児童が主体的に取り組み、表現の力を高める音楽指導 ~意欲を高める教材の工夫、共同する音楽づくりに生かす授業の追求~ 米野小学校 貴 志 恵 実 児童が音楽の学習に対して関心や意欲を高めるとともに、思いや意図をもって主体的 に音楽活動ができるようにするために、4つの課題に整理して研究を進めた。その結果、 音楽の基礎的な知識理解を身につけた上で、 自分達の演奏を真剣に聴き、根拠をもって 批評することができるようになってきている。しかし、音楽科であるため、言葉だけ が行き交う授業展開ではなく、「音」を大切にして、指導を継続していきたい。 児童が主体的に取り組み、表現の力を高める音楽指導 ~意欲を高める教材の工夫、共同する音楽づくりに生かす授業の追求~ 米野小学校 1 貴 志 恵 実 はじめに 近年、児童を取り巻く社会や家庭環境の急激な変化という状況を踏まえ、自ら考え行 動できる能力や豊かな人間性などの「生きる力」を育成することを目指し、教育改革が 進められてきた。これまでの教師主導の指導内容、指導方法を改善し、児童が音楽の学 習に対して関心や意欲を高めるとともに、思いや意図をもって主体的に音楽活動ができ るようにすることが求められている。 そこで、研究主題を「児童が主体的に取り組み、表現の力を高める音楽指導~意欲を 高める教材の工夫、共同する音楽作りに生かす授業の追求~」とし、以下のように課題 を整理して研究を進めた。 課題1:音楽に親しみ、意欲を高める活動を目指す 課題2:リズム読み向上を目指す 課題3:曲の構造や形式を理解して、曲にふさわしい表現の工夫を目指す(対象学年6年 生) 課題4:児童主体の活動を通して、曲にふさわしい表現の工夫を目指す 2 研究の仮説 ・ 音楽に親しみ、意欲を高める活動において、授業の導入時に様々なジャンルの音楽 を鑑賞することで、関心の持ちにくい音楽も身近に感じることができ、主体的に音楽 活動に取り組めるであろう。 ・ リズム読み向上の活動において、練習方法や教具を整備することで、児童のリズム 感を高めることができるであろう。 ・ 曲の構造や形式を理解して、音楽の構造を読み解く手立てを身につけさせることで、 楽曲の良さや美しさを味わう力を高めることができるであろう。 ・ グループ練習の活動において、様々な音楽体験を通して理解してきた基本的・基礎 的な知識、技能を具体的な言葉で考えたり、友達に伝えたりすることで、共同して一 つの音楽を創り上げることができるであろう。 3 研究計画 【1,音楽に親しみ、意欲を高める活動を目指す】 音楽に親しみ、意欲を高める活動を目指すために、毎時間授業の導入時に様々なジャ ンルの音楽を鑑賞させる。鑑賞プリントを作成し、1ヶ月に1回程度集め、児童の鑑賞 への関心を検証する。 【2,リズム読み向上を目指す】 譜読力向上を目指すために、練習方法や教具を整備する。毎月簡単なテストをして、 児童のリズム読みが向上しているか検証する。 【3, 曲の構造や形式を理解して、曲にふさわしい表現の工夫を目指す】 曲の構造や形式を理解して、曲にふさわしい表現の工夫を目指すために、ワークシー トを用意する。楽譜からわかる要素と表現とのつながりをグループで話し合わせ、児童 の発言から曲の構造や形式と表現の工夫のつながりを検証する。 【4, 児童主体の活動を通して、曲にふさわしい表現の工夫を目指す】 児童主体の活動を通して、曲にふさわしい表現の工夫を目指すために、パートリーダ ーを育成し、教え合いながら個人差をうめていく。毎時間振り返りさせることで、みん なで一つの目標に向かって主体的に探求できているか検証する。 4 実践と考察 「音楽に親しみ、意欲を高める活動を目指す」について ア 実践 音楽に親しみ、意欲を高める ために、授業導入(5分)を鑑賞時間として習慣づ ける指導 ① 授業導入の5分間、鑑賞プリントを記入し、児童用ファイル に保管させる。当日聴かせる曲名は、あらかじめ画用紙に書い て貼っておく。(学年によって聴く曲が違う場合もすぐに対応で きる)ファイルの中の5分間鑑賞プリントを準備させ、黒板の曲 名を記入させる。 (資料①) ② 資料① 黒板の曲名が写せたら、手をひざの上に置き、静かに前を向いて座るように 指示する。音楽は聴く人によって感じ方も様々であることを伝える。たとえ、 どんなに仲の良い友達であっても感じ方は人それぞれ異なる。「自分はこう思 う。」 「こういうところが好きなんだ。」逆に「こういうところが耳障りだった。」 など、児童が自分なりに意見を持つことが、何よりも大切である。友達の意見 に左右されず、自分の考えを主張できるように支援する。鑑賞中は、おしゃべ りやそれ以外の音も出さないよう注意させ、目を閉じて静かに聴かせる。(鑑 賞前後の記入時間等を差し引くと、鑑賞時間は正味4分ぐらいまでになる) ③ 曲を聴いた後、鑑賞プリントに感想を簡潔に添えさせる。授業時間確保のた め、あくまでも授業の導入なので、曲目の解説は簡単に、時間で30秒程度以 内におさめる。鑑賞プリントの備考欄には、使用されていた楽器や特に覚えて おいてほしい事項等がある場合に教師が記入させる。関心の高い児童には、授 業後補足説明を行う。児童の評価については、教師の評価とは全く関係しない ことを確認する。プリントは1ヶ月に1回程度集め、記入の様子をチェックす る。その際、その学年の児童が好む音楽の傾向が把握できるので、次回の鑑賞 曲決めの参考となる。 イ 考察 (1)成果 授業の導入時にいろいろなジャンルの音楽を聴かせることは児童の楽しみで もあり、偏った音楽観を広げさせることもできる。特別教室で行われる授業は 教室移動が遅くなりがちであるが、毎回楽しみにして教室にやってくる姿が見 られた。 なかなか関心の持ちにくい日本の伝統音楽や世界の民謡音楽なども、鑑賞で 取り上げることで以前より身近に感じている。その結果、TVなどから自分の 知っている日本の伝統音楽が流れると耳を傾けている様子が多くの児童の報告 から確認できた。 (2)課題 ・ 音楽を聴く習慣はあるが、それをさらに深く追求したり、自らの演奏 に生か したり、新しいものを創り出そうする意欲に欠ける。 ・ 曲を聴くだけでは、詞の内容などの深い知覚作用を理解することは難 しい。 ・ 鑑賞に対する積極的な学習が不十分で、受身的な態度が見られる。 ・ 郷土の音楽は、授業導入のみでは楽器や演奏形態がイメージしにくい。 ・ 音楽をバックミュージック的に聴き、集中して聴く態度が継続しにく い。 以上のような問題点をふまえ、今後の課題について考察する。現代の小学生 を取り巻く生活環境の中には、多種多様の情報が絶え間なく流れている。また マスコミの発達によって、いつでもどこでも好みにあった情報に接することが できるが、逆に児童の自主性を奪い、受動的で惰性に流されやすい生活習慣を つくる一因にもなっている。このような状況の中、児童が自分に合った情報を 彼らを取り巻く多くの環境の中から選択し、それを追求することのできる力を 育てていく努力が課題である。 楽曲の構成、音の特徴、作者や作品の時代背景などそれぞれの形態に添って 積極的に音楽を聴く力を育てる授業展開の工夫には、音楽を聴きながらその場 で自ら調べられることが必要と考える。また、楽譜を見ながら鑑賞することに より、声部に注目し旋律以外のパートにも注意しやすい。郷土の音楽を扱う場 合は、知覚的な学習活動を加えることによってイメージが湧きやすくなる。 「リズム読み向上を目指す」について ア 実践 リズム打ちを楽しみながら、徐々に音符(特にリズム)を理解するための指導 ① 児童の実態に合わせ、難易度を変えたリ ズムプリント(合格マーク1、2を付ける) を作成する。リズムプリントの出だしの音 符のすぐ下に人差し指を置かせ、ピアノの リズムに合わせて音符をなぞらせる。ここ での指導者の補助として、ピアノを使った 場合では、右手で正解のリズムを高音部( 資料② ラ)で弾き、左手は基本拍を低音部(ラ)で刻む。ピアノを使わない場合では、 メトロノームで基本拍を刻み、指導者が正解をクラベス等の打楽器で演奏する。 (資料②) ② ①でなぞった音符を全員でリズム打ちさせる。できていたら赤鉛筆で合格マー ク1をぬらせる。もう一度、全員でリズム打ちをさせ、できていたら赤鉛筆で合 格マーク2をぬらせる。全員でのリズム打ちの場合、児童はピアノのリズムに合 わせて両手でたたく(4分音符=80位) 児童が合格マーク1、2をぬってい る間、指導者は席を見回りながらチェックをし、気になる児童に対しては、 指名しリズム打ちをさせる。 ③ 4分音符=80位(レベル1)でリズム打ちができるようになったら、4 分音符=100位(レベル2)、4分音符=120位(レベル3)と順番にテ ンポを速めて挑戦させる。ただし、テンポが速くなるだけで他は同じである。 指導者は、「レベル2のテンポでやってみよう、さぁできるかな?」「レベル 2ができた人?がんばっているね。では、レベル3に挑戦してみよう」など と、児童がやる気を持てるような声かけを心掛ける。 ④ 中・高学年のリズムプリントに対して は、拍子を書かないでおき、一通りリズ ム打ちが終わった後で、児童に記入させ、 拍子(何分の何)について学習させるこ ともある。リズム打ちに慣れてくれば、 歌唱曲の 一部分をリズム譜にして、組み入 資料③ れる。(資料③) イ 考察 (1)成果 ①の活動 どの児童もピアノや打楽器のリズムに合わせて音符をなぞっていく。は じめは、音符が分からない児童も練習するうちにリズムがたたけるように なった。 ②の活動 児童が赤鉛筆で合格マーク1、2をぬっている間に、一人一人の児童に 目を向けられるため、児童の実態把握ができ、支援のあり方など、指導の 手だてが見えた。 ③・④の活動 リズムの読めない児童も音符をなぞることで、音の流れを意識させるこ とができた。また、すでにリズムが読める児童も、楽譜から目を離さず速 いテンポについていこうとすることにより、さらにその能力が高まってき ている。楽譜に関する知識、理解の学習は、楽しい表現活動を通して指導 することで、効果が上がることが分かった。 (2)課題 楽譜を理解する学習が先行してしまうと、児童が飽きて疲れてしまうケー スが多い。取り立てて知識・理解の学習をするのではなく、日ごろからごく 自然に学習できるような学習展開の工夫が必要である。 音楽活動では、児童が楽しく音楽とかかわることが大切であり、訓練的に 教え込んでしまうと、かえって効果を下げてしまう恐れがある。生涯にわた って音楽を愛好するための素地となるように、児童が楽しみながら学べる授 業作りを心掛けたい。また、今回は表現に視点をおいたが、今後は表現と鑑 賞の関連を図る指導の工夫が課題となる。 「曲の構造や形式を理解する活動を目指す」について ア 実践 「メヌエット」の原曲を鑑賞し、曲の構造やメヌエットの形式を理解するた めの指導 ① 曲の鑑賞 曲の題名、説明などはせずにを楽曲を鑑賞させる ② 感想の記入 楽曲を聴いてどんな気分になったかを鑑賞シートに記入させる。難し く考えないで、素直に感じた気持ち を書かせるようにする。感情を言葉 で表すことが苦手な児童には、「鑑 賞ヒント」を参考に言葉を選ぶよう に指示する。(資料④) ③ 資料⑥ グループで感想交流する 友達の感想を聴き、自分とは違 資料④ った感じ方もあることも知らせる。自分とは違った考え方もあることを 尊重するように声をかける。 ④ 音楽の諸要素とのかかわりを考える グループに1枚楽譜を渡して、まず、楽譜からわかる理論を考えさ せる。次に、楽曲を聴くことで感じた感情は音楽諸要素のどの部分と 関わっているのかを考えさせる。音楽諸要素は「音色」「リズム・拍 子」「速度」「旋律・調」「曲の山」「音の関わり」「形式」に絞る。 ⑤ 音楽の諸要素とのかかわりを全体で共有する 児童の発言 ・ 4分の3拍子の曲、三角の指揮(振り方) ・ 速さは100から108だから秒針より少し遅いくらい ・ この曲はハ長調かイ短調かどちらなのか ・ Fine(終わり)の音がラであって、調号が何もないからイ短調 ・ 少し悲しい感じがするのは短調の曲であるから ・ D.Cがあるから曲の構成はA-B-Aとなる ・ 曲の山はどこか ・ 雰囲気が変わるBの部分、高い音が出てくる部分が山となる、明るく華 華やかな雰囲気は曲の山から感じる ・ 難しい曲、ソにシャープが付くため ・ 2つのパートから成る ・ 主旋律と副旋律が交互になっている(Aの部分) ・ 交互担っている部分はおいかけっこのよう ・ 交互になっている部分はやまびこ ・ やまびこは、大きい小さいとなるが、この曲は大きさは変わらない からやまびこではない ・ ⑥ ・ 主旋律と副旋律は会話のようになっている 楽曲解説 ワークシートを使って、曲名や時代背景などを 簡単に説明する。(資料⑤) イ 考察 (1)成果 音楽を聴いて、自分なりのイメージをもつことはでき ても、それが諸要素とどう関わっているのかを考え ることができない児童が多 かった。しかし、題材を学習することで「諸要素を意識 資料⑤ する」とともに、合奏の表現活動と並行して学習することができた。児童の 発言「雰囲気が変わるBの部分、高い音が出てくる部分が山となる、明るく 華やかな雰囲気は曲の山から感じる」では、音の高さ、転調、強弱を根拠に 発言している。「主旋律と副旋律が交互になっている」「旋律と副旋律は会話 のようになっている」「やまびこは、大きい小さいとなるが、この曲は大きさ は変わらないからやまびこではない」では、1パートが付点二分音符でのば している時に、2パートが動き、2パートが付点二分音符でのばしている時 に、1パートが動くというこの曲の特徴に気づくことができた。表現と鑑賞 の関連を図った指導が可能となった。 (2)課題 始めは意欲的に学習に参加する児童も、何回も同じ曲を聴くうちに、途中で 飽きて活動に積極的に関わることができない児童が出てきた。受動的な展開 では音楽に苦手意識を持つ児童がマンネリ化してしまうため、児童の能動 的・主体的な授業構成が課題となる。 「グループ練習を生かし、児童主体の活動を目指す」について ア 実践 「メヌエット」の楽曲を、リーダーを中心にグループ練習で教え合いながら、楽 曲にふさわしい表現を工夫するための指導 ① 1パートも2パートも正確に演奏させる。 ・ 運指、タンギング、リズムなど奏法上の疑問点は、リーダーを中心にグ ループ練習で教え合いながら学習を進めさせる。 ② 教師の模範奏と自分達の演奏を聴き比べて曲にふさわしい工夫改善に気づかせ る。 ・ 前時に録音した自分達の二部合奏と模範奏を聴き比べ工夫改善を話 し合わせる。 児童の発言 ・ 演奏の最後にリットを付けたい ・ 曲の山を意識した演奏を ・ 山に向かってクレッシェンドを付けたい ・ 山の後半はデクレッシェンドを付けて上手く終わりたい ・ 自分達の演奏は同じ大きさ、強弱を付けた演奏を ・ 曲の山の強い音、高い音は雑になりがち、先生のような音を ・ 会話しているような旋律、メインと動いていないところの強弱をはっき りと ・ 旋律の会話、話すところと聴くところをはっきりと ・ 相手の音を聴いて演奏する ・ 5小節目からはお互いがしゃべるので、同じくらいの音量で ④ 課題を整理してーダーを中心にグループで練習させる。 ⑤ 全体で合奏させ、気づいたことを話し合わせる。 児童の発言 ・ 1段目の会話の部分で、1パートと2パートの音量が同じくらいになってい る、相手が動いている時は控えめに ⑥ ・ 曲の山のクレッシェンド、デクレッシェンドが分かりにくかった ・ 最後のリットがずれていた 言われたことを意識して、もう一度合奏させ、気づいたことを話し合わせる。 児童の発言 ・ やっぱりリットがずれる、みんなの音と伴奏をよく聴けば合う ・ みんなの音を聴けばリットは合う ・ 一番最後のAから合奏すれば良い ⑦ 自分達の演奏を録音する ⑧ 前回録音した演奏と、今回録音した演奏を聴き比べながら振り返らせる。 児童の発言 ・ だんだんと良くなっているが、まだバラバラ ・ できないところがあったがリーダーが教えてくれてできるようになっ た ・ むずかしい ・ 最初はただ演奏することもできなかったが、余裕をもって演奏できる ようになった ・ 会話の部分は強弱に気をつけたい ・ 曲の勉強をしてあるのである程度イメージをもって演奏することがで きる イ 考察 (1)成果 ・ グループ練習では、リーダーを中心に自分たちで練習できる部分が増え てきた。児童が自分のことばで意見を述べ、児童の気づきから課題を提示 し練習を進めることができた。意欲的に意見を言おうという児童も多く見 られるようになってきた。 ・ 毎時間の課題を達成しよりよい音楽を追究するために、児童各自が振り 返りを行い、次の課題を見つける場を設定したことで、自分達の演奏を真 剣に聴き、根拠をもって批評することができるようになってきている。 ・ リーダーを中心にグループ練習を行うことによって、クラス全員が正し いリズム、正しい音で演奏できるようになった。 (2)課題 ・ 音楽をじっくり聴いたり自分の意見をしっかり話す習慣がついてきたが、 まだ全員が満足できる状態ではない。しかし、活動によって多少差はあるも のの、音楽を楽しんでいる姿が見られるようになってきた。 5 おわりに 合唱やグループアンサンブルの音楽づくりは、友人と協力をしながらの地道な活 動の積み重ねである。今後、児童がより自分たちの力で練習を進め、深まりのある 音楽づくりができるような効果的な指導が大切である。鑑賞や、演奏表現について も、形だけにならないよう、工夫して指導していきたい。いずれも児童の実状をよ り把握し、児童の中に潜む感性を引き出していくことが大切である。また、音楽科 であるので、言葉だけが行き交う授業展開ではなく、「音」を大切にして、指導を 継続していきたい。更により効果的な指導法を求めて教材研究をしていく。 参考文献 ・ 改訂版 新しい視点で音楽か授業を創る! ―新学習指導要領を先取りした実践方法― ・ 音楽科 授業づくりの探求 新山王 八木 政和 正一
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