No.10, pp19-20



 
 
a11 a12 a13
a11
a12


 
 
三次正方行列 A = a21 a22 a23  を,三つの空間ベクトル a1 = a21 , a2 = a22 ,
a31 a32 a33
a31
a32
 
a13
 
a3 = a23  を並べたものと見なす.このとき a1 , a2 , a3 の張る平行六面体 {t1 a1 +t2 a2 +t3 a3 | 0 ≤
第 3 章 行列式
3.1
a33
t1 , t2 , t3 ≤ 1} の体積を求める.
a1 × a2 と a3 のなす角を φ (0 ≤ φ ≤ π) とおくと,a1 , a2 , a3 の張る平行六面体の底面積は
1,2,3 次の行列式
|a1 × a2 | であり,高さは |a3 || cos φ| であるから,求める平行六面体の体積は
行列式への導入として,まず数直線上の線分の符号付き長さ,平面上の平行四辺形の符号付き面
積,空間内の平行六面体の符号付き体積を考える.なお,幾何的な説明をするときは行列の成分は
|a1 × a2 ||a3 || cos φ| = |⟨a1 × a2 , a3 ⟩|
実数とするが,それ以外は複素数とする.
= |a11 a22 a33 + a21 a32 a13 + a31 a12 a23
(3.1)
− a31 a22 a13 − a21 a12 a33 − a11 a32 a23 |
3.1.1
符号付き長さ
となる.
一次正方行列 A = (a11 ) を数直線上の点と思えば,a11 は,原点からこの点への符号付き長さを
ここで角 φ が 0 ≤ φ < π/2 の範囲にあるとき,即ち a1 , a2 , a3 が右手系であるとき,cos φ の値
表している.
は正であり,角 φ が π/2 < φ ≤ π の範囲にあるとき,即ち a1 , a2 , a3 が左手系であるとき,cos φ
の値は負である.そのため,(3.1) から絶対値を取り除いたものは,a1 , a2 , a3 が右手系〔左手系〕
3.1.2
なら正〔負〕となるような,平行六面体の『符号付き体積』を表している.
符号付き面積
これら符号付き長さ・面積・体積を 1,2,3 次行列式と定義する.
(
)
( )
( )
a11 a12
a11
a12
二次正方行列 A =
を,二つの平面ベクトル a1 =
, a2 =
を並べた
a21 a22
a21
a22
ものと見なす.a1 から a2 へ向かう角を θ (−π < θ ≤ π) とする.このとき a1 , a2 の張る平行四
定義 3.1.1 (1,2,3 次行列式の定義) 1,2,3 次正方行列 A の行列式 (determinant) を以下のよう
に定め,det A で表す.
辺形の面積は,|a11 a22 − a21 a12 | である.ここで θ が正〔負〕の角ならば,a11 a22 − a21 a12 > 0
(1) 1 次のとき.A = (a11 ) に対し,
〔< 0〕となることがわかるので,a11 a22 − a21 a12 は平行四辺形の『符号付き面積』を表している.
det A = a11
とする.
3.1.3
符号付き体積
(2) 2 次のとき.A =
符号付き体積の計算に使うので,ベクトル積を復習しておこう.
 
 


a1
b1
a2 b3 − a3 b2
 
 


復習. R3 の二つのベクトル a = a2 , b = b2  に対し,a × b = a3 b1 − a1 b3  と置き,こ
a3
b3
れを a と b のベクトル積または外積という.
(
a11
a21
a12
a22
)
(
= a1
)
a2 に対し,
det A = a11 a22 − a21 a12
a1 b2 − a2 b1
とする.

a11

(3) 3 次のとき.A = a21
a31
ベクトル積の性質のうち,ここで使うものだけ抜き出しておこう.
(1) a × b は a, b 双方と直交する.
(2) 大きさ |a × b| は a, b が張る平行四辺形の面積に等しい.
a12
a22
a32

a13
(

a23  = a1
a33
a2
)
a3 に対し,
det A = a11 a22 a33 + a21 a32 a13 + a31 a12 a23
− a31 a22 a13 − a21 a12 a33 − a11 a32 a23
(3) a, b, a × b はこの順に右手系をなす 1 .
とする.
1 右手系・左手系を厳密に定義しようとすると話がややこしくなるので,ここでは深く考えず,素朴に受け止めて下さい.
19
a11
行列式を表す記号として,det A の他に |A|, det(a1 , a2 , a3 ), a21
a31
じて使いやすいものを用いる.
a12
a22
a32
a13 a23 等があり,状況に応
a33 注 3.1.2 2,3 次行列式の覚え方として,
『たすきがけ』があるが,これを4次以上の行列式の計算に
用いてはいけない.
この行列式を一般の n 次正方行列に対しても定義したい.符号付き体積の性質を抽出して一般
化するのが自然なのだが,ここでは標準的な順序に従って定義する.
さて,3 次行列式の公式をよく見ると,次のことが見て取れる.
(1) 3 次行列式は ai1 aj2 ak3 という形の項の和であり,i, j, k については 1, 2, 3 の並べ替え 6 通り
全てが現れている.
(2) 各項の ± は,i, j, k のうち二つずつを交換して 1, 2, 3 に並べ直すとき,交換の回数が偶数回
か奇数回かに対応している.
なお,1,2 次の行列式もこの性質を持っている.
これはかなり無理のある観察だが,実は (1), (2) の性質が満たされるように一般の n 次の行列
式を定義すると,いろいろなことがうまくいくことがわかっている.例えば符号付き体積が満たす
べき自然な性質を n 次の行列式も満たす.これについては次回述べることにし,以下並べ替えを
数学的に扱う「置換」について解説する.
3.2
置換とその符号
集合 {1, 2, . . . , n} 上の一対一変換を 1 から n の置換という.また,それら全体のなす集合を Sn
で表し,これを n 次対称群という.1 から n の置換は全部で n! 個ある.置換を表す記号として,
σ, τ などのギリシャ文字がよく使われる.
( 置換 σ が 1, 2, .). . , n をそれぞれ i1 , i2 , . . . , in に写すとき,σ(k) = ik と書き,この σ を σ =
1 2 ... n
と表す.
i1 i2 . . . in
(
)
1 2 ... n
を恒等置換といい,1n で表す.二つの置換 σ, τ の
どの文字も変えない置換
1 2 ... n
合成変換を σ と τ の積といい,στ と表す.この積は結合律 (ρσ)τ = ρ(στ ) を満たす.ただし,一
般には στ ̸= τ σ である.また,置換 σ の逆変換を σ の逆置換といい,σ −1 と表す.二つの文字
を交換し,他の文字を不変にする置換を互換といい,i と j の互換を (i, j) で表す.特に隣り合う
文字の互換 (i, i + 1) を隣接互換と呼ぶ.
命題 3.2.1 任意の置換は有限個の互換の積で表される.
20