再開発完了地区における団地内商店街の住民参加型ワークショップによる地域再考 ○森田直之* 岡島一樹* 庭野菜津美* 西田直海* 蛭田未和** 橋本正法*** 足立真理子* 中込秀樹* (*千葉大学 **高崎経済大学 ***NPO 法人地域交流センター) Keyword: 再開発 団地内商店街 ワークショップ 【研究背景】 東京都の東側に位置する東京都江戸川区小松川地区(図 1 参照)は、昭和 55 年 3 月から平成 21 年 3 月にかけて第 1 地区〜第 5 地区の市街地再開発完了[1]地区とされた。し かし、未完了地区があるため再度、平成 29 年度末まで事 業が継続されることとなった(図 2(a) 、 (b)参照) 。 図 2(b)市街地再開発施行後イメージ 現在、小松川地区にはトニワンショッピングセンター、 パルプラザショッピングセンター、ショッピングモールリ バーウエスト、春日町通り商店会の 4 商店街がある。これ 図 1 江戸川区の位置(江戸川区 HP より転載) ら商店街は、市街地再開発により、地域にあった商店街を 集約し、団地内商店街としてスタートした。しかし、どの 小松川地区は市街地再開発により、区画が整理され、街 商店街にもシャッター化の波は寄せ始めている。さらに、 はきれいになったが、かつての街並みは失われ、にぎわい 他の地域と同じで高齢化、 後継者問題も抱えている。 最近、 も失われている。また、既存組織の町会(小松川一・二丁 全国的に問題になりつつある買い物弱者の問題は、再開発 目町会、三丁目町会、四丁目町会)はすでに機能しなくな によって既存の商店街を集約した新しい商店街を形成した っており、現在機能しているのは再開発により建築された ような地区である小松川地区でも、このまま放置すればい 高層住宅ごとに組織された自治会である。小松川地区にお ずれ表面化するのではないかと危惧される。しかし、地域 ける自治会はすでに 20 以上が存在し、 その集約は難しく、 には大きな公園も整備されており休日には、他の地域から 地区で行われてきた神社を中心とした祭も平成 13 年以降 人が遊びにくる地区にもなっている。ところが、残念なが 執り行われていない。さらに団地内に整備された団地内商 ら商店街への人の導線がつくれていない。私たちは本研究 店街もすでに開設から 20 年近くが経過し、シャッターが において、小松川地区の文化を再考し、現在運営されてい 目立つ地域となりつつある[2] 。 る商店街が継続されるように人の導線をどのようにつくる べきか、何をするべきかを考えた。 【研究対象地】 小松川地区にある 4 商店街のうち小松川地区の中心部分 にあるパルプラザショッピングセンターを研究対象地とし た(図 3 参照) 。この商店街は以前、私たちがシャッターペ イントをお手伝いした経緯があり、そのこともあり今回、 研究対象として活動を行った。パルプラザショッピングセ ンターは団地内の中心にありながらシャッターの降りた店 図 2(a)市街地再開発施行前イメージ も目立つ。何より、現在、生鮮 3 品が揃わないため集客力 にも課題がある。そのため活気も明らかに減少している。 今年で 14 回目を迎えるが、全国の浅見光彦ファンが集 まり、昨年の手帖の発行部数は約 2 週間の開催期間で 4 万 部を超えている。 図 3 研究対象としたパルプラザショッピングセンター 【事例研究】 図 5 期間中の霜降商店街の様子 地域の文化を掘り起こし、その文化を上手に活用してい る地区を探した。東京都北区に霜降商店街という商店街が ある。ここは北区西ヶ原が近く、作家である内田康夫氏の 【研究方法】 作品「浅見光彦シリーズ」の主人公である浅見光彦が住む 霜降商店街の事例を参考にして、本研究では、パルプラ 街である。霜降商店街では、この浅見光彦を使い、内田康 ザショッピングセンターを中心にした人の導線をつくるこ 夫氏の協力も得て、毎年 5 月の連休後に「ミステリーウォ とができ、小松川の文化を発信する地図づくりを目指すこ ーク」というイベントを平成 14 年から開催している(図 4 とにした(図 6・表 1 参照) 。 参照) 。 図 6 住民の方を交えて街歩き 表 1 研究作業工程 図 4 イベントで配布される手帖 このイベントでは、参加希望者は霜降商店街の他、近接 する駅や公共施設などで手帖を手に入れる。その後、この 手帖を読みながら街歩きをさせる仕組みになっている。手 帖は内田康夫氏の書き下ろしの作品になっており、作中で STEP1 住民の方々と小松川の街歩き STEP2 住民の方々と文化や材料の洗い出し STEP3 商店街の方々とワークショップ STEP4 再度、街歩き STEP5 地図のコンセプトをつくる STEP6 人の導線をつくれる地図を目指す はところどころキーワードが空欄になっており、作中人物 である浅見光彦の動きと同じように街を歩くとそのキーワ 【調査結果】 ードが埋められるようになっている。途中、商店街では手 研究におきて実施した街歩きは、パルプラザショッピン 帖を持っていることによって受けられるサービスがあり、 グセンターのみなさんに協力してもらい、住民の方々と子 参加者は楽しみながら街歩きができるようになっている どもたちに参加してもらい行った。街歩きでは子どもたち (図 5 参照) 。 に街を紹介してもらう形で行った。このことにより、子ど もたちも知らなかったことや文化を知る契機になったと考 えている。 ワークショップは 2 泊 3 日の合宿形式で行った。 図 8 小松川神社の狛犬 図 7 街歩きからわかった要素の抽出 東京大空襲の痕跡を残す史跡もある。この小松川地区を 流れる川は荒川と旧中川であるが、旧中川では東京大空襲 街歩き調査の結果、小松川には次のような材を見つける ことができた(表 2 参照) 。 で約 3000 人の命が犠牲になっている。これらの史実は地 域住民にとって重要な情報となり得る。街歩きによって地 域の人々も知らないという文化や史跡があった。そこで、 表 2 抽出した要素 私たちは地域住民とワークショップを行ないながら、地域 抽出した要素 内容 の再考を行った。この結果、2 つの機能を持たせた地図を 小松川神社 獅子に関する昔ばなしが存在している 作成することを目指した。1 つ目の機能は、休日に公園や 小松川神社の狛犬 親子とも思える狛犬が鎮座している 水辺にやってくる人々が商店街に向くような街歩きの案内 旧江戸川区役所書庫 東京大空襲で焼け残った戦争遺産 になる機能、2 つ目の機能は、住民の人々にとって自分た 逆井の渡し 安藤広重 名所江戸百景に描かれている ちの住む街を知る機会を提供する機能である。これら 2 つ 旧小松川閘門 昭和 5 年完成の荒川と中川をつなぐ閘門 荒川ロックゲート 平成 17 年に完成した新ロックゲート(閘門) 川の駅 水陸両用の乗り合いバスであるスカイダック スカイダック 発着場があり無料の足湯施設が 人工的につくられた川であることを知ってい 荒川放水路 る人は少ない 水辺空間としてボートなど活気にあふれてい 旧中川 る の機能を持つ地図の作成に着手した。 【研究結果】 私たちは 2 日間の合宿を行ない、商店主、住民の方との ヒアリングを行ない、地域の小学生とともに街歩きを行い、 街の要素の抽出を行なった。その後、住民の方とともに地 図上に要素を書き出し、地図にしていくことを行った(図 9 参照) 。 スーパー堤防上に植栽され、桜の季節は絶景 小松川千本桜 になる 都立大島小松川公園 休日は人で溢れ、BBQ も可能になっている 小松菜 小松菜の発祥地である 小松川は小松菜の発祥の地でもある。かつて、鷹狩り来 られたハ第八代将軍吉宗公に献上され「小松川の菜っ葉」 ということで「小松菜」と命名されたという逸話がある。 小松川神社には、とても不思議な狛犬が鎮座している(図 8 参照) 。親子のようにも思える。さらに小松川神社に奉納 されている獅子頭に関する昔ばなしが残っており、地域に とって重要な要素になると考えられる。また、神社の境内 には猿の道祖神も鎮座している。江戸の名残を感じられる。 図 9 作成した地図 私たちが、街歩き、ヒアリングを経て作成した 2 つの機能 図をベースにして地域住民と商店街をつなぎ、地域を学ぶ を持たせた地図は、パルプラザショッピングセンターを中 機会の提供や地域を知るイベントなどに発展させていきた 心に描かれている。パルプラザショッピングセンターを起 いと考えている。市街化再開発地区の街はきれいである。 点として小松川散策ができ、私たちが洗い出した文化、景 しかし、そのことによってそれまであった商店街は減少し、 勝地を巡られるような仕組みにした。約 40 分で再び、パ 集合住宅に付帯させるように新たな商店街としてスタート ルプラザショッピングセンターに戻ってこられるコースも したが、様々な要因によってシャッターも降りている。こ 付帯した。 れをストップさせ、新たな出店を促すポイントは集客力に なる。小松川地区は大型商業施設もなく集客力のポテンシ 【考察・今後の展開】 ャルは高いといえる。さらに、このような商業空間は守っ 本研究では、これまでつくられてきた街歩きのための地 ていかなくてはならない。高齢社会を迎えている日本は話 図から一歩踏み込んだ機能を持たせることをコンセプトに 題であるが、2020 年には東京でも高齢化率 25%を超える 地図を作成した。研究の過程では、地図を作成することを と予測されている。つまり、買い物弱者の問題が表面化し 目的に活動を行ってきたが、地域住民とともにワークショ てくるのではないかと危惧している。これらの課題を事前 ップ形式で街歩きを行った結果、それまで住民でも知らな に防ぐためにも商店街に活力が必要である。そのために本 い史跡や昔ばなしがあること、これまで素通りしていたも 研究では、人の導線をつくる仕組みを考えた。今後は、さ のが実は、歴史あるものであり、地域の文化を教えてくれ らに住民を巻き込んだ商店街に活力を与えるような仕組み る学びになるものであることを知ることができた。 づくりに発展させていきたいと考えている。 本研究を通じて、再開発された地区であっても街の記憶 は残っているということを実感した。今回の取り組みによ 【謝辞】 り、人の導線を商店街に導くことにつなげれば、地域振興 本研究は経済産業省平成 25 年度補正地域商店街活性化 と地域再生の第一歩になると考えている。再度、作った地 事業助成金事業「まちの駅連携によるにぎわいづくり事業」 図をブラッシュアップさせ、地域の人にも他の地区から訪 の一環として行われた。本研究にあたり、パルプラザショ れた人にも楽しい街であることを PR していきたいと考え ッピングセンター商店会会長石毛さん、副会長原さん、商 ている。 小松川は市街地再開発により、 住民は新しくなり、 店会会員のみなさまには全般にわたりご協力頂きました。 戸建住宅も商店街もなくなった(図 10 参照) 。 また、 NPO 法人地域交流センターのみなさんには研究のサ ポートをして頂きました。この場を借りて御礼申し上げま す。 【引用・参考文献】 [1] 亀戸・大島・小松川地区市街地再開発事業 東京都 都市整備局 2010 [2] 商店街はなぜ滅びるのか 新雅史 光文社新書 2012 [3] 地域を変えるデザイン 筧祐介 英治出版 2011 [4] ワークショップ 木下勇 学芸出版社 2007 [5] コミュニティーを問いなおす 広井良典 筑摩書房 図 10 昭和 30 年代の春日通商店会 2009 [6] 中心市街地の活性化と今後の役割 山下宗利 経 そのため、小松川地区には高層住宅が多数そびえている。 済地理学年報 第 52 巻 pp251-263 2006 街はきれいになったが、商業面では明らかに活気が失われ [7] テナントの業種の変遷にみる商業空間の変容 角 つつある。 現在は、 町会も機能していないのが実情であり、 田靖彦 日本建築学会学術講演梗概集 2009 各建物の自治会が運営されている。これは、地域の「集合 [8] 深川資料館通り商店街の活性化に関する研究 大 体」ではなく地域の「個」を表現してしまう。今後は、地 浦真由子 日本建築学会学術講演梗概集 2010
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