて、1メートルとはどんな基準かというと、地球の周の4分の1、北極から赤道までの長さの1千 万分の1なのだそうです。フランス革命直後に9年かけて実際に測量し、その1千万分の1を割り出し てプラチナでメートル原器を作ったというから、その執念たるやすごいものがあります。 この尺度に対してはフランス国内でも猛烈な反対があり、日本では、明治時代には尺貫法とメートル 法を併用させ、尺貫法の完全な廃止は 1966 年までかかりました。 真っ先にメートル法条約に賛成し、調印したアメリカは、しかし、今でもヤード・ポンド法が主流で す。科学的な研究には基準や単位がバラバラでは困るので統一したわけですが、身体感覚を伴わない尺 度には根強い反感が生まれるのは当然ともいえます。一升瓶は 1.8 リットル瓶とは言わないし、万里の 長城も、3927 キロメートルの長城と言い換えても伝わらないですね。閑話休題。 グローバル化の中心は、常に「西洋」であったわけですが、なぜその他の地域ではなかったのかとい う疑問に、川田順造は船の発展を例にとり、西洋では異質なものが、相互交渉しながら基本的な統一を 保ったことが力を発揮したのだといいます。コロンブスの外洋航海したカラベラ船は北欧のヴァイキン グが開発した竜骨船の方式で、それにアラブ系統のラテン帆を取り入れ、つまり風上にも遡航できる大 型の三角帆船となり、航海技術としてイタリアの磁石の技術を取り入れ、ペルシャの星の知識を取り入 れているのだそうです。 グローバル化には、軍事力や経済力などの力や権力を背景に、単一の基準を圧力として押しつけてい く、またそれを受け入れざるを得ないという状況が半ば強制的につくられるわけですが、そのモノサシ が私たちの生活の発展に寄与するためにも、ローカルな生活感覚をもつ私たちは、私たちが大切にして きた固有の価値や理念や生きる技術といったものを発信していかなければならない、使命というか責任 をもっているのかなと感じています。
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