開催報告~総括にかえて - 藻類バイオマス・エネルギーシステム研究拠点

藻類バイオマス国際シンポジウム開催報告
総括にかえて
本年9⽉に野村コンファレンスプラザ⽇本橋(東京)で開催した「藻類バイオ
マス国際シンポジウム〜藻類の恵みを⼈類へ〜」は、藻類産業の育成を図るとい
う同様の趣旨で活動している⽇本の藻類産業創成コンソーシアムと⽶国の藻類バ
イオマス機構 (Algae Biomass Organization: ABO)が連携を進めるためのキッ
クオフとして企画したものである。⽶国の藻類バイオマス開発に関わる政府機
関、アカデミア、企業に講演をお願いし、⽇本側からも可能な限り対応する省
庁、研究プロジェクト、企業にお願いしてご講演をいただいた。ご講演をいただ
いた、経済産業省、農林⽔産省、⽂部科学省、出光興産株式会社、株式会社デン
ソー、マツダ株式会社、中央⼤学原⼭重明教授に主催者としてお礼申し上げた
い。⽶国、⽇本、⽶国、⽇本のように関連する講演を交互に配置したので、参加
者の皆さんにとっては、⽇⽶を⽐較しながら藻類バイオマス研究開発の現状を理
解する助けになったのではないかと思う。およそ1ヶ⽉という普通ならあり得な
い短期間の広報と参加受付だったにもかかわらず、幸いにも257名(うちコン
ソーシアム会員112名)という会場がほぼ満席になる⽅々の参加をいただき、盛
ABO Mark Allen⽒
会裏に終わった。⽶国エネルギー省 (DOD)、農務省(USDA)、国防総省太平洋軍
指令部(DOD PACOM)、再⽣可能エネルギー研究所 (NREL)というバイオマス
活⽤の政策に関わる政府機関の参加と、すでに藻類バイオマスの事業化に成功し
ている主要企業の参加は相当に関⼼を引いたことが窺える。ここでは、シンポジ
ウムに参加した個⼈としての印象を述べて、総括に替えることにしたい。
スピード感にあふれた⽶国の藻類バイオマスに関する政策の数々は驚くべきも
のだった。印象深かったのは、これらの政府機関の間で連携がうまくとれてい
て、実⽤化に向けた開発ロードマップが作られていることだった。ABOがうまく
機能して政府機関と⺠間をつないでいることがよく分かり、⼤変参考になった。
もう⼀つ感じたことがある。⽶国の藻類産業の実⽤化に国防⾼等研究計画局
(DARPA)が深く関わっていることである。DARPAといえば、インターネットの
開発、GPSの実⽤化を実現した機関である。それが藻類バイオマスの実⽤化プロ
ジェクトに乗り出している。DARPAは⼤統領と国防総省⻑官直轄の機関だか
ら、エネルギー安全保障を進めるオバマ⼤統領の意向が背後にあると思われる。
⽶国の本気度と政策のスピード感の背後に何があるか想像できる。
⽶国太平洋軍 Joelle Simonpietri⽒
NRELの発表にあったATP3も興味深く、上⼿に政策を進めるとこんなことができるという⾒本に思えた。これは、Algae
Testbed Public-Private Partnership のことで、⽶国各地に設置された共同利⽤が可能な藻類バイオマス⽣産施設のことで
ある。これらの施設を使って商業化に向けたテストをすることができる。藻類の応⽤研究を加速し、短期間で産業化につな
げようというのである。DOEとアリゾナ州⽴⼤学がスポンサーとなって運営し、NRELのほか、⼤学、研究機関、企業が
パートナーとして参加している。詳細はわからないが、政府の⽀援で設置した施設をATP3施設として活⽤し、利⽤者はお
そらく成果の⼀部をATP3コミュニティーで共有するというかたちで参加が可能になっているのだと思う。少ない投資で技
術開発を加速するすぐれたしくみである。このように、⽶国の藻類バイオマス研究開発はオールアメリカ体制で進められて
いる。想像していた以上に、緻密に組み⽴てられており、⽇本は相当遅れをとっているというのが実感である。
⽶国企業の藻類ビジネスの発表も興味深いものだった。それぞれの企業が独⾃の現状認識と分析にもとづいて戦略を⽴て
ており、⾃信をもってビジネスを展開している。意志決定の速さと事業展開のスピード感は、政策と連動しているとは思う
が、⽇本では感じられないもので、決めて⾏動する⽶国の⼒を感じた。どの企業も燃料を視野に⼊れているが、ビジネスと
して成⽴する⾼付加価値成分を重視して⾷料や飼料、健康、化粧品に相当⼒を⼊れているのが印象的だった。このスピード
で事業のスケールアップが進むと、当然⽇本やアジアも市場として視野に⼊ってくるに違いない。直ちに⼿を打たないと、
近い将来、市場を席巻されてしまう危機感を抱いたのは参加者のなかで私⼀⼈ではなかっただろう。
今回のシンポジウムで多くの参加者が将来の algae-based industries,algae-based society の必然性を感じたように⾒
受けられたことは⼤きな成果だったと思う。⽇本ではほとんどの⼈が想像できないことが⽶国では現実のものになってい
る。この現実を知ることができたことでも意義あるシンポジウムだったと思う。⽶国側にとっても、⽇本のもつポテンシャ
ルを感じ取る初めての機会になり、今後の連携に積極的な姿勢を⾒せていた。⽇本の企業は⽶国にないすぐれた技術を持っ
ており、今後さまざまな形で進むと思われる連携は双⽅にとって有益なものに発展していくに違いない。今回のシンポジウ
ムが藻類バイオマス開発に関する⽇⽶の政府、企業、アカデミアの交流を促進していく契機になれば、主催者としてこれに
勝る喜びはない。
最後に、シンポジウムの開催にこぎつけ、無事に終了できたのは、藻類産業創成コン
ソーシアム、つくばグローバルイノベーション推進機構、つくば3Eフォーラム、筑
波⼤学⽣命環境⽀援室、藻類プロジェクトに関わる多くの皆さんの献⾝的な仕事が
あったからである。記してお礼申し上げる。
International Symposium
on Algal Biomass
2013年11⽉
藻類バイオマス国際シンポジウム組織委員会
委員⻑
井上
勲
藻類バイオマス国際シンポジウム
〜藻類の恵みを⼈類へ〜
(主催)
藻類産業創成コンソーシアム,
筑波⼤学
つくばグローバルイノベーショ
ン推進機構
つくば3Eフォーラム
(後援)
内閣府,⽂部科学省,
農林⽔産省,経済産業省,
国⼟交通省,環境省