冬場に流行する小児感染症

● 診療所だより
日本クラブ診療所 2015年12月 ( P. 1 / 2 )
冬場に流行する小児感染症
冬 季 の 感 染 症 は 主 に ウ イ ル ス 感 染 が 中 心 に な り ま す。 湿 度 の 低 下 に 伴 っ て 空 気 が 乾
燥し、鼻や口の粘膜も乾燥してしまい、バリア機能が低下するためです。逆に夏場
は 高 温 多 湿 の た め 細 菌 が 繁 殖 し や す く な り ま す。
今 回 は 、 冬 場 に 流 行 す る 代 表 的 な ウ イ ル ス 感 染 症 に つ い て お 話 し た い と 思 い ま す。
● 季節性インフルエンザ (seasonal influenza)(通称:flu)
最も代表的な冬季の感染症で、ウイルス名 influenza はイタ
リア語に由来します。古代イタリアでは、‘悪い空気’によって
影響 influence されたと考えられていたためです。潜伏期間は
点滴薬(ラピアクタ™)などがあります。治療は発熱後48時間以
内で開始することが望ましく、発熱期間が短縮されます。発熱
してから48時間以降の治療では効果は期待できません。
インフルエンザは過去に数回の大流行があり、1917年のス
1~2日です。感染経路は主に飛沫感染で、近い距離での咳、
ペイン風邪 (Spanish flu) では全世界で約4,000万人、近年では
くしゃみなどでウイルスが空気中に散布され、それを吸い込む
2009年の新型インフルエンザ(ブタインフルエンザ、swine
ことによって感染します。空気感染や接触感染も見られます。
flu)流行で20万人以上が亡くなっています。例年の日本では
空気感染は、空気中に浮遊しているウイルスを吸い込むことに
よって起こります。接触感染は、感染している人が触ったドア
ノブ、キーボード、お札などを触った手で、口や鼻の粘膜に触
れることで起こります。
インフルエンザウイルスには3つの型 (A,B,C) があります。
C型は症状が軽微で流行することはないので省略します。A型・
B型の主な症状は高熱 (38~40℃)、身体の痛み(関節痛、筋肉
痛)、頭痛、咳、鼻汁などです。B型ではさらに消化器症状(吐
き気、嘔吐、下痢)もみられます。小さいお子さんの場合、不
機嫌、食欲低下、ぐったりする症状もあります。
診断方法は様々ですが、迅速検査は短時間で診断が可能です。
鼻の奥の鼻汁を綿棒で採取して薬品に浸し、ろ紙や板状のプ
レートに薬を流し込んで判定する方法です。検査時間は約10
~
~ 15 分 で す 。 迅 速 検 査
キットの性能は 、製造会
社によって異なりますが、
発熱してから数時間~12
高木 健 (たかぎ けん) 先生
日本小児科学会専門医
今年8月から日本クラブ診療所勤務。
幼少期と医師になってからの通算
12年の在米経験がある。8歳と5歳
の息子をもつ。アーセナルのファン
インフルエンザウイルスによる死亡者数は1,000人前後、イギ
リスではおよそ30,000人亡くなっています。亡くなる人のほ
とんどは65歳以上の高齢者です。主な原因はインフルエンザ
による肺炎、気管支炎、喘息ですが、小児の場合は、けいれん、
脳炎などの重篤な後遺症を残すこともあります。
予防することが最も大事で、ワクチン接種の他に、手洗い、
うがい、部屋を加湿して空気の乾燥を防ぐことなどが挙げられ
ます。夜間の急激な発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛などの症
状が出たら、慌てずに体を冷やし(首、脇、股をアイスパック
などで冷やす)、水分をしっかり取って翌日ご相談ください。
ご 自 宅 に 解 熱 鎮 痛 剤 パ ラ セ タ モ ー ル ( paracetamol 、
Calpol™)があれば内服しても大丈夫です。けいれん、受け応
えがはっきりしない、喘息が悪化するなどの症状がある場合は、
早急に医療機関を受診してください。
● ノロウイルス (Norovirus)(通称:stomach bug, stomach
flu, winter vomiting bug)
時間程度で検査が可能で
ノロウイルスも冬季に流行しやすい胃腸炎の感染症です。
す。 発熱直後の検査では
ウイルス名は Norwalk Virus です。米国オハイオ州の Norwalk
陽性にならないこともあ
町の小学校で流行した際にウイルスが同定されたのがきっかけ
り、 その場合は 、症状や
です。2002年の国際ウイルス学会でノロウイルスと名付けら
周囲の状況などを考慮し
れ、正式名称の Norwalk Virus よりも「ノロウイルス」が一般的
て診断します。
に定着し、日常的にノロウイルスと呼ばれるようになりました。
治療法は、抗インフル
ノロウイルスに感染すると小腸で増殖して、嘔吐、吐き気、
エンザウイルスの内服薬
下痢などの消化器症状が現れます。病名はノロウイルスによる
(タミフル™)、吸入薬(イ
胃腸炎です。
ナビル™、リレンザ™)、
北診療所 TEL: 020 7266 1121 Email: [email protected]
南診療所 TEL: 020 8971 8008 Email: [email protected]
URL: nipponclub.co.uk/clinic
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● 診療所だより
● ノロウイルス(つづき)
日本クラブ診療所 2015年12月 ( P. 2 / 2 )
● ロタウイルス(通称:ロタ)
ノロウイルスの潜伏期間は12時間~48時間で、症状のピー
予防接種によってロタウイルスの胃腸炎は激減しました。主
クは2~3日です。ノロウイルスが非常に恐ろしい理由はその
に乳幼児がかかりやすい冬の胃腸炎です。症状の特徴は、酸っ
感染しやすい特徴と消毒しにくいことです。感染経路は糞口感
ぱい匂いがする米のとぎ汁の様な水様便です。糞口感染により
染、空気感染です。ノロウイルスは下痢、吐物に存在していて、
保育園、幼稚園などで流行します。潜伏期間は1~3日間で、
下痢などの症状をもつ感染者が手を十分に洗わないまま触れた
ピークは2~3日です。ロタウイルスでけいれん、脳炎、脳症
色々なものに、他の人が手で触れて口から感染します(食中毒
などを引き起こすこともあるため注意が必要です。胃腸炎に準
など)。また、室内などで嘔吐すると空気中に散布され、他の
じた治療を行います。ロタウイルスの場合はアルコール消毒で
人が口や鼻から吸引すると感染します。ノロウイルスには脂質
大丈夫です。日本でのワクチン接種は任意の経口ワクチンです。
膜をもたない構造的な特徴があり、石鹸やアルコールでは消毒
できません。トイレ便座、キーボード、まな板などの表面では
◇ ◆ ◇ 注意するポイント ◇ ◆ ◇
数週間生き残ることが可能です。症状は嘔吐、下痢、腹痛が一
般的ですが、乳幼児では嘔吐が目立つ傾向があります。
治療は安静にして水分摂取をこまめに行いましょう。水分摂
冬場に流行する感染症は様々で、症状も多岐に渡ります。
残念ながら病気にならない方法はないのですが、注意する
取には日本で発売されているOS-1などが有用ですが、スポー
ポイントを挙げてみます。
ツ飲料水など電解質が入っているものであれば十分です。小さ
1. 周囲でどのような感染症が流行っているのか知っておく
いお子さんであれば味噌汁の上澄みやスープなどでも大丈夫で
2. 帰宅時には手洗い・うがいを行う
す。小さいお子さんに飲ませる際は、スプーンで、ゆっくり、
3. 食事はバランスよく、睡眠はしっかりとる
ゆっくり飲ませてください。一気に飲むと吐きますので、焦ら
ず、ゆっくりです。胃腸炎で心配なのは脱水ですので、意識が
はっきりしない、口の粘膜が乾燥している、泣いているのに涙
4. 部屋の適度な温度、湿度を保つ
5. 調子が悪いときは無理をしない
が出ないなどの際は医療機関を受診してください。診断は症状
NHSでは<出席停止期間>などの決まりがないため、各校、
で行います。日本の機関病院などでは行政に依頼して調べます
Nurseryなどで確認してから登園・登校してください。
が、一般的には行われません。
予防法は、2分間以上の流水で石鹸による手洗いや、嘔吐・下
痢の人と同じ食器やタオルなどの使用を避けることです。消毒
には塩素消毒が必要ですので、キッチンハイターなどを希釈し
て使用します。イギリスでは病院などで使用している Clinell社
の Universal Wipes が有効で、大手通販サイトで購入可能です。
嘔吐・下痢などの症状がなくなって2日間経過してから集団生
活に戻ってください。
● RSウイルス(通称:RS)
◆ ◇ 感染症情報サイト ◇ ◆
※国立感染症研究所
日本のインフルエンザの流行情報を掲載
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/a/flu.html
※英国(公衆衛生の中心サイト、流行情報を週に1度更新)
http://www.gov.uk/government/statistics/weekly-national-flureports
気管支炎、肺炎を起こす感染症で、冬場に必ず流行します。
ウイルス名は Repiratory Synctial ウイルスで、頭文字を取って
※ECDC(ヨーロッパ疾病予防センター)
RSウイルスと呼ばれます。ほとんどの2歳未満の子供は、一度
ヨーロッパ、中東、アフリカの感染症の流行情報
は感染した経験を持っています。感染力、増殖力が非常に強く、
Communicable Disease Threat Report
飛沫感染と接触感染で広がります。潜伏期間は4~6日で、症
http://ecdc.europa.eu/en/publications/surveillance_reports/P
状のピークは3~4日です。症状は、咳、鼻水が中心で、大人
ages/index.aspx
は軽い風邪のような症状になります。未熟児、新生児、重度の
心臓病のお子さんでは、ひどい気管支喘息のようになり、無呼
※Flu News Europe
吸発作などを引き起こします。治療法は特になく、気管支炎、
ECDCとWHOの共同サイト
肺炎に準じた治療を行います。未熟児、心臓病のお子さんには
ヨーロッパインフルエンザ情報
予防接種がありますが、通常のお子さんの予防接種スケジュー
http://flunewseurope.org/
ルには入っていません。
(おわり)
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URL: nipponclub.co.uk/clinic