旧長野駅前広場のシナノキ 中澤 芳正(長野市) JR長野駅が改装される前の、善光寺口側広場には、大きなシナノキが数本あった。 県都長野市、善光寺に代表される観光都市としての長野市、その玄関口である駅前 にふさわしく高さ10メートルを超えていたであろう立派な木に成長していた。 シナノキは、 「長野市の木」に制定されているのである。 その木の下には、左の写真の様な大きな解説表示板が設置されていて、次のように 解説されていた。 市の木 シナノキ シナノキ科 シナノキ属 昔からこの地にはシナノキが多く自生するため 〝科野国〟 と記され、転じて 〝信濃国〟 と 名付けられたといわれます。シナノキは、標高1000m∼1500m位の深山の比較的湿っ た谷沿いに多く自生します。 夏に淡黄色の可憐な花がたくさん集まって咲き、秋に小さな実をつけます。成長すると 高さ15m∼ 20mに達する大樹となり厳しい自然に耐え抜いた風格のある姿となります。 木の皮はしなやかで強く、布、ロープ、美濃紙の原料として、材は割ばし、ベニヤ、木彫り 細工として用いられます。甘い香りのする花からは良質の蜂蜜をとることもできます。 長野市制90周年記念市の木制定 (昭和62年4月1日) JR東日本旅客鉄道株式会社 植樹 (平成元年三月) 駅前広場の西側にもユリノキはあった。バス停の屋根が伸びたその先にそびえていた のである。中央通りへ向かう環境客などを、市内へ案内してくれているようでもあり、 「よ うこそ、信濃路へ」との、歓迎アーチのようでもあったのだ。 そのユリノキは、毎日のように多くの観光客や通勤者が行き交う駅前で、しっかりと歓 迎・歓送を繰り返して来てくれたのだ。平成元年に植栽との記録があるので、以来、20 数年が経過し立派な成人・・、いや・・ 〝立派な成木〟 であったのだ。 多くの人々が行き交う喧噪の中にあっても、確実に花を咲かせ実を結ぶことを、長年 繰り返して来ていたのだ・・と、改めて思うのである。 シナノキの樹皮の繊維は丈夫であり、昔から丈夫な紐として使ったり、布にして用い たようである。樹皮が 〝しなしな〟 することからシナノキなる名称になったのだとも言われ るようだ。長野駅へ行く度に、信州の木・長野の木・シナノキにあやかって、 〝しなやか に生きたい〟 と思ったものである。 長野駅前改装で、そのシナノキを姿を消してしまうのかな?。コンクリートで固めた 〝 信州の玄関口〟 でなく、ハート型をした緑の葉をつけた枝がしなやかに揺れて、多くの 人を歓迎し、元気づけてくれるシナノキの再生を願うばかりです。
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