石西礁湖オニヒトデ順応的管理

http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2009/090301.pdf
淡水魚ネットワークシンポジウム, 千歳市,
2009年3月1日
生物多様性条約が守る
「生態系サービス」とは何か
松田裕之
横浜国立大学・環境情報学府
環境リスクマネジメント専攻
日本生態学会全国委員
WWFジャパン自然保護委員
1
梶光一氏
http://www.geocities.jp/bokata94/pascua.htm
今日の話題
生物多様性とその条約
絶滅危惧種保護≠生物多様性保全
生物多様性条約の3原則
生態系アプローチ
生物多様性国家戦略
生態系サービス=自然保護の根拠
日本の生物多様性をどう守るか?
2
生物多様性
Biological diversity, Biodiversity
生態系の多様性(景観)砂漠も大切
種の多様性 危惧種も普通種も大切
レッドデータブック
生きている地球指数(living planet index)
遺伝子の多様性 地域変異、個体変異
進化の源泉
3
生物多様性条約 1992
“Noting also that where there is a
threat of significant reduction or
loss of biological diversity, lack of
full scientific certainty should
not be used as a reason for
postponing measures to avoid or
minimize such a threat,(米国は批
准せず)
4
現在おこっている種の絶滅
(地球研湯本貴和氏提供)
 減少のスピードが速い
恐竜時代:1000年に1種
1600-1900年代:4年に1種
1975年ころ:1年に1000種
本当に過去の大量絶滅より早い?
 要因は何か=人間活動
生息環境の減少・劣化
侵入生物
乱獲
環境変化(温暖化・汚染)
05/8/4
5
絶滅危惧種の割合(環境省資料)
哺乳類
鳥類
爬虫類
両生類
淡水魚
種子・シダ植物
コケ類
0%
20%
40%
60%
80%
100%
6
絶滅リスク評価
松田裕之(2000)『環境生態学序説』共立出版
7
http://www.wwf.or.jp/activity/wildlife/news/2008/20081029.htm
WWF
生きている地球指数
=世界各地の陸域、川や湖などの淡水域、海洋に生息
する、1686種の野生生物について、約5000の地域個体
群を調査し、その個体数の減少率を基に試算したもの
陸域
海域
淡水域
8
生物多様性条約
Convention on Biological Diversity

1992年地球サミットで採択
気候変動枠組み条約、森林原則宣言

翌1993年発効(米国は参加せず=第3原則)
CBDの3原則
1. 生物多様性の保全
2. その構成要素の持続可能な利用
3. 遺伝資源を利用する利益の公正な配分

生物多様性国家戦略の策定
9
生態系アプローチの12原則
CBD2000年CoP5ナイロビ文書
1. 管理目標は社会が選択
2. 管理の分権化
3. 他の生態系への波及効果
を考える
4. 経済的な文脈で管理
5. 生態系の構造と機能を保
全
6. 生態系機能の限界内で管
理
7. 望ましい時空間で行う
8. 目標は長期的視点で設定
9. 変化が不可避と認識
10. 保全と利用のバランス
11. 科学知、伝統知、地域知を
考慮
12. 関連する社会・自然科学
分野を含む
 5つの運用指針(抄)
指針2 利益の公平配分の推進
指針3 順応的管理の実践の利
用
指針5 セクター相互の共同の
確保
10
梶光一氏
http://www.geocities.jp/bokata94/pascua.htm
今日の話題
生物多様性とその条約
生態系サービス=自然保護の根拠
「魚が食えなくなる日」は来るか
国連ミレニアム生態系評価(MA)
生物多様性条約2010年目標
日本の生物多様性をどう守るか?
11
海が壊れる?
世界の漁獲量はもう増えない?
「食卓や海から魚が消える」?
Newsweek 2003.7.14号
「海は死につつあるか?」
世界からSUSHIが消える日
12
回復
衰退
円熟
未利用
発展
多
く
の
魚
種
は
す
で
に
獲
り
す
ぎ
?
13
浮魚類の魚種交替
14
まだまだ獲れる浮魚資源
anchoveta
sardine
Atlantic herring
chub
mackerel
http://www.fao.org/WAICENT/FAOINFO/FISHERY/publ/sofia/fig4e.asp
15
http://www.fao.org/docrep/009/a0699e/A0699E00.HTM
Capture fisheries production in marine areas
(FAO, SOFIA2006)
日本と南米は浮魚主体の漁業
16
Capture fisheries production in marine areas
(FAO, SOFIA2006)
減る北米東岸、増える東南アジア
17
問題点
魚種ごとの漁獲量は大きく変動
 増えた魚を獲って食べること
魚種交替に備える
 子供を獲らず、大人を獲ること
泳がせ捜査(成長乱獲)
 減った魚を保護すること
種もみを残す(加入乱獲)
 選択性の高い漁業技術を開発すること
 減ったマサバとマイワシを乱獲で激減させた
18
千年紀生態系評価報告書
2005
05/12/16
19
http://millenniumassessment.org
(MA2004)
ミレニアム生態系評価
4年にわたる国際的科学的評価
生物多様性条約(CBD)、砂漠化防止条約(CCD)、
ラムサール条約、その他のパートナーの評価ニーズ
の一部を満たすために計画される
生態系の財・サービス、および、生態系の変化が人
間の健康あるいは他の地球上の生物に与える影響に
焦点を当てている
様々な規模で行われる(地方レベルから全地球レベ
ルまで)
05/12/16
20
地球環境変化Gobal change
人間の福利Human well-being
生態系サービスEcosystem services
供給サービス
生物多様性
Biodiversity
文化サービス
基盤サービス
生態系機能
Ecosystem
functions
調整サービス
(MA2005)
2008/3/2
21
なぜ自然を守るのか?
持続可能性
=次世代の人間が生態系
サービスを享受できるよう、
自然を守る
(米生態学会委報告 1996)
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2008/080223.ppt
21
(MA2004)
生態系サービスと人間の福利
05/12/16
22
自然の価値を計る(Costanzaら1997)
供給 農林水産物約140兆円/年
調整 物質循環約1700兆円/年
資源価値<<調整サービス
漁場の自然価値>漁業補償
05/8/4
23
自然の恵みの1haあたりの経済価値
(斜体部分の単位は米ドル/ha/年,Costanzaら1997より)
2
総計(兆ドル)
面積(万km )
物質循環
食糧生産
浄化機能
大洋
33200
118
15
不明
・・・
8.38
河口
180
21110
521
不明
・・・
4.11
藻場等
200
19002
不明
不明
・・・
3.80
珊瑚礁
62
220
58
・・・
0.38
大陸棚
2660
68
不明
・・・
4.28
・・・
・・・
1431
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
熱帯林
1900
922
32
87
・・・
3.81
干潟等
165
不明
466
6696
・・・
1.65
湿原等
165
不明
47
1659
・・・
3.23
51625
17.08
1.39
2.28
・・・
33.27
総計(兆ドル)
*不明部分が多数あり,過小評価.
24
生態学的負荷
Ecological Footprint
WWF 2002
生物的収容力
森林が多く、耕地面積が狭いことは悪いことなのか?
25
http://www.biodiv.org/default.shtml
生物多様性条約締約国会議 2002年の採択
 2010年目標:2010年までに、地球規模、地域、国家レベルで
の生物多様性喪失の速度を著しく減速させること
 戦略計画
①生物多様性は持続可能な発展の生活基盤である。
②生物多様性の喪失の速度は現在も加速している。
③これらの脅威に対して行動を取らなければならない。
 7つの重点分野
(a) 生物多様性を構成する要素が失われる速度の低下
(b) 生物多様性の持続可能な利用を促進
(c) 主要な脅威(外来種、気候変動、汚染、生息域変化)への注意
(d) 人間の福祉を支える生態系の健全性の維持
(e) 伝統的な知識、革新、経験を守る
(f) 遺伝資源の利益を公正で公平に共有する
05/12/16
26
(g) 低開発国などの財政的技術的な資源流動性の確保
26
梶光一氏
http://www.geocities.jp/bokata94/pascua.htm
今日の話題
生物多様性とその条約
生態系サービス=自然保護の根拠
日本の生物多様性をどう守るか?
知床世界遺産の国際評価
日本の生物多様性国家戦略
里山問題
27
知床世界遺産科学委員会
が直面した「矛盾」
 政府は漁協に新たな規制なし
と公約(公文書にて確認)
 IUCNは保護レベル強化を求
める
→漁協の自主規制強化しかない
読売新聞
 3年後に海域管理計画(1年後
に素案)
 登録海域を1kmから大陸棚が
ほぼ含まれる範囲まで拡大
28
知床世界自然遺産地域の
保全状況に関する調査報告書
知床世界遺産現地調査
(08年2月18日ー22日)
ユネスコ世界遺産センター次長
キショール・ラオ
IUCN保護地域プログラム長
デイビッド・シェパード
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/hozen/080605.html
29
IUCN知床調査報告書
取り組みでなく、検証を求める
 勧告2
管理計画は、海域管理計画に含まれているよ
うに、目的と管理戦略についてのみ概説する
のではなく、活動内容、成果、客観的に検証
することのできる指標を明確にした行動につ
ながるものにすべきである。また、計画は
様々な実行機関が分担する責任と役割を明確
に示すとともに、計画実行のための年次計画
を詳細に示すべきである。
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/hozen/080605.html
30
IUCN知床調査報告書
観光と遺産保全の連携・統合
勧告16
知床のエコツーリ
ズム戦略と、知床
内の観光と経済的
開発の地域戦略と
の間に密接に連
携・統合を確保す
ること。
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/hozen/080605.html
31
IUCN知床調査報告書
気候変動の影響に対応すること
勧告17
(a)モニタリング計画の
開発と、(b)知床世界遺産
の価値に対する気候変動
の影響を最小限にとどめ
るための順応的戦略とを
含んだ知床の「気候変動
戦略」を開発すること。
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/hozen/080605.html
32
IUCN知床調査報告書
Modified dam on Iwaubetsu River
知床世界遺産の取り組
みを賞賛したIUCN
(28)調査団は、知床世界遺産の保護について、特に2005年の世界遺産委
員会とIUCN(国際自然保護連合)技術評価書からの勧告に対し、日本は良好な進
捗を遂げている旨確認した。調査団は、特に(知床遺産の)全てのレベル
の関係者が遺産の顕著で普遍的な価値を確実に維持し、次
の世代へとそのままの形で引き継ごうとする強い責任感に
感銘を受けた。これは、北海道知事、斜里町長、羅臼町長が2005年10月
に署名した「世界の宝、しれとこ宣言」によくあらわれている(別添C参照)。
また、調査団は、地域コミュニティや関係者の参画を通したボ
トムアップアプローチによる管理、科学委員会や個々の(具体
的目的に沿った)ワーキンググループの設置を通して、科学的知識
を遺産管理に効果的に応用していることを賞賛する。これ
らは、他の世界自然遺産地域の管理のための素晴らしいモ
デルを提示している。
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/hozen/080605.html
33
日本の種多様性は低くない
(Sukhdev Report 2008)
34
http://www.biodic.go.jp/cbd/nbsap_2002outline.html
第3次生物多様性国家戦略(2007)
 3つの危機
1.
2.
3.
4.
開発や非持続的な利用 overuse
伝統的な農業や里山放置 underuse
外来種や環境汚染・遺伝子汚染 disturbance
地球温暖化 climate change
35
耕作放棄地面積の推移
出典:農林水産省・農業センサス累年統計書
面積(1000km2)
5
販売農家
土地持ち非農家
自給的農家
4
3
2
1
0
1985
1990
1995
年
2000
2005
36
http://www.esj.ne.jp/hozen/EMCreport05j.html#P13
回復力活用の原則
Passive restoration
日本生態学会委員会2005自然再生事業指針
 自然の回復力を活かし、人為的改変は必要最小限
 しばしば無用な手を加え、自然の回復力をますます失う
 遷移と撹乱のつりあいの変化 富栄養化、治山事業
× 遷移と撹乱を両方止める
○ 何か人為的な撹乱を付加、富栄養化の低減するなど
 遷移と撹乱のつりあいという維持機構を生かして多様性
を維持する方法を工夫する
37
まとめ
生態系サービス=自然の恵みに感謝
農林水産業は生態系サービスの一部
絶滅危惧種保護は生物多様性の一部
回復力活用の原則!
世界に評価された知床の取り組み
信頼関係を築け!
38