N, Z, R, C はそれぞれ, 自然数全体の集合, 整数全体の集合, 実数全体の集合, 複素数全体の集合を表すものとする. I を単位行列とする. 0. 準備 §1. 列ベクトル 定義 a1 a 2 a3 [ a1 0.1.1 のように成分を縦に並べたベクトルを列ベクトル (column vector) と呼ぶ. ] , a2 , a3 のように成分を横に並べたベクトルを行ベクトル (row vector) と呼ぶ. Remark 0.1.2 行列 a11 .. . ... .. . a1n .. . am1 ... amn 定義 を列ベクトル a = 1 a11 .. . am1 , . . . , a = n a1n .. . amn [ ] を並べて a1 , . . . , an と表すことも多い. 0.1.3 x x, y ∈ R を 2 次元ベクトル空間 (vector space) という. R = y 2 Example 0.1.4 1 t ∈ R を考える. V= t 1 このようなベクトルの集合はイメージがわきにくい. そこで, ベクトルを位置ベクトル として終点の集合とみなすと, V は図 1 の y = x のグラフとして可視化でき便利であ る. Remark 0.1.5 R3 は空間とみなして考えるとよい. 定義 0.1.6 図1 Example 0.1.4 x1 x 2 n を n 次元ベクトル空間という. x , x , . . . , x ∈ R R = 1 2 n .. . xn Remark 0.1.7 n 次元ベクトル空間は定義 2 の 2 次元ベクトル空間の拡張に過ぎない. Remark 0.1.8 n 次元ベクトル空間は初学者は戸惑いやすいので, n = 2, n = 3(つまり, 平面, 空間) としてイメージすれば分かりやすい. §2. 行列のベクトルによる表示 (m, n) 行列 A, (n, l) 行列 B に対し, A を行ベクトル a1 , a2 , . . . , am で, B を列ベクトル b1 , b2 , . . . , bl で表すと, A = であるから, a1 a2 .. . am [ ] , B = b1 , b2 , . . . , bl [ ] [ ] AB = A b1 , b2 , . . . , bl = Ab1 , Ab2 , . . . , Abl である. すなわち, AB の第 j 列は, Ab j である. さらに, この Ab j は Ab j = a1 b j a b 2 j b j = .. . am am b j a1 a2 .. . であるから, AB の (i, j) 成分は ai b j である. よって, AB 全体では. AB = a1 b1 [ ] a2 b1 b1 , b2 , . . . , bl = .. . an b1 am a1 a2 .. . a1 b2 a2 b2 .. . an b2 ... ... .. . ... a1 bn a2 bn .. . an bn となる. §3. 線形結合 1 2 A = 4 5 7 8 x1 3 6 , x = x2 に対し, x3 9 1 2 Ax = 4 5 7 8 3 x1 6 x2 9 x3 x1 + 2x2 + 3x3 = 4x1 + 5x2 + 6x3 7x1 + 82 + 9x3 3 2 1 = x1 4 + x2 5 + x3 6 9 8 7 3 2 1 [ ] である. また, a1 = 4 , a2 = 5 , a3 = 6 とおくと, A = a1 , a2 , a3 である. よって, 9 8 7 ] x1 Ax = a1 , a2 , a3 x2 = x1 a1 + x2 a2 + x3 a3 x3 [ と書ける. 定義 0.3.1 ベクトル c がベクトル a1 , a2 , . . . , an で c = c1 a1 + c2 a2 + · · · + cn an (c1 , c2 , . . . , cn ∈ R) の形に書けるとき, c は a1 , a2 , . . . , an の線形結合 (linear combination) で書ける, という. Remark 0.3.2 線形結合は一次結合ともいう. Remark 0.3.3 b ∈ R3 に対し, 連立方程式 Ax = b の解を求めることは, A の列ベクトル a1 , a2 , a3 の線形結合 x1 a1 + x2 a2 + x3 a3 が b と なる係数 x1 , x2 , x3 を求めることに相当する. これを一般化すると, (m, n) 行列 A に対し, n 元 1 次連立方程式 [ ] Ax = b ⇔ a1 , a2 , . . . , an x1 x2 .. . = b xn ⇔x1 a1 + x2 a2 + · · · + xn an = b の解を求めることは, A の列ベクトル a1 , . . . , an の線形結合 x1 a1 + · · · + xn an が b となる係数 x1 , . . . , xn を求めることに相 当する. §4. 連立一次方程式の解き方 行基本変形とは, 次の (1) ∼ (3) の行列の変形のことである. (1) 2 つの行を入れ替える. (2) ある行を a 倍する. (a , 0) (3) ある行の a 倍を別の行に加える. Example 0.4.1 2x + 3y = 8 を解け. x + 2y = 5 2 3 2 3 8 が簡単になるように以下, 行基本変形を施す ← 係数成分 1 2 1 2 5 1 2 5 ← 第 1 行と第 2 行を入れ替えた (行基本変形 (1)) 2 3 8 1 2 5 0 −1 −2 ← 第 1 行の −2 倍を第 2 行に加えた (行基本変形 (3)) 1 0 1 0 −1 −2 ← 第 2 行の 2 倍を第 1 行に加えた (行基本変形 (3)) 1 0 1 ← 第 2 行を −1 倍した (行基本変形 (2)) 0 1 2 行基本変形により, 2x + 3y = 8 x + 2y = 5 x + 2y = 5 2x + 3y = 8 x + 2y = 5 −y = −2 x=1 −y = −2 x=1 y=2 Remark 0.4.2 1 2 連立方程式を行列に直した 2 3 5 , 8 1 2 5 2 3 8 などを, 拡大係数行列 (enlarged coefficient matrix) という. Remark 0.4.3 Example 0.4.1 の方法なら, 途中で列基本変形を混ぜてはいけない. 列基本変形を施すことによって, 元の連立方程式でおか しな操作をしていることを確認せよ. 1.rank(階数) §1. rank(階数) 定義 1.1.1 次の 2 条件を満たす行列を階段行列という. (1) 行ベクトルで零ベクトルがあれば, その下に零ベクトルでない行ベクトルは存在しない. (2) 第 k 行が零ベクトルでないとする. ベクトルの零でない最初の成分 (主成分という) を akik とすると, i1 < i2 < i3 < . . . となる . a1i1 0 . .. A = 0 0 . .. 0 ∗ ∗ ∗ a2i2 .. . ∗ .. . ∗ .. . ... 0 arir ... .. . 0 .. . 0 .. . ... 0 0 ∗ ∗ .. . ∗ 0 .. . 0 Example 1.1.2 1 0 0 2 3 1 0 0 0 定理 4 2 , 3 0 0 0 1 5 0 3 0 0 8 2 は階段行列である. 0 1.1.3 任意の行列 A は (行) 基本変形を有限回繰り返すことにより, 階段行列になる. 定義 1.1.4 定義 1.1 において, 零ベクトルでない行の個数を rank(階数) といい, rank (A) と表す. Remark 1.1.5 階数は各行列に固有であるが, 階段行列は一意でない. そこで, 階段行列を一意性のあるように新たに定義したい. それが次 の簡約な行列である. 定義 1.1.6 次の 2 条件を満たす階段行列を簡約な行列という. (1) (2) 主成分が全て 1 主成分を含む列が主成分以外全て 0 Example 1.1.7 1 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 , 1 0 0 0 1 0 0 1 0 0 2 3 は簡約な行列である. 0 定理 1.1.8 任意の行列は (行) 基本変形を有限回繰り返すことによって, 簡約な行列になる. 簡約な行列は各行列に一意である. Remark 1.1.9 A を基本変形して簡約な行列 B になったとき, A の簡約化は B である, という. §2. 連立方程式と rank 定理 1.2.1 連立一次方程式 Ax = b に対し, 次が成り立つ. (1) rank (A) , rank [ A, b ] ⇔ 解をもたない. (2) rank (A) = rank [ A, b ] ⇔ 解をもつ. ただし, [ A, b ] は Ax = b の拡大係数行列である. Example 1.2.2 x+y+z=2 を解け. 2x + 2y + 2z = 5 拡大係数行列は, [ となるから, 1 2 1 1 2 2 { ] [ 2 1 1 → 5 0 0 1 0 2 1 ] x+y+z=2 0=1 であり, どんな (x, y, z) であっても第 2 式を満たさないから解をもたない. このとき, 確かに rank (A) = 1, rank [ A, b ] = 2 であるから, rank (A) , rank [ A, b ] となっている. Example 1.2.3 x + y + 2z = 4 を解け. 2x + y + z = 3 3x + 2y + 3z = 7 拡大係数行列は, 1 1 2 1 3 2 となるから, 2 1 3 1 0 1 1 2 4 4 3 → 0 −1 −3 −5 → 0 1 0 0 0 −1 −3 −5 7 { −1 3 0 −1 5 0 x − z = −1 y + 3z = 5 であり, z = c (c ∈ R) とすると, (x, y, z) = (−1 + c, 5 − 3c, c) として解をもつ. このとき, 確かに rank(A) = 2, rank [ A, b ] = 2 であり, rank(A) = rank [ A, b ] となっている. Remark 1.2.4 一般に主成分を含まない列に対応する変数 (Example 1.2.3 の場合, 3 列目に主成分は存在しないので z) に任意定数を与え ると, 主成分を含む列に対応する変数 (Example 1.2.3 の場合, 1, 2 列目に主成分は存在するので x, y) の値が一意に決まる. 次に, 定理 1.2.1(2) をさらに詳しくした定理 1.2.5 を述べる. 定理 1.2.5 A は n 列の行列とする (すなわち, 未知数は n 個). 連立一次方程式 Ax = b について, 次が成り立つ. (1) (2) rank(A) = rank [ A, b ] = n ⇔ 解は一意 rank(A) = rank [ A, b ] = k < n ⇔ 解は無数で (n − k) 個の任意定数を含む Remark 1.2.6 任意定数の個数を解の自由度という. これは, 階段行列に変形したとき, 主成分を含まない列 (n − k 個ある) に対応する変数に任意定数を与えると構成できる. Example 1.2.7 Example 1.2.3 の場合, rank(A) = rank [ A, b ] = 2 であり, A は 3 列の行列なので, 自由度は 3 − 2 = 1 である. 実際, 解 (x, y, z) = (−1 + c, 5 − 3c, c) (c は任意定数) は任意定数が 1 個である. Example 1.2.8 x + y + 2z = 0 の解を求めよ. 拡大係数行列 A = [ 1, 1, 2 ] とすると, [ A, 0 ] の主成分が存在しない列は 2, 3 列目なので, y, z を任意定数に置けばよい. y = c1 , z = c2 (c1 , c2 ∈ R) とすると, (x, y, z) = (−c1 − 2c2 , c1 , c2 ) である. このとき, 確かに rank(A) = rank [ A, 0 ] = 1 であり, A は 3 列の行列なので, 自由度は 3 − 1 = 2 となっている. Remark 1.2.9 定理 1.2.5 の b = o の場合は, 常に解 x = o をもつ. これを, 自明な解 (trivial solution) という. 自明な解でない解を非自明 な解という. 定理 1.2.10 A は n 列の行列とする. 連立一次方程式 Ax = o について, 次が成り立つ. (1) (2) rank(A) = n ⇔ 自明な解のみをもつ. rank(A) = k < n ⇔ 自由度 (n − k) の非自明な解をもつ. Example 1.2.11 Example 1.2.8 は非自明な解をもつ. 実際, c1 = c2 = 0 のときの解は自明な解 x = y = z = 0 である. Remark 1.2.12 当然, 定理 1.2.10(2) の場合も自明な解をもつ. 2. 行列式 §1. 正則行列 定理 2.1.1 A は n 次平方行列とする. 次の (縲 縲 i ) ∼ (縲 iv 縲) は同値である. (1) A は正則である. (2) rank (A) = n (3) 連立方程式 Ax = b は唯一つの解をもつ. (4) 連立方程式 Ax = o は自明な解のみもつ. Remark 2.1.2 A が正則 ⇔ A の簡約化は E である. §2. 2 次正方行列の行列式 行列式は, その行列が正則であるかどうかを判定するのに非常に役立つものである. 一般の行列式の定義は置換という概念 を用いてなされる. しかし, 一般の場合はひとまず措いて, ここでは 2 次正方行列の場合をみる. 定義 2.2.1 a b に対し, ad − bc を A の行列式 (determinant) という. A の行列式は | A | や det A などと表され 2 次平方行列 A = c d る. : a b = ad − bc | A | = det A = c d Example 2.2.2 b a a b , a1 = , a2 = とおく. 実数 a, b, c, d に対し, A = d c c d det A = 0 のとき, A はどのような性質をもつか. (1) rank について a1 , a2 が張る平行四辺形の面積は | ad − bc | である (図 2) から, det A = 0 ⇔ ad − bc = 0 は a1 , a2 が張る平行四辺形の面積が 0, すなわち, a1 , a2 が平行, または少なくとも一方が 零ベクトルであることを示す. a1 = o のとき, [ ] [ ] [0 b] 0 1 A = o , a2 = → 0 d 0 0 図2 a1 , a2 が張る平行四辺形 a1 , o のとき, ある k ∈ R が存在して, ka1 = a2 を満たすので, [ ] [ A = a1 , a2 = a1 , ka1 ] ] [ a 0 0 → a1 , o = → c 0 0 [ ] [ 1 0 ] であるから, rank (A) = 1 である. (2) ベクトルの変換について x 任意の実数 x, y に対し, ベクトル x = をとる. A を x に作用させると, y Ax = xa1 + ya2 = kxa2 + ya2 = (kx + y) a2 より, a2 に平行なベクトルに移る. すなわち, 任意のベクトルが A の列ベクトルに平行な向きのベクトルに変換される. §3. 置換 定義 2.3.1 n ∈ N に対し, 集合 M = {1, 2, . . . , n} を考える. M から M への全単射 (通常, σ で表す) を置換 (permutation) という. こ れを次のように表す. ( 1 2 ... σ= σ(n) σ(n) . . . n σ(n) ) Example 2.3.2 1 置換 σ = 3 2 2 Example 2.3.3 3 置換 σ = 2 3 は σ(1) = 3, σ(2) = 2, σ(3) = 1 である. 1 2 4 3 1 1 は σ(1) = 4, σ(2) = 3, σ(3) = 2, σ(4) = 1 である. 4 Remark 2.3.4 M の全ての元を動かさない置換を単位置換 (identity permutation) と呼ぶ. 1 2 . . . n である. 単位置換を ε とすると, ε = 1 2 ... n 定義 2.3.5 置換 σ, τ の積 (product) σ·τ を σ·τ(i) = σ(τ(i)) (合成写像) で定義する. Example 2.3.6 1 2 σ = 2 1 1 2 3 , τ = 3 1 3 3 とする. 2 σ·τ(1) = σ (τ(1)) = σ(3) = 3 σ·τ(2) = σ (τ(2)) = σ(1) = 2 σ·τ(3) = σ (τ(3)) = σ(2) = 1 τ·σ(1) = τ (σ(1)) = τ(2) = 1 τ·σ(2) = τ (σ(2)) = τ(1) = 3 τ·σ(3) = τ (σ(3)) = τ(3) = 2 であるから, ( ) ( 1 2 3 1 2 σ·τ = , τ·σ = 3 2 1 1 3 3 2 ) である. Remark 2.3.7 Example 2.3.6 からも分かるように, 一般に置換の積は可換でない. Remark 2.3.8 置換は全単射なので逆写像が存在する. 定義 2.3.9 置換 σ の逆写像を σ−1 と表す. Example 2.3.10 1 置換 σ = 3 2 1 3 1 3 −1 に対し, σ = 2 1 2 Remark2.3.11 1 置換 σ = σ(1) 2 ... σ(2) ... σ(1) n −1 に対し, σ = σ(n) 1 Remark 2.3.12 任意の置換 σ に対し, σ·σ−1 = σ−1 ·σ = ε 定義 2 1 2 3 = である. 3 2 3 1 ( σ(2) ... 2 ... σ(n) である. n ) εは単位置換 である. 2.3.13 M = {1, 2, . . . , n} 上の置換 ( σ= k1 k2 k2 k3 ... ... kr−1 kr kr k1 ... ... kr+1 kr+1 kn kn ) を巡回置換と呼び, これを σ = (k1 , k2 , . . . , kn ) と表す. Example 2.3.14 M = {1, 2, 3, 4, 5, 6} に対し, 巡回置換 σ = (1, 2, 4) をとると, ( ) ( 1 2 4 3 5 6 1 σ= = 2 4 1 3 5 6 2 2 4 3 3 4 1 5 5 6 6 ) である. すなわち, σ は 1, 2, 4 は一つずつずれ, 3, 5, 6 はそのままの置換である. 定理 2.3.15 任意の置換は共通の整数を含まない巡回置換の積として表される. Example 2.3.16 1 置換 σ = 3 2 3 4 5 6 7 6 4 1 2 5 8 8 を巡回置換の積で表せ. 7 まず, 1 に繰り返し σ を施すと, 1 → 3 → 4 → 1 となり, 1, 3, 4 で循環することが分かる. 次に, 1, 3, 4 でない数, 例えば, 2 に繰り返し σ を施すと, 2 → 6 → 5 → 2 となり, 2, 6, 5 で循環することが分かる. さらに, 1, 3, 4, 2, 6, 5 でない数, 例えば, 7 に繰り返し σ を施すと, 7 → 8 → 7 となり, 7, 8 で循環することが分かる. 以上より, σ = (1, 3, 4)(2, 5, 6)(7, 8) として巡回置換の積で表される. Remark 2.3.17 巡回置換の積は可換である. Example 2.3.16 の場合, σ をなす巡回置換 (1, 3, 4), (2, 5, 6), (7, 8) は入れ替えても同値である. すなわち, σ =(1, 3, 4)(2, 5, 6)(7, 8) =(1, 3, 4)(7, 8)(2, 5, 6) =(2, 5, 6)(1, 3, 4)(7, 8) =(7, 8)(1, 3, 4)(2, 5, 6) =(2, 5, 6)(7, 8)(1, 3, 4) =(7, 8)(2, 5, 6)(1, 3, 4) である. 定義 2.3.18 置換のうち, 2 つの元のみを入れ替える置換を互換 (transposition) と呼び, (i, j) で表す. Remark 2.3.19 互換は 2 つの元を循環させる巡回置換に等しい. 定理 2.3.20 任意の巡回置換は互換の積として表される. Example 2.3.21 巡回置換 σ = (1, 2, 3, 4) を互換の積として, σ = (3, 4)(2, 3)(1, 2) などと表される. Remark 2.3.22 Example 2.8 の場合, 巡回置換 σ は互換の積として, σ = (1, 2)(1, 3)(1, 4) としても表される. すなわち, 一般に巡回置換を互換の積で表す表し方は一意ではない. Remark 2.3.23 互換の積は非可換である. Remark 2.3.22 より, 巡回置換は互換の積としての一意性はない. しかし, かけ合わされる互換の個数の偶奇に一意性をも つ. すなわち, 次の定理が成り立つ. 定理 2.3.24 置換を互換の積で表すとき, その互換の個数が偶数個であるか奇数個であるかは, はじめに与えられた置換によって決 まり, 互換の積として表す表し方によらない. Example 2.3.25 Example 2.3.20, Remark 2.3.21 より, 巡回置換 σ = (1, 2, 3, 4) は互換の積として, σ = (3, 4)(2, 3)(1, 2) = (1, 2)(1, 3)(1, 4) などと表される (他にも表し方はある) が, 確かに互換の個数は奇数である. 定義 2.3.26 σ が m 個の互換の積として表されるとき, sgn (σ) を { sgn (σ) = ( ) 1 : m : 偶数 ( ) −1 : m : 奇数 と定める. sgn (σ) を σ の符号といい, sgn (σ) = 1 となるとき, σ を偶置換 (even permutation), sgn (σ) = −1 となるとき, σ を奇置換 (odd permutation) という. Example 2.3.27 単位置換 ε は互換の積の個数は常に偶数なので, sgn (ε) = 1 である. §4. 一般の行列式 いまみてきた置換を用いて, 一般の行列式を定義する. 定義 2.4.1 σ を {1, 2, . . . , n} の置換全体の集合を S n とする. n 次正方行列 A = (ai j ) に対し, |A| = ∑ sgn (σ) a1σ(1) a2σ(2) . . . anσ(n) σ∈S n を A の行列式 (determinant) という. Example 2.4.2 1 2 1 2 , である. n = 2 の場合を考える. S 2 は {1, 2} の置換全体の集合であるから S 2 = 1 2 2 1 1 2 , σ1 = 1 2 とすると, ε = 2 1 1 2 ε は単位置換なので, sgn (ε) = 1, σ1 = (2, 3) なので, sgn (σ1 ) = −1 である. よって, |A| = ∑ sgn (σ) a1σ(1) a2σ(2) σ∈S 2 =sgn (ε) a1ε(1) a2ε(2) + sgn (σ1 ) a1σ1 (1) a2σ1 (2) =a11 a22 − a12 a21 Example 2.4.3 n =3 の場合を考える 2, 3} の置換全体の集合であるから . S 3 は {1, 1 2 3 1 2 3 1 2 3 1 2 3 1 2 , , , , Sn = 1 2 3 1 3 2 2 1 3 3 1 2 2 3 1 2 3 1 2 3 1 2 3 , σ3 = 1 2 , σ2 = , σ1 = ε = 3 1 2 1 3 1 3 2 1 2 3 ε は単位置換なので, sgn (ε) = 1, 3 , 1 3 , 2 3 である. 2 1 1 2 1 2 3 , σ5 = σ4 = 3 2 2 3 1 1 3 2 3 とすると, 1 σ1 = (2, 3) (奇数個の互換の積) なので, sgn (σ1 ) = −1 σ2 = (1, 2) (奇数個の互換の積) なので, sgn (σ2 ) = −1 σ3 = (2, 3)(1, 2) (偶数個の互換の積) なので, sgn (σ3 ) = 1 σ4 = (1, 3)(1, 2) (偶数個の互換の積) なので, sgn (σ4 ) = 1 σ5 = (1, 3) (奇数個の互換の積) なので, sgn (σ5 ) = −1 である. よって, |A| = ∑ sgn (σ) a1σ(1) a2σ(2) a3σ(3) σ∈S 3 =sgn (ε) a1ε(1) a2ε(2) a3ε(3) + sgn (σ1 ) a1σ1 (1) a2σ1 (2) a3σ1 (3) + sgn (σ2 ) a1σ2 (1) a2σ2 (2) a3σ2 (3) + sgn (σ3 ) a1σ3 (1) a2σ3 (2) a3σ3 (3) + sgn (σ4 ) a1σ4 (1) a2σ4 (2) a3σ4 (3) + sgn (σ5 ) a1σ5 (1) a2σ5 (2) a3σ5 (3) =a11 a22 a33 + a12 a23 a31 + a13 a21 a32 − a11 a23 a32 − a13 a22 a31 − a12 a21 a33 定理 2.4.4 第 1 列が第 1 成分を除いて全て 0 である n 次正方行列 A = (ai j ) に対し, a11 0 | A | = . .. 0 a12 a22 .. . an2 ... ... .. . ... a1n a22 a2n . .. = a11 .. . an2 ann ... .. . ... a2n .. . ann が成り立つ. ⟨ 証明 ⟩ 行列式の定義を用いる. a11 0 . .. 0 a12 a22 .. . an2 ... ... .. . ... a1n a2n .. . ann ∑ = sgn (σ) a1σ(1) a2σ(2) . . . anσ(n) σ∈S n ∑ = sgn (σ) a11 a2σ(2) . . . anσ(n) (∵ k = 2, 3, . . . , n に対し, ak1 = 0) σ∈S n , σ(1)=1 ∑ = a11 sgn (σ) a2σ(2) . . . anσ(n) σ∈S n , σ(1)=1 a22 = a11 ... an2 ... .. . ... a2n .. . ann (∵ σ ∈ S n , σ(1) = 1 は {2, . . . , n} の置換全体の集合) Example 2.4.5 3 2 4 1 2 0 1 2 = 3 = −3 1 1 0 1 1 Remark 2.4.6 定理 2.4.4 は行列式を求めるために非常に有効な方法である. しかし, これを用いるには, a21 = a31 = · · · = an1 = 0 であるこ とが必要なので, この形に変形する必要がある. 次の定理はその変形に関する定理である. 定理 2.4.7 (1) 隣り合う 2 行を入れ替えると行列式の値は −1 倍になる. (2) 任意の行を c 倍すると, 行列式の値は c 倍になる. (3) 任意の行に他の行の何倍かを加えても行列式の値は変わらない. また, 上の (1) ∼ (3) は行を列に読み替えても正しい. Example 2.13 3 −2 5 2 −5 −1 6 4 2 −3 2 3 1 3 2 4 =2 10 1 −3 2 1 0 =2 0 0 1 0 −11 −1 0 −11 −5 4 = 2 3 2 5 1 0 11 9 2 3 2 5 −11 −1 −11 −1 −14 = 2 −11 −5 −11 −5 −6 1 9 11 9 17 −2 −5 3 2 5 −1 2 3 −14 0 1 −6 = −2 5 0 0 17 −14 −1 −6 = 22 −1 1 17 −11 3 −11 11 −1 −5 9 −14 5 −6 17 −14 1 −6 = 22 1 1 17 −1 2 −5 9 1 5 9 14 6 17 1 1 = 22 4 1 6 1 定理 1 1 1 5 17 = 22 0 4 9 0 8 14 4 −8 = 22·1 8 3 −8 = 22·(4·3 − (−8)·8) = 1672 3 2.3.14 任意の正方行列 A に対し, t A = | A | が成り立つ. 定理 2.3.15 任意の n 次行列 A, B に対し, | AB | = | A | | B | が成り立つ. §4. 余因子 定義 2.4.1 正方行列 A に対して, A の第 i 行と第 j 列を取り除いて出来る行列を Ai j と表す. Remark 2.4.2 このあたりは本によって表記が異なるので注意! Example 2.4.3 1 2 A = 4 5 7 8 3 6 とすると, 例えば, 9 [ A12 ] [ ] 4 6 1 2 = , A33 = 7 9 4 5 である. 定義 2.4.4 正方行列 A に対し, (−1)i+ j Ai j を A の (i, j) 余因子 (cofactor) という. Remark 2.4.5 以下, (i, j) 余因子 (−1)i+ j Ai j を a∗i j と書くことにする. Example 2.4.6 1 2 A = 4 5 7 8 3 6 とすると, 例えば, 9 a∗12 a∗33 である. 4 6 = 6, = (−1) | A12 | = (−1) 7 9 1 2 = −3 = (−1)3+3 A23 = (−1)6 4 5 1+2 3 定理 2.4.7 n 次行列の行列式は次の (1), (2) のように展開できる. この展開のことを余因子展開という. (1) 行に関して (2) 列に関して a11 . .. a i1 .. . an1 a11 a21 . .. an1 ... .. . ... .. . a12 .. . ai2 .. . ... an2 ... ... .. . ... a1i a2i .. . ani ... ... .. . ... a1n .. . ain .. . ann = a a∗ + a a∗ + · · · + a a∗ (i = 1, 2, . . . , n) i1 i1 i2 i2 in in a1n a2n ∗ ∗ ∗ .. = a1i a1i + a2i a2i + · · · + ani ani (i = 1, 2, . . . , n) . ann Remark 2.4.8 定理 2.4 は定理 2.8 の (2) の i = 1 かつ a2i = · · · = ani = 0 の特別な場合である. Example 2.4.9 ここでは全く実用的ではないが, Example 2.13 は定理 2.8 を用いて次のようにも計算できる. 3 −2 2 −5 6 2 −3 2 5 −1 4 3 1 1 −5 −1 4 −2 5 1 −2 5 1 −2 5 4 =(−1)1+1 3 6 4 10 + (−1)1+2 2 6 4 10 + (−1)1+3 2 −5 1 4 + (−1)1+4 (−3) −5 −1 4 10 2 3 2 2 3 2 2 3 2 6 4 10 2 1 −5 −1 4 −2 5 1 −2 5 1 −2 5 4 10 − 2 6 4 10 + 2 −5 −1 4 + 3 −5 −1 4 =3 6 2 3 2 2 3 2 2 3 2 6 4 10 ( 4 10 ) + (−1)1+2 6 −1 4 + (−1)1+3 2 −1 4 =3 (−1)1+1 (−5) 3 2 3 2 4 10 ) ( 4 10 1 1+2 5 1 1+3 5 − 2 (−1)1+1 (−2) + (−1) 6 + (−1) 2 3 2 4 10 3 2 ) ( −1 4 5 1 1 1+1 1+2 1+3 5 + 2 (−1) (−2) + (−1) (−5) + (−1) 2 3 2 3 2 −1 4 ) ( −1 4 5 1 1 1+1 1+2 1+3 5 + 3 (−1) (−2) + (−1) (−5) + (−1) 6 4 10 4 10 −1 4 = · · · = 1672 §5. 逆行列とクラメールの公式 定理 2.5.1 n 次行列 A に対し, 次の (1) ∼ (3) は同値である. (1) A は正則. (2) rank(A) = n (3) |A| , 0 これを満たすとき, さらに次が成り立つ. A−1 ∗ a11 1 . . = | A | .∗ a1n ... .. . ... a∗n1 .. . a∗nn 定理 2.5.2 (クラメール (Cramer) の公式) [ ] A を正則な n 次行列とする. A = a1 , . . . , an , x = xi = x1 .. . xn とおくとき, 連立方程式 Ax = b の解は, 次で与えられる. 1 det [ a1 , . . . , ai−1 , b, ai+1 , . . . , an ] (i = 1, . . . , n) |A| Example 2.5.3 ax + by + cz = 1 x, y, z に関する連立方程式 bx + cy + az = 0 cx + ay + bz = 0 係数行列を A とする. a b | A | = b c c a を解け. c a b = − a3 − b3 − c3 + 3abc { } 1 = − (a + b + c) (a − b)2 + (b − c)2 + (c − a)2 2 a + b + c = 0 とすると, 3 式足して (a + b + c)(x + y + z) = 1 ⇔ 0 = 1 となり不適. a = b = c とすると, (第 1 式) ⇔ ax + ay + az = 1, (第 2 式) ⇔ ax + ay + az = 0 となり不適. よって, | A | , 0 である. したがって, Cramer の公式より, 1 x= |A| である. y= 1 |A| z= 1 |A| 1 0 0 a b c a b c c a2 − bc a = 3 3 3 b a + b + c − 3abc 1 c b2 − ca 0 a = 3 3 3 0 b a + b + c − 3abc b 1 c2 − ab c 0 = 3 3 3 a 0 a + b + c − 3abc b c a 3. 線形空間 (ベクトル空間) §1. 線形結合 c1 , c2 , c3 ∈ R とする. a, b ∈ R に関する連立方程式 1 0 [ ] c1 a 0 1 b = c2 0 0 c3 が解 (a, b) をもつ c1 , c2 , c3 の条件を考える. 定理 1.2.1 より, 解をもつ必要十分条件は c3 = 0 と分かるが, ここでは他の見方をする. 1 0 [ ] 1 0 a 0 1 0 = a + b b 1 0 0 0 0 であるから, 左辺は a, b を係数とするベクトルの和とみることができる. 定理 3.1.1 n 元 1 次連立方程式 x1 a1 + x2 a2 + · · · + xn an = b (x1 , x2 , . . . , xn ∈ R) が解をもつ条件は, S = {x1 a1 + x2 a2 + · · · + xn an | x1 , x2 , . . . , xn ∈ R} (ベクトルの和全体の集合) に対し, b ∈ S となることである. Example 3.1.2 c1 冒頭の例で考える. c = c2 とすると, c3 0 1 1 0 [ ] a 0 0 1 + b = c ⇔ a 1 = c b 0 0 0 0 であるから, 0 1 e1 = 0 , e2 = 1 0 0 図3 とすると, Eample 3.1.2 S = { ae1 + be2 | a, b ∈ R } である. e1 , e2 は図 3 のように, それぞれ x 軸, y 軸に平行なベクトルであり, a, b は任意の実数をとるので, ae1 + be2 を位置ベクトル の終点と同一視すれば, S は xy 平面となることが分かる. すなわち, S は z = 0 である. ae1 + be2 = c はベクトル ae1 + be2 とベクトル c の一致を表すので, ae1 + be2 が張る xy 平面上に c があれば良い. よって, c の第 3 成分が 0 であれば, うまく a, b をとって ae1 + be2 = c とできる. したがって, c3 = 0 である. Remark 3.1.3 いま, S は次の (1), (2) を満たしている. (1) a1 , a2 ∈ S ⇒ a1 + a2 ∈ S (和に関して閉じている) (2) a ∈ S, k ∈ R ⇒ ka ∈ S (スカラー倍に閉じている) このとき, S をベクトル空間という. 次は, これを一般化する. §2. 線形空間 定義 3.2.1 数の集合 K に四則演算が定義されていて, そのすべてで K が閉じている場合 K を体 (field) という. すなわち, 次の (1) ∼ (4) を満たす. ただし, (4) については y , 0 とする. (1) x, y ∈ K ⇒ x + y ∈ K (2) x, y ∈ K ⇒ x − y ∈ K (3) x, y ∈ K ⇒ x × y ∈ K x x, y ∈ K ⇒ ∈K y (4) Remark 3.2.2 この講義では実数体 R, 複素数体 C のみ扱う. 定義 3.2.3 集合 V と体 K に対し, 次の (1), (2) を満たすとする. (1) u, v ∈ V ⇒ u + v ∈ V (2) u ∈ V, c ∈ K ⇒ cu ∈ V さらに, 次の (3) ∼ (10) を満たすとき, V を体 K 上の線形空間 (ベクトル空間, linear space) と呼び, V の元をベクトルと いう. u, v, w ∈ V a, b ∈ K (3) u + v = v + u (交換法則) (4) (u + v) + w = u + (v + w) (結合法則) (5) ∃o u + o = o + u = u (零ベクトル o の存在) (6) (ab)u = a(bu) (7) (a + b)u = au + bu (8) a(u + v) = au + av (9) 1u = u (10) 0u = o Remark 3.2.4 任意のベクトルに対し, 逆ベクトル (inverse vector) (ベクトル u に対し, u + u′ = o となる u′ ) が存在する. 実際, 任意のベ クトル u に対し, o = 0u = (1 − 1)u = 1u + (−1)u = u + (−1u) となるから, u の逆ベクトル −1u が存在する. 逆ベクトルを −u と書く. Remark 3.2.5 簡単のため, 以後, 特に断らない限り K = R とする. Remark 3.2.6 定義 3.2.3 の (1) ∼ (10) は全て覚える必要は無い. 次の (1) ∼ (3) でしっかりと理解すること. (1) 和に関して閉じている. (2) スカラー倍について閉じている. (3) 零ベクトル o が具体的に何かが分かる. Example 3.2.7 V = Rn は線形空間である. a1 . n 実際, a, b ∈ R , c ∈ R とし, a = .. an b1 . , b = .. bn とすると, a1 + b1 .. a + b = . an + bn ca1 0 . ∈ V, ca = .. ∈ V, o = ... can 0 であることが分かり, 和, スカラー倍に関して閉じていて, o が具体的に分かる. Example 3.2.8 ( ) V = Mm×n (R) 実数成分の (m, n) 行列 は線形空間である. a11 . . . a1n b11 .. . .. .. 実際, A, B ∈ V, c ∈ R とし, A = .. , B = . . . am1 . . . amn bm1 a11 + b11 .. A + B = . am1 + bm1 ... .. . ... ... .. . b1n .. . ... bmn ca11 ∈ V, cA = ... cam1 amn + bmn a1n + b1n .. . とすると, ... .. . ... ca1n .. . camn 0 . . . ∈ V, o = ... . . . 0 ... 0 .. . 0 であることが分かり, 和, スカラー倍に関して閉じていて, o が具体的に分かる. Example 3.2.9 { } R [ x ]2 = c0 + c1 x + c2 x2 c0 , c1 , c2 ∈ R (2 次式の多項式の空間) は線形空間である. (1) ∼ (3) を満たしていることを確 かめよ. 定義 3.2.10 線形空間 V の部分集合 W (W ⊂ V) が次の (1), (2) を満たすとき, W を V の部分空間 (subspace) という. (1) (2) u, v ∈ W ⇒ u + v ∈ W (和に関して閉じている) u ∈ W, c ∈ R ⇒ cu ∈ W (スカラー倍に関して閉じている) Remark 3.2.11 (2) よりただちに o ∈ W であることが分かる. このことは, 重要なので必ず覚えておくこと. Remark 3.2.12 W も線形空間である. W が線形空間の定義を満たしていることを確かめよ. Example 3.2.13 x (平面 z = 0) は R3 の部分空間である. z = 0 S= y z b1 a1 実際, a, b ∈ S, c ∈ R とし, a = a2 , b = b2 とすると, 0 0 ca1 a1 + b1 a + b = a2 + b2 ∈ S, ca = ca2 0 0 ∈ S を満たす. Example 3.2.14 { } V = x ∈ Rn | Ax = o, A : (m, n) 行列 は Rn の部分空間である. a1 b1 実際, a, b ∈ S, c ∈ R とし, a = a2 , b = b2 とすると, a3 b3 A (a + b) = Aa + Ab = o + o = o, A (ca) = cAa = co = o より, a + b, ca ∈ S を満たす. Example 3.2.15 x x 2 3 −1 0 は R3 の部分空間である. W= y = y 0 1 −2 3 z z 実際, [ ] [ ] [ ] [ ] [ 2 3 −1 0 1 −2 3 0 1 −2 3 0 1 −2 3 0 1 → → → → 1 −2 3 0 2 3 −1 0 0 7 −7 0 0 1 −1 0 0 0 1 1 0 −1 0 より, (x, y, z) = (−c, c, c) (c ∈ R) なので, −1 −c x 1 c y c ∈ R c = c ∈ R = x = −c, y = c, z = c, c ∈ R W= 1 c z −1 −1 であるから, a, b ∈ W, c ∈ R とし, a = a 1 , b = b 1 とすると, 1 1 −1 −1 a + b = (a + b) 1 ∈ W, ca = ca 1 ∈ W 1 1 を満たす. §3. R3 における直線の式 直線 L があって, L に平行なベクトルを L の方向ベクトルという. l L が点 Q(a, b, c) を通り, L の方向ベクトルが n = m (lmn , 0) である n とする. L 上の任意の点 P(x, y, z) に対し, −−→ −−→ −−→ OP = OQ + QP −−→ が成り立つ. いま, 実数 t を用いて, QP = tn と表せるので, l x a y = b + t m (直線上の点 P のパラメータ表示) n c z が成り立つ. これより, L の直線の式は, t を消去することで, x−a y−b z−c = = l m n となる. l まとめると, 点 Q(a, b) を通り, 方向ベクトルが m (lmn , 0) の直線の式は, n l (x − a) + m (y − b) + n (z − c) = 0 図 4 直線の式 ] となる. Remark 3.3.1 この直線の式は lmn , 0 の場合なので, 次に lmn = 0 の場合を考える. 例えば, l = 0, mn , 0 ならば, L は x 軸方向の向きを持たないので, L は平面 x = a 上にある. よって, x = a, y−b z−c = m n である. 他の場合は各自考えよ. §4. R3 における平面の式 l → − 平面 S は点 Q(a, b, c) を含み, n = m を法線ベクトルにもつとすると, n x − a → − −−→ n は S に平行なベクトル QP = y − a と直交するので, z−c l x − a m · y − a = 0 ⇔ l (x − a) + m (y − b) + n (z − c) = 0 z−c n l まとめると, 点 Q(a, b, c) を含み, 法線ベクトルが m の平面の式は, n 図5 平面の式 l (x − a) + m (y − b) + n (z − c) = 0 となる. §5. 基底と次元 定義 3.5.1 線形空間 V のベクトル v1 , v2 , . . . , vn の線形結合全体, すなわち, W = { c1 v1 + · · · + cn vn | c1 , . . . , cn ∈ R } を, v1 , . . . , vn が生成する (generate) 空間, または, 張る (span) 空間, といい W = span (v1 , . . . , vn ) と表す. Remark 3.5.2 W は V の部分空間なので, W も線形空間である. 定義 3.5.3 ベクトル v1 , . . . vn に対し, c1 v1 + · · · + cn vn = 0 ⇒ c1 = · · · = cn = 0 が成り立つとき, v1 , . . . vn は線形独立 (一次独立, linearly independent) である, という. v1 , . . . vn が線形独立でないとき, v1 , . . . vn は線形従属 (一次従属, linearly dependent) である, という. 定義 3.5.4 線形空間 V のベクトル v1 , . . . , vn が V の基底 (basis) であるとは, 次の (1), (2) を満たすことである. (1) V = span (v1 , . . . , vn ) (2) v1 , . . . , vn が線形独立である. さらに, 基底に含まれるベクトルの個数 n を V の次元 (dimension) といい, dimV と表す. Remark 3.5.5 本によっては張ることを span でなく V =< v1 , . . . , vn > と表している Example 3.5.6 V = R2 で考える . 1 0 a1 例えば, e1 = , e2 = とすると, 任意の a = 0 1 a2 ∈ R2 に対し, a = a1 e1 + a2 e2 より, R2 = span (e1 , e2 ) であるし, e1 , e2 は線形独立であるから, ⟨e1 , e2 ⟩ は V の基底である. 1 2 a1 ∈ R2 に対し, また v1 = v2 = とすると, 任意の a = 2 1 a2 a= 2a1 − a2 2a2 − a1 v1 + v2 3 3 より, R2 = span (v1 , v2 ) であるし, v1 , v2 は線形独立であるから, ⟨v1 , v2 ⟩ は V の基底である. Remark 3.5.7 Example 3.5.6 より, 基底は一つとは限らないことが分かる. Remark 3.5.8 Example 3.5.6 の前半の基底 ⟨e1 , e2 ⟩ のように, Rn は基底 ⟨e1 , e2 , . . . , en ⟩ をもつ. この Rn の基底 ⟨e1 , e2 , . . . , en ⟩ を標準基底という. Example 3.5.9 Example 3.5.6 では, 基底 ⟨e1 , e2 ⟩, ⟨v1 , v2 ⟩ はともに 2 個のベクトルからなる. では, R2 の基底の個数が 2 個以外となることもあるのだろうか. ここでは, R2 をベクトル v1 , . . . , vn ∈ R2 を用いて, R2 = span (v1 , . . . , vn ) と表すことを考える. [ 1 ] n = 1 のとき, a a を v1 の線形結合で表せるはずである. v1 = とする. このとき, R2 = span (v1 ) となるので, R2 の元である b+1 b a = c1 v1 となる c1 が存在する. よって, b+1 a a = c1 となる c1 は存在しない. (∵ 第 1 成分より c1 = 1 となるが, c1 = 1 は第 2 成分で矛盾. ) しかし, b b+1 よって, ただ 1 つのベクトルで R2 を張ることはできない. n =2 のとき , 0 1 v1 = e1 = , v2 = e2 = とする. (v1 , v2 は線形独立) 1 0 a a このとき, R2 の任意の元 は = av1 + bv2 と表せる. b b [2] よって, R2 = span (v1 , v2 ) である. いま, v1 , v2 は線形独立なので, 上の定義より ⟨v1 , v2 ⟩ は R2 の基底である. [3] n ≥ 3 のとき, 1 0 v1 = e1 = , v= e2 = とする. (他のベクトル v3 , . . . vn は任意にとる) 0 1 a a 2 このとき, R の任意の元 は = av1 + bv2 + 0v3 + · · · + 0vn と表せる. b b よって, R2 = span (v1 , . . . , vn ) である. しかし, [ 2 ] の場合とは違って, v1 , . . . , vn は線形独立ではないから, 基底ではない. 定理 3.5.10 v1 , . . . vn が線形従属 ⇔ いずれかのベクトル vi が他の (n − 1) 個のベクトルの線形結合となる. 定理 3.5.11 n 列の行列 A に対し, 連立方程式 Ax = oが自明な解のみ持つ. ⇔ rank(A) = n Example 3.5.12 Example 3.5.9 で, R2 上の 3 個以上のベクトルは線形従属であることをみたが, 定理 3.5.11 を用いても線形従属であるこ とが分かる. c ] 1 R2 の 3 個のベクトル a, b, c をとり, 線形関係 c1 a + c2 b + c3 c = o ⇔ a , b , c c2 = o を考える. c3 いま, A は (2, 3) 行列であるから, rank (A) ≤ 2 < 3 なので, rank (A) = 3 とならない. c1 c1 よって, 定理 3.5.12 より, 非自明解 c2 をもつ. すなわち, c2 , 0 となるので, 線形従属である. c3 c3 [ Example 3.5.13 3 1 2 1 0 1 , v2 = , v3 = は線形独立か. v1 = 2 1 −3 2 0 1 A = [ v1 , v2 , v3 ] とおく. 2 1 A = −3 1 1 3 0 1 0 1 → 1 2 0 0 0 2 1 0 1 0 1 0 1 1 → 5 0 0 1 1 0 0 0 1 0 1 1 → 4 0 0 1 1 0 0 0 0 1 0 0 → 0 0 0 1 0 1 0 0 0 0 1 0 より, rank(A) = 3 である. また, A は 3 列の行列である. よって, v1 , v2 , v3 は線形独立. §6. 線形独立なベクトルの最大個数 定義 3.6.1 ベクトルの集合 X の中に線形独立なベクトルが r 個存在して, どの r + 1 個のベクトルを取っても, 線形従属となると き, r を X の線形独立なベクトルの最大個数, という. Remark 3.6.2 定理 3.6.1 は次のようにも考えられる. v1 , . . . vn の線形独立なベクトルの最大個数が r ⇔線形独立なベクトルが r 個あり, 他の (n − r) 個はその線形結合で書ける. Example 3.6.3 次の a1 , a2 , . . . , a5 の線形独立なベクトルの最大個数 r と, その r 個の線形独立なベクトルを求めよ. 1 1 1 −2 −1 1 2 3 −4 −4 , a = , a = , a = a1 = , a2 = 3 0 3 −3 4 1 5 7 0 −1 −2 −1 0 [ ] A = a1 , a2 , a3 , a4 , a5 とおく. 行基本変形では, 各列ベクトルの線形関係は保たれるので, 1 0 行基本変形 A −−−−−−−−→ 0 0 [ 0 1 0 0 −1 0 −2 0 0 1 0 0 2 −1 = B 1 0 ] より, B = b1 , b2 , b3 , b4 , b5 とすると, a1 , . . . a5 の線形関係と b1 , . . . , b5 の線形関係は同じである. いま, b1 , b2 , b3 は線形独立で, { である. よって, a1 , a2 , a3 は線形独立で, { b3 = −b1 − 2b2 b5 = 2b1 − b2 + b4 a3 = −a1 − 2a2 a5 = 2a1 − a2 + a4 と分かる. Remark 3.6.4 列基本変形では, 各列ベクトルの線形関係は保たれないので Example 3.11 の基本変形は行基本変形でなければならない. Remark 3.6.5 Example 3.6.3 より, (A の列ベクトルの, 線形独立なベクトルの最大個数) =(B の主成分の個数) =rank (A) となっていることが分かる. 定理 3.6.6 n 次正方行列 A に対し, 次の (1) ∼ (5) は同値である. (1) A が正則 (2) rank(A) = n (3) | A | , 0 (4) A の n 個の列ベクトルは線形独立 (5) A の n 個の行ベクトルは線形独立 定理 3.6.7 ベクトル空間 V の基底に含まれるベクトルの個数は, 基底の取り方によらず一定である. 定理 3.6.8 ベクトル空間 V の基底のベクトルの個数は, V に属する線形独立なベクトルの最大個数. §7. 列ベクトルでないベクトル いままで列ベクトル (すなわち Rn ) ばかり扱ってきたが, 列ベクトル以外はどう考えればよいだろうか. Example 3.7.1 ( 2 次正方行列の空間 V = M22 R 1 基底 : ⟨ 0 0 , 0 0 0 1 , 0 2 ) 0 0 1 0 , a b a, b, c, d ∈ R の基底と次元を求めよ. = c d 0 0 ⟩, dimV = 4 0 1 Example 3.7.2 { } 2 次以下の多項式空間 V = R [ x ]2 = c0 + c1 x + c2 x2 c0 , c1 , c2 ∈ R の次元と基底求めよ. 基底 : ⟨1, x, x2 ⟩, dimV = 3 Example 3.7.3 ベクトル v1 , . . . , vn がベクトル u1 , . . . , un の線形結合で表されるとき, vk = a1k u1 + · · · + ank un (k = 1, . . . , n) とおける ので, [ ] [ v1 , . . . , vn = a11 u1 + · · · + an1 un , . . . , ... a [ ] 11 . . = u1 , . . . , un . an1 . . . [ ] = u1 , . . . , un A a1n u1 + · · · + ann un a1n .. . ann =A ] と書ける. Remark 3.7.4 この Example 3.7.3 の表記に関して, 次の定理 3.7.5 は重要である. 定理 3.7.5 (n, m) 行列 A, 列ベクトル v1 , . . . , vm , u1 , . . . , un が [ ] [ ] v1 , . . . , vm = u1 , . . . , un A を満たすとする. このとき u1 , . . . , un が線形独立なら, v1 , . . . , vm の線形関係は A の列ベクトルの線形関係と等しい. ⟨ 証明 ⟩ v1 , . . . , vm の線形関係は c1 [ ] c2 0 = c1 v1 + c2 v2 + · · · + cn vm ⇔ 0 = v1 , . . . , vn . .. cn [ ] = v1 , . . . , vn c [ ] ⇔ 0 = u1 , . . . , un Ac [ ] [ ]−1 となる. u1 , . . . , un は線形独立なので, u1 , . . . , un は正則だから, 両辺に左から u1 , . . . , un をかけて, c ] .1 0 = Ac ⇔0 = a1 , . . . , an .. cn ⇔0 = c1 a1 + . . . cn an [ より,{v1 , . . . , vm } の線形関係と {a1 , . . . , an } の線形関係は等しい. 系 3.7.6 n 次正方行列 A, n 次列ベクトル v1 , . . . , vn , u1 , . . . , un が [ ] [ ] v1 , . . . , vn = u1 , . . . , un A を満たすとする. u1 , . . . , un が線形独立なとき, 次が成り立つ. v1 , . . . , vn が線形独立 ⇔ A が正則 Example 3.7.7 V = R [ x ]2 の要素 f1 , f2 , f3 を, f1 (x) = 1 + x, f2 (x) = 1 + x2 , f3 (x) = 3 + 2x + x2 で定める. f1 , f2 , f3 の線形独立なベクト ルの最大個数を求めよ. [ ] [ f1 (x) , f2 (x) , f3 (x) = 1 + x , 1 + x2 , [ ] 1 = 1 , x , x2 1 0 ] 3 + 2x + x2 1 3 [ 0 2 = 1 , x , x2 1 1 ] 1 1 0 1 0 1 3 2 A 1 であり, A を行基本変形で簡約化すると, A の列ベクトルの線形関係は保たれ, 1 A = 1 0 1 0 1 3 1 2 → 0 0 1 より, b3 = 2b1 + b2 なので, [ ] a3 = 2a1 + a2 ( ( 0 1 0 2 1 = B 0 ) b1 , b2 は線形独立 a1 , a2 は線形独立 ) である. 1 , x , x2 は線形独立で, 定理 3.7 より, a1 , a2 , a3 と f1 (x), f2 (x), f3 (x) の線形関係も保たれているので, f3 (x) = 2 f1 (x) + f2 (x) ( f1 , f2 は線形独立 ) よって, f1 , f2 , f3 の線形独立なベクトルの最大個数は 2 である. §8. 線形写像 定義 3.8.1 線形空間 U, V に対し, 写像 T : U → V が次の 2 条件を満たすとき, T を線形写像 (linear mapping) という. (1) T (a + b) = T (a) + T (b) (2) T (ca) = cT (a) (a ∈ U) (a, b ∈ U) Remark 3.8.2 線形空間 U, V に対し,T : U → V が線形写像ならば, 零ベクトル o ∈ U は零ベクトル o′ ∈ V に移される. 実際, T (o + o) = T (o) + T (o) かつ T (o + o) = T (o) より, T (o) + T (o) = T (o) なので, T (o) = o′ Example 3.8.3 T : R → R を T : x 7→ 2x で定める. このとき T は線形写像である. 実際, R の任意の 2 元 x, y に対し, T (x + y) = 2 (x + y) = 2x + 2y = T (x) + T (y) T (cx) = 2cx = c × 2x = cT (x) より, 定義を満たす. 図 6 Example 3.8.3 Example 3.8.4 T : R → R を T (x) = x2 で定める. T は線形写像でない. 実際, T (1 + 1) = T (2) = 4 , 2 = 1 + 1 = T (1) + T (1) より, 定義を満たさない. 図7 Example 3.8.4 Example 3.8.5 T : R → R を T (x) = x + 1 で定める. T は線形写像でない. 実際, T (0) = 1 , 0 より, 定義を満たさない. 図 8 Example 3.8.5 Example 3.8.6 (m, n) 行列 A に対し, T A を T A : Rn → Rm を T A (x) = Ax で定める. T は線形写像である. 実際, Rn の任意の 2 元 x, y に 対し, T A (x + y) = A (x + y) = Ax + Ay = T A (x) + T A (y) T A (cx) = A (cx) = c × Ax = cT A (x) より, 定義を満たす. Remark 3.8.7 以後, 行列 A に対し T A と書けば, T A は T A (x) = Ax で定まる線形写像とする. 定義 3.8.8 線形空間 U, V に対し, U から V への写像 T を線形写像とする. このとき, Ker (T ) , Ima (T ) を定める. Ker (T ) = { u ∈ U | T (u) = o } Ima (T ) = { T (u) | u ∈ U } Ker (T ) , Ima (T ) をそれぞれ T の核 (Kernel), 像 (image) という. Remark 3.8.9 Ker (T ) , Im (T ) はそれぞれ U と V の部分空間である. Example 3.8.10 2 行列 A = 1 1 −1 1 3 4 0 1 0 −1 7 に対し, 線形写像 T A をとる. Ker (T A ) , Ima (T A ) の次元と基底を求めよ. 7 1 5 ⟨Ker (T A ) について ⟩ Ker (T A ) は T A (x) = o の解空間であるから, T A (x) = 2 −1 1 5 0 1 行基本変形により, A = 1 3 4 −1 7 → 0 1 0 1 7 1 0 T A (x) = o ⇔ x1 x2 x3 x4 x5 o を解く. 0 1 2 1 1 0 0 1 −1 −2 となるから, 0 0 = −c3 − 2c4 − c5 = −c1 + c2 − 2c3 = c3 = c4 = c5 (c3 , c4 , c5 ∈ R) である. よって, −c3 − 2c4 − c5 −c + c − 2c 3 4 5 c c , c , c ∈ R Ker (T A ) = 3 3 4 5 c 4 c5 −2 −1 −1 −2 1 −1 1 0 0 = c c , c , c ∈ R + c + c 3 4 5 3 4 5 1 0 0 0 0 1 −1 −1 −2 −2 1 −1 = span 1 , 0 , 0 0 1 0 1 =v3 0 =v2 0 =v1 である. いま, v1 , v2 , v3 は線形独立なので, Ker (T A ) の基底 : ⟨v1 , v2 , v3 ⟩, dim (Ker (T A )) = 3 ⟨Im (T A ) について ⟩ ( ) Im (T A ) は T A による R5 の移り先なので, T R5 を考える. { } Im (T A ) = Ax | x ∈ R5 = { x1 a1 + x2 a2 + x3 a3 + x4 a4 + x5 a5 | x1 , x2 , x3 , x4 , x5 ∈ R } = span (a1 , a2 , a3 , a4 , a5 ) である. A を行基本変形により簡約化すると, A の列ベクトルの線形関係が保たれる. B の列ベクトルの線形関係は, b3 = b1 + b2 b4 = 2b1 − b2 b5 = b1 + 2b2 b1 , b2 は線形独立 より, a3 = a1 + a2 a4 = 2a1 − a2 a5 = a1 + 2a2 a1 , a2 は線形独立 なので, Im (T A ) の基底 : ⟨a1 , a2 ⟩, dim (Im (T A )) = 2 Example 3.8.11 1 2 に対し, 線形写像 T A をとる. Ker (T A ) , Im (T A ) の次元と基底を求めよ. A = 2 4 ⟨Ker (T A ) について ⟩ Ker (T A ) は T A (x) = o の解空間であるから, T A (x) = o を解く. 行基本変形により, [ ] [ 1 2 0 1 2 → 2 4 0 0 0 0 0 ] より, x + 2y = 0. よって, y = c とおくと, x = −2c なので, {[ Ker (T A ) = −2c c ] } { [ ] } ([ ]) −2 −2 c ∈ R = c 1 c ∈ R = span 1 である. −2 ⟩, dim (Ker (T A )) = 1 よって, Ker (T A ) の基底 : ⟨ 1 ⟨Im (T A ) について ⟩ 1 2 1 1 2 Im (T A ) = span , = span ∵ , の線形独立なベクトルの最大個数は 1 2 4 2 2 4 1 よって, Im (T A ) の基底 : ⟨ ⟩, dim (Im (T A )) = 2 2 Example 3.8.12 0 0 0 A = 0 0 0 に対し, T A をとる. Ker (T A ) , Im (T A ) の次元と基底を求めよ. 0 0 1 ⟨Ker (T A ) について ⟩ Ker (T A ) は T A (x) = o の解空間であるから, x, y ∈ R, z = 0 c 1 c2 Ker (T A ) = 0 1 0 1 1 c1 , c2 ∈ R = span 0 , 0 + c c = c1 , c2 ∈ R 2 1 0 0 0 0 1 0 である. 1 0 よって, Ker (T a ) の基底 : ⟨ 0 , 1 ⟩, dim (Ker (T A )) = 2 0 0 (T ) ⟨Im A について ⟩ 0 Im (T A ) = span 0 である. 1 0 よって, Im (T A ) の基底 : ⟨ 0 ⟩, dim (Im (T A )) = 1 1 定理 3.8.13 (次元公式) 有限次元線形空間 U, V に対し, T : U → V が線形写像ならば, dim (Im (T )) + dim (Ker (T )) = dimU が成り立つ. ⟨ 証明 ⟩ Ker (T ) = r, Im (T ) = s, Ker (T ) の基底 : ⟨u1 , . . . ur ⟩, Im (T ) の基底 : ⟨v1 , . . . v s ⟩ とする. さらに, ur+1 , . . . , ur+s を T (ur+1 ) = v1 , . . . , T (ur+s ) = v s を満たすようにとる. ここで, {u1 , . . . ur+s } が U の基底であること を示せれば, dimU = r + s となり, 題意が示される. まず, U = span (u1 , . . . ur+s ) を示す. ∀u ∈ U T (u) ∈ V より, ∃b1 , . . . , b s ∈ R T (u) = b1 v1 + · · · + b s v s である. よって, T (u − b1 ur+1 − · · · − b s ur+s ) =T (u) − b1 T (ur+1 ) − · · · − b s T (ur+s ) =T (u − b1 v1 − · · · − b s v s ) =o なので, u − b1 ur+1 − · · · − b s ur+s ∈ Ker (T ) である. u − b1 ur+1 − · · · − b s ur+s ∈ U でもあるから, u − b1 ur+1 − · · · − b s ur+s = a1 u1 + · · · + a s ur ⇔ u = a1 u1 + · · · + a s ur + b1 ur+1 + · · · + b s ur+s つぎに, u1 , . . . ur+s が線形独立であることを示す. a1 u1 + · · · + b s ur + b1 ur+1 + · · · + b s ur+s = o を考える. 両辺に T を作用させて, T (a1 u1 + · · · + a s ur + b1 ur+1 + · · · + b s ur+s ) = T (o) ( ) ⇔T (b1 ur+1 + · · · + b s ur+s ) = T (o) ∵ ⟨u1 , . . . ur ⟩ は Ker (T ) の基底 ⇔b1 u1 + · · · + b s u s = o ⇔b1 = · · · = b s = 0 ⇒a1 = · · · = ar = 0 定義 3.8.14 線形空間 V, V ′ に対し, T : V → V ′ が線形独立であるとする. T が全単射のとき, V と V ′ は同型 (isomorphic) である, といい, V V ′ と表す. 定理 3.8.15 線形空間 V, V ′ に対し, 次が成り立つ. dimV = dimV ′ ⇒ V V ′ ⟨ 証明 ⟩ dimV = dimV ′ = n, V の基底 : ⟨v1 , . . . , vn ⟩, V ′ の基底 : ⟨u1 , . . . , un ⟩ とする. V の任意のベクトル c1 v1 + · · · + cn vn に対し, T : V → V ′ を T (c1 v1 + · · · + cn vn ) = c1 v′ 1 + · · · + cn v′ n と定める. この T が V から V ′ への全単射であることを示す. すなわち, T が次の (縲 縲 i ) ∼ (縲 iii 縲) を満たすことを示す. (2) T は線形写像である. ) ( T は全射である. ⇔ Im (T ) = V ′ (3) T は単射である. (T (a) = T (b) ⇒ a = b) (1) (1) の証明 a = c1 v1 + · · · + cn vn , b = d1 v1 + · · · + dn vn とする. T (a + b) =T ((c1 + d1 ) v1 + · · · + (cn + dn ) vn ) = (c1 + d1 ) v′ 1 + · · · + (cn + dn ) v′ n = (c1 v′ 1 + · · · + cn v′ n ) + (d1 v′ 1 + · · · + dn v′ n ) =T (a) + T (b) T (ca) =T (cc1 v1 + · · · + ccn vn ) =cc1 v′ 1 + · · · + ccn v′ n =c (c1 v′ 1 + · · · + cn v′ n ) =cT (a) (2) の証明 任意の v′ = c1 v′ 1 + · · · + v′ n ∈ V ′ に対し, v = c1 v1 + · · · + vn ∈ V とおくと, T (v) = v′ (3) の証明 a = c1 v1 + · · · + cn vn , b = d1 v1 + · · · + dn vn , T (a) = T (b) とする. T (a) − T (b) = o ⇔T (c1 v1 + · · · + cn vn ) − T (d1 v1 + · · · + dn vn ) = o ⇔ (c1 v′ 1 + · · · + cn v′ n ) − (d1 v′ 1 + · · · + dn v′ n ) = o ⇔ (c1 − d1 ) v′ 1 + · · · + (cn − dn ) v′ n = o ⇔c1 − d1 = · · · = cn − dn = 0 ⇔c1 = d1 , . . . , cn = dn Remark 3.8.15 定理 3.8.14 の逆 V V ′ ⇒ dimV = dimV ′ も成り立つ. これを示すには,V から V ′ への全単射な線形写像を T とし, V の基底を v1 , . . . , vn としたときに, T (v1 ) , . . . , T (vn ) が V ′ の基底であることをいえばよい. 定理 3.8.16(同型写像の基本定理) 線形空間 V, V ′ に対し, 次が成り立つ. dimV = dimV ′ ⇔ V V ′ Remark 3.8.17 dimRn = n なので, dimV = n ⇒ V Rn Example 3.8.18 1 0 0 0 , a, b ∈ R とすると, dimV = 2 である. V の基底は 0 0 0 b a a 0 2 7→ は V から R2 への全単射である. よって, V R である. 例えば, f : b 0 b a V= 0 [ ] [ 0 a + 2 b1 0 a V: 1 0 [ 2 R : 0 1 ↕ a1 b1 ] + ] [ ] 0 a1 + a2 0 = b2 0 b1 + b2 ↕ ↕ [ ] [ ] a2 a1 + a2 = b2 b1 + b2 Example 3.8.19 ( ) V = R [ x ]1 = { a + bx | a, b ∈ R } とすると, dimV = 2 である. V の基底は {1, x} a よって, V R2 である. 例えば, f : a + bx 7→ は V から R2 への全単射である. b V : (a1 + b1 x) + (a2 + b2 x) = (a1 + a2 ) + (b1 + b2 ) x ↕ ↕ ↕ [ ] [ ] [ ] a1 a2 a1 + a2 R2 : + = b1 b2 b1 + b2 Remark 3.8.20 a11 .. . V = Mmn (R) = a m1 ... ... a1n .. . amn 1 0 V の基底は ⟨ とすると , dimV = mn である . ai j ∈ R . .. 0 0 .. . . . . . . . , . . . 0 1 0 0 . . .. .. 0 0 .. . . . . . . . , . . . ⟩ . . . したがって, V Rmn である. §9. 和空間 定義 3.9.1 V を線形空間とし, V 1 と V 2 は V の部分空間とする. V 1 と V 2 の和を V 1 + V 2 = { v1 + v2 | v1 ∈ V 1 v2 ∈ V 2 } で定義する. このとき, V 1 + V 2 は V の部分空間となり, この V 1 + V 2 を V 1 と V 2 の和空間 (sum of subspace) という. 定理 3.9.2 線形空間 V 1 , V 2 に対し, 次が成り立つ. dim (V 1 + V 2 ) = dimV 1 + dimV 2 − dim (V 1 ∩ V 2 ) 定義 3.9.3 V を線形空間とし, V 1 と V 2 は V の部分空間とする. 任意の v ∈ V が v = v1 + v2 (v1 ∈ V 1 , v2 ∈ V 2 ) と一意に表されるとき, V は V 1 と V 2 の直和 (direct sum) であるといい, V = V1 ⊕ V2 と表す. 定理 3.9.4 線形空間 V と V の部分空間 V 1 , V 2 に対し, V = V 1 ⊕ V 2 であることの必要十分条件は V = V 1 + V 2 かつ V 1 ∩ V 2 = {o} である. Example 3.9.5 a 0 x 3 0 z ∈ R y x, y ∈ R とすると, 任意の b ∈ V に , V2 = V = R , V1 = z 0 c 対し, a a 0 b = b + 0 かつ V 1 ∩ V 2 = {o} c 0 c である. よって, V = V1 ⊕ V2 図 9 3.9.5 §10. 線形写像の表現行列 線形写像を行列で表現することを目指す. 一般の線形写像を行列で表現することができるが, ここでは簡単のために, V から V 自身への線形写像 (線形変換)T を扱う. 定義 3.10.1 線形空間 V に対し, V の基底を E = ⟨v1 , v2 , . . . , vn ⟩ とする. [ ] [ ] T (v1 ) , . . . , T (vn ) = v1 , . . . , vn A により定義される行列 A を E に関する線形変換 T の表現行列という. Example 3.10.2 R2 から R2 への線形変換 T を [ cos θ T (x) = sin θ ] − sin θ x cos θ で定める. V の基底 ⟨e1 , e2 ⟩ を E とする . T の E に関する表現行列 A を求めよ. cos θ , T (e2 ) = − sin θ より, A は, T (e1 ) = sin θ cos θ [ ] [ ] T (e1 ) , T (e2 ) = e1 , e2 A [[ ] [ ]] [[ ] [ ]] cos θ − sin θ 1 0 ⇔ , = , A sin θ cos θ 0 1 [ ] [ ] 1 0 cos θ − sin θ = A ⇔ sin θ cos θ 0 1 [ ] cos θ − sin θ ⇔ =A sin θ cos θ と分かる. Remark 3.10.3 n 次正方行列 A に対し, 線形変換 T A : Rn → Rn をとる. Rn の標準基底 E = ⟨e1 , . . . , en ⟩ に関する T A の表現行列は, A で ある. [ ] 実際, E に関する T A の表現行列を P とし, A = a1 , . . . , an とおくと, [ ] [ ] [ ] [ ] T (e1 ) , . . . , T (en ) = e1 , . . . , en P ⇔ Ae1 , . . . , Aen = e1 , . . . , en P [ ] [ ] ⇔A e1 , . . . , en = e1 , . . . , en P ⇔AI = IP ⇔P = A Example 3.10.4 2 次以下の実数係数多項式の空間 V = R [ x ]2 = { } a0 + a1 x + a2 x2 a0 , a1 , a2 ∈ R から, V 自身への線形変換 T を T : f (x) → f (x + b) で定める. R [ x ]2 の基底 ⟨1, x, x2 ⟩ に関する T の表現行列 A を求めよ. ( ) T (1) = 1, T (x) = x + b, T x2 = (x + b)2 = x2 + 2bx + b2 より, A は [ ( )] [ ] T (1) , T (x) , T x2 = 1 , x , x2 A [ ] [ ] ⇔ 1 , x + b , x2 + 2bx + b2 = 1 , x , x2 A 1 をみたすから, A = 0 0 定義 b 1 0 b2 2b である. 1 3.10.5 dim V = n をみたす線形空間 V に対し, V の 2 基底 E = ⟨v1 , . . . , vn ⟩, E ′ = ⟨u1 , . . . , un ⟩ をとる. (u1 , . . . , un ) = (v1 , . . . , vn ) P で P を定めると, P は正則である. この P を E → E ′ の基底の変換行列という. Example 3.10.6 1 √ − √1 2 とする. R2 の基底を E = ⟨e , e ⟩, E ′ = ⟨v , v ⟩ とす v1 = 12 , v2 = 1 2 1 2 1 √ √ 2 2 る. E → E ′ の基底の変換行列 P は, 1 1 √ ] − [ √ 2 = 1 0 P (v1 , v2 ) = (e1 , e2 ) P ⇔ 12 1 0 1 √ √ 2 2 1 1 √ − √ 2 ⇔P = 12 1 √ √ 2 2 図 10 である. Remark 3.10.7 定義 3.10.5 で, 線形変換 T を T (e1 ) = v1 , T (e2 ) = v2 で定めると, P は R2 の基底 ⟨e1 , e2 ⟩ に関する T の表現行列である, とも言える. 一般に,基底 E = ⟨v1 , . . . , vn ⟩, E ′ = ⟨u1 , . . . , un ⟩ としたときの E → E ′ の基底の変換行列は, T (v1 ) = u1 , . . . , T (vn ) = un で定まる線形変換 T の基底 E に関する表現行列に一致する. 定義 3.10.8 Rn の基底を E = ⟨v1 , . . . , vn ⟩ とする. c1 . x ∈ Rn が x = c1 v1 + · · · + cn vn と表されるとき, [ x ]E = .. を E に関する x の座標 (coordinate) という. cn 定理 3.10.9 Rn の 2 基底を E = ⟨v1 , . . . , vn ⟩, E ′ = ⟨v′ 1 , . . . , v′ n ⟩ とする. E → E ′ の基底の変換行列を P とすると, 次が成り立つ. P [ x ]E ′ = [ x ]E ⟨ 証明 ⟩ [ ] [ ] [ ] [ ] v′ 1 , . . . , v′ n = v1 , . . . , vn P で, P は正則なので v1 , . . . , vn = v′ 1 , . . . , v′ n P−1 であるから, x = c1 v1 + · · · + cn vn とすると, c ] .1 x = v1 , . . . , vn .. cn [ c1 [ ] = v′ 1 , . . . , v′ n P−1 ... cn となる. したがって, [ x ]E ′ = P−1 [ x ]E ⇔ P [ x ]E ′ = [ x ]E であることが分かる. Example 3.10.10 − √1 √1 2 v1 = 12 , v2 = 1 √ √ 2 2 1 √ 2 は, とする. R2 の標準基底 E と E ′ = ⟨v1 , v2 ⟩ をとる. このとき, 例えば, x = 1 √ 2 1 1 x = √ e1 + √ e2 , 2 2 x = 1·v1 + 0·v2 1 √ 1 2 と表せる. よって,[ x ]E = 1 , [ x ]E ′ = である. また,E → 0 √ 2 [ ] [ ] v1 , v2 = e1 , e2 P ⇔ P = である.よって, 確かに, 1 √ 1 =P = 12 0 √ 2 [ P [ x ]E ′ ] 1 − √ 2 1 √ 2 E ′ の基底の変換行列 P は, 1 √ 2 1 √ 2 1 − √ 2 1 √ 2 [ ] √1 1 = 12 = [ x ]E 0 √ 2 を満たしている. 定理 3.10.11 V の基底 E = ⟨v1 , . . . , vn ⟩, E ′ = ⟨v′ 1 , . . . , v′ n ⟩ をとる. E → E ′ の基底の取り換え行列を P とする. V の線形変換 T の E に関する表現行列を A, E ′ に関する表現行列を B をする. このとき, 次が成り立つ. B = P−1 AP ⟨ 証明 ⟩ ( ) P = pi j とする. [ ] [ ] v1 , . . . , vn PB = v′ 1 , . . . , v′ n B [ ] = T (v′ 1 ) , . . . , T (v′ n ) [ ] = T (p11 v1 + · · · + pn1 vn ) , . . . , T (p1n v1 + · · · + pnn vn ) [ ] = p11 T (v1 ) + · · · + pn1 T (vn ) , . . . , p1n T (v1 ) + · · · + pnn T (vn ) [ ] = T (v1 ) , . . . , T (vn ) P [ ] = v1 , . . . , vn AP [ ] [ である. v1 , . . . , vn は線形独立なので, v1 , . . . , vn は正則. 両辺左から v1 , . . . , vn ]−1 をかけて, PB = AP を得る. さらに, P は正則なので, 両辺左から P−1 をかけて B = P−1 AP である. Example 3.10.12 4 1 に対し, T A : R2 → R2 をとる. T A はどのような変換か. A = 1 4 1 − √1 √ 2 とする. v1 = 12 , v2 = 1 √ √ 2 2 4 1 である. 標準基底 E に関する T A の表現行列 A は, A = 1 4 また, 基底 E ′ = ⟨v1 , v2 ⟩ に関する T A の表現行列 B は, 5 3 √ − √ 2 2 (T (v1 ) , T (v2 )) = (v1 , v2 ) B ⇔ 5 3 √ √ 2 2 [ ] [ 5 −3 1 ⇔ = 5 3 1 [ ] 5 0 ⇔B = 0 3 1 √ 2 = 1 √ 2 ] −1 B 1 1 − √ 2 B 1 √ 2 図 11 3.10.12 である. また, E → E ′ の基底の変換行列を P とすると, [ ] [ v1 , v2 = e1 , e2 ] 1 √ P ⇔ 12 √ 2 cos ⇔P = sin 1 ] − √ [ 2 = 1 0 P 1 0 1 √ 2 π π − sin π4 π4 cos 4 4 である. よって, B = P−1 AP ⇔A = PBP−1 ( ) ( π) ] cos − π − sin − 4 0 ( π4 ) ( π4) ⇔ 1 3 sin − cos cos − 4 4 4 π π となり, T A は x を − の回転移動させ, x 軸方向に 5 倍, y 軸方向に 3 倍させ, − の回転移動させる変換であると分かる. 4 4 [ cos π 1 4 = 4 sin π 4 ] − sin π π4 [ 5 0 Remark 3.10.13 または, 定理 3.10.9 の考え方を用いれば, T A は x を基底 ⟨e1 , e2 ⟩ の座標 から基底 ⟨v1 , v2 ⟩ の座標へ移し, v1 方向に 5 倍, v2 方向に 3 倍させ, 再び基 底 ⟨e1 , e2 ⟩ の座標へ戻す変換ともいえる. Remark 3.10.14 Example 3.10.12 では, 基底 E ′ に関する表現行列が対角行列となったが, このような基底は普通はなかなか思い付かない. 次の固有値, 固有ベクトルの章でこのような E ′ の見つけ方を学ぶ. 図 12 Remark 3.10.13 の変換 T A 4. 固有値, 固有ベクトル §1. 固有値, 固有ベクトル 定義 4.1.1 線形空間 V, 線形変換 T : V → V をとる. T (v) = λv (v , o) を満たす λ, v をそれぞれ T の固有値 (eigenvalue), 固有ベクトル (eigenvector) という. Example 4.1.2 Example 3.10.12 をみると, 1 5 √ ] √ 4 1 2 2 = 5v1 1 = T A (v1 ) = 5 1 4 √ √ 2 2 1 √3 [ ] √ 4 1 2 2 T A (v2 ) = 1 = 3 = 3v2 1 4 − √ − √ 2 2 [ であるから, v1 は固有値 5 に属する固有ベクトル, v2 は固有値 3 に属する固有ベクトルである. 実は v1 , v2 はともに, T A の固有ベクトルだったのである. 定理 4.1.3 線形変換 T の固有値を λ1 , . . . , λn とする. v1 , . . . , vn をそれぞれ λ1 , . . . , λn に属する固有ベクトルとする. [ ] このとき, v1 , . . . , vn が線形独立ならば, 正則行列 P = v1 , . . . , vn をとると, P−1 AP は対角行列となる. ⟨ 証明 ⟩ [ ] AP =A v1 , . . . , vn [ ] = Av1 , . . . , Avn [ ] = λ1 v1 , . . . , λn vn λ1 0 [ ] 0 λ2 = v1 , . . . , vn . . . . . . 0 ... λ1 0 . . . 0 . .. 0 λ2 . .. =P . .. . . . . . 0 . 0 ... 0 λn λ1 0 −1 よって, P AP = . . . 0 λ2 .. . ... .. . .. . ... 0 0 0 .. . は対角行列である. 0 λn ... .. . .. . 0 0 .. . 0 λn Example 4.1.4 4 行列 A = 1 1 に対し, T A をとる.T A の固有値, 固有ベクトルを求めよ. 4 T (x) = λx ⇔Ax = λI x ⇔ (λI − A) x = o ][ ] [ ] [ x1 0 λ − 4 −1 ⇔ = −4 λ − 1 x2 0 . . . (∗) である. 固有ベクトルの定義より, 固有ベクトルは零ベクトルでないから, x が固有ベクトルとなるには, (∗) が非自明解 (x1 , x2 ) をもつことが必要十分. すなわち, λ − 4 −1 −1 λ − 4 = 0 ⇔(λ − 4)(λ − 4) − (−1)(−1) = 0 ⇔λ2 − 8λ + 15 = 0 ⇔λ = 3, 5 である. よって, 固有値は 3, 5. 1 −1 x1 = o の非自明解で, 固有値は 3 に属する固有ベクトルは, −1 1 x2 1 例えば, a = 1 として, は固有ベクトルの一つである. 1 −1 −1 x1 = o の非自明解で, 固有値は 3 に属する固有ベクトルは, −1 −1 x2 −1 は固有ベクトルの一つである. 例えば, b = 1 として, 1 1 x1 = a (a ∈ R − {0}) である. x 1 2 −1 x1 (b ∈ R − {0}) である. = b 1 x 2 Remark 4.1.5 Example 4.2 では a, b を動かせば . , それぞれの固有値に対して無数の固有ベクトルが存在することが分かる −1 1 √ √ の大きさが 1 となるように, すなわち, 2 a = 2 b = 1 ⇔ a = b = √1 として Example 3.10.12 では, a , b 2 1 1 a −b が回転行列となるようにしたのである. (ただし, P がいつも回転行列になるわけではない) a, b を取り, P = a b Example 4.1.6 7 −6 に対し, 線形変換 T A をとる. T A の固有値, 固有ベクトルを求めよ. A = 3 −2 T A (x) = λx ⇔Ax = λI x ⇔ (λI − A) x = o [ ][ ] [ ] λ−7 6 x1 0 ⇔ = −3 λ + 2 x2 0 . . . (∗) であり, 固有ベクトルの定義より, 固有ベクトルは零ベクトルでないから, x が固有ベクトルとなるには, (∗) が非自明解 (x1 , x2 ) をもつことが必要十分. すなわち, λ − 7 −3 6 = 0 ⇔(λ − 7)(λ + 2) − (−3)·6 = 0 λ + 2 ⇔λ2 − 5λ + 4 = 0 ⇔λ = 1, 4 であるから, 固有値は 1, 4 である. 1 x1 −6 6 x1 = o の非自明解で, = a (a ∈ R − {0}) である. 固有値は 1 に属する固有ベクトルは, 1 x2 −3 3 x2 1 例えば, a = 1 として, は固有ベクトルの一つである. 1 x1 2 −3 6 x1 = o の非自明解で, = b (b ∈ R − {0}) である. 固有値は 4 に属する固有ベクトルは, −3 6 x2 x2 1 2 例えば, b = 1 として, は固有ベクトルの一つである. 1 §2. 固有多項式 定義 4.2.1 n 次正方行列 A に対して, ( ) n 次多項式 gA (x) = | xI − A | を行列 A の固有多項式 (characteristic polynomial) といい, gA (x) = 0 を固有方程式 (characteristic equation) という. 固 有方程式の根を A の固有値という. 定理 4.2.2 n 次正方行列 A の固有値を λ1 , . . . , λn とする. このとき, 次の (1) ∼ (3) が成り立つ. (1) a11 + · · · + ann = λ1 + · · · + λn (2) | A | = λ1 . . . λn (3) A が正則 ⇔ λi , 0 (i = 1, 2, . . . , n) ⟨ 証明 ⟩ A の固有値が λ1 , . . . , λn なので, gA = (x − λ1 ) . . . (x − λn ) である. よって, | xI − A | = (x − λ1 ) . . . (x − λn ) である. (1) | xI − A | = (x − λ1 ) . . . (x − λn ) ∗ ... ∗ x − a11 .. . ∗ x − a22 ∗ ⇔ = (x − λ1 ) . . . (x − λn ) .. .. .. .. . . . . ∗ ... ∗ x − ann · · · (∗) であり, (∗) の両辺の xn−1 の係数を比較して, a11 + · · · + ann = λ1 + · · · + λn を得る. (2) x = 0 として, | 0I − A | = (0 − λ1 ) . . . (0 − λn ) ⇔ | −A | = (−λ1 ) . . . (−λn ) ⇔(−1)n | A | = (−1)n λ . . . λn ⇔ | A | = λ . . . λn を得る. (3) (2) より, 自明. 定理 4.2.3 n 次正方行列 A に対し, 線形変換 T A をとる. このとき, 次の (1) , (2) は同値である. (1) λ が T の固有値 (2) λ が gA = 0 の根 Remark 4.2.4 定理 4.2.3 は, 定義 4.1.1 と定義 4.2.1 で別々に定義した変換と行列の固有値が, 実は一致する, ということを主張している. Remark 4.2.5 今まで, R 上のベクトル空間 (主に Rn ) を扱ってきた. しかし, この定理は R 上だけで考えていては成り立たない場合が存在する. −1 π で定まる線形変換 T A は, 正方向へ 回転させる線形変換である. 2 1 0 よって, R を成分とするどんなベクトルも T を施せば実数倍とはならず, 固有値, 固有ベクトルが存在しない. 0 例えば, A = この原因は, R 上のみで考えたことにある. そこで, C にまで広げて考えることにより, 固有値, 固有ベクトルを考えることができる. Example 4.2.6 0 −1 に対し, 線形変換 T A をとる. T A の固有値, 固有ベクトルを求めよ. A = 1 0 固有方程式の根が固有値なので, x 1 =0 | xI − A | = 0 ⇔ −1 x ⇔x2 + 1 = 0 ⇔x = ±i より, 固有値は x = ±i である. x1 i 1 x1 = o の非自明解で, = a 1 (a ∈ R − {0}) である. 固有値 x = i に属する固有ベクトルは, −i x2 x2 −1 i 1 は固有値の一つである. 例えば, a = 1 として, −i 1 x1 −i 1 x1 = o の非自明解で, = b (b ∈ R − {0}) である. 固有値 x = −i に属する固有ベクトルは, i x2 −1 −i x2 1 例えば, b = 1 として, は固有値の一つである. i Remark 4.2.7 Remark 4.2.5 で述べたように, 定理 4.3 は C 上で成立するのであるが, やや複雑になるのでしばらくは固有値がすべて R となるもので議論する. 定義 4.2.8 線形空間 V に対し, V から V への線形変換を T とする. λ を T の固有値とし, λ に属する固有ベクトル全体の集合に o を加えた集合を W (λ ; T ) とすると, W (λ ; T ) は V の部 分空間となる. この W (λ ; T ) を固有空間 (eigenspace) という. Example 4.2.9 7 −6 に対し, T A をとる. それぞれの固有値 λ の固有空間 W (λ ; T ) の基底と次元を求めよ. A = 3 −2 Example 4.1.6 より, 1 x1 = a (a ∈ R − {0}) で, これに零ベクトル o を加えたものが固有値 1 固有値 1 に属する固有ベクトル全体の集合は, 1 x 2 の固有空間である. 1 1 , 次元:1 である. a ∈ R であるから , 基底 : よって, W (1 ; T ) = a 1 1 x1 2 = b (b ∈ R − {0}) で, これに零ベクトル o を加えたものが固有値 4 固有値 4 に属する固有ベクトル全体の集合は, x2 1 の固有空間である. 2 2 よって, W (4 ; T ) = b b ∈ R であるから, 基底: , 次元:1 である. 1 1 定理 4.2.10 (ケーリー-ハミルトン (Cayley-Hamilton) の定理) 行列 A の固有多項式 gA (x) に対し, gA (A) = 0 が成り立つ. Example 4.2.11 a b とすると, A = c d gA (x) = | xI − A | x − a −b = −c x − d =x2 − (a + d) x + (ad − bc) より, A2 − (a + d) A + (ad − bc) I = O が成り立つ. 定義 4.2.12 線形空間 V に対し, V から V への線形変換 T をとる. V の任意の基底に関する T の表現行列 A の固有多項式, 固有方程式をそれぞれ, T の固有多項式 (characteristic polynomial), 固有方程式 (characteristic equation) という. T の固有多項式を gT (x) で表す. Remark 4.2.13 定義 4.2.12 で, 「V の任意の基底」と述べた. すなわち, どの V の基底をとっても, T の固有多項式, 固有方程式は同じでなければ, この定義は意味を為さない. よって, どの V の基底をとっても, T の固有多項式, 固有方程式が同じであることを示す. : E に関する T の表現行列を A, E ′ に関する T の表現行列を B とする. E → E ′ の基底の変換行列を P とする. : B = P−1 AP A の固有多項式を gA (x), B の固有多項式を gB (x) とする. gA (x) = | xI − A | = P−1 | xI − A | | P | = xP−1 IP − P−1 AP = | xI − B | =gB (x) よって, V の任意の基底に関する T の固有多項式が一致することが分かった. これより, T の固有方程式が一致することは明らかであろう. 定理 4.2.14 線形空間 V に対し, V から V への線形変換 T をとる. このとき, λは T の固有値 ⇔ gT (λ) = 0 である. Remark 4.2.15 定理 4.5 により, 線形空間 V が Rn の部分空間でなくとも, 線形変換 T の固有値, 固有ベクトルを容易に求めることができ る. Example 4.2.16 2 次以下の多項式全体の空間 V = R [ x ]2 = { } c0 + c1 x + c2 x2 c0 , c1 , c2 ∈ R に対し, V の線形変換 T を T ( f (x)) = f (1 + 2x) で定める. T の固有値, 固有ベクトル, 固有空間を求めよ. { } T の固有値は, V の任意の基底に関する T の表現行列の固有値と一致するから, V の基底として E = 1, x, x2 をとって, T の E に関する表現行列の固有値を求める. E に関する T の表現ベクトル A は [ 1 より, A = 0 0 1 2 0 ( )] [ ] T (1), T (x), T x2 = 1, 1 + 2x, 1 + 4x + 4x2 [ ] 1 1 1 = 1, x, x2 0 2 4 0 0 4 1 4 である. よって, T の固有値 λ は, 4 gT (λ) = 0 ⇔gA (λ) = 0 ⇔ | λI − A | = 0 −1 λ − 1 −1 λ − 2 −4 = 0 ⇔ 0 0 0 λ−4 ⇔(λ − 1)(λ − 2)(λ − 4) = 0 ⇔λ = 1, 2, 4 である. 1 x1 0 −1 −1 x1 固有値 1 に属する A の固有ベクトルは, 0 −1 −4 x2 = o の非自明解で, x2 = a 0 (a ∈ R − {0}) である. 0 x3 0 0 −3 x3 1 例えば a = 1 として, 0 は A の固有ベクトルの一つである. 0 1 [ ] よって, 1, x, x2 0 = 1 は T の固有ベクトルの一つである. A の固有ベクトル全体の集合に零ベクトル o を加えたものが 0 A の固有値 1 の固有空間であるから , 1 で, W (1 ; T ) の基底:⟨1⟩, 次元:1 である. a ∈ R a W (1 ; T ) = 0 0 1 x1 1 −1 −1 x1 固有値 2 に属する A の固有ベクトルは, 0 0 −4 x2 = o の非自明解で, x2 = b 1 (b ∈ R − {0}) である. 0 x3 0 0 −2 x3 1 例えば b = 1 として, 1 は A は固有ベクトルの一つである. 0 1 [ ] 2 よって, 1, x, x 1 = 1 + x は T の固有ベクトルの一つである. A の固有ベクトル全体の集合に零ベクトル o を加えたも 0 のが A の固有値 , 2 の固有空間であるから 1 W (2 ; T ) = b b ∈ R で, W (2 ; T ) の基底:⟨1 + x⟩, 次元:1 である. 1 0 3 −1 −1 x1 x1 1 固有値 4 に属する固有ベクトルは, 0 2 −4 x2 = o の非自明解で, x2 = c 2 (c ∈ R − {0}) である. 0 0 0 x3 x3 1 1 例えば c = 1 として, 2 は A の固有ベクトルの一つである. 1 1 [ ] よって, 1, x, x2 2 = 1 + 2x + x2 は T の固有ベクトルの一つである. A の固有ベクトル全体の集合に零ベクトル o を加 1 えたものが A の固有値 4 の固有空間であるから , 1 で, 基底:⟨1 + 2x + x2 ⟩, 次元:1 である. c ∈ R c W (4 ; T ) = 2 1 §3. 行列の対角化 定義 4.3.1 n 次正方行列 A に対して, 適当な正則行列 P を用いて P−1 AP を対角行列 (diagonal matrix) λ1 0 −1 P AP = . . . 0 0 .. . .. . ... ... .. . .. . 0 0 λn 0 .. . とせしめることを A の対角化という. 定理 4.3.2 A の相異なる固有値 λ1 , λ2 に属する固有ベクトルをそれぞれ v1 , v2 とすると, v1 , v2 は線形独立である. ⟨ 証明 ⟩ 線形関係 c1 v1 + c2 v2 = o を考える. 両辺左から A をかけて, c1 Av1 + c2 Av2 = o ⇔c1 λ1 v1 + c2 λ2 v2 = o また, (∗) の両辺に λ1 をかけて, c1 λ1 v1 + c2 λ1 v2 = o 2 式の辺々引いて, c2 (λ2 − λ1 )v2 = o であり, v2 , o より, c2 (λ2 − λ1 ) = 0. λ1 , λ2 より, c2 = 0. よって, c1 v1 = 0 であり, v1 , o より, c1 = 0. 定理 4.3.3 n 次正方行列 A が n 個の線形独立な固有ベクトルをもつとき, A は対角化可能. 定理 4.3.4 n 次正方行列 A に対して, gA (λ) = (λ − λ1 )n1 . . . (λ − λn )nr (n1 + · · · + nr = n) が成り立つとき, 1 ≤ dim (W(λi ; T A )) ≤ ni (i = 1, . . . r) が成り立つ. 更に, A が対角化可能 ⇔ dimW(λi ; T A ) = ni である. ⟨ 証明 ⟩ 後半は定理 4.3.3 より明らかなので, 前半を示す. dim (W(λ ; T A )) = di とおく. (λi I − A) x = o は非自明な解をもつので di ≥ 1 次に, W(λ ; T A ) の基底を ⟨v1 , . . . , vdi ⟩ とする. これを拡張して, ⟨v1 , . . . , vdi , vdi+1 , . . . , vn ⟩ が Rn (本当は Cn であるが, 初学者のために Rn とする) の基底となるようにとる. [ ] P = v1 , . . . , vdi , vdi+1 , . . . , vn とおくと, P−1 (λI − A)P =λP−1 IP − P−1 AP =λI − P−1 AP [ ] [ ] = λe1 , . . . , λen − P−1 Av1 , . . . , P−1 Avdi , P−1 Avdi+1 , . . . , P−1 Avn [ ] [ ] = λe1 , . . . , λen − P−1 λi v1 , . . . , P−1 λi vdi , P−1 Avdi+1 , . . . , P−1 Avn [ ] [ ] = λe1 , . . . , λen − λi e1 , . . . , λi edi , P−1 Avdi+1 , . . . , P−1 Avn ( [ ] ) ∵ I = P−1 P = P−1 v1 , . . . , P−1 vn より, e j = P−1 v j ( j = 1, . . . , n) [ ] = (λ − λi )e1 , . . . , (λ − λi )en , ed+i − P−1 Avdi+1 , . . . , en − P−1 Avn なので, | λI − A | = P−1 | λI − A | | P | = P−1 (λI − A)P = (λ − λi )e1 , . . . , (λ − λi )edi , ed+i − P−1 Avdi+1 , . . . , en − P−1 Avn [ ] =(λ − λi )di e1 , . . . , edi , ed+i − P−1 Avdi+1 , . . . , en − P−1 Avn より, di ≤ ni である. Remark 4.3.5 定理 4.3.4 より, A が対角化可能なとき, 各固有値 λi に属する線形独立な固有ベクトルが ni 個存在する. ( ) すなわち, これらを vi1 , . . . , vini とすると, W(λi ; T A ) = span vi1 , . . . , vini となる. よって, [ ] P v11 , . . . , v1n1 , v21 , . . . , v2n2 , . . . , vr1 , . . . , vrnr とおけば, λ1 −1 P AP = .. . λ1 O λ2 .. . λ2 .. O . λn .. . λn となる. Example 4.3.6 1 3 2 A = 0 −1 0 が対角化可能なら対角化せよ. 1 2 0 gA (λ) = | λI − A | λ − 1 −3 −2 λ + 1 0 = 0 −1 −2 λ λ−1 =(−1)2+2 (λ + 1) −1 −2 λ =(λ + 1)(λ2 − λ − 2) =(λ + 1)2 (λ − 2) であるから, A の固有値は −1, 2 である. 1 x1 −2 −3 −2 x1 ところが, 固有値 −1 に属する固有ベクトルは 0 0 0 x2 = o の非自明解で, x2 = a 0 (a ∈ R − {0}) である. −1 x3 −1 −2 −1 x3 1 であるから, 次元は 1 である. a ∈ R a よって, W (4 ; T ) = 0 −1 よって, 定理 4.8 より, A は対角化不可能である. Remark 4.3.7 gA (λ) を因数分解した式の因数の肩に乗っている数が 1 でないときは注意せよ. Example 4.3.8 5 6 0 A = −1 0 0 が対角化可能なら対角化せよ. 1 2 2 0 λ − 5 −6 λ 0 gA (λ) = 1 −1 −2 λ − 2 λ−5 3+3 =(−1) (λ − 2) 1 ( ) 2 =(λ − 2) λ − 5λ + 6 =(λ − 2)2 (λ − 3) −6 λ なので, A の固有値は 2, 3 である. −3 −6 0 x1 x1 2 0 固有値 2 に属する固有ベクトルは 1 2 0 x2 = o の非自明解で, x2 = a 1 + b 0 (a, b ∈ R − {0}) である. −1 −2 0 x3 x3 0 1 2 0 a, b ∈ R よって, W (2 ; T ) = a + b である. 1 0 0 1 −2 −6 0 x1 x1 3 固有値 3 に属する固有ベクトルは 1 3 0 x2 = o の非自明解で, x2 = c −1 (c ∈ R − {0}) である. −1 −2 1 x3 x3 1 3 c ∈ R である. c よって, W (3 ; T ) = −1 1 よって, 定理 4.8 より, 対角化可能. 0 2 (a, b) = (1, 0) , (0, 1) として, 固有値 2 の固有ベクトル v1 = 1 , v2 = 0 をとる. 1 0 3 c = 1 として, 固有値 3 の固有ベクトル v3 = −1 をとる. 1 2 0 0 2 0 3 Remark 4.8 より, P = [ v1 , v2 , v3 ] = 1 0 −1 とおくと, P−1 AP = 0 2 0 となる. 0 0 3 0 1 1 Remark 4.3.9 座標で考えると, A の対角化は次のようになっている . λ1 [ ] 0 P−1 AP = B とし, P = v1 , . . . , vn , B = . . . 0 x が A によってどのように移るかを考える. 0 .. . .. . ... .. . .. . ... 0 とおく. 0 λn 0 .. . Ax = PBP−1 x で, まず P−1 によって基底 ⟨v1 , . . . , vn ⟩ の座標に変換し, B によって各軸方向に固有値倍し, P によって元の座 標に戻している. Remark 4.3.10 座標変換するなら, ⟨v1 , . . . , vn ⟩ に Rn の標準基底 ⟨e1 , . . . , en ⟩ と同じ性質を持ってほしい. すなわち, 各 vi の長さが 1, 任意の vi , v j が直交する, という性質が欲しい. 次の節では長さ, 直交といった概念を一般的に定義する. §4. 内積空間 定義 4.4.1 ベクトル空間 V の任意の 2 つの元 v, u に対し, 1 つの実数が対応するとする. これを, (v, u) で表し, ( , ) が次の (縲 縲 i ) ∼ (縲 iv 縲) をみたすとき, ( , ) を内積 (inner product) とよび, 内積をもつベクト ル空間を内積空間 (inner product space) という. (1) (v + v′ , u) = (v, u) + (v′ , u) (2) (cv, u) = c(v, u) (3) (v, u) = (u, v) (縲 iv 縲) (v, v) は 0 または正の実数であり, (v, v) = 0 となるのは v = 0 のときに限る. Remark 4.4.2 内積空間を本によっては計量線形空間 (metric inner space) ということもある. Example 4.4.3 Rn において, (x, y) = x1 y1 + · · · + xn yn とすると, 定義の (縲 縲 i ) ∼ (縲 iv 縲) をみたすので, これは内積である. これを, 標準的内積という. Remark 4.4.4 以後, 注意が無ければ, Rn における内積は全て標準的内積とする. 定義 4.4.5 内積空間 V 上のベクトル v に対して, √ (v, v) を v のノルム (norm) または長さといい, || v || で表す. Example 4.4.6 3 √ v = ∈ R2 に対し, || v || = (v, v) = 5 である. 4 定理 4.4.7 内積空間 V のベクトル a, b に対して, 次の (縲 縲 i ) ∼ (縲 iv 縲) が成り立つ. (1) || a || = 0 ⇔ a = o (2) || ca || = | c | || a || (3) | (a, b) | ≤ || a || || b || (Cauchy-Schwarz の不等式) (縲 iv 縲) || a + b || ≤ || a || + || b || 定義 (三角不等式) 4.4.8 内積空間 V のベクトル a, b が (a, b) を満たすとき, a, b は直交する, といい a ⊥ b と表す. 定義 4.4.9 内積空間 V の部分空間 W に対して, W ⊥ を W ⊥ = { v ∈ V | ∀w ∈ W (w, v) = 0 } で定めると, W ⊥ は V の部分空間となる. これを V における W の直交補空間 (orthogonal complement) という. Example 4.4.10 0 3 V = R とし, V の部分空間 W を W = z ∈ R で定める. V における W の直交補空間を求めよ. 0 z 0 a W ⊥ の要素を b (a, b, c ∈ R) とする. W の任意の要素 0 (z は任意) と直交するので, z c a b , c 0 0 = 0 ⇔a·0 + b·0 + c·z = 0 z ⇔cz = 0 . . . (∗) ⇔c = 0 (∵ 任意の z ∈ R に対して, (∗) が成立) よって, a b a, b ∈ R, c = 0 W⊥ = c a b a, b ∈ R = 0 である. 定理 4.4.11 内積空間で v1 , . . . , vn (vi , o, i = 1, . . . , n) が互いに直交すれば, v1 , . . . , vn は線形独立. ⟨ 証明 ⟩ ( ) 線形関係 c1 v1 + · · · + cn vn = o を考え, 両辺同じもので内積をとる. vi , v j = 0 なので, (c1 v1 + · · · + cn vn , c1 v1 + · · · + cn vn ) = (o, o) ⇔c1 2 || v1 ||2 + · · · + cn 2 || vn ||2 = 0 ⇔c1 = · · · = cn = 0 定義 4.4.12 内積空間 V の基底 E = ⟨v1 , . . . , vn ⟩ が ( ) vi , v j = δi j を満たすとき, 基底 E を正規直交基底 (orthonormal basis) という. Remark 4.4.13 δi j はクロネッカーのデルタといい, { δi j = 1 (i = j) 0 (i , j) である. よって, 定義 4.10 によれば, 例えば, (v2 , v4 ) = δ24 = 0 であるし, (v3 , v3 ) = δ33 = 1 である. すなわち, 自分自身と内積を取れば 1 となり (ノルムが 1 となり), ほかのものと内積を取れば 0 となる (直交する) ような基 底のことを正規直交基底と呼ぶのである. Remark 4.4.14 この正規直交基底が前節の最後に述べた, 標準基底と同じく, 長さが 1 で, 互いに直交するような基底である. Example 4.4.15 R3 の標準基底 ⟨e1 , e2 , e3 ⟩ は, もちろん R3 の正規直交基底である. Example 4.4.16 √1 2 1 3 R の基底 − √ 2 0 定義 , 1 √ √1 3 6 1 1 √ , √ 3 6 1 √ − √2 3 6 は R3 の正規直交基底である. 4.4.17 V の r 次元部分空間 W を考える. W の正規直交基底を ⟨w1 , . . . , wr ⟩ とする. このとき, 任意の v ∈ V に対して, v= r ∑ (v, wi )wi + v2 i=1 と一意に表せる. ただし, v2 ∈ W ⊥ である. このとき, v1 を v の W への正射影 (orthogonal projection) という. Remark 4.4.18 点から平面へ垂線を下すとき, 正射影を求めることにより垂線の足がすぐ分かる. 定義 4.4.19 内積空間 V の線形変換 T が任意の u, v ∈ V に対して, (T (u), T (v)) = (u, v) を満たすとき, T を直交変換 (orhotogonal transformation) という. Remark 4.4.20 u = v とすると, || T (u) || = || u || なので, 直交変換において, 長さは不変, かつ 2 ベクトルのなす角は不変である. Remark 4.4.21 cos θ 回転の変換は直交変換の代表例である. 実際, R から R への回転の変換 T を T (x) = sin θ v1 u1 u = , v = に対し, v u 2 2 2 − sin θ x で定めると, cos θ 2 ([ ] [ ]) u1 cos θ − u2 sin θ v cos θ − v2 sin θ , 1 u1 sin θ + u2 cos θ v1 sin θ + v2 cos θ = (u1 cos θ − u2 sin θ) (v1 cos θ − v2 sin θ) + (u1 sin θ + u2 cos θ) (v1 sin θ + v2 cos θ) ([ ] [ ]) u1 v =u1 v1 + u2 v2 = , 1 = (u, v) u2 v2 (T (u), T (v)) = よって, T は直交変換である. 定理 4.4.22 ⟩v1 , . . . , vn ⟨ を内積空間 V の正規直交基底とする. このとき次が成り立つ. V 上の線形変換 T が直交変換 ⇔ {T (v1 ), . . . , T (vn )} がV の正規直交基底 ⟨ 証明 ⟩ (⇒) の証明 (T (vi ), T (v j )) =(vi , v j ) =δi j (⇐) の証明 a, b ∈ V を a = a1 v1 + · · · + an vn , b = b1 v1 + · · · + bn vn とする. (T (a), T (b)) = (T (a1 v1 + · · · + an vn ), T (b1 v1 + · · · + bn vn )) = (a1 T (v1 ) + · · · + an T (vn ), b1 T (v1 ) + · · · + bn T (vn )) =a1 b1 + · · · + an bn = (a, b) 定義 4.4.23 n 次正方行列 P が t PP = I を満たすとき, P を直交行列 (orthogonal matrix) という. Remark 4.4.24 P が直交行列なら, P−1 = t P である. Example 4.4.25 cos θ P = sin θ − sin θ は直交行列である. 実際, cos θ [ t PP = cos θ − sin θ sin θ cos θ ][ cos θ sin θ − sin θ cos θ ] =I である. 回転行列であることを意識すれば, [ t cos θ P= − sin θ ] [ ] sin θ cos(−θ) − sin(−θ) = = P−1 cos θ sin(−θ) cos(−θ) としても分かる. 定理 4.4.26 正方行列 A と, A に対して線形変換 T A をとれば, 次が成り立つ. A が直交行列 ⇔ T A が直交変換 ⟨ 証明 ⟩ A = [ a1 , . . . , an ] とすると, T A (e1 ) = a1 , . . . , T A (en ) = an であるから, T A が直交変換 ⇔ {a1 , . . . , an } は Rn の正規直交基底 ( ) ⇔ ai , a j = δi j (i, j = 1, . . . , n) ⇔t ai a j = δi j より, t t a1 a1 a1 [ ] t AA = ... a1 , . . . , an = ... t t an an a1 ... .. . ... a1 an .. = I . t an an t Remark 4.4.27 この証明により, 次の定理も分かる. 定理 4.4.28 正方行列 A を A = [ a1 , . . . , an ] とおくと, 次が成り立つ. A が直交行列 ⇔ {a1 , . . . , an } は Rn の正規直交基底 Example 4.4.29 cos θ − sin θ とする. t AA = I より A は直交行列. 回転の変換なので, T A は直交変換. A = sin θ cos θ A = [ a1 , a2 ] とすると, (a1 , a2 ) = 0 かつ || a1 || = || a2 || = 1 であるから, a1 , a2 は R2 の正規直交基底. §5. グラム-シュミットの直交化法 内積空間 V の任意の基底 a1 , . . . , an から正規直交基底 v1 , . . . , vn を次のようにして作ることができる. この方法をグラ ム-シュミットの直交化法 (Gram-Schmidt orthonormalization) という. a1 とする. || a1 || このとき, || v1 || = 1 となっている. (1) v1 = a′ 2 とする. || a′ 2 || このとき, (a2 , v1 )v1 は a2 の span (v1 ) への正射影なので, a′ 2 は a2 から a2 の span (v1 ) への正射影を除いたもの. すなわち, (2) a′ 2 = a2 − (a2 , v1 )v1 とし, v2 = a′ 2 は v1 に直交する. さらに, || v2 || = 1 となっている. a′ 3 とする. (3) a′ 3 = a3 − {(a3 , v1 )v1 + (a3 , v2 )v2 } とし, v3 = || a′ 3 || このとき, (a3 , v1 )v1 + (a3 , v2 )v2 は a3 の span (v1 , v2 ) への正射影なので, a′ 3 は a3 から a2 の span (v1 , v2 ) への正射影を除い たもの. すなわち, a′ 3 は v1 , v2 に直交する. さらに, || v3 || = 1 となっている. (4) 以下, 同様に繰り返すことで, 正規直交基底 {v1 , . . . , vn } を作ることができる. Remark 4.5.1 a′ r+1 = ar+1 − {(ar+1 , v1 )v1 + · · · + (ar+1 , vr )vr } が v1 , . . . , vr と直交することは次のようにしても分かる. a′ r+1 と vi (i = 1, . . . , r) との内積をとると, (a′ r+1 , vi ) =(ar+1 − {(ar+1 , v1 )v1 + · · · + (ar+1 , vr )vr } , vi ) =(ar+1 , vi ) − {(vr+1 , v1 )(v1 , vi ) + · · · + (ar+1 , vi )(vi , vi ) + · · · + (ar+1 , vr )(vr , vi )} =(ar+1 , vi ) − (ar+1 , vi ) =0 Example 4.5.2 1 1 1 R3 の基底 a1 = 0 , a2 = 1 , a3 = 2 から, 正規直交基底を作れ. 1 0 1 1 a1 1 v1 = = √ 0 とする. || a1 || 2 1 1 1 1 a′ 2 = a2 − (a2 , v1 )v1 = 1 − √ · √ 2 2 0 とし, 1 1 0 = 1 2 2 1 −1 1 1 a′ 2 = √ = 2 v2 = || a′ 2 || 6 −1 とする. 1 2 a′ 3 = a3 − {(a3 , v1 )v1 + (a3 , v2 )v2 } = 2 − √ 2 1 1 √ 2 とし, a′ 3 1 v3 = = √ || a′ 3 || 3 1 4 0 + √ 6 1 1 √ 6 1 2 = 2 3 −1 −1 1 1 −1 1 1 とする. このとき, {v1 , v2 , v3 } は R3 の正規直交基底である. §6. 対称行列の対角化 定義 4.6.1 A = A すなわち, ai j = a ji を満たす行列を対称行列 (symmetric matrix) という. t Example 4.6.2 1 4 A = 4 2 5 6 定理 5 6 は対称行列である. 3 4.6.3 対称行列の異なる固有値に属する固有ベクトルは直交する. 定理 4.6.4 対称行列の固有値は実数. 定理 4.6.5 対称行列は直交行列を用いて対角化可能. Example 4.6.6 1 1 A = 1 5 6 1 3 1 を直交行列を用いて対角化せよ. 1 A は対称行列なので直交行列により, 対角化可能である. gA (t) = | tI − A | −3 t − 1 −1 = −1 t − 5 −1 −3 −1 t − 1 =(t + 2)(t − 3)(t − 6) より, A の固有値は −2, 3, 6 である. 異なる固有値に属する固有ベクトルは全て直交するから, 各固有値に属する固有ベクト ルで長さが 1 のものを取ればよい. 固有値 −2 に属する固有ベクトルは, −3 −1 −3 3 −2I − A = −1 −7 −1 → 1 −3 −1 −3 0 1 7 0 0 −20 0 0 1 3 1 → 1 7 1 → 1 0 0 0 0 0 0 0 1 1 より, a 0 (a ∈ R − {0}) で, 長さが 1 のものを v1 とすると, v1 = √ 2 −1 固有値 3 に属する固有ベクトルは, 2 −1 −3 2 −1 −3 0 1 → 1 3I − A = −1 −2 −1 → 1 2 −3 −1 2 0 0 0 0 1 0 . −1 1 1 より, b −1 (b ∈ R − {0}) で, 長さが 1 のものを v2 とすると, v2 = √ 3 1 固有値 6 に属する固有ベクトルは, 0 0 5 −1 −3 4 −8 6I − A = −1 1 −1 → −1 1 −1 → −1 0 0 −4 8 −3 −1 5 1 −1 . 1 0 −5 −5 2 1 → 1 0 0 0 1 0 0 0 −1 2 −1 2 1 −1 → −1 0 1 0 0 0 0 0 1 1 1 2 . より, c 2 (c ∈ R − {0}) で, 長さが 1 のものを v3 とすると, v3 = √ 6 1 1 1 √1 √ 2 3 1 0 − √ 以上より, ⟨v1 , v2 , v3 ⟩ は正規直交基底なので, P = [ v1 , v2 , v3 ] = 3 1 1 − √ √ 2 3 −2 0 0 P−1 AP = 0 3 0 0 0 6 は対角行列となる. Example 4.6.7 1 2 −1 A = 2 −2 2 を直交行列を用いて対角化せよ. −1 2 1 A は対称行列なので直交行列により対角化可能. gA (t) = | tI − A | 1 t − 1 −2 = −2 t + 2 −2 1 −2 t − 1 =(t − 2)2 (t + 4) 1 1 0 0 1 0 1 √ 6 2 √ 6 1 √ 6 とおくと P は直交行列で, より, A の固有値は 2, −4 である. 異なる固有値に属する固有ベクトルは全て直交するから, 各固有値に属する固有ベクトル で長さが 1 かつ直交するものを取ればよい. 固有値 2 の固有空間 W (2 ; T A ) は, 1 2I − A = −2 1 −2 4 −2 1 −2 1 1 −2 → 0 0 0 1 0 0 0 2 1 2 −1 より, W (2 ; T A ) = a 1 + b 0 (a, b ∈ R) で, W (2 ; T A ) の基底 ⟨a1 , a2 ⟩ を, a1 = 1 , a2 = 0 でとる. 0 −1 0 1 この基底から, グラムシュミットの直交化法により, W (2 ; T A ) の正規直交基底 ⟨v1 , v2 ⟩ を作る. 2 1 a1 = √ 1 とする. v1 = || a1 || 5 0 −1 2 −1 −1 ′ 2 1 1 a2 1 2 とし, v2 = 2 とする. a′ 1 = a1 − (a1 , v1 )v1 = 0 − (− √ )· √ 1 = = √ ′ || a 2 || 30 5 5 5 1 0 5 5 ⟨v1 , v2 ⟩ は W(2 ; T A ) の正規直交基底である. 固有値-4 に属する固有ベクトルは, −5 −4I − A = −2 1 −2 −2 −2 0 1 0 3 6 1 1 → 1 0 −2 → 1 1 0 0 0 −3 −6 −5 2 −1 0 1 1 1 −2 . より, c −2 (c ∈ R − {0}) で, 長さが 1 のものを v3 とすると, v3 = √ 6 1 1 2 1 √ − √ 30 5 1 2 3 √ 以上より, ⟨v1 , v2 , v3 ⟩ は R の正規直交基底なので, P = [ v1 , v2 , v3 ] = √ 30 5 5 0 √ 30 列で, 2 0 0 P−1 AP = 0 2 0 0 0 −4 1 √ 6 2 − √ 6 1 √ 6 とおくと P は直交行 は対角行列となる. Remark 4.6.8 一般に, 次のようになる. n 次正方対称行列 A を直交行列にを用いて対角化せよ. gA (t) = (t − λ1 )n1 . . . (t − λ1 )nr (n1 + · · · + nr = n, 各λi は相異なる実数) と因数分解できる. (1) ni = 1 のとき, 固有ベクトルを一つ vi1 見つけ, 長さを 1 にする. ({vi1 } は固有値 λi の固有空間の正規直交基底と思える) (2) ni ≤ 2 のとき, 固有空間の基底 ⟨ai1 , . . . , aini ⟩ を見つけ, グラムシュミットの直交化法により, 正規直交基底 ⟨vi1 , . . . , vini ⟩ を作る. (1), (2) で求めた各固有空間の正規直交基底を並べ, [ ] P = v11 , . . . , v1n1 , . . . , vr1 , . . . , vrnr とすると, λ1 −1 P AP = .. . O λ1 .. . λr O .. . λr となる. §7. 二次形式 定義 4.7.1 n 個の変数 x1 , . . . , x2 に対して, 実数係数の二次の項のみをもつ二次式 (斉二次式) を二次形式 (quadratic form) という. 任意の二次形式は xi x j の係数を ai j とし, ai j = a ji とすると, n ∑ n ∑ ai j xi x j i=1 j=1 x1 . と一意に書け, x = .. , A = (ai j ) とおくと, xn a ] 11 ai j xi x j = x1 , . . . , xn ... j=1 an1 n ∑ n ∑ i=1 [ ... .. . ... a1n .. . ann x1 .. . xn t = xAx と表せる. Remark 4.7.2 ai j = a ji より, A は対称行列である. 定理 4.7.3 (二次形式の標準化) A は対称行列なので直交行列 P を用いて対角化可能である. B = P−1 AP, Py = x で B, y を定めると, t xAx =t yBy =λ1 y1 2 + · · · + λn yn 2 となる. これを, 二次形式の標準化という. ⟨ 証明 ⟩ λ1 0 . . . .. .. . . 0 いま, B は対角行列 B = . . . . . . . . . 0 ... 0 また, Py = x ⇔ y = P−1 x であるから, である. (λ1 , . . . , λn は A の固有値) 0 λn 0 .. . t xAx =t xPBP−1 x ( ) =t t Px BP−1 x ( ) =t P−1 x BP−1 x =t yBy =λ1 y1 2 + · · · + λn yn 2 となる. Example 4.7.4 2 2 5x + . 5y + 6xy = 8 は R においてどのようなグラフか x 5 3 5 3 x である. A = x = とすると, 5x2 + 5y2 + 6xy = t x 3 5 とする. y 3 5 gA (t) = (t − 2)(t − 8) より, A の固有値は 2, 8 である . −3 −3 1 1 より, v1 = √1 → 固有値 2 に属する長さ 1 の固有ベクトル v1 は, 2 −3 −3 0 0 3 −3 1 −1 より, v2 = √1 → 固有値 8 に属する長さ 1 の固有ベクトル v2 は, 2 3 −3 0 0 2 0 [ ] である. よって, P = v1 , v2 により A は対角化可能で, P−1 AP = 0 8 X よって, y = を y = P−1 x で定めると, Y 2 −1 1 1 1 1 1 x= √ X+ √ Y 2 2 y = P−1 x ⇔ x = Py ⇔ 1 1 y=− √ X+ √ Y 2 2 また, [ ] 2 0 5x + 5y + 6xy = 8 ⇔ y y=8 0 8 2 2 t ⇔2X 2 + 8Y 2 = 8 ⇔ X2 + Y2 = 1 4 よって, 図 10 のようなグラフになる. 図 13 §8. 複素行列 定義 4.8.1 成分が複素数の行列を複素行列という. また, 複素行列 A に対し, A の全ての成分を共役複素数に置き換えた行列を A の共役行列といい, A で表す. Example 4.8.2 1 + i 1 − i −2i 2i である. は複素行列であり, A = A = 3 2 − 2i 3 2 + 2i 定義 4.8.3 C 上の線形空間を複素線形空間 (complex linear space) という. Remark 4.8.4 複素内積空間に対して, R 上の線形空間を実線形空間 (real linear space) という. Example 4.8.5 c1 .. Cn = . c n に対し, Rn と同じく標準基底 ⟨e1 , . . . , en ⟩ は基底の一つである. よって, dimCn = n である. c1 , . . . , cn ∈ C Remark 4.8.6 複素線形空間の固有値, 固有ベクトル, 対角化可能性の定義は実線形空間と変わらない. 定義 4.8.7 複素線形空間 V の任意の 2 つの元 v, u に対し, 1 つの複素数が対応するとする. これを, (v, u) で表し, ( , ) が次の (1) ∼ (4) をみたすとき, ( , ) をエルミート内積 (hermitian product) とよび, エルミート内積をもつ複素線形空間をユ ニタリ空間 (unitary space) または複素内積空間という. (1) (v + v′ , u) = (v, u) + (v′ , u) (2) (cv, u) = c(v, u) (c ∈ C) (3) (v, u) = (u, v) (4) (v, v) は 0 または正の実数であり, (v, v) = 0 となるのは v = 0 のときに限る. Example 4.8.8 Cn において, (x, y) = x1 y1 + · · · + xn yn とすると, 定義の (1) ∼ (4) をみたすので, これはエルミート内積である. これを, 標準的内積という. Remark 4.8.9 以後, 注意が無ければ, Cn における内積は全て標準的内積とする. 定理 4.8.10 ⟨v1 , . . . , vn ⟩ は複素線形空間 V の正規直交基底とする. このとき, 次の (1), (4) を満たす. (1) (2) 任意の v ∈ V に対し, v = (v, v1 )v1 + · · · + (v, vn )vn 任意の v ∈ V に対し, ai = (v, vi ) (i = 1, . . . , n) とすると, || v ||2 = a1 2 + · · · + an 2 定理 4.8.11 C を成分とする行列 A に対し, t A を A の随伴行列 (adjoint matrix) またはエルミート共役 (hermitian matrix) という. tA が t AA = I を満たすとき, A をユニタリ行列 (unitary matrix) という. 複素内積空間 V の線形変換 T がエルミート内積において, (T (v), T (u)) = (v, u) を満たすとき, T をユニタリ変換 (unitary transformation) という. 定理 4.8.12 [ ] 複素行列 A = a1 , . . . , an について, 次の (縲 縲 i ) ∼ (縲 iii 縲) は同値である. (1) A はユニタリ行列 (2) ⟨a1 , . . . , an ⟩ が Cn の正規直交基底 (3) T A : Cn → Cn はユニタリ変換 定義 tA 4.8.13 ( ) = A を満たす行列をエルミート行列 (hermitian matrix) という. ai j = a ji Remark 4.8.14 aii = aii より, エルミート行列の対角成分は実数である. Example 4.8.15 1 1+i 3 1 − i −2 2 − 2i はエルミート行列である. 3 2 + 2i 3 定理 4.8.16 エルミート行列の固有値はすべて実数で, 異なる固有値に属する固有ベクトルは直交する. また, エルミート行列は適当 なユニタリ行列を用いて対角化できる.
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