座屈拘束ブレースの分岐経路追跡

座屈拘束ブレースの分岐経路追跡
Bifurcation Path Tracing of Buckling-restrained Braces
栗山 好夫
KURIYAMA Yoshio
職業能力開発総合大学校東京校
吉田 競人
and YOSHIDA Keito
Tokyo institute, Polytechnic University
Abstract
The main purpose of Buckling-restrained Braces (B.R.B) analysis is not only to trace the bifurcation phenomena of the
steel brace in its buckling-restrained cover but also to clarify the influence of important parameters such as friction and
clearance between the steel brace and its cover, the clearance and initial crookedness. From the above view point, we
have proposed an appropriate contact analytical model for tracing bifurcation phenomena of the steel brace based on
force controlled method. The proposed method has succeeded to trace the bifurcation phenomena of a B.R.B model.
However, the method was not sufficient for obtaining the hysterical loop of the steel brace. For obtaining the accurate
relationship of the force- deformation of the steel brace, the time history method analysis is applied for the same B.R.B.
model. The obtained results based on the analysis show the bifurcation phenomena and the possibility of tracing the
relationship of force-deformation of the steel brace.
Keywords: Buckling-restrained Brace, Bifurcation Path, Time-history analysis, FEM, Buckling, Contact
座屈拘束ブレース,分岐経路,時刻歴応答解析,有限要素法,座屈,接触
1.はじめに
効な制振部材となり,図 2 に示すように多くの建物
に使用されている.図 3 は地震時における座屈拘束
ブレースの挙動を従来のブレースと比較したもので
ある.
より積極的な制振要素としての利用を考えるため
には,今後補剛材と芯ブレースの間隙,補剛材の必
要剛性が分岐に及ぼす影響および摩擦などのパラメ
ータを含めて考慮するとともに,芯ブレースに生じ
る波状の変形モードとの関係を明らかにする解析が
必要である.
昨年度の ANSYS Conference 2006 Japan では,おも
にこのモードの分岐について報告した(11).
座 屈 拘 束 ブ レ ー ス ( Buckling-restrained Brace:
BRB)は従来アンボンドブレース(Unbonded Brace)
と呼ばれ,日本では 1980 年代から現在まで多くの
研究 (1) ~ (10) がすすめられていて,最も多く用いられ
ている制振構造要素のひとつである.
通常の鉄骨ブレースは水平力に対して有効かつ効
率的に抵抗する制振構造要素であるが,一般的に鉄
骨ブレースの細長比は大きく圧縮力が作用した時の
座屈は避けられない.また,コンクリートなどによ
る座屈拘束材を使用した場合は,軸剛性が高まり周
辺の柱に軸応力が集中し設計が困難になる.これら
の欠点を解決するために考案されたものが図 1 に示
す座屈拘束ブレースである.すなわち座屈拘束のた
めに芯ブレース外側に剛性の高い部材を配置し,座
屈を拘束すると共に,これにより軸剛性をもたらす
ことがないように芯ブレースとの付着を排除した制
振部材である.
この座屈拘束ブレースは,軸方向力を伝達する芯
ブレースと座屈を拘束する補剛材から構成され,こ
れら部材間のアンボンド材により付着力を排除して
いる.座屈が補剛材により拘束されているため,圧
縮と引張の繰り返し力を生じる地震などに対して有
図 1 座屈拘束ブレースの構造
1
F( u , f ) = 0
…(1)
ここで, F は非線形関数ベクトル, u は変位ベク
トル, f は荷重パラメータである.
式(1)は変数 n 個と荷重 1 個の合計 n+1 個の未
知数を持つが,式は n 個しかない.したがって,式
(1)を解くためにはなんらかの条件式を一つ余分
に与える必要がある.その与え方により,釣合い経
路追跡法に三つの制御法がある.
余分な条件式を与えて,釣合い式を満足する解
( u , f ) を求める各解法の操作を繰り返すことによ
り釣合い点の列が求められる.このような釣り合い
点の列またはこの列の補間曲線として釣合い経路を
数値的に求めることが経路追跡法の目的である.
図 2 座屈拘束ブレースの適用例
2・2 経路追跡法(12)
(1)荷重制御法
・荷重 f の値を与え経路を追跡する.
・荷重変数の極大点を超えると経路追跡ができな
くなる.
(2)変位制御法
・変位成分 u の値を与え経路を追跡する.
・変位変数の極大点を超えると経路追跡ができな
くなる.
図 3 地震時のブレース変形
(3)弧長制御法
・求めた釣合い点 ( u , f ) から次に求める釣合い点
( u , f ) までの経路の長さを与えることで釣合
い経路を追跡する.初期値の影響で逆方向に経
路を辿ることがある.
しかし用いた経路追跡法が荷重制御法であったた
め,目的とする荷重―変位履歴線図が得られなかっ
た.
本報告ではこの問題点を解決するために, 適用で
きる分岐経路追跡法を整理して補剛材のない芯ブレ
ースのみのモデルで実験を通して検証した.また,
これらの解析手法を補剛材のある座屈拘束ブレース
の解析に適用した結果,これらから判明した問題点
の対応に困難さを感じたため,ここでは動的解析す
なわち時刻歴応答解析を利用して問題解決を図るこ
とを検討した.この時刻歴応答解析により,現在ま
でに得られた座屈拘束ブレースの荷重―変位線図と
変位―変形モード図を示す.
図 4 は三つの制御法による経路追跡法を図示した
もので,図中の A は荷重変数の極大点,B は荷重変
数の極小点,C は変位変数の極大点を示している.
2.分岐経路追跡法
2・1 釣合い式(12)
ポテンシャル系の非線形の釣合い式(支配方程
式)は次式で与えられる.
図 4(a) 荷重制御法による経路追跡
2
ト(時刻 = 0, Δt , 2Δt ,3Δt , …)で方程式を解く.従っ
て時刻歴応答解析では,時刻の関数である荷重およ
び方程式を解く積分時間ステップを設定する必要が
ある.本問題ではこの現在の荷重ステップで用いる
サブステップ数,すなわち時間ステップサイズを非
常に多くとることで対応できる.
2・4 分岐経路追跡法の検証
分岐経路追跡解析の検証のために,一般的な鉄筋
ブレース(直径 9mm×長さ 880mm の鉄筋)を用い
て図 5 に示す加力装置により図 6 に示す実験とシミ
ュレーション(変位制御法と弧長制御法)の荷重―
変位線図を得た.塑性オプションの設定は単純な 2
直線近似による移動硬化則を用いたが,図に示され
るように,解析値は実物試験結果をよく反映してい
る.なお,荷重制御法では座屈後は追跡できなかっ
たが,その他の経路では他の制御法と同一の値が得
られた.
また,動的解法を適用したときは,座屈後の解が
振動するため,比例減衰係数と時間ステップサイズ
を調整して図 6 に示す解析結果と同じ経路になる条
件を確認した.
図 4(b) 変位制御法による経路追跡
図 4(c) 弧長制御法による経路追跡
2・3 動的解法(時刻歴応答解析)(13,14)
座屈後のある平衡状態を求めるというのであれば
動的解析を利用することも一つの手段とすることが
一般的に考えられる.そこで,経路追跡法の手段と
して時刻歴応答解析の適用を試みた.
動的問題は離散化された運動方程式を時刻 t + Δt
において表すと
[M ]
t + Δt
{u} + [C ]
t + Δt
{u} + [ K ]
t + Δt
{u} =
t + Δt
図 5(a)
L=880 鉄筋ブレースの圧縮実験
(P=-2.06KN, δ=-36.0mm,ε=-4.0%)
{ F } …(2)
ここで, [ M ] は質量マトリックス, [C ] は減衰マト
t +Δt
リックス, [ K ] は剛性マトリックス,
{u} はある
t + Δt
時刻 t + Δt における変位ベクトル, [ K ] {u} はこ
t +Δt
のときの内力ベクトル, { F } は外力ベクトルで
ある.
通常の解析では式(2)をそのままの形で直接時
間方向に解き進む手法,すなわち直接時間積分法を
用いている.ANSYS では離散化された時間ポイン
トにおいてこの方程式を解くために,Newmark の時
間積分法を採用している.この方法では,積分時間
間隔(積分時間ステップ)を設定し,各時間ポイン
図 5(b) 引張実験(右端が切断)
3
荷重P[KN]
40
35
30
25
20
15
10
5
0
-5
シミュレーション
実験結果
-60
図6
図 7 において,中央に位置する芯ブレースを両端
固定端として上部から鉛直方向の集中荷重 P を加え
るため,45×90×45 の形状を水平方向の自由度を拘
束して上部に追加した.また,両側の補剛材と芯ブ
レースの間隙を e として,この影響を検討した.
なお,芯ブレースおよび補剛材とも並進 2 自由度
を有する中間節点のある二次元ソリッドを用い,芯
ブレースは横幅 45 を 5 層に分割した 9×9 の要素サ
イズで,補剛材は相対的に剛性が大きいので約 40×
40 で分割した.また,芯ブレースは初期不整形状を
含めておかないと軸圧縮方向の変形モードしか得ら
れないので,これを線形座屈解析の一次モードとし,
その最大振幅を 0.01mm として与えた.これも分岐
点の解決法の一つである.
-40
-20
0
20
変位δ[mm]
40
60
L=880 鉄筋ブレースの圧縮・引張
実験と解析結果の比較
3.解析概要
3・3 材料特性
芯ブレースの材質には SS400 を想定し表 1 の特性
を有するバイリニア型を仮定した.補剛材のヤング
率 EC は芯ブレースの座屈を十分拘束できるように
芯ブレースのヤング率 E1 の 1000 倍と 100 倍の弾性
体と設定した.
3・1 解析プログラム
解析では汎用コード ANSYS Rel.9.0 を用いた.ま
た,座屈拘束ブレース問題では幾何学的非線形(大
変形問題),材料非線形(弾塑性問題),状態変化
(接触問題)が含まれる.これらの非線形問題のた
めに,ANSYS では反復処理として Newton-Raphson
法が用いられている.
4.解析結果
3・2 解析モデル
モデル形状は吉田ら(7),(8)が補剛材の必要剛性を求
めるために用いた実験形状を参考にして,芯ブレー
ス形状は 45×90×4680 を解析用に用いた.このモ
デル形状の詳細を図 7 に示す.
分岐経路追跡法検証の成果を受け,補剛材を付け
た座屈拘束ブレースで変位制御法と弧長制御法によ
る解析を試みた.昨年度のモデル(11) や図 7 のモデ
ルの一部において解は接触問題を含むため発散しや
すく,収束させるための条件設定がモデルにより異
なり,静的解法では試行錯誤が多いと考え,本報告
では時刻歴応答解析を適用することにした.
4・1 補剛材のヤング率 1000E1 モデル
昨年度のモデルと同じく補剛材のヤング率 EC が
芯ブレースのヤング率 E1 の 1000 倍として,ブレー
スと補剛材の間隔 e をパラメータにして,このとき
の圧縮荷重―変位線図を図 8 のように求めた.
図中の e=300mm は軸方向変位が 20mm までの範
囲では補剛材と芯ブレースが接触することがないた
表1
材料特性
ヤング率(E1)
降伏応力( σ y )
図 7 解析モデル
4
206 GPa
261 N/mm2
第二勾配(E2)
0.01 E1
ポアソン比(ν )
0.3
め,図 6 と同様な補剛材のない芯ブレースのみの
解と完全に一致している.
また,e=22mm 未満で解は軸方向変位が 6mm 前
後を超えると計算が停止(反復計算が収束せず計
算が破綻)することを示している.これは収束で
きない分岐点に出会ったものと考えられる.なお,
このモデルの理論上の降伏荷重 Py は 1055.8KN,線
形座屈荷重 Pcr は 253.5KN であり,このときの図中
の数値は解析結果の出力の反作用値を示している.
図 9 は間隙 e=22 mm における変位―変形モード
図を示しており,図 10 は e =0.1mm のモデルのそれ
である.図 8 の間隙 e =0.1mm のモデルでは降伏荷
重に達しており,図 10 に示すように 5 次の変位モ
ードまで移行している.これに対し,e=22 mm の
δ=3(mm)
4
5.7
6
6.02
図 10 間隙 e=0.1 における変位―変形モード図
図8
モデルでは降伏荷重まで進まず,図 9 に示すように
変位δが 10mm で 3 次の変位モードである.
これらのことから,弾性域内で 5 次の変位モード
まで分岐させることができれば,ほぼバイリニアの
履歴を示し,望ましいエネルギ吸収特性が得られる
可能性があることを示唆している.
なお変形モード図は,出力時に相対的に変形量が
大きい芯ブレース部の変形後の軸方向長さがほぼ一
定となるように正規化されているものをそのまま並
べてある.また,変形モードを明確にするため出力
後にさらに図 9 では 450~20 倍に,図 10 では 400~
350 倍に拡大処理して示してある.
EC=1000 E1 の間隙 e による荷重―変位線図
δ=4(mm)
7
10
20
4・2 補剛材のヤング率 100E1 モデル
補剛材のヤング率 EC が芯ブレースのヤング率 E1
の 100 倍として,図 8 と同様にブレースと補剛材の
間隔 e をパラメータにして,このときの圧縮荷重―
変位線図を求め,この結果を図 11 に示した.
なお,e=300mm は図 8 と同一値で,e=22mm 以
下は比較のために示した.図より e=0.1mm のとき
に再現させたい荷重―変位線図が得られたことを示
している.図 12 はこのときの変位―変形モード図
である.図 8 と比較すると 5 次の変位モードから
6,7 次の変位モードへと分岐しており,このために
は適切な剛性の存在があることを示唆している.こ
の場合も弾性域内では 5 次の変位モードまで分岐し
ており,エネルギ的に安定な高次のモードに分岐す
るモデルが得られた.
30
図 9 間隙 e=22 における変位―変形モード図
5
2.
3.
4.
EC=100 E1 の間隙 e による荷重―変位線図
図 11
5.
6.
7.
8.
δ=2(mm)
図 12
4
6
6.05
6.3
6.5
8
20
9.
EC=100 E1 の間隙 e=0.1 における
変位―変形モード図
10.
5.まとめ
(1) 本研究の問題を各種の手法で分岐経路追跡を試
み,適用時の問題点を確認した.
(2) 時刻歴応答解析により,基本モデルでの荷重―
変位線図を得ることができた.
(3) 芯ブレースと補剛材との間隙および補剛材の剛
性が分岐に影響することを明らかにした.
11.
12.
13.
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