計画の創発

第 58 回日経・経済図書文化賞決まる
受賞作品
計画の創発
―サンシャイン計画と太陽光発電
島本実著
有斐閣 xxii,387 ページ、5000 円(税別)
書評
異なる現実の重層化 再認識
一橋大学教授
沼上幹
経営組織論を学ぶ人が感じる面白さの一つは多様なパラダイムが単一の理論体系に収束せ
ずに対話を続けていること、あるいは、その対話を通じて少しずつ現実の理解が深まるのを
体感できることではないか。本書では、まさにその面白さが一冊で味わえる。
著者は太陽光発電技術の開発を促進した通産省(現経済産業省)のサンシャイン計画がた
どった歴史に注目し、その計画の組織プロセスを3つの視点から分析している。
トップ(通産省の中核官僚)が合理的に環境適応しようとして組織が動いているという視
点。組織内の部門が自部門の生き残りをかけて行動した結果として組織全体が動いていると
いう視点。個々の技術者が自分の関わっている技術について魅力的な未来像を描き、周囲を
巻き込んで主体的に組織化した結果として巨大プロジェクトが動いているという視点。
その3つのどれが正しいというのではなく、それぞれに見える現実が異なり、その異なる
現実が重層化されていることこそが大規模な組織の現実であることを、私たちに再認識させ
てくれるところに本書の魅力がある。
本来、合理的な思考を経て事前にトップが決めるはずの「計画」と、ミドルや下位層たち
の試行錯誤を経て「創発」する現実を、同じタイトルの中に統合している点に、著者が本書
で目指した狙いが示されている。
外交史の古典、G・T・アリソンの『決定の本質』に類似した面白さを堪能できる好著で
ある。