ポ イ ン ト 1 相続税の課税強化と小規模宅地等の 特例の概要 2

No.60
株式会社
ムトウ コンサルティング事業部
札幌市北区北11条西4丁目1番地 電話〔直通〕011-728-6114
http://www.wism-mutoh.co.jp/department/consulting
平成27年4月
医院を開業する際、個人で銀行から設備資金を借入して土地、建物を取得し、設立し
た持分のある医療法人に賃貸してきました。将来、後継者の息子が土地、建物を相続
で取得した場合、土地の評価について小規模宅地等の評価減は適用されますか。
平成27年1月1日以後の相続について、相続税の遺産に係る基礎控除額の引下げと高額な
課税価格の相続税率の引き上げにより、税負担が増えるケースが多くなります。
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イ
ン
ト
1
相続が発生して医療法人の理事長となった後継者が土地、建物を取得した場合、特定同族
会社事業用宅地等に該当すると小規模宅地等の評価減の対象となります。
相続税の課税強化と小規模宅地等の
特例の概要
(1)平成27年1月1日以後の相続税の基礎控除額の
引下げと税率の引上げ
①相続税の遺産に係る基礎控除額が、平成27年1月1日
以後の相続から下図のように引下げられました。そのため
相続財産が同じでも、改正により課税遺産が増え、相続税
の負担が増加することになります。
相続開始の直前における
宅地等の利用区分
要 件
被相続人等の居住の用に
特定居住用宅地等に該当
①
供されていた宅地等
する宅地等
330㎡
80%
400㎡
特定
特定同族会社事業用 事業
宅地等に該当する宅 用宅
③ 地等(一定の法人の 地等 400㎡
事業の用に供されて
いたものに限ります。)
80%
特定事業用宅地等に
貸付事業以外の
②
該当する宅地等
事業用の宅地等
被相続人
等の事業
の用に供
されてい 貸付事業用の
た宅地等 宅地等
④
相
続
財
産
改正前
5,000万円 + 1,000万円 × 法定相続人数
課税遺産
総額
改正後
3,000万円
遺産に係る
基礎控除額
2
+
600万円
×
< 相続税の速算表 >
改 正 後
各取得分の金額 税率
1,000万円以下 10%
控除額 各取得分の金額 税率
− 1,000万円以下 10%
控除額
− 3,000万円以下 15%
50万円 3,000万円以下 15%
50万円
5,000万円以下 20%
200万円 5,000万円以下 20%
200万円
1億円以下
30%
700万円 1億円以下
700万円
3億円以下
40% 1,700万円 2億円以下
40% 1,700万円
− 3億円以下
45% 2,700万円
50% 4,700万円 6億円以下
50% 4,200万円
−
−
−
− 6億円超
200㎡
50%
特定同族会社事業用宅地等の適用要件
30%
特定同族会社事業用宅地等とは、被相続人等の(1)の要
件を満たす法人の事業用宅地等のうち、
(2)の要件のすべて
に該当する被相続人の親族が取得し、かつ、申告期限まで引
き続きその法人の事業(貸付事業を除きます。)の用に供され
ているものをいいます。
(1)被相続人等が満たす要件
改 正 前
3億円超
貸付事業用宅地等に該当
する宅地等
80%
法定相続人数
②さらに、相続税の税率が下の表のように改正され課税価
格2億円超のキザミが2つ増え45%と55%の税率が設定さ
れました。これにより6億円超の課税価格に対しては、税
率が55%と改正前より5%アップしました。
−
限度 減額され
面積 る割合
55% 7,200万円
(2)小規模宅地等の評価減の適用面積の拡充と要件
の緩和
(1)の相続税の課税強化の緩和策として、平成27年1
月1日以後に相続の開始のあった被相続人の小規模宅地
等については、改正により適用面積の拡充と要件の緩和
が行われ、相続税の課税価格に算入すべき価格の計算上、
次の表の区分ごとに一定の割合が減額されます。
① 理事長(被相続人)及びその被相続人の親族その他その被相続人と特別
の関係がある者が医療法人の出資の総額の50%超を所有していること。
この出資割合50%超の判定時期は、相続開始後や相
続税の申告時期ではなく、
「相続開始直前」で行うと解釈
されています。
② 理事長(被相続人)が不動産を医療法人に対し「相当の対価」を得
て「継続的」に貸付していること。
相当の対価の判断については、地代や家賃から固定資
産税、減価償却費その他の必要経費を差し引いて相当の
利益が出る場合であればよく、又、近隣の地代や家賃の
相場どおり賃貸していれば問題ないものと考えられます。
開業にあたって、医院の土地、建物を個人で金融機関
から借入して設備投資していますので、元利金の返済を
するため医療法人からそれなりの家賃を受ける必要があっ
た筈ですので、この要件は全く問題ないと考えられます。
継続的に貸付けているとは、貸付開始時点から相続開
始時点までの貸付期間の長短をいうのではなく、土地・建
物の賃貸借契約において、その賃貸借期間が相当期間
No.60
医療税務つうしん
継続して行われることが予定されているか否かにより判断
をします。
なお、理事長が不動産を医療法人に対し無償(地代・
家賃の支払いが固定資産税程度の場合を含みます。)で
使用させていた場合には、小規模宅地等の特例は適用さ
れません。
ていません。
その宅地等を取得した上記①の役員である親族が、相
②保有継続
続開始時から相続税申告期限まで引き続きその宅地等
要件
を所有し、医療法人の事業の用に供されていること。
27年1月からの相続税の増税の中で、小規模宅地等の
特例が適用されることにより課税価格が80%減額される効
果は大きく、例えば1㎡15万円の土地400㎡の場合、6千
万円の価格が減額により1千2百万円になるものです。
あわせて、改正により特定居住用宅地等の適用面積が
240㎡から330㎡に拡充され、また、特定事業用宅地等と
特定居住用宅地等とがある場合、それぞれの限度面積ま
で80%減額が適用可能となりました(完全併用に要件が
緩和された訳です)。
(2)取得者である相続人が満たす要件
医療法人の事業の用に供されている宅地等を相続又は
①法人役員
遺贈により取得した親族のうちに、相続税の申告期限
要件
において、その医療法人の役員である者がいること。
相続又は遺贈により宅地等を取得した親族は、被相続
人と生計が別であってもよく、また、その親族が、相続又は
遺贈により医療法人の出資を取得することも要件にはなっ
老朽化した医院の建物の改修工事を行いましたが、資本的支出になるのか修繕費にな
るのかよくわかりません。このような場合どう処理すればいいのでしょうか。
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資本的支出とは価値を高め又は耐久性を増す部分であり、修繕費とは通常の維持管
理のため、又はき損した固定資産の原状回復のために要する部分です(実質基準)。
改修工事費用が資本的支出になるのか修繕費になるのかの判定が実質基準で困難な
場合、下記の形式基準による区分の流れを利用して区分することになります。
資本的支出と修繕費の区分について
(1)少額又は周期の短い費用 ―― 修繕費として損金算入
①一つの修理、改良のために要した費用の額が20万円未満である場合
②修理、改良等がおおむね3年以内の期間を周期として行われることが既往の実績その他の事情から明らかである場合
(2)資本的支出か修繕費か明らかでない場合の
形式基準による修繕費の判定
【資本的支出と修繕費の形式基準による区分の流れ】
修理改良等のための支出金額
実質基準に該当する場合を除き、次のいずれかに
該当するときは、修繕費として損金経理できます。①
その金額が60万円に満たない場合 ②その金額がそ
の修理、改良等に係る固定資産の前期末における取
得価額のおおむね10%相当額以下である場合
ここで、前期末取得価額とは、原始取得価額に前
期末までに行った資本的支出の額を加え、除却部分
の取得価額を控除したものです。
20万円未満か
NO
周期がおおむね3年以内か
2
YES
NO
YES
明らかに価値を高めるもの
又は耐久性を増すものか
NO
通常の維持管理のためのものか
YES
NO
き損したものを原状に回復
するためのものか
YES
NO
(3)資本的支出と修繕費の区分の特例
資本的支出か修繕費か明らかでない金額がある場
合において、法人が継続してその金額の30%相当額
とその修理改良等をした固定資産の前期末における
取得価額の10%相当額とのいずれか少ない金額を
修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしている
ときは、これが認められます。
YES
60万円未満又は前期末取得
価額の10%以下か
YES
イ.
支出金額
の30%
NO
支出金額
−修繕費
YES
割合区分による方法を採用
するか
YES ロ.
前期末取
得価額の
1
0%
イ、
ロのいずれ
か少ない金額
NO
実質により判定する
資本的支出
YES
資本的支出か
NO
修 繕 費
資本的支出か修繕費かが明らかでない場合の形式基準による区分例
事例研究
当医院は床や壁等の損傷が目立つた
め建物の改修工事を行うこととし、
2,
400万円かけて改修を行いました。
修繕費として当期の損金にする部分
はどう計算できますか。なお、建物
の当初の取得価額は1億5,
000万円
で今までに資本的支出や除却はあり
ません。
お問い合せは
400万円の改修工事費のうち、実質基準により資本的支出となる部分が明確に区
1. 2,
分できない場合、資本的支出と修繕費の形式基準による区分の流れにより判定して
いくと便利です。
400万円が、
「60万円未満又は前期末取得価額の10%以下」を上
2. 改修工事費2,
回っていますので、次のステップ「割合区分による方法を採用するか」により、イ 支
出金額2,
400万円×30%=720万円、ロ 前期末取得価額1億5,
000万円×10%
=1,
500万円のいずれか少ない金額である720万円を修繕費として損金経理するこ
とができます。
400万円−720万円=1,
680万円となります。
3. よって資本的支出の金額は、2,
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