組織目標の明確化による組織活性化を目指したアクショ ンリサーチ

組織目標の明確化による組織活性化を目指したアクションリサーチ
2004HPO37 加藤 裕美
1.フィー/レドにおける問題点
本研究の対象は、 T地区大学対校戦運営委員会である。この対校戦は、複数の大学の体育会に
よって開催されているものであり、運営委員会には各大学の体育会の渉外局員、計約30人が所属
している.筆者自身もこの運営委員会に所属していたo
この運営委員会における問題点は、組織目標が不明確であることと、委員間でのコミュニケー
ションが不足していることであるo委員は対校戦を運営すること自体が目標化されており、運営
に関するコミュニケーションは会議の場以外ではほとんど行われず、コミュニケーションが規制
され公式化されているといえる。そこで本研究では、この老衰しつつある運営委員会を活性化さ
せようと考えた。
2.研究目的
本研究は、 T地区大学対校戦運営委員会において、対校戦運営の目標を明確化するためにアク
ションリサーチを試み、目標の明確化が組織にもたらす効果について検討することを目的とする。
3.調査方法
本研究は事前・事後デザインで行った0 30項目5ポイント・スケールの質問紙を作成した。項
目は、 「組織目標」 「他大学の運営委員とのコミュニケーション」 「意欲」 「仕事内容に関する満足
度」に関するものであった。アクションの効果を測定するため、 13人の回答者には大学名・名前
またはイニシャルを記入してもらったo事前調査は対校戦期間中に対面での個別実施と郵送調査
を7月中旬に行い、事後調査はアクション直後に行った。
4.事前調査結果とアクションの実施
事前調査から、 ①組織目標があいまいである、 ②運営のためのコミュニケーションが不足して
いる、 ③運営状況に対して不満である、と感じている委員が多いことが分かったoそこで、変革
のためのアクションとして組織目標や運営に対する不満について話し合う場を設けた。話し合い
は18人の参加委員を3グループに分け、少人数で話し合いを行い、その後全体の場で各グループ
で出た意見を発表・共有した。そして、対校戦運営の大まかな方向性について話し合った。
5.アクションの結果と考察
事前・事後調査の回答を用いて因子分析・ t検定を行ったoその結果、 「目標と運営に対する理
解や満足度」因子と「コミュニケーションや仕事に対する充実度」因子について、事前に比べて
事後の平均値が有意に高まっていた。したがって、組織目標について話し合う機会を持ったこと
によって、委員にとって目標の重要度が上がり、目標設定に対する意欲が高まったと思われるo
また、話し合いを小グループ形式で行うことで委員の発言が促され、互いの意見を共有すること
ができたと考えられるo 目標や不満について下級生を含めて話し合ったことで、本研究が今後組
織を活性化させるためのターニングポイントになるといえるであろう0
役割の明確化および共有化のプロセスに関する研究
-部活動の幹部を引退したメンバーの役割明確化を目指したアクションリサーチー
2004HPO49 栗本佳奈
本研究は、 N大学K部の4年生の部活に対する関わり方を明確にし、共有化することを目指し
たアクションを行う。またそのプロセスからグループ内の役割があいまいなメンバーの役割を明
確化および共有化することの必要性を考察していくことを目的とするo また、アクションリサー
チという手法を用いることで、理論を実践に生かし、実生活で起きている問題をより自然な形で
改善することも、ともに目的とする。
方法
研究対象者: N大学K部に所属する4年生のうち、筆者を除いた3名
アクションの方法:役割のあいまいさからくる組織-の参加意識の低下や、共有化していないこ
とによる行動-の移しづらさについての問題を改善するために、筆者と研究対象者と
の話し合いの場を設け、それぞれの思いを話し合った上で、部活の各イベント-の参
加・不参加の意思表示を行った。
分析方法:一連のアクションの前後に同様のインタビューを行うことで事前事後を比較し、 KJ法
によって分析したo
結果
事前事後インタビューのEJ法による分析の結果、インタビュー内容が4つのカテゴリーに分
けられた。それぞれ、部活-の関わり方、後輩との関係、 4年生のイベント-の参加、部活の行
きにくさ、であった。 4年生同士の部活-の意識を共有し、今後どのように部活に関わっていく
かを、意識内のレベルとともに具体的な役割レベルもお互いに再確認することを目的とした話し
合いを行った結果、部活-の関わり方、後輩との関係、 4年生のイベント-の参加のカテゴリー
では3人とも積極的な姿勢が増加した。しかし部活の行きにくさのカテゴリーでは、アクション
の前に比較的積極的な姿勢をとっていたメンバーが、他のメンバーの消極的な意見を聞くことで、
逆に消極的になってしまったo
考察
役割が不明確であった4年生が、インタビューやアクションの話し合いをすることによって、
少しでも後輩のために何をするべきなのか、部活内で自分は何をしたいのかといった自分自身の
役割について話し、言葉という形にすることで、自分の中で明確にすることができ、組織-の所
属感の不安定さは解消されたのではないだろうか。また、アクション中にレヴィンの研究に基づ
いた集団決定法を行ったが、部活-の姿勢が変化したという結果からも分かるとおり、自分の決
定を周囲に宣言することは、自己の行動変容に大きな効果があった。本研究では、 4年生の役割
の明確化および共有化を目的としてきた。しかし次のステップとして、ここで明確化された役割
を後輩に伝えていくことが重要である。そこで今後、この研究で得られた4年生の役割を後輩に
宣言することを予定している。このことにより、 4年生の位置を伝え、 K部の新たな風潮として
確立していくことができると考える。
自閉症児に対する応用行動分析(ABA)の有効性
2004HPO51 桑原有抄
本研究は、将来の生活が円滑になるよう必要なスキルを習得させるために、自閉症児の子ども
に対して応用行動分析(ABA)を用いて早期指導を行い、その方法の有効性を明らかにすること
を目的とした。本研究では、筆者が実際に自閉症児と関わり、それを記録に残し、事例研究法を
用いて検討を行った。
方法
対象児:2歳の自閉症児(男児) H
指導方法:Hの両親の依頼により、週に2回(各2時間) Hの自宅にて、応用行動分析(ABA)
を用いてHと関わった。応用行動分析(ABA)は適切な行動はほうびを与えて伸ばし、
不適切な行動は、ほうびを与えないことによって抑えるというものである。指示は簡
単明瞭なものにし、プロンプトと呼ばれるヒントや手助けを多用して、子どもを極力
失敗させないようにした。そして子どもの正解を引き出し、褒め言葉やくすぐり、お
菓子、おもちゃなどわかりやすいほうびを与えた。
指導期間:Ⅹ年7月からⅩ+1年11月までの1年4ケ月間の指導経過を記録した。
指導経過
本研究では、 Ⅹ年7月からⅩ年+1年11月までを7期に分けて指導の経過を検討した。
Ⅹ年7月では、 Hは単語を少し話す程度で、要求が通らないと、長時間泣き叫ぶことしかでき
なかった。しかし、 Hは2-3期に入り、物の名前や動詞も獲得し、簡単な二語文を話すことが
できるようになった。また5期では、課題が楽しくなったため、強化子を用いなくても指導がで
きるようになった。 7期では強化子は、筆者と課題をすることとなり、筆者が来るとHは自ら椅
子に座っていた。さらに、簡単な会話のやり取りができるようになり、 Hから筆者に「今日は何
に乗って来たの?」など毎回質問をするようになった。 Hはコミュニケーションが成立したこと
が嬉しいのか、答えるととても嬉しそうな顔をしていた。
考察
本研究では、 Hに応用行動分析(ABA)を用いて指導してきた。指導の経過からわかるように、
Hは2歳2、 3ケ月で、応用行動分析(ABA)で単音から指導を始めて、単語も順調に習得し、 7
期には簡単な日常会話もできるようになったのである。
応用行動分析(ABA)は自閉症児を健常者の社会に何とか適合させようとする考えがベースに
ある。自閉症の症状をそのまま受け入れることも必要だと思うが、自閉症児がコミュニケーショ
ンの手段がわからずに、自傷行為をしたり奇声を発しているのであれば、それに代わる手段を早
期から指導していくことも重要であろう。そのため、応用行動分析(ABA)は早期指導として有
効な方法と考えられる。
グループのメンテナンス機能を高めるためのアクションリサーチ
ーグループ活動におけるチェックインの効果について2004HPO86 佐藤祐月
研究目的:ゼミという場は、あくまで学習内容などのコンテントが中心となりがちである。
本研究の目的は、チェックイン(グループ活動の開始時にその時の気持ちを伝えあうこと)
を効果的に行うことで、ゼミのメンバーがお互いの心理的側面にまで関心を持ち、メンテ
ナンス機能が高まるかどうかを検討することである。
重豊=本研究は、 2007年10月から12月にかけて、個別インタビューと事前調査、アク
ション、事後調査①、事後調査②という流れで行われた。研究対象者は、 N大学J学部S
学科oゼミに所属する大学3年次生7名と4年次生8名の計15名であった。 oゼミの授
業では、研究発表や文献講読の前に20分程度を利用してチェックインが行われていたが、
個別インタビューからチェックインに対する様々な問題が浮上したoそれらの問題を解決
するために、 0ゼミのメンバー全員でチェックインについての話し合い(アクション)を
行った。また、チェックインやゼミ中でのディスカッションに対する意識の変化を測定す
るために、アクション前後で質問紙による調査を実施したD
遊星:事前・事後で有効となった14名の3回分の調査データをサンプルとして因子分析
を行い、チェックインについての5因子、ディスカッション中の自分についての4因子、
ゼミ内でのお互いの関係についての2因子を抽出した.一要因分散分析と下位検定の結果、
チェックインについて、 "チェックインの有意義さ"因子、 "受動的態度"因子、 ``沈黙-の
不快感''因子はアクションによる効果が見られ、 "話すこと-の懸念"因子にはその効果が
見られなかった。 "話し合いとのつながり''因子はアクション後ではなく、数週間後に効果
が見られた。ディスカッション中の自分については、 "メンバー-の働きかけ"因子、 "チ
ェックインとのつながり"因子、 "気持ち-の関心"因子、 "プロセス重視"因子の全てに
おいて、アクションの効果が見られなかったo また、ゼミ内でのお互いの関係について、
"関係の薄さ''因子と``関心のなさ"因子にもアクションによる効果は見られなかった。
畳盈=チェックインについての因子にいくつか有意な変化が見られたことから、チェック
インについて話し合うことで、メンバーがその意義を感じ、主体的に取り組めるようにな
ったといえる。しかし、ディスカッションやゼミ内でのお互いの関係についての因子には
有意な変化は見られず、チェックインが効果的になっても、その後のディスカッションに
おいてメンテナンス面にまで意識を向けることは困難であることが分かった。
組織と個がともにあることをめざしたアクションリサーチ
ー現状に合わない集団規範の変革を中心に2004HPO89 清水美緒
問題と目的
個人が集団の中で行動するとき、個人の私的な利害と集団全体の利害とは必ずしも一致し
ない(山口, 1998)。大学の部活組織では、チームの目標達成を優先するあまり、個の事情
を無視するような厳しすぎる集団規範が形成されてしまう場合がある。本研究の目的は、現
状に合わない厳しすぎる集団規範を変革することによって、組織と個がともにある可能性が
増大することを実証するとともに、組織における規範について考察することである。
重患
大学の部活組織における部員数の減少という問題に対して、アクションリサーチ法を用い
て研究を行った。具体的な流れとしては、 2006年12月に問題把握のための調査、 2007年5
月に調査結果を参考にしたアクションの提案(2007年5月から9月にアクションを実施)、
2007年5月(pre調査)と9月(poSt調査)にアクションの効果を測定するための調査を
実施した。アクションの具体的な内容は、 「冠婚葬祭以外の休みは認めない」という今までの
規則を、 「冠婚葬祭+学業以外の休みは認めない」という新たな規則に変更し、学業による休
みを規則として認めることにより、 「授業(出席をとらない)よりも部活を優先する」という
集団規範を変革するというものであった。
盤星
2007年5月と9月に実施した調査について、因子分析(主因子法、プロマックス回転)
を実施し、 3因子の合成得点の変化を調べた。 「部活動に対する意欲・価値観」因子と「欠席
-のひけめ」因子の合成得点は、 pre調査時に比べてpoSt調査時の平均値が有意に変化して
いた。 「学業との両立の困難さ」因子の合成得点は、わずかに増加したが有意差はなかった。
これらの結果から、個より組織の事情を優先するような厳しすぎる集団規範を変革したこと
は、欠席-のひけめという部員のストレスを軽減し、部活動に対する意欲の向上に影響を及
ぼすということが分かった。
量藍
大学の部活組織において、本業である学業(組織から見れば個の事情)を疎かにしないと
いう意識を持つことは、部員のストレスを軽減し、部活動に対する意欲の向上に影響を及ぼ
すということが示された。また、本研究を実施したことにより、部員を苦しめる他のストレ
ス要因の存在や、自分たちの部活組織に対する問題意識の低さなど、新たな課題も発見され
た。これらのことから、大学の部活組織は、環境に開かれたオープン・システムであること
を意識し、大学における授業時間の変更や生活環境の変化に柔軟に対応し、組織と個がとも
にあることをめざした集団規範の変革を繰り返していくことが大切であるということが示さ
れた。
幼児に対する音楽教育におけるモンテッソーリ・メソッドの有効
2004HPO95 鈴木 真由
研究目的
本研究の目的は、幼児たちにモンテッソーリ・メソッドを基にした活動と整った環境
を提示していった結果、モンテッソーリが提唱している集中現象が幼児に生じ、幼児が
ピアノレッスンに集中するようになるかどうかを明らかにしていくことである。
方法
研究法:観察法で行った。レッスン場にカメラを設置し、対象者の集中現象が生じてい
る時間を計測し、プレ調査とポスト調査の時期と、 5つのアクション内容による2要
因の分散分析をSPSSで行った。
内容:アクションはモンテッソーリ・メソッドを元にした音楽プログラムを行った。音
符カルタ、リズム運動、歌、ピアノ演奏を2曲の計5つのアクションである。音符カ
ルタや、曲のテンポに合わせて走ったり歩いたりさせる運動、歌やピアノ演奏などで
ある。また、教育者がレッスンに干渉しないこともアクションに含めた。
対象者:筆者が開いているピアノ教室の生徒2名
結果
集中現象が生じている時間を、プレ調査とポスト調査で5つのアクションごとに分け
て計測した。その結果をSPSSでアクション内容とプレ、ポスト調査の2要因分散分析
を行った。プレ調査、ポスト調査の時期要因については5%水準で有意であった。また、
アクションのタイプによる主効果についても1%水準で有意であり、アクションのタイプ
による主効果及び交互作用についても1%水準で有意であった。また、 AとBのピアノレ
ッスンに無関係な発言もプレ調査とポスト調査では大幅に減少した。
7.考察
マリア・モンテッソーリが提起している幼児教育理論である「集中現象」に基づいた
幼児音楽教育を行った結果、幼児が関心を持った課題については集中現象が生じていた。
よって、音楽教育においてもモンテッソーリ・メソッドは有効であるといえる。
国際交流会館における日本人の役割意識の向上と、
伝達手段の改善を目指したアクションリサーチ
2004HP117 渡連 果秦
l川一死.r=●l'J.
国際交流会館に住む日本人の役割意識を明確化し、その中で日本人が主体となって運営して
いくための役割意識の向上を図る。また、組織の中での重要な連絡事項の伝達手段を改善し、
組織の中で重要な役割を持つ人たちが確実に情報を共有していくための伝達手段の改善をす
る。それらのアクションの結果を分析することにより、国際交流会館における役割意識形成
のプロセスや、理想的な伝達手段について考察を行うことが本研究の目的である。
巨頭
対象: A交流会館に住む日本人寮生13名
インタビューによって、現在の日本人寮生の役割意識を調査した。次に、調査結果に基づき
ながら、日本人同士が話しあい、交流できる機会を持つアクションを起こした。また、日本
人同士が共有しやすい伝達手段を作るアクションを起こした。アクション後、インタビュー
を行い、その変化を検討した。インタビューの際に録音したテープを再生し、逐語録を作成
し、そのデータに基づいてK J法に基づいてインタビュー前後の変化について分析した。
l結果L
日本人の役割意識の向上については、著しく向上したとはいえないが、留学生-のサポート
に対する考え方が変わったことが明らかになった。しかし、その理由として、アクションと
して行った話し合いを挙げた人はごく少数であった。また、事前インタビューを行った直後
から、日本人寮生から企画の呼びかけや、メーリングリストを作る呼びかけが頻繁に行われ
るようになった。
伝達手段の改善に向けて、内線電話の有効活用を持ちかけたアクションを行ったが、内線電
話はあまり使われないことが分かった。インタビューの前後で、メーリングリストの作成を
要求する人が減った。そして、 A交流会館内の黒板が有効活用されることとなった。
普:I:i
役割意識についての話し合いというアクションが、インタビュー前後の変化に対してあまり
有効的でなかったのは、筆者の話し合い-の関わり方に問題があったようだ。また、国際交
流会館において、日本人寮生の留学生に対する考え方の変化に、会館内での交流する企画が
大きく影響するといえる。
国際交流会館における情報伝達は、全員の目に入る黒板をうまく利用し、確実に情報を受け
取ったということを明確にすることによって、共有がうまくいくのではないだろうか。
インタビュー直後に、主体的な日本人寮生が増えたことから、インタビュー自体が介入とな
り、日本人寮生が役割意識について深く考えるきっかけになったと考えられるだろう。つま
り、役割意識を考えるきっかけを与えることが、大きく影響するといえるだろう。