公認心理師法をめぐるQ&A 2015.10.16 一般社団法人日本臨床心理士会 資格法制化プロジェクトチーム 9 月 9 日に公認心理師法が国会で成立し、9 月 16 日に公布されました。そこで、このた び公認心理師をめぐる Q&A を作成しました。参考にしていただければと思います。 Q1:公認心理師法は、どのような目的のために作られたものですか? A1:公認心理師法(以下、法)の第1条に、「この法律は、公認心理師の資格を定めて、 その業務の適正を図り、もって国民の心の健康の保持増進に寄与することを目的とする。 」 とあります。すなわち、 「国民の心の健康の保持増進」に役立つ心理専門職の資格を担保す ることがこの法律の目的です。 Q2:公認心理師は、どんな業務を行うのですか?(公認心理師の定義) A2:法第2条に、 「この法律において「公認心理師」とは、第二十八条の登録を受け、公 認心理師の名称を用いて、保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する 専門的知識及び技術をもって、次に掲げる行為を行うことを業とする者をいう。 」とあり、 公認心理師の業務は、臨床心理士と同じ幅広い領域にわたることがわかります。 そして、以下が公認心理師の行う行為とされています。 「一 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること。 二 心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談に応じ、助言、指導そ の他の援助を行うこと。 三 心理に関する支援を要する者の関係者に対し、その相談に応じ、助言、指導その他 の援助を行うこと。 四 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供を行うこと。」 この4項目は、臨床心理士の専門業務である臨床心理査定、臨床心理面接、臨床心理的 地域援助、及びこれらに関する調査・研究の4領域と共通しています。 Q3:公認心理師には、どうすればなれますか? A3:公認心理師になるには、公認心理師試験に合格した上で(法第4条) 、公認心理師登 録簿に、氏名、生年月日その他の省令で定める事項を登録されなければなりません(法第 28条) 。なお、法第3条に定められた事由に該当する人は公認心理師になることができま せん。 なお、公認心理師試験および公認心理師の登録は、法に定められた指定試験機関および 指定登録機関が行います。 Q4:公認心理師試験は、誰が受けることができますか? A4:公認心理師試験は、公認心理師として必要な知識及び技能について、毎年1回以上、 文部科学大臣及び厚生労働大臣が行います(法第5条および6条)。 公認心理師試験は誰でも受けられるものではなく、法第7条に定められた受験資格に該 当する人だけが受けることができます。ただし、第7条の受験資格を得ることが出来る人 が出るのは7~8年後になるので、それまでの期間は、経過措置として、附則第2条の「受 験資格の特例」に従って、現在すでに心理職として仕事をしている人や、大学・大学院に 在籍する人に受験資格が与えられます。 「受験資格の特例」については、Q&Aの最後に解 説を掲載しますのでご参照ください。 第7条では①学部+大学院、②学部+実務経験、③これらに準ずる者の3つのルートが 書かれていますが、そのうちメインルートは①の学部+大学院ルートです。この第7条の 受験資格は法施行後に各大学および大学院に設置される公認心理師のカリキュラムを履修 した人に適用されるものですので、その履修者が公認心理師試験を受験するのは早くても 7、8年先になる見込みなのです。 Q5:公認心理師にはどのような義務がありますか? A5:法には、 (1)信用失墜行為の禁止、 (2)秘密保持義務、 (3)連携等の3つの義務 と、資質向上の努力義務が明記されています。以下、3つの義務について順に説明します。 (1)信用失墜行為の禁止 法第40条に「公認心理師は、公認心理師の信用を傷つけるような行為をしてはならな い。 」とあります。この第40条に公認心理師が違反した場合には、公認心理師の登録の取 り消し、または、期間を定めて名称使用を停止される場合があります(法第32条) 。 (2)秘密保持義務 法第41条に「公認心理師は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密 を漏らしてはならない。公認心理師でなくなった後においても、同様とする。」とあります。 この第41条に公認心理師が違反した場合にも、第40条の場合と同じく登録の取り消し、 または、期間を定めて名称使用を停止される場合があります。また、この秘密保持義務の 違反には罰則規定があり(法第46条) 、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せら れる場合があります。 (3)連携等 法第42条第1項には「公認心理師は、その業務を行うに当たっては、その担当する者 に対し、保健医療、福祉、教育等が密接な連携の下で総合的かつ適切に提供されるよう、 これらを提供する者その他の関係者等との連携を保たなければならない。 」とあります。 また、同第2項には「公認心理師は、その業務を行うに当たって心理に関する支援を要 する者に当該支援に係る主治の医師があるときは、その指示を受けなければならない。」と あります。 この条文は、業務を行うにあたって公認心理師と関係者の連携のあり方を定めたもので す。第2項では特に医師の指示のあり方を定めています。第2項に違反した場合には、公 認心理師の登録の取り消し、または、期間を定めて名称使用を禁止される場合があります (法第32条) 。 この第42条第2項については、第45条第2項で「この法律に規定するもののほか、 この法律の施行に関し必要な事項は、文部科学省令・厚生労働省令で定める。」とあり、具 体的な詳細は今後の省令等で定められることになっています。また、衆参両院の委員会に よる附帯決議の第5項において、 「五 公認心理師が業務を行うに当たり、心理に関する支 援を要する者に主治医がある場合に、その指示を受ける義務を規定する同法第四十二条第 二項の運用については、公認心理師の専門性や自立性を損なうことのないよう省令等を定 めることにより運用基準を明らかにし、公認心理師の業務が円滑に行われるよう配慮する こと。 」とされており、省令等における細やかな配慮が今後なされていくように、公認心理 師の側からも行政に働きかける必要が生じるでしょう。 Q6:公認心理師の名称使用制限とはどういうものですか? A6:法第44条には「公認心理師でない者は、公認心理師という名称を使用してはならな い。 」とあり、公認心理師でない人が、「私は公認心理師である」と名乗ることはできませ ん。また、同第2項で「前項に規定するもののほか、公認心理師でない者は、その名称中 に心理師という文字を用いてはならない。」と定められており、これは、公認心理師でない 人が「○○心理師」という文字を用いた名称を名乗ってはいけないということです。 逆に言うと、臨床心理士をはじめとする多くの民間資格の名称は「師」ではなく「士」 の文字を用いているので、公認心理師法が施行されたのちも、それらの資格を使用し続け ることができます。 また、なだらかに移行するための配慮として、名称の使用制限は、法の施行後6か月間 は適用されません(附則第4条) 。 Q7:公認心理師法はいつ施行されますか。 A7:公認心理師法は公布の日(平成27年9月16日)から2年以内の政令で定める日か ら施行されるということなので、遅くとも平成29年9月16日までに施行されることに なります。ただし、指定試験機関に関する規定は、公布日から6か月を超えない政令で定 める日から施行されます。 (以上、附則第1条) Q8:公認心理師法を管轄する省はどこですか。 A8:公認心理師法は文部科学省と厚生労働省が共管する資格になっています。 <受験資格の特例についての解説> 公認心理師法は、附則第2条で経過措置を定めています。経過措置で受験資格を得られる 人は、以下の5つの条件のどれかにあてはまる場合です。 (1) 公認心理師法が施行される日(以下、施行日)以前に大学院の課程を修了していて、 その大学院において一定の科目を履修済みの人。 (2) 施行日以前に大学院に入学した人で、一定の科目を履修して、施行日以後にその大 学院を修了する人。 (3) 施行日以前に大学に入学していて、かつ、一定の科目を履修して卒業するか、また は、それに準ずる人で、施行日以後に大学院に入学して一定の科目を履修して大学 院を修了する人。 (4) 施行日以前に大学に入学していて、かつ、一定の科目を履修して卒業するか、また は、それに準ずる人で、大学卒業後、一定の施設で一定期間以上の業務に従事した 人。 (5) 施行日に、第二条の業務を通算で5年間以上行っている人で、施行日以後に指定さ れた講習会を修了した人。 (この経過措置は、法の施行後5年間に限って行われま す。 ) 以上をもう少し詳しく見ていきましょう。 (1)は、法が施行された時点ですでに大学院を修了している人が、その大学院におい て一定の科目を履修したと証明できる場合です。この一定の科目が何になるかは、省令で 定められます。 (2)は、法が施行された時点で大学院に在籍している人が対象です。この場合、その 大学院で(1)と同じく省令で定められる一定の科目を履修して修了できれば受験資格が 与えられます。 (3)は、法が施行された時点で、すでに大学に入学している場合で、その大学で一定 の科目を履修して卒業した、あるいはそれに準ずると証明できる場合には、法の施行後に 第7条第1号に定められる大学院に進学して修了すれば受験資格が与えられます。必要な 科目や、準ずる人とされる要件は省令で定められます。 (4)は、法が施行された時点で、すでに大学に入学している場合で、その大学で一定 の科目を履修して卒業した、あるいはそれに準ずると証明できる場合には、法の施行後に 第7条第2号に定められる一定の施設で一定期間の実務を行った人は受験資格が与えられ ます。この条件に必要な科目や、実務として認められる施設及び期間については、今後省 令で定められます。 (5)は、 (1)から(4)の条件があてはまらない場合にも、Q2のところであげた4 項目の業務のいずれかを、通算で5年間行った経験があると証明できる場合には、省令で 指定される講習会を受講した上で受験資格が与えられるというものです。これは、法の施 行後5年間に限る特例になります。ですので、施行日に業務を始めたばかりの人もその業 務を続けていけば5年後に受験資格が与えられます。5年間業務を行っていたという証明 をどのようにするのかは、今後省令等で定められます。 このように、公認心理師の受験資格の特例は、臨床心理士をはじめとする現在のさまざ まな心理専門職に配慮して作られています。詳細は今後の省令で明確になります。当会と しては、会員に不利益が生じないように、文部科学省・厚生労働省に対して、会として働 きかけを行っていく必要があると考えています。
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