ぜつゆちゃくしょう舌癒着症・・・、おそらく皆さんはこんな疾患を聞いたこともないと思います。これは、下あごに付いている舌の位置が先天的に前方に位置しているために、舌がしかし、この疾患を知り、治療することヒキツレ(ひきつった状態)を起こし、舌ので、われわれが抱えているさまざまな症状後ろにある喉頭蓋(のどの奥にあり、誤ってが改善されることが最近分かってきました。気管に食事などが入り込まないようフタの今回はこの舌癒着症についてお話しします。役目をする部位)や喉頭全体が前上方に引っ張られたり曲がったりした状態のことです。当然、呼吸をつかさどる喉頭がゆがむ舌癒着症とはどのような病気でしょうか？こうとうがい正しくは、“先天性舌癒着症、喉頭蓋・こうとうへんいしょう喉頭偏位症”といいます。それこそなんだかか舌を噛みそうな名前ですね。ので、呼吸が制限されてしまいます。このままの状態でいると、乳児ではおっぱいを飲みたくてもうまく飲めない、よくむせる、途中で飲むのをやめてしまう、などが起こります。その結果、母親は乳腺炎や乳頭亀裂をきたしやすく、ほ乳行為に苦管の偏位を確認します。これで診断は終わ痛を伴ってしまいます。他にも寝つきが悪りです。く、乳児でもいびきや睡眠時無呼吸症をきたす場合もあります。治療法は手術療法です。舌の付け根の部分を局所麻酔(年齢によっては全身麻酔)で一方小児では、歯並びや姿勢の悪さ、声レーザーを用いて切り開き、その奥にあるが小さい、発音が悪い、協調性に乏しい、頤舌筋(「おとがいぜつきん」とも言う)を落ち着きがない、怒りっぽい(キレやすい)、切開します。この筋肉は喉頭開大筋であり、依存心が強く甘ったれ、いびき、睡眠時無のどを開く筋肉です。この筋肉のヒキツレ呼吸症、などの症状が現れます。を切ってあげることで、のどの位置は正しいぜつきんそして、成人ではこれらの症状に加え、くなり呼吸が楽になるため、さまざまな症肩こり、腰痛、冷え性、肌荒れ、顎関節症状が改善されるというわけです。赤ちゃんなど多岐にわたる症状を呈するようになりから大人まで手術は日帰りで可能です。ます。特にいびき、睡眠時無呼吸症は重症日本におけるこの手術のパイオニアであ例が多く、二次性高血圧や不整脈、糖尿病る向井診療所の向井將先生によると、乳児などを引き起こす原因にもなります。のほ乳の改善率は 80％以上であり、小児やすすむしかもこの疾患は常染色体優性遺伝注)で、成人のいびき・睡眠時無呼吸症も 70～80％この状態で生まれてくる人の方が多いといと高率の改善が見られます。私のクリニッわれています。実はこの疾患の歴史は古く、クでも手術をしていますが、やはり同様のすでに 16 世紀にはフランスのパレという効果が得られています。さらに、小児では医師がこの疾患の概念と治療法を確立して集中して物事に取り組むことができるよういました。当時のヨーロッパではほぼ全例になり、学校の成績が上がったとか、コミの赤ちゃんが、出生直後にこの手術を受けュニケーションが図られるようになり、友たとする報告が残されています。人が増えたなどが、また大人では睡眠が深くなり日々の疲れが取れた、肩こり、腰痛、舌癒着症の診断と治療法は？実は、この疾患の診断、治療はいたって簡単です。診断は、口を開けてもらい舌の冷えなどが改善し生き生きしてきた、など手術を受けた方々の喜びの声を多く聞きます。位置を確認します。この際、舌小帯という私のクリニックではアンチエイジングの舌の裏側のスジの有無は関係ありません。一方法ともとらえています。ですから私自その後ファイバースコピー(径が数㎜の細身もこの手術を受けました(自分でやるわい内視鏡)を鼻から入れ、喉頭や喉頭蓋、気けにはいかないので向井先生にお願いしました)。果に驚き、喜び、舌癒着症の治療を世の中に広めようとする“舌癒着症ママの会”がなぜ舌癒着症の治療が広まらない？発足され、草の根運動が始まっています。歴史が古くこんなに素晴らしい手術なの前述した向井先生や神奈川歯科大の山本伊に、一般の方々はおろか、医学界にはまっ佐夫先生らが舌癒着症学会を立ち上げ、私たく広がっていません。それはなぜでしょも参加させていただき地道な活動が展開さう？残念ながら 20 世紀初頭に、メスを持たれています。ない医師から「こんな手術はする必要がな私のクリニックには連日、舌癒着症かどい」といわれ始め、そのままこの意見が通うか診てくれと、耳鼻科医、小児科医、歯ってしまい、現在では小児科の教科書から科医、助産師らから大変多くの患者さんのこの疾患が削除されてしまったからです。紹介をいただいています。ここでは詳細は記述できませんが、医学界これからのわれわれの健康を考えると、などの複雑な事情が絡んでいるようです。舌癒着症というこの古くて新しい疾患概念したがって、この治療に関しては現在保が再び日の目を見るのもそう遠くはないで険適用が認められていません。いわゆる自しょう。由診療になってしまいます。また、この治療や手術ができる病院は極めて少ない状況安全と健康 Vol.10 No.11 2009 P80-81 です(全国でも 6 カ所ほど)。これはとても残念なことです。これからの舌癒着症現在、この手術を子供に受けさせその効注)両親のどちらかから異常な遺伝子を受け継ぐと発症するもの