● 診療所だより 日本クラブ診療所 2015年10月 ( P. 1 / 2 ) はじめよう 自分でできる 胃がん対策! 成人の死亡原因として最も多いのは依然としてがんですが、その中でも胃がんをはじめと する消化器がんが上位を占めています。胃がんは、罹患率・死亡率ともに減少傾向にあり ますが、男女合計の死亡率は、肺がんに次いで2位とまだまだ高く、また、罹患率は男女 計で最も高く、男性はおよそ9人に1人、女性はおよそ 18人に1人が一生のうちに胃がん と診断されています。しかし現在では、検査法・治療法が飛躍的に向上したことにより、 定期的に検診を受けて早い段階で適切な処置をすれば、必ずしも過度に怖れる病気ではあ りません。また、胃がんは自分自身が気をつけることで予防しやすいがんでもあります。 まずは簡単なセルフチェックをしてみましょう。 あり、大きく分けて3層構造をしています。内側から粘膜(粘膜・ ・40歳以上の人(とくに50歳以上) 粘膜筋板・粘膜下層)、筋層、漿膜という順に、層が重なってでき ・胃炎と診断された事がある ています。 ・ヘリコバクターピロリ菌がいるといわれたことがある ・タバコを吸う B.胃がんとは 胃がんは、胃壁の内側にある粘膜 ・塩辛いものが好き ・家系的に胃がんの人が多い ・胃痛、食欲不振、体重減少などの症状がある さて上記の項目のうち、いくつ当てはまりますか? 該当項目 が多い人には定期的な胃の検査をお勧めいたします。それでは、 胃がんとその予防法について一緒に勉強していきましょう。 から発生する悪性の腫瘍です。粘膜 から徐々に粘膜下層、筋層、漿膜へ と胃壁の外側に向かって、がんが深く 広がっていいきます。がん細胞が粘膜または粘膜下層までにと どまっているものを「早期胃がん」といい、筋層より深く達し たものを「進行胃がん」、筋層より深く達したものを「進行胃 がん」といいます。 A.胃の働きと構造 ① 胃の働き:胃は、口から食堂を通って入ってきた食物が蓄 えられる袋状の臓器です。空腹のときは細長く萎んでいますが、 満腹時には大きく膨らんで食べ物や飲み物を1.5~2.5リットル も貯めこむことができます。胃の主な仕事としては、摂取した 食物を一時的に蓄え, 胃の粘膜から大量の胃液(粘液、塩酸、タン パク分解酵素)を分泌して消化の第一段階を行ない、食物を撹 拌してドロドロの状態にして十二指腸へ送り出すことです。 ② 胃の構造:食道から繋がる胃の 入口付近を噴門部、十二指腸に繋 がる胃の出口付近を幽門部、それ 以外の部位を胃体部と言います。 胃壁の厚さは大体5-7mmくらい C.胃がんの原因 胃粘膜の細胞が何らかの刺激や原因でがん細胞となることで 胃がんが発生します。胃がん発生のメカニズムはまだよく分 かっていませんが、胃粘膜細胞の遺伝子が何らかの刺激や原因 で傷が付き、その傷が積み 重なることでがん細胞がで きると考えられています。 一般的に遺伝子にキズが つく原因としては、もとも と遺伝子にキズがつきやす いこと(遺伝的素因)以外に、 日常生活の乱れ(タバコ、刺 激物、ストレス、暴飲暴食)、 ウイルスや細菌の感染によ る持続炎症などがあげられ ます。 (次ページへつづく) 北診療所 TEL: 020 7266 1121 Email: [email protected] 南診療所 TEL: 020 8971 8008 Email: [email protected] URL: nipponclub.co.uk/clinic 宮川 佳也 先生 日本内科学会認定医、日本消化器病学 会専門医、日本消化器内視鏡学会指導 医、日本消化管学会認定医 2015年4月より日本クラブ診療所に て勤務。内視鏡検査を担当。胃腸を はじめ消化器疾患の診療経験が長い ● 診療所だより D.胃がんの症状と検査 日本クラブ診療所 2015年10月 ( P. 2 / 2 ) 人の全てが胃がんになるわけではありません。ピロリ菌に感染 胃がんに特有の症状というのはありませんが、みぞおちが痛 していると年間0.4%(例えば30年では12%)の確率で胃癌にな い、胃が重たい感じ、食欲不振といった症状が長く続くような ると統計的に予測されています。逆に胃がんの約80%はピロ ら検査を受けていただくことをお勧め致します。また、急な体 リ菌感染が原因とWHO=世界保健機構では報告されています。 重減少やタール状になった黒い便などの症状がある場合も同様 ② 多量の塩分 です。早期発見のため、おかしいと思ったらすぐに医師に相談 しましょう。 胃の粘膜は粘液などで保護されていますが多量の塩分や刺激 の強い食べ物を摂り過ぎると胃粘膜が炎症を起こし、胃がんの 胃がんの検査には胃バリウム検査と上部消化管(食道、胃、 きっかけを作ってしまうことがあります。塩分摂取の多い地域 十二指腸)内視鏡検査があります。胃バリウム検査はバリウム で胃がんが多いことが統計上わかっています。また、夜食、早 と発泡剤を飲んで、胃のひだの状態や変形の有無、粘膜の状態 食い、食べ過ぎといった不規則な食習慣やストレスも胃に負担 などを調べます。内視鏡検査は口から細い長いファイバース をかけます。 コープを挿入し胃の内部を直接観察する方法です。上腹部の症 ③ 喫煙によって胃がんのリスクが高くなる 状がある場合や胃バリウム検査などで異常が見つかった場合に 日本人男性は世界でも喫煙率が高く、喫煙と胃がんの関連が 行ないます。病変が見つかった場合は、病変の組織を一部採っ 疑われています。疫学研究の結果から、日本において喫煙者で て病理検査(細胞の良し悪しを調べること)ができます。 は非喫煙者に比べ何らかのがんにかかるリスクが1.6倍高くな E.胃がんの治療 ① 内視鏡治療:おとなしいタイプの癌細胞が粘膜にとどまる るという報告があり、喫煙によって確実に胃がんリスクが高く なるとされています。 場合は、内視鏡を用いて胃がんを切除する、内視鏡的粘膜切除術 H.胃がんの予防4か条 (EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)などの方法があります。 ① ヘリコバクターピロリ菌を退治しよう ② 外科手術:粘膜下層より深く達している胃がんでは、手術治 ヘリコバクター・ピロリ菌は、お薬による「除菌療法」が成 療が最も有効で標準的な治療で開腹手術と腹腔鏡手術がありま 功すると消滅して、慢性胃炎もある程度改善します。研究結果 す。胃の切除と同時に、決まった範囲の周辺のリンパ節を取り では、除菌により胃癌の発生が3分の1~6分の1に減ると報 除きます。 告されています。ピロリ菌に感染していれば除菌療法を含めて ③ 化学療法:胃がんの抗がん剤治療には手術と組み合わせて 主治医へ相談しましょう。 使われる補助化学療法と治療が難しい状況で行われる抗がん剤 ② 塩辛い食品は控えめに 中心の治療があります。 F.胃がんの予後 ステージ(がんの進行具合)が進むほど5年生存率が低くなり ますが、日本胃癌学会のデータでは、ステージⅠA(がんが粘膜に 留まるもの)で93.4%、ステージⅠB(がんが粘膜下層までに留ま るものでリンパ節転移があっても1-2個)で87.0%となっていま す。5年生存率とは、がんの診断を受けた時から5年後の時点 で生存している人の割合を示したものです。予後が悪く悪性度 の高いがんであればあるほど低くなりますが、胃がんは比較的 5年生存率は高めだといえます。 G.胃がんのリスク因子 胃がんが発生する原因については、多くの研究が行われてお り、いくつかのリスク要因が指摘されています。 ① ヘリコバクターピロリ菌 ピロリ菌は、胃の粘膜に生息しているらせん形をした悪い菌 で、主に小児期に汚染された水や食べ物を介して、口から進入 して感染し胃に住み着きます。50歳以上の方は約70%以上の 塩分は胃の粘膜を荒らすため、塩分の多い食品のとりすぎに 注意することで胃がんのリスクを減らすことができると考えら れています。推奨される1日の塩分量の目安は9グラム以下と されています。 ③ 野菜や果物は豊富に 野菜や果物には、カロチノイドやビタミンCなどの発がんを 抑制するといわれる成分が豊富に含まれています。WHO(世 界保健機構)は「野菜・果物をほぼ確実に胃がんのリスクを軽 減するもの」としています。 ④ 禁煙を目指しましょう 喫煙はさまざまながんの原因の中で予防可能な最大の原因で す。日本の研究では、がんの死亡のうち、男性で40%、女性 で5%は喫煙が原因だと考えられています。2002年、WHO国 際がん研究機関は、胃がんはピロリ菌という微生物感染との関 連がありますが、その感染の影響を除いても喫煙と因果関係が あると判定しました。 -・-・-・-・-・-・-・-・- 方がピロリ菌に感染しているとされています。ピロリ菌によっ 一般的に、がんを予防するためには、食事、環境および生活 て胃粘膜の炎症が長く続くと、炎症が胃全体に広がっていき 習慣に留意することが必要とされています。まずはピロリ菌を (慢性胃炎:ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎)、これが胃潰瘍 除菌し、食事は野菜や果物を摂り塩分を控え、できるだけ禁煙 や十二指腸潰瘍、萎縮性胃炎を引き起こし、とりわけ萎縮性胃 することで胃がんの予防対策を行ないましょう。 炎が胃がんが発生しやすい母地になります。しかし、感染した 北診療所 TEL: 020 7266 1121 Email: [email protected] 南診療所 TEL: 020 8971 8008 Email: [email protected] URL: nipponclub.co.uk/clinic (おわり)
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