天ぷら油火災の発生要因に関する研究

-3
9大阪市立大学生活科学部紀要 ・第 4
0巻 (
1
9
9
2
)
天ぷら油火災の発生要因に関する研究
船野
誠 ・中根芳一
Study on main factor about break out o
f
f
i
r
er
e
s
u
l
t from combustion o
f TEMPURA o
i
l
M AKOTO FUNENO a
ndYOSHII仁AZU NAKANE
の種類 ・引火点 ・燃焼点 ・発火点については測定してお
1.序
らず,文献値として各種油の引火点〈測定方法密閉法)・
現在大阪市消防局か行なっているキャンペーンに「うっ
発火点か記載されているのみである O
かり火災をなくそう」といのがある。
2.実験概要
うっかり火災とは,天ぷら油火災 ・風巴の空だき等を
指すのであるが,中でも天ぷら油火災は昭和 6
2年に 1
2
7
実験条件を表 1に示す。 J1Sに基づいて測定した各
件発生しており,原因別では放火 ・たばこに次いで第 3
種油の引火点 ・燃焼点 ・発火点と,実際に油を鍋に入れ
位の発生件数で,全火災件数 1
4
7
7
件の 8
.
6%を占めてい
て加熱した時の着火温度とにどれだけ差かあるかを調べ
る
。
るため,各種油の 引火点 ・燃焼点・発火点 ・着火温度の
測定を行なった。
しかし,天ぷら油火災か発火なのか引火なのか,また
どのような条件の時に早く着火するのかがはっきり解明
さらにどのような条件の時に天ぷら油火災か発生しや
されておらず,天ぷら油の着火温度の実験デ ータとして
すいかを調べるために各種条件(換気扇の有無・フート
は未使用の大豆油を用いて行なった着火実験のデ ータが
の有無 ・天井高 ・鍋の材質 ・油量の多少 ・油処理剤の有
あるのみで, 油 の種類 ・品質 ・量の多少及び鍋の形状 ・
無 ・熱源の種類 ・火力の多少)か着火温度及ひ着火時間
品質等によって着火温度及び着火するまでの時聞がどの
にどれだけ影響を与えるかの測定を行なった。
ように変わるかについての研究はなされておらず,具体
また,通常天ぷら 油 は数回使用するので, 油の古さが
的なデ ー タが少な過ぎるためキャンペ ー ン活動の成果も
天ぷら油火災にどれだけ影響を与えるかの測定を行なう
はっきり上がっていない。
とともに加熱による油の劣化かあるかどうかを調へた。
2- 1 実験材料
そこで, どのような条件の時に着火しやすいかを各種
(
1
) 使用油
条件(油の種類 ・使用頻度 ・油量 ・鍋の品質形状 ・周 囲
の状況等〉を変えて実験を行ない着火のメカニズムを解
菜種白絞油(昭和産業製〉
明し ,天ぷら油火災防止の広報活動や火災原因調査の資
日清サラダ油(日清製油製)
料を得ることを目的とした。
脱色菜種油 (摂津製油製)
5年 6月 に
従来の研究としては,大阪市消防局が昭和 5
脱色大豆油(摂津製油製〉
未使用の大豆油およびサラダ油(油種不明)を用いて行
脱色綿実油(摂津製油製〉
なった着火実験のデ ータがあるが,実験に使用した油の
脱色ひまわり油(摂津製油製)
引火点 ・燃焼点 ・発火点については測定しておらず,文
脱色とうもろこじ油(摂津製油製〉
献値とし て各種油 の引火点〈測定方法不明) ・発火点か
ラード
記載されているのみである。
廃油処理剤(油っ固:ライオン株式会社製〉
(
2
) 調理器具
また東京消防庁においても同種の実験および熱源に電
.
6
m
m・直径 2
5
c
m
)
鉄製天ぷら鍋(厚さ 1
気を使用した実験が行われているが,実験に使用した油
¥,
ノ
Ei
噌
/'
¥
-4
0-
生活環境学
表 1 実験条件
換
気
フ
一
扇
ド
廃油処理剤
レンジフード
までの高さ
鍋の材質
(
2
) 各種油の着火温度の測定
換気扇(移動空気量 2r
r
l/分
〉 有無
3
00
k
c
a
l/ h)で加熱し,熱電対(クロメルーアルメル
廃油処理剤(油 っ固2
0g) の有無
直径0
.
6
5
m
m
) で着火温度を測定し,ストップウオッチで
2.0m
加熱し始めてから着火に至る時間(以下着火時間という)
2.4m
の測定を行なった。
鉄製
(厚さ 1
.
6
m
m 直径 2
5
c
m
)
鉄製
(厚さ 0
.
6
m
m 直径 2
1
c
m)
2
5
0
m
l
.
6
m
m・直径 2
5
c
m
)
菜種白絞油を鉄製天ぷら鍋(厚さ 1
に5
0
0
m
l入れて,ガスコンロ(都市ガス 13A用 2
3
0
0
k
c
a
l
/ h) で加熱し,ファンで排気した場合と排気しない場
(
4
) フードの影響について
5
0
0ml
上記実験において天ぷら鍋にフードを取り付けた場合
7
5
0
m
l
とフードをつけない場合との着火温度及び着火時間の測
定を行なった。
都市ガス
(
5
) レンジフ ー ドまでの高さの影響について
フ。ロノマンガ、
ス
実験ウでレンジフードまでの高さ(一般家庭の台所の
.4m) を4
0
c
m低くして着火温度及ひ着火時間の
天井高 2
投げ込みヒ ーター
都市ガス
火力の違い
(
3
) 換気扇の影響について
合との着火温度及び着火時間の測定を行なった。
1
0
0
0
m
l
熱源の種類
0
0
ml
ず、つ入れて,ガスコンロ(都市ガス 13A用2
れぞれ 5
油飛散防止用フートの有無
アルミ製(厚さ 0
.
5
m
m 直径 1
5
c
m
)
油量の違い
.
6
m
m・直径 2
5
c
m
) にそ
各種油を鉄製天ぷら鍋(厚さ 1
都市力、
ス
2
3
0
0
k
c
al
/h
、
測定を行なった。
(
6
) 鍋の影響について
1
8
3
2
k
c
a
l/ h
フ。
ロ
ノマ
ン
カ
、ス 4
3
6
8
k
c
a
l/ h
菜種白絞油を各種鍋に 5
0
0ml
ず、
つ入れて,
ファンで排
300kcal/h)
気しながらガスコンロ(都市ガス 13A用 2
で加熱し,着火温度及び着火時間の測定を行なった。
鉄製天ぷら鍋( /
/ O
.6
m
m•
/
/ 2
1c
m
)
アルミ製片手鍋( / O
.
5
m
m
.
(
7) 油量の影響について
/ 1
5
c
m
)
.
6
m
m・直径 2
5
c
m
) に入れる菜種
鉄製天ぷら鍋(厚さ 1
都市ガス 13A用ガスコンロ (
2300kcal/h)
白絞油の量を変えて,ファンで排気 しながらガスコンロ
フ。ロパンガス用コンロ (
4320kcal/h)
(都市ガス 13A用2
300kcal/h)で加熱し,着火温度及
水用投げ込みヒータ (
500w)
び着火時間の測定を行なった。
2-2 測定装置及び器具
(
8) 油処理剤の影響について
.
6
m
m・直径 2
5
c
m
)
菜種白絞油を鉄製天ぷら鍋(厚さ 1
発火温度測定装置 (ASTM法)
クリーブランド開放式引火点試験器
に5
0
0ml
入れ,さらに油っ固(油処理剤 2
0g) を加えて
熱電対〈クロメル-アルメル直径 0
.6
5
m
m
)
ファンで排気しながらガス コンロ (
都市 カス 1
3A用2
3
0
0
熱電対(銅ーコンスタンタン直径 O.
3
m
m
)
kcal/h) で加熱し,着火温度及び着火時間の測定を
流量計(湿式実験用ガスメ ーター〉
行なった。
2- 3 実験方法
(
9) 熱源の影響について
.
6
m
m・直径 2
5
c
m
)
菜種白絞油を鉄製天ぷら鍋(厚さ 1
(
1
) 引火点・燃焼点・発火点の測定
クリ ーブランド開放式引火点試験器(クリーブラント
に5
0
0m
l入れてファンで排気しなから水用投げ込みヒ ー
開放式で測定するのは,密閉式と 比べて実際の天ぷら油
50
0W) で加熱し着火温度及び着火時間の 測定を行
タ (
火災と条件か似ている点及ひ J1Sで引火点8
0C以上の
なった。
0
石油製品の引火点測定にはクリ ーブランド開放式を使用
(
1
0
) 火力の影響について
する旨記されていることより本試験器を使用〉を用い て
.
6
m
m・直径 2
5
c
m)
菜種白絞油を鉄製天ぷら鍋(厚さ 1
各種油の引火点及び燃焼点の測定を行ない,発火温度測
に5
0
0
m
l入れて力、
スコンロ(都市ガス 1
3A用 2
3
0
0
k
c
a
l/
定装置 (ASTM法)を用いて発火温度の測定を行なっ
h) の火力を変えて加熱し(火力は流量計で 31のガス
f
こ
。
を何分で消費するかを測定して算出入 着 火 温 度 及 び 着
(2)
-4
1-
中根他:天ぷら火災の要因
表 3 各種油の引火点・発火点(文献値)7)
表 2 各種油の引火点・燃焼点・発火点(実験値)6)
油の種類
O
C
)
O
C
) 燃焼点(
O
C
) 発火点(
引火点 (
3
2
7
菜種白絞油
日清サラダ油
(新品)
3
1
1
日清サラダ油
(使い古し)
3
0
8
3
4
9
3
4
3
油の種類
菜種油
1
6
3
4
4
6
4
2
2
大豆油
2
8
2
4
4
5
綿実油
2
5
2
3
4
3
とうもろこし油
2
5
4
3
9
3
一
脱色菜種油
3
1
9
3
4
4
4
1
1
脱色大豆油
3
0
7
3
4
8
4
0
6
3
1
8
脱色綿実油
3
4
6
発火点(
O
C
)
41
9
4
2
2
3
4
6
引火点 (
O
C)
表
一
一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一一
一 一
4 各種油の着火温度・着火時間 8)
油の種類
4
1
5
一
着火温度 (
O
C
) 着火時間(分,秒)
菜種白絞油
3
8
3
1
4
.1
8
4
1
6
日清サラダ油
(新しい油〉
3
8
0
1
4
.5
7
4
1
5
日清サラダ油
(古い油)
3
7
9
1
6.2
0
脱色菜種油
3
8
3
1
3
.5
7
脱 色 大豆 油
3
8
2
1
4
.2
7
(
1
1
) 油の劣化の影響について
脱色綿実油
3
8
8
1
4
.0
0
鉄製天ぷら鍋(厚さ 1
.6
m
r
n・直径 2
5c
r
n) に 使 い 古 し た
脱色ひまわり油
3
7
9
1
3
.3
0
3A用 2
30
0kcal/h) で 加
がら力、スコンロ(都市ガス 1
脱色とうもろこ
し
、
油
3
8
3
1
4
.1
8
熱し,着火温度及び着火時間の測定を行なった。
ラード
3
9
4
1
5.0
8
3
2
0
脱色ひまわり油
脱色とうもろ
こし油
3
1
3
ラード
3
0
4
3
5
0
4
0
9
3
51
3
4
4
火時間の測定を行なった。
また,プロパンガスでも実験を行なった。
油(日清サラダ油)を 5
0
0
r
n
l入れて,
ファンで排気しな
(
1
2
) 加熱中の油の変質の影響について
菜種白絞油を鉄製天ぷら鍋(厚さ 1
.
6
m
m・直 径 2
5c
r
n
)
値より 3
0C近く低い温度で発火している。
0
に5
0
0
ml
入れて,ファンで排気しなからガスコンロ(都
また,他の油についても引火点・燃焼点・発火点を 測
3
0
0
k
c
a
l/ h) で 加 熱 し , 加 熱 中 の 油 を
市ガス 13A用 2
定したが,油の種類を変えても各種温度にほとんど差か
各温度毎に少量採取し,発火温度測定装置 (ASTM
法
〉
見られず最大でも引火点でお。
C,燃焼点で
を用いて発火温度の測定を行なった。
6Cの差しかみられず,文献に記載されているような
で1
8C,発火点
0
0
0
0C以 上 も 差 か 出 る と い っ た 結 果 に
油種の違いにより 1
0
3
. 実験結果及び考察
はならなかった。
3- 1 J ISに基づく引火点、・燃焼点・発火点の測定
結果
1
引火点・発火点か, 実験値と文献値とでかなりの差か
出たのは,引火点の測定方法に違い〈密閉式:可燃性蒸
J1Sに基づく引火点 ・燃焼点 ・発火点の測定結果に
ついては,表 2のとおりである。
従前の文献(表 3参照〉では,引火点はほとんどの油
気をためて引火させる
蒸発しているところで引火させる)かあったために差が
出たものと考えられる 。
が2
0
0C台であるなかで菜種油の引火点か 1
6
3Cと天ぷら
0
開放式:可燃性蒸気が空気中に
0
また,
もともと油脂とは脂肪酸とクリセリンのエステ
を揚げる適温 (
1
8
0C前後)より低く記載されており,
ルで,油の種類により脂肪酸の種類及ひ組成比か若干変
天ぷらを揚げている最中に引火する可能性かあると考え
わるだけで,組成的に大きな違いもなく引火点等か油種
られた。発火点も 4
4
6Cと他の油の発火点に比べて高い
により大きく変わるとは考えられない。
温度を示している。よって天ぷら油に着火するのが引火
3-2 熱電対による着火温度及び着火時間の測定につ
0
0
いて
なのか発火なのかの解明に用いる油として菜種油か最適
であると判断して菜種白絞油を実験に用いたが,実際に
(
1) 各種油の着火温度及ひ、着火時間について
引火点を J1Sに基づいて測定すると 3
2
7Cと文献値よ
熱電対による各種油の着火温度及び着火時間の測定結
り1
6
0C以上も高い温度で引火し,発火点は 4
1
8Cと文献
7
9Cから 3
9
4
果については,表 4のとおりで着火温度は 3
0
C
0
0
(3)
-4
2-
生活環境学
。
Cまでの聞に 7種類の油かすべてはいっており,油の種
4
0
0
類か変わっても着火昼度にそれほと差は見られなかった。
JF
乙ダ明 明 有
換気扇有・フ一空
着火温度については,測定装置の加熱面積 ・加熱速度 ・
バ〆グ/ 換気扇有・フード無
~
測定方法等か一定なのと,精製の度合いが一定な油を使
μ300
婦連 '
¥ーノ
用したことにより,着火温度にバラツキかあまりでなかっ
たと考えられる。
(
2
) 換気扇(移動空気量 2rrl/分)の影響について
着火時間 着火温度
秒3
8
0C
扇有・フード有 1
3
分2
5秒 3
8
6C
扇有・フード無 1
4分 1
8
秒 3
8
3C
0
0
着火温度及ひ着火時間の測定結果については,図 1の
0
1
0
0
。
。
ヴ
4
00
1
5
(
υ。
)規 定
1
0
5
経過時間 〈分〉
図 -2 フードの影響について
着火時間 着火温度
油か飛散するのを防止するためのフ ー トを鍋に取り付
けてファンを用いずに窓を閉めた状態で実験を行なった
1
0
0
3分 0
0
秒
場合は 1
ハ
U
ハU
5
0
しかし,
経過時間(分)
ファンを用いて実験を行なった場合には,
トを付けた場合
図 -1 換気扇の影響について
(
1
3分 2
5秒 ・3
8
6C
) と付けない場合 (
1
0
0
閉め切った室内で実験を行なった場合の着火時間は 1
2
(
3
8
6C) と1
2分 5
0秒 (
3
8
5C) で 3秒の差しか見
この着火時間の差の生じた原因として考えられるのは,
実験装置上部の油煙はファンで排出されるが鍋かフード
0
0
られなかった。
で覆われているために,フ ー ド内の油面付近の油蒸気か
ファンの影響を受けにくくなってフード内が油蒸気で飽
しかしファンを廻し窓を開放して実験を行なった場合
は1
4
分0
5秒
フー
分1
8秒・ 3
8
3C) とでは l分近い差が生じた。
4
とおりである。
分5
3秒
0
分5
3秒 (
3
8
6C) とでは, ほとんど差は見られなかった。
2
1
5
1
0
(
3
8
0C
) で,付けない場合の着火時間 1
(
3
8
1C
)
0
・1
4分 1
8秒
(
3
8
3C
)
0
・1
4分 4
1秒
(
3
8
5C) と最大と最小で 3
6
秒の聞きがあり 一定の温度で
2分 5
0
秒及び 1
4
分1
8秒 を 表
着火しなかった。(図 1では 1
和状態となり油の蒸発をおさえて,その結果油温か上昇
し油蒸気か早く着火温度に達したものと考えられる。
0
•
4
0
0
示
〉
き込む風の影響により気化 潜熱の増加や鍋の冷却か起こ
'
ノ
Aノ ndnb
着初犯
開校秒
﹃
nxunυ
i ﹄且τ
作餌噌
ド忌﹄
ふん分分
着凶日
mm
U
A生 ハ
ηluηJU
官同吉岡
1
0
0
井井
7
思
天天
2
0
0
頬
/4
また,ファンの影響としては白煙かでだした 2
0
0C前
0
ν
f
'
と考えられる。
3
0
0
ノ
/
り油の昇温速度か緩慢になり着火温度に差が生じたもの
~
以
一 CC
一定の温度で着火しなかった理由としては,窓、から吹
後より ,徐々に昇温速度が遅くなり,温度が上がるにつ
ハU
AU
れてファンを使わない場合の温度上昇速度との差は開い
ていった。これは,鍋より発生した油煙かファンによっ
5
1
0
1
5
2
0
経過時間〈分〉
て排出されるために,油蒸気が飽和状態にならず,より
図 -3 天井高の影響について
多くの油煙を発生させ,そ の潜熱のため 油 の温度上昇か
ゆるやかになったこと及び気流による冷却効果と鍋から
(
4
) レンジフードまでの高さの影響について
空気への熱伝達量の増加, ガスの炎が気流によって片寄
着火温度及び着火時間の測定結果については, 図 3の
るための見掛けの熱効率の低下などの原因か考えられる。
とおりである。
ガス コ ンロを置 いている台を 4
0
c
m高くした場合(レン
(
3
) フード の影響について
着火温度及び着火時間 の測定結果については,図 2の
とおりである。
0c
m
低 くなりコンロ台からレンジフ ード下面
ジフ ードが4
.
0
0
mに相当),着火時間は 1
5分 4
3
秒
までの高さか 2
(4)
(
3
8
6
-4
3-
中根他 :天ぷら火災の要因
。
C) から l分 2
5秒遅くなった。
の大きい鍋では, 加 えられた熱量の中から鍋の加熱のた
めに使われる熱量か多く , その結果油の加熱に時間かか
原因として考えられるのは,鍋が天井に近ずいたこと
かったものと考えられる。
によりファンの影響を より受 けて油面 付近の 油蒸 気 濃 度
また , 着火温度については着 火時聞か短いほと 着 火温
か低くなった結果油か蒸発しやすくなり , その潜熱によ
度か低くなっている。
り油 温の上昇が緩慢になったこと及ひ鍋から空気への伝
これは,鍋 内 の 油 か 均一 に加熱されずに, 一 部 過 熱 状
達熱量の増大, 見掛けの熱効率の低下な どが重なっ て着
態になり早く 着火したものと考えられる。
火時聞が遅くなったものと考えられる。
400 ~ 、
4
0
0
.ー、,
一日 円 、.
。
3
0
0
C3
0
0
nJU
ハ
u
nu
婦連 '
'-ノ
着火時間 着火
温度煩 2
0
0
0
鉄製鍋 (
厚 さ0
.
6
m
m)1
1分 1日秒 3
7
9
C
.nl
0
鉄製鍋 (
厚さ 1
.
6
m
m)1
4分 1
8
秒3
8
3C
疋
1
0
0
。
。
,
1
0
0
5
。
。
1
5
1
0
5
経過 時 間 (
分)
1
0
1
5
2
0
2
5
経過時間 (
分)
図 -6 油量 の 影 響 について
図 -4 鍋の厚 さの影響 について
(
6) 油量の影響について
着火温度及ひ着火時間の測定結果については,図 6の
4
0
0
とおりである 。
鍋に入れる油量を 2
5
0m
l・5
00
m
l• 1
00
0
m
lと順次変えて
3
0
0
/
ー
、
い く と , 油 量 と 着 火 時 間 と は 正 比例 し,
'
ノ
2
60(
T:着火時間秒
ρ
頼 2
0
0
7
思
着火時間 着火温度
0
1分 1
0
秒 3
6
8
C
アル ミ製 鍋 1
0
鉄製鍋 1
4
分1
8
秒 3
8
3
C
1
0
0
。
。
れ た。
これは鍋に加えられた熱のうち油に伝わらずに空気等
め,油か鍋から受ける熱量はほぼ一定割合となり , 油量
5
1
5
1
0
か増えるにしたがって着火温度に達する時聞か遅くな勺
油量と着火時間との間に比例関係かえられたものと考え
図 -5 鍋の材質の 影響について
/
1
V:油 量 m
l) の 関 係 か 得 ら
に奪わ れ る熱量は 油 の量を変えても大きく変わらないた
経過時間 〈
分〉
1~
T=1
.16V+
られる O
また着火温度については 1
0
0
0ml
の場合のみ若干の低下
(
5) 鍋の材質及び厚さの影響 につ いて
着 火温度及び着火時間の測定結果については, 図 4及
が見られたか,油の量か多 くなることにより油全体か均
び 5のとおりである。
一 に加熱されたのに対し,油量 か少ない場合は油蒸気の
2種類の鉄製鍋を用い て行なった実験結果
では,厚さ 1
.
6m
mの鍋の場合は 1
4
分1
8
秒 (
3
8
3C
) で着 火
し,厚さ 0
.
6
m
mの鍋の場合は 1
1分 1
5
秒 (
3
7
9C
) で着火し
発散よりも鍋から受ける熱量 の方 か多いため 一種の過熱、
厚さの違う
0
状態になったものと考えられる 。
0
(
7) 熱源の影響について
着火温度及ひ着火時間の測定結果については,図 7の
f
こ。
また厚さ O
.
5m
mのアルミ鍋の場合は 1
1分 1
0秒 (
3
68C)
0
とおりである。
裸火による引火を避けて発火温度を測定するために水
で着火 した
。
この ことは,着火時間 は鍋 の材質と厚 さによって決ま
る鍋 の熱容量の影響を受け,厚さか薄い鍋 (熱容量が小
用投げ込み ヒー ターを使って実験を行なったか,着火温
度はカ、
スコンロを使った実験と同じ 3
8
30Cてあ った
。
さい鍋)の場合は着火時間 も短くなっているが着火温度
も低くなっている。原因として考えられるのは,熱容量
このことは,カスコンロを使った時の着火か引火では
なく発火であることを示している。
(5)
-4
4-
生活環境学
聞の早 さは反比例するが,弱め過ぎると着火しなくなる。
4
0
0
(目安としては約 1
6
0
0
k
c
a
l/h)
また LPG (
4
3
6
8
k
c
a
l/ h)2)を使用した場合は 1
1分
μ300
1
5秒で着火した。
ハU
nL
ハ
u
婦連'
'
ノ
1
9
k
c
a
lと都市ガス 13Aの
この間油か受けた総熱量は 8
5
4
8
kc
a
lより多いが, LPGと都市力、
スの火力の強さを
1
0
0
。
。
比較すると
LPGの方か強いので,都市ガスよりも少な
い総熱量 で着火するはずなのに都市ガスの1.5
倍の熱量
1
0
5
1
5
2
0
を消費している O これはあま りに強火のため,炎か鍋底
経過時間〈分〉
から外側に流れて空気中に放散する熱量も増加し,熱効
図 -7 油処理剤の影響について
率か低下したものと考えられる。
4
0
0
4
0
0
~
'
ノ
ハ
U
ハ
U
建200
///イ長/ヲ
υ
ベ
ハ
υ
(
ρ
//
~300
。)
同相想'
//,/
//二/
1
0
0
1
//~
.着火時間着火温度
0
300kcal/H1
4
分1
8
秒 3
8
3
C
火力 2
0
火力 1
832kcal/H2
2
分1
8
秒 3
8
2C
1
0
0
着火時間着火温度
! 1
4
分1
8
秒3
8
300C
司ヒーター (1KW)で加熱 1
8
分5
0
秒3
8
3C
。
。
J
。
。
/ /'
5
1
0
1
5
2
0
2
5
経過時間(分〉
1
0
5
1
5
2
0
図 -9 火力の影響について
経過時間(分)
(
9
) 油処理剤(油っ固〉の影響について
図 -8 熱源の影響について
着火温度及び着火時間の測定結果については,図 9の
とおりである。
(
8) 火力の影響について
油処理剤が完全に溶けるまでに 1分近くかかっている
着火温度及び着火時間の測定結果については,図 8の
が
,
とおりである。
この間油温は殆ど上昇していないので,
この期間に
加えられた熱は油処理剤を溶解するのに全て使われたと
2
3
0
0
k
c
a
l
/h→ 1
8
3
力、スコンロの火力を弱くすると (
4分 5
0
秒前後で着火
解釈できる O この時聞を差し引くと 1
2kcal/h)1)着火時間は (
1
4分 1
8秒 → 2
2分 1
8秒)長く
したことになる。
4
8
k
c
a
lから 6
8
なったが,この間に油が受けた総熱量は 5
5
0
0
m
lの油に 20gの油処理剤を入れたのだから約 5
2
0
m
l
1
k
c
a
lと増加している。
の油を加熱すると考えると, (
6
)で得られた T=1.16V+
油が受けた総熱量か増加したのは,火力を弱めたため
が増加したため及び,加熱量が減じたために加熱時聞が
2
0を代入すると Tは1
4分2
3秒となり 2
0秒程度
2
6
0の Vに5
遅れて着火している。しかし, 5
0
0
m
lを Vに代入した時
もTは1
4分0
0
秒と 1
8
秒遅れる。
増し,鍋から空気中に放出される熱量か増加したためと
よって,油処理剤を入れても着火時間は変わらない。
考えられる。
側油の劣化の影響について
に鍋に直接炎があたる面積が減り空気中に放散する熱量
さらに火力を弱くすると(流量 31/5
9秒→ 31/73
着火温度及び、着火時間の測定結果については,図 1
0の
秒・発熱量 1
8
3
2
k
c
a
l/ h→ 1
4
8
1
k
c
a
l/ h) 一 時 間 加 熱
とおりである。
9
0
しでも着火しなかった(ガスを止める直前の油温は 3
2
0回使用:以下古い油と言う)
繰り返し使用した油 (
o
c
で着火温度に達しているが着火しなかったのは加熱約
を使った実験結果と未使用の油(以下新しい油と言う〉
5
0
分後油温3
5
0Cより油か変質し始めたことが原因と考
を使った実験結果では,着火時間に 1分3
0
秒の差が生じ
えられる)。
新しい油の方が早く着火した。
0
これらの結果から言えることは,火力の強さと着火時
昇温曲線を比較すると,古い油の方がゆるやかに昇温
(6)
-4
5-
中根他:天ぷら火災の要因
表 5 発火温度に対する加熱による油の変質の影響
採取時期 (
O
C
)
2
0
0
2
5
0
3
0
0
3
5
0
3
6
0
3
7
0
3
8
0
出火直後
消火後
O
C
)
発火温度 (
4
2
0
4
2
0
4
2
0
4
2
1
4
2
2
4
2
0
4
2
0
4
2
2
4
21
滅するが,天ぷらを揚けるのに家庭で使う鍋の直径で大
きさか 2倍というような鍋は考えられないのに対し,放
4
0
0
」
.
.
射率については,物体表面の状況すなわち鏡面か黒体か
。
3
0
0
によって, 0
.
2から 0
.
9
5まで変化する。
ここで,同じ重量・同じ材質の二つの鍋があった場合,
凋2
0
0
~,
着火時間着火温度
0
新しい油 1
4
分5
7
秒3
8
0C
0
古い油 1
6
分2
0
秒 3
7
9C
λ
7
思
1
0
0
表面処理されているものと使い古して黒くなった鍋とで
は 4倍程度の差か出てくる。
例えば,発火温度付近 (
3
8
0C前 後 ) て の 表 面 か 鏡 面
0
。
。
の新品の鍋(放射率0
.
2の場合〉の轄射熱は 1
0秒 で 0
.
4
7
k
2
0
5 1 0 1 5
経過時間(分〉
.
8の
c
a
lあるのに対し,表面か黒っぽい古い鍋(放射率 0
場合)の幅射熱は 0
.
4
7x4=
=1
.8
8
kc
a
lとなり , ヒーター
1
0
秒で、 2
.
4
k
c
a
l
) の 8割 近 く を 占
より加えられる熱量 (
図 -1
0 油の劣化の影響について
ntBl
wSEa--
1
!
R
め,対流・気化によ って 奪 わ れ る 熱量 1
0秒 で 約 1k
c
a
l
している。
を考慮すると昇温はストップし,発火しないことになる。
このことは,古い油の方かより多くの蒸気を発生して
4
. 結論
いることを示している。それなのに着火時間か遅いのは
油か変質して低沸点物質か一部生成され,順次蒸発して
火点 (
222+60C) 発火点 (
3
9
4+5
2C
) 等か,それぞれ
0
いったものと考えられる。
I
I
"
引火点 (
3
1
6+1
2C) 燃焼点 (
347+7C) 発 火 点 (
4
1
4
加熱により油は,変色・異臭・粘調性等見た目には変
+8C
) と,ほぼ固有の値を得た。
0
0
0
(
2
) ファンを使用すると出火に至る時間(以下出火時
質しているが,発火点を測定すると差は見られなかった。
間という)は長くなり, 天井高を低くすると,よりファ
1
i1
これは,変質の度合いが今回の発火点の測定方法で差
ンお影響を受ける。
(
3
) 鍋にフードを付けると出火時間は短くなる。
が出るほどの変質ではなかったことを示している。
ω 熱の収支について
イ
0
(
1
1
) 加熱中の油の変質について
(
表 5参照)
. f
)
(
1
) 従来の研究では油種によってかなり差かあった引
(
4
) 鍋の影響については,鍋の熱容量か大きいものほ
~
油を加熱する時, 一番熱効率かいいと思われる投げ込
ど出火時間は長くなり,着火温度は高くなった。
み式シーズヒーター (1kw) を使った実験で考えてる
1
3
0
秒かかっていることより,油に加え
と,着火までに 1
(
5
) 油量の影響については,油量と着火時間の聞に比
例関係が見られた。
られた総熱量は 2
7
1
.2
k
c
a
l3)加えられている。
(I
:1
9
、
(
6
) 熱源にシースヒーターを用いて裸火を使わずに行
5
.7
5
k
c
a
14)と
一方幅射によって放散される熱量は, 2
なる。
なった実験で,カスコンロを用いて行なった実験と同じ
温度で着火したことより,引火でな く発火により着火す
5
0
0
m
lの菜種油(密度 0
.
9
2g/c
n
r・比熱0
.
5
) を2
7Cか
0
ることがわかった。
ら3
8
3Cまで上昇させるのに必要な熱量は 81
.8
8
k
c
a
15)で
0
ある。
(
7) 火力の影響については,火力を弱めていくと全開
時の約 3分の 2の 1
4
8
1
k
c
a
lの発熱量の時に 1時 間 加 熱
加えられた総熱量2
7
1
.
2
k
c
a
lから油温を上昇させるの
り
I
./ J
に必要な熱量 (
8
1
.
8
8
k
c
a
l
) と輯射により失われた熱量
(
8
) 油処理剤の影響については,処理剤か融解するた
(
2
5.
7
5
k
c
a
l
) を差しヲ│し、た残りが,対流と気化により失
めの時間及ひ質量の増加による影響を除くと,油処理斉IJ
われた熱量である。
に関しても着火時間・着火温度に差異は認められなか っ
幅射熱、は周囲の条件が同じでも鍋の表面積と放射率に
、
.
f
こ
。
よって増減する。
鍋の表面積については,鍋の直径の 2乗に比例して増
ー
しでも着火しなかった。
(
9) 油の新しい・古いによる影響については,古い油
の方が若干着火時聞か長くなった。
(7)
生活環境学
-4
6-
X A (Cb:轄射定数 4
.88kca1/h • n
f• k¥ε :
(
1
0
) 油の加熱による劣化については,発火点のみ測定
(AST M法〉を行な ったが,影響は見 られなかった。
放射率, T2:鍋の絶対温度, T 1:周囲の絶対温度.
A:鍋の表面積〉で表され,例えば ε=0
.
2の場合加
文献および注
熱し始めてから着火までの総熱量を計算すると 2
5
.
7
5
k
1)流量 31/4
8
秒→ 31/5
9秒;都市ガス 13Aの発熱
1
0
0
0
kc
a
1X一時間あた りの 流量 X2
7
3/273+
量 Q=1
c
a
1
5) Q=温度差 ×比熱 ×容量×密度 = (383-27) X0
.
5
X5
0
0X0.
9
2=8
1
8
8
0
c
a
l
T
2)流量 31/5
9秒 ;LPGの発熱量 Q ニ 2
4000kca1>
く
6) それぞれ 3回測定を行ないその平均値を求めた
7)火災原因調査事例集:東京消防庁予防部調査誌編集:
1時間あたりの流量 x273/273+T
全国加除法例出版, p
.8
9
3) Q=0
.
2
4x電流 ×電圧× 加熱時間 =0.
2
4X1
0
0
0X
1
1
3
0=2
7
1
20
0c
a
1
T 1/1
0
0)4 }
4) Q=CbxεX {(
T 2/1
0
0)4 - (
8) 実験値は個々の値
(平成 4年 1
0月1
2日受理〉
Summary
Thisstudyexperlmentedi
nchangecondition(
d
l
f
f
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1
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t
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i
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l
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u
a
l
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opot,d
i
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t
1,d
l
f
f
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r
e
n
tsourceo
fhe
a
t,d
l
f
f
e
r
e
n
tpowero
fhe
s
t
),sea
r
c
hf
act
o
ro
ftempurao
i
1f
i
r
e
.
vo1umeo
f01
lr
e,i
tbreakoutigni
t
etempura011
.
Andt
h
etempurao
i
1f
i
r
ei
snotbreakoutc
a
t
c
hI
(8)