個体別歯モデルのための標準歯3D-FEモデル編集プログラムの開発

個体別歯モデルのための標準歯3D-FEモデル編集プログラムの開発
旭川工業高等専門学校 専攻科 生産システム工学専攻 本多 周平
指導教員 森川 一
Development of Graphical Application Programme for Anatomical Standard Tooth 3D-FE Model to Individual Tooth
Shuhei HONDA (Advanced Course of Production System Engineering,ANCT)
Abstract
Anatomical standard tooth is utilized for finite element method to analyze stress distribution around tooth root and to predict tooth movement during orthodontic treatment. As
shapes of the anatomical standard tooth and patient's individual tooth are different, analyses and predictions evaluated by the standard tooth model are not directly applicable for
clinical treatment. I have developed a programme to transform and to rearrange from the standard tooth model to the patient's individual tooth model for improving 3D-FE
analysis accuracy. As a result, effectiveness of developed programme with several functions for transforming and rearranging the model shape has been verified.
研究目的
周辺要素の編集
歯科矯正治療における歯の移動予測では,ヒトの解剖学的平均形状である標準歯を用いた
有限要素法による研究が中心になされているため,解析結果をそのまま臨床に適用できない.
本研究では,個体別歯モデルの効率的な構築を目的として,標準歯から個体別歯に対応・変
形させる形状処理方法を開発する.具体的には,汎用有限要素解析ソフトウェア ANSYS での
力学解析を対象として,標準歯の形状データを読み込み,描画した 3D-FE モデルを GUI を活
用してモデルの細部に至るまで自由に編集可能なプログラムを Java 言語を用いて開発する.
これまでの編集で,「歯」の FE モデルの変形ができた.力学解析には,他の要素も 必要とな
る.「歯」の変形に伴って,他要素と共有している座標が変わってしまう ため,各要素の共有
座標を対応させる必要がある. Fig.7 は,標準歯の歯冠部と歯根部をそれぞれ編集に合わせ
て,他要素を編集した結果の一例である.
標準歯 FE モデルとその 3 次元表示
ANSYS の力学解析に使用される標準歯 FE モデルは,「歯」,「歯根膜」,「歯槽骨」,「ブ
ラケット」要素から成るソリッドモデルであり (Fig.1) ,膨大な数の節点 (Table1) で構成されて
いる.本研究では,節点データを読み込み, 3 次元モデルを表示するプログラムを開発した
.これにより, Fig.2 に示すよう に ANSYS と同じソリッドモデルとして完全に表示できるが,大
量の要素を扱う ため操作性が低下してしまう .このため, Fig.3 のよう に,標準歯モデルの
表面だけを描画したサーフェイスモデルとして表示し,操作性を大幅に向上させた.
Fig.2 Solid model
Fig.3 Surface model
Table 1 Number of element
Tissue
Fig.1 Standard tooth FE model displayed with ANSYS
Tooth
Periodontal ligament
Alveolar bone
Bracket
Total
Number of
element
3,594
3,480
15,660
95
22,829
Number of
vertex
2,011
4,640
17,632
39
22,922
個体別歯モデルのためのFEモデルの編集
モデル編集では, Fig.4 のよう にサーフェイスモデルを構築している表面節点を制御点とし
て描画し, GUI で移動できるよう にした.これにより,制御点の移動に合わせて自由にモデル
を変形できる.しかし, FE モデルの各要素の構造を不規則に変化させると,力学解析不能と
なる恐れがあるため, 2 つの移動制約条件を設けた
① 各節点ノードの高さ Z を不変
② 各節点は原点からの角度を不変
これらの制約条件の下で,ノード毎の移動,高さ Z 毎の範囲移動,歯冠部の楕円体変形の
3 つの変形処理プログラムを作成した. Fig.4 Control points
Fig.7 An example of FE arranged model
有限要素解析に及ぼす影響
開発した形状処理プログラムの有効性を確認するため,歯冠部及び歯根部をそれぞれ編
集したモデルデータをファイル出力し,歯冠部に 2.94[N] の矯正力を与え,標準歯と同一の
条件 (Table2) で力学解析し,歯根部の応力分布 (Fig.8) に及ぼす影響を確認した.歯冠部
の編集では,歯冠部を楕円体に変形したモデル,歯根部の編集では,歯根全体を, 1[mm]
拡大したモデルを使用した.比較の結果,歯根部編集モデルの方が,応力分布に大きな影
響を与えることを確認できた.
Table2 Mechanical properties
Tissue
Tooth
Periodontal ligament
Alveolar bone
Bracket
Young's
modulus [Gpa]
19.6
0.67×10 -3
10.8
21
Poisson's
ratio
0.3
0.49
0.3
0.3
Fig.8 An example of stress distributions
考察
本研究では,標準歯 3 次元モデルの描画, GUI 編集,ファイル出力の三つの機能を開発
した.作成した編集プログラムの機能では,個体別歯モデル作成には不十分であり,単純な
変形しかできない.しかし,今後患者の歯の形状に対応した編集機能を付加させる場合に,
制御点を用いた変形方法や,内部調整,周辺要素の編集は必要になるため,本開発機能
を活用できる.個体別歯モデル構築を実現させるための次段階としては,作成したプログラ
ムのモデル変形機能を用いて,基準となる患者の歯に合わせて変形できる機能の開発が必
要である.具体的には,標準歯モデルを,基準となる患者の歯形状に空間座標を重ね合わ
せ,制御点を移動させる.基準となるモデルとして,歯冠部形状に対しては,歯列模型の計
測値から取得した DXF データ,歯根部の形状に対しては,オルソパントモグラム( OPG )画
像の利用が考えられる.
Fig.5 An example of arrangement
Fig.9 Solid model by DXF data
Fig.10 Orthopantomogram (OPG)
内部調整
制御点を移動させて変形するだけでは,内部節点が移動されず,力学解析に影響を与えて
しまう .そのため,制御点の移動量を内部点にも反映させる必要がある. Fig.6 は, Fig.4 の
歯冠部を楕円体に変形したモデルをソリッド形式で表示しており, Fig.6(a) では制御点以外が
移動していないため,不揃いな面になっている.これに内部調整を施すと, Fig.6(b) に示す
よう に滑らかな曲面になり, ANSYS での力学解析が可能になった.
( a ) Before arrangement
( b ) After arrangement
Fig.6 Arrangement ofinternal model
結論
本研究では,標準歯モデルからの個体別歯モデル作成を目的として,個体別歯 FE モデル
を作成するための基礎となる以下の機能を開発した.
○ 標準歯 FE モデル及び DXF データを読み込み 3 次元モデルを描画する機能
○ ユーザが制御点を GUI で自由に移動させ,モデルを編集する機能
○ ANSYS で読み込み可能な形式ファイル出力する機能
今後の課題は,患者の個体別歯に対応させるため, DXF データや, OPG を用いた編集プ
ログラムの開発が考えられる.これらの課題を解決し,個体別歯に対応することで,精確な個
体別歯 FE モデルを構築するプログラムの基礎を確立できる.作成された個体別歯 FE モデル
を用いることで,歯科矯正時の歯の移動予測が可能になれば,効率的な歯科矯正治療の実
現に寄与できる.