解答例 記事によれば、日本が人手不足に陥っていた 20 年ほど前、日系ブラジル人の労働者は それを補うために歓迎されたが、その後の経済不況によって大量に解雇され、帰国を促さ れたという。これは、外国人労働者が日本にとって都合のよい「雇用の調整弁」として扱 われていることを示している。 これを単に過去のこととして済ますことはできない。日本は現在、東日本大震災からの 復興や 2020 年の東京五輪開催に向けた事業のために多くの労働力を必要としている。そ こで政府は外国人労働者の活用を積極的に進めようとしているが、以前と同じように彼ら を日本にとって都合のよい「雇用の調整弁」として扱ってはならない。 そもそも、その都度の社会の状況に対応するために外国人を「雇用の調整弁」として扱 うところには、彼らをもっぱら増減可能な「労働力」としてみなし、生身の人間としての 側面を軽視するような発想がある。会社側が日系人の社会保険料の負担を嫌がったり、彼 らを「終身非正社員」として不安定な就労形態で働かせたりしている場合が多いのも、そ うした発想が根底にあるからではないか。これは外国人にとっては搾取や差別に近いもの であり、このままでは日本は外国人労働者の受け入れにおいて国際的な信用を失う恐れが ある。すると、優れた技能や高い専門能力を持つ外国人労働者もまた、日本に来なくなっ てしまうだろう。 それゆえ、外国人労働者を単に「労働力」と見なすのではなく、彼らを生身の人間とし て受け入れること、言い換えれば社会の一員として迎え入れることが求められる。そのた めには、日本に住む外国人労働者が希望するような対策、例えば日本語学習や職業訓練の 支援、雇用・医療保険などの社会保障の整備が必要である。また、外国人に日本の技術を 学びながら働いてもらうことを目的とする外国人技能研修制度があるが、この制度を利用 した賃金不払いや人権侵害などの問題が起きている。外国人労働者は雇用主に対して弱い 立場に置かれやすいので、彼らがこのような劣悪な労働環境を強いられていないかを監査 する仕組みも必要になる。 外国人労働者は人口が減少しつつある日本にとって、経済や社会の支え手として必要な 存在である。だからこそ、外国人労働者を「雇用の調整弁」として都合良く受け入れたり 切り離したりするのではなく、彼らをしっかりと社会の中に包摂していくような仕組みを 作るべきだと考える。
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