a11 a12 a13 a11 a12 三次正方行列 A = a21 a22 a23 を,三つの空間ベクトル a1 = a21 , a2 = a22 , a31 a32 a33 a31 a32 a13 a3 = a23 を並べたものと見なす.このとき a1 , a2 , a3 の張る平行六面体 {t1 a1 +t2 a2 +t3 a3 | 0 ≤ 第 3 章 行列式 3.1 a33 t1 , t2 , t3 ≤ 1} の体積を求める. a1 × a2 と a3 のなす角を φ (0 ≤ φ ≤ π) とおくと,a1 , a2 , a3 の張る平行六面体の底面積は 1,2,3 次の行列式 |a1 × a2 | であり,高さは |a3 || cos φ| であるから,求める平行六面体の体積は 行列式への導入として,まず数直線上の線分の符号付き長さ,平面上の平行四辺形の符号付き面 積,空間内の平行六面体の符号付き体積を考える.なお,幾何的な説明をするときは行列の成分は |a1 × a2 ||a3 || cos φ| = |⟨a1 × a2 , a3 ⟩| 実数とするが,それ以外は複素数とする. = |a11 a22 a33 + a21 a32 a13 + a31 a12 a23 (3.1) − a31 a22 a13 − a21 a12 a33 − a11 a32 a23 | 3.1.1 符号付き長さ となる. 一次正方行列 A = (a11 ) を数直線上の点と思えば,a11 は,原点からこの点への符号付き長さを ここで角 φ が 0 ≤ φ < π/2 の範囲にあるとき,即ち a1 , a2 , a3 が右手系であるとき,cos φ の値 表している. は正であり,角 φ が π/2 < φ ≤ π の範囲にあるとき,即ち a1 , a2 , a3 が左手系であるとき,cos φ の値は負である.そのため,(3.1) から絶対値を取り除いたものは,a1 , a2 , a3 が右手系〔左手系〕 3.1.2 なら正〔負〕となるような,平行六面体の『符号付き体積』を表している. 符号付き面積 これら符号付き長さ・面積・体積を 1,2,3 次行列式と定義する. ( ) ( ) ( ) a11 a12 a11 a12 二次正方行列 A = を,二つの平面ベクトル a1 = , a2 = を並べた a21 a22 a21 a22 ものと見なす.a1 から a2 へ向かう角を θ (−π < θ ≤ π) とする.このとき a1 , a2 の張る平行四 定義 3.1.1 (1,2,3 次行列式の定義) 1,2,3 次正方行列 A の行列式 (determinant) を以下のよう に定め,det A で表す. 辺形の面積は,|a11 a22 − a21 a12 | である.ここで θ が正〔負〕の角ならば,a11 a22 − a21 a12 > 0 (1) 1 次のとき.A = (a11 ) に対し, 〔< 0〕となることがわかるので,a11 a22 − a21 a12 は平行四辺形の『符号付き面積』を表している. det A = a11 とする. 3.1.3 符号付き体積 (2) 2 次のとき.A = 符号付き体積の計算に使うので,ベクトル積を復習しておこう. a1 b1 a2 b3 − a3 b2 復習. R3 の二つのベクトル a = a2 , b = b2 に対し,a × b = a3 b1 − a1 b3 と置き,こ a3 b3 れを a と b のベクトル積または外積という. ( a11 a21 a12 a22 ) ( = a1 ) a2 に対し, det A = a11 a22 − a21 a12 a1 b2 − a2 b1 とする. a11 (3) 3 次のとき.A = a21 a31 ベクトル積の性質のうち,ここで使うものだけ抜き出しておこう. (1) a × b は a, b 双方と直交する. (2) 大きさ |a × b| は a, b が張る平行四辺形の面積に等しい. a12 a22 a32 a13 ( a23 = a1 a33 a2 ) a3 に対し, det A = a11 a22 a33 + a21 a32 a13 + a31 a12 a23 − a31 a22 a13 − a21 a12 a33 − a11 a32 a23 (3) a, b, a × b はこの順に右手系をなす 1 . とする. 1 右手系・左手系を厳密に定義しようとすると話がややこしくなるので,ここでは深く考えず,素朴に受け止めて下さい. 19 a11 行列式を表す記号として,det A の他に |A|, det(a1 , a2 , a3 ), a21 a31 じて使いやすいものを用いる. a12 a22 a32 a13 a23 等があり,状況に応 a33 注 3.1.2 2,3 次行列式の覚え方として, 『たすきがけ』があるが,これを4次以上の行列式の計算に 用いてはいけない. この行列式を一般の n 次正方行列に対しても定義したい.符号付き体積の性質を抽出して一般 化するのが自然なのだが,ここでは標準的な順序に従って定義する. さて,3 次行列式の公式をよく見ると,次のことが見て取れる. (1) 3 次行列式は ai1 aj2 ak3 という形の項の和であり,i, j, k については 1, 2, 3 の並べ替え 6 通り 全てが現れている. (2) 各項の ± は,i, j, k のうち二つずつを交換して 1, 2, 3 に並べ直すとき,交換の回数が偶数回 か奇数回かに対応している. なお,1,2 次の行列式もこの性質を持っている. これはかなり無理のある観察だが,実は (1), (2) の性質が満たされるように一般の n 次の行列 式を定義すると,いろいろなことがうまくいくことがわかっている.例えば符号付き体積が満たす べき自然な性質を n 次の行列式も満たす.これについては次回述べることにし,以下並べ替えを 数学的に扱う「置換」について解説する. 3.2 置換とその符号 集合 {1, 2, . . . , n} 上の一対一変換を 1 から n の置換という.また,それら全体のなす集合を Sn で表し,これを n 次対称群という.1 から n の置換は全部で n! 個ある.置換を表す記号として, σ, τ などのギリシャ文字がよく使われる. ( 置換 σ が 1, 2, .). . , n をそれぞれ i1 , i2 , . . . , in に写すとき,σ(k) = ik と書き,この σ を σ = 1 2 ... n と表す. i1 i2 . . . in ( ) 1 2 ... n を恒等置換といい,1n で表す.二つの置換 σ, τ の どの文字も変えない置換 1 2 ... n 合成変換を σ と τ の積といい,στ と表す.この積は結合律 (ρσ)τ = ρ(στ ) を満たす.ただし,一 般には στ ̸= τ σ である.また,置換 σ の逆変換を σ の逆置換といい,σ −1 と表す.二つの文字 を交換し,他の文字を不変にする置換を互換といい,i と j の互換を (i, j) で表す.特に隣り合う 文字の互換 (i, i + 1) を隣接互換と呼ぶ. 命題 3.2.1 任意の置換は有限個の互換の積で表される. 20
© Copyright 2024 ExpyDoc