オンラインデジタル油圧延システム

オンラインデジタル油圧延システム
DIRECT SENSOR
1. は じ め に
熱間圧延で利用される油圧延は、ロールの寿
命延長・板表面の品質向上・電力原単位の削減
などに極めて有効で、その普及率は、日本はも
ちろん、中国・韓国・台湾などの大手でも 100%、
北米大陸では 20~30%程度である。しかし、ほ
ぼ 100%にまで普及しているアジアでも、いまだ
安定使用には程遠く、改善余地は多い。
当社は、1992 年 川崎製鉄千葉製鉄所(現
FIG 1
JFE スチール)第2Hot Strip Mill を皮切りに、これ
まで国内外のミル、300 スタンド以上の油圧延シ
2.油圧延の概要
がある。
ステムを手掛けてきたが、経済産業省から委託
油圧延は、水に 0.1~1%程度の潤滑油(以下
従来、油圧延は油濃度を唯一の指標にして油
された 2010 年度「戦力的基盤技術高度化支援
油と言う)を混ぜエマルジョン化した液を、熱間圧
-水混合液を圧延ロールに噴霧していた。水温
事業」により油圧制御技術開発に取り組み、
延ロールにノズルで噴霧(FIG1参照)し、板とロー
が常温のため、年間同一濃度設定では、夏は高
2012 年初めに「オンラインデジタル油圧延システ
ルの摩擦係数を軽減して、圧延荷重低減や、ロ
温のため良く混ざり、ロールへの油付着量は少
ム」を完成させた。
ール寿命伸長、板表面品質向上、電力原単位
なく、冬は逆に混ざり難いため、過剰な油付着量
従来の油圧延は濃度管理のみで、あとは経
削減を図り、また熱延鋼板の圧延組織微細化に
となる。したがって、油付着量を一定にするため
験と勘に頼っているが、当社は混合度管理+デ
よる鋼の強度や靭性向上を目的にしている。低
には、濃度の微調整が必要で、これを怠ると、ス
ジタル画像化を含む総合システムを開発した。
級鋼の圧延圧力やロール摩擦低減、省電力、省
リップ、ロールのクラック、偏磨耗の危険が生ず
以下に、『オンラインデジタル油圧延システム』の
資源に寄与することはもちろん、自動車用・電磁
る。
背景と全体像について述べる。
用・家電用鋼板など、高級鋼板の圧延にも貢献
4.濃度管理の問題点
している。
本来、油圧延ではロールへの油付着量が重要
3.油圧延の多様性
であるが、現状は濃度管理のみで、あとは経験
油圧延の関係因子として、油種、濃度、混合度
と勘が頼りのため、時にはスリップなどのトラブ
(水と油の混ざり具合)、鋼種、板厚、板幅、板
ルが生じており、安定圧延の維持が困難であ
温、水質、水温、ロールの材質や表面粗度など
る。当社はラボ実験から、油圧延の場合、混合
が
Relationship among the adhered oil weight, Oil-water mixing ratio,
Oil-concentration and the Size of Particles
Density 0.3%
Mixing Degree
7000
Density 0.3%
Mixing Degree
4000
Density 0.3%
Mixing Degree
500
Light
Unbalanced quantity of oil-outflow among the nozzle
Large
Small
FIG 2
Wave of Mixing Degree
Proportional
Air Deducing Valve
FIG 5
Oil Inlet Port
Water Inlet Port
タリー状に複数個のオリフィス径を
る。たとえばオリフィス径Φ7で濃度 0.3%のエマ
有し、外部作動で段階的にオリフィス径が変更
ルジョンの油付着量は、オリフィス径Φ10、0.2%
できる。
の油付着量よりも少ない。即ち、油使用量が
②
0.1%少なくて済むので、年間の油使用量は金額
バリアブルミキサー
FIG3のバリアブルミキサーは、ダイレクトセン
Density
FIG 4
度が重要因子であることを究明した。混合度は、
FIG2に示すように、光の透過度を基に計測され
付着量変化と混合度の数値を FIG5に示す。オリ
フィス径が異なると、同一濃度でも付着量が異な
FIG 3
Sample of
Emulsion
マルチオリフィスミキサー
マルチオリフィスミキサーは、ロー
Variable Mixer (Mechanical Type)
FI
①
換算で、1000 万円以上の節約ができる可能性
サーからのデジタル信号により、オリフィス径を
がある。
連続的かつ任意に拡縮させ、精度の高い最適
8.ダイレクトセンサーの開発
混合度を得ることができる。
6.油圧延システムのデジタル化:混
合度の計測
サンプリング後の計測では、サンプリング位置
や時間で混合度が変化するので、直接ラインに
測定器を組み込むダイレクトセンサーを開発し
る。不均一混合の場合は、上下、左右の各ノズ
当社は、油圧延における「混合度」の概念を世
た。センサーは、ミキサーとノズルヘッダー間に
ルから異なった濃度のエマルジョンが憤霧され、
界で初めて制御指標とした。一定濃度のエマル
取付け、混合度の連続検知により、油圧延の正
ロールの偏磨耗や上下ロールの非対称磨耗に
ジョンは経時変化がないと考えやすいが、実際
常作動性を確認できる。
繋がる。
はサンプル採取直後から水と油に分離し始め、
FIG6は、ダイレクトセンサーからの信号を表示
そのため、まず均一混合した適正なエマルジョ
状態は刻一刻変化する。この状態変化を FIG4
する実波形で、この波形からノズル詰り・巾切り・
ンを作り、その光透過度を計測・定量化し、次い
に示す方法で光の透過度により「混合度」として
ホース詰り・混合度・濃度異常などの手がかりを
で最適混合度を求めるシステムを考案した。
計測している。ミキサー直後、またはノズルの噴
把握することができる。
5.ミキサーの重要性と2種類のミキ
射直近からサンプルを採取し、即時に混合度計
9.荷重低減測定装置
サーの開発
で計測する。
油圧延の重要な技術は、濃度と水と油の混ざり
具合で、これをつかさどるのがキーデバイスであ
るミキサーである。そこで、下記2種類のミキサ
ーを開発した。
7.マルチオリフィスミキサーにおけ
る混合度と油付着量の関係
荷重低減測定装置を使い、FIG7のテスト条件
で、エマルジョンの混合度を変化させて摩擦係
数を調べた。
5章、①のマルチオリフィスミキサーのオリフィ
FIG7の「混合度と摩擦係数の関係」から、同
ス内径を横軸、油付着量を縦軸とし、濃度別に
一濃度でも、オリフィス径を変化で混合度が変化
摩擦係数の計算式 μ=トルク(n・m)-無負荷のトルク
荷重(n)×ロール半径(m)
1.ロール回転数
2.ロール径
3.試験片温度
4.水流量
5.水温
6.油の濃度
テスト条件
30~100rpm
7.オリフィス
Φ100 ㎜
8.押付力
850℃
9.混合度
40L/min
10.真水の場合
25℃±3℃
11.油種
0.1~0.4%
Φ7・Φ8・Φ9・Φ10
400 ㎏
1500~7500
8000 とする
SH-1M
FIG 6
し、μが変化する。一般にμが小さい方が、摩
擦低減に有利な油と言えるが、μが小さくても、
ノズル間の混合度値が大きく変動するようであ
れば使えない。過度に小さなμであれば板スリ
ップの危険性も増大する。油種によって、混合度
とμの関係は異なり、また実機ではラボ実験の
結果とは異なる挙動を示す可能性もあるので、
本データは参考用である。
FIG 7
10.NEVIシステム
N E V I (Navigation ・ Evaluation ・ Visualization ・
Index)システムは、ライン上の各種センサー(ダイ
レクトセンサー・油流量計・巾切りなど)の信号、
および適正混合値からの逸脱度の計算によりシ
ステム異常を検知・表示して異常発見を容易に
するシステムである。
水圧・水流・油圧力・油流量・巾切り・混合度・水
温・板温・濃度・ノズル詰り・オリフィス径・油温な
どの信号を入力し、これらの信号に異常が生じ
た場合、適正混合度値からの逸脱波形を基に異
常を検知し、原因の特定を行うことができる。
FIG 8
FIG8は、ダイレクトセンサー・マルチオリフィス
同時に上陸した。日本の製鉄会社は競って設備
圧延設備や潤滑油が進歩し、現在は一般的
を作ったが、実はほとんど使用しなかった。トラ
に濃度管理で油圧延が行われているが、近い将
ブルの連続発生により、油圧延の効果を発揮で
来、より合理的な混合度管理で運用され、NEVI
きなかったことが主因である。北米でも同様だっ
システムが実用化される日も遠くないと予想され
た。ロール材質問題も潜在していた。アダマイト
る。
ミキサー・巾切り・NEVIシステムを備えた、代表
的なオンラインデジタル油圧延システムの回路
図である。
11.お わ り に
日本の製鉄所の油圧延で、同一油種を使う
ロールなどから寿命の長いハイスロールに変わ
製鉄所は皆無と言われる。これは、各社が熱延
り、油圧延でロールのクラックやバンディング防
技術上、潤滑油を最重要因子と考え、油メーカ
止が可能と判明した途端に、油圧延の需要が一
ーに各様に仕様注文した結果、と推定される。
気に増大した。かくして、油圧延は熱間圧延上
油圧延は、二十数年前、欧州から日米に、ほぼ
不可欠な技術になった。