加工プロセス工学研究部門 - Act IMR 金属材料研究所のアクティビティー

23. 加工プロセス工学研究部門
部門担当教授 千葉 晶彦 (2006.11 ~)
【構成員】
教授:千葉 晶彦/ 准教授:小泉 雄一郎/ 助教:松本 洋明、李 云平/ 産学連携研究員:佐々木 信之、齋藤 毅、
紀伊 正/ ポスドク(金研) 唐 寧/ ポスドク(JSPS) 李 乘洙、山中 謙太/ 技術補佐員[2 名]/ 事務補佐員[2 名]
/ 大学院生[18 名]/ 研究生[1 名]/ 企業研究員[3 名]
【研究成果】
Co-Cr-Mo(CCM)合金は、生体不活性、耐食性、耐摩耗性に優れ高強度であるため人工関節用材料とし
て用いられているが、より長期の使用や運動量の大きい若年層の使用にも耐えられるよう、更なる耐
久性の向上が望まれている。本研究では、CCM 合金の機械的性質を支配するひずみ誘起マルテンサイ
ト変態(SIMT)の役割に注目し、疲労変形した人工関節用 Co-Cr-Mo 合金の表面起伏の内部組織を、
FIB を用いた断面 TEM 観察で調べた。突出し・入り込みは巨大な断層状であり、その段差は SIMT
でγ-fcc 相から変態したε-hcp 相に沿うとともに、ε相中には高密度の底面転位が存在することを見
出した。さらに Weak-beam 法を用いた g・b 解析により、これらの転位のバーガースベクトルは hcp
相の完全転位であることも見出した。すなわち、突出し・入り込み形成は、これまでの定説に反して、
ε相への完全転位すべりの集中に因ることをはじめて証明した (Ref. 1)。最新の金属用3次元プリン
ターである電子ビーム積層造形(EBM)は、カスタムフィット人工関節をはじめとする高付加価値金属
製品の製造方法として注目されている。本研究では、EBM で製造した CCM 合金の内部組織と高温引
張特性に対する造形方向の影響について調べた。造形まま材の大部分は準安定γ相で、造形方向と電
子線走査方向に<001>方向が強く配向した単結晶状の集合組織を有し、大きさ 1µm 程度の M23C 炭化
物が約 3µm 間隔で造形方向に配列して微細に分散された EBM プロセス以外では得られない特有の組
織となっていた。さらにその組織に対して 800℃で 24 時間の時効処理を施すと、結晶粒径 100 µm 以
下のε-HCP 相多結晶が得られた。EBM まま材および時効処理材の強度は、構成相ならびに造形方向
に依存し、例えば 700℃ における電子線走査方向の降伏強度は、ε単相化時効処理で 100 MPa 以上
上昇し、造形空間の立方体対角線方向(準安定γ相で<111>に配向)の降伏強度はさらに 50 MPa 程度高
くなった(Ref. 2)。
Co-Cr-Mo 合金は力学特性に優れ、また生体適合性に優れるため、医療用金属材料として広く実用化さ
れている合金である。その多くは FCC 構造を基調としたγ相を主相とした合金設計となっているが、
最近、HCP 構造であるε相が良好な強度特性を示すため、注目を浴びている。本研究では、このε相
の力学特性(強度、室温延性)について実験および FEM 解析の両面から詳細に評価した。ε相は良好な
強度-延性バランスを示し、詳細な変形組織の解析から底面<a>すべりと柱面<a>すべりが同様な容易
さで活動することが明らかとなり、見積もられた CRSS 比も 1 に近く、この 2 つのすべり系が主要な
変形機構であることが分かった。一方で双晶変形は変形後期においてもほとんど活動しない。また破
壊は粒界破壊と粒内破壊の混在した形態であった。FEM 解析により転位集積を予測した結果、粒界で
の応力集中の大小は粒界における compatibility に依存し、応力集中の高い粒界で粒界破壊が優先的に
起こることが示された。この結果は実験結果と良く合うものであり、多結晶体における粒界の性格を
適切に制御することでε相においても更なる延性の改善が期待できる事が示された(Ref. 3)。
これまでフッ素樹脂注射成形スクリュー材としては、主に NiCrMo 基合金が用いられてきた。これは
フッ素との反応により Mo 酸化物の不動態膜が形成され、特有の耐食性を示すことによる。然し、汎
用 NiCrMo 合金が柔らかいため、耐摩耗性が低い、摩耗混の混入による製品特性の劣化及びスクリュ
ー材の摩耗による試料転送率による生産率の低下に大きな影響を与える。本研究では耐摩耗性向上の
ためにコバルトを添加し、合金の耐摩耗性と耐食性の向上が両立できることを見出した。熱力学計算
により得られた Ni-Cr-Mo 合金を基本とし、Co などを添加させた後、フッ酸溶液中の浸漬試験を行い、
合金の耐食特性と基本的な耐食機構を調べた(Ref. 4)。ニッケルフリーコバルト基合金は高強度かつ高
耐摩耗性を有するため、人工関節として広く使用されている。合金の力学特性の向上とγ相安定化の
ために、一般的に、コバルト基合金には炭素が添加されている。然し、これまで炭素添加によるニッ
ケルフリーコバルト基合金(CCM)の耐摩耗性への影響は不明であった。本研究では、低炭素 CCM 合
金と高炭素 CCM 合金の耐摩耗性評価を行った。その結果、低炭素 CCM 合金においては脆いσ相の破
壊に起される摩耗が主因である。一方、高炭素 CCM 合金においては、炭化物の周辺に存在したσ相
の破壊による炭化物の脱落がその材料の摩耗に大きく影響することが分かった(Ref.4)。
最近、マルテンサイト組織を有する Ti-6Al-4V 合金にて、適切な条件下で熱間加工を行うことで、α
単相の超微細粒組織が形成されることを見出し、更に、この組織を有する合金(α’-UFG 材)は低温
(650℃)-高速域(10-2s-1)にて超塑性が発現することを明らかにした。本研究ではこの超微細粒組織を有
するα’-UFG 材の変形特性について詳細な組織変化の解析から評価し、各種の構成モデルより得られ
た流動特性と比較して、変形機構を議論した。
変形過程で微細なβ相が粒界で生成し、これが応力緩和機構として強く作用して、粒界すべりを促進
させる。また転位集積の形態から、この粒界すべりの機構はひずみ量に応じて変化し、低ひずみ域で
は Ball-Hutchison モデルで説明出来、一方で高ひずみ域では Gifkins Core-Mantle モデルで説明でき
る事が分かった。塑性流動特性について低ひずみ域で動的な粒成長の影響が小さい領域では実験の流
動特性は Bird-Mukherjee-Dorm モデルの流動特性と良く合うが、粒成長が顕著になる高ひずみ域で
は硬化特性が大きく、転位すべりの影響を考慮する必要がある (Ref.6)。
Ref.1
Takuya Mitsunobu, Yuichiro Koizumi, Byoung-Soo Lee and Akihiko Chiba, “Asymmetric
slip trace formation in tension/compression cyclic deformation of biomedical Co-Cr-Mo-N
alloy with negative stacking fault energy”, Scripta Materialia 74 (2014) 52-55.
Ref.2
Julien Favre, Yuichiro Koizumi, Akihiko Chiba, Damien Fabregue, Eric Maire,
“Deformation Behavior and Dynamic Recrystallization of Biomedical Co-Cr-W-Ni (L-605)
Alloy”, Metallurgical and Materials Transactions A 44(2013)2819-2830.
Ref.3
Hiroaki Matsumoto, Yuichiro Koizumi, Tetsuya Ohashi, Byong-Soo Lee, Yunping Li, Akihiko Chiba, "
Microscopic mechanism of plastic deformation in a polycrystalline Co-Cr-Mo alloy with a single hcp
phase ", Acta Materialia, 64 (2014) 1-11.
Ref.4
Yunping Li, Xiuru Fan, Ning Tang, Huakang Bian, Yuhang Hou, Yuichiro Koizumi, Akihiko Chiba,
“Effects of partially substituting cobalt for nickel on the corrosion resistance of a Ni-16Cr-15Mo alloy
to aqueous hydrofluoric acid”, Corrosion Science, 78 (2014)101-110.
Ref.5
Yan Chen, Yunping Li, Shingo Kurosu, Kenta Yamanaka, Ning Tang, Yuichiro Koizumi, Akihiko Chiba
“Effects of Sigma Phase and Carbide on the Wear Behavior of Biomedical CoCrMo Alloys in Hanks'
Solution”, Wear, 310 (2014) 51-62.
Ref.6
Hiroaki Matsumoto, Vincent Velay, Akihiko Chiba, “Flow behavior and microstructure in Ti-6Al-4V
alloy with an ultrafine-grained a-single phase microstructure during low-temperature-high-strain-rate
superplasticity” Mater. Design, DOI: 10.1016/j.matdes.2014.05.045,
【研究計画】
エネルギー製造用材料、省エネルギー材料、環境負荷低減材料、生体材料などの高機能構造材料は人
類社会の持続的発展のために必要不可欠な社会・福祉基盤材料である。当部門では、鍛造加工・圧延
加工などの塑性加工や熱処理によって材料内部に起こるマクロ、ミクロ、ナノスケールの組織変化を
最新の分析解析技術や計算機シミュレーションを駆使して系統的に明らかにし、特性発現メカニズム
に基づいた加工プロセスの確立と新材料の創製を目指す。特に、熱間鍛造における組織変化の定量的
評価法である Processing map と FEM シミュレーションを組み合わせた「インテリジェント鍛造」を
コンセプトとし、各種実用合金の熱間加工条件の最適化に関する研究に取り組む。また、上記加工法
に加えて、最新鋭の三次元造形技術である電子ビーム積層造形技術にいち早く取り組むとともに、従
来の塑性加工プロセッシングと電子ビーム積層造形技術の融合による高機能材料の開発を行う。
以上の研究課題を以下に示す研究項目に基づいて推進する。
1.高精度“Processing Map”の構築のための材料科学―“Map Science”の確立
1.1 材料加工 FEM シミュレーション技術の適用とその応用展開
1.2 Phase-Field シミュレーション技術を用いた界面偏析挙動の解明
2.新規材料加工技術開発とそれをベースとする新規材料開発
2.1“インテリジェント(スマート)”鍛造加工技術の開発
2.2 電子ビーム積層造形(EBM)技術―Additive manufacturing―とその材料科学の究明
2.3 リソグラフィーと相分離の融合による新規微細加工技術の開発
2.4 冷間・熱間での「塑性加工」をベースとする新規材料開発
3.新規な社会基盤・福祉基盤材料の研究開発
3.1 アルミニウム溶湯耐腐食性材料・高耐熱疲労強度金型工具材料の開発
3.2 高耐摩耗性・高耐食性(耐フッ化水素など)・高耐熱(疲労)強度金属材料の開発
3.3 高熱伝導・高強度材料の開発
3.4 生体用 Co-Cr-Mo(W)系合金の実用化研究
3.5 産業用チタン合金の新加工プロセス-’ プロセッシング-の高機能化