私の描く Dementia Support 脳内に現れるが、MEG はその兆候を捉えて分析する 早期診断に注力! 脳からのサインを見逃さない 医療法人千清會 鈴木脳神経外科 (埼玉県川越市) 小江戸と呼ばれ多くの観光客が訪れる埼玉県川越市から、狭山市に向け車で 30 分の、田畑に囲まれた 閑静な地に医療法人千清會 鈴木脳神経外科はある。同クリニック院長の鈴木千尋氏はなぜ、交通の便が 良いとはいいがたいこの地を選んだのか。鈴木氏はその理由を「開院時には無理だとしても、何年後かに は必ずやMEG を導入しようと考えていたからです」と話す。診療環境の改善にも取り組む鈴木氏に認 知症への思いや考えを伺った。 ことができるため、それに合わせた投薬や生活習慣の 改善などの、認知症の進行を遅らせる対策を早く打つ ことが可能になる。また、脳には感覚など重要な役割 を果たす場所に微妙な個人差があるため、各々の手術 計画を立てる際にも有効な検査だ。 鈴木氏は病院勤務を経て、2001 年に開業。救急治 療に長く携わった経験から、早期発見や予防に力を入 れた施設にしたいと考え、入院設備をもたないクリ ニックを開設した。開設時には MEG を導入する余裕 はなかったが、導入を視野に入れてはいた。 「脳磁場は地球磁場の 10 億分の 1 と超微弱です。そ れを捉えて測定する MEG は、自動車のエンジンやエ レベーターなど、少しの環境ノイズにも影響を受けや すいため、車の通行量が少ない、街中から離れた場所 でなくては設置できません。数年後の導入を目指し、 閑静な地域に広い敷地を確保して開院することにしま 脳内の小さなサインを捉える MEG の導入を視野に開院 認知症の診断のために行われる画像検査には MRI や CT、PET、SPECT などがあるが、さらに精度の 高い結果が得られるものとして注目されているのが MEG (Magnetoencephalography:脳磁場計測) である。 海外に比べ日本には多く導入されている機器だが、そ うはいっても現在わずか 20 数台で、しかも導入して いるのは大学病院や研究機関が大半だ。その MEG を クリニックとしてはいち早く取り入れ、認知症を早期に 発見し、その本人の望む今後の生活の実現に力を注い でいるのが鈴木脳神経外科院長の鈴木千尋氏である。 とミリ単位で脳内のどの部位が活動しているかがわか り、1,000 分の 1 秒単位で脳の中の詳細な情報の流れ、 つまり脳の機能や働きを知ることができる。この点が 豊かな環境空間が受診者にパワーを与える 脳の形や萎縮の様子などを診る MRI や CT と大きく異 なるところだ。 認知症にはアルツハイマー病や血管性認知症、レ ビー小体型認知症(DLB)などさまざまな種類がある が、それらが単独で現れることはまれで、むしろいく つ か の 認 知 症 が 合 併 し て い る 場 合 が ほ と ん ど だ。 MEG で得た測定値に数学的分析を加えると、それら が何パーセント関わっているかまで判明する。また、 MCI(軽度認知障害 )の準備状態、前臨床期、さらに もっと早い時期のそれぞれで、特徴的な小さな変化が 脳の中には多くの神経細胞があり、この神経細胞の 鈴木千尋(すずき・ちひろ ) 1981 年埼玉医科大学卒業。85 年同大学博士課程修了、医学博士。2001 年鈴木脳神経 外科開設。08 年ニューロサイエンスセンター開設。最新かつ最高ランクに属する高度 医療機器を駆使した人間ドックと外来保険診療を行う。埼玉医科大学非常勤講師、同大 学総合医療センター非常勤講師。日本脳神経外科学会専門医、日本認知症学会専門医 2008 年、鈴木氏はクリニックの建物に隣接して、 ニューロサイエンスセンターと継続診療棟を設けた。 「日本の医療施設内の環境はどこも似ています。こ ニューロサイエンスセンターには念願であった れまでと趣きの異なる施設が一つぐらいあってもいい MEG を導入。さらに、MEG の結果を MRI の画像に のではないかと思ったのです。当然ながら、重装備の 重ね合わせて分析するため、より鮮明な画像が得られ 医療施設にすればするほど、その維持は経営的に大変 る国内最高水準の 3 テスラ MRI を同時に導入した。こ です。しかし、豊かな環境空間は『もし病気が見つかっ れらの検査を人間ドックのメニューに入れて提供する たら、どうしよう』という受診者の不安を和らげるだ ことにした。 けでなく、受診者に検査に立ち向かうための大きなパ 検査を担当する臨床検査技師の細田政也氏は「MRI では脳の萎縮が見られなかったけれど、MEG で認知 中を電気が流れることによって脳は活動している。昔 症の兆候が見つかったケースがあります」と語る。 ワーを与えます。ですから、あえて挑戦することにし ました」と鈴木氏は明かす。 WHO は 1998 年に健康の定義として「(1)physical health( 肉体的な健康 )、(2)mental health( 精神的な から行われてきた脳波検査は、このときの電圧変化を もう一つ鈴木氏がこだわったのが、患者を迎え入れ 調べるものだ。医学的侵襲性はないものの、脳波は伝 る環境だ。一般外来や検査を行うニューロサイエンス 健康 )、 (3)social health(社会的な健康 )の 3 つに加え、 導率の異なる髄液や骨、皮膚などを通して伝わるた センターは、色彩や質感を大切にした空間をつくり上 spiritual health が必要で、中でも spiritual health が最 め、その過程で電気信号が複雑に変化するという欠点 げ、検査スペースや廊下には意匠を凝らした家具を配 も重要である」と示唆した。spiritual とは「生きる意 がある。一方、MEG は電気が流れるときに生じる脳 置するなど、しっとりと落ち着きのある雰囲気をもた 味や希望、安らぎなどを見出す心の概念」とされてい 磁場を測定する方法だ。磁場の通りやすさは髄液や骨、 せた。さらに、同クリニックが提供している人間ドッ る。受診者の不安を和らげたり、受診者に大きなパ 皮膚などのどこでも一定のため、脳の神経細胞の活動 クの中でも最も検査メニューが多く、1 年間継続して ワーを与えたりするのは、まさに spiritual health を育 をダイレクトに記録することができる。これが MEG フォロー受診のできる「ロイヤルメディカルチェック 成するケアにほかならない。 の大きな特徴だ。しかも、MEG を使えば、脳波計に 比べ数十倍も多い情報が得られる。脳磁図を記録する 12 した」 アップ」の受診者の専用棟とした継続診療棟は、クラ 一般外来と人間ドックを行っているニューロサイエンスセンターの受付ロビー シックな内装で統一した。 「spiritual health に基づいたケアがしっかりできて いると、認知症になっても人生に生きがいを見出すこ 13 受診者の不安を取り除く スタッフの笑顔 とができます。また、自分がやりたいこととできるこ 4週間後で、1 時間ほどの十分な時間をかけて、鈴木 ととの間にギャップが出てきても、それを平静に受け 氏から患者や家族に丁寧な説明が行われる。 MEG を応用した簡便な方法を見つけたい 止めることができます。平静に受け止められれば、今 認知症という診断が付いても、鈴木氏はすぐに抗認 問題になっている BPSD が起こることはほとんどあり 知症薬を処方することはしない。薬を処方する前提と これまでに同クリニックの人間ドックを受診した人 ません」 して、「患者自身がどうしたいか」を明確にしておく は1万 1,644 名。このうち 690 名が中程度以上の認知症 ことが重要だと鈴木氏は考えているからだ。 と診断された。かかりつけ医からの紹介で受診する人 継続診療棟とその後に造られた生活指導棟の一角に は、茶室が設けられている。患者の精神を大切にした ケアの一つだという。 本人が「飲みたい」という気持ちになってから処方 鈴木氏は患者に「何歳まで生きたいですか」と必ず 問う。 が多いが、インターネットで調べて他県から訪れる人 も少なくない。かつては海外から団体で来院したこと 「ひ孫が結婚するまでだから○歳」 もあったが、現在は受診後のフォローができないため 「東京オリンピックが開かれるまでだから○歳」 断っている。 などと答えた患者には、「そうですか。では、その 「今後は MEG の特徴を応用した別の簡便な方法が 同クリニックで行っている人間ドックには、四つの 時まで元気でいられるように一緒に頑張りましょう」 ないかを研究していきたいと思っています。多くの人 コースがある。問診や高次脳機能検査、心理テストな と本人に自分の具体的な将来像が描けるように話す。 が気軽にこのような人間ドックを受け、認知症の予防 どの基本検査項目に、3 テスラ MRI 検査などが加わっ そのうえで抗認知症薬を紹介し、作用や副作用などに が広く行われるようになれば、国の医療費削減にも貢 た「脳ドック」 、それにマルチスライス CT スキャンや ついても説明する。 献できます」と鈴木氏は期待している。 一般外来受付担当の関根 渚さん 人間ドック受付担当の齋藤嘉乃さん 受診者の不安を取り除くのはクリニックの内装だ けではない。スタッフたちの明るい笑顔と丁寧な接 遇も、受診者たちの心に安心を与えている。 一般外来受付を担当する関根 渚さんは「一般外来 には幅広い年齢層の方が来院されます。患者さん一 人ひとりに合った言葉遣いをするように心掛けてい 呼気ガス分析検査などがプラスされ、全身のがん検索 「こういうプロセスを経ていけば、ご本人の口から もう一つ、鈴木氏がぜひ行いたいと思っているの が可能な「総合ドック A」 、さらに MEG を加えて脳疾 『薬を飲みたい』という言葉が自然に出てきます。こ が、子どもたちへケアの心を伝える行動だ。「子ども も多少お待たせすることがあります。そうした患者 患や認知症の早期発見が可能な「総合ドック B」 、そし れがとても大切です。本人が飲みたくないのに家族が たちに、『あなたのことをしっかり見ているよ』とい さんが不満を言われるどころか、 『いい先生に診ても て既述の「ロイヤルメディカルチェックアップ」だ。 無理強いすると、家族と本人の関係が悪くなってしま うメッセージを発信して、常に生きがいを見出して生 らえてよかったわ』と満足して帰られます」 。また、 うことすらあります。これでは何のために薬を飲むの きることができる人を育てていきたい。そのような人 人間ドック受付担当の齋藤嘉乃さんは、 「人間ドック かわかりません」 間に成長すれば、彼らが将来、万一認知症になったと を受診される方は自分よりも年上なので、子どもっ しても、少しも悲観することなく、最後まで生き生き ぽくならないように気を付けて対応をするようにし どのコースも、検査結果の判断を下すのは鈴木氏一 人ではなく、同クリニックが連携している埼玉医科大 学国際医療センターなどの専門医が検査結果の検討に インフォームドコンセントをしっかりと行うことで 参加する。そうすることで、診断の正確性はより高い 患者は薬の必要性を理解でき、理解すれば薬を継続し ものになっている。人間ドックの結果が出るのは 2~ て飲むことができる。そして、「この薬のおかげで今 と生を全うできると思います」。 鈴木氏の認知症への取り組みに終わりはない。 年もトマトを栽培できました」などと嬉 ます」と話し、こう続ける。「予約制ですが、それで ています。人間ドックで病気が見つかってもがっか りせずに、むしろ『早く見つかってよかった』と言わ れます。院長が常に言っている『早期発見・早期治療 の大切さ』を、皆さんがご理解してくださっている しそうに話してもくれる。鈴木氏の患者 ことを嬉しく思います」と言う。 は、認知症と共生しながら生きがいを もって暮らしているのだ。 1 本館。主に人間ドックの説明や各種の 案内を行う 2 生活指導棟。生活指導のほか、セミ ナー会場などにも使用される 3 継 続 診 療 棟。 ロ イ ヤ ル メ デ ィ カ ル チェックアップの診察や、その後の 健康指導などを行う 4 クラシックな雰囲気の継続診療棟内 部。診療後はここでゆったりと過ご す受診者が多い 5 継続診療棟にある茶室。受診者のため にお茶の専門家が点てることもある 脳の神経細胞の活動を記録する MEG。受診者はヘルメット型のキャッ プを頭に被って 20 分ほど仰臥位になる。放射線を使わないので身体 への影響はほとんどない。機械は外部の磁気が入らないようにシール ドされた部屋に置かれている。検査を担当する臨床検査技師の細田政 也氏は「人間ドックを受けられる方は緊張されているので、気持ちを 和らげて受けていただけるように努めています」と話す 1 3 2 14 4 5 15
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