/【K:】Server/定期物/月刊税理/税理 2015.09/200‐203 健全廃業・虎の巻9 E <第3章 第9回 2015.09.16 10.07.0 廃業を決断した後の廃業プロセス> 廃業を決断した時の廃業支援策 経営承継研究会 中小企業診断士 長谷川 勇 私は,地方の中核都市で花店を営む6 7歳の創業経営者です。体力的に限界を感じていますが, 花束やブーケを渡した時のお客様の笑顔が忘れがたくお店を続けています。いつかは廃業と考え ていますが,廃業後の生活費や生き甲斐を考えると決心がつきません。週2回の卸市場での仕入 れや,冬の冷たい水での水揚げを見て子供たちが心配しています。廃業するときの,廃業支援策 を教えてください。 ます。既存の企業に対する保護政策は,業界 低い廃業率が開業率を 引き下げる 1 の混乱と連鎖倒産を防止し,日本経済の安定 中小企業政策の一環として,創業スクール に貢献しています。 が全国各地で花盛りです。創業が少ないこと しかし,既存の企業を保護することは,新 は,企業の新陳代謝を遅らせ,産業構造の改 規参入(新規創業)と代替品の参入障壁とな 革が進まない要因になるからです。 り,創業育成政策の目的に反して創業阻害要 ●図表−1 因となっています。 「保護的政策は長期的に ファイブフォース分析図 競争力を低下させる」法則のように,労働生 新規参入 新規参入 の脅威 交渉力 同業者間の 敵対関係 競合企業 買手の 買手 売手 売手の 自 社 産性の低い企業を温存し,日本全体の国際競 争力を低下させています。 交渉力 代替品・サー ビスの脅威 代替品 2 廃業は経営者人生の敗北では ない 企業にライフサイクルがあるように,人生 しかし,企業の新陳代謝の視点で中小企業 にもライフサイクルがあります。創業時の経 政策を概観すると,相矛盾する政策が一貫し 営者が,倒産のリスクを背負いながら,試行 て取られています。すなわち,中小企業に対 錯誤を繰返し,企業と共に成長し安定した人 する手厚い金融面からの保護政策です。 生を謳歌します。しかし,経営者は齢を重ね 手厚い保護政策が,新規開業の阻害要因に なることを,ファイブフォース分析で説明し 200 税理●2 0 1 5. 9 るごとに保守的となり,企業の成長が鈍化す るのは統計的にも証明されています。 /【K:】Server/定期物/月刊税理/税理 2015.09/200‐203 健全廃業・虎の巻9 E 付加価値生産性が低下し,体力・気力に限 2015.09.16 10.07.0 どの機能を果たしています。 界を感じた時,資産超過の状況で引退・廃業 個人保証は,次のような弊害があります。 を選択することはごく自然です。人生の勝利 $個人保証への依存が,借手の情報開示,貸 者として,債務超過に陥る前にピリオドを打 つことが賢明な選択です。 3 農政に学ぶ廃業と経営効率化の 両立 「保護的政策は長期的な競争力を低下させ 手の目利き機能等の発揮の阻害 $融資の際の個人保証慣行化が,貸手の説明 不足,過大な保証債務負担の要求,借手・ 貸手間の信頼構築意欲の阻害 $個人保証履行時の,経営者の原則交代,不 る」典型例が,農業分野に見られます。長年 明確な履行基準,保証債務の残存 の稲作農業保護政策は,零細規模の農家を温 これらの弊害が,中小企業の創業,成長・ 存し,経営効率の悪い兼業稲作農家が多数を 発展,早期の再生着手,円滑な事業承継など 占め,国際競争力を失った産業になりました。 の意欲を阻害しています。 零細農家の保護政策が,企業的経営を目指 これらの弊害を解消する目的で, 「経営者 す業界外からの新規参入を阻害し,競争のな 保証に関するガイドライン」が公表され,ガ い特異な業界構造になっています。 イドラインに沿った融資が期待されています。 このような業界構造を改善すべく, 「廃業」 事業承継・廃業・相続などに関連する,経 の用語は使用していませんが,零細・兼業農 営者保証ガイドラインのポイントとして, 家を農地の貸手とし,規模拡大を志向する大 ! 個人保証を行っていても,早期に事業承 規模農家や農業法人に貸し出す支援策が動き 継や廃業を決断した場合,一定の生活費 (従 始めています。農地中間管理機構です。 来の自由財産99万円に加えて,年齢等に応 農地中間管理機構は,農地の貸手に機構集 積協力金を交付しています。協力金には,経 営転換協力金と地域集積協力金,耕作者集積 協力金があります。 経営転換協力金は,農地を貸し出す経営転 換(業種転換)やリタイア(廃業)する農業 者や農地の相続人に,協力金を支払う農地集 積の支援策です。 4 経営者保証ガイドライン 中小企業が融資を受ける際に,慣行化され てきた個人保証は,次のような機能と弊害を もたらしています( 「平成26年版 中小企業 白書」 ) 。個人保証の機能として,!経営者の じて約100∼360万円)を残すことや, 「華 美でない」自宅に住み続けられること " 保証債務の履行時に返済しきれない保証 債務残高は原則免除すること などにより,傷を深めない廃業や事業再生を 支援しています。 これらのメリットを享受するには,!法人 と経営者との関係に明確な区分・分離,"財 務基盤の強化,#財務状況の正確な把握,適 時適切な情報開示などによる経営の透明性の 確保などを日頃の経営で実践していることが 前提条件になります。 5 事業引継ぎ支援事業 規律付けによるガバナンス強化,"企業の信 事業引継ぎ支援事業は,後継者不在などで 用力の補完,#情報不足等に伴う債権保全な 事業の継続が危ぶまれる企業を,これらの企 税理●2 0 1 5. 9 201 /【K:】Server/定期物/月刊税理/税理 2015.09/200‐203 健全廃業・虎の巻9 E 業の事業を引き継ぐ意欲のある企業・経営者 とマッチングして,事業の継続と雇用の維持 を目的として設立されました。 事業引継ぎに関連する諸々の課題について, M&A の専門家や経営コンサルタントを配し て,課題解決の助言,情報提供を行いマッチ ングの成功に導いています。 2015.09.16 10.07.0 ることです。 しかし,毎年1万件以上の企業が,倒産に 追い込まれています。頭で理解していても, 現実には廃業の決断は遅れがちであることを 証明しています。 早期廃業を躊躇させる要因として,中小企 業庁の委託事業で,%中小企業診断協会作成 全都道府県に,事業引継ぎ支援センターや の「中小製造・建設業の転業・廃業指導マニ 事業引継ぎ支援窓口を設置しています。事業 ュアル」は,次の四つの要因を指摘していま 引継ぎ支援センターの機能は,事業を引き継 す。平成10年2月の報告書で少し古い資料で ぐ買手の M&A に注目が集まっていますが, すが,内容的には新鮮です。 売手の円滑な廃業の支援策でもあります。 「事業を活かして,企業は廃する」早期・ 円滑な廃業支援策でもあります。 さらに,より身近な相談窓口として,商工 会議所・商工会・よろず相談窓口があり,中 小企業診断士・税理士・弁護士などの無料経 営相談会なども利用できます。 6 再チャレンジ支援資金 日本政策金融公庫は,廃業経験のある者の その要点は, ! 親の代からの「のれん」や,苦心の末に 育てた長年の事業を,自らの手で終わらせ たくない。業界で相応の地位を占めており, 世間の手前から簡単に撤退できない, " 企業経営は計数だけではない。そのうち に景気は回復するとの根拠のない「景気循 環論」を信じている, # まだまだ個人資産もあるとの思いで借金 の多さに気付かない, 再創業を資金面から支援しています。融資を $ 廃業後の生活が心配であるが,たとえ赤 受けられる資格として,次の3点に該当する 字でも事業を続けていればこれまでのよう 必要があります。!廃業歴を有する個人,又 に生活は続けられる, は廃業歴を有する経営者が営む法人であるこ などの成り行き経営に甘んじています。 と。"廃業時の負債が新たな事業に影響を与 廃業後の生活への備えとして, 「小規模企 えない程度に整理されている見込などである 業共済制度」が整備されています。 「経営者 こと。#廃業の理由・事情がやむを得ないも 個人の失業」や,引退後の安心できる生活基 の等であること。 盤の確保がその目的です。経営者は,経営が 何らかの事情でいったん廃業し,再起を期 順調な時から,毎月所定の金額を納め,事業 す意欲がある場合は,上記"と#の説明がで を廃した時に共済金を受け取れるように備え きる状況であれば,安心して廃業できます。 ます。 7 小規模企業共済制度 経営の前途の見通しが暗い場合,債務超過 に陥る前の早期退出の重要性は誰しも指摘す 202 税理●2 0 1 5. 9 共済金は,生活資金や再チャレンジ資金に 活用できるので,ムリに事業を継続すること なく,早期廃業を支援する制度として機能し ています。 /【K:】Server/定期物/月刊税理/税理 2015.09/200‐203 健全廃業・虎の巻9 E 8 カーテンコール 廃業したいけれども,事業を整理するには 支払が先行するため,資金繰りがつかず廃業 2015.09.16 10.07.0 は廃しても優良事業は活かす」ことにありま す。 “Good 事業”を, “Bad 企業”と運命を ともにさせないことです。 ●図表−3 に着手できない経営者がいます。このような 経営者の背中をポンと押す融資制度の一つが, 第二会社方式 Bad企業 負債 赤字部門 Good事業 (採算部門) 譲渡対価 事業譲渡 例を挙げると大垣共立銀行の「事業整理支援 ローン」 (愛称:カーテンコール)です。 ●図表−2 カーテンコールの仕組み ・後継者不在で事業承継ができない ・先行き不透明で,今後の事業展望が描きづらい ・業績不振からの脱却困難と判断せざるを得ない カーテンコール 資金サポート 買掛金決済資金などの事業資金 経営サポート 自主廃業までを外部専門家と連携支援 事業承継サポート 後継者不在で廃業予定者に M&A 等を提案 前向きな(早い時期での) 自主廃業を円滑に実現! (出典) 大垣共立銀行資料を参考に作成。 カーテンコールは,ライフサイクルに応じ た取引先企業の支援で,自主廃業までの事業 資金を提供します。 このカーテンコールを利用できるのは,下 記の要件を全て満たす企業です。 $自主廃業を予定する法人 スポンサー 取引先企業 地域中小企業 等 Good事業 特別清算 等 Good 事業を第二会社に譲渡して,残った Bad 企業を思い残すことなく,金融機関の 協力を得て廃業させる方式です。 10 廃業支援の留意点 債務超過に陥る前の早期廃業は,一般論と してはいえても経営者から相談を受けない限 り第三者から言い出しにくいものです。苦境 に直面する可能性があっても第三者が廃業を 奨めることは現実的に困難です。第三者が発 信できる廃業支援は次の三つとなるでしょう。 ! 廃業に関連する情報として,取引先との 関係整理,事業用資産の処分,廃業に要す る資金繰り等の情報提供。 " 中立的な公的機関を通しての専門家派遣 とアドバイス受けることの勧め。 # 廃業・引退に備える小規模企業共済制度 への事前加入の勧め。 $当行と既往融資取引があり,当行メイン, 準メイン取引先 $直近決算で債務超過でない。 $清算時に資産超過が見込める。 ! 過度の中小企業支援は創業の障害 $自主廃業(清算,解散手続開始)を直前に " 資産超過廃業は人生の勝利 控えるなど,廃業に向けた事業縮小が相当 程度にはまだ進捗していない。 9 第二会社方式 # 農業に学ぶ廃業と業界構造改革の両立 $ 早期廃業促進の経営者保証ガイドライン % M&A の支援で廃業の円滑化 & 引退後の生活を支える小規模企業共済制 度 「第二会社方式」のコンセプトは, 「企業 税理●2 0 1 5. 9 203
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