Vero毒 素産生性大腸菌0111:H

1187
Vero毒
素産 生 性大 腸 菌0111:H-に
よる集 団下 痢症 の細菌 学 的研 究
愛媛県立衛生研究所
田中
博*大
篠原
瀬戸 光 明
信之
井上
山下
育孝
博雄
(*現 愛媛県伊予保健所)
愛媛県立中央病院検査部
佐 々木
嘉
忠
柿
原
良
俊
大阪府立公衆衛生研究所
塚
本
定
三
東京大学医科学研究所
湯通 堂
隆
奥
裕一
(平成1年3月6日
竹田
美文
受付)
(平成1年4月11日 受理)
Key
words:
Escherichia
coli
Hemolytic
uremic
0111:
要
1986年6月,松
痢 は,患
山 市 内 の 某 乳 児 院 に お い て,乳
者 の す べ て に 認 め られ,9名
的 少 数 で あ っ た.1名
死 亡 した.細
の 患 者 は,溶
Hemorrhagic
幼 児23名 中22名 が 発 症 す る集 団 下 痢 症 が 発 生 した.下
の 患 者 は,血 便 を 呈 し た.発
の 患 者 か らVero細
分 離 さ れ た.さ
colitis,
旨
血 性 尿 毒 症 症 候 群(hemolytic
菌 学 的 検 査 の 結 果,7名
を 産 生 す る 大 腸 菌0111:H-が
H-,
syndrome
熱,嘔
uremic
吐 が 認 め ら れ た 患 者 は,比 較
syndrome,HUS)を
清,抗VT2血
清 を 用 い たbead-ELISAで
の 両 毒 素 産 生 株 で あ る こ と が わ か った.VT2の
産 生 量 は,VT1の
血 清 を 用 い た マ ウ ス 致 死 毒 素 の 中 和 とOuchterlonyの
は じめ に
性 大 腸 菌(enteropathogenic
EPEC),細
coli,EIEC),毒
Escherichia
原
col4
enterotoxin(LT),heat-stable
産 生 す るheat-1abile
enterotoxin
(ST)
胞 に 毒 性 を示 す 毒 素 を 産 生 す る大
別 刷 請 求先:(〒799-31)愛
伊 予 保健 所
平 成 元年10月20日
の 毒 素 をVero毒
素(VT)と
呼
メ リカの オ レ
ゴ ン 州 と ミシ ガ ン 州 に お い て 発 生 し た 食 中 毒 事 件
分 離 し た.Rileyら3)は,臨
炎(hemorrhagic
は,こ のVero毒
E,coli
素 を 産 生 す るE.coli
O26の
O157:H7に
colitis)と
床症 状か ら
よ る下 痢 を 出血 性 大 腸
呼 ん だ.O'Brienら4)
素 の 活 性 が,す で に 報 告 し て い た
産 生 す るVero毒
素5)と 同 じ よ う に
抗 志 賀 毒 素 抗 体 に よ っ て 中 和 さ れ る こ とを 見 出
媛 県伊 予 市 米 湊269
田中
産 生 は,抗VT2
方,1982年Rileyら3)は,ア
こ のE.coli
区 別 さ れ て い た1).1977年,Kon-
owalchukら2)は,ETECが
ん だ.一
O157:H7を
素 原 性 大 腸 菌(enterotoxigenicE.
素に
ゲ ル 内 沈 降 反 応 に よ っ て も確 認 した.
か ら 原 因 菌 と し てVero毒
胞 侵 入 性 大 腸 菌(enteroinvasive E.
coli,ETEC)が
以 外 にVero細
来,病
が 産 生 す るVero毒
調 べ た 結 果,VT2とVT1
約10倍 で あ っ た.VT2の
腸 菌 を 報 告 し,そ
ヒ トに 下 痢 を お こ す 大 腸 菌 と し て,従
素,VT)
ら に,動 物 試 験 に お い て,本 毒 素 は,ウ サ ギ結 紮 腸 管 ル ー
プ 試 験 陽 性 で,マ ウ ス に 対 して も致 死 毒 性 を 示 した.分 離 し た 大 腸 菌0111二H一
つ い て,抗 志 賀 毒 素 血 清,抗VT1血
続 発 し,
胞 に 細 胞 毒 性 を 示 す 毒 素(Vero毒
博
し,こ
の 毒 素 をShiga-like
toxinと
名 づ け た.そ
田中
1188
の 後,Vero毒
素(Shiga-like
大 腸 菌 は,ア
toxin)を
産 生す る
メ リ カ や カ ナ ダ の 散 発 下 痢 患 者,食
中 毒 事 例 か ら続 々 と 分 離 さ れ,出
血性大腸 炎の原
博他
胞)に
よ る ウ イ ル ス の 分 離 も試 み た.
(3)大
腸 菌の性状検 査
大 腸 菌 の 生 化 学 的 性 状 は,Edwards
and
Ewing
因 と な る こ と が 報 告 さ れ6)∼8),腸 管 出 血 性 大 腸 菌
の 記 載22)に も とづ き 行 っ た.ま た,薬 剤 感 受 性 に つ
(enterohemorrhagic
い て は,1濃
E.coli,
EHEC)と
い う呼
度 法(日
称 が 提 案 さ れ た9).わ が 国 に お い て も,本 菌 に よ る
て 検 査 し た.薬
下 痢 症 は,小
chloramphenicol,
林 ら10)が1985年
に報 告 した の を は じ
水,昭
和 デ ィ ス ク)に
剤 は,ampicillin,
tetracycline,
streptomycin,
め と し て,小 林 と 原 田11)や佐 久 ら12)が散 発 例 を,伊
kanamycin,
藤 ら13)14)が集 団 食 中 毒 事 例 を 報 告 し て い る.
B, nalidixic
acid, sulfamethoxazol-trimethoprim,
enoxacinを
用 い た.
EHECが
産 生 す るVero毒
toxin)と
し て は,現
い る.1つ
は,抗
れ る 毒 素 で,そ
素(Shiga-like
在 ま で に2種
類 が 報 告 され て
ン カ 生 研)を 用 い て 生 菌 に よ る ス ライ ド凝 集 反 応
は,生 物 学
性 が抗
伝子 の
塩 基 配 列 か ら推 定 し た ア ミ ノ 酸 配 列 が 志 賀 毒 素 と
相 同 性 が あ る こ と が わ か っ て い る16).前
toxin
1 (VT1)17)ま
I18),後 者 はVero
toxin
Shiga-liketoxinII18)と
今 回,わ
た はShiga-like
2 (VT2)17)ま
れ わ れ は,松
原 因 菌 と し て 分 離 し た.こ
症 状 の 詳 細 は,高
い る が,本
の事例 の臨床
離 した 大 腸 菌 の 細 菌 学 的 検
査 成 績 と分 離 菌 が 産 生 す るVero毒
心 に 報 告 す る.な
産生 す る
山 と松 本19)に よ っ て 報 告 さ れ て
報 で は,分
お,こ
日 本 感 染 症 学 会 総 会(昭
素 の性 状 を 中
京)に
お
い て 発 表 し た20).
院 に お い て,
素 の生 物 学 的 性 状 試 験
試 料 の 調 整:分
離 し た 大 腸 菌 をbrainheart
接 種 し,37℃
培 養 を 行 っ た.培 養 後,遠
で20時 間,振
盟
心 分 離 を 行 い,上 清 を
メ ン ブ ラ ン ブイ ル タ ー で ろ 過,ろ 液 を 試 料 と した .
培 養 細 胞 に対 す る毒 性 試 験:Vero細
細 胞,HeLa細
は,CHO細
胞,MA104細
胞,CHO
胞 を 用 い た.試 験 法
胞 法23)に準 じて 行 い,細 胞 の 変 性 効 果
を5日 間 観 察 した.
料 を1群2匹
の マ ウス の 腹 腔 内 に接 種(0.5ml/匹)し,生
間観 察 した.さ
存す
ら に,60℃30分
結 紮 腸 管 ル ー プ試 験:ウ
サ ギ の結 紮 腸 管 ル ー プ
試 験 を常 法23)に従 って 行 った.試 料0.5mlを
原 菌 の検 索
し,翌
15名 の 患 者 か ら糞 便 を 採 取 し た.細 菌 検 査 で は,
EIECお
み マ ウス試 験 を 行 った.
児 院 の 職 員 か ら 問 診 に よ り調 査 し た.
赤 痢 菌,サ
乳飲
し,加 熱 に よ る毒 素 の 不 活 性 化 の 有 無 を観 察 した.
患 者 の 発 生 状 況 お よ び 性 状 は,病
(2)病
ス ト,STは
お よ び80℃10分 間 加 熱 処 理 した 試 料 を 同時 に 接 種
者
患 者,乳
検査
るか ど うか を7日
材 料 お よ び方 法
(1)患
(5)ETECの
常 法23)に従 い,LTはBikenテ
マ ウス に 対 す る 致 死 毒 性 試 験:試
の 論 文 の 要 旨 は,第61回
和62年4月,東
に よ り行 った.
infusion (Difco)に
山市 内 の 某 乳 児 院 で 発 生
と し てVT2を
お よび100℃60分 加 熱 菌 に よ る試 験 管 内 凝 集 反 応
(6)Vero毒
た は
呼 ぼ れ て い る.
し た 集 団 下 痢 症 か ら,主
EHECを
(4)大 腸 菌 の血 清 型 別
の 分 子 構 造 が 志 賀 毒 素 と全 く同一
的 性 状 は 志 賀 毒 素 と ほ ぼ 同 じ で あ る が,活
toxin
polymyxin
大 腸 菌 の 血 清型 別 は,市 販 の診 断 用 免 疫 血 清(デ
志 賀 毒 素 に よ っ て 中 和 さ れ な い 毒 素 で,遺
者 はVero
fosfomycin,
志 賀 毒 素 に よ っ て 活 性 が 中和 さ
で あ る こ と が わ か っ て い る15).も う1つ
約56%の
gentamicin,
よっ
cephaloridine,
ル モ ネ ラ,下
よ びETEC),病
痢 原 性 大 腸 菌(EPEC,
原 ビ ブ リ オ,カ
ン ピ ロバ
接種
日,剖 検 し,浸 出液 の 貯 留 量 を 測 定 した .
(7)Vero毒
素 の免疫学 的性状
精 製 志 賀 毒 素24),VT125),VT226)を
して得 た 抗 志 賀 毒 素 血 清,抗VT1血
ウサ ギ に免 疫
清,抗VT2血
ク タ ー,エ ル シ ニ ア を 対 象 と し,常 法21)に よ り分 離
清 を用 い て,分 離 菌 の 産 生 す る毒 素 の免 疫 学 的 性
を 試 み た.さ
状 を以 下 の 方 法 に よ って 調 べ た.
ら に,電
子 の 検 索 と培 養 細 胞(初
子 顕 微 鏡 に よ る ウ イ ル ス粒
代 サ ル 腎 細 胞,MA104細
マ ウス 致 死 毒 性 の 中 和 試 験:分
感 染 症学 雑 誌
離 菌 の培 養 上 清
第63巻
第10号
Vero毒 素 産 生性 大 腸 菌 に よ る集 団下 痢 症 の細 菌 学 的研 究
0.25mlと
各 抗 毒 素 血 清0.25m1を
1時 間 反 応 させ た 後,混
腔 内 接 種 し,7日
混 和 し,37℃ で
合 液0.5mlを
Fig. 1
Date
1189
of the onset
of the illness
マ ウスに腹
間 生 存 を 観 察 した.
Ouchterlonyの
ゲ ル 内 沈 降 反 応:分
離菌 の培 養
上 清 を 硫 安 沈 殿 と限 外 ろ過 に よ り濃 縮 し,各 抗 毒
素 血 清 との反 応 を 常 法27)に従 っ て調 べ た.
培 養 細 胞 を用 い た 中 和 試 験:分 離 菌 の 培 養 上 清
20μlと 各 抗 毒 素 血 清20μlを 混 和 し,37℃ で30分 間
反 応 させ た 後,混 合 液10μlをVero細
胞 と とも に
培 養 し,培 養 細 胞 の カ ラー チ ェ ソ ジ 法28)によ り細
胞 の生 存 を 判 定 した.
bead-ELISAに
よ る毒 素 の定 量:培
養上清 中 の
Table
1
Main
clinical
symptoms
of the patients
毒 素 量 と菌 体 内 に存 在 す る毒 素 量 を 高 感 度beadELISA29)に
よ り定 量 した.す なわ ち,分 離 菌 を2ml
のtryptic
soy broth
(Difco)を
含む小試験管 で
37℃16時 間 振 盗 培 養 後,遠 心 分 離 に よ り上 清 と菌
体 に分 離 した.菌 体 は 遠 心 分離 後,培
量 のTris-HCI緩
養上 清 と同
衝 液 に 懸 濁 し,ポ
と超 音 波 に よ り処 理 した 後,さ
リ ミキ シ ンB
ら に遠 心 分離 を 行
い,上 清 を 採 取 し,菌 体 内 に存 在 す る毒 素 の 定 量
に 用 い た.
* Total
結
某 乳 児 院(乳
発 した1名
か ら23日 に か け て,松
幼 児 数23名)で,集
ヵ月)は,溶
が 入 院 した.1名
山市 内 の
団下痢症 が発生
した.発 症 した 乳 幼 児 数 は,22名(年
ヵ月)で,5名
齢1ヵ
月 ∼33
の 患 者(年
血 性 尿 毒 症 症 候 群(hemolytic
syndrome,HUS)を
of the patients:
22
果
(1)集 団 下 痢 症 の 発 生 状 況
1986年6月10日
number
齢33
uremic
続 発 し,2週 間 後 に 死 亡 した.
の患 者 に の み 認 め られ た.
(2)病 原 菌 の検 索 結 果
糞 便 を 採 取 す る こ との で きた 患 者15名 の うち7
名 よ り,表2に
示 した よ うな す べ て 同一 の 生 化 学
的 性 状 を 示 す 菌 を 分 離 した.こ れ ら の 分離 菌 は生
化 学 的 性 状 な らび に 大 腸 菌 抗 血 清 を 用 い た 血 清 学
的 性 状 に よ り大 腸 菌0111:H-と
同 定 した.検
査
な お,乳 児 院 の 職 員 に は,発 症 者 は 認 め られ な か っ
対 象 と した そ の他 の 腸 管 感 染 症 原 因 細 菌 お よ び ウ
た.
イ ル スは 検 出 され な か った.表3に
患 者 の発 生 状 況 を 図1に 示 した.6月10日
名 の 初 発 患 者 が 見 られ た.17日
に2
に 最 も多 くの 患 者
比 較 的 耐 性 株 が1株,streptomycinに
が 発 生 し,そ の 後 減 少 した.最 後 の患 者 の 発 生 は,
株 が6株,enoxacinに
れ た が,他
間 で,長 期 に わ た って い た.
患 者 の 主 要 症 状 を表1に
者 に 認 め られ,他
中9名
便 で あ った.発
中5名
と比 較 的 少 数 で あ った.嘔 吐 は,HUSを
平成 元 年10月20日
の患
の患 者 の 便 性 は,水 様 便,粘 液
便,軟
比較 的耐性
比 較 的 耐 性 株 が4株
認め ら
はす べ て 感 受 性 で あ った.
(3)培 養 上 清 の 生 物 学 的 性 状
示 した.下 痢 は,す べ
て の 患 者 に 認 め られ た.血 便 は,22名
の
薬 剤 感 受 性 試 験 の 結 果 を 示 した.cephaloridineに
23日 で あ った.初 発 患 者 か ら最 後 の 患 者 の発 生 ま
で の 期 間 は,2週
分 離 菌7株
熱 が 見 られ た 患 者 は,22名
続
分 離 した7株
の 大 腸 菌0111:H-の
産 生 す る毒
素 の 生 物 学 的 性 状 を 表4に 示 した.分 離 した す べ
て の 菌 株 の 培 養 上 清 は,Vero細
胞 に 対 し,細 胞 の
膨 化 お よ び 破 壊 を 示 し た.Vero細
MA104に
胞 の ほ か,
対 して も同様 な変 性 を示 した が,HeLa
田中
1190
Table
2
0111:
Biochemical
H-strains
characteristics
isolated
from
of E. coli
博他
Table
the patients
4
Biological
by the isolated
assay
of a toxin
E. coli O111:
の 処 理 で は失 活 した.さ
produced
H- strains
らに,EVT-3株
の培養 上
清 に つ い て,ウ サ ギ結 紮 腸 管 ル ー プ試 験 を 行 った
と こ ろ,2ml/cmの
液 体 の 貯 留 を 認 め た.
以 上 の 結 果 か ら,分 離 した7株
+:
positive
after l day
+2:
positive
after 2 days
H-は,Vero毒
のE.coli O111:
素 を産 生 して い る と考 えた.
(4)Vero毒
素の免疫学的 性状
7株 の 分 離 株 の うち1株(EVT-3株)に
Table
3
Sensitivity
H- strains
against
of the isolated
various
つ い て,
培 養 上 清 の マ ウス 致 死 活 性 が,抗 志 賀 毒 素 血 清,
E. coli 0111:
antibiotics
抗VT1血
清,抗VT2血
清 に よ っ て 中 和 され る か
ど うか を 調 べ た 結 果,抗
VT1血
志賀 毒 素血 清 お よび抗
清 に よ っ て は 致 死 活 性 が 中 和 さ れ ず,マ
ス は死 亡 した.し か し,抗VT2血
死 活 性 が 中 和 され,マ
Ouchterlonyの
ウ
清 で は毒 素 の 致
ウ ス は生 存 した.
ゲル 内 沈 降反 応 に お い て も,図
2に 示 した よ うに,EVT-4株,EVT-5株,EVT-17
株,EVT-19株,EVT-20株,EVT上21株
を 濃 縮 した 抗 原 は,抗VT2血
も,こ れ ら抗 原 と抗VT2血
線 は,精 製VT2と
+,++,+++:Degree
の培 養 上 清
清 と反 応 した.し か
清 との 間 に 生 じた 沈 降
抗VT2抗
原 との 間 に 生 じた 沈
降 線 と完 全 に 融 合 した.
一 方 ,分 離 菌3株(EVT-3株,EVT-5株,EVT
of the sensitivity
17株)の 培 養 上 清 を用 い て,Vero細
胞 に 対 す る活
細 胞 やCHO細
胞 に は細 胞 変 性 を 示 さ な か った.
一方
,培 養 上 清 を マ ウス の 腹 腔 内 に 投 与 した と こ
性 が 抗 毒 素 抗 体 で 中 和 さ れ るか ど うか を 調 べ た結
ろ,マ
上 清 に 加 えた 場 合 に の みVero細
ウス は3∼4日
後 に死 亡 した.も
死 活 性 の 強 か ったEVT-3株
っ と も致
の 培 養 上 清 で は,512
果,抗 志 賀 毒 素 血 清 と抗VT2血
れ,Vero細
清 を混 合 し て培 善
胞毒 素 は中和 さ
胞 は 生 存 した.し か し,ど ち らか 一 方
倍 希 釈 液 の投 与 に よ っ て も マ ウス は 死 亡 し た.ま
の抗 血 清 と培 養 上 清 を 反 応 させ た 場 合 に は,毒 素
た,培 養 上 清 を60℃ で30分 間 加 熱 処 理 して も,マ
活 性 は 完 全 に は 中和 され ず,細
ウ ス致 死 活 性 は 失 活 しな か った が,80℃,10分
の こ とか ら,培 養 上 清 中 に は,VT1とVT2の2種
間
胞 は死 滅 した.こ
感 染 症 学雑 誌
第63巻
第10号
Vero毒 素 産 生 性大 腸 菌 に よる集 団 下痢 症 の細 菌学 的 研 究
1191
Fig. 2 Ouchterlony double gel diffusion test of the culture supernatants
isolated E. coli O111: H- strains against anti-VT2 antiserum (aVT2)
Table
5
Titration
the isolated
of VT1
E. coli O111:
and VT2 produced
H- strains
of the
る大 腸 菌 の病 原 因 子 は 明 確 に さ れ て い な い も の
by
by a bead-
の,そ
ELISA
の 後 の 疫 学 調 査 に お い て,本
起 因 菌 と 考 え ら れ,EPECと
菌 は,下
痢 の
して分 類 され て い
る1).し か し な が ら,E.coli
O157:H7に
よ る 出血
性 大 腸 炎 が 注 目を 集 め る よ う に な っ て 以 来,0157
以 外 に も,従
来 か らEPECに
O26,O111,O128の
分 類 され て い た
血 清 型 に 属 す る 大 腸 菌 もVero
毒 素 を 産 生 す る こ とが 明 ら か に な っ て き た2)31).ま
た,Karmaliら32)は,HUS患
O111,O157の
ら の 菌 株 がVero毒
い る.今
類 のVero毒
素 が 存 在 し て い る こ とが 示 唆 さ れ
(5)高
感 度bead-ELISAに
よ るVero毒
素 の定
素 を 産 生 す る こ とを 確 認 し て
回 の 集 団 下 痢 症 事 例 に お い て は,Vero
毒 素 を 産 生 す る 大 腸 菌0111:H-の
46.7%と
た.
者 の 便 か ら026,
血 清 型 を も つ 大 腸 菌 を 分 離 し,こ れ
高 い 値 で あ っ た.し
血 便 が み られ,患 者 の1人
こ の よ う な 臨 床 症 状,毒
量
か も,患
認 め ら れ た.
性 試 験,そ
して上 述 した
bead-ELISAに
よ る 毒 素 の定 量 試 験 の結 果 を 表
報 告 例30)∼32)など か ら 考 え て,分
の 患 老 か ら分 離 さ れ た す べ て の
O111:H-が
が 確 認 さ れ た.毒
多 く,VT1の
両 毒 素 を 産 生 して い る こ と
素 の 産 生 量 は,VT2がVT1よ
約10倍
で あ っ た.ま
た,培
り
養上清 中
と 菌 体 内 の 毒 素 量 を 比 較 し た と こ ろ,VT1で
意 差 が 認 め ら れ な か っ た が,VT2で
り培 養 上 清 中 に3∼10倍
は,菌
は有
体内 よ
と著 し く多 量 の 毒 素 が 産
1945年
E.coli
にBray30)は,乳
O111を
O145:H-を
分 離 し,分
離菌
素(VT2)を
産 生 す る こ とを 報 告 し て い
る.し
か し 従 来,Vero毒
素 を 産 生 す るE.coli
O111の
集 団 下 痢 症 の 報 告 は 見 当 た らず,本
極 め て 特 異 的 で あ り,今
Karmaliら33)は,O26,O111に
察
幼 児下痢 症 の患 者 か ら
分 離 報 告 し た.こ
平 成 元年10月20日
原 因 菌 と し てE.coli
藤 ら13)14)は集 団 食 中 毒 事 例 の
後,乳
症 例は
幼 児 の下 痢 症 の 原
因 菌 と し て も 注 意 が 必 要 で あ る と 思 わ れ る.
生 さ れ て い た(p<0.01).
考
離 され た 大 腸 菌
本 集 団 下 痢 症 の 原 因 菌 で あ った こ と
は 明 ら か で あ る.伊
がVero毒
者 の半数 に
にHUSが
5に 示 し た.7名
菌 株 は,VT1とVT2の
分 離 率 は,
の血清型 に属す
VT1とVT2の
い る.今
属 す る大 腸 菌 が
両 毒 素 を 産 生 す る こ とを 報 告 して
回,わ
れ わ れ が 分 離 し たE.coli
O111:
田中
1192
H-が 産 生 す るVero毒
る 中 和 試 験 でVT2と
素 は,マ ウ ス 致 死 毒 性 に よ
推 察 され,ゲ ル 内沈 降 反 応 に
お い て も そ の こ とが 確 認 され た.し
bead-ELISA29)に
VT2以
か し,高 感 度
よ る定 量 試 験 の 結 果,分
外 に も,そ の1/10量 のVT1を
こ とが わ か った.VT1とVT2の
離菌は
産 生 してい る
物 理 学 的 性 状,免
疫 学 的 性 状 は 異 な っ て い る に も か か わ らず,培 養
細 胞 に対 す る毒 性,マ
ウス に対 す る 致 死 毒 性,ウ
サ ギ 結 紮 腸 管 ル ー プ試 験 で の 所 見 な どは ほ ぼ 同 じ
で あ る26).その た め,こ れ らの 生 物 学 的 性 状 だ け で
毒 素 を 同定 す る こ とは 困難 で あ る.今 回 の 分 離 菌
の よ うに,2種
い て,し
は,マ
類 のVero毒
素 を 同 時 に産 生 して
か も一 方 の産 生 量 が 極 め て 少 量 の場 合 に
ウス 致 死 毒 性 に よ る中 和 試 験 の よ うな単 一
な 中 和 試 験 だ け で は 明確 な 結 果 を得 る こ とが で き
ず,Vero細
bead-ELISAな
胞 を用いた中和試験や感度 の高い
どを 併 用 す る 必 要 性 が 示 唆 さ れ
た.
北 米 に お け る 出血 性 大 腸 炎 で は,ハ
ンバ ー ガ ー
が 原 因 食 品 と な っ て い る事 例 が多 い3)4).今 回 の 事
例 で は,感 染 源 究 明 の調 査 は行 わ れ ず,感 染 源 を
明 確 にす る こ と は で きな か った.し
か し,患 者 の
発 生 が 断 続 的 で,初 発 患 者 の 発 生 か ら最 後 の患 者
の 発 生 ま で14日 間 と長 期 に わ た っ て い る こ と,ミ
博 他
1983.
4) O'Brien, A. D., Lively, T. A., Chen, M. E., Rothman, S. W. & Formal, S. B.: Escherichia coli
157: H7 strains associated with haemorrhagic
O
colitis in the United States produce a Shigella
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経 康, 下 辻常 介, 田村 和 満, 坂 崎 利 一: Escherichia
ル ク 栄 養 の み の 乳 児 も発 症 し て い る こ と な ど か
く,ヒ
ト(乳 幼 児)か
ら ヒ ト(乳 幼 児)へ
の感 染
り"調
11)
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大 腸 菌O157:
藤
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H7に
よ る出
日本 の 感 染 性 腸 炎 (斉
誠, 中 谷 林 太 郎, 松 原 義 雄 編), 菜 根 出 版, 1987.
佐 久 一 枝,
彦 根 恵 子,
御協力を賜 った愛媛県立中央病院小児科の高山有道先生,
Escherichia
coli O157:
松本修平先生 に感謝 します.
離. 感 染症 誌, 60: 640, 1986.
文
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よる 出血 性 大腸 炎 の"さ か のぼ
査.
血 性 大 腸 炎.
もあ った もの と考 え られ る.
稿を終えるにあた り,検 体の採取,臨 床症状の調査等に
H7に
coli 0157:
ら,食 物 を媒 介 とした 単 一 暴 露 に よ る もの で は な
13) 伊 藤
柏 真 知 子:
H7お
下 痢 患 者 よ りの
よ びO157:
H-の
分
武, 甲斐 明美, 斎 藤 香 彦, 柳 川 義勢, 稲 葉
美 佐 子, 高橋 正樹, 高 野 伊知 郎, 松 下
泰 雄, 寺 山
武, 大橋
池 上 重 明, 佐 藤穂 積, 関
淑 夫, 山 田幸 正, 秋 山
秀, 工 藤
誠, 唐 木 一 守, 山下 征 洋,
友次, 加 藤 喜市, 弘 岡
博, 大 関哲 也, 大茂
豊,
山 之 内 淳, 土 谷 啓 文, 網 川 敏 夫, 田 崎 達 明:
Cytotoxinを
産 生 す る Escherichia
coli O145:
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柿原
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田中
1194
Bacteriological
博 他
Investigation
on an Outbreak
of Acute Enteritis
Verotoxin-producing
Escherichia
coli O111:H-
associated
with
Hiroshi
TANAKA*, Mitsuaki OHSETO, Yasutaka YAMASHITA,
Nobuyuki SHINOHARA & Hiroo INOUE
Ehime Prefectural Institute of Public Health
(*Present address: Iyo Public Health Center, Ehime)
Yoshitada SASAKI & Yoshitoshi KAKIHARA
Ehime Prefectural Central Hospital
Teizo TSUKAMOTO
Osaka Prefectural Institute of Public Health
Takashi YUTSUDO, Yuichi OKU & Yoshifumi TAKEDA
The Institute of Medical Seience, The University of Tokyo
An outbreak of acute enteritis in children aged one to thirty-three months occurred from June 10th
to 23rd, 1986, at a private orphanage in Matsuyama City. Twenty-two out of 23 children suffered from
diarrhea. Nine of the 22 children excreted bloody stool. Fever and vomiting were observed with a few
patients. One of them, a 33-month-old girl, developed hemolytic uremic syndrome, and died twelve
days after the admission.
Escherichia coli O111:H- was isolated from fecal specimens of 7 out of 15 patients. The culture
filtrate of the isolate caused fluid accumulation in ligated ileal loops in a rabbit, and was lethal to mice.
It wa found that all isolates produced two kinds of Vero toxins (VT1 and VT2, or shiga-like toxin I
and II). The amount of VT2 produced in vitro was about 10 times more than that of VT1.
感 染 症 学 雑誌
第63巻
第10号